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第116話 芻人! 呪いの釘は少女の胸を突き刺す!? (Aパート)
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用意するものは、藁人形、五寸釘、トンカチ、そして、呪いたい人の髪の毛。
時間は、草木も眠る丑三つ時。つまり、午前二時。
藁人形に髪の毛を組み込んで、壁にくくりつける。
あとは五寸釘を藁人形の中心、つまり心臓に刺して、ドスンとトンカチを打ち据える。
呪うべき人間に向けて、恨みつらみの念をありったけ注いで、トンカチで釘を突き刺す。
胸を穿ち、心臓を貫けと、ドスンドスンと。
そうすることで、その想いは藁人形を伝って、相手に届くだろう。
「そして、朝日が昇る頃には、その人は――」
あるみはそこまで話して、違和感に気づく。
「かなみさんならあそこに……」
紫澱は控え目に指さした方――デスクの下にうずくまっている、かなみの姿があった。
「かなみちゃん、揺れてないわよ」
「地震じゃありませんよ!? 社長の怪談話が怖いんですよ!?」
「怪談話なんかじゃないわよ。本当にあった話よ」
「なお怖いです!!」
「あ、あの……」
紫織はおずおずと言い始める。
「本当の話って本当ですか?」
「本当よ」
あるみはあっさりと答える。
「じゃなかったら、こんな話しないわよ。かなみちゃんにはその呪いの藁人形を回収してもらおうかと思ってね」
「な、ななな、なんでそんなものを私に!?」
「だって、翠華ちゃんもみあちゃんも今は出ちゃってるみたいだし、本物なんだからすぐに回収した方がいいでしょ」
「そ、それはそうですけど……そんなおっかないもの、回収できませんよ!!」
「あ、一応これがその本物よ」
「「ええッ!?」」
あるみは懐から藁人形をポンと出して放り投げる。
「キャッ!?」
紫織は悲鳴とともに条件反射でキャッチする。
「え、えぇ、本物!?」
ガクガクと震えながら、藁人形を凝視する。
「それは本物だけど、髪の毛と五寸釘がないと効力が無いわよ」
「そ、そうですか……」
紫織はホッと一安心する。
「よく見ると……確かに普通の人形と違う気がします……」
「そ、そうなの……?」
かなみはデスクの下から藁人形を見ようとする。
「いい加減出てきたら?」
「だ! だって、藁人形から幽霊とか出てきて呪われたらどうするんですか!?」
「藁人形って幽霊が出てきて呪うっていうような代物じゃないんだけどね。ようは髪の毛と藁人形を結びつけることで擬似的にその人の身体を出現させるようなものなんだけど……まあとにかく幽霊とは無縁の品物よ。ほらもう一つあるから」
あるみはまた藁人形を取り出して、かなみへ投げる。
「わ、きゃあああああッ!?」
かなみは猫のような悲鳴と身の毛の立ち方をする。
ただ、それでも藁人形は条件反射でしっかりとキャッチしていた。
「ほ、本当に幽霊とかおばけとか出てきませんか!?」
「出てこないって言ってるでしょ。ほらよく見て、そんな気配する?」
「………………しません」
かなみは藁人形をじっくり見て結論を出す。
幽霊の千歳をよく見ていたり、他の幽霊やそれに近い妖精や精霊をよく見てきているおかげか、そういうものが出てきそうな気配がまったくしないはなんとなくわかるようになってきた。
今手にしている藁人形は、嫌な気配こそするものの、幽霊とはまた違ったものだということは感じでわかる。
「嫌な感じはしますけど」
「それが藁人形は本物だからよ。呪いって具体的にはわからないけど、本能的に嫌なものだって感じるようになってるのよ、人間は」
「っていうか、なんでこんなもの持ってるんですか?」
「絵里奈からもらったのよ」
「絵里奈さんが? 意外です」
かなみの脳裏に、藁人形に五寸釘を突き刺す絵里奈の姿が浮かんだ。
「いえ、そういう趣味があるわけじゃなくて」
あるみの一言に安堵する。
「この話を持ちかけてきたのは彼女なのよ。彼女はそういう役職だって言ったでしょ」
「そういえば、そうでした。偉いんですか?」
「それなりにね。かなみちゃんのボーナスも絵里奈にかかってると言っても過言じゃないわね」
「……マジ?」
「というわけで、この案件よろしくね」
あるみから封筒を受け取る。
「……紫織ちゃん、一緒に来てもらえる?」
「え、私ですか?」
そんなわけで、二人して目的地に向かって電車に乗り込む。
「あの……私がご一緒していいんですか?」
紫織がおずおずと訊く。
「うんうん! ご一緒して! 二人じゃないと! 不安だから!!」
かなみはグイグイと答える。
「は……はあ、かなみさん、相当苦手なんですね、幽霊」
「苦手、というより天敵よ! 人類の天敵よ、幽霊とお化けは!!」
「人類の天敵……でも、幽霊って元は人間ですよね?」
「あ……」
紫織に言われて、かなみは初めて気づく。
「考えたことなかったわ……そうね、幽霊って死んだ人間だから、元は人間なのよね……千歳さんだってそうだし……」
「どうでしょうか? 幽霊、怖くなくなったでしょうか?」
「ううんううん!」
かなみは力いっぱい首を横に振って否定する。
「だって、幽霊って飛んだり消えたり乗り移ったり怖いこといっぱいしてくるのよ!? 生きてる人間とは別物よ! 怖い!!」
「……私は生きてる人間の方が怖いですけど」
紫織はボソリと小声で囁いた。
「とはいえ」
マニィが口を挟む。
電車の中には他に客がいないため、ここで話しても問題はない。
「今回はその幽霊とも無関係だけど、お化けが出てこないとも限らないからね」
「お化け……!」
かなみは身震いする。
「幽霊とお化けの違いって何なんでしょうかね……」
「ボクは専門家じゃないからわからないよ」
『呪いの藁人形が出回っている。どうやら本物のようで、被害者は出ている。死人は出ていない。骨折や一時的な内蔵のダメージがあるだけ、もちろん被害者にはそんな憶えはない。唐突にそんな病状が顕れた』
マニィは封筒の書類を読み上げる。
「それだけでどうしてこの呪いの藁人形の仕業ってわかったの?」
かなみが訊く。
「ドギィとサキィが診たんだよ。そういう不審な患者の情報も入ってくる。それであったんだよ」
「あったって何が?」
「――呪いの痕だよ」
かなみと紫織は揃って身震いする。
「の、呪い!?」
「具体的には、黒い斑点模様。たっぷり魔力がこもってるやつだよ」
「黒い斑点……どうやったらそんなのができるの?」
「それこそ呪いだね。サキィの感知を通して髪の毛と藁人形を媒介にして繋がっていたことがわかったよ」
サキィ……サル型のマスコットで普段は置物のようにオフィスでジッとしているが、その分、優れた感知能力を持っている。
きっと犬型のマスコット・ドギィが咥えて診に行ったのだろう。
「そうした繋がりを辿っていったところで、それの持ち主に辿り着いた」
マニィはかなみの持つ藁人形を指さして言う。
「持ち主はどんな人だったの?」
「普通の……どこにでもいるような女子高生だったよ。とても魔法を使えるような素質を持った子じゃなかった。そっちの藁人形の持ち主もね」
「これを……普通の人が……?」
紫織は自然と自分の持っている藁人形に視線を移す。
「ただ二人ともいじめを受けていた。被害者はいじめの首謀者だったんだよ」
「いじめ……」
紫織は顔を強張らせる。
「その人は強い恨みを抱いていたんですね」
「紫織ちゃん……?」
紫織の態度に、かなみはたじろぐ。
「そう、紫織の言う通り、持ち主は強い恨みを抱いていた。魔法は使えなくても、藁人形に呪いを宿すには十分な恨みだったということさ」
「嫌な話ね……」
「それでもその藁人形が本物じゃなかったら呪いは成立しなかったんだけどね」
「なんで、そんな物があるのよ? しかも出回っている、ってことはこの二つだけじゃないってことよね?」
「うん、今そっちは絵里奈さん達が調査して回収しているらしいんだけど、その出処にボク達は向かっているってわけだよ」
「出処ね……その藁人形を作って売ってるところなのよね?」
「そういうことになるね」
「そんなところに行って、呪われたりしない? 大丈夫?」
「保証はできないね」
「保証してよ!」
かなみは切実に叫ぶ。
「だって、何があるかわからないからね」
「わかってよ! そのくらい下調べしてよ!!」
「それで呪われたらどうするんだよ?」
「私が呪われたらどうするの!?」
「社長曰く『かなみちゃんだったらどうとでもなるでしょ』だって」
「社長……」
かなみは呪詛のように吐き捨てる。
「あ、あの……そんなに怖いのでしたら、私一人で行ってみましょうか?」
紫織はとてつもなくありがたい提案をしてくれる。
「紫織ちゃん~!!」
かなみには紫織が救いの天使のように感じて、抱きしめる。
「ありがとう! でも、そんな危ないところに一人に行かせられないからね!」
「は、はあ、そうですか……」
「なんてたって、私は紫織ちゃんの先輩だから!」
「え、先輩?」
「そういえばそうだった」
マニィは思い出したように言う。
「忘れかけてたけど、紫織はかなみの唯一の後輩だった」
みあと翠華は、かなみが入社した時にはすでに会社にいた。
紫織はその後から入ってきた。
最初は研修という形で、手伝ってもらっていた。
そんな紫織の初めての仕事もこうして、かなみと二人だった。
「あれから随分経っているかなと思ったら、昨日のことみたいだから不思議よね」
「そ、そうですね……色々ありましたけど、私がこうしていられるのは、みあさんやかなみさんのおかげです」
「紫織ちゃんが頑張ったからだよ。魔法少女に変身できたのも、社員試験に合格できたのも、みんなね」
紫織が初めて魔法少女に変身した時も、紫織が研修から社員にする試験の時も、かなみは紫織が頑張っている姿を見てきた。
「みあさんやかなみさんがいなかったら、とても無理でしたよ……今回の件だって、かなみさんがいるから行けるので」
「私は紫織ちゃんがいなかったらとても一人じゃ怖くて無理だったわ」
かなみがそうやって笑いかけると、紫織が自然と笑みをこぼれる。
かなみと紫織は、電車から降りて目的地へと向かっていく。
「藁人形の出処ってどんなところなの? もしかして、藁の家だったりしない?」
かなみは不安げに訊く。
「さすがにそんなことはないと思いますけど……」
「さ、着いたよ」
「え、もう!?」
マニィがそう言うと、かなみは見回す。
目につくのはごくありふれたマンションが一つ。
「あれ、ですか?」
紫織は確認する。
「そうみたいだね。四〇四号室らしいけど」
「四が二つ……死が二つでなんだか縁起が悪い……」
「ある意味呪いにはピッタリかもしれませんね」
かなみはマンションを見上げて、足を止める。
「あの……かなみさん……?」
「ん?」
「このまま、回れ右しようかなって考えてませんか?」
「あはははは……」
紫織の指摘に、かなみは乾いたごまかし笑いで答える。
「そういうごまかし方は、涼美に似てきたね」
「ああ……」
紫織は涼美がそうやって笑ったところを見たこと無いけど、そんな感じに笑うのは容易に想像がつく。
「母さんに似てきたっていうのは、なんか複雑だけど……」
「ごまかしてるのは否定しないんですか?」
「うぅ……そのとおりです、回れ右したいと思ってました……」
かなみは素直に認める。
「紫織ちゃん、ごめんね。怖がりな先輩で……」
「いえいえ、苦手なら仕方ありませんよ。……な、なんでしたら、私一人で行きましょうか?」
「紫織ちゃん……」
かなみは紫織の肩に手を置く。
「ありがとう。でも、これは二人でやる仕事だから、二人で頑張りましょう!」
「かなみさん……はい!」
紫織に元気をもらって、応える。
「足が震えてなかったらね、もっとよかったんだけど」
「マニィ、ちょっと黙ってて」
かなみと紫織の二人で、マンションに入って、四❍四号室に向かう。
「はあ……とうとう来ちゃった……」
かなみはため息をついて、表札を確認する。
『四❍四号室』
何度確認しても間違いなくそう書かれている。
「本当にここなの?」
マニィにまで確認する。
「情報が間違っていなければね」
「間違ってたらいいな」
「それはそれで問題だよ」
「それもそっか……」
かなみは覚悟を決めて、呼び鈴のボタンを押す。
ピンポーン
呼び鈴が鳴り響く。
「………………」
それから一分くらい経った。
何も反応が無い。
「もう一回押す?」
「……はい、その方がよさそうです」
紫織に確認して、かなみはもう一度呼び鈴のボタンを押す。
ピンポーン
しかし、反応は一向に無かった。
「留守でしょうか?」
「それ以前に、ここ人が住んでるの?」
かなみは表札をもう一度確認する。
『四❍四号室』
名前が無い。
誰か住んでいるならその人の名字があるはずなのに。
「とにかくもう一度鳴らしてみるか」
かなみはもう一度呼び鈴を鳴らすべく、ボタンへ手を伸ばす。
ガシィ!
伸ばした手をいきなり掴まれた。
「あきゃッ!?」
それは扉の隙間から伸びてきた手だった。
「な、なに!? おばけ!?」
「……お客さん?」
扉越しから女性の声がする。
「おきゃくさん?」
ガラッ、と扉が開く。
「いやいや、これはどうも。ちょっと昼寝してて! って、あれ可愛いお客さん!? うんうん、可愛いお客さんは大歓迎よ!」
上機嫌に話す女性がやってきた。
長身に黒髪が腰まで目元が隠れるほど伸びていて、不気味な感じが出ている。
ただダボッとした白Tシャツ、黒ジャージを履いていて、その身なりから生活感を感じられた。
それが、かなみにとっては「お化けじゃない」という安心感になった。
「あの……これ?」
かなみは、藁人形を取り出して見せる。
「ああ、それ!? 私が作った藁人形!?」
「それじゃ、あなたがこれを作ったんですか?」
「ええ、そうよ」
女性はあっさり認めた。
「自信作なんだよね。どうしてあなた達が持ってるの?」
「え、そ、それは……」
「わかった! 誰か呪いたい人がいるのね!?」
「「え!?」」
「詳しい話聞かせて、中に入って入って!!」
強引に部屋でお茶をする流れになった。
「私は早川|《はやかわ》光子《みつこ》! 見ての通り、呪いのアイテム・藁人形を売ってまーす!」
リビングに案内されるなり、お茶を出されて自己紹介が始まった。
「私は結城かなみ」
「私、秋本紫織です」
「かなみちゃんに紫織ちゃんね。可愛い子に相応しい可愛い名前だね」
「「は、はあ……」」
光子の勢いに押されてしまい、かなみと紫織はお互いの顔を見る。
「それで、かなみちゃんは誰を呪いたいの?」
「え? わ、私、別に呪いたい人なんていませんよ!?」
「えぇッ!?」
光子は驚く。
「そんなに驚くことないじゃないですか」
「だって、呪いたい人がいるからここに来たんじゃないの? それに、かなみちゃんはなんだか幸薄そうな顔してるし」
「幸薄い顔!?」
「それは、確かに……」
「紫織ちゃん!?」
「あ、ごめんなさい! つい!」
かなみはため息をつく。
「私って、そんな顔してるのかしら?」と鏡で確認したい気分になった。
「それじゃ、紫織ちゃんの方かな?」
「え、私?」
「誰か呪いたい人いるの?」
「わ、私は……」
紫織は困惑する。
しかし、否定するわけではなかった。
「あの! 私達は藁人形が欲しくてここに来たわけじゃありません!」
かなみが紫織をかばうように言う。
「私が作る藁人形が目的じゃないの? それだったら五寸釘? 銀ピカのいいのがあるよ!」
光子が五寸釘を持つ。
ピカッと銀色に光る様が怪しい。
「そうじゃないです! 私達はその藁人形を回収しにきたんです!!」
「回収? なんでよ?」
光子は首を傾げる。
「そりゃ、危ないからですよ。あなたが作る藁人形《これ》で怪我人が出てるんですよ!」
「へえ、怪我人出たんだ!」
光子はニヤリと笑う。
かなみにはそれが悪魔の笑みに見えた。
「私の藁人形を欲しいっていう人は、みんな誰かを呪いたい人だからね。成就してよかったよ、フヒヒヒヒ」
「かなみさん、この人、危ない人なのでは?」
「最初からそんな気がしてた」
できればすぐにでもこの人から離れたい。
「でも、私の藁人形がやったってよくわかったね。もしかして同業者?」
「ある意味じゃそうかもね」
マニィが喋り出す。
「うわ、ぬいぐるみが喋った!?」
当然、光子は驚く。
「ちょ、ちょっと、マニィ?」
「社長からは必要なら話していいって言いつかってるから大丈夫だよ」
「そうなの……」
「というわけで、私が事情を説明するわ!」
紫織と組んでいるヒツジ型のマスコット・アリィがテーブルに立つ。
「今度はヒツジ!? すごいわね、これ? どうやって喋ってるの!?」
「社長から魔力をもらって、喋ったり、歩いたりすることができるのよ」
アリィが答える。
「社長? 社長ってどこの?」
「私達は株式会社魔法少女のマスコットよ。この二人は社員よ。私達、マスコットは社員をサポートするためについているのよ」
「ボクは主にナビゲートと家計の管理をしてるよ」
「私は主に話し相手ね。紫織は引っ込み思案で無口だからついつい私が喋り続けてしまうのよね。というわけで、私達の自己紹介してあげるわ。私達、株式会社魔法少女は主に悪の秘密結社ネガサイド絡みの案件を取り扱ってるんだけど、今回はあなたが作っている呪いの藁人形を回収しに来たのよ。あなたの藁人形は放っておくには危険すぎる代物だからね。代金はもちろん払う準備はしてるわ。できれば穏便にすませたいのよ。いい? わかる? そういうわけだから、あなたの藁人形を全部買いとるわよ」
「一応これだけの金額を用意してるよ」
マニィは携帯の画面を光子に見せる。
「わあ!?」
光子は明るい反応を見せる。
「一体いくらなの?」
かなみからは死角だったのが金額が見えなかった。
「君は見ない方がいい」
「なんでよ!?」
「金額は魅力的だけど……」
光子は考える仕草をする。
「だから、一体いくらだったんですか……?」
かなみは気になって仕方がない。
「却下よ。ここにある藁人形は売らない」
「交渉は破談したよ」
「少しは食い下がりなさいよ……社長からもっと予算もらってるんじゃないの?」
「金額見てないの、よくわかるね」
「本当にもらってたの……」
適当に言ったのに的中してしまった。
「かなみちゃんと紫織ちゃんになら売ってもいいけどね。必要そうな顔してるし」
「私達に、ですか?」
「私は必要じゃありませんし、そんな顔してません!」
かなみは前のめりになって訴えかける。
「じー」
光子は文字通り、じーと、かなみの顔を見る。
「な、なんですか……?」
「かなみちゃん、本当に呪いたい人とかいないの?」
「いませんけど……どうして、そんなこと訊くんですか?」
「呪いたい人がいそうな顔してると思ったのよね。幸薄そうだし、ねえ本当にいないの?」
「くどいです! いないったらいませんよ!!」
「………………」
光子は水をかけられたように黙って考え込む。
「私のカンが外れたか……」
何故かそう呟いて落ち込み始めた。
「意外でした……」
「え、紫織ちゃん?」
「いえ、なんでもありません……」
紫織は手を振ってごまかす。
「それじゃ、紫織ちゃんは?」
「え、私ですか?」
「誰か呪いたい人いるんでしょ!?」
光子は紫織に迫る。
「ねえ? ねえ!?」
「あ、え、あ、あの……」
「紫織ちゃん、困ってるからそのへんにしてください」
かなみが止めに入る。
「そう……」
光子はそれで潮が引いたように落ち着く。
「あの……どうして、藁人形を作ってるんですか?」
時間は、草木も眠る丑三つ時。つまり、午前二時。
藁人形に髪の毛を組み込んで、壁にくくりつける。
あとは五寸釘を藁人形の中心、つまり心臓に刺して、ドスンとトンカチを打ち据える。
呪うべき人間に向けて、恨みつらみの念をありったけ注いで、トンカチで釘を突き刺す。
胸を穿ち、心臓を貫けと、ドスンドスンと。
そうすることで、その想いは藁人形を伝って、相手に届くだろう。
「そして、朝日が昇る頃には、その人は――」
あるみはそこまで話して、違和感に気づく。
「かなみさんならあそこに……」
紫澱は控え目に指さした方――デスクの下にうずくまっている、かなみの姿があった。
「かなみちゃん、揺れてないわよ」
「地震じゃありませんよ!? 社長の怪談話が怖いんですよ!?」
「怪談話なんかじゃないわよ。本当にあった話よ」
「なお怖いです!!」
「あ、あの……」
紫織はおずおずと言い始める。
「本当の話って本当ですか?」
「本当よ」
あるみはあっさりと答える。
「じゃなかったら、こんな話しないわよ。かなみちゃんにはその呪いの藁人形を回収してもらおうかと思ってね」
「な、ななな、なんでそんなものを私に!?」
「だって、翠華ちゃんもみあちゃんも今は出ちゃってるみたいだし、本物なんだからすぐに回収した方がいいでしょ」
「そ、それはそうですけど……そんなおっかないもの、回収できませんよ!!」
「あ、一応これがその本物よ」
「「ええッ!?」」
あるみは懐から藁人形をポンと出して放り投げる。
「キャッ!?」
紫織は悲鳴とともに条件反射でキャッチする。
「え、えぇ、本物!?」
ガクガクと震えながら、藁人形を凝視する。
「それは本物だけど、髪の毛と五寸釘がないと効力が無いわよ」
「そ、そうですか……」
紫織はホッと一安心する。
「よく見ると……確かに普通の人形と違う気がします……」
「そ、そうなの……?」
かなみはデスクの下から藁人形を見ようとする。
「いい加減出てきたら?」
「だ! だって、藁人形から幽霊とか出てきて呪われたらどうするんですか!?」
「藁人形って幽霊が出てきて呪うっていうような代物じゃないんだけどね。ようは髪の毛と藁人形を結びつけることで擬似的にその人の身体を出現させるようなものなんだけど……まあとにかく幽霊とは無縁の品物よ。ほらもう一つあるから」
あるみはまた藁人形を取り出して、かなみへ投げる。
「わ、きゃあああああッ!?」
かなみは猫のような悲鳴と身の毛の立ち方をする。
ただ、それでも藁人形は条件反射でしっかりとキャッチしていた。
「ほ、本当に幽霊とかおばけとか出てきませんか!?」
「出てこないって言ってるでしょ。ほらよく見て、そんな気配する?」
「………………しません」
かなみは藁人形をじっくり見て結論を出す。
幽霊の千歳をよく見ていたり、他の幽霊やそれに近い妖精や精霊をよく見てきているおかげか、そういうものが出てきそうな気配がまったくしないはなんとなくわかるようになってきた。
今手にしている藁人形は、嫌な気配こそするものの、幽霊とはまた違ったものだということは感じでわかる。
「嫌な感じはしますけど」
「それが藁人形は本物だからよ。呪いって具体的にはわからないけど、本能的に嫌なものだって感じるようになってるのよ、人間は」
「っていうか、なんでこんなもの持ってるんですか?」
「絵里奈からもらったのよ」
「絵里奈さんが? 意外です」
かなみの脳裏に、藁人形に五寸釘を突き刺す絵里奈の姿が浮かんだ。
「いえ、そういう趣味があるわけじゃなくて」
あるみの一言に安堵する。
「この話を持ちかけてきたのは彼女なのよ。彼女はそういう役職だって言ったでしょ」
「そういえば、そうでした。偉いんですか?」
「それなりにね。かなみちゃんのボーナスも絵里奈にかかってると言っても過言じゃないわね」
「……マジ?」
「というわけで、この案件よろしくね」
あるみから封筒を受け取る。
「……紫織ちゃん、一緒に来てもらえる?」
「え、私ですか?」
そんなわけで、二人して目的地に向かって電車に乗り込む。
「あの……私がご一緒していいんですか?」
紫織がおずおずと訊く。
「うんうん! ご一緒して! 二人じゃないと! 不安だから!!」
かなみはグイグイと答える。
「は……はあ、かなみさん、相当苦手なんですね、幽霊」
「苦手、というより天敵よ! 人類の天敵よ、幽霊とお化けは!!」
「人類の天敵……でも、幽霊って元は人間ですよね?」
「あ……」
紫織に言われて、かなみは初めて気づく。
「考えたことなかったわ……そうね、幽霊って死んだ人間だから、元は人間なのよね……千歳さんだってそうだし……」
「どうでしょうか? 幽霊、怖くなくなったでしょうか?」
「ううんううん!」
かなみは力いっぱい首を横に振って否定する。
「だって、幽霊って飛んだり消えたり乗り移ったり怖いこといっぱいしてくるのよ!? 生きてる人間とは別物よ! 怖い!!」
「……私は生きてる人間の方が怖いですけど」
紫織はボソリと小声で囁いた。
「とはいえ」
マニィが口を挟む。
電車の中には他に客がいないため、ここで話しても問題はない。
「今回はその幽霊とも無関係だけど、お化けが出てこないとも限らないからね」
「お化け……!」
かなみは身震いする。
「幽霊とお化けの違いって何なんでしょうかね……」
「ボクは専門家じゃないからわからないよ」
『呪いの藁人形が出回っている。どうやら本物のようで、被害者は出ている。死人は出ていない。骨折や一時的な内蔵のダメージがあるだけ、もちろん被害者にはそんな憶えはない。唐突にそんな病状が顕れた』
マニィは封筒の書類を読み上げる。
「それだけでどうしてこの呪いの藁人形の仕業ってわかったの?」
かなみが訊く。
「ドギィとサキィが診たんだよ。そういう不審な患者の情報も入ってくる。それであったんだよ」
「あったって何が?」
「――呪いの痕だよ」
かなみと紫織は揃って身震いする。
「の、呪い!?」
「具体的には、黒い斑点模様。たっぷり魔力がこもってるやつだよ」
「黒い斑点……どうやったらそんなのができるの?」
「それこそ呪いだね。サキィの感知を通して髪の毛と藁人形を媒介にして繋がっていたことがわかったよ」
サキィ……サル型のマスコットで普段は置物のようにオフィスでジッとしているが、その分、優れた感知能力を持っている。
きっと犬型のマスコット・ドギィが咥えて診に行ったのだろう。
「そうした繋がりを辿っていったところで、それの持ち主に辿り着いた」
マニィはかなみの持つ藁人形を指さして言う。
「持ち主はどんな人だったの?」
「普通の……どこにでもいるような女子高生だったよ。とても魔法を使えるような素質を持った子じゃなかった。そっちの藁人形の持ち主もね」
「これを……普通の人が……?」
紫織は自然と自分の持っている藁人形に視線を移す。
「ただ二人ともいじめを受けていた。被害者はいじめの首謀者だったんだよ」
「いじめ……」
紫織は顔を強張らせる。
「その人は強い恨みを抱いていたんですね」
「紫織ちゃん……?」
紫織の態度に、かなみはたじろぐ。
「そう、紫織の言う通り、持ち主は強い恨みを抱いていた。魔法は使えなくても、藁人形に呪いを宿すには十分な恨みだったということさ」
「嫌な話ね……」
「それでもその藁人形が本物じゃなかったら呪いは成立しなかったんだけどね」
「なんで、そんな物があるのよ? しかも出回っている、ってことはこの二つだけじゃないってことよね?」
「うん、今そっちは絵里奈さん達が調査して回収しているらしいんだけど、その出処にボク達は向かっているってわけだよ」
「出処ね……その藁人形を作って売ってるところなのよね?」
「そういうことになるね」
「そんなところに行って、呪われたりしない? 大丈夫?」
「保証はできないね」
「保証してよ!」
かなみは切実に叫ぶ。
「だって、何があるかわからないからね」
「わかってよ! そのくらい下調べしてよ!!」
「それで呪われたらどうするんだよ?」
「私が呪われたらどうするの!?」
「社長曰く『かなみちゃんだったらどうとでもなるでしょ』だって」
「社長……」
かなみは呪詛のように吐き捨てる。
「あ、あの……そんなに怖いのでしたら、私一人で行ってみましょうか?」
紫織はとてつもなくありがたい提案をしてくれる。
「紫織ちゃん~!!」
かなみには紫織が救いの天使のように感じて、抱きしめる。
「ありがとう! でも、そんな危ないところに一人に行かせられないからね!」
「は、はあ、そうですか……」
「なんてたって、私は紫織ちゃんの先輩だから!」
「え、先輩?」
「そういえばそうだった」
マニィは思い出したように言う。
「忘れかけてたけど、紫織はかなみの唯一の後輩だった」
みあと翠華は、かなみが入社した時にはすでに会社にいた。
紫織はその後から入ってきた。
最初は研修という形で、手伝ってもらっていた。
そんな紫織の初めての仕事もこうして、かなみと二人だった。
「あれから随分経っているかなと思ったら、昨日のことみたいだから不思議よね」
「そ、そうですね……色々ありましたけど、私がこうしていられるのは、みあさんやかなみさんのおかげです」
「紫織ちゃんが頑張ったからだよ。魔法少女に変身できたのも、社員試験に合格できたのも、みんなね」
紫織が初めて魔法少女に変身した時も、紫織が研修から社員にする試験の時も、かなみは紫織が頑張っている姿を見てきた。
「みあさんやかなみさんがいなかったら、とても無理でしたよ……今回の件だって、かなみさんがいるから行けるので」
「私は紫織ちゃんがいなかったらとても一人じゃ怖くて無理だったわ」
かなみがそうやって笑いかけると、紫織が自然と笑みをこぼれる。
かなみと紫織は、電車から降りて目的地へと向かっていく。
「藁人形の出処ってどんなところなの? もしかして、藁の家だったりしない?」
かなみは不安げに訊く。
「さすがにそんなことはないと思いますけど……」
「さ、着いたよ」
「え、もう!?」
マニィがそう言うと、かなみは見回す。
目につくのはごくありふれたマンションが一つ。
「あれ、ですか?」
紫織は確認する。
「そうみたいだね。四〇四号室らしいけど」
「四が二つ……死が二つでなんだか縁起が悪い……」
「ある意味呪いにはピッタリかもしれませんね」
かなみはマンションを見上げて、足を止める。
「あの……かなみさん……?」
「ん?」
「このまま、回れ右しようかなって考えてませんか?」
「あはははは……」
紫織の指摘に、かなみは乾いたごまかし笑いで答える。
「そういうごまかし方は、涼美に似てきたね」
「ああ……」
紫織は涼美がそうやって笑ったところを見たこと無いけど、そんな感じに笑うのは容易に想像がつく。
「母さんに似てきたっていうのは、なんか複雑だけど……」
「ごまかしてるのは否定しないんですか?」
「うぅ……そのとおりです、回れ右したいと思ってました……」
かなみは素直に認める。
「紫織ちゃん、ごめんね。怖がりな先輩で……」
「いえいえ、苦手なら仕方ありませんよ。……な、なんでしたら、私一人で行きましょうか?」
「紫織ちゃん……」
かなみは紫織の肩に手を置く。
「ありがとう。でも、これは二人でやる仕事だから、二人で頑張りましょう!」
「かなみさん……はい!」
紫織に元気をもらって、応える。
「足が震えてなかったらね、もっとよかったんだけど」
「マニィ、ちょっと黙ってて」
かなみと紫織の二人で、マンションに入って、四❍四号室に向かう。
「はあ……とうとう来ちゃった……」
かなみはため息をついて、表札を確認する。
『四❍四号室』
何度確認しても間違いなくそう書かれている。
「本当にここなの?」
マニィにまで確認する。
「情報が間違っていなければね」
「間違ってたらいいな」
「それはそれで問題だよ」
「それもそっか……」
かなみは覚悟を決めて、呼び鈴のボタンを押す。
ピンポーン
呼び鈴が鳴り響く。
「………………」
それから一分くらい経った。
何も反応が無い。
「もう一回押す?」
「……はい、その方がよさそうです」
紫織に確認して、かなみはもう一度呼び鈴のボタンを押す。
ピンポーン
しかし、反応は一向に無かった。
「留守でしょうか?」
「それ以前に、ここ人が住んでるの?」
かなみは表札をもう一度確認する。
『四❍四号室』
名前が無い。
誰か住んでいるならその人の名字があるはずなのに。
「とにかくもう一度鳴らしてみるか」
かなみはもう一度呼び鈴を鳴らすべく、ボタンへ手を伸ばす。
ガシィ!
伸ばした手をいきなり掴まれた。
「あきゃッ!?」
それは扉の隙間から伸びてきた手だった。
「な、なに!? おばけ!?」
「……お客さん?」
扉越しから女性の声がする。
「おきゃくさん?」
ガラッ、と扉が開く。
「いやいや、これはどうも。ちょっと昼寝してて! って、あれ可愛いお客さん!? うんうん、可愛いお客さんは大歓迎よ!」
上機嫌に話す女性がやってきた。
長身に黒髪が腰まで目元が隠れるほど伸びていて、不気味な感じが出ている。
ただダボッとした白Tシャツ、黒ジャージを履いていて、その身なりから生活感を感じられた。
それが、かなみにとっては「お化けじゃない」という安心感になった。
「あの……これ?」
かなみは、藁人形を取り出して見せる。
「ああ、それ!? 私が作った藁人形!?」
「それじゃ、あなたがこれを作ったんですか?」
「ええ、そうよ」
女性はあっさり認めた。
「自信作なんだよね。どうしてあなた達が持ってるの?」
「え、そ、それは……」
「わかった! 誰か呪いたい人がいるのね!?」
「「え!?」」
「詳しい話聞かせて、中に入って入って!!」
強引に部屋でお茶をする流れになった。
「私は早川|《はやかわ》光子《みつこ》! 見ての通り、呪いのアイテム・藁人形を売ってまーす!」
リビングに案内されるなり、お茶を出されて自己紹介が始まった。
「私は結城かなみ」
「私、秋本紫織です」
「かなみちゃんに紫織ちゃんね。可愛い子に相応しい可愛い名前だね」
「「は、はあ……」」
光子の勢いに押されてしまい、かなみと紫織はお互いの顔を見る。
「それで、かなみちゃんは誰を呪いたいの?」
「え? わ、私、別に呪いたい人なんていませんよ!?」
「えぇッ!?」
光子は驚く。
「そんなに驚くことないじゃないですか」
「だって、呪いたい人がいるからここに来たんじゃないの? それに、かなみちゃんはなんだか幸薄そうな顔してるし」
「幸薄い顔!?」
「それは、確かに……」
「紫織ちゃん!?」
「あ、ごめんなさい! つい!」
かなみはため息をつく。
「私って、そんな顔してるのかしら?」と鏡で確認したい気分になった。
「それじゃ、紫織ちゃんの方かな?」
「え、私?」
「誰か呪いたい人いるの?」
「わ、私は……」
紫織は困惑する。
しかし、否定するわけではなかった。
「あの! 私達は藁人形が欲しくてここに来たわけじゃありません!」
かなみが紫織をかばうように言う。
「私が作る藁人形が目的じゃないの? それだったら五寸釘? 銀ピカのいいのがあるよ!」
光子が五寸釘を持つ。
ピカッと銀色に光る様が怪しい。
「そうじゃないです! 私達はその藁人形を回収しにきたんです!!」
「回収? なんでよ?」
光子は首を傾げる。
「そりゃ、危ないからですよ。あなたが作る藁人形《これ》で怪我人が出てるんですよ!」
「へえ、怪我人出たんだ!」
光子はニヤリと笑う。
かなみにはそれが悪魔の笑みに見えた。
「私の藁人形を欲しいっていう人は、みんな誰かを呪いたい人だからね。成就してよかったよ、フヒヒヒヒ」
「かなみさん、この人、危ない人なのでは?」
「最初からそんな気がしてた」
できればすぐにでもこの人から離れたい。
「でも、私の藁人形がやったってよくわかったね。もしかして同業者?」
「ある意味じゃそうかもね」
マニィが喋り出す。
「うわ、ぬいぐるみが喋った!?」
当然、光子は驚く。
「ちょ、ちょっと、マニィ?」
「社長からは必要なら話していいって言いつかってるから大丈夫だよ」
「そうなの……」
「というわけで、私が事情を説明するわ!」
紫織と組んでいるヒツジ型のマスコット・アリィがテーブルに立つ。
「今度はヒツジ!? すごいわね、これ? どうやって喋ってるの!?」
「社長から魔力をもらって、喋ったり、歩いたりすることができるのよ」
アリィが答える。
「社長? 社長ってどこの?」
「私達は株式会社魔法少女のマスコットよ。この二人は社員よ。私達、マスコットは社員をサポートするためについているのよ」
「ボクは主にナビゲートと家計の管理をしてるよ」
「私は主に話し相手ね。紫織は引っ込み思案で無口だからついつい私が喋り続けてしまうのよね。というわけで、私達の自己紹介してあげるわ。私達、株式会社魔法少女は主に悪の秘密結社ネガサイド絡みの案件を取り扱ってるんだけど、今回はあなたが作っている呪いの藁人形を回収しに来たのよ。あなたの藁人形は放っておくには危険すぎる代物だからね。代金はもちろん払う準備はしてるわ。できれば穏便にすませたいのよ。いい? わかる? そういうわけだから、あなたの藁人形を全部買いとるわよ」
「一応これだけの金額を用意してるよ」
マニィは携帯の画面を光子に見せる。
「わあ!?」
光子は明るい反応を見せる。
「一体いくらなの?」
かなみからは死角だったのが金額が見えなかった。
「君は見ない方がいい」
「なんでよ!?」
「金額は魅力的だけど……」
光子は考える仕草をする。
「だから、一体いくらだったんですか……?」
かなみは気になって仕方がない。
「却下よ。ここにある藁人形は売らない」
「交渉は破談したよ」
「少しは食い下がりなさいよ……社長からもっと予算もらってるんじゃないの?」
「金額見てないの、よくわかるね」
「本当にもらってたの……」
適当に言ったのに的中してしまった。
「かなみちゃんと紫織ちゃんになら売ってもいいけどね。必要そうな顔してるし」
「私達に、ですか?」
「私は必要じゃありませんし、そんな顔してません!」
かなみは前のめりになって訴えかける。
「じー」
光子は文字通り、じーと、かなみの顔を見る。
「な、なんですか……?」
「かなみちゃん、本当に呪いたい人とかいないの?」
「いませんけど……どうして、そんなこと訊くんですか?」
「呪いたい人がいそうな顔してると思ったのよね。幸薄そうだし、ねえ本当にいないの?」
「くどいです! いないったらいませんよ!!」
「………………」
光子は水をかけられたように黙って考え込む。
「私のカンが外れたか……」
何故かそう呟いて落ち込み始めた。
「意外でした……」
「え、紫織ちゃん?」
「いえ、なんでもありません……」
紫織は手を振ってごまかす。
「それじゃ、紫織ちゃんは?」
「え、私ですか?」
「誰か呪いたい人いるんでしょ!?」
光子は紫織に迫る。
「ねえ? ねえ!?」
「あ、え、あ、あの……」
「紫織ちゃん、困ってるからそのへんにしてください」
かなみが止めに入る。
「そう……」
光子はそれで潮が引いたように落ち着く。
「あの……どうして、藁人形を作ってるんですか?」
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