まほカン

jukaito

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第105話 現身! 再現される少女の面影は際限のない幻想 (Aパート)

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 周囲が高いビルに囲まれた狭い歩道。当然、人の通りが極端に少ない。
 怪人の居所に相応しい場所だった。

カキィィィィン!

 その歩道で金属音が鳴り響く。
 青の魔法少女スイカのレイピアと身体が金属でできた怪人が打ち当たった音だ。
「ハハハ、テツガネ様のこの金属の身体は貫けん!」
 テツガネは金属の身体を誇る。
「この!」
 スイカは構わず、打ち込み続ける。

キィン! キィン! キィン!

 その戦いの様子をビルの陰から見ている影があった。
「……なんでこんなところで」
 影はぼやく。
 もちろん、影の正体はただの人間ではない。
 人知れず行われている怪人と魔法少女の戦いをよく知っている。だからこそこの戦いの最中に動いて、気づかれて巻き込まれたらたまったものじゃない。
 ゆえに動かずに気を伺う。

キィン! キィン! キィン!

 戦いは続く。
 スイカはレイピアを間断なく突き続ける。
 テツガネの金属の身体は貫くことはできないものの、反撃を許していない。
「いい加減にしろよ! いつまで無駄なことをするつもりだ!」
 業を煮やしたテツガネは吠える。

キィン! キィン! キィン!

 しかし、その咆哮をかき消すようにレイピアを突いて金属音を鳴らす。
「――無駄なんかじゃない!」
 そして、誇示する。
「ノーブルスティンガー!」
 スイカは渾身の力を込めた突きを繰り出す。
「がああああああッ!?」
 突きがテツガネの腹を貫いて、吹っ飛ぶ。
「ハァハァ……」
 スイカは息切れする。
 休みなく突き続けた疲れが一気にやってきた。
「……終わった」
 影はそう判断して動く。
「――誰!?」
 しかし、その僅かに漏れ出た気配をスイカは見逃さなかった。
「しまっ!」
 スイカに気づかれて、観念して姿を現す。
「え!? どうして!?」
 その姿を見て、スイカは驚愕した。
「かなみさん?」
 影の正体は、かなみだった。



「かなみさんのドッペルゲンガー?」
 オフィスで不意に話題が出た。
「そうなんです。私そっくりに変身するんですよ」
「かなみさんそっくり……」
 翠華はかなみの顔を見る。
「ちょっと会ってみたいかも」
「え、何言ってるんですか……?」
 かなみは驚く。
「あ、ううん、違うの! ドッペルゲンガーってどれだけ」
「そっくりなんですよ。二人並ぶと区別がつかないくらいです。あ、でも、それは私じゃなくてマニィの言っていたことで」
「それは気をつけなくちゃいけないわね。……かなさみんが二人もいたら可愛さ二倍で」
 後半の方は、かなみに聞こえないよう小声に言った。
「ええ、気をつけないといけないんです。あいつ、私を倒して本物に成り代わろうとしているんです」
「かなみさんを倒して、本物に……」
 その発言で、翠華は強ばる。
「それは許せないわね」
 見つけたら、絶対に倒そうと心に誓った。
 かなみのために。
 そして、かなみの偽者という存在は許しておけない。



「どうして、かなみさんがここに?」
「え、えっと、こっちに用があって……」
「――嘘ね」
 スイカはレイピアを突くような鋭さで言い放つ。
 かなみは今の時間、オフィスで事務作業をしているはずだから。
「え、嫌だな……私が嘘なんてつくはずがないじゃないですか?」
「そうね、かなみさんは嘘はつかないわ」
「そうでしょ!」
「でも、そんなふうに自己主張強くない」
「えぇ……そうだったの?」
 かなみは額に汗を流しながら、ごまかそうとする。
「ずっと……ずっと、見てきたから……!」
 スイカは熱心な眼差しでかなみを見つめる。
 以前、偽者というか、敵が見せたかなみの幻覚のことを思い出す。
 あれは今ここに立っているかなみよりも本物に近い。というよりも、スイカが本物と感じるように感覚を奪われていた。
 それに比べると、今のかなみは姿形はそっくりなものの、、なんとなく違うとスイカの直感が告げてくる。
「ずっと、見てきた? 私を?」
「あなたじゃなくてかなみさんを!!」
 スイカは即座に反論する。
「だから、私がかなみですよ。結城かなみです」
 かなみは自己主張する。
 そうすればするほど、スイカの違和感は大きくなっていく。
「化けの皮が剥がれるってこういう事を言うのね」
 スイカは冷たく言い放つ。
 氷を意識してできるだけ冷たく。
 しかし、実際心中は炎のように熱く燃え盛っていた。
 以前、幻覚でかなみにそっくりに見せた怪人。涼美はその怪人を偽者だと看破した上で容赦なく倒していった。
 いくら偽者とはいえ、娘とまったく同じ姿をしているのにあそこまで容赦なくするなんて、と思うと同時に、娘と同じ姿をしているからこそあそこまで許せなかったのかもしれない。
 今、あの時の涼美の気持ちが少しだけ分かる。
 かなみと同じ姿を装っていても、偽者とはっきりわかる。そのおかしさに怒りがこみ上げてくる。こんな偽者がかなみを倒して本物に成り代わろうとしているのだからなおさらだ。
「かなみさんに代わって、私があなたを倒すわ」
 スイカはレイピアを向ける。
 かなみにそっくりの顔にそうすることには心が痛むものの、そうも言っていられないとためらいを押し殺す。
「――バレているんなら仕方ないわね」
 かなみのドッペルゲンガーは言う。
 それはこれまでの装いが嘘のように、落ち着いた冷たい一言だった。
 スイカは氷のように意識していたものに対して、ドッペルゲンガーはごく自然なもので、こちらが本性だと誇示するかのようだった。
 そして、それはかなみだったら絶対に口にしないものだった。
「ごまかせると思ったんだけど、うまくいかないものね」
「そうそうあなたの思い通りにいかないということよ」
「変身は自信があったのにね。よっぽど普段から魔法少女カナミを見ているということね。ああ、ずっと見てきた、って言ってたわね」
「なッ!?」
 勢いに乗って、とんでもないことを言ってしまったんじゃないかとスイカは狼狽する。
「フフ、クールな娘かと思ったけど、案外可愛いわね」
「黙りなさい!」
 スイカは激昂する。
「かなみさんの声で! かなみさんの顔で! そんなこと言わないで!」
 許せない。
 違和感の塊でしかない、目の前の存在が。
「フフ、だったら力づくで黙らせてみせなさいよ」
 ドッペルゲンガーは挑発する。
「こんのぉ!!」
 スイカは怒りで我を忘れて、レイピアを突く。

ヒュゥン!

 しかし、それは空を切る。
「危ないわね」
 かなみは後ろに跳び、かわした。
 それほど俊敏な動きではなかった。
 ただスイカがまっすぐ突きにくるとわかっていたからかわせた。そういう動きだった。
「私の突きをかわした!?」
「くるとわかっていればね」
「く!」
 スイカはもう一突きする。

パキィン!

 レイピアをドッペルゲンガーはステッキを生成して受け止められた。
「カナミさんのステッキ!?」
「そう、私のステッキよ」
 ドッペルゲンガーのその物言いに、スイカは歯噛みする。
「いいえ、カナミさんのステッキよ!」
 ドッペルゲンガーは魔法少女カナミの本物に成り代わろうとしている。
 それゆえに、カナミのステッキさえも自分のものだと言ってはばからない。そんな態度にスイカは苛立ちを覚える。
「だから、私こそ魔法少女カナミなのよ」
 かなみの姿が魔法少女の衣装へと変化する。
「カナミさん……!」
 それはまさしく魔法少女カナミだった。
 黄色の髪、幼くも凛々しい顔立ち、黄色を基調としたフリフリの衣装、スイカが理想としている魔法少女そのものが目の前にいる。
「そう、私が魔法少女カナミよ!」
 しかし、その名乗りがスイカの目の前の理想を払拭させる。
「違う! カナミさんじゃない!! あなたは魔法少女カナミなんかじゃない!」
 スイカは激昂し、レイピアを突き出す。
 カナミとまったく同じ姿のドッペルゲンガーに向かって。
「う……!」
 同じ姿であるがゆえに、攻撃してしまうのがどうしても躊躇ってしまう。

パキィン!

 そのため、突きの速度が鈍くなり、ステッキで弾かれてしまう。
「甘いのね。私を攻撃するのを躊躇うなんて」
「私はそんなこと!」
 ない、といわんばかりにもう一度レイピアを突く。今度は速度を上げて。

パキィン!

 それでもステッキで弾かれる。
「どうかしら?」
 ドッペルゲンガーはステッキさばきを見せつけるように言う。
「本物でもこうはいかないでしょ」
「カナミさんにだってこのくらいはできるわよ!」
 本人が聞いたら心外だとぼやいていたかもしれない。
「だったら、これはどう?」
 ドッペルゲンガーは魔法弾を放ってくる。
「く!」
 魔法弾はカナミが撃ってきたものにそっくりだった。
 ゆえに威力はそれなりにあって、油断できないものだとわかる。

バァン! バァン! バァン!

 容赦なく数を撃ち込んでくる。
 スイカはこれをさばいていく。
 心なしか、本物のカナミが撃ち込んでいる魔法弾よりも数が多く、威力が高いような気がする。

パキィン!

 レイピアが魔法弾に弾かれて宙を舞う。
(いえ、錯覚じゃない!)
 カナミはこの街中だと被害が出ないようにいつも気を遣って戦っている。
 対して、ドッペルゲンガーはそんな気遣いなんて一切ない。思う存分、魔法弾を撃ち込んでくる。
 でも、だからこそ実感する。
「やっぱり、あなたはカナミさんじゃない!!」
 スイカは即座にレイピアを生成して、突く。

パキィン!

 魔法弾をかいくぐって、突く。
 ドッペルゲンガーはそれをステッキでかわす。
 ステッキさばきは確かに本物のカナミと遜色が無いかもしれない。

パキィン! パキィン! パキィン!

 しかし、それでも接近戦の技術や速度はスイカの方が上。手数で勝るスイカの方が徐々に押していく。
「く!」
 ドッペルゲンガーは苦い顔をする。
「ノーブルスティンガー!!」
 ドッペルゲンガーのスキを見つけて、すかさず渾身の突きをスイカは放つ。

グサリ!!

 レイピアがドッペルゲンガーの横腹をかすめる。
「つぅ!?」
「カナミさん!?」
 スイカは思わずレイピアを引く。
 ドッペルゲンガーは魔法少女カナミと全く同じ姿をしている。
 全く同じ姿をしているけど、全く違う偽者。
 それはわかっているのだけど、どうしても本物と重なってしまう。
 それに魔法少女カナミと同じ姿をしている、というだけで傷つけることに罪悪感がこみ上げてしまう。
(ダメ、私には彼女を傷つけることができない! でも、彼女を倒さないと!)
 罪悪感と使命感に心が揺れる。
「痛い……」
 ドッペルゲンガーは弱々しく言う。
「あなたは偽者、ドッペルゲンガーで偽者……」
 スイカは自分に言い聞かせるように呟き、ドッペルゲンガーへレイピアを向ける。
「やめて……」
 懇願するドッペルゲンガーの泣き顔。
 偽者とわかっていても、魔法少女カナミとまったく同じ顔をしていて、剣先が鈍ってしまう。
「く……!」
 偽者だとわかっていても、その姿で、その顔で、そう言われたらもうこれ以上攻撃することができなくなってしまう。
「――甘いわね」
 ドッペルゲンガーは冷たく言い放つ。
 その場でステッキを振るい、地面に向かって魔法弾を炸裂させて、粉塵が巻き上がる。
「しまった!?」
 スイカはドッペルゲンガーの姿を追う。
 しかし、粉塵のせいで姿が消えてしまい、気配で追おうにも既に逃げ去られてしまったのか、辺りに気配が無い。
「ウシシ、逃しちまったな」
 ウシィが言う。
「……そうね、失敗したわ」
 スイカはその事実を重く受け止める。



「……危なかった」
 スイカの追跡がないことに安堵する。
 余裕を保っていたものの、スイカは自分よりも実力が上で、一突きでやられてもおかしくなかった。そんな危うい状況を脱せられて一安心するのは当然だった。
 しかし、ドッペルゲンガーはしたたかだった。
 安堵の時間は一瞬だけで済ませて、対策を考える。
「青い魔法少女……スイカって言ったわね。あの娘、確かに強かったけど……付け入るスキもあった……それじゃ、やるしかないわね」



「なるほどね。目標の怪人は倒せたけど、その後、ドッペルゲンガーと会敵かいてきして取り逃がしちゃった、と」
 オフィスに戻った翠華は、あるみに報告した。
「はい、そうです、すみません」
 翠華は頭を下げる。
「謝ることじゃないわ。ドッペルゲンガーを取り逃がしたのは確かに落ち度だけど、仕事は果たしたんだから私から言うことはないわ」
「そうですか……」
 あるみにそう言われて、翠華はますます腑に落ちなくなってしまう。
「納得がいかない。だったら、かなみちゃんにも話してあげなさい」
「そ、そうですね。そのかなみさんは?」
「備品室の整理を頼んだんだけど」

パカッ

 オフィスへの扉が開く。
「備品室の整理、終わりました」
 ちょうど、かなみがやってくる。
「かなみさん!」
 翠華はさっそくかなみの元へ歩み寄る。
「翠華さん、戻ってたんですか」
「え、ええ、かなみさんに聞いて欲しいことがあるの。ドッペルゲンガー!」
「ドッペルゲンガー!?」
 かなみは驚愕する。
「ドッペルゲンガーということは、私と同じ顔をした怪人ですか!? 会ったんですか!?」
「そうなの! かなみさんと同じ顔をしていて、同じ姿をしていたの?」
「私そっくりだったでしょ?」
「ええ。でも、すぐに偽者だってわかったわ」
「本当ですか!? さすがですね!!」
 かなみは嬉々として翠華を称賛する。
「さすが……いいえ、でも、私は取り逃がしてしまって……」
「取り逃がした……?」
「ごめんなさい!」
 翠華は頭を下げる。
「え、どうして謝るんですか?」
「あのドッペルゲンガーはかなみさんを狙っていた。だから、倒せる時に倒さないといけなかったのに……私は逃してしまって……」
「えっと、確かにドッペルゲンガーは私を狙ってるみたいなんですけど……それで、翠華さんはどうして謝ってるんですか?」
「そ、それは……ドッペルゲンガーと戦って、倒せるチャンスはあったのに逃してしまって……それであいつはまた、かなみさんを狙うから、かなみさんを危険にさらしてしまって……」
「そ、そういうことですか」
 ドッペルゲンガーは逃してしまうと、かなみの身が危険にさらされる。
 翠華はそのことを申し訳ないと思っていることを、かなみは察した。
「大丈夫ですよ、翠華さん! 私は狙われてもドッペルゲンガーに負けませんから!」
「かなみさん……」
「ですから、翠華さんが気に病むことはありませんよ! それより翠華さん、ドッペルゲンガーと戦って言ってましたけど怪我はありませんか?」
 かなみは問う。
「え、怪我? いえ、しなかったけど……」
「それは何よりです」
 かなみは笑顔で返す。
「……素敵」
 その笑顔を見て、翠華は思わず言葉が漏れる。
「え、何か言いましたか?」
「な、なんでも無いわ」
 翠華は顔をそらす。
(かなみさん、自分のことより私のことを心配してくれた、優しいな……かなみさんのためにもドッペルゲンガーは必ず倒さないといけないわね!)
 翠華は胸の内に誓う。



「まあぁ! 翠華ちゃん、よく来たわねぇ!」
 かなみと翠華が揃って、アパートの部屋に帰ると涼美は嬉々として出迎える。
「晩ごはん、一緒に食べてくれるのぉ? それともぉ、お泊まりかしらぁ?」
「あ、いえ、ちょっと涼美さんに相談したいことがありまして」
「私に相談? フフ、とりあえず腹ごしらえからでしょぉ? かなみもぉ腹の虫が鳴ってることだしねぇ」
 そう言われて、翠華はかなみを見る。
「アハハ……」
 かなみは苦笑してごまかす。
「私には聞こえなかったけど……」
「母さん、地獄耳だから」
「かなみぃ~聞こえてるわよぉ」
 奥にいる涼美の一言に、かなみはビクッと震える。
「ほ、ほら!」
「フフ、そうね」
 翠華は思わず顔がほころぶ。
 かなみと翠華が部屋に入ると、テーブルには中央に鍋が置かれていて、取り皿が三皿ある。
「今日はぁお鍋よぉ」
「うちにこんなすごい鍋どこにあったの?」
 かなみが訊く。
「台所にぃ隠して~おいたのよぉ」
「何で隠すの?」
「いっぱい食べられるからぁ良いじゃないのぉ」
「それはそうだけど……」
 かなみは腑に落ちなかった。
「ほらぁ、翠華ちゃんもぉ食べて~食べて~」
 涼美は鍋から具を取皿に入れて、翠華へ渡す。
「は、はい……ありがとうございます」
「母さん、私の分は?」
 かなみはむくれながら要求する。
「はぁいはぁい」
 涼美はかなみへ鍋の具をたっぷり盛った取皿を渡す。
「いただきます!」
 かなみと翠華は鍋を大いに楽しんだ。



「ごちそうさまでした」
 かなみ、翠華、涼美の三人で大きい鍋を完食した。
「すごい、全部食べきっちゃった……」
 翠華は改めて、空になった鍋を見る。
 翠華は最初を見た時、正直三人で食べ切れない大きさだと思ったけど、三人で食べきってしまった。
 かなみの食欲は凄まじいのはかねてから知っていたけど、涼美も相当食べていた。しかも、その食べ方はかなみのようにガツガツしたものではなく、ゆったりとしたペースで止まること無くどんどん食べていった。
(もしかして、あれが全部……)
 翠華は思わず涼美の膨らみに目が行ってしまう。
「なぁに、翠華ちゃぁん?」
「い、いえ、なんでもありません!」
 翠華は慌てて目をそらす。
「フフ、翠華ちゃん、可愛いわねぇ。うちの子だったらぁよかったのにねぇ」
「え、私が涼美さんの子に?」
 思ってもみなかったことに面を喰らう。
「そしたら、翠華さんと姉妹ですね」
「かなみさんと姉妹……?」
 翠華は驚きで固まる。
 しかし、頭の中で想像する。
 朝、かなみさんと一緒に起きて「おはよう」を言う。
 一緒に朝ごはんを食べる。
 一緒に「いってきます」を言って家を出る。
 一緒に通学路を途中まで行って「じゃあ、私はここで」と言って別れる。
 そして、帰り道でばったりと偶然会って、一緒に帰る。
 一緒にこうして夕食を食べる。
 一緒にベッドまで寝る。
 そこまで一瞬で想像して、絶大な幸福感に包まれる。
「翠華さん、私が妹じゃ迷惑でしょうね」
 かなみのそんな一言ですぐに現実に引き戻される。
「え? 迷惑?」
「仕事でいつも翠華さんに面倒見てもらってますから」
「迷惑だなんてそんな全然思ってないから!」
「それじゃ、私が妹でもいいですか?」
「いい! かなみさんが妹だったら大歓迎よ!」
 翠華は力いっぱい応える。
「………………」
 かなみは呆気にとられる。
(あ、あ、しまった……! 本音出しすぎて、かなみさん引いちゃってる!?)
 翠華は青ざめる。
「あ、あの……かなみさん?」
 そして、弁解しようとする。
「……私も」
「え?」
「私も、翠華さんがお姉ちゃんだったらいいなと思います」
 かなみは照れくさそうに応える。
「………………」
 今度は翠華は絶句する。
「翠華さん?」
 かなみは問いかける。
「あ、なんでもないのよ、かなみさん!! 姉妹って良いわよね、アハハハ!!」
 翠華は必死にごまかす。
「フフフ」
 涼美は笑って、二人のやりとりを見守る。
「ところで~、翠華ちゃぁん? 私に何かぁ話がぁあるんじゃないのぉ?」
「え、あ、は、はい!」
 翠華は飛び上がるように思い出す。
 今夜、結城家と食卓を囲むためにここまで来たわけじゃない。いや、鍋をつついたのはとても楽しくて来てよかったとは思うけど。
「――涼美さん、お話があります」
 翠華は極めて真剣な眼差しで応える。
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