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第16話
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午後2時30分。
休憩室の戸を開けると、そこには誰の姿もなかった。
本当はロコを店舗の近くにある某有名ハンバーガーチェーン店に連れて行くつもりだったが、「せっかくだから、剣真の働いているお店の物が食べたい!」というロコの強い希望により、店内で昼食を取ること。
店内には休憩室が一階と二階に存在し、この二階の休憩室は基本的に食品部門以外のスタッフが利用することが多いので、この時間は誰もいないことがほとんど。
俺はそれを狙ってロコを二階に連れて来た。
「......良かった。やっぱり誰もいないな......あ、ポットはそこにあるから」
「ありがと~。剣真のお味噌汁も一緒にお湯入れちゃうから、ちょうだい」
「お、サンキュー」
ロコは俺からインスタントの味噌汁を受け取ると、ポットの置いてある台へと向かった。
俺は店内で買った昼食を適当にテーブルの上に置くと、そのままイスに腰かけ、大きく息を吐き出した。
「剣真、大丈夫? なんか疲れてない?」
「まぁな......ただでさえ日曜日は朝から忙しい上に、いろいろあったからさ」
「......もしかして私、迷惑だった?」
「そんなわけないだろ。むしろ助かってる。あのままロコが引き受けてくれなかったら、どうなっていたか」
「そっか......なら、勇気を出して引き受けたかいがあったかな☆」
安心した表情をロコは浮かべると、ポットのボタンを押してお湯を注ぐ。
「でも良かったのか? せっかくの日曜日に。友達とどっか遊びに行ったりとか、なんか予定でもあっただろ」
「そんなの何も無いよー。どうせ家でスマホいじったり、テレビ見たり、いつもどおり目的の無い、ダラダラとした休日を過ごすだけだっだし。お礼を言いたいのはこっちの方。それにさ......お金も稼げて、しかも一日中剣真の近くにいられるなんて......私は幸せだよ」
ロコは頬を赤らめて、俺にはにかんだ口調で言った。
訊いたこちらまで恥ずかしくてムズムズしてしまう。
「......もう! お姉ちゃんに何言わせるの!」
「お前が勝手に言ったんだろうが! ......いいから、早くこっちに持って来い」
「むぅぅぅぅぅぅん」
ロコは唇を尖らせながら、俺の反対側に座った。
今日の俺の昼食は、おかかのおにぎりとサラダとインスタントの味噌汁。それから総菜コーナーで毎週日曜日限定で売られている、げんこつからあげ。
中でもげんこつからあげは大きさ以上に味の濃さが俺好みで、毎週日曜日の昼食に必ず選んでいる。
ロコの方はというと、野菜サンドにインスタントのコーンスープ。そして俺と同じくげんこつからあげ。こいつもこの香ばしい醤油の匂いに負けたらしい。
「それにしても、ロコが副店長に連れられてやって来た時はビックリしたな」
「ごめんね、驚かしちゃって。でも剣真、財布無くて困ってるだろうな~って思ったからさ。ついでに剣真の職場も見てみたかったし」
なんとなく最後の言葉がロコの本音な気がするが。
もし本当に親切心からの行動だったら悪いので、俺はそれ以上何も聞かないことにした。
「しっかし、妹設定とは考えたじゃないか」
「でしょ? いくらなんでも私と剣真の関係を言うわけにはいかないから。今は別々に暮らしている妹設定が妥当かなと」
「なるほど。その割にはお前、俺のことは『お兄ちゃん』じゃなくて剣真呼ばわりなのな」
「......おや~? 剣真は私に『お兄ちゃん☆』って呼んでほしいのかな~?」
「残念ながら俺にそんな性癖は微塵も無い」
「だよねー。 剣真はシスコンじゃなくてブラコンだもんねー」
「言ってろ」
俺はいつものようにロコの冗談を適当に受け流す。
「......このからあげ、美味しいね!」
「そうだろう。これ目当てで買いに来るお客さんもいるほどだからな」
ロコは名前の通りげんこつサイズもあるからあげを頬張ると、目を丸くした。
「でもちょっと味が濃いかも」
「その濃さがたまらないんだよ。仕事で疲れた身体を、このしょっぱさが癒してくれて」
「剣真はこのくらいの味付けが好みなの?」
「う~ん。好みと言えば好みだな」
「そうなんだ......じゃあ今度、家で作ってあげようか?」
「え? お前、この味を再現できるのか?」
「多分だけど......なんとなく味付けに何が使われているかはだいたい分かったかな」
ロコは再び口の中にげんこつからあげを入れると、味を確かめるように咀嚼し、飲み込んだ。
「マジか!? 流石は元・柴犬JK」
「それ、元・柴犬JK関係無いし」
感心する俺を見て、鼻を鳴らしてくすくす笑うロコ。
そういや犬の味覚は人間の5分の1だとか、昔聞いた気が。
「最初に説明した通りだけど、夕方6時で終わりだからな」
「うん。大丈夫だよ。この調子でガンガンホットケーキ焼いて、剣真の部門の売り上げに貢献してあげるから」
「期待してるよ」
「へへぇ~☆」
鼻の下を人差し指でこすりながら、ロコは満面の笑みを浮かべた。
まだアルバイトを始めて三時間しか経過していない人間の言葉とは思えない、頼もしい言葉だ。
「あと俺も今日は6時で帰れそうだから。良かったら一緒に帰るか?」
「本当!? モチのロンだよ~♪ じゃあ終わったらさ、せっかくだしここで夕飯の買い物してこう?」
できればあまりロコと買い物しているところを店舗の仲間に見せたくはなかったが...
...今更か。
俺とロコは他者には言えない関係だけど、決して恥ずかしい関係ではないのだから。
「了解。でも今日は流石に料理しなくてもいいんじゃ――」
「よーし! 今日は剣真と一緒に仕事した記念に、腕によりをかけて料理するよ~♪」
「......聞いてないし」
一人テンションの上がるロコを目の前に、俺は苦笑いを浮かべながらインスタントの味噌汁をすすった。
休憩室の戸を開けると、そこには誰の姿もなかった。
本当はロコを店舗の近くにある某有名ハンバーガーチェーン店に連れて行くつもりだったが、「せっかくだから、剣真の働いているお店の物が食べたい!」というロコの強い希望により、店内で昼食を取ること。
店内には休憩室が一階と二階に存在し、この二階の休憩室は基本的に食品部門以外のスタッフが利用することが多いので、この時間は誰もいないことがほとんど。
俺はそれを狙ってロコを二階に連れて来た。
「......良かった。やっぱり誰もいないな......あ、ポットはそこにあるから」
「ありがと~。剣真のお味噌汁も一緒にお湯入れちゃうから、ちょうだい」
「お、サンキュー」
ロコは俺からインスタントの味噌汁を受け取ると、ポットの置いてある台へと向かった。
俺は店内で買った昼食を適当にテーブルの上に置くと、そのままイスに腰かけ、大きく息を吐き出した。
「剣真、大丈夫? なんか疲れてない?」
「まぁな......ただでさえ日曜日は朝から忙しい上に、いろいろあったからさ」
「......もしかして私、迷惑だった?」
「そんなわけないだろ。むしろ助かってる。あのままロコが引き受けてくれなかったら、どうなっていたか」
「そっか......なら、勇気を出して引き受けたかいがあったかな☆」
安心した表情をロコは浮かべると、ポットのボタンを押してお湯を注ぐ。
「でも良かったのか? せっかくの日曜日に。友達とどっか遊びに行ったりとか、なんか予定でもあっただろ」
「そんなの何も無いよー。どうせ家でスマホいじったり、テレビ見たり、いつもどおり目的の無い、ダラダラとした休日を過ごすだけだっだし。お礼を言いたいのはこっちの方。それにさ......お金も稼げて、しかも一日中剣真の近くにいられるなんて......私は幸せだよ」
ロコは頬を赤らめて、俺にはにかんだ口調で言った。
訊いたこちらまで恥ずかしくてムズムズしてしまう。
「......もう! お姉ちゃんに何言わせるの!」
「お前が勝手に言ったんだろうが! ......いいから、早くこっちに持って来い」
「むぅぅぅぅぅぅん」
ロコは唇を尖らせながら、俺の反対側に座った。
今日の俺の昼食は、おかかのおにぎりとサラダとインスタントの味噌汁。それから総菜コーナーで毎週日曜日限定で売られている、げんこつからあげ。
中でもげんこつからあげは大きさ以上に味の濃さが俺好みで、毎週日曜日の昼食に必ず選んでいる。
ロコの方はというと、野菜サンドにインスタントのコーンスープ。そして俺と同じくげんこつからあげ。こいつもこの香ばしい醤油の匂いに負けたらしい。
「それにしても、ロコが副店長に連れられてやって来た時はビックリしたな」
「ごめんね、驚かしちゃって。でも剣真、財布無くて困ってるだろうな~って思ったからさ。ついでに剣真の職場も見てみたかったし」
なんとなく最後の言葉がロコの本音な気がするが。
もし本当に親切心からの行動だったら悪いので、俺はそれ以上何も聞かないことにした。
「しっかし、妹設定とは考えたじゃないか」
「でしょ? いくらなんでも私と剣真の関係を言うわけにはいかないから。今は別々に暮らしている妹設定が妥当かなと」
「なるほど。その割にはお前、俺のことは『お兄ちゃん』じゃなくて剣真呼ばわりなのな」
「......おや~? 剣真は私に『お兄ちゃん☆』って呼んでほしいのかな~?」
「残念ながら俺にそんな性癖は微塵も無い」
「だよねー。 剣真はシスコンじゃなくてブラコンだもんねー」
「言ってろ」
俺はいつものようにロコの冗談を適当に受け流す。
「......このからあげ、美味しいね!」
「そうだろう。これ目当てで買いに来るお客さんもいるほどだからな」
ロコは名前の通りげんこつサイズもあるからあげを頬張ると、目を丸くした。
「でもちょっと味が濃いかも」
「その濃さがたまらないんだよ。仕事で疲れた身体を、このしょっぱさが癒してくれて」
「剣真はこのくらいの味付けが好みなの?」
「う~ん。好みと言えば好みだな」
「そうなんだ......じゃあ今度、家で作ってあげようか?」
「え? お前、この味を再現できるのか?」
「多分だけど......なんとなく味付けに何が使われているかはだいたい分かったかな」
ロコは再び口の中にげんこつからあげを入れると、味を確かめるように咀嚼し、飲み込んだ。
「マジか!? 流石は元・柴犬JK」
「それ、元・柴犬JK関係無いし」
感心する俺を見て、鼻を鳴らしてくすくす笑うロコ。
そういや犬の味覚は人間の5分の1だとか、昔聞いた気が。
「最初に説明した通りだけど、夕方6時で終わりだからな」
「うん。大丈夫だよ。この調子でガンガンホットケーキ焼いて、剣真の部門の売り上げに貢献してあげるから」
「期待してるよ」
「へへぇ~☆」
鼻の下を人差し指でこすりながら、ロコは満面の笑みを浮かべた。
まだアルバイトを始めて三時間しか経過していない人間の言葉とは思えない、頼もしい言葉だ。
「あと俺も今日は6時で帰れそうだから。良かったら一緒に帰るか?」
「本当!? モチのロンだよ~♪ じゃあ終わったらさ、せっかくだしここで夕飯の買い物してこう?」
できればあまりロコと買い物しているところを店舗の仲間に見せたくはなかったが...
...今更か。
俺とロコは他者には言えない関係だけど、決して恥ずかしい関係ではないのだから。
「了解。でも今日は流石に料理しなくてもいいんじゃ――」
「よーし! 今日は剣真と一緒に仕事した記念に、腕によりをかけて料理するよ~♪」
「......聞いてないし」
一人テンションの上がるロコを目の前に、俺は苦笑いを浮かべながらインスタントの味噌汁をすすった。
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