上 下
9 / 17
第三章:純一の成長、鬼女の成長

自分を超えることを考えろ

しおりを挟む
*** 9月終わりころ ***

三軍の純一はそのとき、紗耶香から感化され、二軍への昇格を画策はじめていた。
さすがに二軍の中学女子なら、簡単に勝てそうなのはいっぱいいる。いつも足蹴にされている女子に対し、うまく喧嘩に持ち込む理由を作りタイマンに持ち込めば、自分も二軍に昇格できるかもしれない。すると、この境遇も改善するかもしれない。
そう思い、ターゲットとして、二軍の中2、彩乃を据えた。彩乃は、(あくまで)鬼女の中では比較的、おとなしい性格であった。
数日にかけ、小さな粗相を繰り返し、ついに彩乃を怒らせることに成功した。
罵り出す彩乃に対し
「なんだぁ、こらぁ、三軍だからって、人をなめるのもいい加減にしろよぉ、おらぁ!」
鬼女の中で、初めて腹から声を出して挑発する。彩乃は階級の差に油断していたらしく、急に男から受ける罵声に、目が若干こわがっていたのが受け取れた。
---よし、これでタイマンに持ち込んで、彩乃をコテンパンに倒せば、二軍への道が拓かれる。
しかし、見ていた直美から、思わぬ言葉をかけられた。
「おい純一、お前、ちょっと待て!」
直美からの言葉は、ドキッとする。
「たいして因縁もない彩乃をふっかけて、ただ勝って昇格したいだけなんだろ?わかってんだよ」
直美はすべてお見通しであった。直美を前に反抗する勇気はなく、黙ってしまう。
「やっぱ、なっさけねぇ男だなぁ、お前はほんとに。」
あきれ顔の直美。言葉をなくす純一。
しかし、また殴られるかと思ったが、直美は意外にも、チャンスをくれたのだった。
「そんなに三軍から逃れたいんだったら、ちょっとやらせてやるよ」
そして、ユイナを呼び出す。
「ユイナ、おまえ、純一の相手をしてやりな!」
ユイナはなにも言わずに立ち上がり、純一の前に来て睨みつけてきた。どうも準備は整えていたようだ。直美から予め、この展開を伝えられていたと思われる。
ユイナと純一が、睨み合う。もしここで、一軍候補と言われているユイナに勝ったら、当然昇格が期待できる。気合いが湧いてきていた。

場所を移動し、ユイナとの闘いがはじまった。
組み合い、中3女子と高3男子の地力の差を利用し、力で追い詰めようとした。入門したころよりも、ユイナは力強さがだいぶ備わっているように感じたが、それでも押しまくって追いつめた。ユイナが、しゃがみ込みはじめた。
---ほら、所詮は年下女、男のパワーには耐えられないもんだ。
勝ちが見えたと思ったが、それは大間違いであった。
しゃがんでいだユイナは、上から攻撃を加えようとした純一に対し、真下から突き上げるように、右ひざで強烈な金的を見舞ったのだった。
激痛が走った純一は、言葉にならない苦しみの声。
「うぐぐぐわぁぁ」
顔は青ざめ、股間を両手で押さえ倒れ込む。足をばたばたさせる。急激に吐き気に襲われる。
---忘れていた...。本気のタイマンでは、反則など、ないのだった。
痛みが強過ぎて、もう動けない。このまま馬乗りにされ、ユイナから無数の拳を浴びせられることを、覚悟した。
しかし、仲間うちの争いでは、そこまでダメージを負わせることはさせず、勝負がついたところでおしまいとされた。
実力差を見せつけたような、当然のような勝ちっぷりのユイナ。順調な成長ぶりに、周囲から拍手を得て、そのまま元の位置に座った。
いまだ倒れて藻掻いている純一の頭の上で、直美がしゃべる。
「純一、わかったろ。いまのお前の実力は、こんなもんなんだよ。」
悔しいが、ユイナにも見事に負けてしまった以上、三軍に留まるしかない。
「だいたいだなぁ」
直美がつづける。
「お前、昇格したいってのはわかるけど、なんで勝てる相手なんか選んでんだよ!」
---...!
「強いやつに挑まなくて、どうすんだよ。ちっとは、自分を超えることを考えろってんだよ、こらぁ!」
未だ転がる純一の背中に、重たい蹴りを一発入れ、そのまま背を向けて去った。

---自分を超えることを考えろ...
その日の活動後、掃除をしながら、直美の言葉が純一の心に痛く染みていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

M性に目覚めた若かりしころの思い出

なかたにりえ
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。 一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

アレンジ可シチュボ等のフリー台本集77選

上津英
大衆娯楽
シチュエーションボイス等のフリー台本集です。女性向けで書いていますが、男性向けでの使用も可です。 一人用の短い恋愛系中心。 【利用規約】 ・一人称・語尾・方言・男女逆転などのアレンジはご自由に。 ・シチュボ以外にもASMR・ボイスドラマ・朗読・配信・声劇にどうぞお使いください。 ・個人の使用報告は不要ですが、クレジットの表記はお願い致します。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...