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第116話 芻人! 呪いの釘は少女の胸を突き刺す!? (Cパート)
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「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」
「平和と癒しの使者、魔法少女シオリ登場!」
マンションの部屋を出た次の瞬間、即座に二人は変身した。
そして、マンションの屋上へ飛び乗る。
「無許可だけど、この際仕方ないね」
とマニィは言う。
「藁人形が飛んでった方は……」
「あっち、北だよ」
カナミの肩に乗るマニィが指す。
「シオリちゃん!」
「はい!」
カナミとシオリは、マンションの屋上から屋上へ飛び移る。
魔法少女の強化された跳躍力なら、容易く行うことが出来る身体能力だった。
「空を飛べる俺に追いつけるわけねえだろ!!」
頭上を飛ぶ空孔が煽ってくる。
本当ならもっと速く、カナミ達を置き去りにしていけるのに、わざわざ煽ってくるあたり、性格の悪さを感じられる。
「カナミさん、リュミィは?」
「リュミィ、お願い!」
『わかったよ、カナミ!』
カナミの呼びかけに応じて、リュミィが光の粒子になってカナミの背中へと収束し、羽を形成する。
「フェアリーフェザー!!」
自分の身体の一部となった羽を羽ばたかせて、飛び上がる。
「シオリちゃん、つかまって!」
カナミはシオリの手を掴んで、一緒に飛び上がる。
「きゃッ!」
空へと飛び上がる感覚に、シオリは短く悲鳴を上げる。
「小癪な!」
水剣は雑言を投げて、ついでに羽を飛ばしてくる。
赤、橙、黄、緑、青、藍 、紫、七色の羽がカナミとシオリへ襲いかかる。
カナミは羽を羽ばたかせて、飛び上がっては避け、空中で宙返りしては避ける。
「か、かかか……!」
シオリが歯をガタガタさせる。
「舌噛むから喋らなくていいよ!!」
「カナミさん!」
「何!?」
「おろしてください、役立たずですから!」
シオリが提案してくる。
「ん~!!」
役立たずというところは否定したいものの、おろすのはありかもしれないとカナミは思った。
ただ、空孔が飛ばしてくる羽を避けるだけで精一杯で、とてもおろしている余裕が無い。
「こっちも羽を飛ばすことができれば……」
『できるよ!』
リュミィが唐突に割り込んでくる。
「できるの!?」
『羽は魔力で出来上がっているから。カナミだったら飛ばせるよ』
「本当?」
カナミは試しに羽を飛ばすイメージを頭に思い描く。
ピュン!
羽の一部がイメージ通りに飛んでいく。
それが水剣の羽と衝突して撃ち落とす。
「本当にできた!?」
『その調子!』
「よーし、この調子ね!!」
カナミはさらに羽を飛ばしてみせる。
ただ、カナミのイメージでは、百枚くらい羽を飛ばしたつもりだったけど、実際は五枚くらいしか飛ばなかった。
それはこれからの特訓次第かな、と、カナミは思った。
今はとりあえずシオリは安全な場所に下ろすことが先決だ。
「シオリちゃん、うまく着地して!」
「え、ええッ!?」
カナミは勢いよく急降下して、ビルの屋上へシオリを離す。
ゆっくりしているヒマはなかったので、スピードを殺さず、強引に降ろしたと言っていい。
「わ、きゃぁッ!?」
小さな悲鳴と転がっていくシオリの姿が見えたけど、カナミはすぐに空中の敵へ目を移す。
(後で謝っておこう)
カナミはそう心に決め、眼前の敵へステッキを振るう。
「あいたたた……」
うまく着地できずに転倒したシオリは立って、空を見上げる。
バァン! バァン! バァン!
花火のような爆音が上がって、魔法弾が星のように瞬く。
「カナミさん……」
カナミは空の上で戦っている。
なんとかして力になりたい。
しかし、シオリにはそこへ行く方法が無い。
自分にも空を飛べる羽があったら、と思わずにはいられない。
「あ……!」
そこで、シオリは思い出す。
自分がここにやってきた目的を。
「藁人形は……アリィ、どっち?」
シオリは懐に入っていたアリィに訊く。
「マニィは北って言ってたじゃない」
「その北はどっち?」
「うーん、あっち」
アリィは一回転してから、北を指す。
「急がないと!」
空中戦の手助けはできないけど、藁人形の回収だったらできる。
というより、それしか自分にはできない。と、シオリは判断した。
シオリはビルの階段を駆け下りて、北へ向かって走る。
「北! 北! 北! ……あれ?」
必死になって、北へ走ったところで、シオリは気づく。
「藁人形はどこでしょうか?」
藁人形が飛んでいった方向が北だということはわかるものの、その藁人形がどこにあるのかまではわからなかった。
手のひらに収まる小さな藁人形なんてそう簡単に見つからない。
「アリィ、ど、どうしよう?」
「私にだってわからないわよ。私にわかるのは方角だけ。あとはあんたの判断よ」
「そ、そんなこと言われても……」
シオリは途方に暮れて、辺りを見回す。
「あ……!」
シオリは北へ向かって疾駆する地豹の姿を見つけた。
「同じ方角……!」
もしかしたら、あの怪人なら知っているかもしれない。投げたのは、今空を飛んでいる別の怪人だけど
他に手がかりはないから、追いかけることにした。
そうして、追いかけていって、人気の無い雑木林に入っていく。
「こ、こんなところに……」
「あった!!」
地豹の勝鬨の声を上げるかのように高らかに叫んだ。
「そんな……」
シオリは地豹の姿を見つけて、歩み寄る。
「さすが空孔、いいコントロールしている。狙い通りの場所に投げた! ――あとは……」
地豹の瞳がギラリと光った気がした。
一方のカナミは、空孔と空中戦を繰り広げていた。
カナミの魔法弾と空孔の羽が撃ち合い、衝突するたびに火花が飛び散り、爆音が鳴り響く。
それが数分以上続く膠着状態になっている。
(こんなことしている場合じゃなくて、早く藁人形を回収しなくちゃ! ああ、でも、空中戦って思ったよりやりづらくて!)
元から羽を持っていて、戦い慣れているように思える。
羽や魔法弾を飛ばしてみてもすぐに対応して、撃ち返してくるし、向こうから撃ってくるとこちらは対応するだけで手一杯になってしまう。
敵の動きの方がワンテンポ早い。それはつまり空中戦では敵の方が一枚上手ということだ。それに、あれだけ素早く飛び回られていると狙いが定まらなくて、神殺砲を当てるのも難しい。
「――!」
赤色の羽が頬をかすめた。
今のは危ないところだった。
敵の方が撃つのは早い。手数は互角なものの、ワンテンポ早いせいで撃ち負けているように感じる。いや、実際撃ち負けているのだ。
一つ! 三つ! 五つ! 七つ!
せまりくる羽の数がどんどん増えてくる。
「こんのおおおおおおおッ!!」
カナミは撃つのをやめて、回避に専念する。
こうなったら、もう空孔《てき》のペース。
羽が次々と飛んでくる。
カナミはこれをかわして、時には魔法弾で撃ち落とす。
防御に回るだけで手一杯だけど、押されてつつあった。
(――仕方ないわ!)
カナミは決心する。
ワンテンポ遅れて徐々に押されてきた戦局。
その戦局をひっくり返すには、思い切ったことをやるしかない。
(リュミィ、飛んで!!)
『いちばんはやく!!』
カナミが念じる。
それだけでリュミィに想いは伝わる。そして、応えてくれる。
飛ぶ。
空孔目掛けて一直線に。今、妖精の羽を羽ばたかせて出せる最高速度で。
「な!?」
空孔は突然の行動に驚く。
しかし、それはほんの一瞬の事。
すぐさま迎撃するために、羽を飛ばしてくる。
カナミは構わず突撃していく。
羽は身体に撃ち当たる、
主に、羽に、腕に、肩に。顔だけは当たらないように防ぐ。
ダメージ覚悟で距離を詰めて、一気に決める。
戦法といえるかもわからない無謀。
それでも、これがカナミに合っていて、なおかつ有効に思えた。
事実、空孔はダメージも構わず突っ込んでくるカナミに驚愕し、一瞬、対応に戸惑う。
その一瞬の戸惑いが音速で飛ぶカナミへの命取りになった。
「ピンゾロの半!!」
ザシュ!
仕込みステッキの斬撃が空孔の翼に一撃を与える。
「がああああああッ!?」
「やった!」
本当は翼を斬り落としたかったけど、思いの外、硬かった。
しかし、これで確実に有効打を入れた。これで、戦いは有利に。
「――!?」
と、カナミが思ったときだった。
何かが地上から飛んできて、カナミの羽を斬り裂いた。
「きゃああああああああッ!?」
それで、空中の制御を失って、地上へ真っ逆さまに落ちる。
『カナミ!』
リュミィが呼びかけてくれたおかげで、羽を一振りして、落下の速度を緩めることができた。
トン!
なんとか足をつけて着地できた。
ホッと一安心するのもつかの間、空を見上げて、何が飛んできたのか確認する。
やってきたのは水剣であった。
頭の剣のような角を一振りして、カナミを追い落としたのだった。
(三人揃ったら厄介なのよね。って、あと一人は!?)
カナミはその一人がどこにいるか、探してみた。
気配は感じる。
なんとなく近くにいるような気がする。
「フフフ!」
いやみったらしい笑い声が聞こえてくる。
「藁人形をとってきたら、獲物が落ちてくるとは――飛んで火に入る夏の虫よ!」
「――!」
カナミは声がした方から地豹の攻撃を感じ取って、かわす。
ヒュイ!
地豹の鋭い爪が毛先をかすめる。
「そんなにペラペラ喋ってたら、来るのがまるわかりよ!」
「いや、これで十分だぜ」
「――!」
地豹は得意満面にその手を見せる。
「あぁッ!?」
その手には、薄く細い一本の髪の毛がつまんであった。
離れた距離にいるせいではっきりとは見えないけど、あれは自分の髪の毛だと直感する。
さっき、爪をかすめたせいで切られてとったのだろう。
どうして、そんなものを? と思ったところで、背筋に寒気が走る。
「まさか!?」
地豹は、ニヤリと笑って、もう片方の手で藁人形を掲げる。
「それ! 藁人形、返しなさいよ!!」
「返す? こいつは俺がいただいたんだ、俺のもんだろ!」
そう言って、地表はカナミの髪の毛を藁印形に入れ込む。
「ああぁぁぁぁぁぁぁッ!!?」
「さて、これで呪いの藁人形が出来上がったわけだ! ハハハハハッ!」
地豹の高笑いに苛立ちを覚える。
「あんたのもんじゃないでしょ、泥棒! 返しなさい!!」
カナミはステッキを振りかざす。
「どれ」
地豹は藁人形の右腕をひねってみる。
「――!」
カナミはステッキを持つ腕に違和感を感じる。
「な、何これ?」
「フフフ、効果テキメンみてえだな! どれ、こいつをどうしてやろうか?」
「や、やめなさいってば!」
カナミは慌てて、ステッキを左腕に持ちかえて、魔法弾を撃とうとする。
「それ!」
地豹は藁人形の足を折る。
「キャッ!?」
かなみは足を滑らして、体制を崩す。
「これは、厄介ね……!」
髪の毛のせいで、地豹の持つ藁人形とカナミの身体が直結している。
藁人形の腕や足を動かすことで、カナミの手足も連動して動いてしまう。
呪いの藁人形が本物であることをいやがおうにも実感させられる。
(あの人、なんてものを作っちゃったのよ……!?)
心中で光子を思い浮かべて、文句を言う。
(って、そんなことより今はあの藁人形をなんとかしなくちゃ! でも、攻撃しようとする前に藁人形使われちゃって……!)
藁人形の腕をひねったせいで、腕の動きを止められた。
藁人形の足を折ったせいで、足を滑らした。
カナミが攻撃に移る前に、藁人形を動かして妨害される。
しかし、妨害されるだけならまだいい。
もし、藁人形で腕や足を骨折するほど折り曲げたり、あるいは胸を釘なんかで刺さられたりしたら……再びカナミの背筋に寒気が走る。
(……あれ?)
そこでカナミは違和感に気づく。
「さて、これでどの程度の呪いをかけられるか、試してみるか」
「やめなさいよ!!」
カナミの制止も聞く耳を持たず、地豹は藁人形の右腕を思いっきり折り曲げる。
「あう!?」
カナの右腕が勝手に動く。
「ほれ」
地豹は藁人形の右足をさらに思いっきり撚る。
「もう、やめて!?」
カナミは転ばされる。
「……なるほどな」
地豹は何か納得したように藁人形を見つめる。
「思ったより効き目が薄いようだな」
「効き目が薄いって?」
「俺は骨を折るつもりでやったが、この程度ですむとはな」
「骨を折るつもりって、とんでもないことを……え、この程度って」
「では、今度はちぎってみるか?」
「って、ちょっとやめなさいよぉぉぉぉッ!?」
カナミは思いっきり止めに入る。
しかし、カナミが魔法弾を撃つよりも早く、藁人形を動かす。
それよりも早く動く影が、地豹の背後にあった。
「フルスイング!!」
力強く振り抜いたシオリのバットが地豹の腹を打ち当てた。
「ガハッ!?」
地豹はジャストミートしたボールのごとく、地面を転がっていく。
「シオリちゃん、ありがとう!」
「カナミさん、ごめんなさい!」
顔を合わせて、礼と謝罪を言い合う。
「藁人形をとられてしまって、それで機会を伺っていたんですが……」
「最高のタイミングだったよ! おかげで腕をやられるところだったから!」
「そうですか! あ、さっき吹っ飛ばした勢いで藁人形を!」
「おおぉ~!? 意外にちゃっかりしてるのね!!」
シオリは地豹からとった藁人形をカナミに見せる。
「あ……!」
「え……!?」
その藁人形を見た瞬間、二人は青ざめる。
藁人形の右腕が千切れて無くなっていたのだ。
「ぎゃああああああああ、藁人形の腕がああああああああッ!?」
「きゃああああああああ、ごめんなさいごめんなさい!!」
「腕とれちゃったってことは、私の腕《これ》とれるの!? とれちゃうの!!?」
「だ、だだだ、大丈夫です!! よくわからないですけど、大丈夫です!!」
「大丈夫!? そうよね!? ええ、大丈夫よね!?」
コキッ!
嫌な音が右腕からした。
「あいたあああああああッ!?」
「だ、だだだ、大丈夫ですかカナミさん!?」
「う、うん! 大丈夫!? 肩がちょっと外れるかもって思ったけど、大丈夫!? 痛いけど、大丈夫!!」
涙目でカナミは腕と肩の感触を確かめる。
痛いけど、腕がちぎれることに比べたら、まだ我慢してどうにかなる程度の痛みに思える。
「あ、あの、ごめんなさい! 私のせいで、こんなことに!!」
シオリは精一杯頭を下げて謝る。
「ううん、シオリちゃんのおかげで藁人形は取り返せたし、お礼を言わなくちゃいけない方だから。ありがとう、シオリちゃん」
カナミはシオリが持っていた藁人形を手にとる。
「さて、この藁人形の髪の毛を……」
カナミは藁人形の中から自分の髪の毛を抜き取る。
それで、呪いはなくなって、ただの藁人形に戻った。
「いててて! よくもやってくれたな!!」
地豹が茂みから腹を抑えながらやってくる。
「遊びすぎだ。だから不意を突かれた」
空孔がそう言って、空から降りてくる。
「せっかく手に入れた藁人形を盗られちまって」
水剣がぼやきながらやってくる。
「うるさい。手に入れた藁人形ならもう一つあるだろ」
地豹は水剣が持つもう一つの藁人形を指す。
「それも返してもらうわよ!」
カナミはその藁人形を指差す。
「そいつは無理な相談だな! だが、お前を倒すことができたら、こいつは無用の長物となる。返してほしかったら、お前が倒されることだな!」
「冗談じゃないわよ!!」
地豹のあまりにも身勝手な言いように、カナミは条件反射で言い返す。
「あんた達なんかに倒されるわけにいかないし、藁人形を返してもらうわよ!!」
「フン!」
地豹、空孔、水剣の三人は揃って、鼻を鳴らして、カナミとシオリを囲むように正三角形の形を陣形のようにとる。
(三対二……普通に不利ね。それにもし髪の毛をとられたら、藁人形でまた呪いをかけられちゃうし……こうなったら!)
カナミは一か八か、藁人形を持っている水剣へステッキを向ける。
バァン! バァン! バァン!
水剣はこれをかわして、後ろへ飛ぶ。
水剣の背後は雑木林になっていて、視界が悪い。
「あぁ、もう!」
カナミは苛立つ。
藁人形を取り返さないと、また厄介なことになるかもしれないからだ。
「隙ありだぜ!」
「――!」
空孔がひとっ飛びして、カナミの頭上をとっていた。
これが三人の怪人による陣形だった。一角が攻められれば即座に他の二角がその隙をついて攻める。
ましてや、藁人形を持っている水剣を狙ってくることに容易に読めるので、地豹と空孔は動きやすかった。
まず空孔が羽を眼下のカナミに向けて撃つ。
カナミはこれをなんとかかわして飛び上がる。
「もらったあッ!」
そこへ地豹が拳を振るう。
飛び上がったカナミをまさに出る杭を打つ形で捉えた。
「があッ!?」
思いっきり殴り飛ばされたカナミは、地面を転がる
「ハハハ、魔法少女カナミ、恐れるに足らず!」
地豹は高らかにその拳を掲げる。
「最後は俺だ!」
雑木林に退いた水剣が姿を現して、頭の角をカナミへ振り下ろす。
「わあッ!?」
カナミはとっさに横転して避ける。
「そう簡単に最後にされてたまるかってのよ!?」
「いいや、お前はもう終わりだ!」
水剣はニヤリと笑って、藁人形とカナミの髪の毛を見せてくる。
「あぁッ!?」
カナミは自分の髪を確かめる。
さっきの一撃で後ろ髪を切られたのか。それにしてもまた敵にとられたのは迂闊で致命的だった。
「さて、これで髪は手に入れて、再び藁人形で呪いをかけられるわけだ」
「そうはいきません!」
「なにィ!?」
いつの間にか、シオリが水剣の背後をとっていた。
「フルスイング」
シオリは水剣を全力の一振りで吹っ飛ばす。
「ぐぎゃあああああッ!?」
悲鳴を上げて転がっていく。
しかし、その手にはしっかり藁人形とカナミの髪の毛を掴んでいた。
「俺は地豹と違って手放したりしないぜ」
「何が俺と違ってだ、あぶねえところだったじゃねえか」
地豹と空孔が水剣の元へやってくる。
「カナミさん、ごめんなさい。藁人形を取り返せなくて」
「ううん、それより助かったわ。あぐッ!?」
カナミは腹を抑えてうずくまる。
「ククク、こいつはいいぜ!」
三人の怪人の方を見ると、地豹がカナミの藁人形に釘を刺していた。
「平和と癒しの使者、魔法少女シオリ登場!」
マンションの部屋を出た次の瞬間、即座に二人は変身した。
そして、マンションの屋上へ飛び乗る。
「無許可だけど、この際仕方ないね」
とマニィは言う。
「藁人形が飛んでった方は……」
「あっち、北だよ」
カナミの肩に乗るマニィが指す。
「シオリちゃん!」
「はい!」
カナミとシオリは、マンションの屋上から屋上へ飛び移る。
魔法少女の強化された跳躍力なら、容易く行うことが出来る身体能力だった。
「空を飛べる俺に追いつけるわけねえだろ!!」
頭上を飛ぶ空孔が煽ってくる。
本当ならもっと速く、カナミ達を置き去りにしていけるのに、わざわざ煽ってくるあたり、性格の悪さを感じられる。
「カナミさん、リュミィは?」
「リュミィ、お願い!」
『わかったよ、カナミ!』
カナミの呼びかけに応じて、リュミィが光の粒子になってカナミの背中へと収束し、羽を形成する。
「フェアリーフェザー!!」
自分の身体の一部となった羽を羽ばたかせて、飛び上がる。
「シオリちゃん、つかまって!」
カナミはシオリの手を掴んで、一緒に飛び上がる。
「きゃッ!」
空へと飛び上がる感覚に、シオリは短く悲鳴を上げる。
「小癪な!」
水剣は雑言を投げて、ついでに羽を飛ばしてくる。
赤、橙、黄、緑、青、藍 、紫、七色の羽がカナミとシオリへ襲いかかる。
カナミは羽を羽ばたかせて、飛び上がっては避け、空中で宙返りしては避ける。
「か、かかか……!」
シオリが歯をガタガタさせる。
「舌噛むから喋らなくていいよ!!」
「カナミさん!」
「何!?」
「おろしてください、役立たずですから!」
シオリが提案してくる。
「ん~!!」
役立たずというところは否定したいものの、おろすのはありかもしれないとカナミは思った。
ただ、空孔が飛ばしてくる羽を避けるだけで精一杯で、とてもおろしている余裕が無い。
「こっちも羽を飛ばすことができれば……」
『できるよ!』
リュミィが唐突に割り込んでくる。
「できるの!?」
『羽は魔力で出来上がっているから。カナミだったら飛ばせるよ』
「本当?」
カナミは試しに羽を飛ばすイメージを頭に思い描く。
ピュン!
羽の一部がイメージ通りに飛んでいく。
それが水剣の羽と衝突して撃ち落とす。
「本当にできた!?」
『その調子!』
「よーし、この調子ね!!」
カナミはさらに羽を飛ばしてみせる。
ただ、カナミのイメージでは、百枚くらい羽を飛ばしたつもりだったけど、実際は五枚くらいしか飛ばなかった。
それはこれからの特訓次第かな、と、カナミは思った。
今はとりあえずシオリは安全な場所に下ろすことが先決だ。
「シオリちゃん、うまく着地して!」
「え、ええッ!?」
カナミは勢いよく急降下して、ビルの屋上へシオリを離す。
ゆっくりしているヒマはなかったので、スピードを殺さず、強引に降ろしたと言っていい。
「わ、きゃぁッ!?」
小さな悲鳴と転がっていくシオリの姿が見えたけど、カナミはすぐに空中の敵へ目を移す。
(後で謝っておこう)
カナミはそう心に決め、眼前の敵へステッキを振るう。
「あいたたた……」
うまく着地できずに転倒したシオリは立って、空を見上げる。
バァン! バァン! バァン!
花火のような爆音が上がって、魔法弾が星のように瞬く。
「カナミさん……」
カナミは空の上で戦っている。
なんとかして力になりたい。
しかし、シオリにはそこへ行く方法が無い。
自分にも空を飛べる羽があったら、と思わずにはいられない。
「あ……!」
そこで、シオリは思い出す。
自分がここにやってきた目的を。
「藁人形は……アリィ、どっち?」
シオリは懐に入っていたアリィに訊く。
「マニィは北って言ってたじゃない」
「その北はどっち?」
「うーん、あっち」
アリィは一回転してから、北を指す。
「急がないと!」
空中戦の手助けはできないけど、藁人形の回収だったらできる。
というより、それしか自分にはできない。と、シオリは判断した。
シオリはビルの階段を駆け下りて、北へ向かって走る。
「北! 北! 北! ……あれ?」
必死になって、北へ走ったところで、シオリは気づく。
「藁人形はどこでしょうか?」
藁人形が飛んでいった方向が北だということはわかるものの、その藁人形がどこにあるのかまではわからなかった。
手のひらに収まる小さな藁人形なんてそう簡単に見つからない。
「アリィ、ど、どうしよう?」
「私にだってわからないわよ。私にわかるのは方角だけ。あとはあんたの判断よ」
「そ、そんなこと言われても……」
シオリは途方に暮れて、辺りを見回す。
「あ……!」
シオリは北へ向かって疾駆する地豹の姿を見つけた。
「同じ方角……!」
もしかしたら、あの怪人なら知っているかもしれない。投げたのは、今空を飛んでいる別の怪人だけど
他に手がかりはないから、追いかけることにした。
そうして、追いかけていって、人気の無い雑木林に入っていく。
「こ、こんなところに……」
「あった!!」
地豹の勝鬨の声を上げるかのように高らかに叫んだ。
「そんな……」
シオリは地豹の姿を見つけて、歩み寄る。
「さすが空孔、いいコントロールしている。狙い通りの場所に投げた! ――あとは……」
地豹の瞳がギラリと光った気がした。
一方のカナミは、空孔と空中戦を繰り広げていた。
カナミの魔法弾と空孔の羽が撃ち合い、衝突するたびに火花が飛び散り、爆音が鳴り響く。
それが数分以上続く膠着状態になっている。
(こんなことしている場合じゃなくて、早く藁人形を回収しなくちゃ! ああ、でも、空中戦って思ったよりやりづらくて!)
元から羽を持っていて、戦い慣れているように思える。
羽や魔法弾を飛ばしてみてもすぐに対応して、撃ち返してくるし、向こうから撃ってくるとこちらは対応するだけで手一杯になってしまう。
敵の動きの方がワンテンポ早い。それはつまり空中戦では敵の方が一枚上手ということだ。それに、あれだけ素早く飛び回られていると狙いが定まらなくて、神殺砲を当てるのも難しい。
「――!」
赤色の羽が頬をかすめた。
今のは危ないところだった。
敵の方が撃つのは早い。手数は互角なものの、ワンテンポ早いせいで撃ち負けているように感じる。いや、実際撃ち負けているのだ。
一つ! 三つ! 五つ! 七つ!
せまりくる羽の数がどんどん増えてくる。
「こんのおおおおおおおッ!!」
カナミは撃つのをやめて、回避に専念する。
こうなったら、もう空孔《てき》のペース。
羽が次々と飛んでくる。
カナミはこれをかわして、時には魔法弾で撃ち落とす。
防御に回るだけで手一杯だけど、押されてつつあった。
(――仕方ないわ!)
カナミは決心する。
ワンテンポ遅れて徐々に押されてきた戦局。
その戦局をひっくり返すには、思い切ったことをやるしかない。
(リュミィ、飛んで!!)
『いちばんはやく!!』
カナミが念じる。
それだけでリュミィに想いは伝わる。そして、応えてくれる。
飛ぶ。
空孔目掛けて一直線に。今、妖精の羽を羽ばたかせて出せる最高速度で。
「な!?」
空孔は突然の行動に驚く。
しかし、それはほんの一瞬の事。
すぐさま迎撃するために、羽を飛ばしてくる。
カナミは構わず突撃していく。
羽は身体に撃ち当たる、
主に、羽に、腕に、肩に。顔だけは当たらないように防ぐ。
ダメージ覚悟で距離を詰めて、一気に決める。
戦法といえるかもわからない無謀。
それでも、これがカナミに合っていて、なおかつ有効に思えた。
事実、空孔はダメージも構わず突っ込んでくるカナミに驚愕し、一瞬、対応に戸惑う。
その一瞬の戸惑いが音速で飛ぶカナミへの命取りになった。
「ピンゾロの半!!」
ザシュ!
仕込みステッキの斬撃が空孔の翼に一撃を与える。
「がああああああッ!?」
「やった!」
本当は翼を斬り落としたかったけど、思いの外、硬かった。
しかし、これで確実に有効打を入れた。これで、戦いは有利に。
「――!?」
と、カナミが思ったときだった。
何かが地上から飛んできて、カナミの羽を斬り裂いた。
「きゃああああああああッ!?」
それで、空中の制御を失って、地上へ真っ逆さまに落ちる。
『カナミ!』
リュミィが呼びかけてくれたおかげで、羽を一振りして、落下の速度を緩めることができた。
トン!
なんとか足をつけて着地できた。
ホッと一安心するのもつかの間、空を見上げて、何が飛んできたのか確認する。
やってきたのは水剣であった。
頭の剣のような角を一振りして、カナミを追い落としたのだった。
(三人揃ったら厄介なのよね。って、あと一人は!?)
カナミはその一人がどこにいるか、探してみた。
気配は感じる。
なんとなく近くにいるような気がする。
「フフフ!」
いやみったらしい笑い声が聞こえてくる。
「藁人形をとってきたら、獲物が落ちてくるとは――飛んで火に入る夏の虫よ!」
「――!」
カナミは声がした方から地豹の攻撃を感じ取って、かわす。
ヒュイ!
地豹の鋭い爪が毛先をかすめる。
「そんなにペラペラ喋ってたら、来るのがまるわかりよ!」
「いや、これで十分だぜ」
「――!」
地豹は得意満面にその手を見せる。
「あぁッ!?」
その手には、薄く細い一本の髪の毛がつまんであった。
離れた距離にいるせいではっきりとは見えないけど、あれは自分の髪の毛だと直感する。
さっき、爪をかすめたせいで切られてとったのだろう。
どうして、そんなものを? と思ったところで、背筋に寒気が走る。
「まさか!?」
地豹は、ニヤリと笑って、もう片方の手で藁人形を掲げる。
「それ! 藁人形、返しなさいよ!!」
「返す? こいつは俺がいただいたんだ、俺のもんだろ!」
そう言って、地表はカナミの髪の毛を藁印形に入れ込む。
「ああぁぁぁぁぁぁぁッ!!?」
「さて、これで呪いの藁人形が出来上がったわけだ! ハハハハハッ!」
地豹の高笑いに苛立ちを覚える。
「あんたのもんじゃないでしょ、泥棒! 返しなさい!!」
カナミはステッキを振りかざす。
「どれ」
地豹は藁人形の右腕をひねってみる。
「――!」
カナミはステッキを持つ腕に違和感を感じる。
「な、何これ?」
「フフフ、効果テキメンみてえだな! どれ、こいつをどうしてやろうか?」
「や、やめなさいってば!」
カナミは慌てて、ステッキを左腕に持ちかえて、魔法弾を撃とうとする。
「それ!」
地豹は藁人形の足を折る。
「キャッ!?」
かなみは足を滑らして、体制を崩す。
「これは、厄介ね……!」
髪の毛のせいで、地豹の持つ藁人形とカナミの身体が直結している。
藁人形の腕や足を動かすことで、カナミの手足も連動して動いてしまう。
呪いの藁人形が本物であることをいやがおうにも実感させられる。
(あの人、なんてものを作っちゃったのよ……!?)
心中で光子を思い浮かべて、文句を言う。
(って、そんなことより今はあの藁人形をなんとかしなくちゃ! でも、攻撃しようとする前に藁人形使われちゃって……!)
藁人形の腕をひねったせいで、腕の動きを止められた。
藁人形の足を折ったせいで、足を滑らした。
カナミが攻撃に移る前に、藁人形を動かして妨害される。
しかし、妨害されるだけならまだいい。
もし、藁人形で腕や足を骨折するほど折り曲げたり、あるいは胸を釘なんかで刺さられたりしたら……再びカナミの背筋に寒気が走る。
(……あれ?)
そこでカナミは違和感に気づく。
「さて、これでどの程度の呪いをかけられるか、試してみるか」
「やめなさいよ!!」
カナミの制止も聞く耳を持たず、地豹は藁人形の右腕を思いっきり折り曲げる。
「あう!?」
カナの右腕が勝手に動く。
「ほれ」
地豹は藁人形の右足をさらに思いっきり撚る。
「もう、やめて!?」
カナミは転ばされる。
「……なるほどな」
地豹は何か納得したように藁人形を見つめる。
「思ったより効き目が薄いようだな」
「効き目が薄いって?」
「俺は骨を折るつもりでやったが、この程度ですむとはな」
「骨を折るつもりって、とんでもないことを……え、この程度って」
「では、今度はちぎってみるか?」
「って、ちょっとやめなさいよぉぉぉぉッ!?」
カナミは思いっきり止めに入る。
しかし、カナミが魔法弾を撃つよりも早く、藁人形を動かす。
それよりも早く動く影が、地豹の背後にあった。
「フルスイング!!」
力強く振り抜いたシオリのバットが地豹の腹を打ち当てた。
「ガハッ!?」
地豹はジャストミートしたボールのごとく、地面を転がっていく。
「シオリちゃん、ありがとう!」
「カナミさん、ごめんなさい!」
顔を合わせて、礼と謝罪を言い合う。
「藁人形をとられてしまって、それで機会を伺っていたんですが……」
「最高のタイミングだったよ! おかげで腕をやられるところだったから!」
「そうですか! あ、さっき吹っ飛ばした勢いで藁人形を!」
「おおぉ~!? 意外にちゃっかりしてるのね!!」
シオリは地豹からとった藁人形をカナミに見せる。
「あ……!」
「え……!?」
その藁人形を見た瞬間、二人は青ざめる。
藁人形の右腕が千切れて無くなっていたのだ。
「ぎゃああああああああ、藁人形の腕がああああああああッ!?」
「きゃああああああああ、ごめんなさいごめんなさい!!」
「腕とれちゃったってことは、私の腕《これ》とれるの!? とれちゃうの!!?」
「だ、だだだ、大丈夫です!! よくわからないですけど、大丈夫です!!」
「大丈夫!? そうよね!? ええ、大丈夫よね!?」
コキッ!
嫌な音が右腕からした。
「あいたあああああああッ!?」
「だ、だだだ、大丈夫ですかカナミさん!?」
「う、うん! 大丈夫!? 肩がちょっと外れるかもって思ったけど、大丈夫!? 痛いけど、大丈夫!!」
涙目でカナミは腕と肩の感触を確かめる。
痛いけど、腕がちぎれることに比べたら、まだ我慢してどうにかなる程度の痛みに思える。
「あ、あの、ごめんなさい! 私のせいで、こんなことに!!」
シオリは精一杯頭を下げて謝る。
「ううん、シオリちゃんのおかげで藁人形は取り返せたし、お礼を言わなくちゃいけない方だから。ありがとう、シオリちゃん」
カナミはシオリが持っていた藁人形を手にとる。
「さて、この藁人形の髪の毛を……」
カナミは藁人形の中から自分の髪の毛を抜き取る。
それで、呪いはなくなって、ただの藁人形に戻った。
「いててて! よくもやってくれたな!!」
地豹が茂みから腹を抑えながらやってくる。
「遊びすぎだ。だから不意を突かれた」
空孔がそう言って、空から降りてくる。
「せっかく手に入れた藁人形を盗られちまって」
水剣がぼやきながらやってくる。
「うるさい。手に入れた藁人形ならもう一つあるだろ」
地豹は水剣が持つもう一つの藁人形を指す。
「それも返してもらうわよ!」
カナミはその藁人形を指差す。
「そいつは無理な相談だな! だが、お前を倒すことができたら、こいつは無用の長物となる。返してほしかったら、お前が倒されることだな!」
「冗談じゃないわよ!!」
地豹のあまりにも身勝手な言いように、カナミは条件反射で言い返す。
「あんた達なんかに倒されるわけにいかないし、藁人形を返してもらうわよ!!」
「フン!」
地豹、空孔、水剣の三人は揃って、鼻を鳴らして、カナミとシオリを囲むように正三角形の形を陣形のようにとる。
(三対二……普通に不利ね。それにもし髪の毛をとられたら、藁人形でまた呪いをかけられちゃうし……こうなったら!)
カナミは一か八か、藁人形を持っている水剣へステッキを向ける。
バァン! バァン! バァン!
水剣はこれをかわして、後ろへ飛ぶ。
水剣の背後は雑木林になっていて、視界が悪い。
「あぁ、もう!」
カナミは苛立つ。
藁人形を取り返さないと、また厄介なことになるかもしれないからだ。
「隙ありだぜ!」
「――!」
空孔がひとっ飛びして、カナミの頭上をとっていた。
これが三人の怪人による陣形だった。一角が攻められれば即座に他の二角がその隙をついて攻める。
ましてや、藁人形を持っている水剣を狙ってくることに容易に読めるので、地豹と空孔は動きやすかった。
まず空孔が羽を眼下のカナミに向けて撃つ。
カナミはこれをなんとかかわして飛び上がる。
「もらったあッ!」
そこへ地豹が拳を振るう。
飛び上がったカナミをまさに出る杭を打つ形で捉えた。
「があッ!?」
思いっきり殴り飛ばされたカナミは、地面を転がる
「ハハハ、魔法少女カナミ、恐れるに足らず!」
地豹は高らかにその拳を掲げる。
「最後は俺だ!」
雑木林に退いた水剣が姿を現して、頭の角をカナミへ振り下ろす。
「わあッ!?」
カナミはとっさに横転して避ける。
「そう簡単に最後にされてたまるかってのよ!?」
「いいや、お前はもう終わりだ!」
水剣はニヤリと笑って、藁人形とカナミの髪の毛を見せてくる。
「あぁッ!?」
カナミは自分の髪を確かめる。
さっきの一撃で後ろ髪を切られたのか。それにしてもまた敵にとられたのは迂闊で致命的だった。
「さて、これで髪は手に入れて、再び藁人形で呪いをかけられるわけだ」
「そうはいきません!」
「なにィ!?」
いつの間にか、シオリが水剣の背後をとっていた。
「フルスイング」
シオリは水剣を全力の一振りで吹っ飛ばす。
「ぐぎゃあああああッ!?」
悲鳴を上げて転がっていく。
しかし、その手にはしっかり藁人形とカナミの髪の毛を掴んでいた。
「俺は地豹と違って手放したりしないぜ」
「何が俺と違ってだ、あぶねえところだったじゃねえか」
地豹と空孔が水剣の元へやってくる。
「カナミさん、ごめんなさい。藁人形を取り返せなくて」
「ううん、それより助かったわ。あぐッ!?」
カナミは腹を抑えてうずくまる。
「ククク、こいつはいいぜ!」
三人の怪人の方を見ると、地豹がカナミの藁人形に釘を刺していた。
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