クビから始まる英雄伝説~俺は【雑用】から【社長】へ成り上がる~

瑞沢ゆう

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01「クビになって寝取られ過労死?」

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突然だが、俺には夢がある。

【伝説のS級冒険者】

それが俺の夢だ。
伝説故に、当然おとぎ話だと言われていた。

伝説のS級冒険者が現れたのも、何百年前の話だか分からない。勿論、その伝説を記した読み物は腐るほど残されていた。

俺もそれらの本を読んで憧れた口だ。

ドラゴンに囚われた姫を助け、世界を暗黒に染めようとしていた魔王を打ち倒す。

そんな物語を読んだら、男のロマンがくすぐられて憧れるのもしょうがないだろ?

だから俺は、その夢を追いかけて優秀な冒険者を囲うA級クラン【黄金の槍】に入った。

まさか加入出来るとは思ってもいなかったが、ラッキーだったよ。

なんせ俺は、【雑用】という珍しいだけで使えない"ジョブ"の持ち主だったから……。

この世界では、16になると、神から天職を与えられる。

みんな【戦士】とか【魔法使い】とか、格好いい天職を与えられる中、俺だけ【雑用】だったから当時は死にたくなるほどショックだった。

天職が与えられれば、それに即した"スキル"も身につけていく。

戦士なら高速で敵を突く"疾風突き"だったり、魔法使いなら燃え盛る火炎を放つ"火炎弾"とか。

因みに俺が獲得したのは"同時進行"という二つの事を同時にこなすスキルだった。

だからなのか、クランでは重宝されたよ。
雑用係としてな……。

俺がクランの面接を受かったのも、雑用をさせるためだったらしい。

誰もやりたがらない雑用を押し付ける人員だったのだ。
そして今日も、俺はせっせと雑用をこなしていた。

「エレン! 俺の武器と防具のメンテナンスお願い」
「分かりました!」

「エレン! 今日マッピングしたダンジョンの地図を纏めといてくれ」
「了解です!」

クランメンバーから頼まれた雑用の山。

俺は汗を流しながらも、同時進行のスキルを駆使して効率良く仕事をこなしていた。

夢を追いかけ田舎から上京して早3年。
こんな事を繰り返している内に、もう20歳だ。

今日も考える事を忙殺されるようにひたすら働くのか。
そう思っていた。
クランリーダーに呼び出されるまでは……。


「エレン、お前に払う給料が勿体ない。だから今日でクビな」

まるで悪びれもせず、当然のように言い切る禿げたオッサン。

このオッサンは元A級冒険者でこのクランを立ち上げたリーダーでもある。

筋骨粒々。厳つい顔。ジョブは【モンク】――
当然口答えすればパンチが飛んで来る。

「あ、え? どういう事ですか!?」
「耳無いのかお前? 何度も言わせるな。"クビ"だって言ったんだよ! 大体、雑用しか出来ねえ無能なお前を3年も雇ってやったんだ! 感謝されてえぐらいだよ」

「そ、それは感謝してます……いや、でも、俺が居なくなったら雑用は誰が?」
「最近引退した冒険者のクレアちゃんを雇ったから大丈夫だ。それに、お前に心配される所以はねえ! 分かったら荷物纏めてさっさと出てけ無能!!」

まさに叩き出されてしまった。

口答えもせず、ただ言いなりでやってきた3年の日々は、なんだったんだ……。

途方に暮れながら帰る道。
幼馴染のラヴィに何て説明しよう……。

ラヴィは、田舎から一緒に出てきた恋人で、同じクランに加入している。俺はクビにされたけど……。

使えない俺と比べて、ラヴィは【魔法使い】のジョブ持ちで、仲間から頼りにされていた。

収入も雲泥の差だ。
生活費もラヴィが半分以上出してくれている。

本当に情けない男だ。
クビにされたって言ったら、何て言うかな……。

『大丈夫! エレンならもっと良いところで活躍出来るわよ!』

なんて言って励ましてくれると良いんだけど。

「ただいま~」

家に帰るが誰も居ない。
当たり前か。
ラヴィは今、クエストを遂行してる所だ。

「……はぁ、はぁっ」

ん? 誰かいる?

寝室から誰かの息遣いが聞こえた。
ラヴィ帰って来てるのかな?
もしかしてクエスト中に怪我でも……。

そう思ったら足は勝手に寝室のドアを開けていた。

「大丈夫かラヴィ!?」
「ああんっっ、ブライアン最高ぅっっ」
「ラヴィも最高だよっっ」

あれ?? ん?? どういう事??

「……えっ!? なんでいるのエレンっっ」
「はあ? 帰って来ないって言ってんじゃん」

ベッドの上で裸のラヴィと見知らぬ男。

衝撃の光景に一瞬フリーズしていた俺は、一呼吸置いて理解した。これは浮気現場だと。

「どういう事だよラヴィ! こいつは一体誰だ!?」

裸にシーツを巻いたラヴィを問い詰めた。
男の方はふてぶてしい態度で俺を見ている。

きっと一瞬の気の迷い。俺が不甲斐ないばかりに浮わついた気持ちが出てしまっただけ。

馬鹿な俺は、ただそれだけだと思っていた。
いや、そう思いたかっただけなのかもしれない。

「……私、この人と付き合うから」
「へ?」

何を言っているのか分からなかった。
そんな言葉を、まったく想定していなかったから。

「だから……この人と付き合うって言ってるの! この際だから言うけど、私もう限界なの。稼ぎは少ないし、クランでは雑用とか誰でも出来る事を必死にやっちゃってさ。馬鹿みたい」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「ださいよあんた? ラヴィちゃんもこう言ってる事だし、振られた男はさっさと出て行けよ」

そこからの記憶はあまりない。

数少ない荷物と共に外へ放り出され、あまりのショックに道端に倒れてしまった。

そして、更に最悪な記憶が呼び起こされる。

『おい加藤!! いつになったら頼んだ書類が出来るんだよ!!』
『すいません!』

『加藤、お前ほんと使えないな。今日は終わるまで帰るなよ! あと、タイムカードは定時で切れよ』
『わ、分かりました』

『あ? お前また帰ってねえの? シャワーぐらい浴びろよ! 臭いんだよゴミ!!』
『すいません、すいません』

なんだこの記憶……あ、そうか……俺は……。

ブラック企業でボロ雑巾のように扱われ、過労死した男だったんだ。

沈み行く意識の中、俺は最悪な前世の記憶を思い出していた――
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