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第106話 騒霊! 月下で踊る玩具と少女の小夜曲 (Bパート)
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「とりあえず、傾向が見えてきたわね」
二人はマンションのすぐ近くの喫茶店に移動した。
「お、おばけの傾向?」
かなみは恐る恐る訊く。
「そうかもね」
「ひいい!?」
「はいはい、いちいちびびらないの。大体まだおばけと決まったわけじゃないでしょ」
「そうね! これはもうネガサイドの怪人の仕業ね!」
「いきなり結論づけるのね……まあ、そういうのがパターンだから」
「そうね! パターンね!」
「それで傾向っていうのが……」
「え、どうだったの?」
「ギガンダ―、アルヒ君とミーアちゃん、フェアリーガール……」
今日三部屋に入って、動いていたおもちゃや人形をみあは言う。
「あれ? これって……」
かなみはあることに気づく。
「何?」
「動いてたおもちゃって、みんなみあちゃんの会社が出してる物じゃないの?」
かなみの問いかけに、みあは固まる。
「……だから?」
「いや、だから、みあちゃんの会社が出してるおもちゃが……」
「あたしの親父の会社!」
「そこ、強調するところなのね」
かなみは苦笑する。
「まあでも、かなみが言った通り、うちの会社のものばかりね」
「うちの会社っていうのは良いのね」
「何か言った?」
みあは睨む。
「ううん、なんでもない」
「何か糸があるのかしら?」
『私のことを呼んだの?』
千歳が声をかけてくる。。
「呼んでない。呼ばれてないのに出てくるな」
『はーい』
そのやり取りを見て、みあと千歳は仲が良いなと、かなみは思った。
「でも、糸といえば千歳さん、何かわかりました?」
かなみは千歳に訊く。
『さっきも言ったけど、こうやって身体が随分離れちゃってるから、感知能力は大分落ちてるから、こうして声を飛ばして、かなみちゃん達が視えてるものを視るくらいしかできないのよ』
「……使えないわね。早く仙人になって戻ってきなさいよ」
「みあちゃん、寂しがってますよ」
「寂しがってない!」
『うん、頑張るわね!』
千歳は元気に返事をする。
「……それで、みあちゃん? おばけが動いてたおもちゃがみあちゃんのお父さんの会社のモノって共通点があったけど、他に何かわかったの?」
「おもちゃや人形のあの感じ……」
みあはいちごパフェを食べながら呟く。
「あの感じ……すごく大事に、遊ばれていたような気がした……」
「え、そうなの?」
『うんうん、みあちゃん、そういうところは見る目があるから』
「なんとなくよ」
「なんとなくでもそういうことがわかるのって、凄いことだと思うわよ」
「……そう、凄いね」
みあは仏頂面でいちごパフェを食べ続ける。
「あとそれと、もう一つ共通点があったわ」
「こんにちは」
魔法少女のオフィスへ、絵里奈がやってくる。
「いらっしゃい。かなみちゃんならみあちゃんと一緒に外仕事に出たわ」
オフィスにいたあるみが出迎える。
「あ、そうなんですか。ですが、今日はこの案件を渡しに来ただけですから」
絵里奈は封筒をあるみへ渡す。
「ありがとう。でも、メールでいいのにわざわざ来てくれたのは嬉しいわ」
「そ、そうでしょうか。あの人からできるだけ足を運ぶように言われてるので」
「お互い顔を覚えて欲しいって狙いなのね。こうして顔を合わせれば好感度も上がるっていうのも否定出来ないけど」
「は、はあ、そうですか」
「とりあえず、コーヒーにしましょう。私が淹れるから」
あるみは絵里奈をテーブルへ案内する。
「どうぞ」
そして、コーヒーを渡す。
「ありがとうございます。いただきます」
絵里奈はコーヒーを一口含む。
「にが……」
文字通り苦い顔をしてしまう。
「みんなそう言うのよね」
「あはは……」
絵里奈は苦笑してごまかす。
「さて、それじゃせっかく来てくれたんだし、一つ覚えていってもらおうかしら」
「は、はい、よろしくお願いします!」
「ネガサイドの怪人についてね」
あるみはホワイドボードに書き始める。
「怪人は魔力が集まったところで自然発生し、魔力を糧として生きている。その魔力のもとの一つ、人間の負の感情が大好物。ここまでは前に話したわね」
「はい、覚えてます」
「うんうん、良い娘ね。そこからの追加情報よ」
「追加?」
「怪人は自然発生以外でも生まれてくるケースがあるわ。怪人が怪人を生み出すケースよ」
「え、怪人が子供を生むんですか!?」
「そうね、とはいっても彼らは普通の生物じゃないから生み出す方法も魔法なのよ」
「魔法で子供を作るんですか? 子作りの魔法、とか?」
「子作りというより、使い魔というか分身を作るみたいな感じね」
「なんというか、想像がつきませんね」
「そうね。ま、今回はお手軽に怪人を生み出す魔法・ダークマターを説明するわ」
「ダークマター?」
あるみはホワイドボードに●を書く。
「これを入れられた物は怪人になるっていう、厄介な魔法よ」
「お、恐ろしい魔法ですね。なんでも怪人になるんですか?」
「うーん、さすがになんでも、というわけじゃないわ。術者との相性があるみたいなのよ。術者と相性が良ければ良いほど強い怪人が出来るって魔法なのよ」
「そうなんですね……ダークマター、怪人を生み出す恐ろしい魔法なんですね」
「そうね。とはいっても、物を媒介にしている分、自然発生した怪人よりも弱くて知能の低い怪人が生まれることが多いわ」
「あ、それで使い魔みたいってことですか」
「そういうことよ。ただ、弱いっていっても普通の人間には手に負えないものだから、見かけたら気をつけてね」
「はい! 見かけたらすぐに通報します!」
「ええ、こっちに連絡おねがいね」
話に一区切りついたところで、あるみはコーヒーのおかわりを淹れる。まだ半分以上も残っている絵里奈のカップにも、ついでに継ぎ足す。
「あの……砂糖とか、シロップとか、ありませんか?」
「ないわ」
あるみにあっさりと即答されたことで、絵里奈は飲む前から苦い顔がコーヒーの水面に浮かぶ。
みあとかなみはマンションの向かい側の空きビルに上がって、マンションを見張っていた。
「ここ勝手に入ってよかったの?」
「イシィに許可とらせた」
「どうやって!?」
「ハァハァ、そりゃおめえ、電話一本でチョイチョイのチョイよ」
「一応ボクもフォローに入ったよ」
マニィが補足する。
「いつの間に、そんなことを……?」
おそらく、さっき喫茶店に入って休憩した頃なのだろうけど、それにしても電光石火の早業としか言いようがない。
「そんなことより……」
みあは双眼鏡を使って、マンションの部屋を見る。
「そんなもの持ってきてたのね……」
「使うことになると思ってね。ま、魔法で視力強化してもいいんだけど、この方が気分出るでしょ」
「何の気分なの?」
「決まってるじゃない、刑事の張り込みよ」
「みあちゃん、楽しんでる?」
「まさか。真面目よ」
そう答えたみあの声色が少し弾んでいるような気がした。多分、本人も気づいてないけど楽しんでいるのだろう。
「何も起きないわね」
「ということは今夜はおばけは出ないのね!」
かなみは嬉々とした顔をする。
「まだそうだと決まったわけじゃないわ」
「まだそうだと決まって!」
「大丈夫よ、どうせ怪人の仕業だから」
「そ、そうね! こんなことするのはどうせ怪人しかいないものね!!」
『でも、もしかしたらおばけの仕業かもしれないわね』
「ひいいいい、やっぱりおばけじゃないの!?」
右往左往するかなみがせわしない。
「確かに、おばけの千歳が言うと説得力があるわね」
『あ、そこまで考えて言ったわけじゃないんだけど』
「だろうね。早くおばけやめなさいよ。かなみに怖がられてるじゃない」
『まあ、かなみちゃんが相手してくれるから、おばけっていうのもいいかしらって思ってるんだけどね』
「あ~それは……」
千歳はかなみが怖がっているから幽霊から仙人になろうとしている。
そう思うと、なんだかかなみは申し訳ない気持ちになってくる。
それと同時に、千歳がかなみを驚かしているのを楽しんでいる節もあるのでなんともいえない心境だった。
「バカなこと言ってないで、早く仙人になりなさいよ」
『はーい』
みあは双眼鏡を覗き込む。
「ねえ、かなみ?」
「どうしたの、みあちゃん? 何かあったの?」
「何もないわね……何も無いから退屈なのよ」
みあはそうぼやく。
「みあちゃん、もしかして……」
そうぼやいたみあの背中姿を見て、かなみにある考えがよぎる。
「私を呼んだのって、こうなることがわかってたから?」
「あんたがいれば退屈しないからね」
みあは否定しなかった。
「刑事の張り込みってさ、あれさ、いかにもそれっぽい仕事だと思うんだけど、実際やってみるとめちゃくちゃ地味でキツイじゃない」
「え、あ、うん、そうだね。ずっと同じところを何時間も下手したら何日も続くんだから、相当忍耐強くないと無理よね」
「あんたなら平気そうだけどね」
「私、そんなに忍耐強いかな?」
かなみは照れ笑いする。
「忍耐強くなきゃ借金返してないでしょ」
「あ、そういうこと……」
微妙な表情をする。
「そういえばさ」
「何?」
「――みあちゃんって、友達いないの?」
「な、何、急に!?」
みあは手に持った双眼鏡を落としかけた。
「あ、いや、さっき、マンションの子の友達だって嘘言ってたから……気になって……」
「どうでもいいでしょ、そんなこと」
みあは呆れるように言う。
「友達、友達ね……別にいなくてもいいんじゃないの?」
「いなくてもって……それじゃいないの?」
かなみはさらに問いかけると、みあはキィと睨む。
「ええ、そうよ! あんな奴ら、クラスが一緒ってだけよ!」
「あんな奴らってそういう言い方良くないわよ」
「かなみは知らないから!」
「うん、知らないよ。だから知りたい」
「……はあ」
みあはため息をつく。
それを皮切りに、苛立ちで熱くなったみあの顔が冷えていく。
「どうして、あんたはそういうこと言うのよ」
「だから知りたい」
「繰り返し言わなくてもいいわよ」
「それじゃ、みあちゃんの友達のことを教えてくれるの?」
「友達じゃなくて、クラスで一緒ってだけのやつよ」
みあはそう言いつつ、またため息をつく。
しかし、今度のため息は「別にいいけど」という意思表示だということを、かなみは知っている。
「でも、知らないわよ」
「知らないって、クラスメイトのことでしょ?」
「そうクラスメイトのことだからよ。だってクラスが一緒なだけだから。ろくに話したこともないし」
「それはよくないわよ」
「はあ?」
「みあちゃん、性格良いし頼りになるから、友達がいないなんて勿体ないわよ」
「何も知らないくせに……!」
「だから知りたいって」
「もういい!!」
みあは我慢できずに双眼鏡をかなみへ投げる。
「わ!?」
「あんたも働きなさい! あたしが戻ってくるまでちゃんと見張ってなさいよ!」
「え、えぇ!?」
みあは走ってビルの廊下を走り去っていく。
「君も余計なことを言うね」
マニィが言ってくる。
「あんたにだけは言われたくないわ……」
かなみはため息をつく。
「みあちゃんに友達いるかどうか知りたかっただけなのに……」
「いくらなんでもストレートすぎると思うけど、まあ彼女にはそのくらいがちょうどいいかもしれないけど」
「はあ、みあちゃんが戻ってきたら謝ろう」
かなみはそう言って、みあから受け取った双眼鏡でマンションを見る。
みあはビルの屋上へまで駆け上がっていた。
「あいつ、何も知らないくせに、遠慮なしに……!」
『知らないからこそ無遠慮だから、許してあげてね』
千歳が言う。
「あんただってそうでしょ」
『うーん、まあそうね。だから知りたいのよ』
「かなみとおんなじこと言うのね」
『あ、そうだった』
「どっちもうっとおしい」
みあはぼやく。
千歳は「フフ」と笑う声が通話越しでも聞こえたような気がする。それもまた、みあはうっとおしいと思うもののそれほど不快感がこみあげてこないのが不思議だった。
「思い出したくないけど……」
みあは月を見上げる。
綺麗な月と夜空の星星をを見ていると、何故だか心が落ち着いてくる。
「戻ってやるか……」
みあは屋上から降りて、かなみのいる空き部屋に戻る。
「かなみ、何かあった?」
「み、みあちゃん……!」
かなみがワナワナと震えてやってくる。
「わあ!? あんたの方がよっぽどおばけらしいんじゃないの!?」
「私がおばけ……そんなことないわよ!」
「あんたがおばけだろうが、なんだろうがどうでもいいけど」
「みあちゃん、ひどい!?」
「それで、何かあったの?」
みあはかなみから双眼鏡を取り上げてマンションを見る。
「……何もないじゃない」
マンションに特に変化がなかった。
それで、みあはガッカリ気味に言う。
「なんで騒ぎ出したのよ」
「みあちゃんがいなくなって一人で寂しくなって、」
「あたしがいなくなって寂しい……?」
「マニィが怪談話始めだして……」
「はあ?」
「それが凄い怖くて!」
みあはマニィを見つめる。
「何やってんのよ?」
「かなみが退屈そうだったから、ちょっと話をね」
「どんな話よ?」
「このビルは昔商社が経営していて、社員の一人が残業につぐ残業でとうとう過労死してしまったんだ」
「よくある話じゃないの」
「そうなの!?」
みあの淡白なリアクションに、かなみは驚く。
「ここからが本番だよ。それでその社員が亡くなって空席になったデスクから夜な夜な音がするんだよ」
「音? どうせ、パソコンのタイプ音か何かなんでしょ」
「正解だけど、なんでわかったの?」
「よくある話じゃないの」
「そうなの!?」
「あたしはあんたのリアクションの方が怖いわよ」
みあは呆れる。
「ここまで来るとその後の話も読めてくるわね」
「ほう」
「死んだ社員がやり残した仕事をやろうとずっとそのデスクで幽霊になって仕事を続けてるって話。どう、あたしの作り話?」
「めちゃくちゃ怖いわよ!」
かなみのリアクションを見て、みあはちょっと満足げに笑みを浮かべる。
「驚いたよ……ボクがかなみに話した怪談話と全く同じだよ」
「陳腐ね」
みあはそう言って切り捨てる。
「……ん?」
「みあちゃん、どうしたの?」
「――出てきたわ」
みあは真剣な顔つきで、マンションの窓を見つめる。
「おばけ!?」
「違うっつうの!? よく見なさい!」
みあに言われて、かなみも目を凝らす。
視力を強化する魔法。
念じればそれは発動して、双眼鏡を使わなくても向かいのマンションをじっくり見ることが出来る。
「糸?」
マンションの窓から見えたのは細い糸のようなものだった。
「千歳さんの糸に近い感じがする」
『うーん、私にはよく見えないからわからないけど、そんなに似ているの?』
「似てるけど……」
みあは苦い顔をして答える。
「なんだか悪意を感じるわね。いや、やっぱ似てないわね」
『そうなのね!』
千歳は嬉しそうな声色で言う。
――似てないわね。
それは、みあなりの褒め言葉なのだと、かなみは思った。
「って、みあちゃん、糸! 糸!」
「言われなくてもわかってるわよ。あの糸、屋上から伸びてるわ」
みあは冷静に分析する。
「動いてたおもちゃ達はみんな同じ部屋で窓際に移動していた。だから窓から魔法で遠隔操作してると思ってたけど、大当たりだったみたいね」
「みあちゃん、さすがね!」
「褒めても何も出ないわよ。あ、チョコ食べる?」
「食べる食べる!」
二人のやり取りを見ていて、マニィとイシィは「二人ともわかりやすい」と思った。
「やっぱり黒幕は屋上ね。思ったより早く出てきたわ」
「行こう、みあちゃん!」
かなみは張り切る。
おもちゃが動いているのは魔法。そして、今屋上に怪人がいる。
敵がおばけじゃないとわかれば、かなみは強気で前向きだった。
マンションの屋上は普段、立入禁止になっている。
みあは交渉して管理人からカギを受け取っていた。小学生のみあがどんな交渉してカギを手に入れたのか、かなみは知る由もない。
カギを開けて、屋上に踏み入る。
「クキキキ……」
不気味な笑い声を上げる、怪人がそこにいた。
木彫りの人形のような怪人でクキクキと笑い声と同じような不気味な音が関節から出ている。
魔法や怪人を知らない人が見れば、おばけと言われても信じるだろう異型だった。
でも、そいつはおばけではなく怪人だ。
「あんたね! おもちゃを動かしておばけ騒動をおこしてたのは!?」
「そうだ」
怪人はあっさり肯定した。
「クキキキ、俺はパペタン。見ての通り人形怪人だ」
「本当に見ての通りね」
みあは呆れるように言う。
「クキキキ、お前ら、ただの人間じゃねえな」
「ええ、そうよ! やるよ、みあちゃん!」
「もちろん!」
かなみとみあはコインを放り投げる。
「「マジカルワークス!!」」
宙を舞うコインから降り注ぐ光に包まれて、黄色と赤色の魔法少女が姿を現す。
「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」
「勇気と遊戯の勇士、魔法少女ミア登場!」
お馴染みの名乗り口上を高らかに上げる。
「ま、魔法少女か! 俺の野望を阻止するためにやってきたか! クキキキ、キキキククク!!」
パペタンは狂ったように笑い出す。
さながら操り糸がきれかかった人形のように見える。
「あんたの野望なんてどうだっていいわよ。人に迷惑をかけなければ」
ミアが言う。
「お、俺の野望をどうだっていいだと!? クキキキキ!?」
「あんたの野望って何なの?」
どうせろくでもないものに決まっているけど、それでも、カナミは知りたいという好奇心があった。
「キキキクク、よくぞきいた! クキキキキ、俺の野望はな!」
「おもちゃを動かして、幽霊騒ぎを起こす!」
ミアがパペタンの発言を遮る。
「クキ!?」
「それで騒ぎを起こせば住人は出ていく! そうなったら、無人のマンションを占拠して、それを足がかりにして世界征服! ってとこなんじゃないの?」
ミアの推理に、パペタンは一瞬硬直する。
「クキ! キキキククク!! クキクキクキクキクキキキキキキキキキキキククククククククキキキキキキキキキキキククククククククキキキキキキキキキキキ!!!!」
やがて、文字通り壊れた人形のごとく笑い出す。
「な、何!?」
「大方、あたしが言ったことが図星だからビックリしたってことなんじゃないの?」
ミアは極めて冷静だった。
「クキキキキ、俺の野望を知られたからにはタダじゃ帰さねえぞおおお、キキキキ!!」
「逆ギレ!?」
その凶笑からの切り替わりに、カナミは戸惑う。
「こっちだってタダで帰すつもりはないわ!」
ミアは即座にヨーヨーを投げ込む。
パキン!
しかし、そのヨーヨーが弾かれてしまう。
「ギガンダ―!」
ミアのヨーヨーが弾いたのは、おもちゃのギガンダーだった。
「クキクキクキ!」
パペタンが笑い声に連動して、ギガンダーがカクカクと動き出す。
「これが俺の魔法だ! おもちゃや人形を自在に操れる!」
パペタンが右手を上げると、ギガンダ―の右手も上がる。
パペタンが左手を下げると、ギガンダ―の左手も下げる。
パペタンがホップステップジャンプすると、ギガンダーもホップステップジャンプする。
「いやああああああ!?」
突然ミアが悲鳴を上げる。
「ミアちゃん、どうしたの!?」
「ギガンダーは! ギガンダーはそんなホップステップジャンプしないわ!!」
「ええ!?」
「クキキキ! このおもちゃは俺の下僕だからな! 俺のやることをなんでも真似をする!」
「ギガンダーは正義のスーパーロボットよ! あんたなんかの下僕になるわけないでしょ!!」
「どんなおもちゃだろうが、俺が糸を操りダークマターを入れてやれば下僕だ、キキキクク!!」
「どんなおもちゃだろうが……ふざけないで!!」
ミアは憤慨する。
「ふざけてなどいない! みるがいい、クキキキ!!」
パペタンが両手を広げると、他のおもちゃや人形が屋上に降り立つ。
「ミーアちゃん! フェアリーガールズ!!」
その中には、さっきカナミが部屋に入って見てきたミーアちゃんやフェアリーガールズの人形もあった。
「クキキキ、さあ、やってしまえ!!」
人形達が一斉に押し寄せてくる。
「カナミ! 手を出さないで!!」
「う、うん!」
カナミとミアはおもちゃ達の行進をかわしながら、パペタンに迫る。
おもちゃに攻撃して、おもちゃを壊すわけにはいかない。それなら、パペタンを直接攻撃して倒すしか無い。
そう考えて、カナミとミアはパペタンへ接近する。
「俺を守れ、下僕達!!」
その行動を読んだパペタンがおもちゃ達をその周囲に集める。
「これじゃ攻撃できないわ!」
「卑怯なことを!」
ミアは歯噛みする。
「クキキキ、行け!」
ギガンダーは拳を飛ばしてくる。ロケットパンチだ。
「わわ!?」
カナミは伏せてかわす。
続いて、フェアリーガールズの一人・花の妖精フェアリーフラワーが剣を引き抜いて襲いかかってくる。
カキィィィィン!!
カナミはステッキの刃でこれを受ける。
「フェアリーフラワー、やめて!!」
カナミは物言わぬ人形であるフェアリーフラワーへ呼びかける。
カキィン! カキィン! カキィン!
しかし、フェアリーフラワーは応じることなく斬りかかってくる。
「やめて! やめてってば!」
カナミは必死に呼びかけるものの、フェアリーフラワーは返事をしない。
バァン!
フラワーの後ろから銃声が響く。
水の妖精・フェアリーアクアのウォーターブラストから放たれた水色の弾丸だ。
「キャッ!?」
カナミはとっさに避けた。
「そこよ! サンダースネイク!!」
ミアはヨーヨーを投げ込む。
蛇のようにウネウネと曲がって、人形達の隙間を駆け抜けてパペタンヘ襲いかかる。
パキン!
しかし、またもヨーヨーは弾かれてしまう。
「フェアリーソイルのクレイシールド!」
ミアのヨーヨーを弾いたのは、土の盾だった。
「クキキキキ!」
笑うパペタンの前に立ちはだかるのは、土の妖精・フェアリーソイルだった。
「三人のフェアリーガールズが私達の前に立ちはだかるなんて!」
ミアは歯噛みする。
花の妖精・フェアリフラワー、水の妖精・フェアリ―アクア、土の妖精・フェアリーソイル。さらにその背後にギガンダ―とミーアちゃんが控えてる。
「ある意味、壮観ね!」
その光景を目の当たりにして、ミアの目が輝く。
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
「え、あ、ああ、そうね!」
カナミの激で、ミアは我に返る。
「問題はどうやって、あいつらを傷つけずに怪人を倒すかよ」
「うん、私もフェアリーガールと戦いたくない!」
「それにしてもスキがないわね……!」
三人のフェアリーガール、ギガンダ―だけでも手強いのに、それに加えて、他のおもちゃ達がパぺタンを守るべく取り囲んでいる。
それでも、ミアのヨーヨーとカナミの神殺砲ならなんとかいけるくらいの戦力だ。
そのおもちゃ達を傷つけないように、となると、難易度が上がる。
「大事にされてるおもちゃを操るなんて……!」
カナミとミアは三部屋だけだけど、おもちゃたちが大事にされているところを見た。あれを見てしまったら、この戦いで壊してしまう訳にはいかない。
「壊したら弁償ってわけにもいかない、そういうのはお金には代えられないから」
ミアが言う。
「ええ、だからなんとかして壊さずにパペタンを倒さなくちゃ!!」
「あいつらはパペタンの糸とダークマターで操ってるから……そうか!」
ミアは両手を振り上げる。
「そっちが糸なら、こっちだって糸よ!!」
ミアが両手を振り下ろすと同時に、目に見えないほどの細い糸が飛ばされる。
「何ぃぃ!?」
パペタンは驚愕する。
ミアが飛ばした糸がパペタンに絡まったのだ。
「何をする気だ、魔法少女!?」
「盗られた物は取り返すに決まってるでしょうが!!」
ミアは無理矢理引き上げる。
「だったら、それすらも盗ってやる!」
パペタンはそれを引っ張り返す。
言うなれば、魔法糸による綱引き。
見えないほどか細い糸。
「があああああ!!」「くううううう!!」
音もなく当人同士による唸り声がする。
「ミアちゃん、頑張って!」
「って、応援してる場合か!! あんたは今のうちに狙い撃ちよ!!」
「そうだった!」
即座にカナミは魔法弾を撃ち込む。
「あがあ!?」
おもちゃ達はまったくパペタンを守ること無く魔法弾はパペタンに命中する。
ガタガタガタガタ
操られていたおもちゃ達は、音を立てて崩れ落ちていく。
「って、あれ!?」
とりあえず撃ってみた魔法弾で、魔法があっさり解けたことにカナミは拍子抜けする。
「俺はか弱い……! か弱いからこそ俺を守る部下が必要だったんだ!!」
パペタンが力説する。
「部下じゃなくておもちゃでしょうが!」
ミアはヨーヨーをぶつける。
「があああああッ!?」
パペタンは悲鳴を上げる。
「おもちゃをいいように操って! タダですむと思ってるんじゃないでしょうね!! このおおおおおッ!!」
ミアは怒り任せにヨーヨーをぶつける。
「グギ!? ギグ!? グググギギギ!!?」
パペタンは濁った悲鳴が響き渡る。
「ミアちゃん、相当怒ってる」
カナミは少し引く。
「グギ……どうか、ご勘弁を……」
「勘弁しない!」
ミアはバッサリ切り捨てる。
「Gヨーヨー!」
放り投げた巨大ヨーヨーがパペタンへ落下し、押し潰す。
「あれ、私の出番は?」
カナミは首を傾げる。
全部ミアがやってしまって、結局カナミは同行した意味があったのか疑問だった。
「あんたの出番はこれからでしょ」
「え?」
「このおもちゃ達を元の場所に戻さないといけないでしょ!」
「えぇ!?」
「壊したりしたら、責任問題なんだからちゃんとやりなさいよ」
有無を言わさず、ミアはおもちゃを持って動く。
屋上から下の階の窓へ忍び込んで元の場所に置く。
物音を立てずに慎重に戻す。
子供部屋の場合は、子供が寝ていることがある。カナミは「どうか起きませんように」と祈る。
正直、魔法少女がやっていいことじゃないと後ろめたさもあった。
「ちょっとしたサンタ気分ね」
おもちゃ達を戻した後、ミアはそう言った。
「ミアちゃん、楽しそうだったね……」
全部ミアに任せた方が良かったんじゃないかという気になってくる。
実際、七割ほどおもちゃはミアが戻していた。
「あんた、サンタっていつまで信じてたの?」
「いつまで……うーん、よく憶えてない」
「そう……あたしもね。それまでは親父がプレゼントを持ってきたのよ。あたしが寝たあとにこっそり部屋に入って枕元に置いて」
そう言われて、カナミは自然とその光景を想像する。
あの広い子供部屋のベッドで、一人静かに寝ているミアへのクリスマスプレゼントを置いていく。
朝起きた時、きっとミアは喜ぶだろう。
そんなことを想像しながらそうしている父・彼方の顔は、きっと優しい笑みに満ちているに違いない。
「いいなあ」
それは、カナミにとっては憧れの父親象の一つだった。
そういうことをする両親では決して無かったから。
「ま、今年も勝手に入り込んできたら処刑してやるつもりだけど」
「素直じゃないんだから」
カナミは苦笑する。
「……この仕事ってさ、みあちゃんはお父さんのためにやったの?」
「はあ!? いきなり何言ってんの!?」
「だって、おもちゃのことだったし、ギガンダ―も、ミーアちゃんも、フェアリーガールもミアちゃんのお父さんの会社の商品だし!」
「そ、それは偶然よ!」
マニィとイシィは密かに「ごまかすのはヘタだ」と思った。
「あ、偶然だったの」
しかし、カナミはそれで納得する。
マニィとイシィは密かに「ごまかされやすい」と思った。
「おもちゃを弄んでる奴は許せなかった。それだけよ!」
「それって……」
結果的に、みあのお父さんのためなんじゃないか。
「ほら、さっさと帰るわよ!」
みあは急かすように屋上を降りようとする。
「はいはい。ところでみあちゃん、今夜の晩ごはんは?」
「あたしが知るか。っていうか、これから部屋来るつもり!?」
「うん! みあちゃんのおもちゃも見てみたくなったから!」
「あたしのコレクションが見たい?」
ミアは口角を吊り上げる。
「よし、見せてやろうじゃないの!」
二人はマンションのすぐ近くの喫茶店に移動した。
「お、おばけの傾向?」
かなみは恐る恐る訊く。
「そうかもね」
「ひいい!?」
「はいはい、いちいちびびらないの。大体まだおばけと決まったわけじゃないでしょ」
「そうね! これはもうネガサイドの怪人の仕業ね!」
「いきなり結論づけるのね……まあ、そういうのがパターンだから」
「そうね! パターンね!」
「それで傾向っていうのが……」
「え、どうだったの?」
「ギガンダ―、アルヒ君とミーアちゃん、フェアリーガール……」
今日三部屋に入って、動いていたおもちゃや人形をみあは言う。
「あれ? これって……」
かなみはあることに気づく。
「何?」
「動いてたおもちゃって、みんなみあちゃんの会社が出してる物じゃないの?」
かなみの問いかけに、みあは固まる。
「……だから?」
「いや、だから、みあちゃんの会社が出してるおもちゃが……」
「あたしの親父の会社!」
「そこ、強調するところなのね」
かなみは苦笑する。
「まあでも、かなみが言った通り、うちの会社のものばかりね」
「うちの会社っていうのは良いのね」
「何か言った?」
みあは睨む。
「ううん、なんでもない」
「何か糸があるのかしら?」
『私のことを呼んだの?』
千歳が声をかけてくる。。
「呼んでない。呼ばれてないのに出てくるな」
『はーい』
そのやり取りを見て、みあと千歳は仲が良いなと、かなみは思った。
「でも、糸といえば千歳さん、何かわかりました?」
かなみは千歳に訊く。
『さっきも言ったけど、こうやって身体が随分離れちゃってるから、感知能力は大分落ちてるから、こうして声を飛ばして、かなみちゃん達が視えてるものを視るくらいしかできないのよ』
「……使えないわね。早く仙人になって戻ってきなさいよ」
「みあちゃん、寂しがってますよ」
「寂しがってない!」
『うん、頑張るわね!』
千歳は元気に返事をする。
「……それで、みあちゃん? おばけが動いてたおもちゃがみあちゃんのお父さんの会社のモノって共通点があったけど、他に何かわかったの?」
「おもちゃや人形のあの感じ……」
みあはいちごパフェを食べながら呟く。
「あの感じ……すごく大事に、遊ばれていたような気がした……」
「え、そうなの?」
『うんうん、みあちゃん、そういうところは見る目があるから』
「なんとなくよ」
「なんとなくでもそういうことがわかるのって、凄いことだと思うわよ」
「……そう、凄いね」
みあは仏頂面でいちごパフェを食べ続ける。
「あとそれと、もう一つ共通点があったわ」
「こんにちは」
魔法少女のオフィスへ、絵里奈がやってくる。
「いらっしゃい。かなみちゃんならみあちゃんと一緒に外仕事に出たわ」
オフィスにいたあるみが出迎える。
「あ、そうなんですか。ですが、今日はこの案件を渡しに来ただけですから」
絵里奈は封筒をあるみへ渡す。
「ありがとう。でも、メールでいいのにわざわざ来てくれたのは嬉しいわ」
「そ、そうでしょうか。あの人からできるだけ足を運ぶように言われてるので」
「お互い顔を覚えて欲しいって狙いなのね。こうして顔を合わせれば好感度も上がるっていうのも否定出来ないけど」
「は、はあ、そうですか」
「とりあえず、コーヒーにしましょう。私が淹れるから」
あるみは絵里奈をテーブルへ案内する。
「どうぞ」
そして、コーヒーを渡す。
「ありがとうございます。いただきます」
絵里奈はコーヒーを一口含む。
「にが……」
文字通り苦い顔をしてしまう。
「みんなそう言うのよね」
「あはは……」
絵里奈は苦笑してごまかす。
「さて、それじゃせっかく来てくれたんだし、一つ覚えていってもらおうかしら」
「は、はい、よろしくお願いします!」
「ネガサイドの怪人についてね」
あるみはホワイドボードに書き始める。
「怪人は魔力が集まったところで自然発生し、魔力を糧として生きている。その魔力のもとの一つ、人間の負の感情が大好物。ここまでは前に話したわね」
「はい、覚えてます」
「うんうん、良い娘ね。そこからの追加情報よ」
「追加?」
「怪人は自然発生以外でも生まれてくるケースがあるわ。怪人が怪人を生み出すケースよ」
「え、怪人が子供を生むんですか!?」
「そうね、とはいっても彼らは普通の生物じゃないから生み出す方法も魔法なのよ」
「魔法で子供を作るんですか? 子作りの魔法、とか?」
「子作りというより、使い魔というか分身を作るみたいな感じね」
「なんというか、想像がつきませんね」
「そうね。ま、今回はお手軽に怪人を生み出す魔法・ダークマターを説明するわ」
「ダークマター?」
あるみはホワイドボードに●を書く。
「これを入れられた物は怪人になるっていう、厄介な魔法よ」
「お、恐ろしい魔法ですね。なんでも怪人になるんですか?」
「うーん、さすがになんでも、というわけじゃないわ。術者との相性があるみたいなのよ。術者と相性が良ければ良いほど強い怪人が出来るって魔法なのよ」
「そうなんですね……ダークマター、怪人を生み出す恐ろしい魔法なんですね」
「そうね。とはいっても、物を媒介にしている分、自然発生した怪人よりも弱くて知能の低い怪人が生まれることが多いわ」
「あ、それで使い魔みたいってことですか」
「そういうことよ。ただ、弱いっていっても普通の人間には手に負えないものだから、見かけたら気をつけてね」
「はい! 見かけたらすぐに通報します!」
「ええ、こっちに連絡おねがいね」
話に一区切りついたところで、あるみはコーヒーのおかわりを淹れる。まだ半分以上も残っている絵里奈のカップにも、ついでに継ぎ足す。
「あの……砂糖とか、シロップとか、ありませんか?」
「ないわ」
あるみにあっさりと即答されたことで、絵里奈は飲む前から苦い顔がコーヒーの水面に浮かぶ。
みあとかなみはマンションの向かい側の空きビルに上がって、マンションを見張っていた。
「ここ勝手に入ってよかったの?」
「イシィに許可とらせた」
「どうやって!?」
「ハァハァ、そりゃおめえ、電話一本でチョイチョイのチョイよ」
「一応ボクもフォローに入ったよ」
マニィが補足する。
「いつの間に、そんなことを……?」
おそらく、さっき喫茶店に入って休憩した頃なのだろうけど、それにしても電光石火の早業としか言いようがない。
「そんなことより……」
みあは双眼鏡を使って、マンションの部屋を見る。
「そんなもの持ってきてたのね……」
「使うことになると思ってね。ま、魔法で視力強化してもいいんだけど、この方が気分出るでしょ」
「何の気分なの?」
「決まってるじゃない、刑事の張り込みよ」
「みあちゃん、楽しんでる?」
「まさか。真面目よ」
そう答えたみあの声色が少し弾んでいるような気がした。多分、本人も気づいてないけど楽しんでいるのだろう。
「何も起きないわね」
「ということは今夜はおばけは出ないのね!」
かなみは嬉々とした顔をする。
「まだそうだと決まったわけじゃないわ」
「まだそうだと決まって!」
「大丈夫よ、どうせ怪人の仕業だから」
「そ、そうね! こんなことするのはどうせ怪人しかいないものね!!」
『でも、もしかしたらおばけの仕業かもしれないわね』
「ひいいいい、やっぱりおばけじゃないの!?」
右往左往するかなみがせわしない。
「確かに、おばけの千歳が言うと説得力があるわね」
『あ、そこまで考えて言ったわけじゃないんだけど』
「だろうね。早くおばけやめなさいよ。かなみに怖がられてるじゃない」
『まあ、かなみちゃんが相手してくれるから、おばけっていうのもいいかしらって思ってるんだけどね』
「あ~それは……」
千歳はかなみが怖がっているから幽霊から仙人になろうとしている。
そう思うと、なんだかかなみは申し訳ない気持ちになってくる。
それと同時に、千歳がかなみを驚かしているのを楽しんでいる節もあるのでなんともいえない心境だった。
「バカなこと言ってないで、早く仙人になりなさいよ」
『はーい』
みあは双眼鏡を覗き込む。
「ねえ、かなみ?」
「どうしたの、みあちゃん? 何かあったの?」
「何もないわね……何も無いから退屈なのよ」
みあはそうぼやく。
「みあちゃん、もしかして……」
そうぼやいたみあの背中姿を見て、かなみにある考えがよぎる。
「私を呼んだのって、こうなることがわかってたから?」
「あんたがいれば退屈しないからね」
みあは否定しなかった。
「刑事の張り込みってさ、あれさ、いかにもそれっぽい仕事だと思うんだけど、実際やってみるとめちゃくちゃ地味でキツイじゃない」
「え、あ、うん、そうだね。ずっと同じところを何時間も下手したら何日も続くんだから、相当忍耐強くないと無理よね」
「あんたなら平気そうだけどね」
「私、そんなに忍耐強いかな?」
かなみは照れ笑いする。
「忍耐強くなきゃ借金返してないでしょ」
「あ、そういうこと……」
微妙な表情をする。
「そういえばさ」
「何?」
「――みあちゃんって、友達いないの?」
「な、何、急に!?」
みあは手に持った双眼鏡を落としかけた。
「あ、いや、さっき、マンションの子の友達だって嘘言ってたから……気になって……」
「どうでもいいでしょ、そんなこと」
みあは呆れるように言う。
「友達、友達ね……別にいなくてもいいんじゃないの?」
「いなくてもって……それじゃいないの?」
かなみはさらに問いかけると、みあはキィと睨む。
「ええ、そうよ! あんな奴ら、クラスが一緒ってだけよ!」
「あんな奴らってそういう言い方良くないわよ」
「かなみは知らないから!」
「うん、知らないよ。だから知りたい」
「……はあ」
みあはため息をつく。
それを皮切りに、苛立ちで熱くなったみあの顔が冷えていく。
「どうして、あんたはそういうこと言うのよ」
「だから知りたい」
「繰り返し言わなくてもいいわよ」
「それじゃ、みあちゃんの友達のことを教えてくれるの?」
「友達じゃなくて、クラスで一緒ってだけのやつよ」
みあはそう言いつつ、またため息をつく。
しかし、今度のため息は「別にいいけど」という意思表示だということを、かなみは知っている。
「でも、知らないわよ」
「知らないって、クラスメイトのことでしょ?」
「そうクラスメイトのことだからよ。だってクラスが一緒なだけだから。ろくに話したこともないし」
「それはよくないわよ」
「はあ?」
「みあちゃん、性格良いし頼りになるから、友達がいないなんて勿体ないわよ」
「何も知らないくせに……!」
「だから知りたいって」
「もういい!!」
みあは我慢できずに双眼鏡をかなみへ投げる。
「わ!?」
「あんたも働きなさい! あたしが戻ってくるまでちゃんと見張ってなさいよ!」
「え、えぇ!?」
みあは走ってビルの廊下を走り去っていく。
「君も余計なことを言うね」
マニィが言ってくる。
「あんたにだけは言われたくないわ……」
かなみはため息をつく。
「みあちゃんに友達いるかどうか知りたかっただけなのに……」
「いくらなんでもストレートすぎると思うけど、まあ彼女にはそのくらいがちょうどいいかもしれないけど」
「はあ、みあちゃんが戻ってきたら謝ろう」
かなみはそう言って、みあから受け取った双眼鏡でマンションを見る。
みあはビルの屋上へまで駆け上がっていた。
「あいつ、何も知らないくせに、遠慮なしに……!」
『知らないからこそ無遠慮だから、許してあげてね』
千歳が言う。
「あんただってそうでしょ」
『うーん、まあそうね。だから知りたいのよ』
「かなみとおんなじこと言うのね」
『あ、そうだった』
「どっちもうっとおしい」
みあはぼやく。
千歳は「フフ」と笑う声が通話越しでも聞こえたような気がする。それもまた、みあはうっとおしいと思うもののそれほど不快感がこみあげてこないのが不思議だった。
「思い出したくないけど……」
みあは月を見上げる。
綺麗な月と夜空の星星をを見ていると、何故だか心が落ち着いてくる。
「戻ってやるか……」
みあは屋上から降りて、かなみのいる空き部屋に戻る。
「かなみ、何かあった?」
「み、みあちゃん……!」
かなみがワナワナと震えてやってくる。
「わあ!? あんたの方がよっぽどおばけらしいんじゃないの!?」
「私がおばけ……そんなことないわよ!」
「あんたがおばけだろうが、なんだろうがどうでもいいけど」
「みあちゃん、ひどい!?」
「それで、何かあったの?」
みあはかなみから双眼鏡を取り上げてマンションを見る。
「……何もないじゃない」
マンションに特に変化がなかった。
それで、みあはガッカリ気味に言う。
「なんで騒ぎ出したのよ」
「みあちゃんがいなくなって一人で寂しくなって、」
「あたしがいなくなって寂しい……?」
「マニィが怪談話始めだして……」
「はあ?」
「それが凄い怖くて!」
みあはマニィを見つめる。
「何やってんのよ?」
「かなみが退屈そうだったから、ちょっと話をね」
「どんな話よ?」
「このビルは昔商社が経営していて、社員の一人が残業につぐ残業でとうとう過労死してしまったんだ」
「よくある話じゃないの」
「そうなの!?」
みあの淡白なリアクションに、かなみは驚く。
「ここからが本番だよ。それでその社員が亡くなって空席になったデスクから夜な夜な音がするんだよ」
「音? どうせ、パソコンのタイプ音か何かなんでしょ」
「正解だけど、なんでわかったの?」
「よくある話じゃないの」
「そうなの!?」
「あたしはあんたのリアクションの方が怖いわよ」
みあは呆れる。
「ここまで来るとその後の話も読めてくるわね」
「ほう」
「死んだ社員がやり残した仕事をやろうとずっとそのデスクで幽霊になって仕事を続けてるって話。どう、あたしの作り話?」
「めちゃくちゃ怖いわよ!」
かなみのリアクションを見て、みあはちょっと満足げに笑みを浮かべる。
「驚いたよ……ボクがかなみに話した怪談話と全く同じだよ」
「陳腐ね」
みあはそう言って切り捨てる。
「……ん?」
「みあちゃん、どうしたの?」
「――出てきたわ」
みあは真剣な顔つきで、マンションの窓を見つめる。
「おばけ!?」
「違うっつうの!? よく見なさい!」
みあに言われて、かなみも目を凝らす。
視力を強化する魔法。
念じればそれは発動して、双眼鏡を使わなくても向かいのマンションをじっくり見ることが出来る。
「糸?」
マンションの窓から見えたのは細い糸のようなものだった。
「千歳さんの糸に近い感じがする」
『うーん、私にはよく見えないからわからないけど、そんなに似ているの?』
「似てるけど……」
みあは苦い顔をして答える。
「なんだか悪意を感じるわね。いや、やっぱ似てないわね」
『そうなのね!』
千歳は嬉しそうな声色で言う。
――似てないわね。
それは、みあなりの褒め言葉なのだと、かなみは思った。
「って、みあちゃん、糸! 糸!」
「言われなくてもわかってるわよ。あの糸、屋上から伸びてるわ」
みあは冷静に分析する。
「動いてたおもちゃ達はみんな同じ部屋で窓際に移動していた。だから窓から魔法で遠隔操作してると思ってたけど、大当たりだったみたいね」
「みあちゃん、さすがね!」
「褒めても何も出ないわよ。あ、チョコ食べる?」
「食べる食べる!」
二人のやり取りを見ていて、マニィとイシィは「二人ともわかりやすい」と思った。
「やっぱり黒幕は屋上ね。思ったより早く出てきたわ」
「行こう、みあちゃん!」
かなみは張り切る。
おもちゃが動いているのは魔法。そして、今屋上に怪人がいる。
敵がおばけじゃないとわかれば、かなみは強気で前向きだった。
マンションの屋上は普段、立入禁止になっている。
みあは交渉して管理人からカギを受け取っていた。小学生のみあがどんな交渉してカギを手に入れたのか、かなみは知る由もない。
カギを開けて、屋上に踏み入る。
「クキキキ……」
不気味な笑い声を上げる、怪人がそこにいた。
木彫りの人形のような怪人でクキクキと笑い声と同じような不気味な音が関節から出ている。
魔法や怪人を知らない人が見れば、おばけと言われても信じるだろう異型だった。
でも、そいつはおばけではなく怪人だ。
「あんたね! おもちゃを動かしておばけ騒動をおこしてたのは!?」
「そうだ」
怪人はあっさり肯定した。
「クキキキ、俺はパペタン。見ての通り人形怪人だ」
「本当に見ての通りね」
みあは呆れるように言う。
「クキキキ、お前ら、ただの人間じゃねえな」
「ええ、そうよ! やるよ、みあちゃん!」
「もちろん!」
かなみとみあはコインを放り投げる。
「「マジカルワークス!!」」
宙を舞うコインから降り注ぐ光に包まれて、黄色と赤色の魔法少女が姿を現す。
「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」
「勇気と遊戯の勇士、魔法少女ミア登場!」
お馴染みの名乗り口上を高らかに上げる。
「ま、魔法少女か! 俺の野望を阻止するためにやってきたか! クキキキ、キキキククク!!」
パペタンは狂ったように笑い出す。
さながら操り糸がきれかかった人形のように見える。
「あんたの野望なんてどうだっていいわよ。人に迷惑をかけなければ」
ミアが言う。
「お、俺の野望をどうだっていいだと!? クキキキキ!?」
「あんたの野望って何なの?」
どうせろくでもないものに決まっているけど、それでも、カナミは知りたいという好奇心があった。
「キキキクク、よくぞきいた! クキキキキ、俺の野望はな!」
「おもちゃを動かして、幽霊騒ぎを起こす!」
ミアがパペタンの発言を遮る。
「クキ!?」
「それで騒ぎを起こせば住人は出ていく! そうなったら、無人のマンションを占拠して、それを足がかりにして世界征服! ってとこなんじゃないの?」
ミアの推理に、パペタンは一瞬硬直する。
「クキ! キキキククク!! クキクキクキクキクキキキキキキキキキキキククククククククキキキキキキキキキキキククククククククキキキキキキキキキキキ!!!!」
やがて、文字通り壊れた人形のごとく笑い出す。
「な、何!?」
「大方、あたしが言ったことが図星だからビックリしたってことなんじゃないの?」
ミアは極めて冷静だった。
「クキキキキ、俺の野望を知られたからにはタダじゃ帰さねえぞおおお、キキキキ!!」
「逆ギレ!?」
その凶笑からの切り替わりに、カナミは戸惑う。
「こっちだってタダで帰すつもりはないわ!」
ミアは即座にヨーヨーを投げ込む。
パキン!
しかし、そのヨーヨーが弾かれてしまう。
「ギガンダ―!」
ミアのヨーヨーが弾いたのは、おもちゃのギガンダーだった。
「クキクキクキ!」
パペタンが笑い声に連動して、ギガンダーがカクカクと動き出す。
「これが俺の魔法だ! おもちゃや人形を自在に操れる!」
パペタンが右手を上げると、ギガンダ―の右手も上がる。
パペタンが左手を下げると、ギガンダ―の左手も下げる。
パペタンがホップステップジャンプすると、ギガンダーもホップステップジャンプする。
「いやああああああ!?」
突然ミアが悲鳴を上げる。
「ミアちゃん、どうしたの!?」
「ギガンダーは! ギガンダーはそんなホップステップジャンプしないわ!!」
「ええ!?」
「クキキキ! このおもちゃは俺の下僕だからな! 俺のやることをなんでも真似をする!」
「ギガンダーは正義のスーパーロボットよ! あんたなんかの下僕になるわけないでしょ!!」
「どんなおもちゃだろうが、俺が糸を操りダークマターを入れてやれば下僕だ、キキキクク!!」
「どんなおもちゃだろうが……ふざけないで!!」
ミアは憤慨する。
「ふざけてなどいない! みるがいい、クキキキ!!」
パペタンが両手を広げると、他のおもちゃや人形が屋上に降り立つ。
「ミーアちゃん! フェアリーガールズ!!」
その中には、さっきカナミが部屋に入って見てきたミーアちゃんやフェアリーガールズの人形もあった。
「クキキキ、さあ、やってしまえ!!」
人形達が一斉に押し寄せてくる。
「カナミ! 手を出さないで!!」
「う、うん!」
カナミとミアはおもちゃ達の行進をかわしながら、パペタンに迫る。
おもちゃに攻撃して、おもちゃを壊すわけにはいかない。それなら、パペタンを直接攻撃して倒すしか無い。
そう考えて、カナミとミアはパペタンへ接近する。
「俺を守れ、下僕達!!」
その行動を読んだパペタンがおもちゃ達をその周囲に集める。
「これじゃ攻撃できないわ!」
「卑怯なことを!」
ミアは歯噛みする。
「クキキキ、行け!」
ギガンダーは拳を飛ばしてくる。ロケットパンチだ。
「わわ!?」
カナミは伏せてかわす。
続いて、フェアリーガールズの一人・花の妖精フェアリーフラワーが剣を引き抜いて襲いかかってくる。
カキィィィィン!!
カナミはステッキの刃でこれを受ける。
「フェアリーフラワー、やめて!!」
カナミは物言わぬ人形であるフェアリーフラワーへ呼びかける。
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しかし、フェアリーフラワーは応じることなく斬りかかってくる。
「やめて! やめてってば!」
カナミは必死に呼びかけるものの、フェアリーフラワーは返事をしない。
バァン!
フラワーの後ろから銃声が響く。
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「キャッ!?」
カナミはとっさに避けた。
「そこよ! サンダースネイク!!」
ミアはヨーヨーを投げ込む。
蛇のようにウネウネと曲がって、人形達の隙間を駆け抜けてパペタンヘ襲いかかる。
パキン!
しかし、またもヨーヨーは弾かれてしまう。
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ミアのヨーヨーを弾いたのは、土の盾だった。
「クキキキキ!」
笑うパペタンの前に立ちはだかるのは、土の妖精・フェアリーソイルだった。
「三人のフェアリーガールズが私達の前に立ちはだかるなんて!」
ミアは歯噛みする。
花の妖精・フェアリフラワー、水の妖精・フェアリ―アクア、土の妖精・フェアリーソイル。さらにその背後にギガンダ―とミーアちゃんが控えてる。
「ある意味、壮観ね!」
その光景を目の当たりにして、ミアの目が輝く。
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
「え、あ、ああ、そうね!」
カナミの激で、ミアは我に返る。
「問題はどうやって、あいつらを傷つけずに怪人を倒すかよ」
「うん、私もフェアリーガールと戦いたくない!」
「それにしてもスキがないわね……!」
三人のフェアリーガール、ギガンダ―だけでも手強いのに、それに加えて、他のおもちゃ達がパぺタンを守るべく取り囲んでいる。
それでも、ミアのヨーヨーとカナミの神殺砲ならなんとかいけるくらいの戦力だ。
そのおもちゃ達を傷つけないように、となると、難易度が上がる。
「大事にされてるおもちゃを操るなんて……!」
カナミとミアは三部屋だけだけど、おもちゃたちが大事にされているところを見た。あれを見てしまったら、この戦いで壊してしまう訳にはいかない。
「壊したら弁償ってわけにもいかない、そういうのはお金には代えられないから」
ミアが言う。
「ええ、だからなんとかして壊さずにパペタンを倒さなくちゃ!!」
「あいつらはパペタンの糸とダークマターで操ってるから……そうか!」
ミアは両手を振り上げる。
「そっちが糸なら、こっちだって糸よ!!」
ミアが両手を振り下ろすと同時に、目に見えないほどの細い糸が飛ばされる。
「何ぃぃ!?」
パペタンは驚愕する。
ミアが飛ばした糸がパペタンに絡まったのだ。
「何をする気だ、魔法少女!?」
「盗られた物は取り返すに決まってるでしょうが!!」
ミアは無理矢理引き上げる。
「だったら、それすらも盗ってやる!」
パペタンはそれを引っ張り返す。
言うなれば、魔法糸による綱引き。
見えないほどか細い糸。
「があああああ!!」「くううううう!!」
音もなく当人同士による唸り声がする。
「ミアちゃん、頑張って!」
「って、応援してる場合か!! あんたは今のうちに狙い撃ちよ!!」
「そうだった!」
即座にカナミは魔法弾を撃ち込む。
「あがあ!?」
おもちゃ達はまったくパペタンを守ること無く魔法弾はパペタンに命中する。
ガタガタガタガタ
操られていたおもちゃ達は、音を立てて崩れ落ちていく。
「って、あれ!?」
とりあえず撃ってみた魔法弾で、魔法があっさり解けたことにカナミは拍子抜けする。
「俺はか弱い……! か弱いからこそ俺を守る部下が必要だったんだ!!」
パペタンが力説する。
「部下じゃなくておもちゃでしょうが!」
ミアはヨーヨーをぶつける。
「があああああッ!?」
パペタンは悲鳴を上げる。
「おもちゃをいいように操って! タダですむと思ってるんじゃないでしょうね!! このおおおおおッ!!」
ミアは怒り任せにヨーヨーをぶつける。
「グギ!? ギグ!? グググギギギ!!?」
パペタンは濁った悲鳴が響き渡る。
「ミアちゃん、相当怒ってる」
カナミは少し引く。
「グギ……どうか、ご勘弁を……」
「勘弁しない!」
ミアはバッサリ切り捨てる。
「Gヨーヨー!」
放り投げた巨大ヨーヨーがパペタンへ落下し、押し潰す。
「あれ、私の出番は?」
カナミは首を傾げる。
全部ミアがやってしまって、結局カナミは同行した意味があったのか疑問だった。
「あんたの出番はこれからでしょ」
「え?」
「このおもちゃ達を元の場所に戻さないといけないでしょ!」
「えぇ!?」
「壊したりしたら、責任問題なんだからちゃんとやりなさいよ」
有無を言わさず、ミアはおもちゃを持って動く。
屋上から下の階の窓へ忍び込んで元の場所に置く。
物音を立てずに慎重に戻す。
子供部屋の場合は、子供が寝ていることがある。カナミは「どうか起きませんように」と祈る。
正直、魔法少女がやっていいことじゃないと後ろめたさもあった。
「ちょっとしたサンタ気分ね」
おもちゃ達を戻した後、ミアはそう言った。
「ミアちゃん、楽しそうだったね……」
全部ミアに任せた方が良かったんじゃないかという気になってくる。
実際、七割ほどおもちゃはミアが戻していた。
「あんた、サンタっていつまで信じてたの?」
「いつまで……うーん、よく憶えてない」
「そう……あたしもね。それまでは親父がプレゼントを持ってきたのよ。あたしが寝たあとにこっそり部屋に入って枕元に置いて」
そう言われて、カナミは自然とその光景を想像する。
あの広い子供部屋のベッドで、一人静かに寝ているミアへのクリスマスプレゼントを置いていく。
朝起きた時、きっとミアは喜ぶだろう。
そんなことを想像しながらそうしている父・彼方の顔は、きっと優しい笑みに満ちているに違いない。
「いいなあ」
それは、カナミにとっては憧れの父親象の一つだった。
そういうことをする両親では決して無かったから。
「ま、今年も勝手に入り込んできたら処刑してやるつもりだけど」
「素直じゃないんだから」
カナミは苦笑する。
「……この仕事ってさ、みあちゃんはお父さんのためにやったの?」
「はあ!? いきなり何言ってんの!?」
「だって、おもちゃのことだったし、ギガンダ―も、ミーアちゃんも、フェアリーガールもミアちゃんのお父さんの会社の商品だし!」
「そ、それは偶然よ!」
マニィとイシィは密かに「ごまかすのはヘタだ」と思った。
「あ、偶然だったの」
しかし、カナミはそれで納得する。
マニィとイシィは密かに「ごまかされやすい」と思った。
「おもちゃを弄んでる奴は許せなかった。それだけよ!」
「それって……」
結果的に、みあのお父さんのためなんじゃないか。
「ほら、さっさと帰るわよ!」
みあは急かすように屋上を降りようとする。
「はいはい。ところでみあちゃん、今夜の晩ごはんは?」
「あたしが知るか。っていうか、これから部屋来るつもり!?」
「うん! みあちゃんのおもちゃも見てみたくなったから!」
「あたしのコレクションが見たい?」
ミアは口角を吊り上げる。
「よし、見せてやろうじゃないの!」
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言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
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学園長からのお話です
ラララキヲ
ファンタジー
学園長の声が学園に響く。
『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』
昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。
学園長の話はまだまだ続く……
◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない)
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
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