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第五章:そして卒業

秘めていた願い

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*** 3月の終わりころ ***

直美の指揮で、鬼女の卒業式が行われた。
卒業メンバーは、紗耶香と、純一。
直美から壇上に呼ばれ、この日は直美から、感謝の気持ちが言い表された。
「紗耶香、純一、ふたりとも最後まで鬼女のために働いてくれて、ありがとう。」
総長・直美から深々と頭を下げられたことに、壇上のふたりは困惑してしまった。
花束まで準備されており、紗耶香には沙紀から、純一にはユイナから、それぞれ手渡しされた。

紗耶香、純一の順に最後の挨拶を行い、集会は解散となったが、この日は別れを惜しんで、全員がその場に残った。
このときばかりは、階級を超えた交流が行われた。
樹莉から尋ねられる。
「純一、卒業後はお前、どうするんだっけ?」
「はい、東京の電気工事会社に、就職することになりました。」
「へぇー、ここを離れるんだ。寂しいじゃん。」
「あ、ありがとうございます。樹莉さん、もしよろしければ、そのうち遊びにいらしてください。」
「行く行くぅ~。お前、東京をしっかり勉強して、ちゃんと案内しろよ!」
「はい、承知しました。」
卒業だというのに、中1の樹莉に対する敬語は抜けない。が、この方がしっくりする純一であった。
ユイナも話す
「で、紗耶香さんは、どうされるんですか?」
「わたしはねぇ、地元のスポーツクラブに勤めることになったの。」
「そうなんですかぁ。じゃぁ、フィットネスの先生とか?」
「う~ん、その資格を取るために勉強しながら、受付や掃除で仕事するって感じかな。」
「紗耶香さんなら、きっと資格を取れますよ!」
「ありがとう。」
横から沙紀が話し出す。
「紗耶香、でも、それでいいの?」
「え?、なにが?」
「地元に残るって、ことだよね?」
「そう。」
沙紀が、ちょっと笑みを浮かべながら、突っ込み出す。
「お前...、東京に行かなくても、いいのぉ?」
「え?なんでぇ?」
ユイナが乗って来る。
「だって、あの最後の闘いのあとさぁ、純一に寄り添っちゃってて、どうみても怪しかったもん、ねぇ。」
「やだぁ、なんでもないよぉ。ユイナ、お前ちょっと、黙ってろっ!」
赤くなりながら否定する紗耶香の周りで、女子たちで盛り上がっている。
純一は聞いてないふりをしている。

樹莉は純一に問いつづける。
「純一は、鬼女でいちばん、楽しかったことはなに?」
「はい、そうですね...。」
少し考えて、
「あの...。」
「なに?」
「いや、その...。」
「なんだよ?」
樹莉の横にいた彩乃が察して、とつぜん話し出す。彩乃がこんな場面で声を出すのは珍しい。
「純一、ひょっとしてお前...まさか?」
目で純一に合図する。
純一は彩乃の目を見つめ、同じく目で答える。
彩乃は、察して、手で口を隠し、笑い出して大声をだす。
「やっぱお前、そうだったんだぁ~、絶対そうなんだろうって、思ってたよ!」
両脇にいた樹莉と詩織が騒ぎ出す。
「ちょっと彩乃、なに、なに?」
3人でひそひそと、小声で話し、そのあとは3人でてを叩いて大笑いをはじめた。
「なんだぁ~、そうだったんだぁ~。」
「だったら、早くはっきり言えよぉ、純一!」
「怪しいとは思ってたのよ。でも、ほんとにそうだったとは、ねぇ~!」
大盛り上がりする3人の周りに、女子たちが寄って来る。
しかも直美に沙紀までもが、寄って来て、中に加わる。
「なになに?なに盛り上がってんの?」
「総長、こいつですけど...。」
大きな輪でのひそひそ話、その後は全員でふたたび、手を叩きながら大爆笑となった。
「なんだぁ、そっかぁ~、純一、おまえ、やっぱりそうだったのかよぉ~。」
直美がのりのりとなっていた。
紗耶香も口に手を当て、肩を震わせて笑っていた。
純一は、女子たちにすべてを見通され、赤面しながらも快感を感じている。
「でも、ちょっとさぁ、なんでわかったんだよぉ、彩乃?」
「はい、なんども反応を見てたら、こいつ絶対よろこんでるって、察知しました。」
「てか、彩乃の天職、もう決まったね!」
「樹莉だって、あんた、相当なものじゃない!」
「よしっ、卒業式二次会をするぞ!樹莉、三軍に最後に、躾けをしてやれっ!」
「はいっ、わかりました!おらぁ、三軍!躾けてやっから、とっととこっちに来い!」
思わぬ直美の”英断”で、全員で急遽、盛り上がりながらガード下に向かって行った。
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