隣で寝てるJK。実は前世は我が家のペットでした。

せんと

文字の大きさ
上 下
45 / 47

第44話

しおりを挟む
 午後三時過ぎ。
 ほとんどのスタッフはお昼休みを終えてそれぞれの持ち場に戻り、誰もいなくなった2階の休憩室。

 俺は遅い昼食を軽めにとってからは、一人机の上で頬づえをついてたそがれていた。

 彼女が真実を話してくれた次の日。 
 何事もなかったかのように、彼女は普通に家にやってきた。
 いつものように夕飯を作ってくれて、他愛もない会話をして、彼女の家の近所まで送る。
 そんな日々を繰り返す。

 一見何の変哲もない日常に感じるが、確実に別れの時は刻一刻と近づいてきている。

 俺は内心焦っていた。
 どうにかしたいと気持ちは思っていても、具体的にどうしていいか分からなかった。

 その影響がもろに仕事に出てしまい、最悪なことにポテトチップスをエンド展開用に10ケースとるつもりが、桁を一つ間違えて100ケースと大量に誤発注をしてしまった。

 矢代やしろからはまるで鬼の首を獲ったかのように怒られ、食品部門をまとめる副店長からは静かにそして冷たくお叱りを受けた。

 幸運にも、朝からパートさん達がSNSでの宣伝に協力してくれたおかげで、呟きサイト
でバズることができ、凄まじい勢いでポテトチップスは売れていっている。
 この調子ならどうにか数日のうちに許容範囲の在庫までは減ってくれるだろう。

「――あいつがいなくなるって考えただけで動揺して、仕事でもみんなに迷惑かけて......情けねぇな、俺」
  
 力の無い愚痴がこぼれ、そのまま机に突っ伏してしまおうと顔から手を放すと。

浅田あさださん、やっぱりここにいましたね。あの、ご一緒してもよろしいしょうか?」

 休憩室の戸が開けられ、現れたのは副店長の天条さん。
 俺は慌てて姿勢を起こした。  
 先程まで俺を注意していた時のきりっとした表情と違い、今は慈愛に満ちた表情をしている。

「もちろんです。どうぞ」 
「ありがとうございます......あとこれ、よかったらどうぞ。私の今のお気に入りのお茶なんです」

 そう言って渡してきたのは、コンビニ限定で販売されている、ルイボスティーのホットのペットボトル飲料。

「いいんですか? すいません、なんかいろいろと」

 買ってきたばかりなのか、受け取ったペットボトルは丁度良い感じの熱加減。 
 店舗の目の前にあるコンビニでわざわざ買ってきてくれたのだろうか。
 だとしたら、自分みたいな下っ端の社員に変な気を遣わせてしまって申しわけない気持ちになる。

「......もしかして、妹さんと何かありました?」
「どうしてそれを?」
「やっぱり......見てればなんとなく分かります」

 驚いて目を丸くして副店長に視線を送ると、嘆息交じりにそう答えた。

「差支えなければ、妹さんと何があったのか話して頂いてもよろしいでしょうか? こうい
うことは、誰かに話したほうが気が楽になりますよ?」

 母親が子供をあやすよな雰囲気で語りかける。
 偶然にも今日の副店長からは、母さんがつけていた化粧と同じ匂いがしていた。
 俺は事柄の核心には触れないよう、慎重に話した。

「実は......来月、妹が急に遠くへ引っ越すことになりまして」
「そうだったんですね。久しぶりに再会できたのに、それは残念ですね」
「......問題なのは、その引っ越し先なんです。あいつ、引っ越し先の叔母さんと今はあまり仲が良くなくて。一度大喧嘩して見捨てられているんですよ」

 黙って『うんうん』と頷いて副店長は聞いてくれている。

「だから、あいつが今の生活を続けられるように助けてやりたいんですが......周りの環境がそれを許してくれなくて......」
「――浅田さんは、どうしたいんですか?」
「俺、ですか? ......それは、離れたくないに決まってるじゃないですか。でも周りの環境が――」
「本当にそうでしょうか?」
「え?」

 俺の言葉を遮って疑問を口にした。
 その眼には強い意志を感じる。

「環境なんて、大抵のことはどうにかしようと思えばどうにかなるものです。解決しようと具体的に行動は起こしましたか?」

「あ、いえ.........何も」

 副店長はため息をついて、たしなめるように。

「浅田さんは妹さんを助けられないのを周りの環境のせいにして、ただ逃げているだけに思えます。本当に助けたい・一緒にいたいと願うなら、そんなこと気にせず行動に出るはずです」

 そこまで言われて、俺ははっとした。
 あの時は自分でも気づかないうちに”子供だから”と言い訳をして、ロコを失ったことに蓋をした。

 また俺は、同じ過ちを犯してしまうところだった。

「手が届く時に手を伸ばさないで、後々後悔する思いを浅田さんにはしてほしくないんです」

 過去に何かあったのだろうか。
 見据える副店長の瞳は、どこか悲しみを帯びていた。

「......そう、ですね。副店長の言う通り、俺は自分の気持ちに嘘をついて、言い訳をして、逃げようとしていた最低な兄です。だから俺、自分の気持ちに正面から向き合いま
す。で、悔いのないように全力で妹を助けます」

 宣言すると、副店長は嘆息して嬉しそうに微笑んだ。

「ふふ。やっといつもの浅田さんに戻りましたね。それでこそ私が見込んだプロデューサー仲間です」
「見込んだっていうか、無理矢理俺を引きずり込んだだけじゃないですか」
「何か言いました?」
「いえ、別に」

 ここ数日間、副店長とアイドルゲームトークできていなかったことに今気づいた。
 早く問題を解決して、またいつもの日常に戻って、こうして休憩時間に気楽に雑談をしたいなぁ。

 彼女と再会し、同じ時を過ごして四ヶ月。
 柴犬だった頃の昔と大分姿は変わったけど、与えてくれる温もりは同じ。いやそれ以上だった。

 彼女のいない生活を想像するだけで、全身が不安に襲われてゾッとする。

 俺にとって彼女は、ロコだろうと・加那だろうと大切な存在には変わりないんだ。

 だったらやるべきことはただ一つ。 

 俺はスマホのメッセージアプリを開くと、彼女にメッセージを送った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...