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第121話 埋没! 眠りし財宝を少女は起こす! (Bパート)
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かなみとみあが千歳のロープを使って、大穴を降りていく。
「こっちよ」
千歳の案内でさらに下へと伸びる穴へ向かっていく。
「お宝はこっちなんですか?」
「うん、おそらくね」
「おそらく……」
かなみは千歳のその返事に一抹の不安を覚える。
「暗いわね……」
みあがぼやく。
「そう?」
穴の方は陽の光は差し込まず、灯りはまったくなく真っ暗闇だった。
「これくらい大丈夫でしょ」
かなみは嫌味なく答える。
「夜目がきく貧乏人は黙ってなさい」
「私もちょっと暗いわね。リュミィ、お願いできるかしら?」
『うん!』
千歳が訊くとリュミィは元気よく答えて光り出す。
「灯りにちょうどいいわね」
「リュミィってそういうこともできるのね。今度電気止められたら頼もう」
かなみがそう言うと、リュミィは上機嫌に飛び回る。
「フフ、いい子ね」
千歳はリュミィを褒める。
「さ、行きましょう」
千歳とリュミィを先頭に穴の奥深くを進んでいく。
数分歩き続けると狛犬の石像があった。
「これが宝を守る番人なの?」
かなみは石像を指して訊く。
「そうでもあるけど、もう一人いるわよ」
「え……?」
かなみは青ざめる。
その一人というのは、千歳が話した彼女がいるということになるが……。
ヒュン!
一陣の風が吹く。
地下の穴から吹くはずのない風だった。
それは誰かが入ってきた風。足音のないのに誰かが入ってきた。
その誰かというのは足が無かったからだ。
「きゃー!?」
かなみはとっさに一歩引いてかわす。
「狼藉者!」
その誰かは女性の姿をしていた。
女性は刀を持っていて、その刃をかなみに振るわれたのだ。
「きゃー、制服があああああッ!?」
刀の一撃をかわしたはずだったかなみは、制服を斬られていた。
斬られた制服の襟から胸がばっさりと地面に落ちる。
「上手くかわしたようだが、次はこうはいかない!」
彼女は刀を上段に構える。
「ちょ、ちょちょ、ちょっと待って! 私達は埋蔵金を狙って! いや、狙ってるけど、分けてもらって! はい、千歳さん!!」
かなみは千歳に救いの視線を求める。
「宮子ちゃん、久しぶりね。私のことは憶えているかしら?」
千歳は親しげな態度で語りかける。
「………………」
宮子と呼ばれた女性は、刀を構えたまま千歳を凝視して静止する。
「……誰だ?」
女性が放った一言により、一同は愕然とする。
「私よ私。忘れてしまったの?」
千歳はめげずに語りかける。
「それじゃ、詐欺の物言いじゃないの」
みあがぼやく。
「おのれ、謀ったか!? 真っ二つにしてくれる!!」
宮子はかなみへと振り下ろす。
「ちょちょっとやめてください!?」
かなみは再び後ろに飛んでこれをかわす。
「私の太刀をかわすとは、只者ではないな!?」
「そういうあなたこそ只者ではありませんよね」
かなみは宮子の(足はないけど)足元を指差す。
「この矢倉宮子! 死にたりとも御殿様の財宝は賊に渡しはしない!!」
「だから、私達は賊じゃないんです! 信じてください! ほら、あの人! あなたと同じ幽霊ですよ!?」
かなみは千歳を指差す。
「なに? 私と同じ幽霊?」
宮子は千歳をもう一度見る。
「私のことを思い出したの?」
「その出で立ち見覚えがある……お主、名は何という?」
「千夜千歳」
「せんや、ちとせ……その名前、聞き覚えが……」
「思い出した? ああ、そういえば、前会った時は髪型違っていたわね!」
千歳は左右に結っていた髪の片方を手刀で切り落とす。
「これでどう?」
「おお、思い出した!? あれは三十年前か!? 随分とご無沙汰だったな!」
「いやねえ、四十年前ぶりでしょう」
宮子と千歳はそれぞれ別の年数を言い出した。
「どっちが本当なのかしら?」
「どっちも信用ならないわね、五十年くらい前じゃないの」
みあがぼやくと、千歳と宮子は「何言っているの?」と言いたげな視線を移す。
「「そんなに間違えてない」」
「さすがにそんなに前ということはない」
「十年の間違いはさすがにねえ」
「だが、それだといつ以来の再会となるか……」
「大したことではないでしょう。こうして再会できたのだから」
「それもそうだな。久しぶりに会えて嬉しい」
宮子はニコリと微笑む。
その微笑みのおかげで、彼女から放たれていた辺りを包むようにあった緊張が解ける。
「ところで、この娘達は?」
宮子はかなみ達のことを千歳に訊く。
「――孫よ」
「なんと!?」
「違う!」
驚いた宮子に、みあが速攻で否定する。
「かなみちゃんもみあちゃんも私の孫みたいなものじゃないの」
「それは……」
かなみははっきりと答えられなかった。
「はっきり言った方が良いわよ。そうじゃないとあいつは喜んでこれから「私の孫よ!」って紹介され続けることになるわよ」
「う、それはちょっと嫌かも……」
「だったら、はっきり言いなさいな。かといって聞くような人じゃないと思うけど」
「それで結局、千歳とお前達の関係は何なのだ?」
「仲間です!」
かなみはそう断言する。
「そうか。先程済まなかった。私は矢倉宮子と申します」
「阿方みあよ」
「結城かなみです。よろしくお願いします」
かなみは宮子から差し出された手をとろうとする。
「あ、あれ?」
かなみの手は宮子の手をすりぬけてしまう。
「あ、これは失礼した」
「幽霊ですから、触れませんでした……幽霊……」
かなみは宮子が幽霊であることを思い出して青ざめる。
「む、どうしたのだ?」
「かなみちゃん、幽霊が苦手なのよ」
「そうなのか。千歳と一緒にいるのに苦手なのか?」
「そうなのよ。不思議なことにね」
「だって、幽霊ですよ! 幽霊ってそこになにもないはずなのにあるっていうわけがわからないものなんですよ!?」
かなみは必死に幽霊の怖さを説こうとする。
「わけがわからないものか……たしかにそうだな」
宮子はそう言われて、同意する。
「気づいたら幽霊になっていたものね」
「気づいたらなるものなの?」
みあは宮子に訊く。
「そうだな……ただいつ頃私も幽霊になったのかはよく憶えていない……」
「そうなんですか? 死んだ時のことはよく憶えてないんですか?」
かなみは意外そうに訊く。
「数百年も前の話だからな。百年前のことだって憶えていないだだろ?」
「百年どころか十年しか生きていないんだからそんなのわからないわよ。まあ確かに十年前のことなんて憶えてないわね」
十歳のみあが言う。
「みあちゃんはそうでしょうね。私だって四歳の頃はあんまり憶えてないわよ」
かなみは苦笑しながら言う。
「私達なんてまさに十年一日というものだものね」
千歳は宮子に言う。
「十年一日か、言われてみればそうだな」
「あの、宮子さんはずっとここに住んでいるんですか?」
「ああ、そうだな。財宝を狙う者達から財宝を守るのが私の御役目だ」
「そ、そうですか……」
宮子の力強い一言に、かなみは申し訳無さがこみ上げてくる。
何しろその彼女が守るべき財宝を分けてもらう交渉にやってきたのだから。
「宮子ちゃんはずっとここにいるの?」
「そうだ、ずっとここにいる。ずっとここで財宝を守っている」
「その想いの強さが宮子ちゃんをこの世に留めているのね」
「おそらくな。殿様が承った御役目、死んでも守り通すと誓った」
「それで本当に死んでも守るなんてね」
みあも宮子の信念に感心する。
「どうするの?」
みあはかなみに訊く。
「どうするって……」
ここに来るまで宝を分けてもらおうと意気揚々とやってきた。
しかし、いざ宮子が財宝を守っている様、信念をみて、安々と分けてもらおうなんて言うのははばかられた。
「ところで、今日は何の用できたのだ?」
宮子にそう言われて、かなみはギクッと身体を震わせる。
「かなみちゃん?」
千歳はかなみに振る。
「言いづらかったら、私から言おうかしら?」
そんな提案をしてくれる。
「私から言います」
しかし、かなみは自分から言わないといけないと思った。
「宮子さん、あなたが守っている財宝を少しだけわけてください」
かなみは深々と一礼して頼み込む。
「私の守っている財宝を……?」
宮子は怪訝そうな目で、かなみを見る。
「……何やら事情がありそうだな。千歳の知り合いであることもさることながら、ただならぬ物言い……」
「かなみちゃん、事情を話してあげて」
千歳に促されて、かなみは話した。
父親が作った借金を返していけないこと。そのために、魔法少女として悪の怪人と戦っていること。その過程で千歳と出会ったこと。そこまで話して、宮子は納得したように「ふむ」と相槌を打つ。
「只者ではない気がしていたが、それほどとは……」
「ここにいるみあちゃんも魔法少女なのよ」
千歳は自慢げにみあを紹介する。
「魔法少女……面妖な響きにも聞こえるが、不思議と力強さも感じる」
「かなみちゃんもみあちゃんも強いわよ」
「そうか、強いか……」
宮子はそう言われて、かなみを見据えて言う。
「結城かなみ、一つ試させてもらっていいだろうか?」
「試すって何をですか?」
「――私と一勝負してもらう」
かなみ達は一度穴から外に出る。
「日の光を浴びたのは久しぶりだ」
宮子はそんなことを言っていた。
「土砂災害で埋まってから外に出てなかったのね」
千歳は宮子に言う。
「ああ、この穴から離れるわけには行かなかったからな」」
「財宝を守るため、その想いに縛られていたのね」
「縛られていた、か。そういうことだな。私はずっとこの財宝を守るその一念でこの世に留まっていた。だからこの場から離れられなかった」
宮子は自嘲するように千歳に語る。
「宮子ちゃん、あなたはそれを終わりにしたいのね」
千歳はそんな宮子を見て言う。その一言は宮子には聞こえていなかった。
地上に出て、宮子はかなみと迎え合う。
「私に勝てれば財宝を譲り渡す。いいな?」
「はい!」
かなみは力強く答える。
宮子は幽霊で、幽霊は怖い。
その想いは変わらないものの、向き合わなければならないと思った。
財宝は手に入れることももちろんのことだけど、それ以上に宮子と戦うことは宮子自身の望みに思えてならない。
「マジカルワーク!」
かなみはコインを放り投げて、黄色の魔法少女に変身する。
「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」
かなみはお馴染みとなる本日二度目の名乗り口上を上げる。
「なるほど、これが魔法少女か……ならば、藩士・矢倉宮子! 推して参る!!」
宮子は同じように名乗りを上げ、刀を構える。
「い、いや、そんなつもりじゃ……」
カナミはその気迫にたじろぐ。
「カナミちゃん、負けないようにね!」
千歳は声援を送る。
「う、うん……!」
カナミもステッキを構える。
宮子の切れ味は、先ほど身をもって知っている。その斬撃の速度も。
ヒュン!
斬撃が飛んでくる。
「――!」
カナミはこれをかわす。
「見事、かわしたか」
「かわすのが精一杯ですよ!」
カナミが魔法弾を撃つ体勢に入る前に斬撃がくる。
「わわッ!?」
カナミはこれを避け続ける。
「速いわね、カナミでもかわすのが精一杯だわ」
みあはその速度に感心する。
「宮子ちゃんは財宝を守るために、死んでからも腕を磨き続けていたわ。魔法少女や仙人にも負けないくらいに」
「死んでからも、なんてあたしには想像がつかないわ。何がそうさせるの?」
みあの問いかけに、千歳は宮子を見据えて言う。
「忠誠心……と、一言で言えば簡単だけど、実際のところ、宮子ちゃん自身にもよくわからなくなってきてるかもしれいわね」
「どういうこと?」
「数百年、私にも想像がつかないくらい長い年月。それだけの年月があったら人間の心は揺らぐわ。どんなに強い信念をもって始めたとしてもね。だからこそ確かなものを確かめるために今ああしてるのでしょうね」
「そんなものなの?」
「そんなものよ」
カキィン!!
そんな話をしているうちに、宮子の刃がかなみに届く。
そのカナミはすんでのところで、ステッキを引き抜いて刃で受け止めていた。
「やるな!」
「これで手一杯ですけど!」
「そうでもあるまい!」
「買いかぶりです!」
キィン! キィン! キィン! キィン!
カナミは、そのたびにやってくる斬撃をなんとかステッキの刃で止めていく。
(だんだん見えてきた。宮子さんの刀が!)
最初のうちは防御が精一杯だったけど、だんだん見えてきたおかげで、だんだん構える余裕が出てくる。
「やあッ!」
そうして反撃に転じる。
キィン!!
この反撃は、宮子は刀を縦に構えて防がれる。
「むッ!」
しかし、この反撃に宮子は驚愕する。
「やはり、思った通りだ」
宮子の顔はすぐに満足気な笑みに変わる。
「……どうして?」
そんな宮子の様子を見て、カナミは疑問に思った。
(どうして、そんなに嬉しそうなの?)
疑問を口にする前に、宮子は刀を振り抜いてくる。
キィン! キィン! キィン! キィン!
再びカナミと宮子の刃がぶつかり合う。
刃の閃きにカナミは宮子の顔が浮かんでくる。
顔の次は身体。それは実際に今目にしている幽霊の姿よりも鮮明に見えた。
「藩士・矢倉宮子! たとえ死しても殿様の財宝をお守り致します!」
刃の閃きから浮かぶ宮子は確かにそう言っていた。
幻ではなかった。
太刀筋は口よりも雄弁に語る。
宮子の想いが文字通り刀に乗せてカナミへと向かっている。
「私は来る日も来る日も財宝を狙う不埒者を追い払ってきた」
積年の想いが刀を通してカナミへ伝わってくる。
「いつしか私の身体は限界を迎えた。しかし、たとえ死しても守る誓いのため、身体は朽ち果てても刀を振るい続けてきた。守ってきた」
そこから宮子の声が続く。
数百年もの長い長い年月に込められた想いが斬撃に乗せて、カナミの胸に届いてくる。
「守って、守って、守って、守って、守って、守り続けてきた!」
「………………」
カナミは無言で受け続けた。
斬撃とともにその想いを。
「だが、もう守る意味は無いのかもしれない」
「――!」
互いの刃が揺れる。
突然やってきた宮子の斬撃はそう語ってきた。
その一撃に乗った一言は、これまでの力強く光り輝いていた斬撃が揺れる。
「私が使えていた殿様はすでにこの世になく、その家すらもう断絶したかもしれない」
斬撃が鈍くなる。
「ゆえに、私が守ると誓いを立てたものはもうなくなってしまった。もう守るものがないのに守り続ける意味は……」
その先、何を斬撃が語ったかわからなかった。
いや、カナミは無意識のうちに、斬撃を見ないようにした。
それを受け止めてしまったら、宮子がこの場から消えてなくなってしまいそうな気がしたから。
「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
宮子の斬撃に乗せた声をかき消すように、カナミは裂帛の気合で一撃を放つ。
カキィィィィィィィン!!
甲高い金属音が鳴り響く。
そして、ステッキに弾き飛ばされた宮子の刀が宙を舞う。
実体を失い、彼女の想いだけで形成された刀は、彼女の手から離れて霧散する。
それは同時に、彼女の想いもまた同じだった。
「……私の負けだ」
宮子は敗北を認める。
それも晴れやかな笑顔で。
「宮子さん……」
「財宝を守るために、全力を尽くしたのだ。悔いは無い」
宮子の姿が、さっきまで陽の光を受けてはっきりとみえていたのに、今は透けて見えている。
カナミは以前に似たような現象を目にしたことがある。
成仏している。
それを自分の手で行ってしまった罪悪感。
「魔法少女カナミ、君のせいではない。むしろ、感謝している。君が終わらせてくれたんだ」
「終わらせてよかったの、本当に……?」
「ああ、これで終われる。君に財宝を託して……」
「……そんな、そんな財宝を託されても……」
ゴロロロロン!!
カナミが言いかけたその瞬間、雷鳴が轟く。
「――!?」
空は晴れ模様。
いくら山の天気は変わりやすいといっても、異常だった。
「怪人!?」
山上の方にそれは立っていた。
「キンキンキンキンキン」
不気味な笑い声がやまびこのように聞こえてくる。
「耳障りね、何なのあの怪人?」
みあはコインを取り出す。
「わからないけど、財宝目当てかもしれないわね」
「何!? 財宝を!?」
宮子は身構える。
その手には刀は戻っていない。
「――この辺りに金の匂いがする」
笑い声とともに、怪人は語る。
「こっちよ」
千歳の案内でさらに下へと伸びる穴へ向かっていく。
「お宝はこっちなんですか?」
「うん、おそらくね」
「おそらく……」
かなみは千歳のその返事に一抹の不安を覚える。
「暗いわね……」
みあがぼやく。
「そう?」
穴の方は陽の光は差し込まず、灯りはまったくなく真っ暗闇だった。
「これくらい大丈夫でしょ」
かなみは嫌味なく答える。
「夜目がきく貧乏人は黙ってなさい」
「私もちょっと暗いわね。リュミィ、お願いできるかしら?」
『うん!』
千歳が訊くとリュミィは元気よく答えて光り出す。
「灯りにちょうどいいわね」
「リュミィってそういうこともできるのね。今度電気止められたら頼もう」
かなみがそう言うと、リュミィは上機嫌に飛び回る。
「フフ、いい子ね」
千歳はリュミィを褒める。
「さ、行きましょう」
千歳とリュミィを先頭に穴の奥深くを進んでいく。
数分歩き続けると狛犬の石像があった。
「これが宝を守る番人なの?」
かなみは石像を指して訊く。
「そうでもあるけど、もう一人いるわよ」
「え……?」
かなみは青ざめる。
その一人というのは、千歳が話した彼女がいるということになるが……。
ヒュン!
一陣の風が吹く。
地下の穴から吹くはずのない風だった。
それは誰かが入ってきた風。足音のないのに誰かが入ってきた。
その誰かというのは足が無かったからだ。
「きゃー!?」
かなみはとっさに一歩引いてかわす。
「狼藉者!」
その誰かは女性の姿をしていた。
女性は刀を持っていて、その刃をかなみに振るわれたのだ。
「きゃー、制服があああああッ!?」
刀の一撃をかわしたはずだったかなみは、制服を斬られていた。
斬られた制服の襟から胸がばっさりと地面に落ちる。
「上手くかわしたようだが、次はこうはいかない!」
彼女は刀を上段に構える。
「ちょ、ちょちょ、ちょっと待って! 私達は埋蔵金を狙って! いや、狙ってるけど、分けてもらって! はい、千歳さん!!」
かなみは千歳に救いの視線を求める。
「宮子ちゃん、久しぶりね。私のことは憶えているかしら?」
千歳は親しげな態度で語りかける。
「………………」
宮子と呼ばれた女性は、刀を構えたまま千歳を凝視して静止する。
「……誰だ?」
女性が放った一言により、一同は愕然とする。
「私よ私。忘れてしまったの?」
千歳はめげずに語りかける。
「それじゃ、詐欺の物言いじゃないの」
みあがぼやく。
「おのれ、謀ったか!? 真っ二つにしてくれる!!」
宮子はかなみへと振り下ろす。
「ちょちょっとやめてください!?」
かなみは再び後ろに飛んでこれをかわす。
「私の太刀をかわすとは、只者ではないな!?」
「そういうあなたこそ只者ではありませんよね」
かなみは宮子の(足はないけど)足元を指差す。
「この矢倉宮子! 死にたりとも御殿様の財宝は賊に渡しはしない!!」
「だから、私達は賊じゃないんです! 信じてください! ほら、あの人! あなたと同じ幽霊ですよ!?」
かなみは千歳を指差す。
「なに? 私と同じ幽霊?」
宮子は千歳をもう一度見る。
「私のことを思い出したの?」
「その出で立ち見覚えがある……お主、名は何という?」
「千夜千歳」
「せんや、ちとせ……その名前、聞き覚えが……」
「思い出した? ああ、そういえば、前会った時は髪型違っていたわね!」
千歳は左右に結っていた髪の片方を手刀で切り落とす。
「これでどう?」
「おお、思い出した!? あれは三十年前か!? 随分とご無沙汰だったな!」
「いやねえ、四十年前ぶりでしょう」
宮子と千歳はそれぞれ別の年数を言い出した。
「どっちが本当なのかしら?」
「どっちも信用ならないわね、五十年くらい前じゃないの」
みあがぼやくと、千歳と宮子は「何言っているの?」と言いたげな視線を移す。
「「そんなに間違えてない」」
「さすがにそんなに前ということはない」
「十年の間違いはさすがにねえ」
「だが、それだといつ以来の再会となるか……」
「大したことではないでしょう。こうして再会できたのだから」
「それもそうだな。久しぶりに会えて嬉しい」
宮子はニコリと微笑む。
その微笑みのおかげで、彼女から放たれていた辺りを包むようにあった緊張が解ける。
「ところで、この娘達は?」
宮子はかなみ達のことを千歳に訊く。
「――孫よ」
「なんと!?」
「違う!」
驚いた宮子に、みあが速攻で否定する。
「かなみちゃんもみあちゃんも私の孫みたいなものじゃないの」
「それは……」
かなみははっきりと答えられなかった。
「はっきり言った方が良いわよ。そうじゃないとあいつは喜んでこれから「私の孫よ!」って紹介され続けることになるわよ」
「う、それはちょっと嫌かも……」
「だったら、はっきり言いなさいな。かといって聞くような人じゃないと思うけど」
「それで結局、千歳とお前達の関係は何なのだ?」
「仲間です!」
かなみはそう断言する。
「そうか。先程済まなかった。私は矢倉宮子と申します」
「阿方みあよ」
「結城かなみです。よろしくお願いします」
かなみは宮子から差し出された手をとろうとする。
「あ、あれ?」
かなみの手は宮子の手をすりぬけてしまう。
「あ、これは失礼した」
「幽霊ですから、触れませんでした……幽霊……」
かなみは宮子が幽霊であることを思い出して青ざめる。
「む、どうしたのだ?」
「かなみちゃん、幽霊が苦手なのよ」
「そうなのか。千歳と一緒にいるのに苦手なのか?」
「そうなのよ。不思議なことにね」
「だって、幽霊ですよ! 幽霊ってそこになにもないはずなのにあるっていうわけがわからないものなんですよ!?」
かなみは必死に幽霊の怖さを説こうとする。
「わけがわからないものか……たしかにそうだな」
宮子はそう言われて、同意する。
「気づいたら幽霊になっていたものね」
「気づいたらなるものなの?」
みあは宮子に訊く。
「そうだな……ただいつ頃私も幽霊になったのかはよく憶えていない……」
「そうなんですか? 死んだ時のことはよく憶えてないんですか?」
かなみは意外そうに訊く。
「数百年も前の話だからな。百年前のことだって憶えていないだだろ?」
「百年どころか十年しか生きていないんだからそんなのわからないわよ。まあ確かに十年前のことなんて憶えてないわね」
十歳のみあが言う。
「みあちゃんはそうでしょうね。私だって四歳の頃はあんまり憶えてないわよ」
かなみは苦笑しながら言う。
「私達なんてまさに十年一日というものだものね」
千歳は宮子に言う。
「十年一日か、言われてみればそうだな」
「あの、宮子さんはずっとここに住んでいるんですか?」
「ああ、そうだな。財宝を狙う者達から財宝を守るのが私の御役目だ」
「そ、そうですか……」
宮子の力強い一言に、かなみは申し訳無さがこみ上げてくる。
何しろその彼女が守るべき財宝を分けてもらう交渉にやってきたのだから。
「宮子ちゃんはずっとここにいるの?」
「そうだ、ずっとここにいる。ずっとここで財宝を守っている」
「その想いの強さが宮子ちゃんをこの世に留めているのね」
「おそらくな。殿様が承った御役目、死んでも守り通すと誓った」
「それで本当に死んでも守るなんてね」
みあも宮子の信念に感心する。
「どうするの?」
みあはかなみに訊く。
「どうするって……」
ここに来るまで宝を分けてもらおうと意気揚々とやってきた。
しかし、いざ宮子が財宝を守っている様、信念をみて、安々と分けてもらおうなんて言うのははばかられた。
「ところで、今日は何の用できたのだ?」
宮子にそう言われて、かなみはギクッと身体を震わせる。
「かなみちゃん?」
千歳はかなみに振る。
「言いづらかったら、私から言おうかしら?」
そんな提案をしてくれる。
「私から言います」
しかし、かなみは自分から言わないといけないと思った。
「宮子さん、あなたが守っている財宝を少しだけわけてください」
かなみは深々と一礼して頼み込む。
「私の守っている財宝を……?」
宮子は怪訝そうな目で、かなみを見る。
「……何やら事情がありそうだな。千歳の知り合いであることもさることながら、ただならぬ物言い……」
「かなみちゃん、事情を話してあげて」
千歳に促されて、かなみは話した。
父親が作った借金を返していけないこと。そのために、魔法少女として悪の怪人と戦っていること。その過程で千歳と出会ったこと。そこまで話して、宮子は納得したように「ふむ」と相槌を打つ。
「只者ではない気がしていたが、それほどとは……」
「ここにいるみあちゃんも魔法少女なのよ」
千歳は自慢げにみあを紹介する。
「魔法少女……面妖な響きにも聞こえるが、不思議と力強さも感じる」
「かなみちゃんもみあちゃんも強いわよ」
「そうか、強いか……」
宮子はそう言われて、かなみを見据えて言う。
「結城かなみ、一つ試させてもらっていいだろうか?」
「試すって何をですか?」
「――私と一勝負してもらう」
かなみ達は一度穴から外に出る。
「日の光を浴びたのは久しぶりだ」
宮子はそんなことを言っていた。
「土砂災害で埋まってから外に出てなかったのね」
千歳は宮子に言う。
「ああ、この穴から離れるわけには行かなかったからな」」
「財宝を守るため、その想いに縛られていたのね」
「縛られていた、か。そういうことだな。私はずっとこの財宝を守るその一念でこの世に留まっていた。だからこの場から離れられなかった」
宮子は自嘲するように千歳に語る。
「宮子ちゃん、あなたはそれを終わりにしたいのね」
千歳はそんな宮子を見て言う。その一言は宮子には聞こえていなかった。
地上に出て、宮子はかなみと迎え合う。
「私に勝てれば財宝を譲り渡す。いいな?」
「はい!」
かなみは力強く答える。
宮子は幽霊で、幽霊は怖い。
その想いは変わらないものの、向き合わなければならないと思った。
財宝は手に入れることももちろんのことだけど、それ以上に宮子と戦うことは宮子自身の望みに思えてならない。
「マジカルワーク!」
かなみはコインを放り投げて、黄色の魔法少女に変身する。
「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」
かなみはお馴染みとなる本日二度目の名乗り口上を上げる。
「なるほど、これが魔法少女か……ならば、藩士・矢倉宮子! 推して参る!!」
宮子は同じように名乗りを上げ、刀を構える。
「い、いや、そんなつもりじゃ……」
カナミはその気迫にたじろぐ。
「カナミちゃん、負けないようにね!」
千歳は声援を送る。
「う、うん……!」
カナミもステッキを構える。
宮子の切れ味は、先ほど身をもって知っている。その斬撃の速度も。
ヒュン!
斬撃が飛んでくる。
「――!」
カナミはこれをかわす。
「見事、かわしたか」
「かわすのが精一杯ですよ!」
カナミが魔法弾を撃つ体勢に入る前に斬撃がくる。
「わわッ!?」
カナミはこれを避け続ける。
「速いわね、カナミでもかわすのが精一杯だわ」
みあはその速度に感心する。
「宮子ちゃんは財宝を守るために、死んでからも腕を磨き続けていたわ。魔法少女や仙人にも負けないくらいに」
「死んでからも、なんてあたしには想像がつかないわ。何がそうさせるの?」
みあの問いかけに、千歳は宮子を見据えて言う。
「忠誠心……と、一言で言えば簡単だけど、実際のところ、宮子ちゃん自身にもよくわからなくなってきてるかもしれいわね」
「どういうこと?」
「数百年、私にも想像がつかないくらい長い年月。それだけの年月があったら人間の心は揺らぐわ。どんなに強い信念をもって始めたとしてもね。だからこそ確かなものを確かめるために今ああしてるのでしょうね」
「そんなものなの?」
「そんなものよ」
カキィン!!
そんな話をしているうちに、宮子の刃がかなみに届く。
そのカナミはすんでのところで、ステッキを引き抜いて刃で受け止めていた。
「やるな!」
「これで手一杯ですけど!」
「そうでもあるまい!」
「買いかぶりです!」
キィン! キィン! キィン! キィン!
カナミは、そのたびにやってくる斬撃をなんとかステッキの刃で止めていく。
(だんだん見えてきた。宮子さんの刀が!)
最初のうちは防御が精一杯だったけど、だんだん見えてきたおかげで、だんだん構える余裕が出てくる。
「やあッ!」
そうして反撃に転じる。
キィン!!
この反撃は、宮子は刀を縦に構えて防がれる。
「むッ!」
しかし、この反撃に宮子は驚愕する。
「やはり、思った通りだ」
宮子の顔はすぐに満足気な笑みに変わる。
「……どうして?」
そんな宮子の様子を見て、カナミは疑問に思った。
(どうして、そんなに嬉しそうなの?)
疑問を口にする前に、宮子は刀を振り抜いてくる。
キィン! キィン! キィン! キィン!
再びカナミと宮子の刃がぶつかり合う。
刃の閃きにカナミは宮子の顔が浮かんでくる。
顔の次は身体。それは実際に今目にしている幽霊の姿よりも鮮明に見えた。
「藩士・矢倉宮子! たとえ死しても殿様の財宝をお守り致します!」
刃の閃きから浮かぶ宮子は確かにそう言っていた。
幻ではなかった。
太刀筋は口よりも雄弁に語る。
宮子の想いが文字通り刀に乗せてカナミへと向かっている。
「私は来る日も来る日も財宝を狙う不埒者を追い払ってきた」
積年の想いが刀を通してカナミへ伝わってくる。
「いつしか私の身体は限界を迎えた。しかし、たとえ死しても守る誓いのため、身体は朽ち果てても刀を振るい続けてきた。守ってきた」
そこから宮子の声が続く。
数百年もの長い長い年月に込められた想いが斬撃に乗せて、カナミの胸に届いてくる。
「守って、守って、守って、守って、守って、守り続けてきた!」
「………………」
カナミは無言で受け続けた。
斬撃とともにその想いを。
「だが、もう守る意味は無いのかもしれない」
「――!」
互いの刃が揺れる。
突然やってきた宮子の斬撃はそう語ってきた。
その一撃に乗った一言は、これまでの力強く光り輝いていた斬撃が揺れる。
「私が使えていた殿様はすでにこの世になく、その家すらもう断絶したかもしれない」
斬撃が鈍くなる。
「ゆえに、私が守ると誓いを立てたものはもうなくなってしまった。もう守るものがないのに守り続ける意味は……」
その先、何を斬撃が語ったかわからなかった。
いや、カナミは無意識のうちに、斬撃を見ないようにした。
それを受け止めてしまったら、宮子がこの場から消えてなくなってしまいそうな気がしたから。
「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
宮子の斬撃に乗せた声をかき消すように、カナミは裂帛の気合で一撃を放つ。
カキィィィィィィィン!!
甲高い金属音が鳴り響く。
そして、ステッキに弾き飛ばされた宮子の刀が宙を舞う。
実体を失い、彼女の想いだけで形成された刀は、彼女の手から離れて霧散する。
それは同時に、彼女の想いもまた同じだった。
「……私の負けだ」
宮子は敗北を認める。
それも晴れやかな笑顔で。
「宮子さん……」
「財宝を守るために、全力を尽くしたのだ。悔いは無い」
宮子の姿が、さっきまで陽の光を受けてはっきりとみえていたのに、今は透けて見えている。
カナミは以前に似たような現象を目にしたことがある。
成仏している。
それを自分の手で行ってしまった罪悪感。
「魔法少女カナミ、君のせいではない。むしろ、感謝している。君が終わらせてくれたんだ」
「終わらせてよかったの、本当に……?」
「ああ、これで終われる。君に財宝を託して……」
「……そんな、そんな財宝を託されても……」
ゴロロロロン!!
カナミが言いかけたその瞬間、雷鳴が轟く。
「――!?」
空は晴れ模様。
いくら山の天気は変わりやすいといっても、異常だった。
「怪人!?」
山上の方にそれは立っていた。
「キンキンキンキンキン」
不気味な笑い声がやまびこのように聞こえてくる。
「耳障りね、何なのあの怪人?」
みあはコインを取り出す。
「わからないけど、財宝目当てかもしれないわね」
「何!? 財宝を!?」
宮子は身構える。
その手には刀は戻っていない。
「――この辺りに金の匂いがする」
笑い声とともに、怪人は語る。
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