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1年
誕生日のプレゼントは……2
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「今日はセインのお祝いだからな。お前らの分の金は出さんからな」
「うん、分かってるよ。自分の分は自分で出すから」
「ケチくせぇ~」
「貧乏人からたかろうとする、アルトの方がケチくせぇ」
「まあまあ。優しいアルト君は、本当は自分で払うつもりだよね?」
「ま、まあな。ちょっと揶揄っただけだ」
放課後、マシューとふたりでタルトを食べに行くつもりが、アルト君とトーマ君も一緒に行くことになったんだ。ふたり共朝教室で会ったときに、『誕生日おめでとう』って言ってくれたよ。四人の中では僕の誕生日が一番最後だったから、やっと皆に追いついたってカンジだ。
「十歳になった気分はどう?」
「えー、何も変わらないよ」
「じゃあ、来年の誕生日までの目標は? 十歳のうちに達成したいヤツ」
「うーん、なんだろう? 背が伸びたら嬉しいな」
「セインはチビだもんなぁ。マシューもだけど」
「セインもオレも成長が遅いだけだ」
「トーマ君は最初から背が高かったけど、アルト君も伸びたよね?」
「おう! この前ウチの使用人が来てさ、新しい服の手配をしてくれたぜ」
本当に僕もマシューもチビなんだ。将来の身長は知ってるけど、それは前世までのことで、今世はチビなままならどうしよう……って、実はちょっとだけ心配してる。だから早く背が伸びて欲しいと、わりと切実に思ってるよ。
今の会話に『使用人』て単語が出てたけど、アルト君は貴族だ。たしか家の爵位は伯爵だったと思う。家は王都で、領地は持ってないと聞いたような気がするかな。両親は仕事の関係で商人との繋がりが深く、貴族平民のこだわりがさほど無い環境で育ったそうだよ。だからなのか、貴族のしきたりとか身分とかってのは面倒くさいと思ってるみたい。
ついでに言うと、僕とアルト君が貴族で、マシューとトーマ君は平民だ。
マシューはモルオントと言う街の出身で、実家は中堅の商家だそうだ。わりと裕福な生活をしてたらしいよ。ただ残念なことに、今はちょっと厳しいって話だ。老朽化した店舗を建て替えたことで、資金繰りが苦しい状態が続いてるんだって。あと数年は質素倹約をモットーとする生活が続く予定だと言ってたよ。ちなみに家業は歳の離れたお姉さんが継ぐ予定で、既にバリバリ働いてるとか。
トーマ君は……。そう言えば詳しく聞いたことが無いや。いつか機会があったら聞いてみようかな。今知ってることは、お兄さんもこの学園の生徒ってことだけ。
貴族とか平民とかって身分差はあるけれど、昔に比べるとかなり緩くなってるようだ。お城の文官も昔は貴族しかなれなかったけど、今は成績次第では平民も採ってもらえると聞いてる。と言っても内部差別はあるんじゃないかなと思ってるけど……。ちなみにこの学園内では、表向きは身分差は無いことになってるよ。
「すっごく幸せそうに食べてる。セイン君てタルトが好きなんだね」
「タルトってよりもベリーが好きなんだ」
「へぇ~。たしかこの店って、ベリーのジャムも売ってたと思うよ」
「ホントに? じゃあ買って帰ろうかなぁ」
久しぶりに食べたベリーのタルトは、ほっぺたが落ちそうになるくらい美味しいんだ。ちょっとだけ大人ぶってお砂糖無しの紅茶を飲んだけど、タルトの甘さで気にならなかった。と言うか、逆にタルトの甘さが際立ったような気がしたよ。僕だって十歳になったんだものね、味覚も少しずつ大人になってるんだ。トーマ君には食べてるときの顔が幸せそうって言われたけど、うん、美味しいものを食べて幸せな気分になったと思う。と言うか、幸せ気分続行中。
タルトを食べながら、いつの間にか僕たちの話題は、もうすぐ始まる後期試験についてになっていた。
「僕、後期試験って、もうちょっと後だと思ってたよ」
「オレも! 前期は夏休み直前だったのにな。何でこんなに早いんだろう?」
「留年判定をじっくりやるからじゃね? アルトはやばいかもな」
「うえっ。オレ留年だけはするなって言われてるんだよ。どーしよ……」
「1年生は留年は無いよ。補習はあるけど必ず進級するハズ」
「なぁ~んだ、トーマは知ってたのかよ。もうちょっとアルトを揶揄いたかったんだけどなぁ。残念だ」
「ひでぇよ、マシュー」
この後トーマ君に教えてもらったところによると、後期試験の後にもうひとつ特別な試験があるそうだよ。でもそれは1年生には関係無い試験らしい。何だろうね?
ワイワイ騒ぎながらタルトを食べた後は、皆で走りながら学園へ戻った。理由はね、残さず晩ごはんを食べたいから。残すのは論外で、小盛にしてもらうのは何となく悔しい。そんな微妙な気持ちって分かるかな? しかも全員そう考えてたってのは笑えるよね。そのかいあって全員普段と同じ量の晩ごはんを食べたよ。
アルト君とトーマ君は隣の寮だから普段は朝晩のごはんは別々なんだけど、今日は全員一緒に食べたんだ。だからデザートに続いて晩ごはんもとても賑やかだった。たまにはこんな日も良いね。
その後は談話室に移動して、ちょっとだけ勉強会をやってから解散になった。勉強会はね、主にアルト君の為かな。僕たち四人の中だと、アルト君だけが補習の可能性が高いんだ。特に計算がニガテなんだって。泣きそうな顔をしながらマシューに教えて貰ってたよ。とっても意外なんだけど、マシューって勉強を教えるのが上手いんだ。前世の経験が役に立ってるんだって。前世では三番目とは言え王子だったからね、専門の講師にじっくり丁寧に基礎から教えてもらえたそうなんだ。その当時の経験が今に役立ってるってワケ。
「とっとと風呂行っちゃわないか?」
「えー、ちょっと早くない?」
「明日休みだし、早めに風呂入ったらそれだけのんびり出来るじゃん」
「んー、それもそうだね。分かった」
寮の部屋に戻った途端に、そうマシューから提案されたんだ。
休前日だからか、お風呂は空いてたよ。僕と同じ1年の他のクラスの三人だけ。もし僕たちだけだったら、きっと僕は湯船で泳いでたと思うな。それだけが残念だ。
「うん、分かってるよ。自分の分は自分で出すから」
「ケチくせぇ~」
「貧乏人からたかろうとする、アルトの方がケチくせぇ」
「まあまあ。優しいアルト君は、本当は自分で払うつもりだよね?」
「ま、まあな。ちょっと揶揄っただけだ」
放課後、マシューとふたりでタルトを食べに行くつもりが、アルト君とトーマ君も一緒に行くことになったんだ。ふたり共朝教室で会ったときに、『誕生日おめでとう』って言ってくれたよ。四人の中では僕の誕生日が一番最後だったから、やっと皆に追いついたってカンジだ。
「十歳になった気分はどう?」
「えー、何も変わらないよ」
「じゃあ、来年の誕生日までの目標は? 十歳のうちに達成したいヤツ」
「うーん、なんだろう? 背が伸びたら嬉しいな」
「セインはチビだもんなぁ。マシューもだけど」
「セインもオレも成長が遅いだけだ」
「トーマ君は最初から背が高かったけど、アルト君も伸びたよね?」
「おう! この前ウチの使用人が来てさ、新しい服の手配をしてくれたぜ」
本当に僕もマシューもチビなんだ。将来の身長は知ってるけど、それは前世までのことで、今世はチビなままならどうしよう……って、実はちょっとだけ心配してる。だから早く背が伸びて欲しいと、わりと切実に思ってるよ。
今の会話に『使用人』て単語が出てたけど、アルト君は貴族だ。たしか家の爵位は伯爵だったと思う。家は王都で、領地は持ってないと聞いたような気がするかな。両親は仕事の関係で商人との繋がりが深く、貴族平民のこだわりがさほど無い環境で育ったそうだよ。だからなのか、貴族のしきたりとか身分とかってのは面倒くさいと思ってるみたい。
ついでに言うと、僕とアルト君が貴族で、マシューとトーマ君は平民だ。
マシューはモルオントと言う街の出身で、実家は中堅の商家だそうだ。わりと裕福な生活をしてたらしいよ。ただ残念なことに、今はちょっと厳しいって話だ。老朽化した店舗を建て替えたことで、資金繰りが苦しい状態が続いてるんだって。あと数年は質素倹約をモットーとする生活が続く予定だと言ってたよ。ちなみに家業は歳の離れたお姉さんが継ぐ予定で、既にバリバリ働いてるとか。
トーマ君は……。そう言えば詳しく聞いたことが無いや。いつか機会があったら聞いてみようかな。今知ってることは、お兄さんもこの学園の生徒ってことだけ。
貴族とか平民とかって身分差はあるけれど、昔に比べるとかなり緩くなってるようだ。お城の文官も昔は貴族しかなれなかったけど、今は成績次第では平民も採ってもらえると聞いてる。と言っても内部差別はあるんじゃないかなと思ってるけど……。ちなみにこの学園内では、表向きは身分差は無いことになってるよ。
「すっごく幸せそうに食べてる。セイン君てタルトが好きなんだね」
「タルトってよりもベリーが好きなんだ」
「へぇ~。たしかこの店って、ベリーのジャムも売ってたと思うよ」
「ホントに? じゃあ買って帰ろうかなぁ」
久しぶりに食べたベリーのタルトは、ほっぺたが落ちそうになるくらい美味しいんだ。ちょっとだけ大人ぶってお砂糖無しの紅茶を飲んだけど、タルトの甘さで気にならなかった。と言うか、逆にタルトの甘さが際立ったような気がしたよ。僕だって十歳になったんだものね、味覚も少しずつ大人になってるんだ。トーマ君には食べてるときの顔が幸せそうって言われたけど、うん、美味しいものを食べて幸せな気分になったと思う。と言うか、幸せ気分続行中。
タルトを食べながら、いつの間にか僕たちの話題は、もうすぐ始まる後期試験についてになっていた。
「僕、後期試験って、もうちょっと後だと思ってたよ」
「オレも! 前期は夏休み直前だったのにな。何でこんなに早いんだろう?」
「留年判定をじっくりやるからじゃね? アルトはやばいかもな」
「うえっ。オレ留年だけはするなって言われてるんだよ。どーしよ……」
「1年生は留年は無いよ。補習はあるけど必ず進級するハズ」
「なぁ~んだ、トーマは知ってたのかよ。もうちょっとアルトを揶揄いたかったんだけどなぁ。残念だ」
「ひでぇよ、マシュー」
この後トーマ君に教えてもらったところによると、後期試験の後にもうひとつ特別な試験があるそうだよ。でもそれは1年生には関係無い試験らしい。何だろうね?
ワイワイ騒ぎながらタルトを食べた後は、皆で走りながら学園へ戻った。理由はね、残さず晩ごはんを食べたいから。残すのは論外で、小盛にしてもらうのは何となく悔しい。そんな微妙な気持ちって分かるかな? しかも全員そう考えてたってのは笑えるよね。そのかいあって全員普段と同じ量の晩ごはんを食べたよ。
アルト君とトーマ君は隣の寮だから普段は朝晩のごはんは別々なんだけど、今日は全員一緒に食べたんだ。だからデザートに続いて晩ごはんもとても賑やかだった。たまにはこんな日も良いね。
その後は談話室に移動して、ちょっとだけ勉強会をやってから解散になった。勉強会はね、主にアルト君の為かな。僕たち四人の中だと、アルト君だけが補習の可能性が高いんだ。特に計算がニガテなんだって。泣きそうな顔をしながらマシューに教えて貰ってたよ。とっても意外なんだけど、マシューって勉強を教えるのが上手いんだ。前世の経験が役に立ってるんだって。前世では三番目とは言え王子だったからね、専門の講師にじっくり丁寧に基礎から教えてもらえたそうなんだ。その当時の経験が今に役立ってるってワケ。
「とっとと風呂行っちゃわないか?」
「えー、ちょっと早くない?」
「明日休みだし、早めに風呂入ったらそれだけのんびり出来るじゃん」
「んー、それもそうだね。分かった」
寮の部屋に戻った途端に、そうマシューから提案されたんだ。
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