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「第三章 カーストなんて破壊します」

21ーそんなの理不尽!

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奇妙な入学式を終えた次の朝。
ガーレスト学園は本格的に始動を始めていた。

各寮から出ていく生徒の表情は、四季折々の季節が如く様々だ。不安気な顔。期待に満ちた顔。キリリとした顔。そしてーー

幸せそうに眠る顔……。

「アリーシャ様! もう行かなければ遅れますよ!」
「師匠、初日から遅刻はまずい」
「んぅぅ……もうそんな時間?」
「はい! 後五分で始業の鐘が鳴ります!」
「え? えぇぇっっ!? なんでもっと早く起こしてくれなかったのよ~!」

エミリーとルークに起こされ飛び起きたアリーシャ。
早く起こしてとは言ったものの、

『明日からは自分で起きるから! もうお姫様気分でいられないしね!』

と、啖呵を切っていたのは自分だった。

(やっぱり明日からはエミリーに起こして貰おう……)

早々に諦めた一日坊主のお姫様。始業までの鐘は残り五分を切り、焦りもヒートアップしていた。

「時間な~いっ! エミリー着替え手伝って!」
「勿論です! というより待ってました!」

最近心の声が駄々漏れのエミリーだが、それを咎める者がいないのが現状だ。

遠く離れたベルゼウス城の侍女仲間達は、エミリーの発言がどんどん過激にならないかと、秘かに心配していた。

「ちょっとエミリ~! どこ触ってんのっっ」
「あー、これは失礼しました! つい間違えてしまって!」

心配はまんまと的中していた。
まるでスケベ親父のようだ。

(声だけも悪くない……)

姫男子とはいえ、さすがに女の子の着替えを覗くなど言語道断。扉の外で待機していたルークは、アリーシャとエミリーの声だけで楽しんでいた。

こっちもこっちで中々だ。

「ぐふぅぅっっ!」
「あっ、ルークごめんね!」

急ぐアリーシャによって急に開けられた扉。見事に後頭部へヒットしたルークは、鼻血を垂らしていた。

勿論、ぶつかったせいではないが。

「遅刻しちゃーうっっ!」 
「アリーシャ様! パンだけでも食べて下さい!」
「朝飯食わねば力が出ない」
「そうね! うん、美味しい!」

パンを咥えて寮を飛び出したアリーシャ達。
この後角を曲がった所で男の子とぶつかるのが定説だ。

「ぐぁぁっっ!!」
「大丈夫ですかアリーシャ様!」
「師匠はぶつかり稽古が好きだね」

計画通りに角を曲がった先で誰かとぶつかり、尻餅を着くアリーシャ。お尻を擦りながら起き上がろうとすると、引っ張られるような感覚を覚えた。

「大丈夫かい?」
「あっ、ミケ君……」
「ミケ殿か! おはよう!」
「おはよう。ミケラン……ミケ」

アリーシャを立ち上がらせたのは、相変わらず毛先がクルクルのケモミミ眼鏡男子のミケだった。

「ごめんねミケ君……でも、どうしてここに? もう始業時間まで時間ないでしょ?」
「こっちこそごめんね。時間がないのは知ってる。だから迎えに行こうと思って。中々来ないから心配だったんだ……」
「そうなんだ……なんかごめんね」
「それはいいから。ほら、早くしないと始まってしまうよ」
「あっ、うん!」

ミケに手を引かれ走り出すアリーシャ。
始業まで後一分を切った所。

学園の門をくぐり、特別科のクラスまで猛ダッシュで向かった。

「ふぅぅー! ギリギリセーフ!」
「危なかったですね……」
「これは中々良い修行だった……」
「間に合って良かったよ……」

なんとか間に合ったアリーシャ達。教室に入ると、アリーシャ達を除く特別科の生徒達は、当たり前だが全員揃っていた。

しかし、後方から入室したアリーシャ達に振り向く者は誰一人いない。緊張したムードに包まれた教室。

それはまるで、お互いの実力を図ろうとする野生の生物が、警戒しつつ睨み合うような空気。それを察したアリーシャ達は、空いている後方の席へとただ黙って座るしかなかった。

(なんかピリピリしてる……こんな感じで皆と仲良く出来るのかな……)

キャハハウフフとはいかないと分かってはいたが、それでも友達の輪は繋いでいきたいと思っていたアリーシャに、新たな障壁が立ち塞がった瞬間だった。

カーンーーカーン。

ちょうど席に座ったタイミングで鳴る始業の鐘。
それと同時に、教室の扉が勢いよく開け放たれた。

「おはよう諸君っっ!! 知っているとは思うが、私が特別科一年担任のアレキサンダーだ!!」

(朝から頭に響く……あれ? そう言えば、先生の片目濁りが無くなってる? もしかして見えてるのかな? まさか、試験の時に私が……いやいや、それはないよね~)

いや、その通りだ。へんてこな呪文で治療してしまったのは間違いなくアリーシャだ。

現に、失明した筈の片目が治り絶好調のアレキサンダーは、気合い十分で教室へ登場。朝から煩いと思った生徒はアリーシャだけではないだろう。

「さて、今日から諸君は栄光あるガーレスト学園! それも特別科で学ぶ訳だ! この科に居るという事は、諸君の能力が特別という事! しかし、自惚れるなっっ!! 言っておくが、特別科を毎年卒業する生徒は10名も居らん! 卒業までに、半分以上の生徒が退学または一般科へ脱落しているという事だ」

聞いてはいたが、改めて聞くと厳しい現実。

それほど厳しい授業なのか。それとも、猛者達が集まる空間だからこそ、喰い合いが始まるのか。それはいずれ分かるとして、友達を作るという空気では無いことは、否応なしに理解出来た。

(私、卒業出来なそう……)

「その事実をしっかりと認識して励め。まあ、脅しはこれぐらいにしてこれからの事について話そう。先に言っておくと、一週間後にレクリエーションを開催する。どんな催しかは秘密だが、楽しみにしておけ」

(やったぁ♪ どんな事するのかな? でも、どんな事でも皆と仲良く出来るチャンスだよね!? 楽しみだな♪)

レクリエーションと聞いて期待に胸溢れるアリーシャ。
しかし忘れている。入学式で行われたゲームがどんなものか。

レクリエーションと言えば聞こえは良いが、この学園が催すイベントなどきな臭い事この上ない。

それを分かってか否か。
教室の雰囲気は更に重たくなっていく。

「なんだ。嬉しくないのかお前達? ふっ、まあ良い。そのレクリエーション前の一週間は、お互いの事を知る機会を作るため自習期間とする。精々親睦を深めろよ? では、さらばだ! 一週間後に会おう!!」

そう言って教室を出ていくアレキサンダー。
一週間自習期間とはまた、放任主義も良いとこだ。

ただ、特別科で普通の授業をするとは考え難い。
自習が開けた時にどんな授業が待っているのか、予想が出来ないのが特別科という所なのかもしれない。

(アレキサンダー先生って少し怖い感じだと思ってたけど、結構良いとこあるかも♪ この自習期間で一人でも仲良くなってみせる!)

ここまで来てまだ楽観的な考えのアリーシャ。そんな考えを、ぶち壊す言葉が出るとは思っていなかった。

「一週間後には誰かが脱落か」
「間違いないわね」
「ふっ、ライバルが減って助かるぜ」

(え、ちょっと待って! なんでそうなるの!? あっ、でも、入学式の時もビンゴゲームで退学者を決めてたよね……私絶対ヤバい! 入学したばかりでもう退学?)

自分の実力が今一把握出来ていないアリーシャは、落ちるならまず自分だろうと考えていた。

だからこそ、

「そんなの……りふじーんんぅぅっっ!!!!」

叫んでしまったのかもしれない。
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