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5.現在・智③
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日曜日
雨が降らないで良かった。一週間分の洗濯をして掃除をして、そしてスーパーに食材の買出しに出かける。就職してからお馴染みとなった一連の休日の作業だ。オレが住んでるのは一DKのこじんまりとしたマンションで、ここは就職した当時からずっと住んでいる。
夜は適当なものを作ってひとりで食べる。休前日なら缶チューハイの一本くらいは飲むけど、明日からまた仕事だから今日は無し。アルコールに耐性がほとんど無いオレだけど、甘い酒は好きだったりする。ちょっとしか飲めないが。
食後の洗い物をしてたら兄貴から電話があった。
「元気でやってるか?」
「兄さん久しぶり! 元気だよ。仕事も順調、何も問題ないよ」
両親とは疎遠になってしまったオレだが、こうやって兄貴は時々電話をくれる。心配かけてるんだなと思うけど、オレからは何もできない。元気だと伝えるのが精一杯だ。
「兄さんの方こそ何かあった?」
「おう」
「何だよ? 良い話?」
「……結婚することにした」
「やっと? いやいやおめでとう」
「式を挙げるつもりなんだが、智は来れるか?」
「めでたい席だからな。是非行ってあげたいけど、行かない方が良いと思う」
「そっか……」
「ごめん」
勘当された身だからな。お祝いしてあげたいけど、残念ながら式は出席できないだろう。
「次の週末空いてるか?」
「空いてるけど?」
「じゃあ彼女連れてくよ。どっかで会おう」
「良いのか?」
「当たり前じゃん。誰が何と言おうと、智はオレの弟だ。未来の義姉に挨拶ぐらいしてくれ」
「わかった。ありがとう」
「それはオレのセリフだ」
兄貴の彼女は小林優子さんって名前だったかな? まだ会ったことは無いけれど、兄貴から聞いたことがある。もちろんノロケ込みで。たしか年齢はオレと同じだったはず。オレの分も兄貴を支えてくれたらと思うな。
せっかくなので何かお祝いを贈ろうと思い、それからオレはPCでいろいろ検索しまくった。
◇◇◇ ◇◇◇
「相田さん、進捗について少々ご相談があるんですが……」
「何か問題? とりあえずブースで話聞こうか」
会社でのオレはサブマネージャーと言う肩書きを持っている。日本語に直すと課長補佐か係長ってのが当てはまるんじゃないかと思う。
オレの下には約三十人ほど部下がいて、抱えてるプロジェクトは四つ。組織体系で行くと、マネージャーの下にサブマネージャーがいて、その下にプロジェクト毎にリーダーがいる。プロジェクト四つだから、オレの直下に四人のリーダーと言う名の部下がいることになる。
オレの仕事は各プロジェクトの進捗管理やら対外折衝、自社への報告等々。上司であるマネージャーの下にはオレと同じサブマネージャーが数名いるから、横の連携も必要だ。
ブースでは発生した問題の状況、対応などの報告を受け、リーダーと共にスケジュールの見直しを行った。
オレとしては普通に下っ端で開発とかしてたいんだけどね。若手の仕事を奪っちゃダメじゃんって周りに言われて、泣く泣く中間管理職なんて仕事をやっている。向いてないような気がするんだけどなぁ……。何故か同期の出世頭がオレってことになっている。なんでだろう?
「相田! 今日ヒマか? 久しぶりに塚原とメシ行くんだけど、おまえも来ないか?」
「塚原とは久しぶりだなぁ。オレは酒飲まないんだから、少しは負けてくれよ」
打ち合わせから席に戻ると、同期の堂本が声をかけてきた。堂本も塚原も同期入社だ。たくさんいた同期も少なくなってしまい、今ではこのふたりと及川女史だけになっている。一応もうひとりいるが、彼女は現在産休中だ。
「どうせなら及川女史も誘わないか? 同期の集まりってかんじで良いじゃん」
「げっ、及川女史と仲が良いのは相田だけだって。あの人怖いんだぜ」
「いい人だと思うよ。全然怖くないじゃん」
「そう思うのは相田だけ」
結局及川女史を含めた四人で集まることになった。まあ、堂本は及川女史が苦手なので不本意っぽかったけどな。
「相田ちゃーん、そろそろまた高梨クンに会わせてよー」
及川女史がオレに絡む。この人もオレ同様酒は強くない。以前たまたま縁あって彼女に信一を紹介したことがあり、それ以来信一ラブらしい。
「でもあいつゲイだよ。会っても悲しいだけだって」
「本人はバイって言ってたわよ。あーんなイケメン、男に渡すのは勿体無いの!」
信一がイケメンってのにはオレとしては……。まあ好みは人それぞれだ。信一もなぁ、高2になったばかりのときはオレと同じ身長だったくせして、今では百八十あるんだぜ。高3の後半になってググっと伸びたんだ。あれはオレから見たら詐欺ってかんじだよ。
「及川さん、そろそろ飲みすぎじゃね?」
「煩いわよ。堂本は大人しくそっちで飲んでなさい!」
「うへぇ」
そして及川女史は酒癖がいまいちよろしくない。堂本が目でオレに訴える。ハイハイ、彼女の面倒はオレが見ますよ。
クダをまく女史を適当にあしらいつつ、オレたちは楽しい時間を過ごした。
及川女史? 途中で寝ちゃったからね。最後はオレがタクシーで送って行くってわけ。もちろんタクシー代は彼女持ち。たまたま家が近所なので、オレとしてもタクシーで帰れてラッキーってわけだ。
何だかんだ言って、オレは周りに恵まれてると思う。
楽しい同期にやりがいのある仕事、そしてプライベートでも良いやつらばかりだ。
雨が降らないで良かった。一週間分の洗濯をして掃除をして、そしてスーパーに食材の買出しに出かける。就職してからお馴染みとなった一連の休日の作業だ。オレが住んでるのは一DKのこじんまりとしたマンションで、ここは就職した当時からずっと住んでいる。
夜は適当なものを作ってひとりで食べる。休前日なら缶チューハイの一本くらいは飲むけど、明日からまた仕事だから今日は無し。アルコールに耐性がほとんど無いオレだけど、甘い酒は好きだったりする。ちょっとしか飲めないが。
食後の洗い物をしてたら兄貴から電話があった。
「元気でやってるか?」
「兄さん久しぶり! 元気だよ。仕事も順調、何も問題ないよ」
両親とは疎遠になってしまったオレだが、こうやって兄貴は時々電話をくれる。心配かけてるんだなと思うけど、オレからは何もできない。元気だと伝えるのが精一杯だ。
「兄さんの方こそ何かあった?」
「おう」
「何だよ? 良い話?」
「……結婚することにした」
「やっと? いやいやおめでとう」
「式を挙げるつもりなんだが、智は来れるか?」
「めでたい席だからな。是非行ってあげたいけど、行かない方が良いと思う」
「そっか……」
「ごめん」
勘当された身だからな。お祝いしてあげたいけど、残念ながら式は出席できないだろう。
「次の週末空いてるか?」
「空いてるけど?」
「じゃあ彼女連れてくよ。どっかで会おう」
「良いのか?」
「当たり前じゃん。誰が何と言おうと、智はオレの弟だ。未来の義姉に挨拶ぐらいしてくれ」
「わかった。ありがとう」
「それはオレのセリフだ」
兄貴の彼女は小林優子さんって名前だったかな? まだ会ったことは無いけれど、兄貴から聞いたことがある。もちろんノロケ込みで。たしか年齢はオレと同じだったはず。オレの分も兄貴を支えてくれたらと思うな。
せっかくなので何かお祝いを贈ろうと思い、それからオレはPCでいろいろ検索しまくった。
◇◇◇ ◇◇◇
「相田さん、進捗について少々ご相談があるんですが……」
「何か問題? とりあえずブースで話聞こうか」
会社でのオレはサブマネージャーと言う肩書きを持っている。日本語に直すと課長補佐か係長ってのが当てはまるんじゃないかと思う。
オレの下には約三十人ほど部下がいて、抱えてるプロジェクトは四つ。組織体系で行くと、マネージャーの下にサブマネージャーがいて、その下にプロジェクト毎にリーダーがいる。プロジェクト四つだから、オレの直下に四人のリーダーと言う名の部下がいることになる。
オレの仕事は各プロジェクトの進捗管理やら対外折衝、自社への報告等々。上司であるマネージャーの下にはオレと同じサブマネージャーが数名いるから、横の連携も必要だ。
ブースでは発生した問題の状況、対応などの報告を受け、リーダーと共にスケジュールの見直しを行った。
オレとしては普通に下っ端で開発とかしてたいんだけどね。若手の仕事を奪っちゃダメじゃんって周りに言われて、泣く泣く中間管理職なんて仕事をやっている。向いてないような気がするんだけどなぁ……。何故か同期の出世頭がオレってことになっている。なんでだろう?
「相田! 今日ヒマか? 久しぶりに塚原とメシ行くんだけど、おまえも来ないか?」
「塚原とは久しぶりだなぁ。オレは酒飲まないんだから、少しは負けてくれよ」
打ち合わせから席に戻ると、同期の堂本が声をかけてきた。堂本も塚原も同期入社だ。たくさんいた同期も少なくなってしまい、今ではこのふたりと及川女史だけになっている。一応もうひとりいるが、彼女は現在産休中だ。
「どうせなら及川女史も誘わないか? 同期の集まりってかんじで良いじゃん」
「げっ、及川女史と仲が良いのは相田だけだって。あの人怖いんだぜ」
「いい人だと思うよ。全然怖くないじゃん」
「そう思うのは相田だけ」
結局及川女史を含めた四人で集まることになった。まあ、堂本は及川女史が苦手なので不本意っぽかったけどな。
「相田ちゃーん、そろそろまた高梨クンに会わせてよー」
及川女史がオレに絡む。この人もオレ同様酒は強くない。以前たまたま縁あって彼女に信一を紹介したことがあり、それ以来信一ラブらしい。
「でもあいつゲイだよ。会っても悲しいだけだって」
「本人はバイって言ってたわよ。あーんなイケメン、男に渡すのは勿体無いの!」
信一がイケメンってのにはオレとしては……。まあ好みは人それぞれだ。信一もなぁ、高2になったばかりのときはオレと同じ身長だったくせして、今では百八十あるんだぜ。高3の後半になってググっと伸びたんだ。あれはオレから見たら詐欺ってかんじだよ。
「及川さん、そろそろ飲みすぎじゃね?」
「煩いわよ。堂本は大人しくそっちで飲んでなさい!」
「うへぇ」
そして及川女史は酒癖がいまいちよろしくない。堂本が目でオレに訴える。ハイハイ、彼女の面倒はオレが見ますよ。
クダをまく女史を適当にあしらいつつ、オレたちは楽しい時間を過ごした。
及川女史? 途中で寝ちゃったからね。最後はオレがタクシーで送って行くってわけ。もちろんタクシー代は彼女持ち。たまたま家が近所なので、オレとしてもタクシーで帰れてラッキーってわけだ。
何だかんだ言って、オレは周りに恵まれてると思う。
楽しい同期にやりがいのある仕事、そしてプライベートでも良いやつらばかりだ。
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