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仕事は……かなり忙しかった。開発部署が再提出期限を守らなかったのが原因だ。向こうは向こうで事情があるとは思うが、そのしわ寄せは検証するオレたちに来ることになる。こんなことがよくあるから、やはりオレの部署は他部署の連中とは仲良くなれない。ダメ出しするだけじゃなく、簡単な箇所ならオレたちが直してるってことを、果たして向こうは知ってるんだろうか? きっと知らないだろうな。知ってるのはウチの部の連中と、各部署の偉い人たちだけだ。
それでも何とか完了のメドがついたオレは、いつもより一時間くらいは早く会社を出ることができたと思う。やっとだよ。もうメシを作る気もしない。と言うか、忙しくなってからは毎晩コンビニ弁当な晩飯だ。そろそろ弁当生活もうんざりしてたりする。
コンビニのレジ待ちでふと目にしたのは、ラッピングされたプレゼントの山だった。忘れていたが明日はバレンタインデーだ。オレの部署は男しかいないからバレンタインデーとか無縁だが、毎年その日は会社自体が浮足立っているような雰囲気になる。ただしオレにとって今年のバレンタインデーは今やってる仕事の期日って意味しかないけどな。去年までは……と、一瞬考えたそれを慌てて打ち消した。
バレンタインデーは一般的には女性が男性に告白する日だと言うことになっている。告白にはチョコレートを添えて。最近は友チョコってのもあるらしい。そう言えばご褒美チョコってのも以前聞いたかもしれない。ならオレが、自分へのご褒美としてチョコを買っても良いんじゃないか? しかも明日は期日だし。頑張った自分にご褒美チョコレート。突発的にそう考えたオレは、弁当と一緒に見かけたチョコレートをレジに出した。
ホクホクとコンビニを出た直後に我に返る。アホらし。何やってんだろう。ご褒美って何のご褒美だよ。温めてもらった弁当とは別の袋に入れられたそのチョコは、そのままカバンの中に放り込んだ。空しいだけだ。
翌朝出社したオレは、スマホをしまおうとカバンを開けて思わず顔をしかめてしまった。昨日買ったチョコを入れっぱなしだったのだ。ため息が出た。まあいっか。
「向井、ちょっと良いか?」
缶コーヒーを買って席に着こうとしたオレに、突然上司から声がかかった。まだ始業前だが、何か不備でもあったのだろうか?
「今日が期日の納品物だが、どうなってる?」
「あ、はい。一応終了していて、洩れが無いかの最終確認をする予定です」
「そうか。悪いんだが、急遽納品物が追加になった。あちらさんも徹夜で作成したらしい」
「へっ?」
「今日中に終わらせるぞ。今日は他のメンバーにもサポートに入ってもらう。不備があるところはオレに上げてくれ。即行で直させるから」
「…………」
「返事は?」
「はっ、ハイ!」
ぐへぇ、最悪のバレンタインデーだ。いや、バレンタインデーは関係ないけど。
始業時間になった途端に全員が集められ、今日の緊急作業の話と仕事の割り振りが説明された。メインはオレと上司。他は全員サポートで、書式不備は全てサポートメンバーが修正してくれることになった。オレは検証だ。上司はオレが検証した納品物の再チェックと、提出元部署とのやり取りだ。
「山岸さん。NGファイル四本、フォルダに突っ込みました」
「よし。じゃあここに来て説明してくれ」
気が付けば、上司の席には納品元部署のリーダーがいた。補助椅子に座って、持参したPCで既にNGファイルを開いて見ているところだった。オレは上司とリーダーに不備の説明をし、それから自席で次のチェックを始めた。リーダーが修正した納品物は上司が再確認してくれている。何とか今日中に間に合いそうだ。
「山岸さん、ファイルが一本ありません!」
そろそろ終わりが見えたので、オレと上司の山岸さんを残して全員帰宅してもらった。一部自分の担当で残業してる人もいるけれど、それも極少数だ。フォルダにある納品物を全部チェックし終えて、最後に納品物一覧と照らし合わせたときに一本だけ無いのが発覚した。本来なら最初にチェックしてるハズのこと。イレギュラーだった今日はそれが最後になってしまったのだ。ここに来て痛恨のミス。
「納品物名を教えてくれ。向こうに連絡する」
「ハイ。足りないのは――」
結局、全ての確認が終わったのは夜九時、納品元へ完了返却したのは夜十時だった。
「ふう~……」
上司が納品元部署と電話でやり取りしてるのを耳にしながら、オレは机に突っ伏していた。だらしないとか言うなよ。今日は本当に大変だったんだから。嗚呼~、きっと今夜のビールは旨いぞぉ。
「終了だ、向井。お疲れさん」
「あー、お疲れ様っす」
ちなみに、あちらさんはこれからもう一仕事ある。うちの会社では、納品物は媒体に落とし込んでそれを手渡しで納品するんだ。今からやるのはその落とし込み作業だ。量が膨大だから、きっと終わる頃には終電も無くなってしまってるだろう。
本来はもう少し日程に余裕があるのが普通だ。オレの部署での検証が終わった数日後、早くても翌々日ってのが通常のスケジュールなんだ。でも今回は理由は知らないけど、かなりタイトな納品スケジュールみたいだ。
とりあえず帰ろう。PCの電源を落とし、スマホを取り出すべくカバンを開けた……ら、昨日買ったバレンタインデーのチョコレートが『お疲れ様~』と顔をのぞかせていた。うん、疲れたよ。折角買ったから、今夜はちゃんと食べてあげよう。ご褒美チョコは本当にご褒美チョコになったみたいだ。
「こんな時間になったから、たまにはメシでも食いに行くか? 奢ってやる」
「えっ、あの……」
「遠慮するな。それともこの後予定でもあるのか?」
「いやいや。帰って寝るだけですよ」
「なら付き合え。さすがにオレも疲れたし腹が空いた」
まあたまにはいっか。上司とは仕事以外ではほとんど話をしたことは無いけど、今日のオレは本当に疲れたし、コンビニ弁当もさすがに嫌気がさしてたから、オレは素直に付いて行くことにした。しかも奢りだしね。ゴチになります!
それでも何とか完了のメドがついたオレは、いつもより一時間くらいは早く会社を出ることができたと思う。やっとだよ。もうメシを作る気もしない。と言うか、忙しくなってからは毎晩コンビニ弁当な晩飯だ。そろそろ弁当生活もうんざりしてたりする。
コンビニのレジ待ちでふと目にしたのは、ラッピングされたプレゼントの山だった。忘れていたが明日はバレンタインデーだ。オレの部署は男しかいないからバレンタインデーとか無縁だが、毎年その日は会社自体が浮足立っているような雰囲気になる。ただしオレにとって今年のバレンタインデーは今やってる仕事の期日って意味しかないけどな。去年までは……と、一瞬考えたそれを慌てて打ち消した。
バレンタインデーは一般的には女性が男性に告白する日だと言うことになっている。告白にはチョコレートを添えて。最近は友チョコってのもあるらしい。そう言えばご褒美チョコってのも以前聞いたかもしれない。ならオレが、自分へのご褒美としてチョコを買っても良いんじゃないか? しかも明日は期日だし。頑張った自分にご褒美チョコレート。突発的にそう考えたオレは、弁当と一緒に見かけたチョコレートをレジに出した。
ホクホクとコンビニを出た直後に我に返る。アホらし。何やってんだろう。ご褒美って何のご褒美だよ。温めてもらった弁当とは別の袋に入れられたそのチョコは、そのままカバンの中に放り込んだ。空しいだけだ。
翌朝出社したオレは、スマホをしまおうとカバンを開けて思わず顔をしかめてしまった。昨日買ったチョコを入れっぱなしだったのだ。ため息が出た。まあいっか。
「向井、ちょっと良いか?」
缶コーヒーを買って席に着こうとしたオレに、突然上司から声がかかった。まだ始業前だが、何か不備でもあったのだろうか?
「今日が期日の納品物だが、どうなってる?」
「あ、はい。一応終了していて、洩れが無いかの最終確認をする予定です」
「そうか。悪いんだが、急遽納品物が追加になった。あちらさんも徹夜で作成したらしい」
「へっ?」
「今日中に終わらせるぞ。今日は他のメンバーにもサポートに入ってもらう。不備があるところはオレに上げてくれ。即行で直させるから」
「…………」
「返事は?」
「はっ、ハイ!」
ぐへぇ、最悪のバレンタインデーだ。いや、バレンタインデーは関係ないけど。
始業時間になった途端に全員が集められ、今日の緊急作業の話と仕事の割り振りが説明された。メインはオレと上司。他は全員サポートで、書式不備は全てサポートメンバーが修正してくれることになった。オレは検証だ。上司はオレが検証した納品物の再チェックと、提出元部署とのやり取りだ。
「山岸さん。NGファイル四本、フォルダに突っ込みました」
「よし。じゃあここに来て説明してくれ」
気が付けば、上司の席には納品元部署のリーダーがいた。補助椅子に座って、持参したPCで既にNGファイルを開いて見ているところだった。オレは上司とリーダーに不備の説明をし、それから自席で次のチェックを始めた。リーダーが修正した納品物は上司が再確認してくれている。何とか今日中に間に合いそうだ。
「山岸さん、ファイルが一本ありません!」
そろそろ終わりが見えたので、オレと上司の山岸さんを残して全員帰宅してもらった。一部自分の担当で残業してる人もいるけれど、それも極少数だ。フォルダにある納品物を全部チェックし終えて、最後に納品物一覧と照らし合わせたときに一本だけ無いのが発覚した。本来なら最初にチェックしてるハズのこと。イレギュラーだった今日はそれが最後になってしまったのだ。ここに来て痛恨のミス。
「納品物名を教えてくれ。向こうに連絡する」
「ハイ。足りないのは――」
結局、全ての確認が終わったのは夜九時、納品元へ完了返却したのは夜十時だった。
「ふう~……」
上司が納品元部署と電話でやり取りしてるのを耳にしながら、オレは机に突っ伏していた。だらしないとか言うなよ。今日は本当に大変だったんだから。嗚呼~、きっと今夜のビールは旨いぞぉ。
「終了だ、向井。お疲れさん」
「あー、お疲れ様っす」
ちなみに、あちらさんはこれからもう一仕事ある。うちの会社では、納品物は媒体に落とし込んでそれを手渡しで納品するんだ。今からやるのはその落とし込み作業だ。量が膨大だから、きっと終わる頃には終電も無くなってしまってるだろう。
本来はもう少し日程に余裕があるのが普通だ。オレの部署での検証が終わった数日後、早くても翌々日ってのが通常のスケジュールなんだ。でも今回は理由は知らないけど、かなりタイトな納品スケジュールみたいだ。
とりあえず帰ろう。PCの電源を落とし、スマホを取り出すべくカバンを開けた……ら、昨日買ったバレンタインデーのチョコレートが『お疲れ様~』と顔をのぞかせていた。うん、疲れたよ。折角買ったから、今夜はちゃんと食べてあげよう。ご褒美チョコは本当にご褒美チョコになったみたいだ。
「こんな時間になったから、たまにはメシでも食いに行くか? 奢ってやる」
「えっ、あの……」
「遠慮するな。それともこの後予定でもあるのか?」
「いやいや。帰って寝るだけですよ」
「なら付き合え。さすがにオレも疲れたし腹が空いた」
まあたまにはいっか。上司とは仕事以外ではほとんど話をしたことは無いけど、今日のオレは本当に疲れたし、コンビニ弁当もさすがに嫌気がさしてたから、オレは素直に付いて行くことにした。しかも奢りだしね。ゴチになります!
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