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第120話 結界! 少女二人の密室騒動劇!? (Cパート)
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「翠華さん? 翠華さん?」
自分を呼ぶ声がする。
「あ……」
気がつくと、かなみの顔が目に入ってきた。
「かなみさん!?」
「キャッ!?」
間近にかなみの顔を見てしまったので、突然声を上げてしまった。
「か、かか、かなみさん、ど、どど、どうしたの!?」
「あ、あの、翠華さんが寝ていたので……」
「寝てた……? 私、寝てた?」
翠華は意識がはっきりしてきて、記憶が途切れていることに気づく。
「いつの間に、私、寝てしまってて……」
知らない間に、疲れが溜まっていて、意識が落ちてしまっていたようだ。
そうなると、二人とも眠っていたことになる。
もし、そんなときに敵が襲ってきたとすると……考えるだけで寒気が走る。
「ごめんなさい、かなみさん!」
見張りをしておいて、なんたる失態か。
申し訳無さに穴があったら入りたくなる。
「いえいえ、翠華さんが謝ることじゃないです! 悪いのは何時間も寝ていた私の方です!」
「それは私が起こさなかったから! それで私が寝てしまったから私が悪いのよ!」
「どうして、起こさなかったんですか?」
かなみは申し訳無さそうに問いかける。
自分一人だけたっぷり睡眠を取ってしまったことに罪悪感を感じているのだろう。
「かなみさん、魔力を使い切ってしまって相当疲れてたみたいだから」
「けど、翠華さんも疲れてたんじゃないですか?」
「それは……」
翠華は言い訳のしようがなかった。
疲れてない、といったら、どうして寝てしまったのか。
自分でも気が付かないうちに疲れていた、としか言いようがないからだ。
「それなのに、私だけたっぷり眠ってしまってて……」
「それは気にしなくていいのよ。むしろ悪いのは起こさなかった上に眠ってしまった私なんだから」
「私が悪いです!」
「私が悪いのよ!」
「………………」
「………………」
二人の言い争いから睨み合いに変わる。
マニィやウシィが目覚めていたら、「やれやれ、またか」と呆れていることだろう。
「こんなことしても不毛ね……」
翠華はつぶやく。
「そうですね……」
かなみも同意する。
「そういえば、かなみさん。私を起こしたってことは、何かあったの?」
「あ、そうでした! あの、その……」
急に、かなみが顔を赤らめて、モジモジする。
「え、ど、どうしたの?」
翠華もその仕草にドギマギさせられる。
(え、かなみさん、何かあったの!? それとも何か言おうとしてるの!? も、もも、もしかして、告白!? このタイミングで!? 結界に閉じ込められて、一晩過ごしたから!? それにしても、こんなタイミングでなんて!?)
翠華は内心の動揺を抑えつつ、極めて冷静を装ってかなみへ訊く。
「言いづらいことでも言って? かなみさんの力になるから!」
「それじゃ、その……」
かなみは意を決したかのように翠華を見据える。ただし、モジモジは止まっていない。
「――トイレ、行きたいです」
「……え?」
翠華の動揺が止まる。同時に思考も。
「といれ?」
「はい、トイレです!」
「か、かなみさんがトイレ!?」
「あ、あの、そんなに驚かなくても……」
「おどろ……ハァハァ、そ、そうよね、かなみさんだってトイレくらいいくわよね……」
翠華はそう言って、驚きを抑えて冷静になっていく。
「私だって?」
かなみはその引っかかる言い方に首を傾げる。
「そ、それで、かなみさん? トイレは大丈夫なの?」
「え、あ、そうですね……小さい方なんですけど、ちょっと我慢するのが難しい、といいますか……」
「……それってつまり……」
翠華は言いかけて、こんなこと聞いていいのかと一瞬葛藤するが、意を決して訊く。
「――も、漏れそうってこと?」
「……は、はい」
「………………」
「………………」
気まずい沈黙が流れる。
「うー」
しかし、それは長く続かなかった。
かなみが唸り声を上げたからだ。
「か、かなみさん、大丈夫!?」
「は、はは、はい、だだだ、大丈夫です!」
「かなみさん、つらそうだけど……それはそうよね、あー! どうしましょう!?
翠華は頭を抱える。
かなみにはそんなことを考える余裕すらない。
「あ、あの……翠華さん、こ、ここ、こんなこと、いうのももも、な、なんです、けど……!」
「な、何、かなみさん!?」
翠華はかなみにそう言われて、ドキドキする。もっとも、さっきまでのドキドキとは別物なのだけど。
「こ、ここで、して、いいですか……?」
「して?」
翠華は一瞬理解できなかった。
理解すると自分の頭がおかしくなるから、頭が理解を拒否したのだろう。
しかし、それでも理解してしまうのが、悲しき性なのかもしれない。
「ええぇぇぇぇぇ、こ、ここ、ここでするのぉ!?」
「あ、いえいえ、最後の手段! 本当に最後の手段ですよ! このまま、脱出できなかったら、の話です!」
「脱出!? そうね、脱出ね! なんとかして脱出しないと!」
翠華は結界を見据える。
(とはいっても、この結界は手強い。ちょっとやそっとの攻撃じゃ壊せない。でも、グズグズしていたら、かなみさんが我慢できなくなって……あぁー! どうしたらいいのよ!?)
翠華は思考を張り巡らしてみるものの、妙案は思いつかない。
「かなみさん、もう少し我慢できる?」
「は、はい……もう少しと言わず、一日くらい……!」
「一日も?」
「あ、いえ、一時間くらい、いえ、十分くらい……!」
「そのくらいでしょうね……そのくらいでなんとかしないと……いざとなったら、私がかなみさんに負ければ……」
テリトリスが言う結界から出る条件「二人の魔法少女が戦って勝った一人だけ出ることができる」。
それが本当なら、かなみと翠華が戦って、かなみが勝てば出られることがない。
元々二人は戦うつもりはない。
どちらかがわざと負けることで、一人だけはできる。
しかし、それは最後の手段であり、どちらが負けるかなんてどちらも譲るつもりはないことだった。
でも、今は緊急事態だった。
「一刻も早く出ないと、かなみさんが……」
かなみが漏らしてしまうなんてことは絶対にあってはならない。
それは絶対に阻止しなければならない。
(魔法少女は絶対にお漏らししてはいけない! 魔法少女のかなみさんがお漏らしなんて……! あ、魔法少女……! 魔法少女なら!!)
翠華は妙案を思いつく。
そして、それを即座にかなみに提案する。時間がないのだから。
「かなみさん!」
「は、はい!」
「魔法少女に変身してみて!」
「え、変身って? なんでですか?」
「ひょっとしたら、魔法少女に変身したらトイレにいかなくてもすむかもしれないわ!」
「ど、どど、どういうことですか?」
かなみは身体とともに声を震わせる。
「――魔法少女はトイレに行かない!」
「えぇッ!?」
翠華の断言に、かなみは困惑する。
とはいっても、他に方法が無い。
「と、とにかく、変身ですね! マジカルワーク!!」
かなみはコインを天井へ舞い上げる。
コインから降り注ぐ光がカーテンとなって、そのカーテンの中で魔法少女の衣装へと身を包む。
「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」
内股気味の体勢でいつもの口上を言う。
「あ……」
そこで、カナミは気づく。
「翠華さん、平気です! 変身したら平気になりました!!」
「えぇ、本当!?」
「本当って……」
「あぁ、ごめんなさい……ひょっとしたらって思っただけで……ごめんなさい、いい加減なこと言ってしまって……」
「いえいえ、いい加減でも翠華さんが言ってくれなかったら、やろうとは思わなかったわ。ありがとうございます」
「カナミさんの役に立てて何よりよ。それに魔法少女に変身している間はトイレに行かなくて良くなるのね」
「そうですね、どうしてかはわからないですけど、とにかく今はありがたいですね」
「そうね。でも、変身がどのくらい持つかはわかりませんけど……」
魔法少女の変身は魔力を使っている。
魔力がある間は変身を維持し続けていられる。
ようするに携帯電話のバッテリーと同じで、変身していると電源が入っているのと同じ状態で何もしなくても魔力を消費し続けてしまう。
今はたっぷり寝て起きたばかりの状態だから魔力はだいぶ回復していて、すぐにきれることはない。ただ、それで具体的にあとどのくらい変身がもつかまでは、かなみ自身にもわからない。
「うかつに攻撃しない方がいいわね。魔力を消費すればそれだけ……」
翠華はそこまで言葉を濁す。
「トイレが近くなります!」
「え、ええ、そうね……」
カナミが素直にそう言うものだから、翠華は戸惑う。
「でも、結局は手詰まりなのよね……」
「社長の助けは期待できそうにないですし……」
「そうよね、私達二人でなんとかしないといけないのよね……私とカナミさんで……」
『わたしも!』
「あッ!?」
カナミの背中からリュミィが飛び出してくる。
「リュミィ!? あなた、いたのね」
『うん、気持ち悪かったからじっとしてた』
「気持ち悪い? それって、結界の中にいるから?」
『うーん、わかんないけど……とにかく気持ち悪い……』
「気持ち悪いって、大丈夫なのリュミィ?」
『大丈夫だけど、早くここから出たい』
「うん、私達も早く出たいんだけど……」
『出られないの?』
「出たいんだけど出られないの……」
『出たい!』
「出られないの」
『出たい、私出る!』
リュミィはあまりにも激しく主張する。
「リュミィ、そんなに出たいの?」
『出たい! ここ、気持ち悪い!』
「そうね、私も出たいわ。リュミィ、力を貸してくれる?」
『もちろん!』
リュミィは光の粒子になって、カナミの背中へと集約し、七色に光り輝く妖精の羽となる。
「フェアリーフェザー!!」
『やっぱり気持ち悪い……』
「大丈夫なの?」
『大丈夫! よし、出る!』
「え!?」
リュミィはそう言って、カナミの背中の羽を無理矢理動かせる。
「なにするつもりなの!?」
『えいッ!』
カナミはそのまま壁に突撃する。
しかし、ぶつかったのは壁の手前にある結界にぶつかってしまった。
バタン!
「あいたッ!?」
透明なガラス板に当たったみたいに止まる。
「リュミィ、なんてことをするのよ?」
『出たい! 出る!』
「私も出たいけど、結界があるのよ!」
『けっかい? それがあるから気持ち悪いんだね!』
「そうかもしれないけど」
『結界から出る! そりゃ!!』
「そりゃって!?」
カナミは勝手に羽を動かせて、困惑する。
今までこの羽は生まれたときからあったみたいに、手足と同じように羽ばたかせて身体を浮かび上がらせることができた。
それがリュミィが勝手に動かしていくのは初めてだった。
自分の身体なのに、自分の言う事をきかない。
戸惑いと歯がゆさに駆られる。
「リュミィ!? 何をするつもりなの!?」
『こうする!!』
リュミィは勝手にカナミの羽を羽ばたかせる。
羽が羽ばたくたびに、身体が浮かび上がるのではなく、浮かび上がるような感覚に陥る。
それは、身体に集まってくる魔力によって意識が文字通り飛びそうになったのだ。
リュミィの力――妖精の羽は、空気中に紛れ込んでいる魔力をかき集める。そのおかげでつかいきった魔力がすぐに回復する。
しかし、それは取り込みすぎて次元を超えて別の世界の魔力まで吸い寄せてしまい、逆に別の世界に吸い寄せられてしまったことがある。
今の状態がその時の感覚に近い。
意識と身体が別々に引き離されていくような感覚。
自分の後頭部や背中が見えてしまう。
「リュミィ、やめて!!」
カナミは、このままではまずいと思い、叫ぶ。
『えええええいッ!!』
しかし、その制止をきかず、リュミィは羽を羽ばたかせる。
羽が羽ばたくたびに魔力が身体に集まってくるのと同時に自分の意識と身体が遥か上空に飛び上がりそうな感覚に陥る。
このままだとまずいことになる。
そう思っていても、リュミィを止めることができない。
「リュミィ、やめてええええッ!! 止まってえええええッ!!」
カナミは力を振り絞って叫ぶ。
しかし、それはカナミの一心同体となっているリュミィにその声は届いたかどうかわからない。
『そりゃそりゃそりゃそりゃッ!!』
カナミの叫びもむなしく、リュミィは構わず羽を羽ばたかせる。
「何しようとしてるの!?」
『ここから出る!!』
リュミィはそう答えるやいなや、羽を羽ばたかせて魔力がどんどん集まってくる。
カナミの身体に相当な魔力が溜まってくる。
カナミは直感する。
この魔力を使えばこの高層ビルを跡形も無く吹き飛ばすどころか、周囲の建物すら巻き込んで更地にしてしまうことだって可能だということを。
(そうなったら、賠償金で借金がああああああッ!?)
社長と鯖戸が揃って、処刑宣告してくる絵面が浮かんで絶望する。
「リュミィ、お願いだからやめて! 下手にそんなもの撃ったらまずいから!!」
『とりゃぁぁぁぁぁぁッ!!』
身体の内側から響いてくるリュミィの叫びとともに、身体が空の彼方にまで引っ張られる感覚に襲われる。
「え!?」
一瞬、視界が虹色に染まった。その次の瞬間、カナミは部屋の扉の前に立っていた。
「カナミさん、どうやってそこに?」
「私にも何がなんだか……」
カナミは部屋の奥へと腕を伸ばしてみる。
その腕を伸ばしきる前に、何かにぶつかった。
コンコンとガラス板のような感触。それはこの部屋に閉じ込めている結界そのものだった。
結界は出入り口の扉の手前、壁の手前、窓の手前。
四方に貼られたと直方体の結界だということは確かめてみてわかっている。
しかし、カナミは今扉の前に立っている。
つまり、結界の外に立っているということになる。
どうやって、結界の外に立ったのか、よくわからない。
リュミィが叫んだと思ったら、身体がどこかへと引っ張られる感覚に襲われて、気づいたら、扉の前に立っていた。
結界が壊れたわけでも、壊したわけではない。
本当に気づいたら結界の外に立っていたのだから、わけがわからない。
「ともかく、私は結界の外に出れました。そうなったら!」
カナミは出入り口の扉へ腕を伸ばす。
「――俺を倒しに行ける、ってことか」
いつの間にか、部屋の片隅にいたテリトリスが声をかけてきた。
「いつの間に!?」
「結界が破られたわけではないのに。結界の外に出るなんて異常事態にいてもたってもいられなくなってな」
「いてもたってもって、そんなこと言っていいの? あんたを倒せば結界が消えるのよ!」
「そうだな、倒せたらな」
「余裕かまして!」
カナミはテリトリスへ魔法弾を撃つ。
バァン!
しかし、魔法弾はテリトリスに届くことは無かった。
「また結界!」
カナミは歯噛みする。
わけのわからないチカラとはいえ、一度は結界の外に出られたというのに、また結界に阻まれてしまう。
「俺の結界を突破するとは思わなかったが、二度はできない芸当のようだな」
「そ、そんなことはないわ! リュミィ、もう一度お願い!」
『うーん、できない』
リュミィから思いもよらない返答がくる。
「どうして?」
『もう気持ち悪くないから』
「気持ち悪くない? 結界の外に出たから? でも、あいつがまた結界をはってるじゃない」
「違うわ、カナミさん」
翠華は指摘する。
「目を凝らせばわかるわ。彼は一度結界を解いて、自分の周囲に結界を張り直したのよ」
「結界を張り直したんですか?」
「その証拠に……」
翠華は扉の前へ歩み寄る。
そこには結界が張ってあったはずなのに、特に何もなく翠華はドアノブに手をかけることまでできた。
「それじゃ、この部屋から出られるってことですか?」
「ええ、今結界は彼の周囲にしか貼られていない。自分の身を守るだけで精一杯みたいね」
「痛いところを突かれてしまったな……」
テリトリスは肯定する。
「どうする? このまま部屋を出るのは構わない。結界を破られた時点で俺の敗北だ」
「勝手に敗北宣言しないで! 私達はあなたを倒すのが仕事なんだから!」
「そうか。ならば俺の勝ちということか」
「勝手に勝利宣言もしないで!」
「やれやれ、勝手なことだ」
「勝手なことなのはあなたでしょ! 結界に閉じ込められてどれだけつらい目にあったと思ってるの!?」
「そんなにトイレ行けなかったのがつらかったのか?」
「うぅ!?」
カナミは言い淀む。
「カナミさん、あいつの言っていることなんて気にしないで!」
「わかってます!」
カナミは魔法弾をテリトリスへ撃つ。
魔法弾は結界に弾かれる。
魔法弾が弾き飛ばされることは、カナミにもわかっているはずなのに、撃たずにはいられないことが、カナミが冷静ではないことの証だった。
「カナミさん、まずゆっくりトイレ行きましょう」
翠華は冷静に落ち着かせるように言う。
「す、翠華さん、私は大丈夫ですよ!!」
カナミは反論する。
「あ、ご、ごめんなさい……」
翠華は反射的に謝る。
「い、いえ、私の方こそすみません……でも、私は大丈夫ですから」
その様子を見て、カナミはかえって冷静になる。
「無理することはない」
テリトリスはそう言って、トイレへ行くことを促す。
「無理なんかしてないわよ。それに目を離したすきにどこかへ逃げるつもりでしょ」
「そうだな、そのくらいしか俺が逃げる手段はないからな」
テリトリスはあっさり肯定する。
「ということは他に手段があるってことね」
「いや、他に手段はないさ。お前達が目を離した隙をみて逃げることしかできない」
「ずいぶん簡単に手の内を明かすのね。どういうつもりなの?」
「俺は隠し事が苦手なだけだ。それに俺の結界は破られることはない」
破られることはない。
テリトリスはそう断言する。
事実、テリトリスの結界はカナミや翠華がどんなに攻撃しても結界は破るどころかビクともしない。
「確かにその結界は強力なようだね」
「ウシシ、お嬢二人じゃ無理かもな」
カナミと翠華の肩にいつの間にか、マスコットの二匹が乗っかっていた。
「マニィ、気がついたの!?」
「まあ、結界が解けたからね」
「ウシシ、魔力供給のラインが再接続できたってわけだ」
「それはよかったけど……ウシィ? 私達二人じゃ無理かもって、結界は壊せないってこと?」
翠華が訊くと、ウシィは「ウシシ」と肯定する。
悔しいけど、二匹のマスコットが言うのももっともだからだ。
「お前達二人では俺の結界を壊すことはできない。大人しく帰ってもらうとありがたい」
「なんで、あんたがありがたせる必要があるのよ。それに壊すことができないなんてまだ決まったわけじゃないわ、神殺砲!」
カナミはステッキを砲弾へと変化させる。
「ダメよ、カナミさん! こんなところでそれを撃ったら、ビルが崩れるわ!!」
「あ……」
翠華の制止で、カナミはステッキを引っ込める。
「だったら、どうしたらいいんでしょうか?」
「それは……」
翠華は案が思いつかず、口をつぐむことしかできない。
「ねえ、マニィ? 何かいい方法はないの?」
「ボクに言われてもね……」
「せっかく起きたのに、なにか助言してくれてもいいじゃない」
「ボクは会計だから」
「あぁ、そうだったわね……やっぱり私がなんとかしないと……」
「それで、どうなんとかするのか?」
テリトリスは挑発するように言う。
「うぅ……リュミィ!」
『もう気持ち悪くない』
「それはわかってるから、もう一度さっきのやつやって! お願い!!」
『さっきは気持ち悪かったから! どうしても出たかったからできた!』
「そこをなんとかならないの!?」
『ならないよ!!』
「なんとかして!!」
カナミは叫ぶ。
リュミィの声はカナミにしか聞こえていないので、翠華にはカナミが一人でどこへやらに叫んでいる滑稽な仕草にも見えた。
「会話相手は妖精か」
そんな事情は知らないはずのテリトリスはそのあたりを察したようだ。
「その妖精のチカラで一度は脱出したのだろうが、もう一度は厳しいか。そのチカラ、うまくコントロールできないとみえる」
「うぅ……」
テリトリスの分析に、カナミは否定できず歯噛みする。
リュミィの妖精の羽は未だ上手くコントロールができていない。
コントロールができていたら、結界を飛び越えてテリトリスをあっさり倒せるはずなのだ。
「リュミィ……」
カナミは絞り出すように力を込めて、リュミィへ声をかける。
『うーん、やってみる……』
とうとうリュミィは折れて、カナミに応じる。
「本当!? お願いね!!」
『そーりゃ!』
頭の中に響くリュミィの掛け声がする。
それとともに、カナミの背中の羽に魔力が集まっていた。
「よーし、これなら!」
結界を飛び越えた時と同じようなチカラが湧いてくる。
それは意識が飛びそうな危うさを感じつつも、今度は二回目ということもあって、なんとか意識を保っていられてなんとかなりそうな気がしてくる。
「いけ!」
カナミは一歩踏み出す。
それとともに羽を羽ばたかせる。
「――!」
空を飛ぶとは違う飛ぶ感覚に襲われ、視界が虹色に染まる。
あ、これが次元を飛ぶものなのか、と二度目にして実感する。
「えぇッ!?」
次の瞬間、カナミはテリトリスの頭の上に立っていた。
二つの足で、怪人の頭の上に立っていた。
その事実にカナミは驚くと同時に、すぐに飛ぶ。
「あた!?」
ゴツン、と、透明なガラス板のようなものにぶつかる。結界だ。
「この結界は俺の周囲にしか張ってないから、飛ぶとそうなる」
「くぅ……あんた、やけに落ち着いてるわね……!」
「観念しているのだ。結界をそんなふうに飛び越えられてしまっては、俺には打つ手はない」
テリトリスは淡々とそう言う。
そのせいで、打つ手はないと言いつつもまだ何かあるのかと勘ぐってしまう。
「本当に打つ手はないのかしら?」
「そうだ」
「………………」
カナミは半信半疑ながらもとにかく魔法弾を撃ちこむことにした。
「せいやー!」
カナミは天井近くまで飛び上がって、下のテリトリスへ強めの魔法弾を撃ち放つ。
バァァァァン!!
魔法弾はテリトリスに命中して、爆発は巻き起こる。
爆煙が晴れると、そこにテリトリスは跡形もなく消えていた。
「これで、終わり……?」
あまりのあっけなさに拍子抜けする。
もしかして、まだどこかに隠れ潜んでいるかもしれない。そう思って、あたりを警戒して見回す。
「翠華さん? まだどこかにいそうですか?」
「そんな感じはしないわね。確かにカナミさんの魔法弾は命中していたわ」
「それじゃ、やっぱり……」
「――あなたが倒したわ」
「「えぇ!?」」
いつの間にか、入口のあるみが立っていた。
「社長、いつの間に!?」
「今ついたところよ」
「今って……」
「マニィとウシィとの魔力供給が途切れたから気になってきたのよ」
「気になって、心配じゃなかったんですか?」
カナミは恨めしそうな目を向けて問う。
「えぇ、結界に閉じ込められてるだろうってことはわかったから大丈夫かと思ったのよ」
「大丈夫かと? 思った……?」
「実際大丈夫だったじゃない。それに新しい妖精のチカラ、使えるようになったし」
「それは偶然です! ずっと閉じ込められてるかと思って不安だったんですよ!?」
カナミはあるみへ怒りをぶつける。
「二、三日そのままだったら、さすがに考えてたわよ」
「二、三日!? 一晩で助けにきてくださいよ!?」
「一晩で助けちゃったら、結界破れるようにならないでしょ」
「ええッ!?」
「それより行かなくていいの、トイレ?」
「あ……」
あるみに言われて、忘れかけたことに気づく。
今は変身しているから抑えられているけど、その変身を解いたら……
「社長、どいてください!」
「はいはい」
あるみはにこやかに入口の前からどく。
カナミはトイレへ出ていく。
「ウシシ、まったく忙しいお嬢だ」
「……あは、あはは……」
かなみとあるみのやりとりに圧倒されていた翠華は、ここでようやく緊張が解けて笑った。
「散々な目にあいましたね」
「え、ええ……」
「それでこれからまた出社なんですから、厳しすぎますよ!」
「そ、そうね……」
かなみは文句を言い、翠華は笑って相槌を打つ。
オフィスビルへの道のりでずっとそんなやり取りが続いている。
結界の怪人テリトリスを倒してから高層ビルを出てから、あるみは「これから出社しなさい」と言われて、出社することになった。
当然のごとく、かなみは文句を言ったけど、あるみはどこ吹く風か上機嫌へどこかへ行ってしまった。
「それだったら、私がかなみさんの分も仕事するから休んでいいわよ」
「え!? それじゃ翠華さんに負担が!?」
「私のことは気にしなくていいから」
「いえいえいえ、私が気にしますから! それに、私の方がたっぷり寝てしまいましたから元気ですよ!」
「そ、そう……それじゃ、仕事お願いね」
「はい、任せてください!」
かなみは上機嫌に答える。
「ウシシ、かなみ嬢の扱いわかってきたじゃねえか」
「そういうこと言わないの」
「ウシシ、まあ一晩ともにした仲だからな。そろそろ一線超えてもいいんじゃねえか?」
「ひ、一晩!? い、一線!?」
翠華は顔を真赤にして、身体は硬直する。
「翠華さん、どうしたんですか?」
かなみは翠華の異変に気づく。
「い、いえ、なんでもないわ!?」
「もしかして、寝不足だからですか?」
「え?」
「それは大変です! 翠華さんは休んでください! 翠華さんの分は私が頑張りますから!」
ただ、かなみは異変の原因にまで気づいていないようだった。
「そ、そんなことしなくていいから! 私がかなみさんの分をやるから!」
「いえ、私が翠華さんの分やりますから!」
「私がかなみさんを!」
「私が翠華さんを!」
「………………」
「………………」
二人の睨み合いが続く。
「この二人、またやってるよ……」
「ウシシ、こういうのもアリかもな」
マニィは呆れ、ウシィは楽しげに二人を見守る。
二人が睨み合いを続けているうちに、とうとうオフィスビルに辿り着く。
そうなると二人は自然と「今日も頑張りましょう」と気持ちを切り替えていた。
三階まで上がって、オフィスへの扉を開ける。
「おはようございます」
いつものように挨拶すると、オフィスにいたみあがこちらを向いてくる。
休日にしろ、朝からみあがいるのは珍しい。
「お、朝帰りコンビじゃない」
みあはオフィスに入ってきたのが、かなみと翠華だとわかるとそう言い放つ。
「あ、朝帰り!?」
翠華はそう言われて狼狽する。
「本当は帰りたかったんだけど、出社して仕事しろって社長が」
「無茶ぶりね。ま、いつものことだけど」
「そうそう、いつものこと」
「いつもの!?」
翠華は身体はピンとつま先立ちする。
「翠華さん、どうしたんですか?」
かなみは翠華の異変に気づいて、心配そうに訊く。
「きっと寝不足よ。どうせあんたが朝まで寝かさなかったんでしょ」
「そ、それは……」
かなみは返答に戸惑う。
「え、マジ?」
みあは冗談のつもりで言ったのだけど、言い当ててしまったことに引く。
「やっぱり私のせいなんですね」
「違う、違うのよ! かなみさんのせいじゃないから、私がおかしいだけだから!」
「翠華さんがおかしいはずがありませんから!」
「いや、二人揃っておかしいから」
みあは指摘する。
「ハァハァ、もしかして妬いてるのかね」
「ウシシシ、いっつもみあ嬢に一歩も二歩もリードされてたからな」
「一体何の話かな?」
マスコット達は会話しているけど、マニィだけは何の話かついていけなかった。
自分を呼ぶ声がする。
「あ……」
気がつくと、かなみの顔が目に入ってきた。
「かなみさん!?」
「キャッ!?」
間近にかなみの顔を見てしまったので、突然声を上げてしまった。
「か、かか、かなみさん、ど、どど、どうしたの!?」
「あ、あの、翠華さんが寝ていたので……」
「寝てた……? 私、寝てた?」
翠華は意識がはっきりしてきて、記憶が途切れていることに気づく。
「いつの間に、私、寝てしまってて……」
知らない間に、疲れが溜まっていて、意識が落ちてしまっていたようだ。
そうなると、二人とも眠っていたことになる。
もし、そんなときに敵が襲ってきたとすると……考えるだけで寒気が走る。
「ごめんなさい、かなみさん!」
見張りをしておいて、なんたる失態か。
申し訳無さに穴があったら入りたくなる。
「いえいえ、翠華さんが謝ることじゃないです! 悪いのは何時間も寝ていた私の方です!」
「それは私が起こさなかったから! それで私が寝てしまったから私が悪いのよ!」
「どうして、起こさなかったんですか?」
かなみは申し訳無さそうに問いかける。
自分一人だけたっぷり睡眠を取ってしまったことに罪悪感を感じているのだろう。
「かなみさん、魔力を使い切ってしまって相当疲れてたみたいだから」
「けど、翠華さんも疲れてたんじゃないですか?」
「それは……」
翠華は言い訳のしようがなかった。
疲れてない、といったら、どうして寝てしまったのか。
自分でも気が付かないうちに疲れていた、としか言いようがないからだ。
「それなのに、私だけたっぷり眠ってしまってて……」
「それは気にしなくていいのよ。むしろ悪いのは起こさなかった上に眠ってしまった私なんだから」
「私が悪いです!」
「私が悪いのよ!」
「………………」
「………………」
二人の言い争いから睨み合いに変わる。
マニィやウシィが目覚めていたら、「やれやれ、またか」と呆れていることだろう。
「こんなことしても不毛ね……」
翠華はつぶやく。
「そうですね……」
かなみも同意する。
「そういえば、かなみさん。私を起こしたってことは、何かあったの?」
「あ、そうでした! あの、その……」
急に、かなみが顔を赤らめて、モジモジする。
「え、ど、どうしたの?」
翠華もその仕草にドギマギさせられる。
(え、かなみさん、何かあったの!? それとも何か言おうとしてるの!? も、もも、もしかして、告白!? このタイミングで!? 結界に閉じ込められて、一晩過ごしたから!? それにしても、こんなタイミングでなんて!?)
翠華は内心の動揺を抑えつつ、極めて冷静を装ってかなみへ訊く。
「言いづらいことでも言って? かなみさんの力になるから!」
「それじゃ、その……」
かなみは意を決したかのように翠華を見据える。ただし、モジモジは止まっていない。
「――トイレ、行きたいです」
「……え?」
翠華の動揺が止まる。同時に思考も。
「といれ?」
「はい、トイレです!」
「か、かなみさんがトイレ!?」
「あ、あの、そんなに驚かなくても……」
「おどろ……ハァハァ、そ、そうよね、かなみさんだってトイレくらいいくわよね……」
翠華はそう言って、驚きを抑えて冷静になっていく。
「私だって?」
かなみはその引っかかる言い方に首を傾げる。
「そ、それで、かなみさん? トイレは大丈夫なの?」
「え、あ、そうですね……小さい方なんですけど、ちょっと我慢するのが難しい、といいますか……」
「……それってつまり……」
翠華は言いかけて、こんなこと聞いていいのかと一瞬葛藤するが、意を決して訊く。
「――も、漏れそうってこと?」
「……は、はい」
「………………」
「………………」
気まずい沈黙が流れる。
「うー」
しかし、それは長く続かなかった。
かなみが唸り声を上げたからだ。
「か、かなみさん、大丈夫!?」
「は、はは、はい、だだだ、大丈夫です!」
「かなみさん、つらそうだけど……それはそうよね、あー! どうしましょう!?
翠華は頭を抱える。
かなみにはそんなことを考える余裕すらない。
「あ、あの……翠華さん、こ、ここ、こんなこと、いうのももも、な、なんです、けど……!」
「な、何、かなみさん!?」
翠華はかなみにそう言われて、ドキドキする。もっとも、さっきまでのドキドキとは別物なのだけど。
「こ、ここで、して、いいですか……?」
「して?」
翠華は一瞬理解できなかった。
理解すると自分の頭がおかしくなるから、頭が理解を拒否したのだろう。
しかし、それでも理解してしまうのが、悲しき性なのかもしれない。
「ええぇぇぇぇぇ、こ、ここ、ここでするのぉ!?」
「あ、いえいえ、最後の手段! 本当に最後の手段ですよ! このまま、脱出できなかったら、の話です!」
「脱出!? そうね、脱出ね! なんとかして脱出しないと!」
翠華は結界を見据える。
(とはいっても、この結界は手強い。ちょっとやそっとの攻撃じゃ壊せない。でも、グズグズしていたら、かなみさんが我慢できなくなって……あぁー! どうしたらいいのよ!?)
翠華は思考を張り巡らしてみるものの、妙案は思いつかない。
「かなみさん、もう少し我慢できる?」
「は、はい……もう少しと言わず、一日くらい……!」
「一日も?」
「あ、いえ、一時間くらい、いえ、十分くらい……!」
「そのくらいでしょうね……そのくらいでなんとかしないと……いざとなったら、私がかなみさんに負ければ……」
テリトリスが言う結界から出る条件「二人の魔法少女が戦って勝った一人だけ出ることができる」。
それが本当なら、かなみと翠華が戦って、かなみが勝てば出られることがない。
元々二人は戦うつもりはない。
どちらかがわざと負けることで、一人だけはできる。
しかし、それは最後の手段であり、どちらが負けるかなんてどちらも譲るつもりはないことだった。
でも、今は緊急事態だった。
「一刻も早く出ないと、かなみさんが……」
かなみが漏らしてしまうなんてことは絶対にあってはならない。
それは絶対に阻止しなければならない。
(魔法少女は絶対にお漏らししてはいけない! 魔法少女のかなみさんがお漏らしなんて……! あ、魔法少女……! 魔法少女なら!!)
翠華は妙案を思いつく。
そして、それを即座にかなみに提案する。時間がないのだから。
「かなみさん!」
「は、はい!」
「魔法少女に変身してみて!」
「え、変身って? なんでですか?」
「ひょっとしたら、魔法少女に変身したらトイレにいかなくてもすむかもしれないわ!」
「ど、どど、どういうことですか?」
かなみは身体とともに声を震わせる。
「――魔法少女はトイレに行かない!」
「えぇッ!?」
翠華の断言に、かなみは困惑する。
とはいっても、他に方法が無い。
「と、とにかく、変身ですね! マジカルワーク!!」
かなみはコインを天井へ舞い上げる。
コインから降り注ぐ光がカーテンとなって、そのカーテンの中で魔法少女の衣装へと身を包む。
「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」
内股気味の体勢でいつもの口上を言う。
「あ……」
そこで、カナミは気づく。
「翠華さん、平気です! 変身したら平気になりました!!」
「えぇ、本当!?」
「本当って……」
「あぁ、ごめんなさい……ひょっとしたらって思っただけで……ごめんなさい、いい加減なこと言ってしまって……」
「いえいえ、いい加減でも翠華さんが言ってくれなかったら、やろうとは思わなかったわ。ありがとうございます」
「カナミさんの役に立てて何よりよ。それに魔法少女に変身している間はトイレに行かなくて良くなるのね」
「そうですね、どうしてかはわからないですけど、とにかく今はありがたいですね」
「そうね。でも、変身がどのくらい持つかはわかりませんけど……」
魔法少女の変身は魔力を使っている。
魔力がある間は変身を維持し続けていられる。
ようするに携帯電話のバッテリーと同じで、変身していると電源が入っているのと同じ状態で何もしなくても魔力を消費し続けてしまう。
今はたっぷり寝て起きたばかりの状態だから魔力はだいぶ回復していて、すぐにきれることはない。ただ、それで具体的にあとどのくらい変身がもつかまでは、かなみ自身にもわからない。
「うかつに攻撃しない方がいいわね。魔力を消費すればそれだけ……」
翠華はそこまで言葉を濁す。
「トイレが近くなります!」
「え、ええ、そうね……」
カナミが素直にそう言うものだから、翠華は戸惑う。
「でも、結局は手詰まりなのよね……」
「社長の助けは期待できそうにないですし……」
「そうよね、私達二人でなんとかしないといけないのよね……私とカナミさんで……」
『わたしも!』
「あッ!?」
カナミの背中からリュミィが飛び出してくる。
「リュミィ!? あなた、いたのね」
『うん、気持ち悪かったからじっとしてた』
「気持ち悪い? それって、結界の中にいるから?」
『うーん、わかんないけど……とにかく気持ち悪い……』
「気持ち悪いって、大丈夫なのリュミィ?」
『大丈夫だけど、早くここから出たい』
「うん、私達も早く出たいんだけど……」
『出られないの?』
「出たいんだけど出られないの……」
『出たい!』
「出られないの」
『出たい、私出る!』
リュミィはあまりにも激しく主張する。
「リュミィ、そんなに出たいの?」
『出たい! ここ、気持ち悪い!』
「そうね、私も出たいわ。リュミィ、力を貸してくれる?」
『もちろん!』
リュミィは光の粒子になって、カナミの背中へと集約し、七色に光り輝く妖精の羽となる。
「フェアリーフェザー!!」
『やっぱり気持ち悪い……』
「大丈夫なの?」
『大丈夫! よし、出る!』
「え!?」
リュミィはそう言って、カナミの背中の羽を無理矢理動かせる。
「なにするつもりなの!?」
『えいッ!』
カナミはそのまま壁に突撃する。
しかし、ぶつかったのは壁の手前にある結界にぶつかってしまった。
バタン!
「あいたッ!?」
透明なガラス板に当たったみたいに止まる。
「リュミィ、なんてことをするのよ?」
『出たい! 出る!』
「私も出たいけど、結界があるのよ!」
『けっかい? それがあるから気持ち悪いんだね!』
「そうかもしれないけど」
『結界から出る! そりゃ!!』
「そりゃって!?」
カナミは勝手に羽を動かせて、困惑する。
今までこの羽は生まれたときからあったみたいに、手足と同じように羽ばたかせて身体を浮かび上がらせることができた。
それがリュミィが勝手に動かしていくのは初めてだった。
自分の身体なのに、自分の言う事をきかない。
戸惑いと歯がゆさに駆られる。
「リュミィ!? 何をするつもりなの!?」
『こうする!!』
リュミィは勝手にカナミの羽を羽ばたかせる。
羽が羽ばたくたびに、身体が浮かび上がるのではなく、浮かび上がるような感覚に陥る。
それは、身体に集まってくる魔力によって意識が文字通り飛びそうになったのだ。
リュミィの力――妖精の羽は、空気中に紛れ込んでいる魔力をかき集める。そのおかげでつかいきった魔力がすぐに回復する。
しかし、それは取り込みすぎて次元を超えて別の世界の魔力まで吸い寄せてしまい、逆に別の世界に吸い寄せられてしまったことがある。
今の状態がその時の感覚に近い。
意識と身体が別々に引き離されていくような感覚。
自分の後頭部や背中が見えてしまう。
「リュミィ、やめて!!」
カナミは、このままではまずいと思い、叫ぶ。
『えええええいッ!!』
しかし、その制止をきかず、リュミィは羽を羽ばたかせる。
羽が羽ばたくたびに魔力が身体に集まってくるのと同時に自分の意識と身体が遥か上空に飛び上がりそうな感覚に陥る。
このままだとまずいことになる。
そう思っていても、リュミィを止めることができない。
「リュミィ、やめてええええッ!! 止まってえええええッ!!」
カナミは力を振り絞って叫ぶ。
しかし、それはカナミの一心同体となっているリュミィにその声は届いたかどうかわからない。
『そりゃそりゃそりゃそりゃッ!!』
カナミの叫びもむなしく、リュミィは構わず羽を羽ばたかせる。
「何しようとしてるの!?」
『ここから出る!!』
リュミィはそう答えるやいなや、羽を羽ばたかせて魔力がどんどん集まってくる。
カナミの身体に相当な魔力が溜まってくる。
カナミは直感する。
この魔力を使えばこの高層ビルを跡形も無く吹き飛ばすどころか、周囲の建物すら巻き込んで更地にしてしまうことだって可能だということを。
(そうなったら、賠償金で借金がああああああッ!?)
社長と鯖戸が揃って、処刑宣告してくる絵面が浮かんで絶望する。
「リュミィ、お願いだからやめて! 下手にそんなもの撃ったらまずいから!!」
『とりゃぁぁぁぁぁぁッ!!』
身体の内側から響いてくるリュミィの叫びとともに、身体が空の彼方にまで引っ張られる感覚に襲われる。
「え!?」
一瞬、視界が虹色に染まった。その次の瞬間、カナミは部屋の扉の前に立っていた。
「カナミさん、どうやってそこに?」
「私にも何がなんだか……」
カナミは部屋の奥へと腕を伸ばしてみる。
その腕を伸ばしきる前に、何かにぶつかった。
コンコンとガラス板のような感触。それはこの部屋に閉じ込めている結界そのものだった。
結界は出入り口の扉の手前、壁の手前、窓の手前。
四方に貼られたと直方体の結界だということは確かめてみてわかっている。
しかし、カナミは今扉の前に立っている。
つまり、結界の外に立っているということになる。
どうやって、結界の外に立ったのか、よくわからない。
リュミィが叫んだと思ったら、身体がどこかへと引っ張られる感覚に襲われて、気づいたら、扉の前に立っていた。
結界が壊れたわけでも、壊したわけではない。
本当に気づいたら結界の外に立っていたのだから、わけがわからない。
「ともかく、私は結界の外に出れました。そうなったら!」
カナミは出入り口の扉へ腕を伸ばす。
「――俺を倒しに行ける、ってことか」
いつの間にか、部屋の片隅にいたテリトリスが声をかけてきた。
「いつの間に!?」
「結界が破られたわけではないのに。結界の外に出るなんて異常事態にいてもたってもいられなくなってな」
「いてもたってもって、そんなこと言っていいの? あんたを倒せば結界が消えるのよ!」
「そうだな、倒せたらな」
「余裕かまして!」
カナミはテリトリスへ魔法弾を撃つ。
バァン!
しかし、魔法弾はテリトリスに届くことは無かった。
「また結界!」
カナミは歯噛みする。
わけのわからないチカラとはいえ、一度は結界の外に出られたというのに、また結界に阻まれてしまう。
「俺の結界を突破するとは思わなかったが、二度はできない芸当のようだな」
「そ、そんなことはないわ! リュミィ、もう一度お願い!」
『うーん、できない』
リュミィから思いもよらない返答がくる。
「どうして?」
『もう気持ち悪くないから』
「気持ち悪くない? 結界の外に出たから? でも、あいつがまた結界をはってるじゃない」
「違うわ、カナミさん」
翠華は指摘する。
「目を凝らせばわかるわ。彼は一度結界を解いて、自分の周囲に結界を張り直したのよ」
「結界を張り直したんですか?」
「その証拠に……」
翠華は扉の前へ歩み寄る。
そこには結界が張ってあったはずなのに、特に何もなく翠華はドアノブに手をかけることまでできた。
「それじゃ、この部屋から出られるってことですか?」
「ええ、今結界は彼の周囲にしか貼られていない。自分の身を守るだけで精一杯みたいね」
「痛いところを突かれてしまったな……」
テリトリスは肯定する。
「どうする? このまま部屋を出るのは構わない。結界を破られた時点で俺の敗北だ」
「勝手に敗北宣言しないで! 私達はあなたを倒すのが仕事なんだから!」
「そうか。ならば俺の勝ちということか」
「勝手に勝利宣言もしないで!」
「やれやれ、勝手なことだ」
「勝手なことなのはあなたでしょ! 結界に閉じ込められてどれだけつらい目にあったと思ってるの!?」
「そんなにトイレ行けなかったのがつらかったのか?」
「うぅ!?」
カナミは言い淀む。
「カナミさん、あいつの言っていることなんて気にしないで!」
「わかってます!」
カナミは魔法弾をテリトリスへ撃つ。
魔法弾は結界に弾かれる。
魔法弾が弾き飛ばされることは、カナミにもわかっているはずなのに、撃たずにはいられないことが、カナミが冷静ではないことの証だった。
「カナミさん、まずゆっくりトイレ行きましょう」
翠華は冷静に落ち着かせるように言う。
「す、翠華さん、私は大丈夫ですよ!!」
カナミは反論する。
「あ、ご、ごめんなさい……」
翠華は反射的に謝る。
「い、いえ、私の方こそすみません……でも、私は大丈夫ですから」
その様子を見て、カナミはかえって冷静になる。
「無理することはない」
テリトリスはそう言って、トイレへ行くことを促す。
「無理なんかしてないわよ。それに目を離したすきにどこかへ逃げるつもりでしょ」
「そうだな、そのくらいしか俺が逃げる手段はないからな」
テリトリスはあっさり肯定する。
「ということは他に手段があるってことね」
「いや、他に手段はないさ。お前達が目を離した隙をみて逃げることしかできない」
「ずいぶん簡単に手の内を明かすのね。どういうつもりなの?」
「俺は隠し事が苦手なだけだ。それに俺の結界は破られることはない」
破られることはない。
テリトリスはそう断言する。
事実、テリトリスの結界はカナミや翠華がどんなに攻撃しても結界は破るどころかビクともしない。
「確かにその結界は強力なようだね」
「ウシシ、お嬢二人じゃ無理かもな」
カナミと翠華の肩にいつの間にか、マスコットの二匹が乗っかっていた。
「マニィ、気がついたの!?」
「まあ、結界が解けたからね」
「ウシシ、魔力供給のラインが再接続できたってわけだ」
「それはよかったけど……ウシィ? 私達二人じゃ無理かもって、結界は壊せないってこと?」
翠華が訊くと、ウシィは「ウシシ」と肯定する。
悔しいけど、二匹のマスコットが言うのももっともだからだ。
「お前達二人では俺の結界を壊すことはできない。大人しく帰ってもらうとありがたい」
「なんで、あんたがありがたせる必要があるのよ。それに壊すことができないなんてまだ決まったわけじゃないわ、神殺砲!」
カナミはステッキを砲弾へと変化させる。
「ダメよ、カナミさん! こんなところでそれを撃ったら、ビルが崩れるわ!!」
「あ……」
翠華の制止で、カナミはステッキを引っ込める。
「だったら、どうしたらいいんでしょうか?」
「それは……」
翠華は案が思いつかず、口をつぐむことしかできない。
「ねえ、マニィ? 何かいい方法はないの?」
「ボクに言われてもね……」
「せっかく起きたのに、なにか助言してくれてもいいじゃない」
「ボクは会計だから」
「あぁ、そうだったわね……やっぱり私がなんとかしないと……」
「それで、どうなんとかするのか?」
テリトリスは挑発するように言う。
「うぅ……リュミィ!」
『もう気持ち悪くない』
「それはわかってるから、もう一度さっきのやつやって! お願い!!」
『さっきは気持ち悪かったから! どうしても出たかったからできた!』
「そこをなんとかならないの!?」
『ならないよ!!』
「なんとかして!!」
カナミは叫ぶ。
リュミィの声はカナミにしか聞こえていないので、翠華にはカナミが一人でどこへやらに叫んでいる滑稽な仕草にも見えた。
「会話相手は妖精か」
そんな事情は知らないはずのテリトリスはそのあたりを察したようだ。
「その妖精のチカラで一度は脱出したのだろうが、もう一度は厳しいか。そのチカラ、うまくコントロールできないとみえる」
「うぅ……」
テリトリスの分析に、カナミは否定できず歯噛みする。
リュミィの妖精の羽は未だ上手くコントロールができていない。
コントロールができていたら、結界を飛び越えてテリトリスをあっさり倒せるはずなのだ。
「リュミィ……」
カナミは絞り出すように力を込めて、リュミィへ声をかける。
『うーん、やってみる……』
とうとうリュミィは折れて、カナミに応じる。
「本当!? お願いね!!」
『そーりゃ!』
頭の中に響くリュミィの掛け声がする。
それとともに、カナミの背中の羽に魔力が集まっていた。
「よーし、これなら!」
結界を飛び越えた時と同じようなチカラが湧いてくる。
それは意識が飛びそうな危うさを感じつつも、今度は二回目ということもあって、なんとか意識を保っていられてなんとかなりそうな気がしてくる。
「いけ!」
カナミは一歩踏み出す。
それとともに羽を羽ばたかせる。
「――!」
空を飛ぶとは違う飛ぶ感覚に襲われ、視界が虹色に染まる。
あ、これが次元を飛ぶものなのか、と二度目にして実感する。
「えぇッ!?」
次の瞬間、カナミはテリトリスの頭の上に立っていた。
二つの足で、怪人の頭の上に立っていた。
その事実にカナミは驚くと同時に、すぐに飛ぶ。
「あた!?」
ゴツン、と、透明なガラス板のようなものにぶつかる。結界だ。
「この結界は俺の周囲にしか張ってないから、飛ぶとそうなる」
「くぅ……あんた、やけに落ち着いてるわね……!」
「観念しているのだ。結界をそんなふうに飛び越えられてしまっては、俺には打つ手はない」
テリトリスは淡々とそう言う。
そのせいで、打つ手はないと言いつつもまだ何かあるのかと勘ぐってしまう。
「本当に打つ手はないのかしら?」
「そうだ」
「………………」
カナミは半信半疑ながらもとにかく魔法弾を撃ちこむことにした。
「せいやー!」
カナミは天井近くまで飛び上がって、下のテリトリスへ強めの魔法弾を撃ち放つ。
バァァァァン!!
魔法弾はテリトリスに命中して、爆発は巻き起こる。
爆煙が晴れると、そこにテリトリスは跡形もなく消えていた。
「これで、終わり……?」
あまりのあっけなさに拍子抜けする。
もしかして、まだどこかに隠れ潜んでいるかもしれない。そう思って、あたりを警戒して見回す。
「翠華さん? まだどこかにいそうですか?」
「そんな感じはしないわね。確かにカナミさんの魔法弾は命中していたわ」
「それじゃ、やっぱり……」
「――あなたが倒したわ」
「「えぇ!?」」
いつの間にか、入口のあるみが立っていた。
「社長、いつの間に!?」
「今ついたところよ」
「今って……」
「マニィとウシィとの魔力供給が途切れたから気になってきたのよ」
「気になって、心配じゃなかったんですか?」
カナミは恨めしそうな目を向けて問う。
「えぇ、結界に閉じ込められてるだろうってことはわかったから大丈夫かと思ったのよ」
「大丈夫かと? 思った……?」
「実際大丈夫だったじゃない。それに新しい妖精のチカラ、使えるようになったし」
「それは偶然です! ずっと閉じ込められてるかと思って不安だったんですよ!?」
カナミはあるみへ怒りをぶつける。
「二、三日そのままだったら、さすがに考えてたわよ」
「二、三日!? 一晩で助けにきてくださいよ!?」
「一晩で助けちゃったら、結界破れるようにならないでしょ」
「ええッ!?」
「それより行かなくていいの、トイレ?」
「あ……」
あるみに言われて、忘れかけたことに気づく。
今は変身しているから抑えられているけど、その変身を解いたら……
「社長、どいてください!」
「はいはい」
あるみはにこやかに入口の前からどく。
カナミはトイレへ出ていく。
「ウシシ、まったく忙しいお嬢だ」
「……あは、あはは……」
かなみとあるみのやりとりに圧倒されていた翠華は、ここでようやく緊張が解けて笑った。
「散々な目にあいましたね」
「え、ええ……」
「それでこれからまた出社なんですから、厳しすぎますよ!」
「そ、そうね……」
かなみは文句を言い、翠華は笑って相槌を打つ。
オフィスビルへの道のりでずっとそんなやり取りが続いている。
結界の怪人テリトリスを倒してから高層ビルを出てから、あるみは「これから出社しなさい」と言われて、出社することになった。
当然のごとく、かなみは文句を言ったけど、あるみはどこ吹く風か上機嫌へどこかへ行ってしまった。
「それだったら、私がかなみさんの分も仕事するから休んでいいわよ」
「え!? それじゃ翠華さんに負担が!?」
「私のことは気にしなくていいから」
「いえいえいえ、私が気にしますから! それに、私の方がたっぷり寝てしまいましたから元気ですよ!」
「そ、そう……それじゃ、仕事お願いね」
「はい、任せてください!」
かなみは上機嫌に答える。
「ウシシ、かなみ嬢の扱いわかってきたじゃねえか」
「そういうこと言わないの」
「ウシシ、まあ一晩ともにした仲だからな。そろそろ一線超えてもいいんじゃねえか?」
「ひ、一晩!? い、一線!?」
翠華は顔を真赤にして、身体は硬直する。
「翠華さん、どうしたんですか?」
かなみは翠華の異変に気づく。
「い、いえ、なんでもないわ!?」
「もしかして、寝不足だからですか?」
「え?」
「それは大変です! 翠華さんは休んでください! 翠華さんの分は私が頑張りますから!」
ただ、かなみは異変の原因にまで気づいていないようだった。
「そ、そんなことしなくていいから! 私がかなみさんの分をやるから!」
「いえ、私が翠華さんの分やりますから!」
「私がかなみさんを!」
「私が翠華さんを!」
「………………」
「………………」
二人の睨み合いが続く。
「この二人、またやってるよ……」
「ウシシ、こういうのもアリかもな」
マニィは呆れ、ウシィは楽しげに二人を見守る。
二人が睨み合いを続けているうちに、とうとうオフィスビルに辿り着く。
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「いつもの!?」
翠華は身体はピンとつま先立ちする。
「翠華さん、どうしたんですか?」
かなみは翠華の異変に気づいて、心配そうに訊く。
「きっと寝不足よ。どうせあんたが朝まで寝かさなかったんでしょ」
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かなみは返答に戸惑う。
「え、マジ?」
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「違う、違うのよ! かなみさんのせいじゃないから、私がおかしいだけだから!」
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「いや、二人揃っておかしいから」
みあは指摘する。
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「ウシシシ、いっつもみあ嬢に一歩も二歩もリードされてたからな」
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マスコット達は会話しているけど、マニィだけは何の話かついていけなかった。
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