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第三章:純一の成長、鬼女の成長

狂乱の天下獲り

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*** 11月の中ころ ***

このころ、純一が直美の本当の恐ろしさを知った事件が起こった。
そのとき、直美はいつもの集合場所の近くで、チームから少し離れた場所で、電話をかけていた。
話が終わり携帯を切ったとき、急に4人の男から囲まれた。
「よぉ、姉ちゃん、久しぶりじゃん!」
どうも以前、直美が痛めつけた他チーム総長の男が、メンツをつぶされた仕返しのとして、仲間を連れて直美に不意打ちをくらわすためらしい。
睨み合う直美と男たち。直美が正面に気を取られていると見るや、その背後から仲間が木刀で直美を殴る。4人目が隠れていたのだった。
直美の首筋に、激痛が走る。耐えながら、4人を相手に、一人で必死で交戦を始める直美。しかし不意打ちのダメージで、大苦戦を強いられていた。
直美の異変に、買い付け帰りの純一がいち早く気付き、急いで鬼女のメンバーに伝える。それを聞き、木刀を片手に全力走で応戦に向かったのは、沙紀とユイナ。後を追う、鬼女のメンバー。純一も、最後尾から追っていく。
直美をいたぶる男たちは、応援があまりも早く駆けつけてきたのは想定外だったと見え、慌てて4人で、沙紀とユイナの相手をはじめる。
木刀を手にした沙紀とユイナは、半端ない暴れっぷりであった。
「貴様らぁ、汚ねぇぞぉ!ふざけんじゃねぇ!」
直美以外のメンバーは所詮、女だからたいしたことない、とでも思っていたのかもしれない。沙紀とユイナの前に、男たち4人は勢いに押され、明らかに後退ぎみとなる。
たまらず道の反対側から逃げようとしたが、回り道して待ち構えていた紗耶香がいた。紗耶香の木刀も冴えわたり、4人を逃がすことなく、押さえ込んでいる。
その間に、直美が息を整え、立ち上がっていた。見ていた純一は、直美の怒りが頂点に達しているのがわかった。
沙紀たちの前に出てきたが、そのときの、男たちを睨みつける直美の鬼の様な形相。それは後日いつ思い出しても、純一は恐怖を覚えるほどだった。汚い真似をする者は、直美には絶対に許せない。
「おいっ、こらぁぁ!」
怒りに満ちた直美の形相に、4人の男に動揺が見られる。
「沙紀ぃ、ユイナぁ、武器を捨てろ!紗耶香ぁ、お前もだっ!」
鬼女の3人に、先に木刀を捨てさせ、さらに男たちに、じわじわ近づく。
「おめえら、男だったら、武器を捨てて戦え!4人まとめて勝負してやるよ!正々堂々となっ!」
男たちは仕方なさそうに、木刀を捨てた。
「ここじゃ人が来る。こっちに来な!」

ガード下に移動する。純一がさんざん辱めを受けた、あのガード下。
男4人を相手に、直美が1人、ガード下で睨み合っている。
男たちが叫ぶ。
「お前が1人で4人相手にするって言ったんだからな。なにがあっても、覚悟しとけよ!」
直美も叫ぶ。
「勝手にしろぉ!おらぁ、行くぞぉ!」
直美の猛ラッシュ。怒りを込めた拳。一発で目の前の男がぶっ飛んだ。他の男たちもつぎつぎと、直美ひとりで片づけて行く。
ひとりで4人を相手に、圧倒して倒してしまった。
ところが、ここで終わらなかったのが、この日の怒った直美であった。狂ったかの如く、奇声を上げながら、容赦なく、倒れた男4人をかわるがわる無理やり握り起こして、殴り蹴る。怒りが収まるまで殴りつづけるのであろうが、一向に勢いが収まる気配がない。
直美のあまりもの強さに惹かれ、男たちがやられる様を楽しそうに眺めていた鬼女メンバーたちだが、次第に異様な雰囲気を感じはじめる。
さすがに心配はじめた沙紀が、指示を出す。
「やばいぞ。わたしとユイナと紗耶香で、直美を止めよう。純一、お前はすぐに救急車を呼んで来い!あとのみんなは、あの4人を別な場所に運べ。ここに救急車が来られたらまずい。」
全員が副総長の指示通りに動く。沙紀とユイナと紗耶香は、暴れ続ける直美を必死で押さえ付ける。
「お前ら、どけぇ、おらぁ!お前らもこんな目にあわされたいのかよぉ!」
動きを止められながらも、直美の狂乱ぶりは、なかなか止まらない。
他の女子たちは、男4人の身体を持ち上げ、沙紀の指示で、少し離れた川べりに移動させる。血だらけで苦しみ動けなくなった、重たい男の身体を、女子たちが協力して運んだ。特攻服の下の白いさらしが、すっかり赤く染まってしまったものもいた。
直美一人で、4人をここまで痛めつけたことで、改めて直美の強さを実感する。
純一は救急車を呼ぶ。4人が倒れていることだけを伝える。
けがをした理由までは答えない。
男たちも最後のプライドで、女一人に男4人がここまでやられたいきさつを、警察などには伝えないことは、容易に想像できた。
こうしてその日は、なんとか収めることができたのであった。

次の集会、、落ち着いた直美は、冒頭であの日の自分の狂乱ぶりについて、メンバーにきちんと詫びた。
「みんな、あの日はごめんなさい。総長としてあそこまで乱してしまったこと、反省してます。」
深々と頭を下げる直美の姿に、メンバーはそのカリスマ性を改めて感じたのであった。

あの直美への襲撃失敗の事件は、瞬く間に不良たちの噂となった。不意打ちを仕掛けてきた4人の男を、直美が1人で返り討ちにし病院送りにした事実は、とてつもなく大きなインパクトであった。
すでに鬼女の勢力はかなり大きなものとなっていたが、あまりもの直美の強さと恐ろしさに、かなりのものたちが大きな警戒を抱くようになったのだった。
鬼女の活動を阻もうとする者たちも、激減してしまった。内心、直美を恐れ、余計な張り合いとなることを避けてのものと思われる。実質的に、鬼女および高1女子の直美が、この地域のほぼ天下を獲った形となった。
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