上 下
15 / 38

15「元カノ×今カノ」

しおりを挟む
リリエッタの調子が悪いので、今日はみんな休息を取る事にした。

折角なので前世の料理で作れそうなのをピックアップし、みんなにご馳走しようと思う。

「これなんか良さそうだ」
「まとめて買ってくれれば安くしとくよ!」

市場に買い出しに来て、お目当ての物を買って行く。
ガヤガヤと活気に満ちた市場。
肉に野菜に魚など、大抵の物が揃っている。

「さて、目当ての物も買えたし帰るか」
「エレン?」

市場を出て帰ろうと思った時、ふいに誰かに声をかけられた。後ろを振り返ると、そこには元恋人のラヴィの姿があった。

「ラヴィ……」
「元気だった?」

今さらなんだ? あんな酷い振り方しといて、良く声なんてかけられるな。

そう思うと、苛立ちを覚えた。でも、なんだか覇気のない顔をしていたのが少し気になってしまったのが、なんか悔しい。


「まあね。そっちは順調なの? 新しい彼と」

ちょっと嫌味っぽい言い方をしてしまい、自分が女々しくて嫌になる。

「う、うん……振られちゃった」
「え? な、なんで」

振られた? こんなに早く?
ああ、だから元気がなかったのか。

「他にも女が沢山いたみたい……私、馬鹿だよね。ちょっとちやほやされたからって、大事な人を裏切って。挙げ句に同じように浮気されて振られるとか……ごめんね、エレン」

そう言って、ラヴィは泣いていた。
可哀想だとは思うが、慰める気なんて毛頭ない。
自業自得だよな?

「しかもね、クランもクビになっちゃった……」
「は? なんだよそれ……」

そこからラヴィは、ポツポツと事情を話し出した。

俺から恋人を寝取ったクズ男は、ラヴィだけではなくクランにいた女性の殆どと関係を持っていたようだ。

それで揉め事になり、クズ男含め関係を持っていた女性達も追放処分となってしまったんだと。

次のクランを探す気力もなく、フラフラとしていたら俺に会ったという訳だ。

「どの面下げてって思うかもしれないけど、一言謝りたくて……本当に、ごめんなさい」

別に謝られてもな。
気持ちは全然スッキリしない。
俺だって、言いたい事言ってなかった。

「俺も言っとく事がある」
「な、なに?」

少し身構えるラヴィ。
罵倒の一つや二つを覚悟しているような表情だ。

「ありがとう」
「……え?」

「母さんが亡くなった時も傍にいてくれた。俺が冒険者なるって田舎を飛び出す時も一緒についてきてくれた。辛い時、悲しい時、楽しい時。色んな思い出を本当にありがとう。ラヴィ」
「ううっっ……わだしっ、本当に馬鹿だった! こんなに優しい人を傷付けて捨てるなんて! ごめんなさい……本当にごめんなさいっっ」

泣き崩れるラヴィ。多分、俺と同じように色んな思い出がフラッシュバックしているんだろう。

でも、時は戻せない。
お互いに、前を向いて進まないといけないんだ。

俺は泣き崩れるラヴィに背を向け歩き出した。
もう振り返る事はないんだと、分かって貰うために。


「ただいま」
「あ、お帰りなさい、エレンさん!」

クランハウスに帰ると、リリエッタの暖かくなるような笑顔に出迎えて貰った。

「どうしたんですか? なんか元気ないですよ?」

まったく。女性とはどうしてこんなに敏感なのか。
少しの変化でも気付かれてしまう。

「いや、なんでもないよ」
「ふーん……嘘、下手ですね」

「う、嘘なんか……いや、ごめん。実は……」

気付かれてしまっては仕方ない。
というより、聞いて欲しかったのかもしれない。

事情を正直に話すと、リリエッタは少し不満気な顔をした後、俺を抱きしめてくれた。

「元彼女の話なんて聞きたくなかったです。そして、なんかムカつきます! エレンさんをこんな顔にさせるなんて!」
「リリエッタ……なんかごめんな」

俺がそう謝ると、リリエッタは頬を膨らませて怒っている。だけど、突然唇を合わせてきた。

「ふぇっ……?」
「これはお仕置きです!」

これが? こんな素敵なお仕置きなら、悪い事沢山してしまうな。

「それと、今日の夜もお仕置きですからね?」
「夜も? それって……」

「あ、あの……昨日は覚えてくれてないからっっ」
「そ、それはマジで悪かった!」

「初めてだったんですよ?」
「そ、そうだよな……ごめん」

「もう謝るのなしです。だから……今日が初めてだと思って、抱いてくれませんか?」

な、なんて可愛い事をっっ!
男のツボ、押し過ぎですよリリエッタさん!

「何回でも抱く。毎晩抱く。朝昼晩って抱くわ」
「それは抱き過ぎですっっ! 私壊れちゃう……」

ああ、マジで天使だよリリエッタ。
もう、全部嫌な事ぶっ飛んだ。

「我慢出来ないから今から2階行かない?」
「だーめっ。夜までお預けですよ? その代わり……」

二回目のキスは、深くて甘かった。

本当に今まで彼氏が居なかったのかと思う位、男の転がし方が上手。これが天性の小悪魔というやつか?

リリエッタのためなら、悪い事でも平気でしてしまいそうだ。

「ちょっと~! 玄関でイチャつかないでくれる? そういうのは夜にベッドでどうぞ~」
「不純っす! 悔しいっす!」
「早く飯作れ馬鹿たれ」

どうやらリビングまで聞こえていたみたいだ。
恥ずかしさに耳真っ赤で固まる俺達。

二人顔を見合せ苦笑い。でも、どちらかとともなく軽いキスをして、仲間の元に戻って行く。

そんな、幸せな一時だった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

あなたの冒険者資格は失効しました〜最強パーティが最下級から成り上がるお話

此寺 美津己
ファンタジー
祖国が田舎だってわかってた。 電車もねえ、駅もねえ、騎士さま馬でぐーるぐる。 信号ねえ、あるわけねえ、おらの国には電気がねえ。 そうだ。西へ行こう。 西域の大国、別名冒険者の国ランゴバルドへ、ぼくらはやってきた。迷宮内で知り合った仲間は強者ぞろい。 ここで、ぼくらは名をあげる! ランゴバルドを皮切りに世界中を冒険してまわるんだ。 と、思ってた時期がぼくにもありました…

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

処理中です...