クビから始まる英雄伝説~俺は【雑用】から【社長】へ成り上がる~

瑞沢ゆう

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24「決着」

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「左だ!」
「了解っす!」

「右だ!」
「オッケー!」

「後ろに半歩下がって袈裟斬り!」
「畏まりました!」

こんな調子で巨大蜘蛛と戦う事、数十分。相変わらずコンスタントに攻撃出来るのは、リリエッタのみ。

一応、俺もシールドバッシュを飛ばしてみたりしているが、当たる確率は5回に1回程度の20%ほどだ。

それでもコツコツ攻撃を当て、巨大蜘蛛のHPは残り50を切っていた。

「もう少しだみんな! 最後まで油断するなよ!」
「了解っす! リーダー! 俺の水筒も飲んでくれっす!」

マッドの水筒が放物線描き俺の手に収まった。
この中で、唯一SPを消費しているのは俺だけ。

減った分は泉で汲んだ天然ポーションを飲んで回復させていたが、それでも【鷹の目】と【シールドバッシュ】を使っている分でゴリゴリ減っていく。

実はサーシャとリリエッタの水筒も貰っていたする。
正直、膀胱が限界だ。最悪漏らす他ないな。

そんな最悪の事態を想定しながら、戦況は最終局面を迎える。

「リリエッタ! 右に避けてクレイモアごと突き刺せ!」
「わ、分かりました!」

巨大蜘蛛が姿を見せた瞬間に、クレイモアをその体へ突き刺すリリエッタ。

攻撃の手段を捨ててどうする。

そんな疑問が仲間達には浮かんでいるだろうが、俺には考えがあった。

というか、可能性に賭けてしまった。
何故なら、おしっこ我慢出来そうにないから!!

人間というのは、限界が来た時こそ何かを閃くものだ。
脳内で、ドーパミンが弾けたような感覚だった。

「うわっ……剣が空中に刺さってるっす!」
「もしかして自分しか消せないの?」
「成る程……凄いですエレンさん! これで何処に居るか分かります!」

だろ? 俺凄くね? とは言えないが、もの凄いドヤ顔をしていたと思う。

俺の考えた通り【隠密】というスキルは、自分自身しか隠す事が出来ないようだ。人間でいうなら、丸裸の状態にならないと、隠れられないという事。

それを表すように、巨大蜘蛛に刺さっているクレイモアは、剣先から柄までモロ見えだった。

でも良かった。これが、自身に触れているものまで消してしまうスキルだったら半分詰んでた……。

俺は、なんという愚かな賭けをっっ……。
おしっこぐらい漏らしてしまえば良いだろうに!

人間としての尊厳や、クランリーダーとしての威厳は無くなってしまうが、今の仲間達は笑い話にしてくれる筈。

そして一生語り継がれ、糞を漏らしたとされる家康みたいに、脚色された話が広まり笑い者になるのだろう。

無理――それは断じて許せない。

将来子供が出来た時に、お父さんは『小便小僧♪』なんて馬鹿にされたら、立ち直る自信はない。

良かったんだこれでっ!

最悪、女の人だけおぶり、クズ【治療士】だけ置いて逃げるという選択肢もあった。

安全策を残しつつ、大胆な賭に出る。
これこそ、冒険者の醍醐味ってやつよ。

「居場所が分かればこっちのもの! みんな……ガンガンいくぜっっ!!」

攻撃の術を無くしてしまったリリエッタを除いた俺達は、居場所が丸分かりの巨大蜘蛛に向かって、全集中で攻撃の雨を浴びせる。

素早い動きで避ける巨大蜘蛛だが、当たる確率が格段に上がった今は、HPがガンガン減っていく。

そして――

「シールドバッシュッッ!!」
「シューッッッッ……」

巨大な図体が地面に落ち、仰向けで泡を吹きながら絶命するビックスパイダー。

最後の一撃を当て、なんとか撃破する事が出来た。
ごめんねみんな……経験値奪っちゃって……。

もう凄いのなんのっっ。大きな経験値が入って、レベルアップしたのが手に取るように感じるの。

それで自分のステータスを確認したら、ビックリ仰天。
ジョブが進化してるではありませんかっっ。

「やったっす!」
「キツかった~!」
「皆さんご苦労様でした!」

みんな本当に良くやってくれたよ。
俺のジョブはとりあえず後回しだ。
頑張ったみんなに、労いの言葉をかけないと。

「みんな良くやった! この分は、ボーナスとして月給に上乗せしとくからな!」

そう言葉をかけると、みんな大喜びだった。
やっぱり"ボーナス"って言葉は魔法だよね。
でだ、後は片付けないといけない事がある。

「大丈夫かラヴィ」
「うん……ありがとう。エレンって、こんなに頼りになる人だったんだね……」

何かを思い出すように俯くラヴィ。そんなラヴィに、俺は何故あんな奴らのクランに入ってしまったのか、詳しく聞き出す事にした。

その結果分かったのは、クズ男(治療士)の下劣で非道な行いだった。

「クランを追い出され、どうすれば良いか分からなかった私は、ギルドでメンバー募集の掲示板をボーッと、眺めていたの。そんな時だった……あいつが声を掛けてきたのは――」
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