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第2章
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「セイン、少し……良いだろうか?」
食事が終わった後、アルさんが遠慮がちに声をかけてきた。ジェラルドさんはその様子を察して、先に戻って行ってくれた。
村の夜道をふたり、無言で歩く。今夜は晴れていて、星がとてもキレイに見えた。このままのんびり星を見ていたいような気もするけど、さすがに寒くて無理そうだ。横着しないでもう1枚着て来れば良かったと思った。
「すまなかった」
星を眺めながら歩いていたので、一瞬アルさんのセリフが頭に入ってこなかった。数泊置いてやっと言葉の意味を理解した。でも、何に対しての言葉なんだろうか?
「私はセインに対して、かなり失礼な態度を取っていたと思う。しかもセインが言ったことを信じようとせず、最初から嘘を言ってると決めてつけていた。本当にすまなかった」
「……今は本当だと思っていただけましたか?」
「嗚呼。魔導師というのは初めて聞いたが、確かに君は、魔術師であるジェラルド氏を導いていた」
「ありがとうございます」
それからまた暫くは無言で歩いた。気分的には少し上向いたかな。遠征の始めに言ったように、僕のことをちゃんと見ていたようだ。僕の言ったことが本当だって分かってくれたから、やっぱりそれは嬉しいや。
「セインは……、何故騎士団にいたんだ? 本来は魔術塔にいるべきではなかったのか?」
「うーん、そこらへんはいろいろと事情があって……。それに僕、本当は一年半前に第5を退団してたんです」
「退団?」
「そうです。それが何故か無かったことにされちゃって、それで第5に戻ってきたと言うか、戻されたと言うか……」
「そんなことが可能なのか?」
「普通は無理ですね。でも今回は、国の偉い人の指示だってことで」
「偉い人?」
「国王様……とか?」
唐突に、アルさんの足が止まった。そりゃそうだよね。国王様なんて答え、普通なら出るハズないもの。でも事実だ。と言うか、事実なんじゃないかな? ガイセルさんが嘘言ってるとは思えないし。
「あー、もしかして、セイン、君は貴族か何かなのか?」
「ただの平民ですよ」
「ただの平民が国王と知り合いなのか?」
「知り合い? うん、知り合い。えーっと……、マシューが、団長が王族なんです」
「……えっ?」
別に驚かそうとしたワケじゃないよ。でもやっぱり驚くよね。マシュー自身は自分が王族だってことを隠してるワケじゃないけど、自分から言うようなこともしていない。王族もルーカス様までは平民にも広く知られてるんだけど、何故かマシューが表舞台に立つことは無い。僕たち平民の間では、第3王子の存在自体を知らない人も多いんじゃないだろうか。何となく故意に隠してるような気がするのは、僕の気のせいだろうか?
それにしてもアルさんの驚いた顔はこの遠征中に何度も目にしたけど、その中でも今の顔が一番じゃないかな。きっとそれだけ衝撃的だったってことだね。
「私は……王族と試合形式の打ち合いをしたのか。もしあそこで私が勝っていたら、もしかしたら私は死んで……いた?」
「いやいやいや、それは無い、それは無いですからーっ!」
「しかしっ」
「マシューなんて、しょっちゅう近衛の皆さんにコテンパンにやられてますって」
「だが私は平民で」
「そもそも第5は平民ばかりの団なんですから」
「いや、しかし」
「プッ、ハハハ! いいじゃないですか、死んでないんですから」
「それも……そうだが」
「マシューなんてこの村にいたときは、悪ガキ共の作った落とし穴に落ちたりしてましたよ。そんな悪ガキ共だって、今でもピンピンしてまから」
僕の暴露話にアルさんは複雑そうな表情をしていた。まあね。王族が落とし穴に落ちるなんて、そんなイメージ無いもんね。でもこれは事実だ。犯人の悪ガキ共は、今も元気に冒険者生活をしているらしい。
「戻りましょうか!」
「そうだな」
だいぶ身体も冷えてきたし、そろそろ屋内で温まりたい。
「あー、セイン?」
「ハイ、何でしょう?」
「また……、以前のように、アルと呼んでもらえる、だろうか?」
「もちろんです、アルさん!」
決して第5騎士団での僕の噂が消えたワケじゃないけど、こうやってアルさんが認めてくれたことが嬉しい。これからも僕が頑張っていったら、いつかは噂も消えるんじゃないかな。少なくとも、第5から第6に移籍して来る人には認めて貰いたいなって思う。そのためにも、もっともっと頑張らなきゃだ。
翌日は予定通り隣のアダル村の宿屋に泊まった。ひとり部屋とふたり部屋を借りることになったら、何故か僕がひとり部屋にだった。でもおかげで気兼ねなくお風呂に入れたから嬉しかったよ。お風呂最高! たとえそれが宿屋の狭いお風呂であっても、僕にとっては最高の贅沢だ。
その後は馬に負担をかけない程度に急いてお城へ帰ってきた。帰るだけだから馬の交換はしなかったよ。だから途中小まめに休憩を入れて、馬が疲れすぎないように気をつけた。
特筆すべきは野営しなから帰ってきたってことだろうか。僕としては無理に野営する必要は無いし、適当な宿に泊まりながら帰ろうと思ってたんだよ。でもアルさんが提案してジェラルドさんが賛成して……ってカンジで野宿。
アルさん曰く、久しぶりに冒険者気分を味わいたかったんだって。ジェラルドさんはジェラルドさんで、今回みたいな旅はほとんどしたことが無かったから新鮮だったみたい。途中でうさきを狩って焼いて食べたりとか、行きと違って打ち解けた関係になったから、ものすごく楽しかった。そう、楽しかったんだ。
よくよく考えてみたら、今回のような旅は今世では初めてだった。でも前世の記憶があるからだろう、すごく懐かしいような気がしたんだ。いろいろ大変なこともあるけれど、やっぱりこうやって外に出るのは良いなって思った。
「今の魔術師は騎士に守られるのが当たり前になっているが、こうやって騎士と肩を並べて任務に出るのが本来の姿なのではないだろうか? 守られるだけではなく、お互いにサポートしあって任務をこなす……。少なくともオレはその方が良いと思った。
今回の任務は本当にいろいろなことを学んだと思う。勉強になったし、考えさせられることもあった。セイン君、任務に同行させてくれてありがとう」
王都に近い野営地で、任務最後の夜にジェラルドさんが言った言葉だ。僕はとてもすばらしい言葉をいただいたんじゃないだろうか。ものすごく嬉しかったよ。そんな風に言ってもらえて、逆に僕の方こそありがとうってカンジだ。
終わり良ければ全て良しってワケじゃないけど、結果的に大満足の任務だったと思う。
ジェラルドさん、アルさん、お疲れ様でした!
食事が終わった後、アルさんが遠慮がちに声をかけてきた。ジェラルドさんはその様子を察して、先に戻って行ってくれた。
村の夜道をふたり、無言で歩く。今夜は晴れていて、星がとてもキレイに見えた。このままのんびり星を見ていたいような気もするけど、さすがに寒くて無理そうだ。横着しないでもう1枚着て来れば良かったと思った。
「すまなかった」
星を眺めながら歩いていたので、一瞬アルさんのセリフが頭に入ってこなかった。数泊置いてやっと言葉の意味を理解した。でも、何に対しての言葉なんだろうか?
「私はセインに対して、かなり失礼な態度を取っていたと思う。しかもセインが言ったことを信じようとせず、最初から嘘を言ってると決めてつけていた。本当にすまなかった」
「……今は本当だと思っていただけましたか?」
「嗚呼。魔導師というのは初めて聞いたが、確かに君は、魔術師であるジェラルド氏を導いていた」
「ありがとうございます」
それからまた暫くは無言で歩いた。気分的には少し上向いたかな。遠征の始めに言ったように、僕のことをちゃんと見ていたようだ。僕の言ったことが本当だって分かってくれたから、やっぱりそれは嬉しいや。
「セインは……、何故騎士団にいたんだ? 本来は魔術塔にいるべきではなかったのか?」
「うーん、そこらへんはいろいろと事情があって……。それに僕、本当は一年半前に第5を退団してたんです」
「退団?」
「そうです。それが何故か無かったことにされちゃって、それで第5に戻ってきたと言うか、戻されたと言うか……」
「そんなことが可能なのか?」
「普通は無理ですね。でも今回は、国の偉い人の指示だってことで」
「偉い人?」
「国王様……とか?」
唐突に、アルさんの足が止まった。そりゃそうだよね。国王様なんて答え、普通なら出るハズないもの。でも事実だ。と言うか、事実なんじゃないかな? ガイセルさんが嘘言ってるとは思えないし。
「あー、もしかして、セイン、君は貴族か何かなのか?」
「ただの平民ですよ」
「ただの平民が国王と知り合いなのか?」
「知り合い? うん、知り合い。えーっと……、マシューが、団長が王族なんです」
「……えっ?」
別に驚かそうとしたワケじゃないよ。でもやっぱり驚くよね。マシュー自身は自分が王族だってことを隠してるワケじゃないけど、自分から言うようなこともしていない。王族もルーカス様までは平民にも広く知られてるんだけど、何故かマシューが表舞台に立つことは無い。僕たち平民の間では、第3王子の存在自体を知らない人も多いんじゃないだろうか。何となく故意に隠してるような気がするのは、僕の気のせいだろうか?
それにしてもアルさんの驚いた顔はこの遠征中に何度も目にしたけど、その中でも今の顔が一番じゃないかな。きっとそれだけ衝撃的だったってことだね。
「私は……王族と試合形式の打ち合いをしたのか。もしあそこで私が勝っていたら、もしかしたら私は死んで……いた?」
「いやいやいや、それは無い、それは無いですからーっ!」
「しかしっ」
「マシューなんて、しょっちゅう近衛の皆さんにコテンパンにやられてますって」
「だが私は平民で」
「そもそも第5は平民ばかりの団なんですから」
「いや、しかし」
「プッ、ハハハ! いいじゃないですか、死んでないんですから」
「それも……そうだが」
「マシューなんてこの村にいたときは、悪ガキ共の作った落とし穴に落ちたりしてましたよ。そんな悪ガキ共だって、今でもピンピンしてまから」
僕の暴露話にアルさんは複雑そうな表情をしていた。まあね。王族が落とし穴に落ちるなんて、そんなイメージ無いもんね。でもこれは事実だ。犯人の悪ガキ共は、今も元気に冒険者生活をしているらしい。
「戻りましょうか!」
「そうだな」
だいぶ身体も冷えてきたし、そろそろ屋内で温まりたい。
「あー、セイン?」
「ハイ、何でしょう?」
「また……、以前のように、アルと呼んでもらえる、だろうか?」
「もちろんです、アルさん!」
決して第5騎士団での僕の噂が消えたワケじゃないけど、こうやってアルさんが認めてくれたことが嬉しい。これからも僕が頑張っていったら、いつかは噂も消えるんじゃないかな。少なくとも、第5から第6に移籍して来る人には認めて貰いたいなって思う。そのためにも、もっともっと頑張らなきゃだ。
翌日は予定通り隣のアダル村の宿屋に泊まった。ひとり部屋とふたり部屋を借りることになったら、何故か僕がひとり部屋にだった。でもおかげで気兼ねなくお風呂に入れたから嬉しかったよ。お風呂最高! たとえそれが宿屋の狭いお風呂であっても、僕にとっては最高の贅沢だ。
その後は馬に負担をかけない程度に急いてお城へ帰ってきた。帰るだけだから馬の交換はしなかったよ。だから途中小まめに休憩を入れて、馬が疲れすぎないように気をつけた。
特筆すべきは野営しなから帰ってきたってことだろうか。僕としては無理に野営する必要は無いし、適当な宿に泊まりながら帰ろうと思ってたんだよ。でもアルさんが提案してジェラルドさんが賛成して……ってカンジで野宿。
アルさん曰く、久しぶりに冒険者気分を味わいたかったんだって。ジェラルドさんはジェラルドさんで、今回みたいな旅はほとんどしたことが無かったから新鮮だったみたい。途中でうさきを狩って焼いて食べたりとか、行きと違って打ち解けた関係になったから、ものすごく楽しかった。そう、楽しかったんだ。
よくよく考えてみたら、今回のような旅は今世では初めてだった。でも前世の記憶があるからだろう、すごく懐かしいような気がしたんだ。いろいろ大変なこともあるけれど、やっぱりこうやって外に出るのは良いなって思った。
「今の魔術師は騎士に守られるのが当たり前になっているが、こうやって騎士と肩を並べて任務に出るのが本来の姿なのではないだろうか? 守られるだけではなく、お互いにサポートしあって任務をこなす……。少なくともオレはその方が良いと思った。
今回の任務は本当にいろいろなことを学んだと思う。勉強になったし、考えさせられることもあった。セイン君、任務に同行させてくれてありがとう」
王都に近い野営地で、任務最後の夜にジェラルドさんが言った言葉だ。僕はとてもすばらしい言葉をいただいたんじゃないだろうか。ものすごく嬉しかったよ。そんな風に言ってもらえて、逆に僕の方こそありがとうってカンジだ。
終わり良ければ全て良しってワケじゃないけど、結果的に大満足の任務だったと思う。
ジェラルドさん、アルさん、お疲れ様でした!
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