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1年
魔物の森へ3
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エンダルベリーを食べてお腹いっぱいになった僕たちは、少しの間食休みをして、それから薬草摘みを開始した。
「この葉っぱが一番多く必要とされる薬草だ。傷薬には必ず入ってるものだ。ついでに言うと、新人冒険者向けの依頼のトップがこれだな。摘み方はこうやって葉っぱの部分だけを採取する。これは根が残ってればまたすぐ生えてくるからな」
リロイさんはそう言いながら僕たちに一枚ずつ薬草を手渡した。つまりこれを参考に、間違えないようにってことだね。
「こっちの都合で悪いが、薬草摘みはペアになってやってくれるかな? その方が警護しやすいんだ。場所はここら一帯。あまり遠くへは行くなよ。一応ここは魔物の森だってのを忘れないように。じゃあ、始め!」
と言うことで、僕とマシューはお昼を食べた場所へ移動した。この薬草はどこにでも生えるけど、水辺の方が育ちが良いんだ。葉の色も濃いんだよ。それを知ってるから僕は黙ってこっちまで来たってワケ。マシューは僕が薬草に詳しいのを知ってるから、素直に僕に付いてきたよ。ここらへんは阿吽の呼吸かもね。
「へぇ~、こっちのは色が濃く見えるな」
「実際濃いよ。薬としての成分もこっちの方が強いって言われてる」
「あいつらには教えないのか?」
「教えないよ。手柄を独り占めって、ちょっと意地悪かな?」
「遊びみたいなもんだから、まあいいんじゃないか」
その後はふたり共無言で薬草摘みを続けた。沢山集めたらそれだけ収入になるからね、真剣になるのも分かるよ。だから僕はついでに別の薬草も摘んでおいたんだ。たまたま見つけた薬草で、ひんやりする成分が入ってるから湿疹用の軟膏によく配合されるんだよ。痒いところは熱を持ってるからね、そこに塗るとスースーして痒みが弱まるってワケ。今の季節はこっちの薬草も需要があるから、きっとギルドで買い取ってくれると思う。
「結構集まったな」
マシューの言葉に改めて袋を確認してみると、満杯に近い位になってたんだ。
「じゃあそろそろ終わろうか。休憩のおやつにまたベリーが食べたいし」
「好きだなぁ」
「うん!」
僕たちがベリーのところへ戻って行くと、少し離れた位置で見守っていたクラスティさんも一緒に移動し始めた。かなり安全な場所とは言え油断大敵だからね、しっかりと警戒していてくれたみたいだよ。
「君は本当にそのベリーが好きなんだねぇ」
「ハイ、大好きです!」
再びベリーを食べ始めた僕を見たクラスティさんに苦笑いされちゃったし。でも好きなんだよなぁ。きっと今を逃したらもう食べれないだろうから、やっぱり食べておくに限るんだ。そう思いながら、僕はキョロキョロと辺りを見回した。
「ねぇマシュー、ここって森の南側だよね。土壁からどれくらい離れてるんだろう?」
「そんなに離れてないと思うぜ。しかもさっきの小川ってさ、昔は森の手前だったと思うんだ」
「言われてみればそうだね。浅い場所には昔は小川は無かったし。てことは、昔に比べて少し森が大きくなったんだ」
「そうだろうな。土壁の側は木を切った跡があったから、これ以上森が大きくならないように調整してるんだろう」
「そっか。うーん……、なんとかなる……かな?」
「何を企んでるんだ?」
「エヘヘ、内緒」
マシューに胡乱な目を向けられたけど、それ以上は何も言わなかったよ。沈黙は時として大切だよね。今僕が頭の中で考えてることは、この場では何も言うつもりは無いよ。夜にでもじっくり考えよう。……なんて、実は既に気持ちは決まってるんだけどさ。まあとにかく今は内緒だ。
「そっちはもう終わってたんだね。早いなぁ」
「いっぱい集まったよ」
「こっちもだよ。これでいくらくらいになるんだろう? 楽しみだなぁ」
トーマ君がとっても嬉しそうだ。ほんのすこしでも収入があったら嬉しいよね。僕も楽しみだもの。
「あっ、リロイさんすいません。こっちの薬草はギルドでは買い取ってもらえますか?」
「おっ、今の季節ならそっちも買い取ってくれるぞ。君は薬草も詳しいのか」
「いろいろ図鑑で調べるのが好きなんです」
「そうか。君は将来薬草摘みの達人になれるかもな」
「アハハ」
笑いながら、実は既に達人なんですと、頭の中でだけ答えておいた。
「ベリーを食べて少し休んだら帰るぞー」
リロイさんの言葉に、僕は慌ててベリーを頬張った。マシューの視線が痛いけど、気にしない気にしない。
「食べ過ぎてお腹壊してもしらないぞ」
「う……」
「もう十分満足しただろう?」
「……ぅん」
最後はマシュー母さんに怒られちゃった。
エンダルベリーは一応絶滅したことになってるから、この場にあるのは内緒なんだって。この辺に来る冒険者はほとんどいないから、今のところ知られてないそうなんだよ。だから持ち帰りも禁止って言われちゃった。残念だよね。本当に非常に心から残念だ。
「あれっ?」
「どうした?」
「あ~、やっぱりだ。ベリーの色に似ていて気が付かなかったけど、これ毒キノコだよ。しかも猛毒」
「うわぁ、何つうものを見つけてるんだよ」
お腹壊すのは困るからベリーを食べるのはもうおしまいにしたんだけど、それでもやっぱり名残惜しくてベリーをガン見してたんだ。食べないけどこの目に焼き付けておこうと思ってね。そしたら地面の方に何かが見えたんだ。遠目に見るとベリーとほとんど変わらなくて地面に落ちたヤツかなと思ったんだけど、でも実際は色が違ってるから、しっかり見たら別モノだった。ベリーは赤いけどこっちは濃いピンク。しかもベージュの点々もあって、認識したらキノコだってしっかり分かったよ。
「リロイさーん、すいませーん!」
「どうした? 何か問題でもあったか?」
「これ、毒キノコですよね? 猛毒で、見つけ次第処分対象だったと思うんですが……」
「うわっ、初めて見たぞ。おい、ミンツ! おまえキノコに詳しかったよな?」
「一応一通りは」
「じゃあコレは?」
「あー、猛毒のヤツっすね。見るのは初めてだけど、幻の毒キノコって一部では有名なヤツ。誰が見つけたんですか?」
「この子だ」
「君かぁ。そう言えばここに来るときもキノコの話をしてたね」
「ハイ」
「とりあえずこの布を使うか……」
そう言いながらミンツさんは、器用に短剣を使ってキノコを土ごと掘り出した。このキノコはとあるキノコが突然変異して出来ると言われてるんだ。普通のキノコに混じってある日突然生えてくるんだよ。ただしそれはとても珍しくて滅多に目にすることは無いんだ。
こう言う猛毒キノコを見つけた場合は、念のために土ごと採取することになってるんだ。土は後で焼却されるハズだ。
「ハイどうぞ。見つけたのは君だから、君がギルドへ出すと良いよ。これはかなりの高値で引き取ってくれるハズ。ただし絶対手で触れちゃダメだからね」
「ギルドで買ってくれるんですか?」
「そうだよ。あまり大きな声では言えないが、キノコ毒の研究をしてるところがあるんだ。毒薬と解毒剤だね。毒薬って聞くと怖いけど、症状とかを研究しておかないと、何かあったときに対処できないからってことらしいよ」
「……はい」
きっと国としてはいろいろあるんだろうね。としか僕は言えないや。
その後は全員で魔物の森の入り口まで移動した。
「この葉っぱが一番多く必要とされる薬草だ。傷薬には必ず入ってるものだ。ついでに言うと、新人冒険者向けの依頼のトップがこれだな。摘み方はこうやって葉っぱの部分だけを採取する。これは根が残ってればまたすぐ生えてくるからな」
リロイさんはそう言いながら僕たちに一枚ずつ薬草を手渡した。つまりこれを参考に、間違えないようにってことだね。
「こっちの都合で悪いが、薬草摘みはペアになってやってくれるかな? その方が警護しやすいんだ。場所はここら一帯。あまり遠くへは行くなよ。一応ここは魔物の森だってのを忘れないように。じゃあ、始め!」
と言うことで、僕とマシューはお昼を食べた場所へ移動した。この薬草はどこにでも生えるけど、水辺の方が育ちが良いんだ。葉の色も濃いんだよ。それを知ってるから僕は黙ってこっちまで来たってワケ。マシューは僕が薬草に詳しいのを知ってるから、素直に僕に付いてきたよ。ここらへんは阿吽の呼吸かもね。
「へぇ~、こっちのは色が濃く見えるな」
「実際濃いよ。薬としての成分もこっちの方が強いって言われてる」
「あいつらには教えないのか?」
「教えないよ。手柄を独り占めって、ちょっと意地悪かな?」
「遊びみたいなもんだから、まあいいんじゃないか」
その後はふたり共無言で薬草摘みを続けた。沢山集めたらそれだけ収入になるからね、真剣になるのも分かるよ。だから僕はついでに別の薬草も摘んでおいたんだ。たまたま見つけた薬草で、ひんやりする成分が入ってるから湿疹用の軟膏によく配合されるんだよ。痒いところは熱を持ってるからね、そこに塗るとスースーして痒みが弱まるってワケ。今の季節はこっちの薬草も需要があるから、きっとギルドで買い取ってくれると思う。
「結構集まったな」
マシューの言葉に改めて袋を確認してみると、満杯に近い位になってたんだ。
「じゃあそろそろ終わろうか。休憩のおやつにまたベリーが食べたいし」
「好きだなぁ」
「うん!」
僕たちがベリーのところへ戻って行くと、少し離れた位置で見守っていたクラスティさんも一緒に移動し始めた。かなり安全な場所とは言え油断大敵だからね、しっかりと警戒していてくれたみたいだよ。
「君は本当にそのベリーが好きなんだねぇ」
「ハイ、大好きです!」
再びベリーを食べ始めた僕を見たクラスティさんに苦笑いされちゃったし。でも好きなんだよなぁ。きっと今を逃したらもう食べれないだろうから、やっぱり食べておくに限るんだ。そう思いながら、僕はキョロキョロと辺りを見回した。
「ねぇマシュー、ここって森の南側だよね。土壁からどれくらい離れてるんだろう?」
「そんなに離れてないと思うぜ。しかもさっきの小川ってさ、昔は森の手前だったと思うんだ」
「言われてみればそうだね。浅い場所には昔は小川は無かったし。てことは、昔に比べて少し森が大きくなったんだ」
「そうだろうな。土壁の側は木を切った跡があったから、これ以上森が大きくならないように調整してるんだろう」
「そっか。うーん……、なんとかなる……かな?」
「何を企んでるんだ?」
「エヘヘ、内緒」
マシューに胡乱な目を向けられたけど、それ以上は何も言わなかったよ。沈黙は時として大切だよね。今僕が頭の中で考えてることは、この場では何も言うつもりは無いよ。夜にでもじっくり考えよう。……なんて、実は既に気持ちは決まってるんだけどさ。まあとにかく今は内緒だ。
「そっちはもう終わってたんだね。早いなぁ」
「いっぱい集まったよ」
「こっちもだよ。これでいくらくらいになるんだろう? 楽しみだなぁ」
トーマ君がとっても嬉しそうだ。ほんのすこしでも収入があったら嬉しいよね。僕も楽しみだもの。
「あっ、リロイさんすいません。こっちの薬草はギルドでは買い取ってもらえますか?」
「おっ、今の季節ならそっちも買い取ってくれるぞ。君は薬草も詳しいのか」
「いろいろ図鑑で調べるのが好きなんです」
「そうか。君は将来薬草摘みの達人になれるかもな」
「アハハ」
笑いながら、実は既に達人なんですと、頭の中でだけ答えておいた。
「ベリーを食べて少し休んだら帰るぞー」
リロイさんの言葉に、僕は慌ててベリーを頬張った。マシューの視線が痛いけど、気にしない気にしない。
「食べ過ぎてお腹壊してもしらないぞ」
「う……」
「もう十分満足しただろう?」
「……ぅん」
最後はマシュー母さんに怒られちゃった。
エンダルベリーは一応絶滅したことになってるから、この場にあるのは内緒なんだって。この辺に来る冒険者はほとんどいないから、今のところ知られてないそうなんだよ。だから持ち帰りも禁止って言われちゃった。残念だよね。本当に非常に心から残念だ。
「あれっ?」
「どうした?」
「あ~、やっぱりだ。ベリーの色に似ていて気が付かなかったけど、これ毒キノコだよ。しかも猛毒」
「うわぁ、何つうものを見つけてるんだよ」
お腹壊すのは困るからベリーを食べるのはもうおしまいにしたんだけど、それでもやっぱり名残惜しくてベリーをガン見してたんだ。食べないけどこの目に焼き付けておこうと思ってね。そしたら地面の方に何かが見えたんだ。遠目に見るとベリーとほとんど変わらなくて地面に落ちたヤツかなと思ったんだけど、でも実際は色が違ってるから、しっかり見たら別モノだった。ベリーは赤いけどこっちは濃いピンク。しかもベージュの点々もあって、認識したらキノコだってしっかり分かったよ。
「リロイさーん、すいませーん!」
「どうした? 何か問題でもあったか?」
「これ、毒キノコですよね? 猛毒で、見つけ次第処分対象だったと思うんですが……」
「うわっ、初めて見たぞ。おい、ミンツ! おまえキノコに詳しかったよな?」
「一応一通りは」
「じゃあコレは?」
「あー、猛毒のヤツっすね。見るのは初めてだけど、幻の毒キノコって一部では有名なヤツ。誰が見つけたんですか?」
「この子だ」
「君かぁ。そう言えばここに来るときもキノコの話をしてたね」
「ハイ」
「とりあえずこの布を使うか……」
そう言いながらミンツさんは、器用に短剣を使ってキノコを土ごと掘り出した。このキノコはとあるキノコが突然変異して出来ると言われてるんだ。普通のキノコに混じってある日突然生えてくるんだよ。ただしそれはとても珍しくて滅多に目にすることは無いんだ。
こう言う猛毒キノコを見つけた場合は、念のために土ごと採取することになってるんだ。土は後で焼却されるハズだ。
「ハイどうぞ。見つけたのは君だから、君がギルドへ出すと良いよ。これはかなりの高値で引き取ってくれるハズ。ただし絶対手で触れちゃダメだからね」
「ギルドで買ってくれるんですか?」
「そうだよ。あまり大きな声では言えないが、キノコ毒の研究をしてるところがあるんだ。毒薬と解毒剤だね。毒薬って聞くと怖いけど、症状とかを研究しておかないと、何かあったときに対処できないからってことらしいよ」
「……はい」
きっと国としてはいろいろあるんだろうね。としか僕は言えないや。
その後は全員で魔物の森の入り口まで移動した。
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