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38「審議終了」

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「ではでは、次はエレン様の参考人ですが……」

そんなもん、聞いてないんだから用意してる訳ないだろ。くそっ、まんまと嵌められた。

「おや~、どうやら参考人をご用意していらっしゃらないようですね。それでは審議長! さっそく審議に入っても宜しいですか?」
「そうだね……エレン君がこれ以上言う事がないようなら仕方ないかな」

レグルスさんは本当にこれで良いのかと、鋭い視線をぶつけてくる。良い訳ない。参考人なら、ちょうど良いのがいるしな。

「俺も参考人を立てても宜しいでしょうか」
「いやいや、エレン様は参考人をご用意していないのですよ? 一体なにを――」

「参考人ならいます!」
「はっ、苦し紛れにも程がありますよ? もうこれ以上、足掻くのはみっともないと思いませんか?」

「俺の参考人は……バッカスさん! あなたに立ってもらいます!」
「はっ!? 俺が……?」

俺がビシッと、指を向けると、バッカスは豆鉄砲を食らったような顔をしていた。そう、そのアホ面を晒してるお前だよ。

「そ、そんな事を認める訳ないでしょう!」
「いや、別にダメな理由はないと思うが?」

ジュマンが却下しようとしている所に、レグルスさんが横やりを入れる。

「へ? い、いや! 申し立てをした本人を参考人など過去に例が!」
「例がないだけで、ダメとは決まっていないが?」

「そ、そうなのですか!?」
「そんな事も調べていないのか君は。すまないねエレン君。バッカスさんを参考人とする事を認める。そして、バッカスさん。これを断るという事は、聞かれては困る事があると示しているようなものだ。それを踏まえて、どうしますか?」
「ぐっ、分かった……参考人でもなんでもやってやらぁっ!」

レグルスさんの後押しを得て、俺は最後の、そして最大のチャンスを貰った。

前例がなく、計画にない事に焦るバッカスとジュマン。
その焦った顔を、更にひきつらせてやる。

「では、バッカスさん……あなたはメンバーの報酬をどうやって決めていますか?」
「あ? そりゃあ、強さに決まってんだろ」

「強さの定義はなんですか?」
「ランクの高いクエストをこなし、高い報酬を貰ってくる奴の事だ」

「それが出来れば、報酬が上がっていくと」
「ああ、それがどうした」

「では、コツコツ稼ぐ安全重視のC級冒険者と、同じ額を一瞬で稼ぐが危険なクエストばかりこなすB級冒険者なら、どっちの評価が高いですか?」
「はっ、そんなのB級冒険者に決まってんだろ」

「何故です? ランクが高いから?」
「そうだよ! ランクが高いからだ!」

「ですが、危険なクエストばかり受けているといつ死んでもおかしくないですよね?」
「それが冒険者ってもんだ」

「そうですか。では、俺が雑用係の時は別の評価方法でしたよね。何故です?」
「何故って、お前に任してたからだろ!」

「そうです。雑用係だった"俺が"任されていたのです。因みに、俺の評価方法はご存知ですか?」
「知らねえよそんなもん!」

「ですよね。俺はバッカスさんと全く別の方法でした。メンバーの性格や能力を考慮し、ランクではなく中身を見て評価を決めていました。書類もバッカスさんに見せていた筈ですが?」
「そ、それはあれだ! お前を信頼してたからだ!」

「ほう、信頼。では、信頼していたから、パーティー組みも装備の管理も経理さえも俺にやらせていた。そういう事ですね」
「そ、そうだが」

「では何故、信頼していた俺の報酬だけは上げてくれなかったのですか?」
「は? 雑用係の仕事なんざ、評価に値しねえだろ! 冒険者は冒険してなんぼだ!」

「成る程。その評価に値しない仕事も、ろくにこなせないリーダーに愛想をつかせても仕方ないですよね」
「なんだと! 喧嘩売ってのかお前!」

「喧嘩など売ってませんよ。俺はただ、ありのままを話しているだけです。俺がいなくなった後、クランの運営はガタガタだと聞きました。武器のメンテナンスもされなくなり、クエストに挑むパーティー組みさえなんの考慮もなく適当な組み合わせだったそうですね」
「だからなんだ! 久しぶりだったから感が戻ってなかっただけだ!」

「感ですか……その感のせいで、未来ある新人が一人亡くなったそうじゃないですか。それが皆が辞めようと思った決定的な出来事だったようです」
「なにを甘っちょろい事を。冒険者になったからには死ぬ時もあると、新人も覚悟してただろうよ」

「なにをぬけぬけとっっ! 新人の子が亡くなったのは……お前のせいだぞバッカス!! 新人には向かないクエストに、単独で行かせるなんて暴挙どの面下げて出来るんだ!!」
「んだとテメエッッ! 生意気な小僧だ面に出ろ!!」
「はいはい、そこまでにしましょうか」

ヒートアップする俺とバッカスの間に入ったのは、それまで黙って聞いていたレグルスギルド長だった。

「バッカスさん。私もその件は気になっていたんです。そこで少し調査した所、その亡くなった新人さんはCランクのクエスト遂行中に命を落としたと聞きました。なぜ入って間もない新人を危険な任務に一人で行かせたのですか?」
「そ、それは……経験を積ませたくてだな」

「経験ね……私が思うに、コストの安い新人でなるべく高い報酬を得たかった。そう思ってしまうのですが」
「それだって立派な運営方法だろうが!」

「死んだら死んだでしょうがないと?」
「ぼ、冒険者とは危険が付き物だろ!」

レグルスさんの追及をなんとか掻い潜ろうとするバッカス。その時だった――

「ふざけてんのかこの野郎」
「ひっっ」

穏和な雰囲気からガラッと変わりだらんとしていた眠そうな目はビキビキに開かれているその表情。まさに鬼。これが歴戦の猛者というやつなのか。この形相と相対する自信は浮かびそうもない……。

「お前のような奴に冒険者を名乗る資格も、クランリーダーを語る資格もない。冒険者資格の剥奪及びクランの解体。そして国外追放だ」
「ま、待ってくれレグルスさん! あいつの不正を暴く審議会だっただろっっ」

「黙れ外道。ああ、後。ジュマン、お前もギルドを解雇及び追放な」
「わ、私もですか!?」

「ああ、お前はこの外道から今回の件で賄賂を貰っていたらしいな。外道の仲間と一緒に仕事など出来るか。これで審議会はお開き。お前らさっさと消え失せろ」
「そ、そんな……」
「なぜ私まで……」

いきなりの急展開に頭がパニックだ……。
これ、俺の不正疑惑は晴れたって事で良いの?

俺がパニックであたふたしている時、会場に慌ててやって来る人影が見えた。

「待たせたなエレン! 最強の助っ人達を連れて来たぞ!」
「おう馬鹿息子! 待たせたな!」
「失礼するぞレグルス。そのエレンは私が目をかけている奴でな。不正などするような奴ではないと証明しよう」

バタバタと入場してきたのは。アクアさんに親っさん。
そして、リリエッタのお父様であるグレイズさんの姿だった。

本当に数時間もしないでグレイズさんを連れてきたアクアさんにはビックリだが、それよりも……。

「す、すいません……なんかもう、一件落着したみたいです……」
「「「えっ?」」」

無駄足をさせてしまった感が強くて申し訳なさで一杯だった……。
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感想 7

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みんなの感想(7件)

紫苑01
2021.03.25 紫苑01
ネタバレ含む
解除
紫苑01
2021.03.21 紫苑01
ネタバレ含む
瑞沢ゆう
2021.03.21 瑞沢ゆう

本人は最大限譲歩したつもりですw

解除
伊予二名
2021.03.21 伊予二名
ネタバレ含む
瑞沢ゆう
2021.03.21 瑞沢ゆう

壊滅はするでしょうね。
地獄か分からんけど……。

解除

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