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第45話
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「突然家に来たいっていうから何事かと思ったけど、そういうことだったんだ」
仕事を終えたその日の帰り、俺は大志葉家へと足を運んだ。
オートロックで管理されたマンションの出入口を開錠させてもらい、彼女に案内された部屋は三階の角に位置していた。
中は三人家族で住むには少し広い感じの面積で、リビングにはカウンターキッチン。
色も全て白で統一されていて、清潔感のある空間になっている。
「話しを聞いてから、ずっとお線香だけでもあげたいと思ってたからな」
カウンターの隅に置かれたミニサイズの仏壇に、俺は線香をお供えして鐘を鳴らし、目をつぶって合掌した。
「......別に気にしなくてもいいのに」
「そういうわけにはいかないだろう。子供のお前にお世話になってるんだから」
お線香をあげたいという気持ちは本当だが、俺にはもう一つ、ご両親に伝えておきたいことがあった。
それもたった今、遺影の写真相手ではあるが伝え終わった。
「今は一人で住んでるっていうから、もっと散らかった部屋を想像してたけど......意外と片付いてるな」
「まぁね。掃除は基本毎日ちゃんとやってるし。て言っても、するようになったのは剣真の家に通うようになってからだけど」
メインの生活スペースになっているであろうリビングは目立ったほこりや汚れ等もなく、綺麗に保たれている。
リビング全体が家具少なめでさっぱりとしているのは母親の趣味だろうか。
物をため込んでなかなか捨てられなかった家の母親とはまるでタイプが逆だな。
「それに引っ越しも近いから、ぼちぼち家具も処分しないと。なんだったら剣真、どれかもらってくれない? 結構処分するのも大変でさ」
「遠慮しとくよ」
「なーんだ、剣真のケチ」
彼女はちぇっと、ジト目で唇を尖らせる。
「......用はそれだけ?」
「......いや、まだある」
「何?」
ドクンドクンと、心臓の鼓動が高鳴るのを感じながら、俺は覚悟を決め、重い口を開いた。
「――俺と一緒に、あの部屋で住まないか?」
「!!?」
彼女は驚きの表情を浮かべ、唇から息が漏れた。
「この数日間、いろいろと考えたんだ。お前はロコでもあるけど、同時に加那でもある。俺は今までロコの部分しか見ようとしないで、大志葉加那という人間を見ていなかった。いや、見ようとしなかったんだ」
淡々と語る俺をみつめたまま、彼女は黙って静かに聞いている。
「知ってしまったら最後、せっかくの俺達の関係が崩れてしまいそうな気がしてさ......怖かったんだ。また一人になるのが.........でもお前は本当の自分を知ってほしくて、俺が訊く前に正直に話してくれた」
「あれは......成り行きだよ。兎苺の口からバレるより、私の口から説明したかっただけの話」
「だとしても、言わなくても隠し通せた、ロコの記憶が蘇った時のことも話してくれた..
....俺を信じて」
深く深呼吸し、今の俺の素直な気持ちを、こうぶつけた。
「――俺はお前のことが好きだ! ロコでもあり、加那でもあるお前のことが!」
「剣真......!?」
彼女は大きく肩を震わせ、顔を真っ赤にして口に手を当てた。
眼にはみるみるうちに涙がたまっていく。
「こんなおっさんがJKに恋しちまうなんて気持ち悪いよな。自分でもそう思う。でもお前と四ヶ月間過ごして思っちまったんだよ......これからも近くで、同じ時を過ごした
いって」
こんなに離れたくないと思った異性は、彼女が初めてだった。
「惨めだと思ってくれてもいい。世間からどう見られたっていい。でも俺にはお前が必要なんだ!」
再会した時以来だと思う。
気がついた時には、彼女は俺に勢いよく抱き着き、そのまま後ろに倒れた。
「............やっと口にしてくれた......遅いよ剣真! 私だって剣真のこと、大好きなんだから! いつ私を助けくれるのかな~って、ずっと不安だったんだからね!」
俺にマウントをとっているような体勢で、彼女はポロポロと涙を零しながら自分の気持ちを吐露した。
俺の煮え切らない態度のせいで彼女を不安にさせてしまって......申しわけない。
「悪い......これからは気をつけるよ」
「うん......」
お互いの身体が重なり合うように、彼女は俺の胸に顔を置いた。
彼女から感じられる温もりが愛おしくて、支えている手に自然と力が入る。
「......でも本当にいいの? だって今の私、きっと剣真に迷惑かけるよ?」
「それ以上に俺は、お前から元気をもらってるんだ。だからプラマイのプラス5で何の問題もない」
「......その数字、どこから出てきたの? ていうか5は少ないんですけど?」
「分からん。プラスには変わりないんだから文句言わないでくれ」
「は~い.........絶対100にしてみせるんだから」
「何か言ったか?」
「ううん。何でもない」
俺の胸に顔をぐりぐりと押しつける。
久しぶりに触れた彼女の身体は細くて、とても甘くて良い匂いがした。
栗色に近い茶色い髪は、照明の光に当たって輝きを放っている。
「そういえば剣真、最近私のことをロコとも加那とも呼ばなくなったよね?」
ぐりぐりを一旦止めると、俺の顔を見上げて疑問を投げかけた。
やっぱり気づいてたか。
「そりゃあだってお前、人格的にどっちの割合の方が強いか分からないからだなぁ――」
「どうでもいいじゃん☆ 剣真の好きなように呼びなよ?」
「いいのか? じゃあ........ロコで」
「うん!」
俺の腕の中にいる”ロコ”は、今まで見た中で最高の、とびきり綺麗な笑顔で微笑んだ。
窓から見える夜空の星々よりも、それはもう素敵に。
仕事を終えたその日の帰り、俺は大志葉家へと足を運んだ。
オートロックで管理されたマンションの出入口を開錠させてもらい、彼女に案内された部屋は三階の角に位置していた。
中は三人家族で住むには少し広い感じの面積で、リビングにはカウンターキッチン。
色も全て白で統一されていて、清潔感のある空間になっている。
「話しを聞いてから、ずっとお線香だけでもあげたいと思ってたからな」
カウンターの隅に置かれたミニサイズの仏壇に、俺は線香をお供えして鐘を鳴らし、目をつぶって合掌した。
「......別に気にしなくてもいいのに」
「そういうわけにはいかないだろう。子供のお前にお世話になってるんだから」
お線香をあげたいという気持ちは本当だが、俺にはもう一つ、ご両親に伝えておきたいことがあった。
それもたった今、遺影の写真相手ではあるが伝え終わった。
「今は一人で住んでるっていうから、もっと散らかった部屋を想像してたけど......意外と片付いてるな」
「まぁね。掃除は基本毎日ちゃんとやってるし。て言っても、するようになったのは剣真の家に通うようになってからだけど」
メインの生活スペースになっているであろうリビングは目立ったほこりや汚れ等もなく、綺麗に保たれている。
リビング全体が家具少なめでさっぱりとしているのは母親の趣味だろうか。
物をため込んでなかなか捨てられなかった家の母親とはまるでタイプが逆だな。
「それに引っ越しも近いから、ぼちぼち家具も処分しないと。なんだったら剣真、どれかもらってくれない? 結構処分するのも大変でさ」
「遠慮しとくよ」
「なーんだ、剣真のケチ」
彼女はちぇっと、ジト目で唇を尖らせる。
「......用はそれだけ?」
「......いや、まだある」
「何?」
ドクンドクンと、心臓の鼓動が高鳴るのを感じながら、俺は覚悟を決め、重い口を開いた。
「――俺と一緒に、あの部屋で住まないか?」
「!!?」
彼女は驚きの表情を浮かべ、唇から息が漏れた。
「この数日間、いろいろと考えたんだ。お前はロコでもあるけど、同時に加那でもある。俺は今までロコの部分しか見ようとしないで、大志葉加那という人間を見ていなかった。いや、見ようとしなかったんだ」
淡々と語る俺をみつめたまま、彼女は黙って静かに聞いている。
「知ってしまったら最後、せっかくの俺達の関係が崩れてしまいそうな気がしてさ......怖かったんだ。また一人になるのが.........でもお前は本当の自分を知ってほしくて、俺が訊く前に正直に話してくれた」
「あれは......成り行きだよ。兎苺の口からバレるより、私の口から説明したかっただけの話」
「だとしても、言わなくても隠し通せた、ロコの記憶が蘇った時のことも話してくれた..
....俺を信じて」
深く深呼吸し、今の俺の素直な気持ちを、こうぶつけた。
「――俺はお前のことが好きだ! ロコでもあり、加那でもあるお前のことが!」
「剣真......!?」
彼女は大きく肩を震わせ、顔を真っ赤にして口に手を当てた。
眼にはみるみるうちに涙がたまっていく。
「こんなおっさんがJKに恋しちまうなんて気持ち悪いよな。自分でもそう思う。でもお前と四ヶ月間過ごして思っちまったんだよ......これからも近くで、同じ時を過ごした
いって」
こんなに離れたくないと思った異性は、彼女が初めてだった。
「惨めだと思ってくれてもいい。世間からどう見られたっていい。でも俺にはお前が必要なんだ!」
再会した時以来だと思う。
気がついた時には、彼女は俺に勢いよく抱き着き、そのまま後ろに倒れた。
「............やっと口にしてくれた......遅いよ剣真! 私だって剣真のこと、大好きなんだから! いつ私を助けくれるのかな~って、ずっと不安だったんだからね!」
俺にマウントをとっているような体勢で、彼女はポロポロと涙を零しながら自分の気持ちを吐露した。
俺の煮え切らない態度のせいで彼女を不安にさせてしまって......申しわけない。
「悪い......これからは気をつけるよ」
「うん......」
お互いの身体が重なり合うように、彼女は俺の胸に顔を置いた。
彼女から感じられる温もりが愛おしくて、支えている手に自然と力が入る。
「......でも本当にいいの? だって今の私、きっと剣真に迷惑かけるよ?」
「それ以上に俺は、お前から元気をもらってるんだ。だからプラマイのプラス5で何の問題もない」
「......その数字、どこから出てきたの? ていうか5は少ないんですけど?」
「分からん。プラスには変わりないんだから文句言わないでくれ」
「は~い.........絶対100にしてみせるんだから」
「何か言ったか?」
「ううん。何でもない」
俺の胸に顔をぐりぐりと押しつける。
久しぶりに触れた彼女の身体は細くて、とても甘くて良い匂いがした。
栗色に近い茶色い髪は、照明の光に当たって輝きを放っている。
「そういえば剣真、最近私のことをロコとも加那とも呼ばなくなったよね?」
ぐりぐりを一旦止めると、俺の顔を見上げて疑問を投げかけた。
やっぱり気づいてたか。
「そりゃあだってお前、人格的にどっちの割合の方が強いか分からないからだなぁ――」
「どうでもいいじゃん☆ 剣真の好きなように呼びなよ?」
「いいのか? じゃあ........ロコで」
「うん!」
俺の腕の中にいる”ロコ”は、今まで見た中で最高の、とびきり綺麗な笑顔で微笑んだ。
窓から見える夜空の星々よりも、それはもう素敵に。
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