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第五章:そして卒業
強い信念
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最後の記憶からどれだけ時間が経ったのやらわからず、気が付いた純一は、ガード下の隅で横になっていた。
周りでは、二軍の樹莉や彩乃たちが後片付けをしており、それももうおしまいに近そうだった。
すぐ横で、紗耶香が座っていた。
「気が付いたか?三軍さんよぉ。」
---いったいなんで、自分はここに寝ていたんだろう?
紗耶香が隣で話す。
「お前さぁ、すぅっげぇ、格好悪かったよ。」
最後の記憶では、直美と睨み合い、自分の中で最大限にテンションを上げて、突っ込んで行ったこと。
そのあとは全く記憶がない。
どうも、見ていた紗耶香の話によると...、
純一の突っかかりとともに戦いがはじまった途端、純一を目掛け、直美が飛び膝蹴りを繰り出す。
見事な瞬時の技に周囲が驚くその前に、蹴りは純一の顔面にモロ当たり。
あまりにもまともに決まった見え、純一は真後ろに倒れ、地面に後頭部を打ち付け、そのまま気絶。
開始後、ほんの2秒で勝負がついて終了。
...ということであった。
「お前、ほんと、だっせぇ。」
純一は黙って聞いていた。
「沙紀とわたしの勝負であれだけみんなが感動してたのに、お前、あれはないだろ?みんなしらけちゃってたよ。」
傷だらけの紗耶香は、罵りながらも、いつもの見下したものとは違う顔で、笑っている。
「あ、そうだったんですか...。すみません。」
そこで、二軍女子たちに片付けをさせてしまっていることに気付いた純一。
顔面と後頭部の痛みはきつかったが、さっと立ち上がって紗耶香の前を通り過ぎ、お詫びを入れる。
「申し訳ありませんでした。樹莉さんたちに片付けをさせてしまって。あとはわたしが、やらせていただきます。」
いつもなら、樹莉からビンタの一発くらいもらっていたところだが、
「もうほとんど終わりだから、今日はいいよ。」
そして、こう言い残し、彩乃たちを促して去っていった。
「紗耶香さん、すみません。ここは先に、失礼させていただきます。」
一軍を残して二軍が先に去るなど、通常ならもってのほかの行為である。が、紗耶香は何も言わなかった。
純一と紗耶香だけが、そこに残された。
紗耶香と純一は、その場で少し、話をした。
あれだけの実績も実力も持った直美に、純一が勝てる可能性など、まったくないことはわかっていたこと。
それでも熱くなる自分を感じ、向かって行ったこと。
直美から相手をしてもらえて、正直うれしかったこと。
直美と対峙して雄たけびを叫んだときは、はちきれんばかりのうれしさを感じたこと。
「そして...。」
「なんだよ?」
「入門させていただいて以来、直美さんも沙紀さんも紗耶香さんも、鬼女のみなさん、わたしにとって、とてもすばらしい存在でした。」
「...。」
「言葉の綾で入門し、三軍として嫌な思いもいっぱい経験しました。けど、自分の弱さや至らなさを、いっぱい教えていただけたと思ってます。」
「...。」
「以前は『たかが女』なんて偏見がつよかったですが、実際は、女も男も年上年下なんかも関係なく、自分よりずっと強い信念を持ってる人がいっぱいいることに、気付かされました。それに気付いて、非常に恥ずかしく感じました。」
「...。」
「鬼女のみなさんに、せめてもの感謝を示せればと思って、自分がいつか大暴れしてる姿を見せたいと思ってました。今日はそんな気持ちを総長から受け取ってもらえたような気がして、とても清々しい気持ちです。」
「...。」
「...あっ、すみません!三軍が勝手にいろいろしゃべってしまって、申し訳ありませんでした。」
ちょっとうっかり、調子にのってしゃべり過ぎたことを、反省していた。ずっと黙って聞いている紗耶香から、また殴られはしないかと、心配になっていた。
が、それはなく、紗耶香は口を開き出した。
「純一、お前...。」
「はい。」
「...いや、しっかし今日のお前のやられっぷりは、情けなかったなぁ。」
「高校生活の3年分は、1年女子の総長の蹴り一発にも及ばなかったみたいで、ほんとうに情けないと思ってます。」
「そうだな。」
「はい。」
「...お前は、ほんとうに、情けないよ。こんどわたしが、お前を鍛えてやるよ。」
「はい、ありがとうございます。ぜひご指導、よろしくおねがいします。」
「...いや。」
「はい、なんでしょう?」
「...。」
「...はい?」
「...わたしがお前を、守ってやってもいいぞ。」
「,,,?、えっ?」
紗耶香はそれ以上はなにも言わず、こちらに顔さえ向けず、足早に去っていった。
その後、結局は三軍の純一がいちばん最後の片づけを行って帰路に就くという、いつもと同じ形で1日を終えた。
周りでは、二軍の樹莉や彩乃たちが後片付けをしており、それももうおしまいに近そうだった。
すぐ横で、紗耶香が座っていた。
「気が付いたか?三軍さんよぉ。」
---いったいなんで、自分はここに寝ていたんだろう?
紗耶香が隣で話す。
「お前さぁ、すぅっげぇ、格好悪かったよ。」
最後の記憶では、直美と睨み合い、自分の中で最大限にテンションを上げて、突っ込んで行ったこと。
そのあとは全く記憶がない。
どうも、見ていた紗耶香の話によると...、
純一の突っかかりとともに戦いがはじまった途端、純一を目掛け、直美が飛び膝蹴りを繰り出す。
見事な瞬時の技に周囲が驚くその前に、蹴りは純一の顔面にモロ当たり。
あまりにもまともに決まった見え、純一は真後ろに倒れ、地面に後頭部を打ち付け、そのまま気絶。
開始後、ほんの2秒で勝負がついて終了。
...ということであった。
「お前、ほんと、だっせぇ。」
純一は黙って聞いていた。
「沙紀とわたしの勝負であれだけみんなが感動してたのに、お前、あれはないだろ?みんなしらけちゃってたよ。」
傷だらけの紗耶香は、罵りながらも、いつもの見下したものとは違う顔で、笑っている。
「あ、そうだったんですか...。すみません。」
そこで、二軍女子たちに片付けをさせてしまっていることに気付いた純一。
顔面と後頭部の痛みはきつかったが、さっと立ち上がって紗耶香の前を通り過ぎ、お詫びを入れる。
「申し訳ありませんでした。樹莉さんたちに片付けをさせてしまって。あとはわたしが、やらせていただきます。」
いつもなら、樹莉からビンタの一発くらいもらっていたところだが、
「もうほとんど終わりだから、今日はいいよ。」
そして、こう言い残し、彩乃たちを促して去っていった。
「紗耶香さん、すみません。ここは先に、失礼させていただきます。」
一軍を残して二軍が先に去るなど、通常ならもってのほかの行為である。が、紗耶香は何も言わなかった。
純一と紗耶香だけが、そこに残された。
紗耶香と純一は、その場で少し、話をした。
あれだけの実績も実力も持った直美に、純一が勝てる可能性など、まったくないことはわかっていたこと。
それでも熱くなる自分を感じ、向かって行ったこと。
直美から相手をしてもらえて、正直うれしかったこと。
直美と対峙して雄たけびを叫んだときは、はちきれんばかりのうれしさを感じたこと。
「そして...。」
「なんだよ?」
「入門させていただいて以来、直美さんも沙紀さんも紗耶香さんも、鬼女のみなさん、わたしにとって、とてもすばらしい存在でした。」
「...。」
「言葉の綾で入門し、三軍として嫌な思いもいっぱい経験しました。けど、自分の弱さや至らなさを、いっぱい教えていただけたと思ってます。」
「...。」
「以前は『たかが女』なんて偏見がつよかったですが、実際は、女も男も年上年下なんかも関係なく、自分よりずっと強い信念を持ってる人がいっぱいいることに、気付かされました。それに気付いて、非常に恥ずかしく感じました。」
「...。」
「鬼女のみなさんに、せめてもの感謝を示せればと思って、自分がいつか大暴れしてる姿を見せたいと思ってました。今日はそんな気持ちを総長から受け取ってもらえたような気がして、とても清々しい気持ちです。」
「...。」
「...あっ、すみません!三軍が勝手にいろいろしゃべってしまって、申し訳ありませんでした。」
ちょっとうっかり、調子にのってしゃべり過ぎたことを、反省していた。ずっと黙って聞いている紗耶香から、また殴られはしないかと、心配になっていた。
が、それはなく、紗耶香は口を開き出した。
「純一、お前...。」
「はい。」
「...いや、しっかし今日のお前のやられっぷりは、情けなかったなぁ。」
「高校生活の3年分は、1年女子の総長の蹴り一発にも及ばなかったみたいで、ほんとうに情けないと思ってます。」
「そうだな。」
「はい。」
「...お前は、ほんとうに、情けないよ。こんどわたしが、お前を鍛えてやるよ。」
「はい、ありがとうございます。ぜひご指導、よろしくおねがいします。」
「...いや。」
「はい、なんでしょう?」
「...。」
「...はい?」
「...わたしがお前を、守ってやってもいいぞ。」
「,,,?、えっ?」
紗耶香はそれ以上はなにも言わず、こちらに顔さえ向けず、足早に去っていった。
その後、結局は三軍の純一がいちばん最後の片づけを行って帰路に就くという、いつもと同じ形で1日を終えた。
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