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30「親父とお義父さん」

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「で、なにしてんだお前?」

いや、お前が何してんだよ! 今大事な場面だったの!
お父様に娘さんを下さい的な大事なところ!

「ベルードさん。エレン君とはどういったご関係で?」
「ああ、こいつは俺の弟子で馬鹿息子よ!」

グレイズさんの問いに、ガハハと笑いながら答える親っさん。そう言ってくれるのは嬉しいし、ありがたいが、今は余計な事を言わないでと願ってしまう……。

「ふむ、息子ですか……エレン君。そろそろ顔を上げたらどうだ」

グレイズさんの一声で恐る恐る顔を上げ、その表情を伺う。

うん……すっごい睨んでる!!
二倍増しで怖くなってるけどなんで!?

「君は本当に憎い奴だ。私の可愛い娘を奪っただけではなく、尊敬するベルードさんの信頼を勝ち取り、息子扱いされておるとは……つくづく許せんな」

声色は静かだが、確実に怒っていると分かる口調で話すグレイズさん。その横で、親っさんはニヤニヤと俺を見て状況を楽しんでいるようだった。

「まさか、グレイズの娘がリリエッタちゃんとはな! 世間てのは、案外狭いもんだ! ガハハッ」

面白いですか? 俺はまったく笑えませんよ?

親っさんからは見れないかもしれませんが、グレイズさんは終始俺を睨み付けているんですからね。

「そうですな。所でベルードさん……エレン君はどんな青年ですか?」
「あ? こいつは……」

ちょ、止めてよ親っさん!?
今はふざける時じゃないからね?
ちゃんと俺の良いとこだけ伝えて下さい!

「冒険者になって三年も雑用した挙げ句、クビになったどうしようもねえ野郎だ」

終わったー! 俺の印象最悪ー!
なんて事してくれた馬鹿親父っっ!!

なんて思ってたんだが……。

「でもな、その三年間一度だって弱音を聞いた事がねえ。出来ねえ事があれば一生懸命に覚え、怒鳴られたって何度も聞きにくる。そして、それが今になってやっと報われてきたのさ」
「確か、クランを設立したとか」

「ああ、最近になってな。まあ、それもクビになってどうしようも無くなったからだろうが。んで、仲間が出来た。笑って冒険してた昔の俺達みたいな最高の仲間が」
「ふふっ、懐かしいですな……」

そんな事を言われたら……目から汗が出て来ちゃうじゃんかよっっ。

「だからよ……認めてやってくれねえか? 少し優柔不断で意気地無しな所はあるが、クランリーダーになってからは頼り甲斐が出てきたと思う。もし、こいつがリリエッタちゃんを泣かせるような事があれば、俺が責任もってぶち殺してやるからよ……頼むぜグレイズ」
「そうですか……エレン君には、ベルードさんにそこまで言わせる魅力があるんですね。分かりました」

こ、これは……お許しくるか!?

「エレン君」
「は、はい!」

グレイズさんに呼ばれ、背筋をピーンと伸ばしその先の言葉を待つ。これから男の覚悟とやらを説かれ、娘を頼んだぞ的な流れになる筈だ!

「だが、断るっっ!!」
「「えっ……?」」 

俺と親っさんは、グレイズさんの放った予想外の言葉に、呆気に取られていた。

「グレイズ、お前……今のは完全に娘を頼む的な流れじゃねえのか?」

だよね!? 俺もそう思うよ親っさん!

「いやいや、エレン君にはとてもじゃないが娘は渡せませんよ。あの子は、ちょっと変わったジョブの持ち主でね。手に負えなくなって捨てるのが落ちです」
「あ、あの、グレイズさん」

「君にお義父さんと呼ばれる筋合いはないっっ!!」
「いや、呼んでませんけど! 違うんです! リリエッタのジョブは、既に進化して変わっているんです!」

「何を言ってるんだ君は? あのジョブが進化する訳ないだろう。娘は騙せても、私は騙せんぞ!」
「疑うのは分かりますが、リリエッタに聞いてみて下さい! あっ、そうだ! ちょっとお待ち下さい!」

俺はグレイズさんに証拠を見せるべく、とある書類を取りに行く。二階にダッシュで駆け上がり、寝室の棚にしまった書類を持って階段を駆け降りた。

戻った俺を見たグレイズさんの表情が、僅かに焦っていたのを鮮明に覚えている。

「これを見て下さい!」
「これは……」

俺が見せた書類とは、ジョブを確実に証明するジョブ神殿発行の『ジョブ証明証』だ。これを見て貰えば、納得して貰える筈。

「確かに変わっている……だが! あの症状はなくなったのか!? あれが発症するならジョブが変わった所で!」
「安心して下さい。気分が劇的に変化する症状は、ジョブの進化と共に完全に無くなっています!」

スキルに昇華して特定の状況では自己発動する事は出来るが、普段での躁鬱変化はなくなったので、嘘はついてないぞ。

「そんな馬鹿な……」
「ほらな? エレンに任しとけば、リリエッタちゃんは大丈夫だって!」

ありがとう親っさん!
その調子でどんどん押し込んでくれ!

「ダメだダメだ! 平民の冒険者と伯爵令嬢の娘じゃ釣り合わないではないか!」

うっ、それを言われてしまうと反論の余地がない……。
でも、諦めるもんか! 

「いや、お前も元平民の冒険者じゃねえか」
「くっっ……!」

「えっ、そうなんですか!?」
「いや、それは……」
「今さら誤魔化せねえぞ? こいつは元々平民の出でな。昔はヒョヒョロでそりゃ弱かったんだぜ!」

「止めて下さいベルードさん! ぐふっっ!」


必死に口を塞ごうとするグレイズさんの腹に一発入れた親っさんは、ちょっとした昔話を聞かせてくれた――
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