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第1章
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「セイン君には城の正式な使者として、魔術塔へ写本した書物を持って行って欲しいそうです。それとその日は、城に滞在している魔術師たちの荷物運びも合わせて行うそうですよ」
執務室でガイセルさんから伝えられた言葉に驚く。僕が正式な使者? いやいや無い無い。どう考えても役不足だ。
「ちなみに使者は陛下直々の指名だそうです。当日は団長ではなくルーカス様が同行するそうですから、安心してください」
にっこり笑ってそんなことを言うガイセルさん……。気が遠くなりそうだ。国王様、僕にそんな大役が務まる気がしません。しかもあの5人と直接対決なんて、万が一負けたらどうしよう……。別に戦いじゃないけれど、行く前から敵前逃亡したい気分だ。
「そう言えば、ジェラルドさんたちには護衛は付くんですか?」
「付くそうですよ。護衛兼荷物運びとして二人ずつ。今回は近衛ではなく第1騎士団から派遣されますね。セイン君の護衛はルーカス様と近衛の誰かと言う話でした」
「ルーカス様が僕の護衛って……、それ何の罰ゲームですか?」
「さあ? あっ、ヘーデル避けにラモンも連れて行きますか?」
「……ガイセルさん、僕で遊ばないでください」
「フフフ……」
あのラモンの件は、マシューもクラウスさんもガイセルさんも本当に楽しそうだったんだよね。ヘーデルは最高の娯楽を彼らに提供したってことなんだろうか。いやいや、だからと言って僕がラモンを連れていくのはマズイっしょ。
とにかくガイセルさん、遊ぶのはマシューだけにしてください。
この際マシューの犠牲には目を瞑りますから。
そして当日の朝、何とマシューが僕を迎えに来た。てっきりガイセルさんが僕をお城に連れて行くものだと思ってたから、ビックリだ。とは言え、ガイセルさんもいろいろ忙しいんだよね。今王都でスリの被害が多くなっちゃって、団員のほとんどが見回りに出ているんだ。私服でブラついてみたりしてるものの、なかなか尻尾を掴めないでいるってのが現状だ。
「ほれっ、このプレート無くすなよ。これがあれば城への出入りは自由だから」
「何これ?」
「身分を証明するものだ。国王直々の許可だからな、誰にも文句は言われないぞ」
「盗んだものって疑われたりしない?」
「さすがに無いだろう。何かあったらクラウスを呼べ」
不安だなぁ……。
ちなみに今回はマシューが一緒だったから、疑われるなんてことは無かったよ。一応マシューが顔繋ぎをしてくれたから、たぶん次回以降は僕ひとりでも大丈夫だと思う。たぶんね。ダメだったら泣くかも。
◇◇◇ ◇◇◇
「ハイこれね……。この文書を開いて、見えるようにしてから魔術師長に渡してね。ここには僕の署名と、セイン君が正式な使者だってことが書いてあるからね」
「わかりました。あの……本当に僕でよろしいのでしょうか?」
「セイン君が一番でしょ。もし向こうが何か言っても、きっとルーちゃんが助けてくれるから。そうだよね?」
「大丈夫だ。セイン君は堂々としていれば良い」
「あ、ハイ……。じゃあ、よろしくお願いします」
相変わらずマシューの部屋で、国王様一家と話す僕……。不安だなぁ、本当に僕に勤まるんだろうか?
マシューは僕の隣で不機嫌そうな顔をしたままだ。一応引き下がったけど、ホントは僕と一緒に魔術塔へ行きたかったらしい。詰め所からここへ来るまでもずーっとブツブツ言ってたし。
「やっぱオレも一緒に行った方が良いんじゃねぇの? 王族だって、ひとりよりふたりの方が良いだろう?」
「ルーちゃんだけで大丈夫でしょ。マシューはもっとセイン君のことを信頼しなきゃだね。それにさ、マシューは剣の稽古があるでしょ? 僕聞いちゃったんだよねぇ……、第5の騎士との試合で、実は負けそうだったってね」
「うわっ。なんで親父が知ってんだよ!」
「僕意外とお友達多いからねぇ」
「喜べマシュー、今日は団長が直々に稽古をつけてくれるそうだ」
「うわぁ……」
途中から、国王様とルーカス様によるマシューいじりに変わったようだった。
「あっ、そうそう、魔術塔に行くときはローブを着てね」
「ハイ」
「よろしくね~」
マシューをいじりながらも必要なことは伝える国王様。さすがだ。
国王様たちが退室した後、僕は疑問に思ったことをマシューに聞いてみた。
「ねえマシュー、マシューの剣の腕って、三百五十年前より弱いの?」
「……セインが酷い」
「えー、別にいじめてるワケじゃないよぉ」
「……わかってるけどな。魂は同じだけど肉体は違うから、あの当時のレベルに達するにはまだまだってところだ。それに当時は必死だったし。前世でオレが勇者認定されたときはさ、実は今よりも弱かったんだぜ」
知らなかった事実にビックリ!
少しの間マシューとじゃれて――いたしてはないよ、さすがにね――それから臨時書庫へ向かった。持っていく分の写本が終わったのを一応確認するためと、今日一緒に魔術塔へ向かうのを事前に知らせておくためだ。
「そのことなのだが、申し訳ないが私は行かないことにした。あの部屋から持ち出したいものはもう無いからな」
「えっ、でもジェラルドさんがここへ来るときに持ち出した荷物って、ほんのわずかだったじゃないですか」
「だがこれで十分だ。それに……」
「それに、何でしょう?」
「いや、なんでもない」
「……わかりました。ではジェラルドさんの部屋は、僕が勝手に入りますね」
「……わかった」
まさかジェラルドさんが荷物を取りに行かないなんて言うとは思わなかった。何かを言おうとして止めたのも気になる。周りの魔術師たちのうち何人かが、ジェラルドさんのことを心配そうに見ていたのも気になるね。とりあえず僕が部屋に入ることに文句は言わなかったから、僕の方で適当に荷物を持ってきてあげようか。
「魔術塔へ渡す書物だけ先に受け取っておきますね。また後で合流しましょう」
そう言って僕は臨時書庫を後にした。
執務室でガイセルさんから伝えられた言葉に驚く。僕が正式な使者? いやいや無い無い。どう考えても役不足だ。
「ちなみに使者は陛下直々の指名だそうです。当日は団長ではなくルーカス様が同行するそうですから、安心してください」
にっこり笑ってそんなことを言うガイセルさん……。気が遠くなりそうだ。国王様、僕にそんな大役が務まる気がしません。しかもあの5人と直接対決なんて、万が一負けたらどうしよう……。別に戦いじゃないけれど、行く前から敵前逃亡したい気分だ。
「そう言えば、ジェラルドさんたちには護衛は付くんですか?」
「付くそうですよ。護衛兼荷物運びとして二人ずつ。今回は近衛ではなく第1騎士団から派遣されますね。セイン君の護衛はルーカス様と近衛の誰かと言う話でした」
「ルーカス様が僕の護衛って……、それ何の罰ゲームですか?」
「さあ? あっ、ヘーデル避けにラモンも連れて行きますか?」
「……ガイセルさん、僕で遊ばないでください」
「フフフ……」
あのラモンの件は、マシューもクラウスさんもガイセルさんも本当に楽しそうだったんだよね。ヘーデルは最高の娯楽を彼らに提供したってことなんだろうか。いやいや、だからと言って僕がラモンを連れていくのはマズイっしょ。
とにかくガイセルさん、遊ぶのはマシューだけにしてください。
この際マシューの犠牲には目を瞑りますから。
そして当日の朝、何とマシューが僕を迎えに来た。てっきりガイセルさんが僕をお城に連れて行くものだと思ってたから、ビックリだ。とは言え、ガイセルさんもいろいろ忙しいんだよね。今王都でスリの被害が多くなっちゃって、団員のほとんどが見回りに出ているんだ。私服でブラついてみたりしてるものの、なかなか尻尾を掴めないでいるってのが現状だ。
「ほれっ、このプレート無くすなよ。これがあれば城への出入りは自由だから」
「何これ?」
「身分を証明するものだ。国王直々の許可だからな、誰にも文句は言われないぞ」
「盗んだものって疑われたりしない?」
「さすがに無いだろう。何かあったらクラウスを呼べ」
不安だなぁ……。
ちなみに今回はマシューが一緒だったから、疑われるなんてことは無かったよ。一応マシューが顔繋ぎをしてくれたから、たぶん次回以降は僕ひとりでも大丈夫だと思う。たぶんね。ダメだったら泣くかも。
◇◇◇ ◇◇◇
「ハイこれね……。この文書を開いて、見えるようにしてから魔術師長に渡してね。ここには僕の署名と、セイン君が正式な使者だってことが書いてあるからね」
「わかりました。あの……本当に僕でよろしいのでしょうか?」
「セイン君が一番でしょ。もし向こうが何か言っても、きっとルーちゃんが助けてくれるから。そうだよね?」
「大丈夫だ。セイン君は堂々としていれば良い」
「あ、ハイ……。じゃあ、よろしくお願いします」
相変わらずマシューの部屋で、国王様一家と話す僕……。不安だなぁ、本当に僕に勤まるんだろうか?
マシューは僕の隣で不機嫌そうな顔をしたままだ。一応引き下がったけど、ホントは僕と一緒に魔術塔へ行きたかったらしい。詰め所からここへ来るまでもずーっとブツブツ言ってたし。
「やっぱオレも一緒に行った方が良いんじゃねぇの? 王族だって、ひとりよりふたりの方が良いだろう?」
「ルーちゃんだけで大丈夫でしょ。マシューはもっとセイン君のことを信頼しなきゃだね。それにさ、マシューは剣の稽古があるでしょ? 僕聞いちゃったんだよねぇ……、第5の騎士との試合で、実は負けそうだったってね」
「うわっ。なんで親父が知ってんだよ!」
「僕意外とお友達多いからねぇ」
「喜べマシュー、今日は団長が直々に稽古をつけてくれるそうだ」
「うわぁ……」
途中から、国王様とルーカス様によるマシューいじりに変わったようだった。
「あっ、そうそう、魔術塔に行くときはローブを着てね」
「ハイ」
「よろしくね~」
マシューをいじりながらも必要なことは伝える国王様。さすがだ。
国王様たちが退室した後、僕は疑問に思ったことをマシューに聞いてみた。
「ねえマシュー、マシューの剣の腕って、三百五十年前より弱いの?」
「……セインが酷い」
「えー、別にいじめてるワケじゃないよぉ」
「……わかってるけどな。魂は同じだけど肉体は違うから、あの当時のレベルに達するにはまだまだってところだ。それに当時は必死だったし。前世でオレが勇者認定されたときはさ、実は今よりも弱かったんだぜ」
知らなかった事実にビックリ!
少しの間マシューとじゃれて――いたしてはないよ、さすがにね――それから臨時書庫へ向かった。持っていく分の写本が終わったのを一応確認するためと、今日一緒に魔術塔へ向かうのを事前に知らせておくためだ。
「そのことなのだが、申し訳ないが私は行かないことにした。あの部屋から持ち出したいものはもう無いからな」
「えっ、でもジェラルドさんがここへ来るときに持ち出した荷物って、ほんのわずかだったじゃないですか」
「だがこれで十分だ。それに……」
「それに、何でしょう?」
「いや、なんでもない」
「……わかりました。ではジェラルドさんの部屋は、僕が勝手に入りますね」
「……わかった」
まさかジェラルドさんが荷物を取りに行かないなんて言うとは思わなかった。何かを言おうとして止めたのも気になる。周りの魔術師たちのうち何人かが、ジェラルドさんのことを心配そうに見ていたのも気になるね。とりあえず僕が部屋に入ることに文句は言わなかったから、僕の方で適当に荷物を持ってきてあげようか。
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