隣で寝てるJK。実は前世は我が家のペットでした。

せんと

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第19話

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 家の最寄り駅の東草上ひがしそうじょうから新宿までは電車で約20分。
 途中、東草上の隣駅で一度乗り換えは必要だが、都心までのアクセスはかなりいい。
 久しぶりに乗る新宿方面行きの電車内は、普段自分が使っている電車内とはまた違った、都会独特の空気感がある。

剣真けんまは、新宿に行くのいつ以来なの?」
「えーと、多分一年ぶり。前回は確か昔の仲間から呑みに誘われて行ったんだっけ」
「そうなんだー。あの剣真のことをブレイドって呼ぶ人たちと?」   
「ブレイド言うな」

 ピンクのダウンジャケットに白のニットのセーター。下は私服では珍しくスカートを履いているロコが、にししと笑顔を浮かべる。 
 新宿に行くからだろうか。いつもより少し服装に気合が入っているように見える。

 今回、ロコには俺の服の買い物に付き合えという名目で着いて来てもらったが、本当の目的は他にある。

 本当の目的、それはロコにサプライズのプレゼントをすること。

 日頃から俺の面倒を見てくれていることへの、感謝の意味も込めた企画だ。
 この企画を実行するにあたって、俺は身近な人でロコが貰ったら一番嬉しそうな物を知っていそうな人物に相談した。 

「――え? 女子高生が一番貰って喜びそうな物ですか?」
 
 一瞬、怪訝けげんそうな表情を浮かべる副店長。
 しまった。完全に誤解を招く言い方をしてしまった。
 どういうわけか、この人は俺の口から女子高生というワードを聴くと機嫌が悪くなる。

「いや、実は今度妹に何かプレゼントをしてやろうかなと思いまして。それで」
「......なるほど。そういうことですか」

 頷いて、元の優しい副店長の笑顔に戻っていく。
 最初からこう言えば良かった。 

 ある日の仕事の休憩時間。
 たまたま休憩時間が一緒になって相席していた副店長に相談に乗ってもらった。

「でも私なんかに訊くより、学生のアルバイトさんに訊いた方が良いのでは......」

 首を傾げながら、紙コップに入ったカフェオレを口に運ぶ。

「そうしたいところなんですが......食品部門は男しかいませんし。夕方のレジ係の女の子達に、ほとんど面識のない俺がいきなりこんなこと訊ねるのもちょっとアレかなと......」
「......確かに。確実に変な勘違いをされますね」

 食品部門のスタッフは30代から50代の女性パートさんがほとんどで、訊いても参考になるような意見は期待できない。

「副店長でしたらレジ係の管理もしていて、彼女達とよく話すと思いまして。年齢も近いですし」
「年齢もって......彼女達から見たら私なんておばさんですよ」
「そんなことないです。きっと頼れるお姉さん的な存在だと思われてますよ」
「そうでしょうか」
 
 紙カップに視線を落として、照れた表情を浮かべる。
 彼女達との年の差はだいたい10歳ほど。
 雰囲気的にも話しやすいオーラが出ているので親しみやすいのであろう。

「......女子高生が貰って一番喜ぶ物......というより、私が一番されて嬉しいことなんですけど」

 数秒考えた後、ゆっくりと丁寧に話し始めた。

「なんでしょう」
「ショッピングに誘ってみてはいかがでしょうか?」

 俺も一度はショッピングという案が頭の中に浮かんだが、面白味がなく、すぐに消えた。

「当然普通のショッピングではありません。サプライズ・ショッピングです」

 副店長は俺の考えを察したのか、そう続けた。
 口調もいつの間にか会議でプレゼンをしているような口調になっている。

「女の子、特に中学生・高校生はサプライズな行いに弱いです。私の友人も高校時代、恋
人から指輪をサプライズで頂いて喜んでいました」

 高校生が恋人に指輪とは、また随分と愛情表現がド直球で。 
 若さゆえの勢いというやつだろうか。
 俺の高校時代とは真逆で羨ましい限りだ。 

「誘う時は自分の買い物に付き合ってくれないか? 等でかまいません。大事なのは当日、お店に着いてからです」

 冷静な口調だが、段々と話に熱が入ってきているのが分かる。

「浅田さんのお洋服を買いに来たと見せかけて、実は妹さんのお洋服を買いに来たんだと告白する......私が浅田さんの妹さんでしたら、感動してその場で泣いちゃいます」

 正確にはロコは妹ではなく元・飼い犬で姉(自称)なのだが。
 でもロコも女の子でJK。実行してみる価値はありそうだ。
 真剣に語る副店長の案に、俺は説得力を感じた。

「サプライズショッピング......面白そうですね。まぁ、その場で泣かれるのはこちらもだいぶ照れくさいですけど」
「ものの例えです」

 ロコに泣いて喜んでもらおうとまではいかなくても、あいつがサプライズをされて、いったいどんな反応をするのか興味深い。
 その流れで喜んでくれれば俺は本望だ。
 
「ありがとうございます。副店長の案、早速使わせて頂きますね」

 俺は太ももの上に両手を置き、軽く頭を下げた。

「いえいえ。こんな提案しかできなくて申し訳ないです」

 副店長は頭を横に振り、本当に申し訳なさそうな表情を浮かべた。
 俺の方こそ、大事な休憩時間に相談に乗ってもらって申し訳ないのに。
 そんな副店長の表情を変えたい思いで、話題を変えた。

「――副店長って、そういうのが好みだんですね」
「意外でした?」
「いえ、その......可愛いなって」
「!? ゴホッ!」

 口に含んでいたカフェオレが変なところに入ってしまったようで、副店長が思いきりせき込んでしまった。

「大丈夫ですか!?」
「......もう、浅田さんが変なこというからですよ」 
「すいません」
「............ありがとうございます」

 今何か呟いたような気がしたが......店内からの呼び出し音と被ったこともあって、よく聞き取れなかった。

「さぁ、午後からも気合入れて頑張りましょう。浅田さんも、早く部門リーダーになれるよう頑張って下さいね」
「......善処します」

 副店長はスマホを操作しながら、いそいそと先に店内へと戻っていた。 

 

「――剣真、聞いてる?」
「......悪い。聞いてなかった。なんだ?」
「お昼どうしようかって話」
「さっき朝ごはん食べたばっかりでもうお昼ごはんの話かよ」
「だって新宿だよ。美味しいお店がいっぱいだよ。テンション上がるに決まってんじゃん」

 こいつには何かプレゼントを買ってあげるより、美味しいものでも食べさせた方が喜ぶのではなかろうか?
 若干の不安を抱きながら、俺達が乗った電車は新大久保を発車し、まもなく新宿に到着する。  
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