まほカン

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第107話 会議! 少女にのしかかるは重役の重荷!? (Bパート)

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ジリリリリリ!!!

 けたたましいベルの音が鳴り出す。
「あれ?」
 かなみは目を開ける。
「起きたか」
「起きた? 私、眠ってた?」
 かなみは恐る恐るヨロズに訊く。
 こんな怪人ホテルで、眠ってしまうなんて命取りにも等しい行為だった。
「グッスリとな。あまりにもスキだらけなので、そのまま俺が勝ててしまうんじゃないかと思った」
「………………」
 ヨロズの淡々とした返答に、かなみは空恐ろしさを感じる。
「勝ててしまうって、襲うところだってこと?」
「言い方を変えればそうだな」
「って、そうだなじゃないわよ! 危うく私は命の危機だったってことじゃない! あ~なんで、私はこんなところで眠っちゃうわけよ!?」
 かなみは頭を抱えてソファーにうずくまる。
「眠気には勝てなかったってことだよ」
 マニィが言う。
「寝ている間にやられてたら、そんな言い訳もできないでしょ」
 実際、眠気には勝てずいつの間にか眠ってしまったというのが本当のところだけど、隣にヨロズがいて襲わない保証が無いのだから危なかった。
「それで気づいたら天国でしただったら悔やんでも悔みきれないわね」
「借金抱えたまま天国行くのもなんだかね」
 マニィが皮肉を言う。
「社長だったら、天国にまで取り立ててきそうな気がするけど」
「うん、確実にそうだね」
 かなみが脳裏に浮かんだ考えを話すと、、マニィが断言する。
「あはは、嬉しいような、怖いような、複雑な感じね」
 かなみは苦笑する。
「お前達はそうしていると自然体になっているように見えるな」
 ヨロズが言う。
「え、そう?」
 かなみとマニィは互いに顔を見合わせせる。
「ボクはいつでも自然体だからね」
「あんたはそうでしょうよ」
 かなみはため息をつく。
「俺にはそういうものがないからな、よくわからない感覚だ」
「あんたにはオプスがいるじゃない」
 かなみはヨロズの肩に乗っているオプスを指す。
「なるほど……考えたことがなかったな」
「考えたことがないって……」
『こいつ、俺の言う事全然聞かないんだ!』
 オプスが急に文句を言ってくる。
「言うことを聞かない?」
『うちにいたいといったらも出かける! 出かけたいっていったら出かけない! 右へ行きたいっていったら左へ行く!』
「ヨロズ……あんた、意外に天邪鬼あまのじゃくね」
 これまでヨロズの印象がわりと素直だったなだけに意外だった。
「ん、オプスがなにか言っていたのか?」
「え? 気付いていなかったの?」
「戦い以外のときにはそうそう聞こえない」
『聞く耳持たないってやつだ! ハハハハハ!!』
 オプスは笑い出す。
「明るいわね……リュミィも同じ感じだけど」
『わたし、明るい!』
「あ、リュミィの声も聞こえた!」
 最近はリュミィの声はたまにしか聞こえない。
 数日ぶりくらいなのに、ずいぶんと久しぶりに聞いたような気がする。
「どうやら妖精が二匹揃うと、その力が共鳴して声が聞き取りやすくなるんだろうね」
 マニィが解説してくれたことで、かなみは納得する。
「そういうことね。確かにリュミィとオプスが一緒にいると力を強く感じる気がする」
『きいた?』
『きいたぞ!』
『ふたり、一緒にいるといいって!』
『そうか、じゃあ一緒にいるか!』
 リュミィとオプスは2人で仲良く飛び回った。
「妖精同士は仲が良いわね」
 双子だからだろうか。
 いがみあっているより全然微笑ましくて良い。
「これならいつもより強い力を発揮しそうだ。さて行くぞ」
 ヨロズはかなみへ呼びかける。
「行くってどこへ?」
「会議室だ」
「……え? 会議?」
 いきなりそんなこと言われて、寝耳に水だった。
「支部長全員揃ったから、会議が始まるそうだ」
「え、揃っちゃったの!? いつ!?」
「ベルが鳴っただろう。あれが揃った時の合図だ」
 ヨロズにそう言われて、かなみは反射的にうたた寝から起こされたベルの音を思い出す。

ジリリリリリ!!!

「あれって、目覚ましのベルじゃなかったの!?」
「そんなサービスはこのホテルにないそうだ」
「支部長が揃ったときにベルを鳴らすサービスはあるのに……」
「そのようだ」
 変なサービスがあったものだ。
「あ、そう……それじゃ支部長が揃ったから会議ね」
 かなみは立ち上がる。
「面倒なことにならなければいいんだけど……」
 支部長のことはそんなに知らないけど、立場が立場なだけに揉め事にでもなったら命の危険に及びかねない。
 憂鬱だった。
 高級ホテルのスイートルームに来れたのに、テンションが今いち上がらないのはそのせいだ。
 とはいえ、ここまで来てしまったら行くしか無い。

――せっかくの機会なんだから、よく見届けてきなさい。

 あるみはそう言っていた。
「いやいや、そんな危ない会議に出るわけないじゃない!? 滅茶苦茶危険じゃないですか!?」
 もちろん、かなみは猛抗議した。
 とはいえ、それは無駄な抵抗だというのがお決まりのパターン。
 結局のところ、あるみに逆らえなかった。
(よく見届けなさい、か……見る前にやられなければいいんだけど……)
 会議室があるのは、二五階ですぐ上だった。
 エレベーターで上がって、廊下の奥へ進んだ先にそれはあった。
「おそぉぉぉぉぉい!!」
「うわあ!?」
 入りなり怒声を浴びせられて、かなみはたじろぐ。
 バチバチと火花を散らせてそう言ってきたのは、四国支部長ヒバシラだった。
 以前、ヘヴルとの戦いでは結果的に協力して戦った。おかげで、かなみはヘヴルを追い詰めることができたものの、感謝する気にはなれなかった。
『ヘヴルを倒した者は最高役員十二席の座を与える』
 ヒバシラにはそういう目的があって、ヘヴルと戦っていた。
「おい!」
 ヒバシラは、かなみの存在に気づき、呼びかける。
「お前は確か、人間の……魔法少女じゃねえか! なんで、お前がこの場に来てるんだ!?」
 問いかけてくる。
 ヒバシラの身体は炎で燃えていて、怒声を浴びせる度にその火が降り掛かってるような感覚に囚われる。
「俺が呼んだ」
 かなみがたじろいでいるのに対して、ヨロズは平然と答える。
「お前が!?」
 ヒバシラはギョロリとヨロズを見る。
「お前は、新参者の……関東支部長になった奴か! 人間をこの会議に出席させるとは……随分と勝手な真似をしやがるじゃねえかぁ!?」
(勝手な真似……)
 かなみは汗がダラダラと滴り落ちる。
 やっぱりこの場に自分がいるのは場違いじゃないのか。そして、場違いな自分は始末されるんじゃないか、そんな危機感がフツフツと湧いてくる。
「最高役員十二席のお歴々から許可はもらっている」
「お歴々つっても、カリウスのアホッタレじゃねえか!」
「カリウス様だ、口を慎め」
 ヨロズにそう言われて、ヒバシラはメラメラと身体を燃やす。
「なんだとぉ!?」
 ヒバシラはヨロズを睨みつける。その文字通り熱い視線を浴びせる。
 その視線で焦げ付きそうで、かなみは震え上がる。
「ちょ、ちょっとヨロズ……」
「どうした?」
「そんな挑発的なこと言っちゃって大丈夫なの?」
「問題ない」
 ヨロズはあっさり答える。
「問題ないって?」
「お前は奴より強いからだ」
「そういう意味じゃなくて!? 第一、私があいつより強いなんてあるわけないじゃない!!」
「誰が誰より強いって!?」
 ヒバシラが立ち上がってこちらにやってくる。
「え、え、あ、あの……そんなことじゃなくて、ですね……! あの、落ち着いてください! そんなに怒ると火事になっちゃいますから……」
 かなみは作り笑いで敵意がないことを必死に示そうとする。
「火事になるだって!? 安心しろ!! この会議室は完全防火になっている!!」
「そ、そそ、それは、安心ですね……」
「そうだろ、安心だろ? だったら、安心して消し炭になれやぁッ!!」
「ひ、ひぃッ!?」
「――暑苦しくてたまらないわね」
 かなみの背後から美声がくる。
「あん!?」
「空調が働いてないわね。これだから山奥の三流ホテルは嫌になるわ。それとも効きすぎてるのかしら? ねえ、空調さん?」
「誰が空調だって!? お前、いつからそんなデケえ口を叩くようになった、いろか!?」
 美声の主は、九州支部長いろかだった。
「いつからって、そんなの同じ支部長になった時からに決まってるでしょ。それより、席に引っ込みなさいよ、暑苦しくてたまらないわ」
「席に引っ込めだと? 覚えておけ、いろか! 同じ支部長なら俺に命令する権限はお前にない!!」
 ヒバシラといろかは睨み合う。
 一触即発。いや、即発どころか爆発しそうなほどの勢いだった。
 もしかして、このまま災害レベルの戦いに発展するんじゃないかと、かなみは肝を冷やす。
「まあまあまあまあ、お二人とも落ち着いてください」
 そんなヒバシラといろかの間に、巨大な黒い影が立つ。
「チィ、お前か」
 ヒバシラは座り込む。
「あなたも来ていたのね、中部地方"新"支部長・影鉄えいてつ
「恐縮です」
 影鉄は振り向いて一礼する。
「新、支部長?」
 かなみはその男を見る。
「ええ、中部支部長は不在のままだったけど、それじゃ収まりが悪いからって彼がその座についたのよ」
 いろかが、かなみに説明してくれる。
「あなたが噂に名高い魔法少女カナミさんですね」
「――!」
 影鉄と目が合って、かなみはたじろぐ。
「はじめましてこの度、中部支部長に就任しました影鉄と申します。どうぞよろしくお願いします」
 影鉄は丁寧に挨拶をして手を差し出す。
 大の大人よりも遥かに大きくその巨体の大きな手の先に名刺がある。
「こ、これはどうもご丁寧に……」
 かなみは恐る恐るその名刺を受け取る。

『ネガサイド日本局関東支部長・影鉄』

 名刺にはそう書かれていた。
「いやあ、あなたのような御方に受け取っていただけるとは、張りきって
新しい名刺を用意した甲斐がありました」
 影鉄はおどけた調子で語る。
「そうですか」
 かなみもそんな彼の調子のおかげで気が緩む。
 ヒバシラの方も影鉄が仲裁に入ってくれたおかげで落ち着いたみたいだ。
(よかった、話せる人(?)がいて……)
「――おかげで虫の居所が悪かったのも治りました」
「……え?」
「いやあ、私は元は最高役員十二席の候補生でありましてね。最高役員十二席の候補生っていうのはですね、十二席の次に高い地位なんですよ。つまり、支部長よりも高いんですよ。その候補生だった私が支部長になるということは、ですね。
――つまり、降格ということなんですよ」
 最後の一言を放たれて、かなみは寒気が走る。
「こ、降格……ですか……」
「これも中部地方の怪人達は元支部長・刀吉とうきちをはじめ、幹部共々総崩れでいましてね。いえいえいえいえ、あなた方魔法少女の活躍のせいだなんて露とも思っていませんが」
(思ってる!? 間違いなく私達に恨みを持ってる人の言い方だこれ!?)
 幹部共々総崩れ。
 かなみには心当たりがあった。関東と中部の怪人が戦争を起こして、かなみ達はその真っ只中にいて、多くの怪人をした。その中には中部支部の幹部と思われる怪人もいた。
 そいつらを倒したせいで、この影鉄が降格処分になったのなら、彼がかなみ達を恨む気持ちもまあわかる。
 とはいえ、かなみ達からしても、戦争に巻き込まれて必死に戦った結果なので、恨まれる筋合いはない、というのも正直な気持ちだ。
「――うるさい」
 女子の声がする。
「おや? おやおやおやおや!」
 影鉄は声のした方を向く。
 そこに立っていたのは、小さな真っ青な羽織を着た女の子だった。背丈はかなみの半分くらいしかなく、幼児のような女の子だったけど、顔には般若の面をつけていて表情は伺いしれない。
 異様なのは背に身の丈の倍以上もある棍棒を背負っていることだった。
「これはこれはこれはこれは、どうもお初お目にかかります、メンコ姫!」
 影鉄はメンコ姫と呼んだ女の子へ、一礼する。
「私はこの度、中部支部長に就任しました影鉄と申します! どうぞお見知りおきを!」
 影鉄はかなみの時と同様にメンコ姫へ名刺を差し出す。

パチン

 メンコ姫はそれをはたき落とす。ヒラヒラと舞った名刺は塵のように霧散する。
「だまって」
 怒気のこもった声でメンコ姫は影鉄へ言い放つ。
「ええ、ええ、黙らせていただきます! これは失礼しました!」
 影鉄は謝罪して、席に戻る。
(小さくて可愛いと思うけど、自分の意志がはっきりしていて、力強い子……あの子、一体?)
 かなみはメンコ姫に対してそんな感想を抱いていると、メンコ姫もこちらを見てくる。
「――!」
 かなみは思わず緊張して強張る。
 何を考えているかお面のせいでわからない上に、しかもそのお面が般若のお面のせいで怖さが倍増しているような気がする。
「おめえが魔法少女か?」
「そ、そうだけど、あなたは?」
「オラはメンコ姫。先日、東北支部長に就任した」
「あ、そ、そうなんですか?」
「よろしく」
 メンコ姫は手を差し出す。
「え?」
 メンコ姫のその言動と行為には、意外にも友好の意思が感じられた。
 そうなったら、かなみはその意思を拒絶する気にはなれなかった。
「よろしくね」
 かなみはその手を握り返す。
「なるほど、噂に違わぬ高い魔力だ。本当に人間か?」
「え?」
 メンコ姫は値踏みをするように言う。
 おそらく握手した手から、かなみの魔力を感じ取っているのだろう。
(もしかして、これ、やっちゃいけないことだった!?)
 かなみは冷や汗を流す。
「今日は会えて良かった」
 メンコ姫はそう言って、手を離す。
「揃ったな、早く席につけ」
 すでに席についていた北海道支部長・極星ごくせいは厳かな口調で促す。
「行くぞ」
 ヨロズはかなみへ呼びかける。
「お前は俺の隣にいろ」
「ええ」
 ヨロズは席について、かなみはその隣に立つ。
 気づくと、いろかも席についていて、席は埋まっていた。
 改めてる見るとこの会議室にはテーブルが無く、ただ支部長の数だけ椅子が用意されていて円を描くように配置されている。
(これで支部長が全員揃ったということなのね……!)
 かなみは緊張で汗が滴り落ちる。
 いよいよ会議が始まる。始まる前から一触即発で一筋縄ではいかない雰囲気だった。
 これが始まってしまったのならどうなるのか。
「――よく集まった」
 会議室の中央に、赤い外套を羽織った男が現れる。
 元関東支部長にして、現在は最高役員十二席の一人・カリウスだ。
「カリウス、てめえ! どの面下げて出てきやがったああああッ!!」
 ヒバシラは怒りで文字通り燃え上がる。
「落ち着け、ヒバシラ。あの男の首は俺が取る」
 ヒバシラの隣に座っていたチューソーが諌めつつ、腕をウィィィンと金切り音を鳴らす。
彼もカリウスに対して恨みがある。
 何しろ、彼らは狙っていた最高役員十二席の座を、カリウスに横からかすめとられたようなものだからだ。
「二人とも、落ち着きなさい」
 いろかがそんな二人を諫める。
「あのカリウスは魔法による投影よ。ここで彼を攻撃しても倒すことはできないわよ」
「そんなことは百も承知だ!」
 ヒバシラは燃え上がったまま、カリウスに突撃すること無くその場に居座っている。
「あれが本物だったら、とっくに焼いてるところだ!」
 ヒバシラは火を戻す。
「俺だって切り刻んでいるところだ」
 チューソーも腕の唸りを消す。
「君達と会うのも久しぶりだ。私は会えて嬉しいよ」
「どの口が言ってるんだ、てめえぇぇぇぇぇッ!?」
 カリウスの言動は文字通り火に油を注ぐようだ。
「だ、大丈夫なの、あれ?」
 かなみは不安になってヨロズへ耳打ちする。
「心配いらない。カリウスはいつもの調子だ」
「それが心配なんだって」
 しかし、ヨロズも平常心を保っている。心臓に毛でも生えているのだろうか。
「今回、私が君達を招集した」
「招集って? 何の用があってや?」
「くだらない用件だったらただじゃすまへんで、最高役員十二席のカリウスはん?」
 マイデとハーンも意義を申し立てる。
「新しい支部長をたてたのだ。顔合わせを、と思ってな」
「顔合わせか、なるほど」
 極星は納得がいったようだ。
「オラとしてはありがたい話だ」
 メンコ姫が言う。
「こうして支部長が雁首がんくび揃ってくれたおかげで覚えられる」
「いやはやいやはや、まったくですな」
 影鉄は同意する。
「それにそれに魔法少女カナミまで来てくれて中々楽しい会議の場になりました」
「影鉄、君もそう思うかい?」
「ええ、そうですよ。それで――あなたの首が中央に飾り立てられていたら最高でしたよ、カリウス」
 影鉄は矢を射るような冷たい言葉をカリウスへ投げかける。
「ついこの前まで、最高役員十二席の候補生だった私が支部長に、あなたが最高役員十二席の座についた。一体これはどういうことなのでしょうか?」
 影鉄の言動は、凍てつくような冷たさがこもっている。
「事と次第によっては、カリウス? あなたの首をハネてこのホテルのインテリアにさせていただきますよ?」
「ヒャッハー、そいつはいいぜ!」
「あんたと初めて気があうと感じたよ」
 ヒバシラとチューソーが同意する。
(カリウスってメチャクチャ嫌われてるのね……)
 薄々思っていたことなのだけど、こうして激しい敵意と嫌悪を向けられているのを目の当たりにすると、いやがおうにも実感させられる。
 もし仮にここにいる三人の支部長が敵対するのであれば、タダではすまない。
 それだけに彼の返答が気になるところだった。
「私を歓迎しているのはよくわかった」
(わかってなぁぁぁぁぁいッ!!)
 かなみは心の中で叫んだ。
 カリウスの放った一言はまさしく燃え盛る火に薪をくべるような行為だった。
「ふむ、よくわかりました。つまり、あなたは死にたいのですね」
 影鉄は言う。
 その声には確かな殺意がこもっているのが感じられる。
「ならば、君がその死を与えてくれるのかい?」
「お望みとあらば」
「ちょっとまったぁぁぁぁぁぁッ! 俺だってな、貴様を倒して、その十二席の座をいただいてやるんだからよぉぉぉ、そこで大人しく待ってやがれよおおおおおッ!!」
 ヒバシラは割って入り、文字通り炎上する。
「いいだろう」
「カリウス、正気か?」
 この中で最も冷静な極星が問いかける。
「正気も何も、狂気こそ怪人の本懐なのではないか?」
「………………」
 問い返されて、極星は肯定とも否定ともとれる沈黙の態度をとる。
「さて」
 カリウスは両手を広げ、宣言する。
「私はこのホテルのどこかにいる。見事、見つけ出して倒されでもしたのなら、その者に最高役員十二席の座を与えよう」
 会議室どころかホテル全体が揺れるほどの魔力が迸る。
(……嵐だ!)
 かなみは目眩がしそうなほどいやな状況になってしまったと悟る。

――せっかくの機会なんだから、よく見届けてきなさい。

 あるみの言葉が脳裏をよぎる。
 しかし、こんな状況を見届けるよりも早くこの場から逃げ出したい、というのが、かなみの正直なところだ。
(社長、もう帰っていいですか?)
 かなみは心の中のあるみに問いかける。
 しかし、心の中のあるみは「ダメ」と即答する。彼女だったらこの場にいても間違いなくそう言ったに違いない、と確信が持てる。
 それだけ、カリウスが言ったことは目を離してはいけない出来事の幕開けになったと思える。言うれなれば、これから大火事になる現場に立っているような感覚。遠巻きに見る分なら見物する興味ぐらいはあるけど現場にいたくないという心理が働く場だ。
「ただし、いくつかルールはある」
「ルールだあ!?」
 カリウスは一つ目の指ひとさしゆびを立てる。
「ひとつ、このゲームの開始は会議終了後だ。話し合いの議題は他にもあるからね」
 続いて、二つ目の指なかゆびを立てる。
「ふたつ、ホテルがフロアごと倒壊するような損害を与えた場合はその者はゲーム失格とする。ホテルに迷惑をかけるわけにはいかないからね。失格の判定はこのホテルの支配人が執り行ってくれるよう依頼しておいた」
 続いて、三つ目の指くすりゆびを立てる。
「みっつ、私は今もこのホテルにいるが、ホテルの外に出た時点でこのゲームは終了とする。外というのは一階のロビーの出入り口だ。ただしその出入り口を破壊した場合も即終了」
 そして、カリウスは腕を下ろす。
「以上、三つのルールをもって私を倒した者を私のこの最高役員十二席の座を譲ろう」
「「「………………」」」
 カリウスがそう申告した後、一瞬の沈黙が流れる。

ボオオオオオオオオオッ!!

 ヒバシラが燃え上がる。
「上等だあああッ! 必ずお前消し炭にしてその十二席の座を奪い取ってやるぜえええッ!!」
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