上 下
27 / 68
1年

学園祭2

しおりを挟む
「うわあ、いっぱい人が来てるね!」

 楽しみにしていた学園祭が今日から始まった。2年生以上の生徒は朝早くから準備とかに出掛けてしまったけど、僕たち1年生だけは学園祭開始時間まで寮でのんびり待機なんだ。1年生はお客の立場だから、始まる前に寮から出るのは禁止なんだって。皆初めての学園祭が楽しみでたまらなくて、食堂や談話室で集まってソワソワしてたよ。もちろん僕もそのひとりだ。

「なあなあ、最初は模擬店から行かないか? オレその為に朝飯抜いたんだぜ」
「僕も。実はちょっとしか食べてないんだ」
「アルト君もトーマ君も気合入ってるんだね」
「普通に朝ごはんを食べたのはセインだけだぜ。オレも普段より軽めにしたし」
「えー、皆ずるい」
「模擬店があるんだから普通だろう」
「うー……」

 なんと、普段と同じ量の朝ごはんを食べたのは僕だけだったみたい。そう言えば普段は一種類しかない朝ごはんが、今日に限って四種類もあったんだ。と言ってもメニューはほぼ一緒で、大、普通、小、極小って選べるだけだけど。そう言えば目の前で食べたマシューの朝ごはんは、僕より少なかったような気がする。と言うか、学園側でもそれが分かってるから、朝食の量にバリエーションをつけてたのかも。

「まあまあ。セインには、オレの食べ残しを分けてやるよ。そしたらちょっとは食べれるだろう?」
「嬉しいけど、何か納得いかない」
「食べ残しを恵んでやるぜ、みたいな?」
「そんなカンジ。なんかヤダなぁ」
「ハハハ。まあ諦めろ」

 時間になって寮を飛び出した僕たち四人は、ワイワイ騒ぎながら模擬店があるエリアへ向かって行った。四人と言うのはいつものメンバーだよ。僕とマシュー、それからアルト君とトーマ君だ。クラスでも仲が良いし、自然とそうなるんだよね。

 模擬店ではいろんな食べ物が売ってたよ。定番の串焼きもタレのバリエーションが豊富だったし、他には数種のサンドイッチやスープ、クッキーやタルトと言ったお菓子もあった。その中で面白かったのは携帯食食べ比べだ。一口サイズに切り分けた携帯食を、自分の好みで数種類選んで注文できるんだ。これは生徒だけじゃなく、一般の人や冒険者にも人気があるみたい。特に新しく出た携帯食は、冒険者たちがこぞって注文してた。

「アルト君は携帯食は食べてみないの?」
「4年になったら騎士科の生徒は魔物の森に入れるからさ、3年になったら食べてみるかも」
「ああそっか、今食べても味を忘れちゃうもんね」
「そっ! だからオレは他のものを食う!」
「アルトはちょっと食べすぎじゃないか?」
「そう言うマシューだってオレと同じくらい食ってるじゃん」
「ふたり共すごい食欲だよね。さすがに僕はもう無理だよ」

 アルト君とマシューは本当にすごいよ。ふたり共放課後も走ったりして身体を鍛えてるせいなのか、普段から食欲旺盛だ。模擬店に備えて朝食をほとんど食べなかったトーマ君だけど、さすがにこの二人にはかなわなかったみたい。ちなみに僕はほとんど食べてないよ。時々マシューに一口貰うくらいかな。美味しいのもあっただけに残念。まあ学園祭は今日だけじゃないからね、明日は僕も朝食を抜くつもりだ。

「ねえ、そろそろ食べ物じゃないお店にも行ってみない?」
「良いけど、またこっちに戻って来るよな?」
「アルト君て……」

 僕たち三人に呆れた目で見られても、アルト君はマイペースなままだった。さすがアルト君!なんだろうな。でも憎めない子なんだよ。クラスのムードメーカー的な存在なんだ。

 食べ物以外の模擬店ではいろんなものを売ってたよ。ちょっとした小物を扱う店が多かったかな。アクセサリーの店は女の子がたくさん詰めかけてた。さすがにそこは僕たちは素通りしたよ。あの中に入る勇気は僕たち全員が持ち合わせてなかったんだ。

 冒険者のお古の剣とかを売ってる店も、残念ながら僕たちは見ることが出来なかった。上級生や冒険者が真剣に商品を選んでるんだもの。迫力負けしちゃって、結局遠巻きに眺めて終わり。アルト君とマシューはものすごく見たかったみたい。まあでも実際に商品を買うのは上級生になってからだから、今回は仕方ないって気持ちもあるみたいかな。

「そろそろ2年の剣術大会が始まる時間じゃないか?」
「もうそんな時間かー。オレ食いもん買ってくからさ、席取っといてくれよ」
「分かった」
「じゃあ僕はアルト君と一緒に行くね。君たちの分の果実水も買っていくから」
「ありがとう。席取ったらセインに任せて、オレは入り口のところで待ってるから」
「りょーかい!」

 そんな話をしながら、僕たちは屋外訓練場の方へ移動していった。観客席があるのは一番広い訓練場なんだ。そこを結界で囲って試合をするらしいよ。初日の今日は2年と3年の予選と、上級生部門の予選があるんだって。上級生部門てのは学年別じゃなく、4年から6年なら誰でもエントリーできる試合なんだってさ。しかもこの部門だけは、騎士科以外の生徒もエントリー可能なんだって。要望があってエントリー基準を変更したそうだよ。ただ残念なことに、騎士科以外でエントリーする生徒はごくわずかだってことだ。

「マシュー、あそこにいるのが回復系の人たちかな?」
「その根拠は?」
「バグズダッド先生が一緒にいるから」
「嗚呼、治療室の熊さんか」
「ふふっ。本人はそのあだ名は好きじゃないらしいよ」

 屋外訓練場の隅の方に、バグズダッド先生と一緒に数名の生徒が待機してたんだ。だからきっとあの人たちが回復系の先輩たちだね。来年は僕もあの場所に待機してるんだろうな。あの場所だと試合を間近で見れるから、考えてみれば特等席みたいなもんだね。

 2年と3年の試合は、二組ずつ試合をしてたよ。訓練場は広いし、予選だからそんなものなのかも。試合で彼らが手にしてたのは木剣だった。上級生になると刃引きした剣を使うらしい。そっちの方は迫力があるのかも。

「なんか微笑ましいな」
「試合が? マシューも来年はあの仲間だよ」
「あーそうか。来年のオレも、観客からは微笑ましく見えるのかもな」
「ふふっ、そうだね」

 下級生の試合は、試合と言うよりは、じゃれて遊んでるってカンジに見えた。たまに鋭い打ち込みを見せる子もいたけど、ほとんどは見てて微笑ましいカンジ。特に2年生は素振りに毛が生えた程度しかまだ習ってないからね、剣を振った勢いに逆によろめいて自爆してる子もいたよ。観客の声援は励ますようなのが多くて、すっごく良い雰囲気の中の試合だった。

 逆にその後に始まった上級生部門は、凄いの一言だった。きっとこれにエントリーするのは、剣の腕に自信がある生徒たちなんだろうね。剣筋も鋭いし、予選とは言えかなり白熱した試合ばかりだった。前世の僕は第5騎士団に在籍してたことがあったけど、もしかしたら当時の僕は、今の彼らに勝てないかもしれないな。僕に剣の才能が無いってのもあるけど、それだけ彼らが凄いんだ。

「あの4年の生徒、本戦でも良いところまで行くと思うぜ」
「そうなの?」
「背が小さいのが残念だな。もしかしたら成長期がまだなのかもしれない」

 マシューは目が肥えてるから、言ってることは信用できるんだ。彼は自分より体格が良い人の剣は、受けるんじゃなく受け流すようなカンジにしてたかな。微妙に位置をずらして、まともに衝撃を受けないようにしてたんだ。上手いなって思った。

 試合が終了して今日の学園祭は終了。明日も楽しみだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

ラットから始まるオメガバース

沙耶
BL
オメガであることを隠しながら生活する佳月。しかし、ラットを起こしたアルファを何故か見捨てることができず助けてしまったら、アルファにお世話されるようになって…?

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...