上 下
33 / 38

33「強すぎて……」

しおりを挟む
降って湧いた幸運により、猛者である竜騎士? のアクアさんを仲間にした後、ついでとばかりにクエストに同行して貰う事にした。

町の門を出て東に向かうと、目的の村へ着く。
今はお昼前ぐらいだから、夕方には着くかな? という距離だ。

馬車や馬を借りても良かったんだが、どうせなら道中で出現するモンスターを退治して経験値を得たいので、歩きで行こうと思う。

そう思い俺とマッドが歩き出すと、アクアさんは立ち止まったまま首を傾げていた。

「どうしたんですか?」
「いや、もしかして歩いて行くのか?」

「まあ、道中のモンスターも退治して討伐報酬も欲しいんで……」
「だったら、もっと効率良く行こう。ちょっと待ってな――」

アクアさんはそう言うと、指を輪っかにして口元へ持っていき口笛を吹き出した。

なにをしているんだ? そう思ったのも束の間――

「ピィーッ!」

鳴き声を上げながら何かがやって来た。

「おう来たな! よしよしっ」
「ピィ~ッ♪」

アクアさんの体へ嬉しそうに体を擦りつけるのは、臆病で有名な走竜と言われるモンスターだった。

「俺、野生の走竜見たの初めてっす!」
「俺もだよ……まさか呼んで来るとはね……」
「口笛吹けばすぐだぞ?」

いやいや、口笛鳴らしたぐらいじゃ来ないですからっ……一体何者なんだこの人?

「どれ、後二体も呼んでやる――」

アクアさんがまた口笛を吹くと、どこからともなく二体の走竜が現れる。

「よしよし。じゃあ、これに乗って行くか!」

当たり前のように走竜へ跨がり、俺達に早くしろと促すアクアさん。そんな事言われても、走竜なんて乗った事ないしな……。

「手綱もないのにどうやって進むんですか?」

俺の当然の疑問に、マッドも同意するように頷いている。

「行きたい方向を指図すれば良い。コイツらは頭が良いからそれだけで進むぞ?」

本当かよ……とりあえず、言われるまま走竜へ跨がってみる。お、意外と座り心地が良いな。

しかしだ、やはり手綱が無いとフラフラする。これを手綱無しで乗るには、相当な体幹が必要な気がする。

マッドも同じく走竜へ跨がってみたが、やはり掴まる所がないから安定しないようだ。

「進めっす――うああっ!」

案の定落ちるマッド。俺も真似して進めと命令してみたが、走竜が進むと同時に振り落とされてしまった。

「いつつっ……難しいですアクアさん……」
「情けないぞお前達。よし、コイツらを乗りこなせるまで練習だな」

「手綱買ってくるっす……」
「走竜に手綱なんぞ付けたら暴れて話にならんぞ? 諦めて乗りこなす練習をしろ」

走竜に乗りながら腕を組み、落ちた俺達を見下げるアクアさん。どうやら拒否権はないようだ……。

それからクエストは一時中断して、走竜に乗って走る練習をするはめに。俺は盾を背中に担いでるから、中々バランスを取るのに苦戦していた。

数時間後。

根気よく練習に励んだ俺達は、なんとか走竜に乗ってもある程度のスピードなら落ちずに乗る事に成功していた。

「やりましたよアクアさん!」
「俺も乗れてるっす!」
「よし、なら行くか! コイツらなら狭い所でも進めるから馬なんぞよりよっぽど役に立つぞ。モンスターを追っかけるのも簡単だ!」

ああ、それで走竜にしたのか。走竜なら馬よりスピードもあるし、なにより身軽で森の中も駆ける事が出来る。

モンスターを狩りながら進むなら、確かに便利かもしれない。スピードはMAXの半分も出ていないが、なんとか落ちる事なく走竜で走り出した俺達。

クエストの目的地まで途中途中モンスターを倒しながら進み、順調に討伐報酬と経験値を積み上げていく。

「中々筋が良いぞ! 連携もバッチリじゃないか!」
「いや~、そんな事ないっす~」
「まだまだですよ~」

アクアさんに褒められ照れる俺とマット。それから気を良くした俺達は予想以上に奮起してしまい、気付いたらかなりのモンスターと戦っていた。

お陰でレベルはぐんぐん上がり、その副産物で俺とマッドは新たなスキルとバフを獲得する事が出来た。

マッドは【盗む】を覚え、本当にシーフみたいになってきたな。んで俺はというと、【連帯】という不可思議なバフを獲得。

効果は今一分からないが、役立つものだと期待したいところだ。そして、それから数時間後。


夕方になり、ようやくワイバーンによる家畜が襲われるという被害にあっていた村へと到着した。

「ふ~っ! やっと着いたっす!」
「日も落ちて来たし、本番のクエストまで村に滞在して情報を集めよう」

村に着いた俺達は、クエストを依頼した村長の所に行き、クエストについて詳しく聞く事にした。

走竜に乗る俺達を怪訝な表情で見る村人に挨拶をしながら村長宅へ向かっていると、突然警戒を知らせる鐘が村に響き渡る。

「東の空からワイバーンが二体やって来たぞーっ! みんな家畜を隠すんだ!!」

注意を促す叫び通り、東の空から翼を羽ばたかせたワイバーンが二体やって来ているのが見えた。

「着いたと同時に本番か……」
「どういう戦法で行くっすか?」

「そうだな……家畜を狙って下降してきたとこに俺がシールドバッシュで攻撃してバランスを崩し、下に落ちたところをマッドが攻撃って感じかな。そこでトドメを刺さなくても良いから、翼を狙って飛び立てないようにしよう」
「了解っす!」

戦法が決まった所で走竜から一旦降りた俺達は、いつでも戦えるように身構えていた。

「亜種が調子に乗りおって。王は何をしている……」

そんな時、後ろで上空を見ていたアクアさんがボソッと呟く。なんだか少し怒っている感じ。不思議に思い、どうしたのかとアクアさんへ訪ねようと瞬間――

「ぎいいぃぃっっ!!」

上空で旋回していたワイバーンの一体が苦しそうな叫びを上げ、突然生気を無くしたように落下を始める。そしてその体の上には、アクアさんがハルバートを突き刺している姿が目に入っていた。

その後、続けざまに二体目のワイバーンに飛び移り、さきほどと同様にハルバートを突き刺して討伐を終えてしまった。

「強すぎっす……」
「これが竜騎士の実力……」

ここまで俺達の後ろで戦闘を見守っていた事もあり、突然の行動に驚くしかなかった。

何故急に怒り出してしまったのか。そして、俺達の練習相手を、急に奪わないで欲しかった……。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

その聖女は身分を捨てた

メカ喜楽直人
ファンタジー
ある日突然、この世界各地に無数のダンジョンが出来たのは今から18年前のことだった。 その日から、この世界には魔物が溢れるようになり人々は武器を揃え戦うことを覚えた。しかし年を追うごとに魔獣の種類は増え続け武器を持っている程度では倒せなくなっていく。 そんな時、神からの掲示によりひとりの少女が探し出される。 魔獣を退ける結界を作り出せるその少女は、自国のみならず各国から請われ結界を貼り廻らせる旅にでる。 こうして少女の活躍により、世界に平和が取り戻された。 これは、平和を取り戻した後のお話である。

黙示録戦争後に残された世界でたった一人冷凍睡眠から蘇ったオレが超科学のチート人工知能の超美女とともに文芸復興を目指す物語。

あっちゅまん
ファンタジー
黙示録の最終戦争は実際に起きてしまった……そして、人類は一度滅亡した。 だが、もう一度世界は創生され、新しい魔法文明が栄えた世界となっていた。 ところが、そんな中、冷凍睡眠されていたオレはなんと蘇生されてしまったのだ。 オレを目覚めさせた超絶ボディの超科学の人工頭脳の超美女と、オレの飼っていた粘菌が超進化したメイドと、同じく飼っていたペットの超進化したフクロウの紳士と、コレクションのフィギュアが生命を宿した双子の女子高生アンドロイドとともに、魔力がないのに元の世界の科学力を使って、マンガ・アニメを蘇らせ、この世界でも流行させるために頑張る話。 そして、そのついでに、街をどんどん発展させて建国して、いつのまにか世界にめちゃくちゃ影響力のある存在になっていく物語です。 【黙示録戦争後に残された世界観及び設定集】も別にアップしています。 よければ参考にしてください。

【追放29回からの最強宣言!!】ギルドで『便利屋』と呼ばれている私。~嫌われ者同士パーティーを組んだら、なぜか最強無敵になれました~

夕姫
ファンタジー
【私は『最強無敵』のギルド冒険者の超絶美少女だから!】 「エルン。悪いがこれ以上お前とは一緒にいることはできない。今日限りでこのパーティーから抜けてもらう。」 またか…… ギルドに所属しているパーティーからいきなり追放されてしまったエルン=アクセルロッドは、何の優れた能力も持たず、ただ何でもできるという事から、ギルドのランクのブロンズからシルバーへパーティーを昇格させるための【便利屋】と呼ばれ、周りからは無能の底辺扱いの嫌われ者だった。 そして今日も当たり前のようにパーティーを追放される。エルンは今まで29回の追放を受けており次にパーティーを追放されるか、シルバーランクに昇格するまでに依頼の失敗をするとギルドをクビになることに。 ギルドの受付嬢ルナレットからの提案で同じギルドに所属する、パーティーを組めば必ず不幸になると言われている【死神】と呼ばれているギルドで嫌われている男ブレイドとパーティーを組むことになるのだが……。 そしてそんな【便利屋】と呼ばれていた、エルンには本人も知らない、ある意味無敵で最強のスキルがあったのだ! この物語は29回の追放から這い上がり『最強無敵』になった少女の最強の物語である。

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

外れスキル【観察記録】のせいで幼馴染に婚約破棄されたけど、最強能力と判明したので成りあがる

ファンタスティック小説家
ファンタジー
 モンスター使役学を100年単位で進めたとされる偉大な怪物学者の孫アルバート・アダンは″天才″と呼ばれていた。将来を有望な魔術師として見込まれ、大貴族で幼馴染の可憐なる令嬢を許嫁としていた。  しかし、おおくの魔術師に期待されていたアルバートは【観察記録】という、「動物の生態を詳しく観察する」だけの極めて用途の少ない″外れスキル″を先代から受け継いでしまう。それにより周囲の評価は一変した。 「もうアダン家から実績は見込めない」 「二代続いて無能が生まれた」 「劣等な血に価値はない」  アルバートは幼馴染との婚約も無かったことにされ、さらに神秘研究における最高権威:魔術協会からも追放されてしまう。こうして魔術家アダンは、力をうしない没落と破滅の運命をたどることになった。  ──だがこの時、誰も気がついていなかった。アルバートの【観察記録】は故人の残した最強スキルだということを。【観察記録】の秘められた可能性に気がついたアルバートは、最強の怪物学者としてすさまじい早さで魔術世界を成り上がっていくことになる。

究極妹属性のぼっち少女が神さまから授かった胸キュンアニマルズが最強だった

盛平
ファンタジー
 パティは教会に捨てられた少女。パティは村では珍しい黒い髪と黒い瞳だったため、村人からは忌子といわれ、孤独な生活をおくっていた。この世界では十歳になると、神さまから一つだけ魔法を授かる事ができる。パティは神さまに願った。ずっと側にいてくれる友達をくださいと。  神さまが与えてくれた友達は、犬、猫、インコ、カメだった。友達は魔法でパティのお願いを何でも叶えてくれた。  パティは友達と一緒に冒険の旅に出た。パティの生活環境は激変した。パティは究極の妹属性だったのだ。冒険者協会の美人受付嬢と美女の女剣士が、どっちがパティの姉にふさわしいかケンカするし、永遠の美少女にも気に入られてしまう。  ぼっち少女の愛されまくりな旅が始まる。    

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

前世持ち公爵令嬢のワクワク領地改革! 私、イイ事思いついちゃったぁ~!

Akila
ファンタジー
旧題:前世持ち貧乏公爵令嬢のワクワク領地改革!私、イイ事思いついちゃったぁ〜! 【第2章スタート】【第1章完結約30万字】 王都から馬車で約10日かかる、東北の超田舎街「ロンテーヌ公爵領」。 主人公の公爵令嬢ジェシカ(14歳)は両親の死をきっかけに『異なる世界の記憶』が頭に流れ込む。 それは、54歳主婦の記憶だった。 その前世?の記憶を頼りに、自分の生活をより便利にするため、みんなを巻き込んであーでもないこーでもないと思いつきを次々と形にしていく。はずが。。。 異なる世界の記憶=前世の知識はどこまで通じるのか?知識チート?なのか、はたまたただの雑学なのか。 領地改革とちょっとラブと、友情と、涙と。。。『脱☆貧乏』をスローガンに奮闘する貧乏公爵令嬢のお話です。             1章「ロンテーヌ兄妹」 妹のジェシカが前世あるある知識チートをして領地経営に奮闘します! 2章「魔法使いとストッカー」 ジェシカは貴族学校へ。癖のある?仲間と学校生活を満喫します。乞うご期待。←イマココ  恐らく長編作になるかと思いますが、最後までよろしくお願いします。  <<おいおい、何番煎じだよ!ってごもっとも。しかし、暖かく見守って下さると嬉しいです。>>

処理中です...