まほカン

jukaito

文字の大きさ
上 下
306 / 337

第115話 義侠! 忘れられない少女の面影を少女に見る (Aパート)

しおりを挟む
「紫織ちゃんがさらわれた!?」
 オフィスで唐突に聞かされたあるみから一言に、翠華は驚く。
「ええ、翠華ちゃんに迎えに行って欲しいなと思って
「迎えに行くのはいいんですけど、誰にさらわれたんですか?」
 翠華はすぐに引き受けて、事情を聞き出そうとする。
 切り替えが早いのが、翠華の良いところだった。
「さらったのは、やくざよ」
「やくざ!?」
 てっきり怪人かと思っただけに余計に驚く。
「なんで、やくざが紫織ちゃんを?」
「組長の隠し子か何かと勘違いされたみたいなのよ」
 あるみは事情を説明する。
 会社の方でとある法具が手に入った。
 やくざの組長がそれを所望したので、紫織に届けさせた。
 そのやくざというのは、紫織が入社試験を行った際、訪れて世話になったものである。
 それ以来、紫織は用があって足繁く通っていた。
 なんでも組長が孫のように可愛がっている、とか。
 その組長がご所望していた法具が見つかったのだから、紫織に運ばせるのがうってつけだった。
 問題は、タイミング悪く敵対していた組がかちこみにやってきて、さらってしまったのだ。
「本当に組長の孫かと勘違いされて、さらわれてしまったみたいなのよ」
「やくざとはいえ、普通の人に魔法を使うわけにはいかないから」
「そういうことよ。本当なら私が行って話をつけたいところなんだけど、翠華ちゃんに任せたいの」
「社長の代わりに話をつけるって……」
 またとんでもない無茶振りをされた、と翠華は困り果てる。
「本当ならかなみちゃんに頼みたかったところなんだけど」
「かなみさん……」
 かなみは只今別用で出かけている。間が悪いやら良いやら。
「翠華ちゃんが代わりに行ってくれたら、かなみちゃんも感謝するんじゃないかしら?」
「かなみさんが感謝!?」
 即座に翠華の脳内でかなみの笑顔が思い浮かぶ。
『翠華さん、私の代わりに社長の無茶振りに答えてくれてありがとうございます!』
 良い。凄く良い。
「おまけにやくざから紫織ちゃんを助け出したとしれば、株がバク上がりよ!」
「バク!?」
『やくざ相手にキッタハッタするなんてかっこいいです! 最高です!』
 むしろ、脳内かなみによる興奮がストップ高だった。
「ウシシシ、お嬢は乗せられやすいぜ」



 それでその件の紫織はというと。
「お嬢ちゃん、羊羹食べるかい?」
 禿頭でサングラスをつけた老人が羊羹を差し出してくる。
「い、いえ、いらないです」
「そうか、甘くて美味しいのにな。やっぱり、若い娘《こ》はケーキが好みか? おい!」
 サングラスの老人は奥にいた強面の大男を呼ぶ。
「へい!」
「この娘のためにケーキを買ってこい」
「へい!」
 強面の大男が部屋を出ていく。
「あ、あの……私のために、そんな……」
「そう言いなさんな」
「ひ!」
 老人は紫織へ言う。
 別に凄んだわけでも、脅したわけでもない、ごく自然に接しているつもりだけど、紫織を怯えさせるには十分だった。
 急に連れてこられたやくざの本拠地は、大きな洋館で立派な洋室で大勢の強面の男達に囲まれて、小学生の少女が怯えない方が無理なことだった。
「お嬢ちゃん、うちの組の立派な客人だ。もてなすのは当然のことじゃろ」
「きゃ、客人って……」
「急に連れてきて悪かったな。じゃが、もう少しここにいてもらおうか」
「あ、あの、どうして、私を?」
「お前さんをさらってきたときには驚いたぞ。まさかあいつの孫娘が屋敷にいたとはな」
「え、孫娘? あいつ?」
 紫織にはまったく身に覚えのないことだった。
(そういえば、さらってきた時もそんなこと言われたような……)
 紫織はさらわてた時のことを思い出す。



「よく来たな、紫織ちゃん!」
 あるみから預かった法具を届けに屋敷へ着くなり、組長が出迎えてくれた。
 紫織の入社試験でお世話になって以来、組長や組の人達は紫織のことを気に入ってくれた。
 そういうわけで今日も門で挨拶するなり、すぐに和室に案内してもらった。
 歓迎してくれるのはありがたいけど、厳かな茶室で正座していては落ち着かない。
「こちらが法具なんですけど……」
 さっそく茶室にやってきた組長へ紫織は早速小包を渡した。
「わざわざ届けてくれてありがとう。まさか本当に用意してくれるとはな。君の社長にはまた一つ借りができた」
「は、はあ……」
「もちろん、君にもだ」
「い、いえ、私は社長からお願いされただけなので……」
「そういう控えめなところは美徳といっていい。ま、せっかくきたのだからゆっくりしていきなさい」
 そう言われては断りきれない。
「お茶です」
「は、はい!」
 突然背後から現れた男から湯気の立ったお茶を差し出される。
「カゲ、いつもおどかすなと言ってるだろ」
 組長が注意する。
「へい、すいやせん。人の後ろに立つのが性分なもんで」
 カゲと呼ばれたやせっぽちの男は平謝りする。
「いえ、私もそろそろ慣れないといけないので」
 カゲが後ろに立って、紫織が驚く。そして、組長に注意される。
 このやりとりも数度目だった。
「優しいですね、お嬢ちゃんは。おかげでついつい後ろに立って驚かせてしまう」
 カゲは嬉しそうに言う。
「あ、そ、そうですか……」
 悪気はないのは感じているので、悪い気はしていない。
 とはいえ、気づかれないうちに後ろに回り込むなんて、ちょっとした怪人並で驚かされる。
「お詫びにプリンをあげようか」
「いえ、遠慮しておきます」
「こないだはおいしそうに食べていたのに」
 組長はいじけている。少し子供っぽく見える。
「まあそれは仕方がない。今日はカステラなんてどうだ?」
「そ、そういうことじゃないんですけど……」
「嬢ちゃん、組長の茶菓子が受けられないってのか!?」
「ひ!?」
 プロレスラーかと思うような大男がガンつけてくる。
「マス、びびらせるんじゃねえ!」
「すいません」
 組長が睨みをきかせると、マスは素直に謝る。
「まあ、菓子が気に召さないのは仕方ないことだ」
「いえ、お菓子は好きです」
 紫織は思わず正直に言う。
「そうか。まあお茶を飲んでゆっくりしてくれれば良い。菓子を食べたくなったらいつでもいいなさい」
「は、はい……」
 紫織はそう言われて、控えめにお茶をすする。
「組長《オヤジ》さん、孫が可愛いんですよ」
 カゲが紫織に耳元でささやく。
「その孫が遠くに住んでて中々会えないもんだから寂しくてですね。お嬢ちゃんを孫の代わりかと思ってね」
「それはわかるんですけど……」
 この話も数度目だった。
「いっそのこと、組長《オヤジ》さんをおじいちゃんって呼んだらどうですか?」
「……それは、ちょっと……」
 紫織としては、嫌《いや》というより気おくれてしまって言えない。
「ん?」
 組長の顔を見ると、怪訝そうな表情をして返してくる。その顔がちょっと怖い。
「しかし、君の社長には本当に借りばかりだ。これも無理言って手に入れてもらった」
 組長は紫織が渡した小包を大事そうに持って言う。
「無理言って手に入れてもらった? それはどんなものなんですか?」
「ああ、これは――」
 組長が小包の中身を教えようとした、その時だった。

タタタタタタタタ!!

 けたたましい足音が不意に近づいてきた。
「オヤジ! 大変だ!」
 ひょろ長い組員が報せにやってくる。
「なんだ、客の前だぞ」
「すいません! それどころじゃなかったもんで! 隣町の組がカチコミにやってきたんで!!」
「なんだと!?」
 組長は驚愕の声を上げる。

バァン!

 その直後に銃声が轟く。
「隣町!? あの野郎、とうとう来やがったか!」
 組長は立ち上がって、和室の奥の『心身一如』と書かれた掛け軸の下に置かれた日本刀を手に取る。
「こっちはカチコむむつもりはなかったが、向こうがカチコんでくるなら容赦しねえ! てめえら、返り討ちにしてやれ!!」
「「「へい!!」」」
 組長や紫織を取り囲んでいた大人達が威勢よく返事する。
 紫織はその迫力に圧倒されて縮み上がる。

タタタタタタタタ!!

 そして、向こう側から聞こえた足音と同じけたたましい足音を立てて出ていく。
「お嬢ちゃん……」
 二人きりになって、組長は紫織へ心配そうに呼びかける。
「怖がらせてごめんね。最近はこういうこともばったりなくなったもんだから油断してたんだ」
「最近なかったって、前はあったんですか?」
「ああ、特に俺の若い頃はな。隣町の組の組長とはずっとやりあってきたんだ!?」
「ど、どうして……? そんなにやりあっていたんですか?」
「ん?」
 紫織に素直にそう訊かれると、組長は睨んでくる。
 まずいことを聞いてしまったと紫織は焦る。
 しかし、組長はすぐに穏やかな顔をして答える。
「いや、訊かれるまで考えたことなかったんでな。そうだな、やり合う理由な……あいつとは若い頃から何かにつけて張り合ってたからな……」
「あいつ?」

バァン! バァン! オオオオオオオッ!!

 そんな会話をしているうちに銃声と怒声が聞こえてくる。
 しかも、それがどんどん近づいていってる。
「お嬢ちゃん、俺が絶対に守るから安心しろ。そんかわり、ここで大人しくしてな」
「は、はい……」
 紫織は組長の方に寄ろうとする。
「こいつが組長の孫かい?」
「――!?」
 突然現れた男に紫織の手をとられる。
「ニンジャ、お前か!?」
 組長はその男へ言う。
「忍者!?」
「拙者、忍びの末裔のものにより、敵地への潜入はお手の物でござる」
「す、凄いです、魔法みたいです……!」
 紫織は感心する。
「魔法ではない、忍法だ」
 ニンジャはそう言って、紫織をロープで瞬く間に縛る。
「え、えぇ!?」
「組長の孫はもらっていくぞ!」
「待てコラ!?」
 組長が制止しても、ニンジャは紫織を抱えて連れ去ってしまう。



 そして、気づいたら隣町のやくざの本拠地の洋館に連れてこられていた。
「……一体、どうしてこんなことに……?」
 紫織は困り果てる。
 ただ、あるみの依頼を引き受けて、やくざの屋敷にやってきただけなのに。
 やくざのカチコミを受けて、組長の勘違いされて誘拐された。災難としか言いようがない。
 しかも、普通の人に向かって魔法は使ってはいけない。
 あるみからそう釘を刺されている。
 魔法を使えない相手……ある意味、怪人よりも厄介だった。
(どうしたら……?)
 紫織は周囲を見回す。
 あの扉から廊下を走って逃げたらどうか。でも、連れてこられたとき、この部屋に通されてからの道順を覚えきれていない。
 あの窓を開けて外に出てみたらどうか。窓が重々しくて自分の力が開けられるかわからない。
 よしんぼ開けられたとしても外は木々が生い茂っていて森の中にいるような錯覚を感じる。
 いや、本当に外には森が広がっているのかもしれない。そう思うと、すんなり外に出ても森から抜け出せなくては意味がないと考えてしまう。
 何よりも下手に動いて逃げようとして、この組員に追いかけてこられて捕まったら……と思うと怖くて動けない。
(誰か助けに来てくれないでしょうか?)
 そう思うようになる。
 助けに来るとしたら誰だろうか。
 まず真っ先にあるみが思い浮かぶ。たとえ普通の人に魔法を使わなくてもあの人ならどうにかできそうな気がしてくる。
 次にみあだ。みあは自分よりも小さくて歳下なのに頼りになるし機転が利く。この窮地を上手くやって脱出することができると思う。
 その次に、かなみが思い浮かんだ。
(あ、でも……かなみさんはやくざに売り飛ばされる側の人でした……)
 そんなことを考えてしまっていた。
(あ、失礼しました!)
 紫織は心の中で謝る。
 心の中のかなみは多分こんなこと言っても戸惑いながらも許してくれるだろう。
(でも、かなみさんだったらこんな時にどうするか……――とりあえず羊羹は食べますよね)
 紫織は差し出された羊羹に視線を追いやる。
「食べたいのなら我慢せずに食べても良いんじゃよ」
 禿頭の組長が優しくそう言ってくれる。
「あ、いえ! 別に食べたいわけじゃなくてですね! 知り合いにいつもお腹を空かせてる人がいまして! その人だったら泣いて喜ぶかなーとか考えちゃいまして!!」
 紫織は慌てて取り繕う。
「ほう、そうか。優しい子じゃな、君は」
 組長は感心する。
 その物言いは好々爺のようでつい気を許したくなる。
「優しいとかそういうわけじゃないと思いますが……」
 むしろ、弁解に思いっきり酷いこと言っている気がして、罪悪感がこみ上げてくる。
「よかったら、お土産にやろうか。その泣いて喜ぶ人のためにあげたらどうじゃ?」
「は、はあ……」
 そうまで言われると断りづらい。
「おい」
「へい!」
 組長の背後に控えていた組員がすぐに小包を紫織へ出す。
「いえ、そんな!」
「甘味はやっぱり和菓子に限る。とはいえ、若い子にはケーキかプリンがいいんじゃろか?」
「いえ、そんなことはないです……あまいものは、すきです……」
「そうか。それではこんなところでは落ち着かんじゃろうし、甘味も喉も通らんか」
「そ、それは……」
「ええんじゃ、無理に連れてきてしまって悪かったのう」
「あの……どうして、私をさらってきたんですか?」
 紫織が訊くと、組長がギロリを睨んでくる。
 その視線が怖くて、思わず小さく悲鳴あげてしまう。
「お嬢ちゃんがヤツの孫と聞いてな」
「……え? ヤツ?」
「本町組《もとまちぐみ》の組長じゃ」
 本町組とは、さっきまで紫織がいたやくざの組の名前だ。
「本町さんの孫って……」
『その孫が遠くに住んでて中々会えないもんだから寂しくてですね。お嬢ちゃんを孫の代わりかと思ってね』
 本町の組長の言葉を思い出す。
(本当に孫と勘違いされたんですか!?)
 紫織は呆気にとられた。
「ふむ……」
 隣町の組長は感心したように紫織は見る。
「あ、あの……なんでしょうか?」
「面影がある」
「……え?」
 組長は徐に立ち上がり、写真を取り出す。
 そこには、紫色の髪をした女子高生が写っていた。
「かつて、儂と本町は一人の女子《おなご》を愛した」
「この人ですか?」
「そうじゃ。この一人の女子を取り合って、争いを繰り広げた」
「あ、争い……」
「そりゃもう、かけっこといった微笑ましいものから刀での切り合いまでもうそりゃもう血みどろ百番勝負でした」
「わ!?」
 いきなりニンジャが現れて説明しだす。
「このニンジャは代々隣町組に仕えている。ちなみに名前は儂も知らん」
「そ、そうですか……」
「忍びの者は名前を知られた時が死ゆえに。拙者のことはニンジャとお呼びくだされ」
「は、はい、わかりました。……ニンジャさん」
「うむ」
 紫織は恐る恐る呼び、ニンジャは短く応じる。
「話の腰を折ってしまったな。儂と本町の争いは学生の頃から始まり、卒業して若頭になってからも続いてな。儂は彼女に幾度となく求婚した」
「きゅうこん?」
 紫織が首を傾げたことで、組長は困った顔をする。
 やがて、コホンと咳払いしてこう答える。
「……所謂、ぷろぽーずというものだ」
「ぷ、プロポーズ!?」
 紫織は驚愕する。
「無論、奴もな。奴が儂に抜け駆けして求婚しているところを何度も目撃した。奴も儂がしているところを何度も目撃しているはずじゃ。そう、儂らは学生の頃から彼女を生涯の伴侶と心に決めていた」
「が、学生」
「七歳の時からです」
「なな!?」
 ニンジャが補足する。
 自分の歳よりも幼いときからそんな「生涯の伴侶」なんて大仰なものを決めていたなんて。
 なんというか、スケールというか器の大きい大人物のように見えてしまう。
「ところでお嬢ちゃん、歳はいくつか?」
「え、歳? 十歳です」
「十か……小学校に通っている歳か。好きな男子とかおるか?」
「好きな男子!? いえいえ、いません! いません!!」
「ふむ、そうか」
「どうして、突然……そんなことを?」
「いやなに、心に決めた人がいるなら想いを伝えたほうがいい。と助言しようかと思ってな。この彼女もそうだった」
「そうなんですか」
 組長はフフッと笑い出して語る。
「これがまた優柔不断な女子でな、ハハ!
『俺か! 奴か!』 で争ったときもいつも「あの、その」で困っていたな、ハハ! それがまた奥ゆかしさであり、愛おしさでもあるのじゃがな、ハハハハ!」
「は、はあ……」
 懐かしそうにそう言って、豪快に笑う。
「まあ、その決着はつかないまま、その女子は儂等の前から姿を消してしまったんじゃ……以来、儂は顔を会わせておらず、ようとして行方しれずじまいじゃった……」
「そうなんですか……」
「それが……今日、君が目の前に現れて驚いたぞ、まさか奴が女子と添い遂げて、孫までこさえておったとはな!」
 声色にだんだん怒気がこもっていき、怖くなっていく。
「あ、いえ、その……」
 紫織は早急に訂正せねば、と声を出そうとしているものの、ある考えがよぎって言うのを躊躇った。
『もし、自分が本町組の組長の孫じゃないとわかったら無事に帰してくれるのだろうか?』
 少しの時間、考えてわからなかった。
「そういうわけで、お嬢ちゃんをさらってきた。直接カチコミをかけるよりそっちの方が奴が悔しがると思ってな」
「は、はあ……そうですか……」
「お嬢ちゃんに悪いと思うが、もう少しゆっくりしていっておくれ」
「で、でも、私……」
「もう少しこの年寄りの話に付き合っておくれ。ほれ、大福はどうじゃ?」
 組長は大福を差し出す。
「あ、いえ……」
「遠慮深いんじゃな。というより警戒心が強いというか……知らない人からモノを貰ってはいけないと教え込まれた」
「それはそうですが……それはどこの家庭でもそうじゃないんですか?」
「それはそうじゃが……案外それを守れる子供は少ないもんじゃぞ。そこにおる、菓子折の鹿島《かしま》なんぞな、その甘言で連れ去ってきた子供は数多い」
「お菓子をやるからおじさんについておいで~で簡単に子供がついてきましたよ。こんなにちょろい仕事はありませんよ」
 菓子折の鹿島と呼ばれた大人の男性は誇らしげに語る。
(い、一体、どんな仕事なんでしょうか、それは……?)
 紫織は疑問を抱くも、それを口にする勇気が無かった。
「警戒心が強いのは結構なことですよ、お嬢さん」
 菓子折の鹿島は、ニヤリと笑って言う。
 紫織は薄ら寒いものを感じた。
「あ、それとかりんとうは好きかな?」
 菓子折の鹿島は、すかさずお菓子の袋を取り出してくる。
「あ、いえ、好きですけど……! 今はいいです!」
 紫織は、きっぱりと断る。
「そうそう、嬢ちゃんみたいに警戒してくる娘がやりづらいんだ」
 菓子折の鹿島は満足そうに言う。
(そういうものなんでしょうか……?)
 紫織には少しわからなかった。
「しかし、組長。いつまでもこうしていると疲れちまいますぜ」
 周囲の男達の中で、一際背丈が高く大柄な巨漢が腰を下げて組長へ耳打ちする。
「ふむ、そうじゃな。お嬢ちゃんのために一部屋用意した、そこで休みなさい」
「え、休む?」
「こちらでございます」
 巨漢が案内する。
「一休みしたらまた話をしよう」
 組長にそう言われても、どう返事していいかわからなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

処理中です...