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第102話 相似! 動き出した少女は面影を重ねる (Bパート)
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「私の名前は若芽です」
萌実とよく似た顔の少女はそう名乗った。
今は暴れないことを条件に鎖から解放されて、大人しく正座している。ライフルは魔法で生成していたみたいで、今は消している。
「若芽ちゃんねぇ、よろしくねぇ」
涼美は、娘の友達とか顔をあわせたような、そんな気楽な調子で返す。
「若芽……」
かなみはその名前を呼ぶ。
「何ですか?」
若芽は当たり前のように返事する。
顔は萌実と同じなのに、違う名前で呼ぶ。
なんともいえない奇妙な感覚だったけど、萌実と若芽は違う子なんだ、と、早く認識できるように努めようと、かなみは思った。
「どうして、私を襲ったの?」
色々と聞きたいことはあったけど、いの一番に問いかけたのはそれだった。
「……理由なんてありません」
「理由がない?」
「人を襲うのに理由が必要ですか?」
かなみはそう訊き返されて、ムッとする。
「なんとなくぅ、でもぉ、なんとなくぅっていう理由になるのよぉ」
涼美が言う。
「かなみの顔がぁなんとなく腹がたったぁ、なんとなく襲いたくなったぁ、なんとなく勝てると思ったぁ。ただのなんとなくでもぉまあ色々あるわねぇ」
ふざけているような調子でかなみをダシにしているように感じるものの、本人としては真面目に問いかけていた。
「……そう、そのなんとなくです」
若芽はふてくされた態度で応える。
「なんとなく、で襲われちゃたまったものじゃないわ。それにその言い方……なんだか……」
「萌実、みたいですか?」
若芽は忌々しく、かなみの発言を遮って言う。
「あんたと萌実とはどういう関係なの?」
「妹、ですかね……」
くぐもった言い方に、かなみは不審な匂いを感じた。
本当に姉妹だったら、もっと簡単に言ってもいいはずなのに、なんだか今とっさに考えて思いついたような、そんな違和感があった。
「妹?」
「そう妹ですよ!」
そんな違和感をごまかすためか、若芽は強調して言う。
「確かに似ているけど……」
実際、かなみは萌実が倒れていると勘違いしたほどだ。
でも、よくよく見ると……
「なんですか?」
「似ているけど違う」
かなみは若芽の顔を見つつ、記憶の中の萌実の顔と重ね合わせてみて、コメントする。
一見まったく同じ顔のように見えるけど、顔の造形や髪型が少し違っている。どこがどう具体的に違っているのか言葉に困るものの、じっくり見たら少し違うということはわかる。
「そうですよ。あんなのと同じにされたら困ります」
「あんなの?」
萌実のことを悪し様に言う。
そのときだけは、本当は萌実なんじゃないかと思ってしまった。
それだけ言い方と雰囲気が酷似していた。
「……どうしてそういう言い方するの?」
「あんなのだからあんなのって言っただけですが?」
「お姉さんでしょ、悪く言うのは良くないわよ」
「お姉さん? そんなこと言いましたか?」
好き勝手な物言いに唖然とする。そういう態度こそ萌実の妹だと言われて信じる根拠になっているが。
「あんたが妹だって言ったんじゃないの」
「そうですか、そうでしたね」
まるで自分が言ったことを忘れていたかのような発言。
「そんなふざけた態度がますます萌実らしいわ」
「らしいですか。そんなつもりはないのですが」
「そんなつもりじゃなくても似てくるのが姉妹じゃないの? 私は一人っ子だからよくわからないけど」
「えぇ、かなみは妹が欲しかったのぉ?」
「母さん、話の腰を折らないで」
「母娘仲がよろしいようで」
そう言われて涼美は自慢気に微笑む。
かなみの方は皮肉を言われたようで気分が良くない。
「そうよぉ、仲良しなのよぉ。あなたはぁ、萌実ちゃんと仲良しじゃないのぉ?」
涼美は訊くと、若芽はキィと睨む。
「あんなのと仲良し? 冗談じゃありませんね……――会ったこと無いですよ」
「会ったこと無い? 姉妹なのに??」
かなみが訊くと、若芽は不機嫌顔で黙り込む。
「事情があるのよねぇ……」
「知ってるくせに」
若芽は涼美に対してぼやく。
「母さん、何を知ってるの?」
「私に訊くの~?」
「母さんが色々知っていそうだから」
かなみは真剣に訊く。
萌実にしても、この若芽にしても、全然知らない。
涼美なら大人で何でも知っていそうな気がするから訊いた。
「私の口からは言えないわねぇ」
「またそうやってごまかして!」
「かなみ……これはあるみ社長からのメッセージなんだけど」
不意にマニィが言ってくる。
「社長から?」
「この件に関しては君の判断に任せるだそうだ」
「任せる? 任せるって何を?」
「それも含めて、だよ」
「……またいい加減な」
かなみは呆れた。その上で困惑する。
判断、ってこれからどうすればいいのかわからない。
若芽の処遇にしても、いつまでもこのままここでこうしておくわけにもいかない。かといって、解放するというわけにもいかない。気絶しているところを運び込んだら不意打ちで襲いかかってきたのだ。
その理由が、なんとなく、としか答えないから質が悪い。
またなんとなくで襲いかかってくる可能性は大いにあり得る。
「どうしましょう……?」
かなみは大きくため息をつく。
社長はなんだってこんな面倒事を押し付けてくるのか。
今すぐ電話を入れて文句の一言でも言ってやりたい。いや、ちょっと怖いからやめておこう。
「母さん、どうしよう?」
とりあえず、母に訊いてみる。
「かなみに任せるわぁ」
「そう言うと思ったわ!」
なんとも無責任の母だった。
「このまま帰しちゃうぅ? それとも、また捕まえておくぅ?」
「それを今考えてるんだけど……捕まえておくのは、無しで……」
かなみは考える。
「うーん、うーん」
かなみは唸りながら考える。
突然現れた萌実の妹。突然襲ってくるような危険な少女。そんな少女の処遇を突然任された。任されたといっても、どうしたらいいのか。
「……とりあえず」
かなみは考えた末に一つ提案する。
「お姉さんにも話を聞きましょうか?」
そんなわけで、かなみ達はオフィスへやってきた。
「いってらっしゃぁい~」
普通に見送ろうとした涼美の手を無理やりとって、ついてきてもらった。
夜道を若芽と一緒に歩くのは怖すぎた。また襲ってこないとも限らないから。
「若芽、なんでここに倒れていたの?」
道中で、ごみの集積場所にやってきて、かなみは訊く。
「………………」
しかし、若芽は黙ってそっぽ向く。
そんな態度には、かなみはムッとする。
「そんな格好しているから、ごみ袋かと勘違いしたのよ」
「はあ!?」
かなみの「ごみ袋」発言にはさすがに黙っていられなかったようだ。
「突然何をおっしゃりますか!?」
「あ、本当にそう思ったことを言っただけよ。最初は気づかなかったし」
かなみは正直に答えただけなものの、若芽は苛立ちを募らせる。
「ヨロズといい、この人といい……神経を逆撫でする方ばかりですね」
「ヨロズ?」
思わぬところでその名前が出てきて、問いかける。
「あっ……」
若芽としても、もののはずみで名前を出してしまったのでバツの悪い顔をする。
「あなた、ヨロズを知ってるの?」
「………………」
若芽は何も話すまいと沈黙する。
その口は固く閉ざされているように感じる。
だから、かなみは憶測で言うことしかできなかった。
「あなた、ヨロズと仲間なの?」
萌実はネガサイドの一員だったことから、その妹がヨロズと仲間でもおかしくない。
「冗談じゃありませんよ、あんな奴と仲間だなんて……」
「あんな奴ってことはやっぱり知り合いなんじゃないの?」
「し、知り合いじゃありませんよ!」
若芽は明らかに取り乱して取り繕う。
「そう、それじゃその傷はヨロズにやられたの?」
「だからどうしてそうなるんですか!?」
若芽はムキになって否定する。
「そう……萌実もヨロズにやられたことがあったから、ひょっとしてと思って」
「萌実もヨロズにやられたことがあるのですか!?」
そこに若芽はそのことに食いつく。
「も? やっぱりあんたもヨロズに?」
「そんなことはどうだっていいじゃないですか! 萌実もヨロズにやられたんですか!?」
これまでのふてくされた態度が嘘のように、かなみへ食いつく。
「え、ええ、そうよ」
「詳しく話してくれませんか?」
「それはいいけど、お姉さんが負けた話なんて聞きたいの?」
「ええ、聞きたいですね! とっても!!」
そこまで言われたら、話してもいいかな、と、かなみは思った。
「なんていうか、そういうところは萌実にそっくりよね」
人の失敗や負けたところに興味を持つところ、とか。
「何か言いましたか?」
「ううん、なんでもないわ」
かなみは慌ててごまかす。
「もう仲良しよねぇ」
涼美はその様子を微笑ましく見守る。
萌実とヨロズが戦ったことを話し終えるとちょうどオフィスビルに辿り着く。
「また来たのか?」
トラ型のマスコット・トミィが出迎えてくる。
「うん、萌実に用があってね」
「彼女ならもう寝てるぞ」
「こんなときに呑気にもう!」
かなみは文句を漏らす。
「そういう人みたいですね。別に会いたかったわけじゃないですから」
若芽はつまらなそうに言う。
「彼女が例の、か?」
「うん、そうだね」
トミィが訊いてきたのを、マニィが答える。
それによるとトミィは若芽のことを報されていたようだ。
「マスコット同士でどんなやり取りしてるのかしら?」
「かなみもぉ、マスコット作ってみたらわかるんじゃないかしらぁ」
涼美が言う。
「私が、マスコットを、作る?」
今まで考えたこともなかった。
「そんなことできるの?」
「私も得意じゃないかぁ、あるみちゃんに聞いてみたらぁ」
「……うーん、社長も得意じゃないって言ってなかった?」
「確かにそうねぇ、でもマスコット作れる人は他にいないからぁ」
「他に心当たりないから……ちょっと怖いけど」
「大丈夫よぉ、きっと相談に乗ってくれるからぁ」
「そうね、考えてみるわ」
「それで、いつ案内してくれるんですか?」
若芽の一言で話が戻る。
「萌実はいつもの社長室で眠ってるのよね?」
「そうだ。寝る子は育つっていうけどあれは寝すぎだぞ」
トミィがぼやく。
「確かに……」
思い返すと、かなみが仕事しているときはだいたい寝ている。
一日に二十時間くらい寝ているんじゃないのだろうか。まさにナマケモノだ。
「かなみはぁあんまり寝ないからぁ成長止まっちゃったのかしらぁ?」
涼美が言う。
「そうなの!?」
「まあ、そんなこともあるだろうね」
マニィが追撃をかけるように言う。
「ね、ねえ!? 今からちゃんと寝たら背が伸びるかな?」
「あなたの背なんてどうでもいいですよ」
若芽はコメントする。
「うぅ……あんたからしてみればそうだけど……私にとっては切実なのよ……」
「君がそんなに背のことを気にしていたのは意外だよ」
マニィが言う。
「だって……社長や来葉さん、それに母さんも背が高くて素敵な大人だから……!」
「ああ、それで……」
「大丈夫よぉ、かなみもぉ素敵な大人になれるからぁ」
「素敵な大人、ですか……」
涼美の物言いに、若芽はどこか含むような発言をする。
「……なれるかわからないわよ」
かなみはどこか捨て鉢になった様子で言う。
「ほら、さっさといくわよ!」
そう言って、かなみは急かす。
「成長期の悩みなのよねぇ、ああいうのはぁ」
涼美は若芽へ言う。
「……そうですか」
若芽はぼやく。
かなみが社長室に入ると、すぐソファーへ目をやる。
「こんなときに、呑気に寝て……」
ソファーで静かに寝息を立てている萌実の姿に、かなみはイラッとする。
「萌実! 起きて!」
とりあえず揺すってみる。
これでも、かなみからしたら叩き起こしてるつもりだった。
しかし、萌実は揺すっても揺すっても起きそうになかった。
「起きなさい!!」
我慢できずに思いっきり揺する。
「――あ!」
勢い余って萌実をソファーから落としてしまう。
ゴトン!!
これはさすがにまずいと思って、一瞬目を背ける。
「……いったあ、何事よ!?」
萌実から文句の声を上げる。
「お、おはよう……」
かなみは気まずそうに、とりあえず挨拶をする。
「なんであんたがここに?」
萌実はかなみに訊く。
かなみが突き飛ばしてしまったことには気づいていないようだ。
「電話入れたでしょ?」
「電話? ああ、あのうっとおしい……」
萌実は社長室のデスクに置いてある黒電話を見る。
「それで、私の幻をみたとか?」
「幻なんかじゃないわよ」
「はあ?」
萌実はかなみの物言いを受けて、社長室に他の人間がいることに気づく。
「あんた、誰?」
萌実は入ってきたばかりの若芽に問う。
「――お初お目にかかります。萌実お姉様」
若芽は丁寧に一礼する。
恭しく、どこか悪意のこもった言い方だった。
「あんたが連れてきたの?」
萌実はそんな一礼を無視して、かなみへ問う。
「そうだけど、妹と会うのは初めてなの?」
「妹? ああ、そういうことになってるのね」
「なってる?」
妙な言い方に、かなみは違和感を覚える。
「なってるって、どういうことよ?」
「私が先に生まれたから姉、あいつが後に生まれたから妹、そういうことでしょ」
「言ってる意味がわからない……」
「私が先に生まれたから姉、」
「二回言わなくてもわかるわよ!」
「何よ、わかるならわかるって言いなさいよ」
「どうしてあんたがそういうことを言ってるのかわからないってことよ!」
「あいつが後に生まれたから妹」
「それはもういいって!」
「あ~、うるさいわね。私は眠いんだから」
萌実は耳を塞いで大げさに言う。
「眠いって、あんたずっと寝てたんでしょ?」
「睡眠時間は二十五時間必要なのよ」
「一日二十四時間よ!」
「二日で二十五時間よ」
「それでも十分長いわよ! 私の三日分より長い!!」
下手をすると四日分ある。いや五日分か。
「あれが、百地萌実?」
若芽はかなみと歓談している萌実の姿を見て、涼美に確認をとる。
「えぇ、そうよぉ百地若芽ちゃん」
「――!」
そう答えられて、若芽は硬直する。
百地若芽。その名前が誰のものなのかわからなかったかのように。
「そうよ」
その硬直を解いて、吐き出すように言う。
「私は――百地若芽です!」
若芽がそう名乗り出ることで、かなみと萌実はそちらの方へ意識を向ける。
「そう、あんたが百地若芽なのね」
「ええ、そうですよ、百地萌実!」
萌実と若芽は視線を交わして、ぶつかりあう。
「……お会いしたくありませんでしたよ、お姉様!」
「寒気が走るわね、さすがは私の妹ね」
言いあうやいなや、即座に二人は動く。
カチャ
萌実は拳銃を、若芽はライフルを、互いの顔に突きつけ合う。
「――!」
かなみは声が出せなかった。
出してしまえば、どちらかの引き金が引かれ、顔に弾丸が撃ち込まれてしまうと思ったからだ。
「………………」
「………………」
にらみ合いが続く。
どちらも微動だにしない。文字通り一歩も譲らない膠着状態が続く。
かなみと涼美もじっとせざるを得ない。
身動き一つ、物音一つでこの膠着状態が崩れてしまうかもしれないからだ。
そうなったら、この狭い社長室で大惨事が起こる。
(そういえば、社長は帰ってこないのかしら? こんなときに社長がいてくれたら……!)
かなみはあるみに想いを馳せた。
その時だった。
ジリリリリン!!
けたたましい黒電話のベルが鳴り響く。
(こんなときに誰よぉぉぉぉぉッ!!?)
かなみは心の中でかけて来た相手に文句を言う。
しかし、それが合図になって、互いに引き金を引いてしまう。
バァン!!
ベルをかき消す銃声が轟く。
まったく同時に放たれたことで一つに重なって聞こえた。
「はぁい、ストップゥ」
その直後に気の抜けた声が銃声をかき消す。
涼美が萌実と若芽の間に入る。
「また、あなたですか……!」
若芽は忌々しく言い放つ。
それは銃弾のような鋭さがあるものの、涼美には涼風程度の強さにしか感じなかった。
「そうよぉ、私よぉ」
「苛立たしい存在ね。なんで私の邪魔をするのよ?」
「兄弟ゲンカを止めるのが母の役目なのよねぇ」
「あんたは私の母親じゃないでしょうが!?」
「まあまあぁ、細かいこと無しよぉ」
「細かくない!!」
「だったらぁウチの娘になるぅ?」
「「「え??」」」
萌実と若芽、それに、かなみまで思わず声を上げる。
「ちょっと、母さん何言ってるのよ!?」
「いい考えかとぉ、思ったんだけどねぇ」
「何がいい考えよ! それだったら、二人とも私の妹になるってことじゃないの!?」
「それは冗談じゃないわね」
「同感です、吐き気がします」
萌実と若芽は心底嫌そうにそう言って、お互いに顔を見合わせる。
「今初めて気が合ったわね」
「合いましたね、寒気が走ります」
「私もよ、フ、フフフ……」
萌実はこらえきれなくなって笑い出す。
「「アハハハハハハハハハハハッ!!」」
それにつられたのか、若芽まで笑い出す。
「ついていけない……」
かなみは置いてけぼりをくらったように取り残される。
「まさかこんなことで笑わされる日がくるなんてね!」
「そうですね、そんな日が来るとは思いませんでした!」
萌実と若芽は互いに顔を見合わせて笑い合う。
これで仲直りした。と、かなみはホッと胸を撫で下ろし……かけた。
「――!」
下ろしかけた胸が、身体ごと強張る。
萌実と若芽の二人から、――揃って銃口を向けられた。
「ちょ、ちょっと、二人とも!? 何のつもり!?」
「別に……ただ同じことを考えただけよ」
「ええ、こういうことだけは気が合ったみたいです」
二人はまるで示し合わせたかのように言ってくる。
こういうところは姉妹らしい、と、かなみは思ってしまう。銃口を向けられてなければ和んでいたところなのだけど。
「こういうことって、どういうこと?」
かなみは問いかける。
「「かなみを倒すこと!!」」
二人は揃って答える。
「なんで私が巻き込まれるの!?」
「仕方ないじゃない、気が合ったんだから」
「そうですね、気が合ってしまったんですから」
「そういうわけで、かなみ」
「大人しく私に倒されてください」
「そんなことで倒されるわけにはいかないわよ!」
かなみは反発する。
「それじゃ仕方ないわね」
「ええ、そうですね」
二人がそう言ってくれたことで諦めてくれた、と、かなみはホッと胸を撫で下ろし……かけた。
「どっちが先に倒すか」
「競争になりますね」
「なんでそうなるのよ!?」
かなみは言い返す。
「ということはぁ、萌実ちゃんと若芽ちゃんで~かなみの争奪戦ねぇ」
そんなことを涼美が提案してくる。
「母さん、そんなこと言わないで!!」
かなみは孤立した気分になった。
「母親の許可は得たことだし」
「許可がなくてもやるでしょ!」
かなみは言い返す。
「先にかなみを倒した方が優れている、ということですね」
「そういうことね。さすが私の妹、察しが良いわね」
「お姉様の考えていることくらいすぐわかりますよ」
「そうか、ああ、そうなのね」
なんだかわからないうちに、萌実は納得する。
バァン!
その直後に発砲する
「うわあ!?」
「チィ、よけやがった」
萌実は舌打ちする。
「よけるわよ! 今殺る気だったでしょ!?」
「殺る気がなかったら発砲しないわよ」
「そんなこと当たり前みたいに言わないで!」
「当たり前じゃないわよ、常識よ」
「常識ではありませよ、当然よ」
「違いはないわよ! 姉妹揃って非常識ね!!」
かなみにそう言い返されて、二人はあからさまに不機嫌な顔をする。
「揃うわけがないでしょ」
「揃うわけがありません」
「返しは息ピッタリなのに……」
バァン!
そして、発砲のタイミングもピッタリだった。
「だから危ないって!?」
「危なくなかったら撃つ意味がないじゃない」
「それも避けてしまったら意味がありませんから当たってください」
「無茶言わないで! そんな言いがかりであんた達の的になるわけないでしょ!?」
「この的うるさいわね」
「黙らせるのが一番いいですね」
「母さん、なんとかして!!」
かなみは涼美へ助けを求める。
「かなみに~任されてるんだからぁ~かなみがぁなんとかするのよぉ」
「ええぇぇぇ、そんなぁぁぁッ!?」
「あぁ~、でもここじゃぁ狭いからぁ場所を変えましょぉう」
なんてことを涼美は提案してくる。
「そうね」
「そうですね」
しかも、萌実と若芽もその提案にのってしまう。
「なんで、母さんの提案にはのるのよ……?」
かなみは理不尽だと思った。
「ここで暴れて散らかしたらあるみが怒るのよ」
「そのあるみが怒ったらどうなるのですか?」
若芽が訊く。
「「めちゃくちゃ怖い」」
かなみと萌実は揃って言う。
「何故、そこであなた達の息が合うのですか?」
若芽は疑問を口にする。
萌実とよく似た顔の少女はそう名乗った。
今は暴れないことを条件に鎖から解放されて、大人しく正座している。ライフルは魔法で生成していたみたいで、今は消している。
「若芽ちゃんねぇ、よろしくねぇ」
涼美は、娘の友達とか顔をあわせたような、そんな気楽な調子で返す。
「若芽……」
かなみはその名前を呼ぶ。
「何ですか?」
若芽は当たり前のように返事する。
顔は萌実と同じなのに、違う名前で呼ぶ。
なんともいえない奇妙な感覚だったけど、萌実と若芽は違う子なんだ、と、早く認識できるように努めようと、かなみは思った。
「どうして、私を襲ったの?」
色々と聞きたいことはあったけど、いの一番に問いかけたのはそれだった。
「……理由なんてありません」
「理由がない?」
「人を襲うのに理由が必要ですか?」
かなみはそう訊き返されて、ムッとする。
「なんとなくぅ、でもぉ、なんとなくぅっていう理由になるのよぉ」
涼美が言う。
「かなみの顔がぁなんとなく腹がたったぁ、なんとなく襲いたくなったぁ、なんとなく勝てると思ったぁ。ただのなんとなくでもぉまあ色々あるわねぇ」
ふざけているような調子でかなみをダシにしているように感じるものの、本人としては真面目に問いかけていた。
「……そう、そのなんとなくです」
若芽はふてくされた態度で応える。
「なんとなく、で襲われちゃたまったものじゃないわ。それにその言い方……なんだか……」
「萌実、みたいですか?」
若芽は忌々しく、かなみの発言を遮って言う。
「あんたと萌実とはどういう関係なの?」
「妹、ですかね……」
くぐもった言い方に、かなみは不審な匂いを感じた。
本当に姉妹だったら、もっと簡単に言ってもいいはずなのに、なんだか今とっさに考えて思いついたような、そんな違和感があった。
「妹?」
「そう妹ですよ!」
そんな違和感をごまかすためか、若芽は強調して言う。
「確かに似ているけど……」
実際、かなみは萌実が倒れていると勘違いしたほどだ。
でも、よくよく見ると……
「なんですか?」
「似ているけど違う」
かなみは若芽の顔を見つつ、記憶の中の萌実の顔と重ね合わせてみて、コメントする。
一見まったく同じ顔のように見えるけど、顔の造形や髪型が少し違っている。どこがどう具体的に違っているのか言葉に困るものの、じっくり見たら少し違うということはわかる。
「そうですよ。あんなのと同じにされたら困ります」
「あんなの?」
萌実のことを悪し様に言う。
そのときだけは、本当は萌実なんじゃないかと思ってしまった。
それだけ言い方と雰囲気が酷似していた。
「……どうしてそういう言い方するの?」
「あんなのだからあんなのって言っただけですが?」
「お姉さんでしょ、悪く言うのは良くないわよ」
「お姉さん? そんなこと言いましたか?」
好き勝手な物言いに唖然とする。そういう態度こそ萌実の妹だと言われて信じる根拠になっているが。
「あんたが妹だって言ったんじゃないの」
「そうですか、そうでしたね」
まるで自分が言ったことを忘れていたかのような発言。
「そんなふざけた態度がますます萌実らしいわ」
「らしいですか。そんなつもりはないのですが」
「そんなつもりじゃなくても似てくるのが姉妹じゃないの? 私は一人っ子だからよくわからないけど」
「えぇ、かなみは妹が欲しかったのぉ?」
「母さん、話の腰を折らないで」
「母娘仲がよろしいようで」
そう言われて涼美は自慢気に微笑む。
かなみの方は皮肉を言われたようで気分が良くない。
「そうよぉ、仲良しなのよぉ。あなたはぁ、萌実ちゃんと仲良しじゃないのぉ?」
涼美は訊くと、若芽はキィと睨む。
「あんなのと仲良し? 冗談じゃありませんね……――会ったこと無いですよ」
「会ったこと無い? 姉妹なのに??」
かなみが訊くと、若芽は不機嫌顔で黙り込む。
「事情があるのよねぇ……」
「知ってるくせに」
若芽は涼美に対してぼやく。
「母さん、何を知ってるの?」
「私に訊くの~?」
「母さんが色々知っていそうだから」
かなみは真剣に訊く。
萌実にしても、この若芽にしても、全然知らない。
涼美なら大人で何でも知っていそうな気がするから訊いた。
「私の口からは言えないわねぇ」
「またそうやってごまかして!」
「かなみ……これはあるみ社長からのメッセージなんだけど」
不意にマニィが言ってくる。
「社長から?」
「この件に関しては君の判断に任せるだそうだ」
「任せる? 任せるって何を?」
「それも含めて、だよ」
「……またいい加減な」
かなみは呆れた。その上で困惑する。
判断、ってこれからどうすればいいのかわからない。
若芽の処遇にしても、いつまでもこのままここでこうしておくわけにもいかない。かといって、解放するというわけにもいかない。気絶しているところを運び込んだら不意打ちで襲いかかってきたのだ。
その理由が、なんとなく、としか答えないから質が悪い。
またなんとなくで襲いかかってくる可能性は大いにあり得る。
「どうしましょう……?」
かなみは大きくため息をつく。
社長はなんだってこんな面倒事を押し付けてくるのか。
今すぐ電話を入れて文句の一言でも言ってやりたい。いや、ちょっと怖いからやめておこう。
「母さん、どうしよう?」
とりあえず、母に訊いてみる。
「かなみに任せるわぁ」
「そう言うと思ったわ!」
なんとも無責任の母だった。
「このまま帰しちゃうぅ? それとも、また捕まえておくぅ?」
「それを今考えてるんだけど……捕まえておくのは、無しで……」
かなみは考える。
「うーん、うーん」
かなみは唸りながら考える。
突然現れた萌実の妹。突然襲ってくるような危険な少女。そんな少女の処遇を突然任された。任されたといっても、どうしたらいいのか。
「……とりあえず」
かなみは考えた末に一つ提案する。
「お姉さんにも話を聞きましょうか?」
そんなわけで、かなみ達はオフィスへやってきた。
「いってらっしゃぁい~」
普通に見送ろうとした涼美の手を無理やりとって、ついてきてもらった。
夜道を若芽と一緒に歩くのは怖すぎた。また襲ってこないとも限らないから。
「若芽、なんでここに倒れていたの?」
道中で、ごみの集積場所にやってきて、かなみは訊く。
「………………」
しかし、若芽は黙ってそっぽ向く。
そんな態度には、かなみはムッとする。
「そんな格好しているから、ごみ袋かと勘違いしたのよ」
「はあ!?」
かなみの「ごみ袋」発言にはさすがに黙っていられなかったようだ。
「突然何をおっしゃりますか!?」
「あ、本当にそう思ったことを言っただけよ。最初は気づかなかったし」
かなみは正直に答えただけなものの、若芽は苛立ちを募らせる。
「ヨロズといい、この人といい……神経を逆撫でする方ばかりですね」
「ヨロズ?」
思わぬところでその名前が出てきて、問いかける。
「あっ……」
若芽としても、もののはずみで名前を出してしまったのでバツの悪い顔をする。
「あなた、ヨロズを知ってるの?」
「………………」
若芽は何も話すまいと沈黙する。
その口は固く閉ざされているように感じる。
だから、かなみは憶測で言うことしかできなかった。
「あなた、ヨロズと仲間なの?」
萌実はネガサイドの一員だったことから、その妹がヨロズと仲間でもおかしくない。
「冗談じゃありませんよ、あんな奴と仲間だなんて……」
「あんな奴ってことはやっぱり知り合いなんじゃないの?」
「し、知り合いじゃありませんよ!」
若芽は明らかに取り乱して取り繕う。
「そう、それじゃその傷はヨロズにやられたの?」
「だからどうしてそうなるんですか!?」
若芽はムキになって否定する。
「そう……萌実もヨロズにやられたことがあったから、ひょっとしてと思って」
「萌実もヨロズにやられたことがあるのですか!?」
そこに若芽はそのことに食いつく。
「も? やっぱりあんたもヨロズに?」
「そんなことはどうだっていいじゃないですか! 萌実もヨロズにやられたんですか!?」
これまでのふてくされた態度が嘘のように、かなみへ食いつく。
「え、ええ、そうよ」
「詳しく話してくれませんか?」
「それはいいけど、お姉さんが負けた話なんて聞きたいの?」
「ええ、聞きたいですね! とっても!!」
そこまで言われたら、話してもいいかな、と、かなみは思った。
「なんていうか、そういうところは萌実にそっくりよね」
人の失敗や負けたところに興味を持つところ、とか。
「何か言いましたか?」
「ううん、なんでもないわ」
かなみは慌ててごまかす。
「もう仲良しよねぇ」
涼美はその様子を微笑ましく見守る。
萌実とヨロズが戦ったことを話し終えるとちょうどオフィスビルに辿り着く。
「また来たのか?」
トラ型のマスコット・トミィが出迎えてくる。
「うん、萌実に用があってね」
「彼女ならもう寝てるぞ」
「こんなときに呑気にもう!」
かなみは文句を漏らす。
「そういう人みたいですね。別に会いたかったわけじゃないですから」
若芽はつまらなそうに言う。
「彼女が例の、か?」
「うん、そうだね」
トミィが訊いてきたのを、マニィが答える。
それによるとトミィは若芽のことを報されていたようだ。
「マスコット同士でどんなやり取りしてるのかしら?」
「かなみもぉ、マスコット作ってみたらわかるんじゃないかしらぁ」
涼美が言う。
「私が、マスコットを、作る?」
今まで考えたこともなかった。
「そんなことできるの?」
「私も得意じゃないかぁ、あるみちゃんに聞いてみたらぁ」
「……うーん、社長も得意じゃないって言ってなかった?」
「確かにそうねぇ、でもマスコット作れる人は他にいないからぁ」
「他に心当たりないから……ちょっと怖いけど」
「大丈夫よぉ、きっと相談に乗ってくれるからぁ」
「そうね、考えてみるわ」
「それで、いつ案内してくれるんですか?」
若芽の一言で話が戻る。
「萌実はいつもの社長室で眠ってるのよね?」
「そうだ。寝る子は育つっていうけどあれは寝すぎだぞ」
トミィがぼやく。
「確かに……」
思い返すと、かなみが仕事しているときはだいたい寝ている。
一日に二十時間くらい寝ているんじゃないのだろうか。まさにナマケモノだ。
「かなみはぁあんまり寝ないからぁ成長止まっちゃったのかしらぁ?」
涼美が言う。
「そうなの!?」
「まあ、そんなこともあるだろうね」
マニィが追撃をかけるように言う。
「ね、ねえ!? 今からちゃんと寝たら背が伸びるかな?」
「あなたの背なんてどうでもいいですよ」
若芽はコメントする。
「うぅ……あんたからしてみればそうだけど……私にとっては切実なのよ……」
「君がそんなに背のことを気にしていたのは意外だよ」
マニィが言う。
「だって……社長や来葉さん、それに母さんも背が高くて素敵な大人だから……!」
「ああ、それで……」
「大丈夫よぉ、かなみもぉ素敵な大人になれるからぁ」
「素敵な大人、ですか……」
涼美の物言いに、若芽はどこか含むような発言をする。
「……なれるかわからないわよ」
かなみはどこか捨て鉢になった様子で言う。
「ほら、さっさといくわよ!」
そう言って、かなみは急かす。
「成長期の悩みなのよねぇ、ああいうのはぁ」
涼美は若芽へ言う。
「……そうですか」
若芽はぼやく。
かなみが社長室に入ると、すぐソファーへ目をやる。
「こんなときに、呑気に寝て……」
ソファーで静かに寝息を立てている萌実の姿に、かなみはイラッとする。
「萌実! 起きて!」
とりあえず揺すってみる。
これでも、かなみからしたら叩き起こしてるつもりだった。
しかし、萌実は揺すっても揺すっても起きそうになかった。
「起きなさい!!」
我慢できずに思いっきり揺する。
「――あ!」
勢い余って萌実をソファーから落としてしまう。
ゴトン!!
これはさすがにまずいと思って、一瞬目を背ける。
「……いったあ、何事よ!?」
萌実から文句の声を上げる。
「お、おはよう……」
かなみは気まずそうに、とりあえず挨拶をする。
「なんであんたがここに?」
萌実はかなみに訊く。
かなみが突き飛ばしてしまったことには気づいていないようだ。
「電話入れたでしょ?」
「電話? ああ、あのうっとおしい……」
萌実は社長室のデスクに置いてある黒電話を見る。
「それで、私の幻をみたとか?」
「幻なんかじゃないわよ」
「はあ?」
萌実はかなみの物言いを受けて、社長室に他の人間がいることに気づく。
「あんた、誰?」
萌実は入ってきたばかりの若芽に問う。
「――お初お目にかかります。萌実お姉様」
若芽は丁寧に一礼する。
恭しく、どこか悪意のこもった言い方だった。
「あんたが連れてきたの?」
萌実はそんな一礼を無視して、かなみへ問う。
「そうだけど、妹と会うのは初めてなの?」
「妹? ああ、そういうことになってるのね」
「なってる?」
妙な言い方に、かなみは違和感を覚える。
「なってるって、どういうことよ?」
「私が先に生まれたから姉、あいつが後に生まれたから妹、そういうことでしょ」
「言ってる意味がわからない……」
「私が先に生まれたから姉、」
「二回言わなくてもわかるわよ!」
「何よ、わかるならわかるって言いなさいよ」
「どうしてあんたがそういうことを言ってるのかわからないってことよ!」
「あいつが後に生まれたから妹」
「それはもういいって!」
「あ~、うるさいわね。私は眠いんだから」
萌実は耳を塞いで大げさに言う。
「眠いって、あんたずっと寝てたんでしょ?」
「睡眠時間は二十五時間必要なのよ」
「一日二十四時間よ!」
「二日で二十五時間よ」
「それでも十分長いわよ! 私の三日分より長い!!」
下手をすると四日分ある。いや五日分か。
「あれが、百地萌実?」
若芽はかなみと歓談している萌実の姿を見て、涼美に確認をとる。
「えぇ、そうよぉ百地若芽ちゃん」
「――!」
そう答えられて、若芽は硬直する。
百地若芽。その名前が誰のものなのかわからなかったかのように。
「そうよ」
その硬直を解いて、吐き出すように言う。
「私は――百地若芽です!」
若芽がそう名乗り出ることで、かなみと萌実はそちらの方へ意識を向ける。
「そう、あんたが百地若芽なのね」
「ええ、そうですよ、百地萌実!」
萌実と若芽は視線を交わして、ぶつかりあう。
「……お会いしたくありませんでしたよ、お姉様!」
「寒気が走るわね、さすがは私の妹ね」
言いあうやいなや、即座に二人は動く。
カチャ
萌実は拳銃を、若芽はライフルを、互いの顔に突きつけ合う。
「――!」
かなみは声が出せなかった。
出してしまえば、どちらかの引き金が引かれ、顔に弾丸が撃ち込まれてしまうと思ったからだ。
「………………」
「………………」
にらみ合いが続く。
どちらも微動だにしない。文字通り一歩も譲らない膠着状態が続く。
かなみと涼美もじっとせざるを得ない。
身動き一つ、物音一つでこの膠着状態が崩れてしまうかもしれないからだ。
そうなったら、この狭い社長室で大惨事が起こる。
(そういえば、社長は帰ってこないのかしら? こんなときに社長がいてくれたら……!)
かなみはあるみに想いを馳せた。
その時だった。
ジリリリリン!!
けたたましい黒電話のベルが鳴り響く。
(こんなときに誰よぉぉぉぉぉッ!!?)
かなみは心の中でかけて来た相手に文句を言う。
しかし、それが合図になって、互いに引き金を引いてしまう。
バァン!!
ベルをかき消す銃声が轟く。
まったく同時に放たれたことで一つに重なって聞こえた。
「はぁい、ストップゥ」
その直後に気の抜けた声が銃声をかき消す。
涼美が萌実と若芽の間に入る。
「また、あなたですか……!」
若芽は忌々しく言い放つ。
それは銃弾のような鋭さがあるものの、涼美には涼風程度の強さにしか感じなかった。
「そうよぉ、私よぉ」
「苛立たしい存在ね。なんで私の邪魔をするのよ?」
「兄弟ゲンカを止めるのが母の役目なのよねぇ」
「あんたは私の母親じゃないでしょうが!?」
「まあまあぁ、細かいこと無しよぉ」
「細かくない!!」
「だったらぁウチの娘になるぅ?」
「「「え??」」」
萌実と若芽、それに、かなみまで思わず声を上げる。
「ちょっと、母さん何言ってるのよ!?」
「いい考えかとぉ、思ったんだけどねぇ」
「何がいい考えよ! それだったら、二人とも私の妹になるってことじゃないの!?」
「それは冗談じゃないわね」
「同感です、吐き気がします」
萌実と若芽は心底嫌そうにそう言って、お互いに顔を見合わせる。
「今初めて気が合ったわね」
「合いましたね、寒気が走ります」
「私もよ、フ、フフフ……」
萌実はこらえきれなくなって笑い出す。
「「アハハハハハハハハハハハッ!!」」
それにつられたのか、若芽まで笑い出す。
「ついていけない……」
かなみは置いてけぼりをくらったように取り残される。
「まさかこんなことで笑わされる日がくるなんてね!」
「そうですね、そんな日が来るとは思いませんでした!」
萌実と若芽は互いに顔を見合わせて笑い合う。
これで仲直りした。と、かなみはホッと胸を撫で下ろし……かけた。
「――!」
下ろしかけた胸が、身体ごと強張る。
萌実と若芽の二人から、――揃って銃口を向けられた。
「ちょ、ちょっと、二人とも!? 何のつもり!?」
「別に……ただ同じことを考えただけよ」
「ええ、こういうことだけは気が合ったみたいです」
二人はまるで示し合わせたかのように言ってくる。
こういうところは姉妹らしい、と、かなみは思ってしまう。銃口を向けられてなければ和んでいたところなのだけど。
「こういうことって、どういうこと?」
かなみは問いかける。
「「かなみを倒すこと!!」」
二人は揃って答える。
「なんで私が巻き込まれるの!?」
「仕方ないじゃない、気が合ったんだから」
「そうですね、気が合ってしまったんですから」
「そういうわけで、かなみ」
「大人しく私に倒されてください」
「そんなことで倒されるわけにはいかないわよ!」
かなみは反発する。
「それじゃ仕方ないわね」
「ええ、そうですね」
二人がそう言ってくれたことで諦めてくれた、と、かなみはホッと胸を撫で下ろし……かけた。
「どっちが先に倒すか」
「競争になりますね」
「なんでそうなるのよ!?」
かなみは言い返す。
「ということはぁ、萌実ちゃんと若芽ちゃんで~かなみの争奪戦ねぇ」
そんなことを涼美が提案してくる。
「母さん、そんなこと言わないで!!」
かなみは孤立した気分になった。
「母親の許可は得たことだし」
「許可がなくてもやるでしょ!」
かなみは言い返す。
「先にかなみを倒した方が優れている、ということですね」
「そういうことね。さすが私の妹、察しが良いわね」
「お姉様の考えていることくらいすぐわかりますよ」
「そうか、ああ、そうなのね」
なんだかわからないうちに、萌実は納得する。
バァン!
その直後に発砲する
「うわあ!?」
「チィ、よけやがった」
萌実は舌打ちする。
「よけるわよ! 今殺る気だったでしょ!?」
「殺る気がなかったら発砲しないわよ」
「そんなこと当たり前みたいに言わないで!」
「当たり前じゃないわよ、常識よ」
「常識ではありませよ、当然よ」
「違いはないわよ! 姉妹揃って非常識ね!!」
かなみにそう言い返されて、二人はあからさまに不機嫌な顔をする。
「揃うわけがないでしょ」
「揃うわけがありません」
「返しは息ピッタリなのに……」
バァン!
そして、発砲のタイミングもピッタリだった。
「だから危ないって!?」
「危なくなかったら撃つ意味がないじゃない」
「それも避けてしまったら意味がありませんから当たってください」
「無茶言わないで! そんな言いがかりであんた達の的になるわけないでしょ!?」
「この的うるさいわね」
「黙らせるのが一番いいですね」
「母さん、なんとかして!!」
かなみは涼美へ助けを求める。
「かなみに~任されてるんだからぁ~かなみがぁなんとかするのよぉ」
「ええぇぇぇ、そんなぁぁぁッ!?」
「あぁ~、でもここじゃぁ狭いからぁ場所を変えましょぉう」
なんてことを涼美は提案してくる。
「そうね」
「そうですね」
しかも、萌実と若芽もその提案にのってしまう。
「なんで、母さんの提案にはのるのよ……?」
かなみは理不尽だと思った。
「ここで暴れて散らかしたらあるみが怒るのよ」
「そのあるみが怒ったらどうなるのですか?」
若芽が訊く。
「「めちゃくちゃ怖い」」
かなみと萌実は揃って言う。
「何故、そこであなた達の息が合うのですか?」
若芽は疑問を口にする。
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