29 / 47
第28話
しおりを挟む
「今年のお正月はどうでした? やっぱり人多かったですか?」
串田さんと新年最初に顔を合わせると、挨拶も早々に話しの話題は流れでお正月中の仕事の話になる。
お正月が終わった午前中の店内の様子は、すっかりいつもの平日の午前中の平穏を取り戻していた。
「相変わらずでしたよ。年末よりはマシなレベルですけど」
クリスマス・年末ほどではないにしても、お正月シーズンも合田店は朝も早い時間から買い物客で溢れかえっていた。
「その様子だと、妹さんとはお正月はゆっくりできなかった?」
「いえ、昨日一昨日と休みをもらえたので、一緒に初詣に行ってきました」
「そう。良かったじゃない。妹さん喜んでたでしょ」
「どうですかねぇ。アイツ的には初詣よりも、その帰りに寄った牛丼屋の方が余程嬉しかったようにみえましたよ」
神社を出る時に中学の同級生の女の子と会ってから、ロコの様子に何となく違和感を感じたが、牛丼屋に行ってからその違和感は一気に消し飛んだ。
初めての牛丼屋デビューで特盛つゆだくを頼み、人目を気にせず美味しそうに食すJK......気づけばいつものロコがそこにいた。
「何はともあれ、新年からとても仲の良いことで。立派にお兄さんしてるね」
俺は苦笑いを浮かべながら頷いた。
これは絶対他人には言えないが、ロコは冬休みに入ってから、毎日家に泊まっている。俺が仕事の時の日中は時折自分の家に戻っているみたいだが、ここまで来ると、ほぼロコと一緒に暮らしているような感覚に陥ってくる。
「串田さんの方こそ、お正月はどうしてたんですか? 奥さんと何処か出かけたりとかしなかったんですか?」
今年で結婚10年目となる串田さん。
子供はいないが、奥さんと二人でいろんな場所に旅行に行くのが趣味で、その行った土地でのお土産話を聞くのがちょっとした楽しみだったりする。
「今年は珍しく家でのんびりしてたよ......あ、でも魔法海戦の劇場版観に映画館は
行ったな」
この人、本当に世間で流行っている漫画やアニメには目がないなぁ。
悪い鬼を退治する漫画原作のアニメが流行り出した時も、すぐに全巻購入してたからな......奥さんにお小遣い前借して。
「本編に出て来くる主要人物の若い時の話だったんだけど、意外な過去を背負ってるのが分かったり、あと戦闘シーンがド派手で面白かったよ」
俺はこの作品、まだ未チェックなので適当に相づちをして返した。
「なるほど」
「今なら観に行くと特典で原作の外伝コミックも貰えるからお得だよ」
性格上、世間的な盛り上がりがある程度収まってからチェックするタイプなので、おそらく魔法海戦は今年の後半辺りにチェックするだろう。
「妹さんは興味無いの? 映画館に行ったら男女問わず若い子多かったよ」
「作品自体は知ってるみたいですけど......どっちかと言ったら少女漫画とかの方が興味あるのかなと」
俺が昔、少女漫画に激ハマリしていた時に買った少女漫画達を、ロコは休みの間に一気読みしていた。
最初は俺の性癖がさらされるようで、むずがゆいような・恥ずかしいような。からかわれるのを覚悟していた。
でもロコの口からは純粋な作品の感想のみが聞こえて嬉しかった。
「まぁでも、あいつも一応流行に敏感な女子高生ではあるんで、今度誘ってみますよ」
「誘えたら、その時は報告お願いします」
今年もこの人とは良好な関係を続けられそうだ。
矢代が冬休みに入ったこともあり、この日は普段より少し長めに商談という名の世間話をしてしまった。
***
仕事を終えて東草条の駅のホームに降りると、スマホにロコからのメッセージが届いた。
確認すると『もう駅着いた? 悪いんだけど帰りにお醤油買ってきてもらっていいかな? 切らしてるの忘れてたよ~(・ω<) てへぺろ』との文字。
絵面が容易にイメージできてしまい、思わず鼻を鳴らす。
すぐに『了解☆』とメッセージを送り、俺は改札方面に向かった。
どこのスーパーに寄ろうか考えていると、気の弱そうな制服姿の女子高生? が何かを探しているかのように地面や線路上をきょろきょろとしていた。
瞳をうるうるとさせて不安な表情を浮かべている黒髪ボブの彼女は、背も小さくてどこか小動物的な雰囲気。
制服のスカートの丈はロコより長く、その下からは黒タイツに包まれた細い脚。
一度は彼女の前を素通りしたが、その姿がまるで迷子の子犬のように見え、思わず立ち止まって後ろを振り返ってしまった。
......しょうがない。
面倒ごとに巻き込まれませんようにと心の中で願いながら、意を決して俺は、目前で困っている小動物風な女子高生に声をかけた。
串田さんと新年最初に顔を合わせると、挨拶も早々に話しの話題は流れでお正月中の仕事の話になる。
お正月が終わった午前中の店内の様子は、すっかりいつもの平日の午前中の平穏を取り戻していた。
「相変わらずでしたよ。年末よりはマシなレベルですけど」
クリスマス・年末ほどではないにしても、お正月シーズンも合田店は朝も早い時間から買い物客で溢れかえっていた。
「その様子だと、妹さんとはお正月はゆっくりできなかった?」
「いえ、昨日一昨日と休みをもらえたので、一緒に初詣に行ってきました」
「そう。良かったじゃない。妹さん喜んでたでしょ」
「どうですかねぇ。アイツ的には初詣よりも、その帰りに寄った牛丼屋の方が余程嬉しかったようにみえましたよ」
神社を出る時に中学の同級生の女の子と会ってから、ロコの様子に何となく違和感を感じたが、牛丼屋に行ってからその違和感は一気に消し飛んだ。
初めての牛丼屋デビューで特盛つゆだくを頼み、人目を気にせず美味しそうに食すJK......気づけばいつものロコがそこにいた。
「何はともあれ、新年からとても仲の良いことで。立派にお兄さんしてるね」
俺は苦笑いを浮かべながら頷いた。
これは絶対他人には言えないが、ロコは冬休みに入ってから、毎日家に泊まっている。俺が仕事の時の日中は時折自分の家に戻っているみたいだが、ここまで来ると、ほぼロコと一緒に暮らしているような感覚に陥ってくる。
「串田さんの方こそ、お正月はどうしてたんですか? 奥さんと何処か出かけたりとかしなかったんですか?」
今年で結婚10年目となる串田さん。
子供はいないが、奥さんと二人でいろんな場所に旅行に行くのが趣味で、その行った土地でのお土産話を聞くのがちょっとした楽しみだったりする。
「今年は珍しく家でのんびりしてたよ......あ、でも魔法海戦の劇場版観に映画館は
行ったな」
この人、本当に世間で流行っている漫画やアニメには目がないなぁ。
悪い鬼を退治する漫画原作のアニメが流行り出した時も、すぐに全巻購入してたからな......奥さんにお小遣い前借して。
「本編に出て来くる主要人物の若い時の話だったんだけど、意外な過去を背負ってるのが分かったり、あと戦闘シーンがド派手で面白かったよ」
俺はこの作品、まだ未チェックなので適当に相づちをして返した。
「なるほど」
「今なら観に行くと特典で原作の外伝コミックも貰えるからお得だよ」
性格上、世間的な盛り上がりがある程度収まってからチェックするタイプなので、おそらく魔法海戦は今年の後半辺りにチェックするだろう。
「妹さんは興味無いの? 映画館に行ったら男女問わず若い子多かったよ」
「作品自体は知ってるみたいですけど......どっちかと言ったら少女漫画とかの方が興味あるのかなと」
俺が昔、少女漫画に激ハマリしていた時に買った少女漫画達を、ロコは休みの間に一気読みしていた。
最初は俺の性癖がさらされるようで、むずがゆいような・恥ずかしいような。からかわれるのを覚悟していた。
でもロコの口からは純粋な作品の感想のみが聞こえて嬉しかった。
「まぁでも、あいつも一応流行に敏感な女子高生ではあるんで、今度誘ってみますよ」
「誘えたら、その時は報告お願いします」
今年もこの人とは良好な関係を続けられそうだ。
矢代が冬休みに入ったこともあり、この日は普段より少し長めに商談という名の世間話をしてしまった。
***
仕事を終えて東草条の駅のホームに降りると、スマホにロコからのメッセージが届いた。
確認すると『もう駅着いた? 悪いんだけど帰りにお醤油買ってきてもらっていいかな? 切らしてるの忘れてたよ~(・ω<) てへぺろ』との文字。
絵面が容易にイメージできてしまい、思わず鼻を鳴らす。
すぐに『了解☆』とメッセージを送り、俺は改札方面に向かった。
どこのスーパーに寄ろうか考えていると、気の弱そうな制服姿の女子高生? が何かを探しているかのように地面や線路上をきょろきょろとしていた。
瞳をうるうるとさせて不安な表情を浮かべている黒髪ボブの彼女は、背も小さくてどこか小動物的な雰囲気。
制服のスカートの丈はロコより長く、その下からは黒タイツに包まれた細い脚。
一度は彼女の前を素通りしたが、その姿がまるで迷子の子犬のように見え、思わず立ち止まって後ろを振り返ってしまった。
......しょうがない。
面倒ごとに巻き込まれませんようにと心の中で願いながら、意を決して俺は、目前で困っている小動物風な女子高生に声をかけた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
アニラジロデオ ~夜中に声優ラジオなんて聴いてないでさっさと寝な!
坪庭 芝特訓
恋愛
女子高生の零児(れいじ 黒髪アーモンドアイの方)と響季(ひびき 茶髪眼鏡の方)は、深夜の声優ラジオ界隈で暗躍するネタ職人。
零児は「ネタコーナーさえあればどんなラジオ番組にも現れ、オモシロネタを放り込む」、響季は「ノベルティグッズさえ貰えればどんなラジオ番組にもメールを送る」というスタンスでそれぞれネタを送ってきた。
接点のなかった二人だが、ある日零児が献結 (※10代の子限定の献血)ルームでラジオ番組のノベルティグッズを手にしているところを響季が見つける。
零児が同じネタ職人ではないかと勘付いた響季は、献結ルームの職員さん、看護師さん達の力も借り、なんとかしてその証拠を掴みたい、彼女のラジオネームを知りたいと奔走する。
ここから第四部その2⇒いつしか響季のことを本気で好きになっていた零児は、その熱に浮かされ彼女の核とも言える面白さを失いつつあった。
それに気付き、零児の元から走り去った響季。
そして突如舞い込む百合営業声優の入籍話と、みんな大好きプリント自習。
プリントを5分でやっつけた響季は零児とのことを柿内君に相談するが、いつしか話は今や親友となった二人の出会いと柿内君の過去のこと、更に零児と響季の実験の日々の話へと続く。
一学年上の生徒相手に、お笑い営業をしていた少女。
夜の街で、大人相手に育った少年。
危うい少女達の告白百人組手、からのKissing図書館デート。
その少女達は今や心が離れていた。
ってそんな話どうでもいいから彼女達の仲を修復する解決策を!
そうだVogue対決だ!
勝った方には当選したけど全く行く気のしない献結啓蒙ライブのチケットをプレゼント!
ひゃだ!それってとってもいいアイデア!
そんな感じでギャルパイセンと先生達を巻き込み、ハイスクールがダンスフロアに。
R15指定ですが、高濃度百合分補給のためにたまにそういうのが出るよというレベル、かつ欠番扱いです。
読み飛ばしてもらっても大丈夫です。
検索用キーワード
百合ん百合ん女子高生/よくわかる献血/ハガキ職人講座/ラジオと献血/百合声優の結婚報告/プリント自習/処世術としてのオネエキャラ/告白タイム/ギャルゲー収録直後の声優コメント/雑誌じゃない方のVOGUE/若者の缶コーヒー離れ
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
白石マリアのまったり巫女さんの日々
凪崎凪
ライト文芸
若白石八幡宮の娘白石マリアが学校いったり巫女をしたりなんでもない日常を書いた物語。
妖怪、悪霊? 出てきません! 友情、恋愛? それなりにあったりなかったり?
巫女さんは特別な職業ではありません。 これを見て皆も巫女さんになろう!(そういう話ではない)
とりあえずこれをご覧になって神社や神職、巫女さんの事を知ってもらえたらうれしいです。
偶にフィンランド語講座がありますw
完結しました。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
日本酒バー「はなやぎ」のおみちびき
山いい奈
ライト文芸
小柳世都が切り盛りする大阪の日本酒バー「はなやぎ」。
世都はときおり、サービスでタロットカードでお客さまを占い、悩みを聞いたり、ほんの少し背中を押したりする。
恋愛体質のお客さま、未来の姑と巧く行かないお客さま、辞令が出て転職を悩むお客さま、などなど。
店員の坂道龍平、そしてご常連の高階さんに見守られ、世都は今日も奮闘する。
世都と龍平の関係は。
高階さんの思惑は。
そして家族とは。
優しく、暖かく、そして少し切ない物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる