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第39話
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目を覚ますと、見覚えのない、見知らぬ真っ白なタイル状の天井がそこにあった。
ここは......病院だろうか? ドラマで見たことのある個室の風景と似た作りの部屋。
左腕には点滴の管が刺さっている。
何があったか思い出そうにも、とにかく頭が重くもやもやしていて。身体も少し動かしただけで全身に激痛が走る。
「――加那ちゃん!? ......私のこと、誰だか分かる?」
部屋の戸が開かれてやってきたのは、お母さんの妹で、私にとっては叔母にあたる『彩名』さんだった。
私が目を覚ましたことに気づくと、彩名さんは手に持っていた花のいけられた花瓶をそのままで私に駆け寄ってきた。
「......彩名さん、でしょ?」
「良かった......頭は問題なさそうね」
安堵し、息を思いきり吐き出した。こうやって見てるとお母さんと本当に顔がそっくりだ。
ていうか、何で彩名さんがこんなところに来てるんだろう?
お父さんとお母さんはなんでここにいないの?
「今すぐ先生呼んでくるから。ちょっと待ってて!」
花瓶をベッドの隣の机にゴトっと置くと、パタパタと慌てて部屋を出ていった。
開けられた戸から入ってくる冷たい弱風が、私の心を不安にさせる。
*
両親の死を宣告されたのは、その二日後のことだった。
お医者さんの話では、私の身体は全身を強く強打しただけで、それ以外は奇跡的に異常はなかったらしい。
彩名さんと共に病院の地下の霊安室に案内され、私は何も言わなくなった両親と三日ぶりに対面した。
「......二人共、ほぼ即死だったみたい」
綺麗に化粧を施されたお父さんとお母さんの顔は、気持ちよさそうに寝ているような、とても安らかな表情だった。
娘の私が声をかけたら起きてくれるのだろうか。
そう思って声をかけようとするも、二人の死を受け入れたくないという思いが邪魔をして、声が出ない。
「高齢者が運転する車がサービスエリアから逆走してきて......正面からぶつけられたんだって......たまんないよね」
彩名さんの声の震えが段々と大きくなり、そのうち嗚咽も聞こえるようになった。
私だって悲しいはずなのに、涙が一切流れてこない。
――あぁ、人間が本当に悲しい時って、涙すら流すことも出きないんだ――
私の分まで悲しみを表現してくれている彩名さんを羨ましく感じ、只々、目を覚ますことのない両親の顔を眺めていた。
それから更に三日後。
両親の魂と亡骸は天国へと旅立って行った。
一人生き残った愛娘だけを、この世に残して......。
*
「――じゃあ加那ちゃん、また明日ね」
今日も彩名さんは、在宅ワークの合間を縫って来てくれた。
自宅から病院に通える圏内で、亡くなった両親とは特に親しかったこともあって、遠方に住んでいる他の親戚達を代表して私の面倒をみてくれている。
しかも未成年の私に変わって、両親が亡くなったことによって生じる様々な問題を解決しようとしていて、精神的にも助かっている。
「すいません、仕事中に」
「だから気にしないで。困っている姪っ子を助けるのが叔母さんの役目よ」
ニコっと笑って細い腕で力こぶを作ってみせる彩名さん。
目元はまだ少し赤く腫れている。
「寂しくなったらいつでも連絡してね。叔母さんの渾身の一発ギャグで吹き飛ばしてあげるから」
「それはできれば避けたいですね」
「お、言うようになったじゃない? ――それじゃあ!」
そう言って彩名さんは病室をあとにした。
もともと無駄に元気な男子中学生みたいノリのある人ではあったけど、最近は無理に明るくしているのがよく分かった。
仲の良かった姉夫婦が急死し、それによって自分の結婚も延期を余儀なくされてしまった。関係者として申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
なんとなく部屋の外の空気が吸いたくなった私は、ベッドから起き上がり、リハビリも兼ねて自動販売機が設置されている売店の方へと脚を運ぶことに。
全身の痛みはほぼ消えたけど、ベッドに横になっている時間が多かったので、ちょっと歩いただけでもかなりの疲労が襲う。
病棟の廊下を休みながらゆっくり歩く――そして、ある病室の前を通りかかった。
妙に懐かしく感じる匂いが私の鼻元にやってきて、嗅いだ瞬間、頭に割れるよう激痛が走ってその場にしゃがみこんでしまった
ここは......病院だろうか? ドラマで見たことのある個室の風景と似た作りの部屋。
左腕には点滴の管が刺さっている。
何があったか思い出そうにも、とにかく頭が重くもやもやしていて。身体も少し動かしただけで全身に激痛が走る。
「――加那ちゃん!? ......私のこと、誰だか分かる?」
部屋の戸が開かれてやってきたのは、お母さんの妹で、私にとっては叔母にあたる『彩名』さんだった。
私が目を覚ましたことに気づくと、彩名さんは手に持っていた花のいけられた花瓶をそのままで私に駆け寄ってきた。
「......彩名さん、でしょ?」
「良かった......頭は問題なさそうね」
安堵し、息を思いきり吐き出した。こうやって見てるとお母さんと本当に顔がそっくりだ。
ていうか、何で彩名さんがこんなところに来てるんだろう?
お父さんとお母さんはなんでここにいないの?
「今すぐ先生呼んでくるから。ちょっと待ってて!」
花瓶をベッドの隣の机にゴトっと置くと、パタパタと慌てて部屋を出ていった。
開けられた戸から入ってくる冷たい弱風が、私の心を不安にさせる。
*
両親の死を宣告されたのは、その二日後のことだった。
お医者さんの話では、私の身体は全身を強く強打しただけで、それ以外は奇跡的に異常はなかったらしい。
彩名さんと共に病院の地下の霊安室に案内され、私は何も言わなくなった両親と三日ぶりに対面した。
「......二人共、ほぼ即死だったみたい」
綺麗に化粧を施されたお父さんとお母さんの顔は、気持ちよさそうに寝ているような、とても安らかな表情だった。
娘の私が声をかけたら起きてくれるのだろうか。
そう思って声をかけようとするも、二人の死を受け入れたくないという思いが邪魔をして、声が出ない。
「高齢者が運転する車がサービスエリアから逆走してきて......正面からぶつけられたんだって......たまんないよね」
彩名さんの声の震えが段々と大きくなり、そのうち嗚咽も聞こえるようになった。
私だって悲しいはずなのに、涙が一切流れてこない。
――あぁ、人間が本当に悲しい時って、涙すら流すことも出きないんだ――
私の分まで悲しみを表現してくれている彩名さんを羨ましく感じ、只々、目を覚ますことのない両親の顔を眺めていた。
それから更に三日後。
両親の魂と亡骸は天国へと旅立って行った。
一人生き残った愛娘だけを、この世に残して......。
*
「――じゃあ加那ちゃん、また明日ね」
今日も彩名さんは、在宅ワークの合間を縫って来てくれた。
自宅から病院に通える圏内で、亡くなった両親とは特に親しかったこともあって、遠方に住んでいる他の親戚達を代表して私の面倒をみてくれている。
しかも未成年の私に変わって、両親が亡くなったことによって生じる様々な問題を解決しようとしていて、精神的にも助かっている。
「すいません、仕事中に」
「だから気にしないで。困っている姪っ子を助けるのが叔母さんの役目よ」
ニコっと笑って細い腕で力こぶを作ってみせる彩名さん。
目元はまだ少し赤く腫れている。
「寂しくなったらいつでも連絡してね。叔母さんの渾身の一発ギャグで吹き飛ばしてあげるから」
「それはできれば避けたいですね」
「お、言うようになったじゃない? ――それじゃあ!」
そう言って彩名さんは病室をあとにした。
もともと無駄に元気な男子中学生みたいノリのある人ではあったけど、最近は無理に明るくしているのがよく分かった。
仲の良かった姉夫婦が急死し、それによって自分の結婚も延期を余儀なくされてしまった。関係者として申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
なんとなく部屋の外の空気が吸いたくなった私は、ベッドから起き上がり、リハビリも兼ねて自動販売機が設置されている売店の方へと脚を運ぶことに。
全身の痛みはほぼ消えたけど、ベッドに横になっている時間が多かったので、ちょっと歩いただけでもかなりの疲労が襲う。
病棟の廊下を休みながらゆっくり歩く――そして、ある病室の前を通りかかった。
妙に懐かしく感じる匂いが私の鼻元にやってきて、嗅いだ瞬間、頭に割れるよう激痛が走ってその場にしゃがみこんでしまった
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