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第109話 仮面! 奥底の面を少女は垣間見る!! (Aパート)

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二十五階、ヨロズとヒバシラが戦い、炎の海に。
二十三階、カリウスといろかが戦い、カリウスの胸が黒い腕に貫かれる。
二十一階、カナミと極星が神殺砲と巨大ビームの撃ち合いを始める。
二十階、メンコ姫とチューソーが戦っていた。


 メンコ姫が放った雷の衝撃波によって、チューソーは辺り一帯ごと吹き飛ばされた。
「他愛もない」
 メンコ姫は瓦礫を背に、二十一階へ向かおうとする。
「この程度で仕留められたと思われるのは心外だ」
 チューソーは平然と立ってくる。
「さすが支部長……今の一撃でもさしたるダメージにならないか」
「今の一撃でさしたるダメージになる、と思っているのがお前の侮りだな」
 ウィィィィィン、と、チューソーは腕のチェーンソーを回転させて唸らせる。
「何?」
「加えて、俺の術中にハマっていることにまだ気づかない間抜けときた」
「どういう意味だ?」
「それではわかるように見せてやる」
「――!」
 メンコ姫の視界に映ったのは、周囲を取り巻く光る線だった。
「これは!?」
「俺が切った空間だ。俺の魔法で再出現させている」
「再出現? 再出現させてどうするつもりだ?」
「では、こう言えばわかるだろう? これは切った場所をいつでももう一度切ることができる。リプロダクション!」
「――!」
 チューソーが魔法の斬撃を唱えると、メンコ姫の身体に幾多も折り重なっていた線が斬撃に再生される。

ザシュウウウウウウッ!!

 線が斬撃となって、メンコ姫の身体を切り刻んでいく。
「わかった頃には、もう終わりだが」
 メンコ姫は倒れ込む。
「やはり、東北は腑抜け揃いか……」
 チューソーはそう言って倒れたメンコ姫を背に去ろうとする。
「……まて」
 メンコ姫がスウッと立ち上がる。
「まだ戦えるか。確かにこの程度で倒れられたら消化不良だな」
 チューソーは振り返る。
「――!」
 そこには法被はズタズタになったメンコ姫が佇んでいた。
 だが、重要なのはその顔だった。
「般若の面をつけるよりもその方がよほど迫力がある」
 チューソーはメンコ姫の形相をそう評する。
 角が生え、可愛らしい童女の顔が、鬼のそれになった。
 何よりも雰囲気も顔と同様に見たものへ、直接狂気という岩石を叩きつけるような威圧感を放っていた。
「――!」
 メンコ姫は一足飛びで、チューソーへ殴りかける。

ドゴォォォォォン!!

 先程放った巨大棍棒の一撃よりも遥かに痛烈な一撃でチューソーが吹き飛ぶ。
 何枚もの壁をぶち破る。
「この程度か、中国支部帳?」
 メンコ姫は吹っ飛んだチューソーへ問いかける。
 声こそはむしろ鬼の面が出るよりも穏やかな方だが、そこに含まれている怒気だけで大気が震える。
「鬼か……! リプロダクション!!」
 チューソーは切った空間が顕現し、メンコ姫の身体を何度も切り続ける。

ザシュウウウウウウッ!!

 それでも、メンコ姫はものともせず、チューソーへと進んでいく。
「ヘヴル様もそうだった……」
 チューソーの脳裏をよぎるのは、ヘヴルとの戦い。
 ヒバシラとともに十二席の座を勝ち取るべく参戦した。
 そして、この魔法を使ってヘヴルにダメージを与えた。
 しかし、ダメージを与えた程度だった。
 決定打にはならなかった。
 むしろ、すぐにこの魔法の性質を把握されて、今のメンコ姫のように通じなかった。
 そのときはさすが最高役員十二席の一人だと思っていたけど、今同じ支部長で、しかも新参者でしかないメンコ姫がその芸当をやってのけてしまった。
「なるほど、支部長に選ばれるだけのことはある!」
 その様に、チューソーはとうとう認める。
「グレイト・ヒューダウン」
 巨大化した腕がチェーンソーとなって、メンコ姫へ振り下ろされる。
「おおおおおおおッ!!」
 メンコ姫は裂帛し、そのチューソーの腕を受け止める。

ダダダダダダダダダダ!!



「彼女はめんをとったみたいだ……」
 黒い腕に腹を貫かれたカリウスは平然と言う。
「面?」
 いろかが訊く。
「新東北支部長メンコ姫には面がある」
「面って、あの般若の面のこと?」
「いいや、そのさらに下に彼女は面を持っている。――鬼夜叉おにやしゃの面だ」
「鬼夜叉……聞いたことがあるわね」
「鬼夜叉やと、なんやそれ?」
 黒い腕の主のハーンは問いかける。
「つーか、なんであんたそんな平然としていられるんや!? 胸、かれてるやろ!?」
「胸を貫かれたくらいで動揺はしないよ」
「んなわけあるかぁッ!?」
 ハーンはツッコミを入れる。
「怪人の身体の構造は多岐に渡るが、おおむね人間の身体に近いやつは人間と同じような位置に急所はある。胸などその最たる箇所のはずや!」
「簡単な話、私はそういう身体の構造はしていないだけのこと」
「チィ、しくじったな!」
 ハーンは腕を引き抜き、距離を取る。
『ヘタクソ! ヘタクソ!』
 人形のマイデが一人でにやってきて、ハーンへ野次を飛ばす。
「絶好のチャンスやと思ったんやがな……見誤ったで」
『ハーンの目、節穴!』
「それより、鬼夜叉のことや! 一体なんのこっちゃ!?」
『論点のすりかえ!』
「お前はだまっとれ!」
「鬼夜叉はある日、東北に突然出没した怪人だ」
 マイデとハーンの三文漫才に構わず、カリウスは語る。
「怪人が突然出没するのは珍しいことじゃないやろ」
「その鬼夜叉が応鬼と戦ったのだ」
『なんやて!?』
 マイデと大げさに驚いてみせる。
「戦いは昼夜を超えて行われ、想像を絶する戦いだったそうだ」
「ほうほう、あの応鬼はんとそんだけの戦いをしたとはな……そんで結果は?」
「結果だけいえば、勝者は応鬼だった」
「結果だけ?」
 カリウスは含みの有る答え方したので、マイデは訊く。
「鬼夜叉の戦いは荒々しく、応鬼は防戦一方だった。鬼夜叉の魔力が底をついて根負けした、というのがその内容だ」
「なるほどなるほど。猪突猛進な応鬼はんを知ってると防戦一方というのが信じられんが、それだけ鬼夜叉っちゅうのはすごかったんやな」
「そう、それがメンコ姫の正体だ。その後、応鬼はメンコ姫に面をつけさせて大人しくなったところで部下に引き入れた」
「再び暴れられたら取り抑える自信が無かったんかな?」
「そうだな。おそらく戦闘力だけでいえば支部長の中でもトップクラスかもしれないな」
「それはあんたも含めてか?」
「――私は十二席だよ。ただ戦闘力に関して言えばさほど自信はない」
「それはどこまで本当のことやろな」
『嘘つきやからな!』
 マイデとハーンはカリウスへツッコミを入れる。
「そのメンコ姫が今、面を外した、ってことね」
「面白いことになってきたわけだ」
 カリウスは楽しげに言う。

ドゴォォォォォン!!

 それに応じるかのようにフロア全体が大きく揺れる。



ボォォォォォォォォッ!!
ドゴォン! ドゴォン! ドゴォン! ドゴォン!

 二十五階では、燃え上がる火の轟音と爆撃のような打突音が鳴り響く。
 妖精の力を手にしたヨロズと本気になったヒバシラの文字通りの殴り合いでフロアが揺れ、天井と揺れが崩れ落ちるのも時間の問題だった。
金剛腕こんごうわん!!」
火炎拳かえんけん!!」
 ヨロズの拳とヒバシラの拳がぶつかり合う。
「だああああああああッ!!」
「がああああああああッ!!」
 両者の裂帛の末、互いに吹き飛ぶ。

ドゴォォォォォン!!

 その衝撃で天井と床が吹き抜け、二十六階と二十四階が吹き抜けになる。
「やるな、ここまでやるとはな……!」
 ヒバシラは嬉々として立ち上がる。
「ハァハァ……まだまだこれからだ……」
 ヨロズは息を荒げて立ち上がる。
 オプスがもたらした妖精の力により、限界を遥かに超えた力を得られたものの、それでもまだヒバシラとは地力に差がある。
 その差が徐々に現れ始めてきた。
「このままでは勝てんな……」
 ヨロズ自身もその差は痛感していた。
「さて、どうするか……」
 思案しているうちに、事態は動いた。

ドゴォォォォォン!!

 さきほどよりも大きな振動でフロアが揺れる。



バァァァァァァァァァン!!

 二十三階では、カナミの神殺砲と極星のビームがぶつかり合っていた。
「ハァハァ……」
 互いの威力は互角で、中央で爆発して相殺される。
 そんなやり取りを五回ほど繰り返していた。
 リュミィがもたらしてくれる妖精の羽。その力によって、神殺砲を撃った分の魔力はすぐにカナミの身体へ補充されていく。
 そのおかげで神殺砲を何発も撃てる。
 それでも、撃ちこんだ反動で発生する疲労は蓄積していく。
「アームガンビーム!!」
 息を整えている間に、極星は次の一発を撃ち込んでくる。
「ボーナスキャノン!!」
 カナミはすかさず神殺砲で応じる。
 逡巡を許さない、支部長らしく容赦がない。
 それでいて、神殺砲と互角の砲弾を間断なく撃ち込んでくる。

バァァァァァァァァァン!!

 これで六回目。
 極星に消耗した気配はない。
「――もう少し本気になるか」
 恐ろしい一言が聞こえてきた気がした。
 おそらくこちらに聞こえるようにわざとそんな発声をしたのだろう。
 その直後、極星の身体からさらに強大な魔力が発せられる。
「やばいッ!? こうなったら!!」
 カナミもそれに応じて砲弾へ注ぐ。
(もう少しってことはまだ本気があるってことなの!? このまま威力を上げ続けられたら……っていうより、このまま撃ち合いを続けたら、私の方が根負けするに決まってる!? ――なんとかしないと!!)

ドゴォォォォォン!!

 焦るカナミに応じるかのようにフロアが揺れる。



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

「一体何が起きてるんや?」
 ハーンが問う。
「なに、簡単なことだよ。鬼夜叉となったメンコ姫が暴れている」
「それは別の階の話やろ? さすがにここまで響くくらいの暴れっぷりとなると、まさか!?」
「そう、彼女は今二十階にいて、ここは二十三階だ。二十階が壊れれば当然上の階も崩れ落ちる、簡単な理屈だ」
「まるで、だるま落としみたいね、フフフ」
 磔になったいろかは愉快そうに言う。
「笑い事ちゃうで!? そのだるまがわいらちゅうことは、地面に真っ逆さまやで!?」
「そういうわけで私は脱出させてもらう。こんな形でゲーム終了はつまらないのでな」
 カリウスはそう言って、スタスタと去っていく。
「あ、待てやゴルァッ!?」
『おっかけろ! 地獄の果てまでおっかけろ!』
 マイデとハーンはその後を追う。
「さて、私はどうしようかしらね」
 いろかは磔になっていて、身動きがとれず、かといって脱出しようとする素振りもない。
 しかし、顔には妖艶な笑みだけが張り付いていた。



ドゴォォォォォォォォォォォォォォォン!!

 この瞬間、ホテルの二十階で大爆発が起きて、二十階から上が崩れ落ちていく。
 当然、二十階から上にいた者達も一斉に地上へ落ちることになる。
「え、ええッ!?」
 カナミは大爆発とともに床が崩れていくことに戸惑う。
「どうやら、ホテルが崩れるみたいだね」
 マニィが冷静に言う。
「崩れる!? なんで!?」
「そこまではわからないよ。わかるのは崩れるってことだけ。だから、」
「早く避難ね!」
 カナミの判断は早かった。
 即座に今相対している極星を振り切って、下の階へと向かう。

ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 天井、床、壁がガタガタと揺れて、時に崩れ落ちていく。
 ただそれが完全に崩壊するにはまだ猶予があるように感じる。問題はその猶予があとどのくらいあるか、だけど。
(私が避難するまでもって!)
 そればっかりは祈るしか無かった。
 幸いにも妖精の羽のおかげで走るよりも遥かに速く飛ぶことができる。
(まだ崩れないで!)
 祈りながら飛んでいく中で、下へ向かう階段を見つけた。

バァン!

 そこへ駆け込もうとしたまさにそのとき、背後からビームが飛んでくる。
「キャッ!?」
 カナミは咄嗟に身体を仰け反らせてこれを避ける。
 撃ち込んできたのは、言うまでもなく極星だった。
「こんなときぃぃぃッ!!」
 カナミは文句を漏らす。

バァン! バァン! バァン! バァン!

 そこから極星はビームをどんどん撃ち込んでくる。
 こんな時でも彼は戦うつもりだ。

ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 今は戦いどころじゃないし、避難が何よりも優先のはず。

バァン! バァン! バァン! バァン!

 多分、極星もそのことはわかっているはず。
 わかっていて、自分と戦うことを優先してきている。
「厄介ね、怪人っていうのは!?」
 多分、そういうことをしてくる理由もおおよそわかる。わかってしまう。
 そっちの方が楽しくて愉快だからだろう。
「この!」

バァン!

 カナミは反撃ざまに魔法弾を撃ち込む。
 極星はそれをかわす。
「テンリフラクションビーム!」
 十本の指からビームが放たれる。
「ああ、もう!」
 カナミは憤慨しつつも、十本のビームを見極める。
 曲がって襲いかかってくるビームを一本ずつ、飛んで交わしていく。
「ジャンバリック・ファミリア!」
 カナミは反撃ざまに鈴を飛ばす。
 魔法弾とビームが雨のように飛び交う。
「そこよおおおおおッ!」
 カナミは魔法弾で空いた床へ飛び込む。そうして、二十階へ避難する。

ドゴォォォォォン!!

 その直後に爆撃のような衝撃音が鳴り響く。
「え、ここもやばい!?」
 カナミが音のした方を見る。

ドゴォォォォォン!!

 爆煙とともに人影が見えた。
「メンコちゃん!」
 その人影は、メンコ姫だった。
 しかし、その戦い方はあまりにも荒々しく、怪人を束ねる支部長に相応しいという他なかった。

ウィィィィィィン!!

 一方、相対しているチューソーが両腕のチェーンソーを唸らせて振るう。

パリィィン!!

 メンコ姫が繰り出した拳がチューソーの腕を粉々に打ち砕いた。
「ガアアアアアッ!!」
 悲鳴を上げて、倒れ伏す。

ドスン!!

 さらにメンコ姫の足がチューソーの身体を踏む。
 床ごと砕く勢いだった。
 カナミはそのあまりの勢いの強さに気圧された。
「俺の完敗だ……せめてゲームのルールに従わなければ、いや言うまい……」
 チューソーは言う。
「………………」
 勝利を確信したメンコ姫は沈黙する。
 そして、辺りを確認する。
「あ、あの、メンコちゃん……?」
 カナミは恐る恐る声をかけてみる。
「――!」
 その途端、メンコ姫はカナミに気づき、視線を向ける。
 ゾワリ、と、全身に寒気が走る。
 あれは本当にメンコ姫なのだろうか。
 先ほどスイートルームで話したときとは思えないほど、おぞましい魔力を全身から漏れ出ている。
 何よりもその形相は、カナミが思わず「可愛い」と言ってしまった顔立ちからかけ離れた鬼のそれだった。正直、般若の面をつけていた方がまだ可愛げがあったとすら思う。
 そして、何よりも寒気を走らせた原因は、――メンコ姫がこちらに敵意を向けてきたからだ。
「おめえハ敵! 潰ス!」
 低い声でメンコ姫がそう言っているのは聞き取れた。
「ちょ、待って!?」
 カナミは必死に制止するも、それを聞かず一足飛びでこちらへ飛び込んでくる。

ドスン!!

 殴られた。
「――つぅッ!?」
 咄嗟に羽が動いて、後ろに飛んでくれなかったら身体がバラバラになっていたかもしれない。
「メンコちゃん、私よ! カナミ! 敵じゃないわ! 友達ッ!!」
 カナミは必死に呼びかけるも、メンコ姫は飛び込んでくる。
「――!」
 カナミは背を向けて、全速力で空へと向かう。
 天井が崩れ落ちているために空へは一直線に飛び立てる。
「だぁりゃぁッ!!」
 メンコ姫は怒声とともに跳び上がる。
「うそぉッ!?」
 カナミは驚愕する。
 しかも、飛んでいるカナミよりも跳び上がるメンコ姫の方が早い。
 追いつかれる。
 そう思った瞬間に、上から舞い降りた黒い光がメンコ姫を撃ち抜く。
「がああああッ!?」
 メンコ姫は二十階の床へ叩きつけられる。
 その衝撃で床が崩れ落ちて、十九階に落ちる。
「ヨロズ!」
 メンコ姫を撃ち抜いた黒い光の正体はヨロズだった。
「余計な真似をしたか?」
「いえ、助かったわ。ありがとう」
「そうか」
 ヨロズはそれだけ言う。
『オプス!』
『リュミィ!』
 しかし、カナミの羽とヨロズの羽の妖精同士がはしゃぎ合う。
「喜んでいる場合ではない」
 ヨロズが妖精達へ促す。
「メンコちゃん……」
 カナミはメンコ姫が叩きつけられて抜けた床を見る。
 まだ彼女の気配はビンビンと感じる。
「メンコちゃんに何があったの?」
 かなみはヨロズに訊く。
「俺は知らない。ただ、一瞬でも気を抜けばやられるのは俺達だ」
 ヨロズの返答にカナミは強ばる。
「メンコちゃんと……友達と戦いたくない……」
 カナミは本音を漏らす。

ドゴォォォォォォォォン!!

 そんなカナミの気持ちをお構いなしに爆音とともに粉塵が巻き起こる。
 それは空にいるカナミ達にも届き、視界を狭める。

ドスン!

 響くと同時に風が巻き起こり、かなみは何が起きたのか直視する。
「ヨロズ!」
 ヨロズが跳び上がってきたメンコ姫に殴られて、床に叩きつけられた。
「やめて、メンコちゃん!」
 カナミは止めるため、メンコ姫と相対して、魔法弾を撃つ。
 当てるつもりはない。いわゆる威嚇射撃だ。
「――!」
 しかし、メンコ姫派も一歩も動くことなく、魔法弾を素通しした。こちらに当てるつもりがないのがわかっているのか。あるいは、当たってもダメージにならないから意に介していないのか。
 いずれにしてもメンコ姫は、カナミを標的に見定めた。
(――来る!?)
 カナミは直感で、メンコ姫が踏み込んでくるタイミングを読んで、同時に後方へ飛ぶ。

ドゴォォォォォォォォン!!

 その読みは的中し、おかげでメンコ姫の蹴りをかわすことに成功する。
(あれがもし当たっていたら……!)
 しかし、その蹴りはカナミへ恐怖を与えた。
 けれど、蹴りで砕かれた床を見ると、あそこに自分が転がっている姿が容易に想像できる。
「メンコちゃん……」
 メンコ姫は本気で襲いかかっている。
 完全に自分を敵として認識している。
 魔法少女と怪人。
 本来はそれが正しい関係であるのに。
『――オラと友達になってほしい』
 カナミの脳裏にメンコ姫の言葉が浮かぶ。
 あの言葉が嘘があったとは思えない。
 カナミはの素直な言葉にひかれて、友達になりたいと思った。
 その気持ちは、今のメンコ姫の恐ろしい姿を見ても変わっていない。
 しかし、向こうはそうではないかもしれない、と不安になる。
(今は戦うしかないの……?)
 戦って倒さなければこちらがやられる。
 だから戦わなければならないのか。
 本当にそれでいいのか。
 そんなカナミの迷いにつけ込むかのように、メンコ姫は拳を突き出してくる。

ドゴォォォォォォォォン!!

 その突きから発生する衝撃をまともにくらい、カナミは吹き飛ばされる。
「がッ!?」
 壁に叩きつけられる。
 間髪入れずに二発目がやってくる。
「神殺砲! ボーナスキャノン!!」
 カナミは即座に砲弾を撃ち込む。
 ほとんど防衛本能で、それをやってのけた。
 砲弾は衝撃波を弾き飛ばして、メンコ姫に襲いかかる。
(あ! ダメ……!)
 しかし、カナミは本能で察する。
 あの砲弾ではメンコ姫を倒すことができず、手傷を負わせるのがやっとだと。
 そして、その手傷はカナミからの宣戦布告だとメンコ姫はますます本気になり、戦いの激化は避けられなくなる。
「があああああッ!!」
 しかし、メンコ姫はそんなカナミの予想を超え、砲弾を殴り飛ばしてきた。
 殴り飛ばされた砲弾はカナミへ向かう。
(まずい!)
 そう思ったカナミは飛ぼうとする。
 今からだと完全に避けられない。
 なので、少しでも直撃を避けるのが賢明だと思った。
「アームガンビーム!!」
 そこへ極星がビームを放って、砲弾にぶつける。

バァァァァァァァァァン!!

 砲弾とビームが激突して、大爆発を起こして相殺される。
「間一髪だったか」
 極星はカナミの隣に立つ。
「どうして?」
 カナミは極星へ訊く。
 さっきまで戦っていたのにどうして助けてくれたのか。
 それに、さっきまで自分に向けられていた戦意が、どうして今はメンコ姫に向いているのかも含めている。
「簡単なことだ。我の最優先事項が君からあのメンコ姫にすげ変わっただけだ」
「はあ……」
 そう答えられて、「どうして私があんたの最優先事項になってるのよ!?」と問いただしたい気持ちが沸き上がったけど、腹の中に収めた。
 今、メンコ姫と極星をいっぺんに相手をしていたら、とてもじゃないけど身が持たない。
「あんた、メンコちゃんと戦うの?」
「うむ、できれば止めたいと思っている」
 極星はカナミの望んだ返答を返してきた。
「止める? 倒すじゃなくて?」
「あれは力の制御がきかず暴走している。何をしてくるかわからない。だがもし、その力の制御ができるようになるとしたら……そう思うとここで倒すには惜しい人材といえる。そして――そう言えば君も協力を惜しまないだろうと思ってな」
「はあ……」
 カナミはため息をつく。
「あんたのことがわからなくなるわ」
 会議中では、まともで話の分かる怪人だと思った。
 先の戦いでは、やっぱり話が通じない、わかりあえない怪人だと思った。
 そして、今は――
「ええ、そうよ。そう言われたら協力しない訳にはいかないじゃない」
 協力することができる怪人だと思った。
「っていうか、あんたが協力しなさいよ」
「うむ」
 極星は満足げに頷く。
「それではいくとしよう」
 極星の号令ととともに、二人は構える。
「ジャンバリック・ファミリア!」
「テンリフラクションビーム!」
 鈴の魔法弾と十本のビームが飛び交い、メンコ姫へ襲いかかる。

バァン! バァン! バァン! バァン! バァン! バァン!

 ビームと魔法弾を雨のように浴びて、それでもまったく意に介さず前進してくる。
「足止めにもならないか」
「それじゃ、アレでいく?」
「うむ」
 極星はあっさりと返す。
 カナミの言うアレがなんなのか、言うまでもなくわかっているようだ。
「アームガンビーム!!」
「ボーナスキャノン!!」
 カナミの砲弾と語句製のビームが同時に発射される。
 先程は殴り返された砲弾だけど、それとほぼ同じ威力の極星のビームと一緒に放たれた。
 これなら倒せないまでもそれなりのダメージを負わせることができるはず。
(あわよくばこれで止まってくれれば!)
 そんなカナミの淡い願望を打ち砕くようにメンコ姫は突進する。
「がああああああッ!?」
 裂帛の気合とともに、左拳で砲弾、左拳でビームを殴り飛ばす。

ドゴォォォォォォォォン!!

 メンコ姫がいた地点が両壁が吹き飛ぶ。
「いやはや、あれをあっさり撃ち返すか」
 極星は感心する。
 カナミは「何を呑気に……」と内心思ったけど、それを口にまで出す余裕はなかった。

ドン!

 次の瞬間、メンコ姫は床を蹴って、カナミへ飛んでくる。
「――!?」
 避けられない。
 そう思った時、両腕を出して防御する。

ドゴン!!

 爆撃のような衝突音が炸裂し、受けた腕ごとふっ飛ばされる。
「いったああッ!!!」
 激痛のあまり、ステッキを手放してしまう。
 メンコ姫はさらに追撃をかけるために、飛び込んでくる。

パシィッ!!

 カナミの腕を捕まれ、組み伏せられる。
「あぁッ!?」
 その勢いのままに、床を転がり、馬乗りの体勢に陥る。
「――!?」
 そこからカナミが見上げると、メンコ姫の顔がある。
「ひ!」
 思わず小さく悲鳴を上げる。
 先ほどつけていた般若の面とは比べ物にならない威圧感に満ちた形相だ。
 人を喰う怖い鬼、という単語があまりにもしっくりくるほどにメンコ姫の顔は怖い。
 こうして、上から見下されて、自分が喰われる側だということを突きつけられると余計にそれがこみ上げてくる。
「め、め、メンコちゃん……」
 カナミはその恐怖を抑え込んで、かろうじて呼びかける。
「もう、やめて……」
 しかし、メンコ姫は聞く耳を持たずに拳を振り下ろす。
「――!」
 神殺砲の砲弾を殴り飛ばした拳。
 それを直接叩きつけられたらまずい。
 カナミは頭が吹き飛ぶのを覚悟した。
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