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29「制裁と緊張」
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今俺は、とても緊迫した状況にある。
足は震え、背筋は凍り、緊張で喉はカラカラ。
目の前には、モンスターなどより恐ろしい顔をした男性が俺を睨んでいた。髭を蓄えたダンディーな顔と、逞しい体から放つ覇気は、並々ならぬものを感じる。
「君が、エレン君かね」
「は、はいぃっ!」
緊張で思わず声が裏返る。それを聞いた男性の顔が、更に険しくなっているような気がした。
「娘から話は聞いておる。とても勇敢なようだな?」
「いえ、そんな事は……」
そう、目の前の男性は、リリエッタのお父様であらせられるグレイズ=バルロン伯爵様。
ミシェルちゃんの事を知らせるため、リリエッタ達が故郷へと帰って一週間が過ぎた頃だった。
早馬を駆け、単独で一足先にやって来たグレイズさん。
聞くと、全ての根回しは全て終わらせてきたと言っていた。
「ミシェルちゃんは大丈夫ですか?」
「廃人にされ奴隷となった娘が大丈夫だと思うのか」
最もな事を言われ、ぐうの音も出ない。ダメだこれ。取り繕うように接していては、見破られて捻り潰されるだけだ。
誠意を持って、正直に接するしかない。
それが、俺に出来る唯一の事だ。
「考え足らずで申し訳ありませんでした。何か、俺に出来る事はありますか?」
「何か出来るとでも?」
「泥臭く駆け回る事なら……」
「そうか、なれどその必要はない。既に娘は保護し、家に護送している。他の被害者達も時期に見つかるだろう。手遅れの者もおるがな」
「そう、ですか……それで、あの男はどうなったのですか」
「ふむ、あやつは……」
あの男とは、勿論クズ男(治癒士)の事だ。現在牢屋にぶちこまれ、裁判を待っているクズ男の処遇が気になる所だった。
「全てを吐かせた後、地獄へ送ってやった」
「地獄? 殺したという事ですか?」
「ただ殺すのでは生ぬるい。知っておるか? ゴブリンは男も犯す事を」
「え、いや、初耳です……」
そこから語られたクズ男への制裁内容に絶句してしまった。ある程度想像が出来るとはいえ、改めて聞くとお尻が痛くなって来る。
簡単に説明すると、捕まえたゴブリン達の集団にクズ男を投下し、好きなだけ犯させるらしい。
自殺予防のため口には開口器を嵌め、手は後ろで縛り付けているという。飯は栄養満点のドロドロした液体をチューブで無理やり流し込む。
死刑より恐ろしい罰。これなら、まさに地獄だと、変に納得してしまった。まあ、俺も将来自分の娘が被害にあったとしたら、同じような地獄を加害者に与えたくなるだろう。
「リリエッタはどうしていますか?」
「あの子はミシェルを迎えた後、暫く様子を見てから此方にくると言っていた」
それもそうか。ミシェルちゃんを保護出来た今、冒険者どころではないよな。
というか、ミシェルちゃんを見つける為に冒険者になっただけで、目的が達成された現状、冒険者を続ける意味もないのか?
辞めちゃうのかなリリエッタとサーシャ。
でも、それはそれで仕方がない。
なんと言っても、リリエッタは伯爵令嬢だ。
これ以上、野蛮な世界に身を置く必要はない。
「ところでエレン君」
「な、なんでしょう?」
「君は娘と結婚を前提に付き合ってるそうだが、本気なのかね」
ちょ、リリエッタさんもう言っちゃったの!? そこは、もう少し日を置いてから言って欲しかったです!
どうする俺!? この解答に、全てが懸かっていると言っても過言ではないぞっっ。
「ほ、本気です! 俺はただの冒険者に過ぎませんが、娘さんを愛する気持ちは本物です! リリエッタと俺が釣り合わない事は重々承知ですが、何卒お許しを頂きたく!! その為に、どんな無理難題もこなす所存でありますっっ」
床にダイブ土下座を披露した俺は、頭を下げたままグレイズさんに許しをこう。
数秒待ってもグレイズさんの答えは返って来ない。
滴る汗は、床に溜まっていく一方だった。
恐ろしくて顔も上げられない状況の中、時間だけがどんどん過ぎていく。早くなんか言って下さいっっ!!
そう叫びたくなった時、俺の元に救世主が現れた――
「入るぞ馬鹿たれ~!」
クランハウスへやって来た親っさんのでっかい声。
なんでこんな状況で来るんだよ!?
馬鹿たれはどっちやねん!
「あん? なにしてんだお前? てか、ここにいる客は……」
「ベルードさんではありませんか……」
「お、おおっ! お前グレイズか!?」
「そうです! あのグレイズです!」
「懐かしいな! なにしてんだこんな所で!?」
「いやいや、それはこっちのセリフですよ! ああ、懐かしいですな! 昔の事を鮮明に思い出しました」
「だな! そうだ、酒でも一杯やるか?」
「良いですな! 共に盃を交わし、昔話でもしましょうぞ!」
なんか盛り上がっている親っさんとグレイズさん。
これはあれだ。昔の仲間と再会したパターンだな。
それは良い。それは良いんだが、二人共……俺の事忘れてませんかね?
足は震え、背筋は凍り、緊張で喉はカラカラ。
目の前には、モンスターなどより恐ろしい顔をした男性が俺を睨んでいた。髭を蓄えたダンディーな顔と、逞しい体から放つ覇気は、並々ならぬものを感じる。
「君が、エレン君かね」
「は、はいぃっ!」
緊張で思わず声が裏返る。それを聞いた男性の顔が、更に険しくなっているような気がした。
「娘から話は聞いておる。とても勇敢なようだな?」
「いえ、そんな事は……」
そう、目の前の男性は、リリエッタのお父様であらせられるグレイズ=バルロン伯爵様。
ミシェルちゃんの事を知らせるため、リリエッタ達が故郷へと帰って一週間が過ぎた頃だった。
早馬を駆け、単独で一足先にやって来たグレイズさん。
聞くと、全ての根回しは全て終わらせてきたと言っていた。
「ミシェルちゃんは大丈夫ですか?」
「廃人にされ奴隷となった娘が大丈夫だと思うのか」
最もな事を言われ、ぐうの音も出ない。ダメだこれ。取り繕うように接していては、見破られて捻り潰されるだけだ。
誠意を持って、正直に接するしかない。
それが、俺に出来る唯一の事だ。
「考え足らずで申し訳ありませんでした。何か、俺に出来る事はありますか?」
「何か出来るとでも?」
「泥臭く駆け回る事なら……」
「そうか、なれどその必要はない。既に娘は保護し、家に護送している。他の被害者達も時期に見つかるだろう。手遅れの者もおるがな」
「そう、ですか……それで、あの男はどうなったのですか」
「ふむ、あやつは……」
あの男とは、勿論クズ男(治癒士)の事だ。現在牢屋にぶちこまれ、裁判を待っているクズ男の処遇が気になる所だった。
「全てを吐かせた後、地獄へ送ってやった」
「地獄? 殺したという事ですか?」
「ただ殺すのでは生ぬるい。知っておるか? ゴブリンは男も犯す事を」
「え、いや、初耳です……」
そこから語られたクズ男への制裁内容に絶句してしまった。ある程度想像が出来るとはいえ、改めて聞くとお尻が痛くなって来る。
簡単に説明すると、捕まえたゴブリン達の集団にクズ男を投下し、好きなだけ犯させるらしい。
自殺予防のため口には開口器を嵌め、手は後ろで縛り付けているという。飯は栄養満点のドロドロした液体をチューブで無理やり流し込む。
死刑より恐ろしい罰。これなら、まさに地獄だと、変に納得してしまった。まあ、俺も将来自分の娘が被害にあったとしたら、同じような地獄を加害者に与えたくなるだろう。
「リリエッタはどうしていますか?」
「あの子はミシェルを迎えた後、暫く様子を見てから此方にくると言っていた」
それもそうか。ミシェルちゃんを保護出来た今、冒険者どころではないよな。
というか、ミシェルちゃんを見つける為に冒険者になっただけで、目的が達成された現状、冒険者を続ける意味もないのか?
辞めちゃうのかなリリエッタとサーシャ。
でも、それはそれで仕方がない。
なんと言っても、リリエッタは伯爵令嬢だ。
これ以上、野蛮な世界に身を置く必要はない。
「ところでエレン君」
「な、なんでしょう?」
「君は娘と結婚を前提に付き合ってるそうだが、本気なのかね」
ちょ、リリエッタさんもう言っちゃったの!? そこは、もう少し日を置いてから言って欲しかったです!
どうする俺!? この解答に、全てが懸かっていると言っても過言ではないぞっっ。
「ほ、本気です! 俺はただの冒険者に過ぎませんが、娘さんを愛する気持ちは本物です! リリエッタと俺が釣り合わない事は重々承知ですが、何卒お許しを頂きたく!! その為に、どんな無理難題もこなす所存でありますっっ」
床にダイブ土下座を披露した俺は、頭を下げたままグレイズさんに許しをこう。
数秒待ってもグレイズさんの答えは返って来ない。
滴る汗は、床に溜まっていく一方だった。
恐ろしくて顔も上げられない状況の中、時間だけがどんどん過ぎていく。早くなんか言って下さいっっ!!
そう叫びたくなった時、俺の元に救世主が現れた――
「入るぞ馬鹿たれ~!」
クランハウスへやって来た親っさんのでっかい声。
なんでこんな状況で来るんだよ!?
馬鹿たれはどっちやねん!
「あん? なにしてんだお前? てか、ここにいる客は……」
「ベルードさんではありませんか……」
「お、おおっ! お前グレイズか!?」
「そうです! あのグレイズです!」
「懐かしいな! なにしてんだこんな所で!?」
「いやいや、それはこっちのセリフですよ! ああ、懐かしいですな! 昔の事を鮮明に思い出しました」
「だな! そうだ、酒でも一杯やるか?」
「良いですな! 共に盃を交わし、昔話でもしましょうぞ!」
なんか盛り上がっている親っさんとグレイズさん。
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