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第110話 帯同! 少女と怪人の奇妙な一座 (Dパート)
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「勝ってたのに取り返されて悔しい?」
ドッペルはヨロズに問う。
「ゲームだからな。負けても悔しいということはない」
ヨロズの可愛げの無い言い方に、ドッペルはムッとする。
「その言い方だと本当の勝負なら負けたら悔しいってこと?」
「そうだな、悔しい」
あっさり肯定する。
「あんたにも悔しいって感情があるのが意外だわ。淡白な怪人かと思ったのに」
「淡白かどうかはわからないが、俺とて喜怒哀楽の感情はある。そうだな、この身体になってから特にそう感じる」
ヨロズは自分の手を見つめて言う。
「ふうん、そうなのね」
ドッペルは興味深そうにヨロズを見る。
「元の怪人の身体に戻るつもりはないみたいね」
「ああ、カナミに勝つためだ」
「カナミに勝つためって……あんた、それしか頭にないの?」
「無論だ」
「いや、そんな思いっきり……」
「俺は生まれてすぐにカナミと戦って、」
「あ~そういうのいいから! いいから!」
ドッペルはヨロズの語りを遮る。
「あのさ、もしさ、私があんたより先にかなみを倒して、私が本物のかなみになったらどうするの?」
ドッペルの問いかけに、ヨロズは眉をひそめる。
「おかしなことをきくものだ。――お前がかなみを倒すなどありえないことだ」
ヨロズの返答に、今度はドッペルが眉をひそめる。
「……ありえないことですって?」
「そうだ、ありえないことだ」
「私だって、魔法少女カナミよ!」
ドッペルは胸に手を当てて、自己を誇示する。
「姿形を真似ただけだ。そんなものに本物の魔法少女カナミが負けるはずがない」
「そんなもの、ね……そんなに私が本物に勝てないって言うのね」
「そうだ」
ヨロズははっきりと言い放つ。
ドッペルは「ふざけないで」と吐き捨てようとしたが、ヨロズの物腰に気圧される。
「………………」
「………………」
「…………ハン!」
ドッペルは睨み合いに根負けしてベッドに腰掛ける。
「むかつくわね! 本物に勝てないのはあんたも同じじゃない!」
「それはそのとおりだ。なるほど、俺とお前は似た者同士だ」
「何よ、いきなり?」
「そう思っただけだ」
「似た者同士ね……そりゃ確かにあいつには勝ちたいし、あんたもあいつを倒したい。それが今一緒に行動してるなんて、奇妙なものね」
「そうだな。奇妙だが、これも縁というものか」
「縁ね」
「……一つ提案があるが、きいてくれるか?」
「なに?」
その会話の裏で、浴室から出てきたメンコ姫が立ち尽くしていた。
「こういうのはいつ出ればいいんだ?」
翌朝、かなみ達は起床してから朝食ビュッフェに足を運ぶ。
「おお~~!!」
着いて早々に、かなみは目を輝かせる。
食のテーブルに並べられた色とりどりの大皿に食欲が増進させられる。
ホワイトソースのグラタン、蒸し鶏のサラダミートソースのパスタ、海老のドリア、ローストビーフ……しかもこれらが全部取り放題となると、かなみはどんどんよそって、あっという間に山盛りの皿が出来上がる。。
「かなみさん、そんなに食べて大丈夫なの?」
翠華は心配そうに訊く。
「大丈夫です。朝はお腹いっぱい食べれますから!」
「そ、そうなの。私は逆に朝はあまり食べれなくて……」
翠華はクリームシチューを入れた皿とパンだけとってある。
「この姿ってお腹が空いて空いて仕方ないわ」
ドッペルはぼやきながら、かなみと同じ量を盛り付けてきた皿をポンとテーブルを置く。
「そんなところまで真似してくるのね」
「だって、私がかなみなんだから」
かなみとドッペルは睨み合う。
「ビュッフェとは食べる量を競うものなのか」
ヨロズがそう言いながら、かなみとドッペルと同じくらい盛り付けてきた皿をテーブルに置いて座る。
「そうじゃねえが、そうなのか?」
遅れてやってきたメンコ姫が翠華に問う。
「……私に聞かれても困るのだけど」
翠華は返答に困って、ついそっけなく答えてしまう。
「そうか、聞いてすまなかった」
「あ……」
メンコ姫の素直な返事に、なんだか悪いことをしてしまったような気になる翠華だった。
そんなメンコ姫は米と味噌汁、それに鯖の塩焼きとまるで定食屋のメニューをそのままもらってきたかのような組み合わせだった。
(和食が好きな子なのかしら……それよりお面をつけたまま食べるの??)
朝会ってからずっとメンコ姫は般若の面をつけたままだった。
そのせいで、メンコ姫を見た人は思わずギョッと一瞬固まった反応を見せる。
「メンコちゃんは自分を支部長らしい怖い怪人に見せようと一生懸命なのよ」
昨日、かなみにメンコ姫の般若の面について聞いてみたらそんなことを言っていた。
確かに、童女があんな面をつけて歩いていたら怖いと思うかもしれないけど、
それにしても、面をつけたまま食事をするのだろうか、ふと翠華は気になってメンコ姫を見る。
(面をつけたまま、どうやって食べるのかしら?)
ささやかな疑問だった。
しかし、気になってしまったからにはついつい確かめたくなってしまう。
「………………」
翠華は平静を装って、メンコ姫をチラ見する。
メンコ姫は箸で米をとって、口へと運ぶ。面をつけたまま。
米はひとりでに消えてしまった。
「えぇッ!?」
翠華は驚きのあまり声を上げる。
「どうした?」
「ううん、なんでもないわ。ところでメンコちゃん?」
翠華はその名前でメンコ姫を呼ぶ。
かなみがあまりにそう呼ぶから翠華もそう呼んでしまった。
「なんだ?」
「面をつけたまま食べてるの?」
もう直接聞くことにした。
「ああ、面をつけたまま食べる作法を御座敷から教わった」
「どんな作法なの?」
「面をつけたまま食べる作法だ」
「いや、だからそれは……あ、ああ、そうね、そういう作法ね」
魔法みたいなものだとそう思うことにして翠華は納得した。
「さて、おかわりいただこうかしらね?」
ドッペルが席を立つ。
「私だってまだ食べられるから!」
かなみは対抗意識を燃やして、皿を持って席を立つ。
「なるほどこれも一勝負というわけか」
ヨロズは一人納得して席を立つ。
三人とも再び山のように料理を盛り付けた皿を持ってくる。
「まだそんなに食べるの!?」
翠華は心配になって訊く。
「大丈夫ですよ、いつも食べられない分、いっぱい食べられますから!」
「普通はいつも食べられないから食べられないものよ」
翠華は呆れていいのか、感心していいのか、戸惑う
「なるほど、普通では推し量れないというわけか。さすがだな、かなみ」
ヨロズは素直に感心する。
「それはどうも! っていうか、あんたも結構食べるわね」
「そうか。食べる量は生まれた時から変わっていないが」
「生まれた時? それって、その女の子の姿になる前からってこと?」
「そうだが」
「あぁ……」
かなみは脳裏にヨロズの姿を思い浮かべる。
今のような自分と同じような女の子の姿ではなく、怪人のそれだった。
大きくて力強くて様々な獣の姿が混ぜ合わさった恐ろしい怪人。身体が大きいせいで、大食漢ということは容易に想像が結びつく。
食べる量がその時から変わっていない、ということは、今の量だって平気で平らげてしまうだろう。
身体の大きさは随分変わってしまったというのに。
「それにしても、怪人ってどういう身体の構造してるの?」
「かなみさんも大概だと思うけど」
翠華は苦笑して言う。
ホテルをチェックアウトして、すぐさま電車に乗って目的地へ向かう。
「かなみさん、あんなに食べて大丈夫?」
翠華は心配になって訊く。
「大丈夫ですよ。ちゃんと腹八分にしておきましたから」
「あんなに食べて、腹八分……?」
翠華は信じられず、唖然とする。
翠華には到底食べきれないほどの量をかなみは食べていたからだ。
「自分の身体ながら信じられないけどね」
ドッペルが補足する。
「あのくらいだったらどうということはない」
ヨロズは言う。
ドッペルもヨロズもかなみに負けないだけの量を食べていた。
「腹が減っては戦はできない。戦いの準備は万端か」
メンコ姫は感心する。
「そうそう! お腹いっぱいだから元気いっぱいで魔法もたくさん使えるわ!!」
「そう。それならいいけど」
翠華は作り笑いで言う。
かなみはそう言っているけど、不安を拭いきれない。
「――感じるわよ、あんたの影の存在を」
ドッペルが告げることで、緊張が一同に走る。
電車は目的の駅に止まる。
その駅は有名な城が近くにある観光名所。そこにネガサイドは新しく秘密拠点を作っている。
情報源はいろかで、案内役はドッペルゲンガーだった。
ドッペルゲンガーは姿をとった人間がどこにいるのか感知できる。その人間の影も。
『私があんたの影の元まで案内してあげるから、私を自由にしなさい』
彼女が今回、司法取引と称してこの『出張』に参加しているのは、かなみの影がどこにいるのか感知することできるからその要求を受け入れた。
一同は電車を降りて、改札口を抜ける。
「あの城……」
かなみは城の天守に取り付けられた金色の魚に目がいった。
「どうした?」
メンコ姫が訊く。
「ううん、なんでもないわ」
嫌なことを思い出したけど、すぐに払拭した。
かなみ達は城の門を前までやってくる。
「「「………………」」」
改札口を出てから一同は無言だった。
敵の拠点に近づいている。だんだん緊張が重くのしかかってきた。
相手は元最高役員十二席候補で、現中部支部長・影鉄。
しかも、不意をついて、かなみの影を奪い取ったずる賢さと得体のしれなさがある。支部長二人がこちらについているとは油断はできない。
「門をくぐったら、もう敵地だよ」
マニィが告げる。
「敵地ってことはもうそこから攻撃がきてもおかしくないってことよね?」
「そうだな」
かなみの問いかけにヨロズが肯定する。
「もっとも、ここまできたらすでにいつ攻撃がきてもおかしくないがな」
「そういうこと言わないで、考えないようにしてるのに」
「だが、それを考えているのがお前だろ」
「あんたと一緒にしないでよ」
とはいえ、敵の攻撃が来ることを考えていて、こうして警戒している。
一歩、一歩、門へと踏み込んでいく。
そして、門をくぐっていく。
「――!?」
一歩くぐった瞬間に、強烈な違和感が襲いかかってくる。
全身を撫でられたような悪寒が走る。
次の瞬間には、視界が黒いに塗りつぶされる。
「翠華さん!?」
かなみは嫌な予感がして翠華を呼ぶ。
しかし、そこには翠華がいなかった。
視界が黒く染まっていたせいで見えないだけじゃない。気配を感じない。
翠華だけじゃなく、ヨロズ、メンコ姫、ドッペルもいない。今は周囲に誰もいない。自分一人しかいない。
「――ようこそ、いらっしゃいました」
再び全身を撫でられたような悪寒が走る。
途端に、床が畳、壁が木造りの和室が出現し、そこに、かなみはそこに立っていた。
門から一歩踏み入れただけなのに、もう城の中に入ってしまったんじゃないかと錯覚する。
いや、これは錯覚で幻を見せられているのか、これは現実で本当に城の中に瞬間移動させられたのか、かなみにはまだ区別がつかない。
「一体何のつもり?」
とりあえず切り返してみる。
「歓迎するつもりですよ。よくガンクビ揃えてやってきましたね、と」
黒いスーツを着込んだ長身の男――影鉄が目の前に現れた。
ドッペルはヨロズに問う。
「ゲームだからな。負けても悔しいということはない」
ヨロズの可愛げの無い言い方に、ドッペルはムッとする。
「その言い方だと本当の勝負なら負けたら悔しいってこと?」
「そうだな、悔しい」
あっさり肯定する。
「あんたにも悔しいって感情があるのが意外だわ。淡白な怪人かと思ったのに」
「淡白かどうかはわからないが、俺とて喜怒哀楽の感情はある。そうだな、この身体になってから特にそう感じる」
ヨロズは自分の手を見つめて言う。
「ふうん、そうなのね」
ドッペルは興味深そうにヨロズを見る。
「元の怪人の身体に戻るつもりはないみたいね」
「ああ、カナミに勝つためだ」
「カナミに勝つためって……あんた、それしか頭にないの?」
「無論だ」
「いや、そんな思いっきり……」
「俺は生まれてすぐにカナミと戦って、」
「あ~そういうのいいから! いいから!」
ドッペルはヨロズの語りを遮る。
「あのさ、もしさ、私があんたより先にかなみを倒して、私が本物のかなみになったらどうするの?」
ドッペルの問いかけに、ヨロズは眉をひそめる。
「おかしなことをきくものだ。――お前がかなみを倒すなどありえないことだ」
ヨロズの返答に、今度はドッペルが眉をひそめる。
「……ありえないことですって?」
「そうだ、ありえないことだ」
「私だって、魔法少女カナミよ!」
ドッペルは胸に手を当てて、自己を誇示する。
「姿形を真似ただけだ。そんなものに本物の魔法少女カナミが負けるはずがない」
「そんなもの、ね……そんなに私が本物に勝てないって言うのね」
「そうだ」
ヨロズははっきりと言い放つ。
ドッペルは「ふざけないで」と吐き捨てようとしたが、ヨロズの物腰に気圧される。
「………………」
「………………」
「…………ハン!」
ドッペルは睨み合いに根負けしてベッドに腰掛ける。
「むかつくわね! 本物に勝てないのはあんたも同じじゃない!」
「それはそのとおりだ。なるほど、俺とお前は似た者同士だ」
「何よ、いきなり?」
「そう思っただけだ」
「似た者同士ね……そりゃ確かにあいつには勝ちたいし、あんたもあいつを倒したい。それが今一緒に行動してるなんて、奇妙なものね」
「そうだな。奇妙だが、これも縁というものか」
「縁ね」
「……一つ提案があるが、きいてくれるか?」
「なに?」
その会話の裏で、浴室から出てきたメンコ姫が立ち尽くしていた。
「こういうのはいつ出ればいいんだ?」
翌朝、かなみ達は起床してから朝食ビュッフェに足を運ぶ。
「おお~~!!」
着いて早々に、かなみは目を輝かせる。
食のテーブルに並べられた色とりどりの大皿に食欲が増進させられる。
ホワイトソースのグラタン、蒸し鶏のサラダミートソースのパスタ、海老のドリア、ローストビーフ……しかもこれらが全部取り放題となると、かなみはどんどんよそって、あっという間に山盛りの皿が出来上がる。。
「かなみさん、そんなに食べて大丈夫なの?」
翠華は心配そうに訊く。
「大丈夫です。朝はお腹いっぱい食べれますから!」
「そ、そうなの。私は逆に朝はあまり食べれなくて……」
翠華はクリームシチューを入れた皿とパンだけとってある。
「この姿ってお腹が空いて空いて仕方ないわ」
ドッペルはぼやきながら、かなみと同じ量を盛り付けてきた皿をポンとテーブルを置く。
「そんなところまで真似してくるのね」
「だって、私がかなみなんだから」
かなみとドッペルは睨み合う。
「ビュッフェとは食べる量を競うものなのか」
ヨロズがそう言いながら、かなみとドッペルと同じくらい盛り付けてきた皿をテーブルに置いて座る。
「そうじゃねえが、そうなのか?」
遅れてやってきたメンコ姫が翠華に問う。
「……私に聞かれても困るのだけど」
翠華は返答に困って、ついそっけなく答えてしまう。
「そうか、聞いてすまなかった」
「あ……」
メンコ姫の素直な返事に、なんだか悪いことをしてしまったような気になる翠華だった。
そんなメンコ姫は米と味噌汁、それに鯖の塩焼きとまるで定食屋のメニューをそのままもらってきたかのような組み合わせだった。
(和食が好きな子なのかしら……それよりお面をつけたまま食べるの??)
朝会ってからずっとメンコ姫は般若の面をつけたままだった。
そのせいで、メンコ姫を見た人は思わずギョッと一瞬固まった反応を見せる。
「メンコちゃんは自分を支部長らしい怖い怪人に見せようと一生懸命なのよ」
昨日、かなみにメンコ姫の般若の面について聞いてみたらそんなことを言っていた。
確かに、童女があんな面をつけて歩いていたら怖いと思うかもしれないけど、
それにしても、面をつけたまま食事をするのだろうか、ふと翠華は気になってメンコ姫を見る。
(面をつけたまま、どうやって食べるのかしら?)
ささやかな疑問だった。
しかし、気になってしまったからにはついつい確かめたくなってしまう。
「………………」
翠華は平静を装って、メンコ姫をチラ見する。
メンコ姫は箸で米をとって、口へと運ぶ。面をつけたまま。
米はひとりでに消えてしまった。
「えぇッ!?」
翠華は驚きのあまり声を上げる。
「どうした?」
「ううん、なんでもないわ。ところでメンコちゃん?」
翠華はその名前でメンコ姫を呼ぶ。
かなみがあまりにそう呼ぶから翠華もそう呼んでしまった。
「なんだ?」
「面をつけたまま食べてるの?」
もう直接聞くことにした。
「ああ、面をつけたまま食べる作法を御座敷から教わった」
「どんな作法なの?」
「面をつけたまま食べる作法だ」
「いや、だからそれは……あ、ああ、そうね、そういう作法ね」
魔法みたいなものだとそう思うことにして翠華は納得した。
「さて、おかわりいただこうかしらね?」
ドッペルが席を立つ。
「私だってまだ食べられるから!」
かなみは対抗意識を燃やして、皿を持って席を立つ。
「なるほどこれも一勝負というわけか」
ヨロズは一人納得して席を立つ。
三人とも再び山のように料理を盛り付けた皿を持ってくる。
「まだそんなに食べるの!?」
翠華は心配になって訊く。
「大丈夫ですよ、いつも食べられない分、いっぱい食べられますから!」
「普通はいつも食べられないから食べられないものよ」
翠華は呆れていいのか、感心していいのか、戸惑う
「なるほど、普通では推し量れないというわけか。さすがだな、かなみ」
ヨロズは素直に感心する。
「それはどうも! っていうか、あんたも結構食べるわね」
「そうか。食べる量は生まれた時から変わっていないが」
「生まれた時? それって、その女の子の姿になる前からってこと?」
「そうだが」
「あぁ……」
かなみは脳裏にヨロズの姿を思い浮かべる。
今のような自分と同じような女の子の姿ではなく、怪人のそれだった。
大きくて力強くて様々な獣の姿が混ぜ合わさった恐ろしい怪人。身体が大きいせいで、大食漢ということは容易に想像が結びつく。
食べる量がその時から変わっていない、ということは、今の量だって平気で平らげてしまうだろう。
身体の大きさは随分変わってしまったというのに。
「それにしても、怪人ってどういう身体の構造してるの?」
「かなみさんも大概だと思うけど」
翠華は苦笑して言う。
ホテルをチェックアウトして、すぐさま電車に乗って目的地へ向かう。
「かなみさん、あんなに食べて大丈夫?」
翠華は心配になって訊く。
「大丈夫ですよ。ちゃんと腹八分にしておきましたから」
「あんなに食べて、腹八分……?」
翠華は信じられず、唖然とする。
翠華には到底食べきれないほどの量をかなみは食べていたからだ。
「自分の身体ながら信じられないけどね」
ドッペルが補足する。
「あのくらいだったらどうということはない」
ヨロズは言う。
ドッペルもヨロズもかなみに負けないだけの量を食べていた。
「腹が減っては戦はできない。戦いの準備は万端か」
メンコ姫は感心する。
「そうそう! お腹いっぱいだから元気いっぱいで魔法もたくさん使えるわ!!」
「そう。それならいいけど」
翠華は作り笑いで言う。
かなみはそう言っているけど、不安を拭いきれない。
「――感じるわよ、あんたの影の存在を」
ドッペルが告げることで、緊張が一同に走る。
電車は目的の駅に止まる。
その駅は有名な城が近くにある観光名所。そこにネガサイドは新しく秘密拠点を作っている。
情報源はいろかで、案内役はドッペルゲンガーだった。
ドッペルゲンガーは姿をとった人間がどこにいるのか感知できる。その人間の影も。
『私があんたの影の元まで案内してあげるから、私を自由にしなさい』
彼女が今回、司法取引と称してこの『出張』に参加しているのは、かなみの影がどこにいるのか感知することできるからその要求を受け入れた。
一同は電車を降りて、改札口を抜ける。
「あの城……」
かなみは城の天守に取り付けられた金色の魚に目がいった。
「どうした?」
メンコ姫が訊く。
「ううん、なんでもないわ」
嫌なことを思い出したけど、すぐに払拭した。
かなみ達は城の門を前までやってくる。
「「「………………」」」
改札口を出てから一同は無言だった。
敵の拠点に近づいている。だんだん緊張が重くのしかかってきた。
相手は元最高役員十二席候補で、現中部支部長・影鉄。
しかも、不意をついて、かなみの影を奪い取ったずる賢さと得体のしれなさがある。支部長二人がこちらについているとは油断はできない。
「門をくぐったら、もう敵地だよ」
マニィが告げる。
「敵地ってことはもうそこから攻撃がきてもおかしくないってことよね?」
「そうだな」
かなみの問いかけにヨロズが肯定する。
「もっとも、ここまできたらすでにいつ攻撃がきてもおかしくないがな」
「そういうこと言わないで、考えないようにしてるのに」
「だが、それを考えているのがお前だろ」
「あんたと一緒にしないでよ」
とはいえ、敵の攻撃が来ることを考えていて、こうして警戒している。
一歩、一歩、門へと踏み込んでいく。
そして、門をくぐっていく。
「――!?」
一歩くぐった瞬間に、強烈な違和感が襲いかかってくる。
全身を撫でられたような悪寒が走る。
次の瞬間には、視界が黒いに塗りつぶされる。
「翠華さん!?」
かなみは嫌な予感がして翠華を呼ぶ。
しかし、そこには翠華がいなかった。
視界が黒く染まっていたせいで見えないだけじゃない。気配を感じない。
翠華だけじゃなく、ヨロズ、メンコ姫、ドッペルもいない。今は周囲に誰もいない。自分一人しかいない。
「――ようこそ、いらっしゃいました」
再び全身を撫でられたような悪寒が走る。
途端に、床が畳、壁が木造りの和室が出現し、そこに、かなみはそこに立っていた。
門から一歩踏み入れただけなのに、もう城の中に入ってしまったんじゃないかと錯覚する。
いや、これは錯覚で幻を見せられているのか、これは現実で本当に城の中に瞬間移動させられたのか、かなみにはまだ区別がつかない。
「一体何のつもり?」
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