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36.その後・亮介③
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次にふたりがやってきたのは、その翌週……ではなくて、クリスマス直前の国民の祝日だった。
「今日はケンスケサンタからプレゼントだよぉ。ケーキとスパークリングワイン。ケンスケサンタは貧乏だからねぇ、シャンパンは買えなかったんだってぇ」
ニコニコしながらそう言うカイトさんに対し、ケンスケさんは苦笑いを浮かべていた。
「まあ貧乏ってのは本当だな」
「あの……」
「気にしないで良いよぉ。とりあえずさぁ、一日早いクリスマスだよぉ。さぁさぁまだ昼前だけどさぁ、たまには飲んじゃぉぉぉってね!」
例のごとく、ずかずかと入り込んでリビングで準備するカイトさん。ケンスケさんはニヤっと笑って「風呂入ったか?」なんて聞いてくるし……。今日は週末じゃなかったので油断してたよ。無精ひげがまだ風呂に入ってないのを物語っていて、結局今日も風呂場へ連行されてしまった……。もちろんバスタオルを持って風呂場で着てるものを脱いだ。だって、そこはかとなく身の危険を感じるんだ。違うのかもしれないけど、あのニヤニヤ笑いはちと怖い。
さっぱりしてリビングへ行くと、ソファの前のテーブルにサンドイッチ等の軽食とケーキとシャンパン――スパークリングワインじゃなかった――が並べられていた。
「いつもはダイニングだけどねぇ、今日はミニパーティだからこっちにしてみましたぁ」
「ほれっ、グラス持って」
「あ、スイマセン」
今日もやはりこのふたりのペースに乗せられて、気がつけばミニクリスマスパーティと言うのものが開催されていた。と言っても、普通にケーキ、シャンパン、軽食等を食べるだけなのだが……。オレとケンスケさんはソファに座ってて、カイトさんはオレたちの真正面で直接ラグの上に座っていた。
シャンパンの次は白ワインが出てきた。キリっと冷えた辛口のワインはとても美味しかった。昼前からアルコールを摂取したせいだろうか、いつもより早く酔いが回ってるような気がする。
「亮介くんは年末休みはいつからいつまで? 実家帰るのぉ?」
「あぁ……、カレンダー見て無いんでちょっと違うかもしれませんが、普通に二十九日から三日までです。今年は家には帰らない、と思います」
「そぉなんだぁ。んじゃぁさ、亮介くんお餅好き? 餡子は?」
「え、あの……」
「お汁粉もいいけど磯辺も捨てがたいんだよねぇ」
その後ケンスケさんとカイトさんはお餅の食べ方で盛り上がっていた。食べ方にはいろいろバリエーションがあるらしく、オレはワインを飲みながら黙ってふたりの会話を聞いていた。
それから……、どうしてこうなったんだろうか?
何がきっかけで始まったのかは覚えてないが、気がついたらオレは智との高校時代の思い出を二人に語っていた。高1の初日に智の笑顔にひと目惚れしたこと。その後もずーっと好きで高2の終わりに両想いになれたこと。高3の修学旅行でふたりの関係がバレて仲間内では公認の仲になったこと。一緒の大学に行くべくふたりで勉強したこと。何故か初エッチのことまで白状させられてしまったのはきっと、シャンパンとワインで酔ってたせいだと思いたい。
「亮介くんは今も智ちゃんのことが好き?」
「ええ、好き……です」
途端に胸が苦しくなる。智……。
「そんな顔しないのぉ。人の縁なんてさぁ、そうそう無くなるもんじゃないと思うよ。今年は数年ぶりに智ちゃんに会えたでしょ? ならまた会えるチャンスは来ると思うよぉ」
「そんな日が来るんでしょうか?」
「絶対来るよぉ。希望がなきゃ人生なんてやってらんないじゃん。それとさぁ、亮介くんが智ちゃんを好きな気持ちはさぁ、ずぅーっと持ってても良いと思うよぉ。だって好きなんだもん、無理に忘れる必要なんか無いじゃん」
「オレもそう思うぜ。好きなんだろう? だったら堂々とその気持ちを持ってれば良い。今は会えないかもしれないが、それと好きだって気持ちは別だと思うぜ」
その後しばらくしてからふたりは帰っていった。オレがシャワーを浴びてるときに入れたらしく、冷凍庫にはまた少し食料が増えていた。
慰められたんだと思う。しかも三週間もかけて……。
彼等がここへ来始める前に比べると、だいぶ心が楽になったような気がする。そうだ……、そうだよな。智には忘れてくれと言われたが、オレの気持ちなんだから無理に忘れる必要は無いんだ。オレは昔と変わらず智が好き。会えるとか会えないとかじゃなく、やっぱり智が好きだ。
気がついたら、自然と笑みが浮かんでいた。
年末。納会も終わって正月休みに突入した。とりあえず面倒なことは先に済まそうと、休日初日は大掃除に精を出した。ここへ引っ越してまだ数ヶ月しか経ってないのもあり、掃除はサクっと一日で終えることができた。きっと気持ちが前向きになったせいもあるのだろう、身体を動かすことが全く苦にならなかった。
休日二日目。そろそろ自分でも料理する気になったので、買い物に行くことにした。何だかんだでカイトさんの作ってくれたものを食べてたが、残りももう無いし、年末年始に外食する気もなかったからだ。外出の準備を終えて、そろそろ出ようかと思ったときにインターフォンが鳴った。もしかしてカイトさんたちだろうか?
「ハイ」
「……亮介、……オレ」
「えっ、智?」
慌てて玄関へ向かった。
「今日はケンスケサンタからプレゼントだよぉ。ケーキとスパークリングワイン。ケンスケサンタは貧乏だからねぇ、シャンパンは買えなかったんだってぇ」
ニコニコしながらそう言うカイトさんに対し、ケンスケさんは苦笑いを浮かべていた。
「まあ貧乏ってのは本当だな」
「あの……」
「気にしないで良いよぉ。とりあえずさぁ、一日早いクリスマスだよぉ。さぁさぁまだ昼前だけどさぁ、たまには飲んじゃぉぉぉってね!」
例のごとく、ずかずかと入り込んでリビングで準備するカイトさん。ケンスケさんはニヤっと笑って「風呂入ったか?」なんて聞いてくるし……。今日は週末じゃなかったので油断してたよ。無精ひげがまだ風呂に入ってないのを物語っていて、結局今日も風呂場へ連行されてしまった……。もちろんバスタオルを持って風呂場で着てるものを脱いだ。だって、そこはかとなく身の危険を感じるんだ。違うのかもしれないけど、あのニヤニヤ笑いはちと怖い。
さっぱりしてリビングへ行くと、ソファの前のテーブルにサンドイッチ等の軽食とケーキとシャンパン――スパークリングワインじゃなかった――が並べられていた。
「いつもはダイニングだけどねぇ、今日はミニパーティだからこっちにしてみましたぁ」
「ほれっ、グラス持って」
「あ、スイマセン」
今日もやはりこのふたりのペースに乗せられて、気がつけばミニクリスマスパーティと言うのものが開催されていた。と言っても、普通にケーキ、シャンパン、軽食等を食べるだけなのだが……。オレとケンスケさんはソファに座ってて、カイトさんはオレたちの真正面で直接ラグの上に座っていた。
シャンパンの次は白ワインが出てきた。キリっと冷えた辛口のワインはとても美味しかった。昼前からアルコールを摂取したせいだろうか、いつもより早く酔いが回ってるような気がする。
「亮介くんは年末休みはいつからいつまで? 実家帰るのぉ?」
「あぁ……、カレンダー見て無いんでちょっと違うかもしれませんが、普通に二十九日から三日までです。今年は家には帰らない、と思います」
「そぉなんだぁ。んじゃぁさ、亮介くんお餅好き? 餡子は?」
「え、あの……」
「お汁粉もいいけど磯辺も捨てがたいんだよねぇ」
その後ケンスケさんとカイトさんはお餅の食べ方で盛り上がっていた。食べ方にはいろいろバリエーションがあるらしく、オレはワインを飲みながら黙ってふたりの会話を聞いていた。
それから……、どうしてこうなったんだろうか?
何がきっかけで始まったのかは覚えてないが、気がついたらオレは智との高校時代の思い出を二人に語っていた。高1の初日に智の笑顔にひと目惚れしたこと。その後もずーっと好きで高2の終わりに両想いになれたこと。高3の修学旅行でふたりの関係がバレて仲間内では公認の仲になったこと。一緒の大学に行くべくふたりで勉強したこと。何故か初エッチのことまで白状させられてしまったのはきっと、シャンパンとワインで酔ってたせいだと思いたい。
「亮介くんは今も智ちゃんのことが好き?」
「ええ、好き……です」
途端に胸が苦しくなる。智……。
「そんな顔しないのぉ。人の縁なんてさぁ、そうそう無くなるもんじゃないと思うよ。今年は数年ぶりに智ちゃんに会えたでしょ? ならまた会えるチャンスは来ると思うよぉ」
「そんな日が来るんでしょうか?」
「絶対来るよぉ。希望がなきゃ人生なんてやってらんないじゃん。それとさぁ、亮介くんが智ちゃんを好きな気持ちはさぁ、ずぅーっと持ってても良いと思うよぉ。だって好きなんだもん、無理に忘れる必要なんか無いじゃん」
「オレもそう思うぜ。好きなんだろう? だったら堂々とその気持ちを持ってれば良い。今は会えないかもしれないが、それと好きだって気持ちは別だと思うぜ」
その後しばらくしてからふたりは帰っていった。オレがシャワーを浴びてるときに入れたらしく、冷凍庫にはまた少し食料が増えていた。
慰められたんだと思う。しかも三週間もかけて……。
彼等がここへ来始める前に比べると、だいぶ心が楽になったような気がする。そうだ……、そうだよな。智には忘れてくれと言われたが、オレの気持ちなんだから無理に忘れる必要は無いんだ。オレは昔と変わらず智が好き。会えるとか会えないとかじゃなく、やっぱり智が好きだ。
気がついたら、自然と笑みが浮かんでいた。
年末。納会も終わって正月休みに突入した。とりあえず面倒なことは先に済まそうと、休日初日は大掃除に精を出した。ここへ引っ越してまだ数ヶ月しか経ってないのもあり、掃除はサクっと一日で終えることができた。きっと気持ちが前向きになったせいもあるのだろう、身体を動かすことが全く苦にならなかった。
休日二日目。そろそろ自分でも料理する気になったので、買い物に行くことにした。何だかんだでカイトさんの作ってくれたものを食べてたが、残りももう無いし、年末年始に外食する気もなかったからだ。外出の準備を終えて、そろそろ出ようかと思ったときにインターフォンが鳴った。もしかしてカイトさんたちだろうか?
「ハイ」
「……亮介、……オレ」
「えっ、智?」
慌てて玄関へ向かった。
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