[レディース軍団・鬼女]三軍・高橋純一

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第三章:純一の成長、鬼女の成長

同級生の紗耶香

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*** 9月の中頃 ***

さて、気の強い女子たちが集まる集団にあって、メンバー間の争いもしばしば発生した。
ある時はユイナに対して樹莉が、またある時は沙友里に対して詩織が、いざこざが戦いに発展する場面があった。
戦いぶりを見て、直美が昇格・降格の判断を下すことも多かったため、特に上位階級昇格を目指しギラギラする女たちの、下剋上的な野心は、すごかった。
ただし、勝負がついて終われば、決まって潔く健闘をたたえ合っていた。
樹莉を倒したユイナは、樹莉の負けん気の強さを再三讃えていた。
沙友里に敗れ大けがを負った詩織を、沙友里はたいそう心配して労わってやっていた。
純一は、女子たちが争いを通じ、自分の意思を遠慮なく出し合い、これを重ねながらチームの成長している印象を受けていた。女の集団の中の清々しさに、惹かれはじめているのかもしれない。

しかし、少し違う印象を受けたのが、一軍の紗耶香が、副総長・沙紀に挑んでいったこともあった。
このとき、高3の鬼女メンバーは既に紗耶香のみ。年上の意地として、張っているように見えた。終始互角にやりあった二人、攻めては返され、攻められては返しで長い攻防が行われ、両者決め手を出し切れない。
最後は直美の
「もういいだろ」
の一言で終了。ガッチリと握手し終わっていたものの、最後まで睨み合いがつづいていた。
純一は感じ取っていた。
---紗耶香の闘志が、冷めてない...。




*** 9月の終わりころ ***

集会が終わり、女子たち全員が帰り、純一だけ後片付けで残っている。
最後の掃除がほぼ終えたころ、急に紗耶香が戻ってきた。
「純一、まだいたのか。」
「あれ?は、はい、紗耶香さん。」
突然の一軍メンバーの紗耶香が現れ、緊張が走る。同級生女子と言えど、階級がずっと上の紗耶香に対し、粗相があってはならない。
「どうかされましたか?」
「ちょっと忘れ物。」
忘れ物をまとめているところから自分のものを探し出し、すぐに去るものかと思ったら、思わず声をかけてきた。
「入ってから3か月くらいたったけど、鬼女のメンバーとして、お前どんな感じだ?」
これまで、買ってきたタバコを渡すときくらいしか接触がなかった紗耶香からの、急な問いかけ。相手にしてもらえるとは思わず、いちだんと緊張が走る。姿勢を正し、正面を向いて、敬語で答える。
「はい、いつも働かせていただいて、うれしく思います。鬼女のみなさんに、いつも感謝しています。
紗耶香はちょっとあきれ顔で笑いながら答える。
「お前、だれもいないんだから、今はそこまで緊張しなくてもいいよ。同級生だろ?」
いつもと違い軟化した紗耶香の応対に、うれしくなるが、すっかり身に着いた三軍意識は、すぐにとれるはずがない。
「はい、紗耶香さん、ありがとうございます。」
深々と頭を下げると、紗耶香は再び苦笑いを見せた。
今がチャンスかもと思い、前々から紗耶香に聞きたかったこと、思い切って聞いてみることとした。
気に障ってしまって殴られてしまっても、慣れてるからいいか。
「あの、紗耶香さん、失礼いたします。ひとつ、お伺いしてもよろしいでしょうか?」
丁寧に、丁寧に。
「あぁん?なんだよ、急に。」
「紗耶香さんは、どういう背景で、鬼女に加入されたのですか?」
怒りださないか、心配であった。
「なるほど、2つも下の直美に、わたしがいつもへこへこして機嫌とってるから、そう思ったんだろ?違うか?」
「いえ、決してそんなことは、ありません。」
怒られるかと思ったが、紗耶香は落ち着いて座り、語りはじめた。
「直美がうちの学校の1年に入って来たとき、そりゃもう、入学早々あの感じで暴れまくって、勢いがすごかったさ。わたしたち上級生はだれも抑えられずに、もう半分壊滅状態。だいぶ情けないけどね。」
「はぁ、そうだったんですか。」
「わたしは当分こいつには敵わないって思ったのよ。敵に回してちゃ、わたしまで潰されるだけだってね。だから、こっちから早々に手下について、身を守ろうって思ったの。」
「そうなんですね。」
「でも、勘違いするなよ。諦めてたわけじゃなく、傍にいて直美の弱点を見つけて、隙あれば闘ってやろうって、いつも考えてたの。だって、年下の小娘相手に、闘わずして終わっちゃ、形無しじゃんねぇ。」
「はい、そうですね...。」
「だろ。こっちはいつも、虎視眈々と、狙ってんだよ。」
こう言っては失礼だが、紗耶香が意外と知性派であったことを知った。
「けど、どうも直美には、卒業までに絶対勝てない気がする。だって今じゃ、さらに成長して、あれだけの男どもを次々とのして回ってるんだよ。わたしじゃ、あそこまでにはなれないね。」
---確かに直美は、女とは考えられないほどの、強さである。
「けどなぁ、直美には勝てないとしても、沙紀ならチャンスはあると思ってるよ。ほら、この間のタイマン、わたしがかなり追いつめてたの、お前も見ただろ?」
「あぁ、そうでしたね。沙紀さんがぎりぎり、耐えてた場面もありましたね。」
「だろ?わたし、まだあきらめてないんだよ。沙紀をぶっ倒したいのよ。沙紀なんかにいつもペコペコさせられてんのが気に食わねえんだよ。沙紀も相当、強いは強いけど、直美にひっついてあの位置にいるんだから、割に合わねぇよ。」」
---なるほど。紗耶香の闘志は本物だ。
「卒業までにもう一度、沙紀を引きずり出して、ボコして、下ろしてやるよ。そして、副総長に座ってみせるよ。」
「はい、紗耶香さん、がんばってください。」
「そうはいっても、沙紀もかなり手ごわいからね。鍛えておかないと。」
こうやって近くでよく見たら、紗耶香の身体にも、かなりの筋肉が備わってそうだ。中学のころの、ややぽっちゃり目だった紗耶香とは一味も二味も違っていた。、
「おっと、お前、このこと鬼女の中でじゃべるなよな。直美や沙紀を呼び捨てにしたことも。言ったら純一、お前をひねりつぶすからな。」
「...はい。」
「同級生だって言っても、容赦しねえからな。ちなみにお前、わたしと戦う勇気なんて、あんの?」
一瞬、だまってしまう。
「おい、聞いてんのか、あ?おらぁ!」
同級生の女子にこうも挑発されると、さすがに純一も血が騒ぎはじめたが、
「ははは、冗談だよ。鬼女の中じゃ雑魚のお前なんか、倒してもわたしにはメリットがなにもないんだよ。」
笑顔で返したが、暴れたかった気持ちと安堵の心が交差していた。
「けどよぉ、ほらぁ、お前いまちょっと、怒ってただろ?悔しい気持ちがあっただろ?」
「...はい。」
「お前、いま三軍やってて、どうなんだよ?おもしれえのか?あれだけお前、ユイナや樹莉みたいな中学のガキの女に、人前で散々コケにされてんだよ。悔しいだろ?」
「...はい。」
「はい、じゃなくてよぉ。おまえももう一度、ここを燃やしてみたらどうだ?」
紗耶香は純一の胸に、軽くパンチする。
「少なくとも、二軍くらいは目指して、ガッツいてみろよ。たぶん、鬼女のみんな、そう思ってるぜ。」
そのまま紗耶香は去っていった。
---なるほど、二軍昇格...。小さいところから、もういちど自信を積み直せってことか。
実際、昇格すれば、いまの屈辱も少しは減るはずだ。中一の樹莉と同格になれると、今ほどコケにされることもないはずだ。
そこから目指してみるのも、いいかもしれない。
同級生の紗耶香に、大きな頼りがいを感じた。
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