まほカン

jukaito

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第98話 父母! 少女は家族会議に参戦する!! (Bパート)

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 かなみ達は村の広場に来ていた。
 広場には台座が設置されている。学校の校長が生徒の前で話すときに乗っているようなものだと、かなみは思った。
「あそこで発表するのよ」
 来葉は言う。
「あそこから見える範囲に父親はいたわ」
 台座が高いから相当遠くまで見える。
「父さん、私を見たら逃げますよね?」
 かなみは確認するように訊く。
 前回がそうだった。父はかなみを見つけるやいなやすぐさま逃げ出して、それを必死に追いかけて問い詰めた。
 どうして自分から逃げたのか。
 今度こそそのわけを聞き出したい。
「そうね、逃したくない?」
「それはもちろん」
 かなみのその態度に、来葉は微笑む。
 「わからない」と曖昧な返事をしてから、だんだんと気持ちが固まってきたように見えるのが嬉しい。
 そして、にわかに人が集まってくる。
 村長から大事な話がある、と事前に告知されていた、と来葉は言う。
 村の人達は何か何かとやってきている。
 かなみは、どこかどこかとそわそわしながら探している。
「心配いらないわ」
 来葉がそう言ってくれる。
「必ず見つけるわ、かなみちゃん。かなみちゃんはおとなしくしていたほうがいいわ」
 頼もしい発言にしてくれる。
「来葉さん、ありがとうございます……でも、それだと私がいない方がいいじゃないですか?」
「そこはかなみちゃんがいないとできない役割があるからよ」
「私がいないとできない役割?」
 そんな役割なんて心当たりが無かった。
「これは家族の問題だからね。私ができるのはその問題に向き合うための場を設けることだけよ」
「私は来葉さんのことを……家族だと思っています」
「……そう、ありがとう」
 そう答えた来葉は声は小さいものの嬉しそうだった。
「――いたわ」
 来葉が告げる。
 その途端に、かなみに緊張感が走る。
 自然と来葉の視線の先を追う。
 しかし、そこにいたのは人だかりばかりで、見知った顔はいない。
「……あ」
 思わず声が漏れる。
 それはある種の魔法みたいだと、かなみは思った。
 どんなに人だかりがいて、どんなに遠くにいってしまっても、そこにいるのはわかってしまう。
「――父さん!」
 父と目が合った。
 かなみは父を見て、父はかなみを見た。
 それはかなみがここに会いに来たことが父にわかってしまった、ということだ。
 そうなったときの父の行動はわかりきっている。――逃げる、だ。
「逃がさない」
 来葉は走る。
「はや!?」
 オリンピックの陸上選手、いやそれ以上の速さで来葉で父を追いかける。
 かなみも後を追う。
 父を追いかけて、人だかりをかきわける。
 それはまるで夢の中にいるようだった。
 人だかりの中で父の背中だけ妙によく目に映る。
「父さん! 父さぁぁぁぁぁぁんッ!!」
 父を呼ぶ。
 呼んでも止まらないことはわかっているのに。
 その背中が消えていくのが嫌だ。
 顔を見たい。話がしたい。私の名前を読んで欲しい。
「――!」
 父はピタリと立ち止まった。
 ちょうど人だかりを抜けたところで、来葉がその前に立ちはだかったからだ。
「逃げないでください」
 来葉は父に言い放つ。
「かなみちゃんが呼んでいますよ。父親なら応えるべきです」
「かなみ……」
 父はかなみの方を振り向く。
「父さん……!」
 嬉しさなのか。怒りなのか。
 その声にどんな感情がこもっているのか、かなみはわからなかった。
「どうして逃げたの?」
 すぐに問いかけた。
 会ったら何を話そうか、わからない。
 そう思っていたていざ会ったら、言いたいことが自然と口に出た。
「それは……」
 父は言いよどむ。
 それが言いにくいことだということはすぐにわかった。
「答えて!」
 だからこそ強く言う。
 逃げられないよう、追い詰めるように。
「……仕方がなかったんだ」
 観念して父は答える。
「それ、、前にも聞いたんだけど」
「本当に仕方がなかったんだよ、ある人を助けるために」
「ある人? それって誰のこと?」
「………………」
 父はためらいを見せつつ、意を決してかなみへ言う。
「――俺の愛する人だよ」
「え?」
 愛する人。
 そう言われて、自分かあるいは涼美のことかと真っ先に思った。
――しかし、違う。
 父が言う『愛する人』には二人のことを指していない。そう感じてしまった。
「私? 母さん?」
「違うよ」
 父はあっさりそう答えた。
 かなみの方も、ああ、やっぱり、とそう思った。



「――あの人は浮気していた」
 スズミは忌々しげに言う。
「それは許せないんだけどね」
 アルミは同意する。
「そりゃ、あの人はもてるだろうから一人や二人はいてもおかしくない、と思ってたのよ」
「思ってたのね……」
 その発言にアルミは呆れる。



「父さん、浮気してたの?」
「そう言われるとそうなんだよ」
 父はあっさりと肯定する。
「そりゃ、母さんが殺そうとするわけよ」
 あの呑気そうな母が、何故「あの人の話をしないで」と言うほどまでに怒っていたのかわかった気がする。
 聞かされた娘のかなみにしても、ガツンと殴ってやりたい気になってくる。
「違うんだよ」
「何が違うっていうのよ?」
「そうやって問い詰める感じは母さんに似てきたね」
「そう言われてもあんまり嬉しくないわよ。それでどこがどう違うの?」
「うん、実をいうと母さんが怒ってるのは……」



「私が本当に許せないのは――私に黙ってその愛人を助けるために頑張ったことよ」
 スズミは腹の底から恨みを吐き出す。
「その話、聞かされるのは何回目かしらね」
 アルミは心底から飽き飽きとしていた。
 前々からスズミにその愚痴を聞かされたことが何度もあった。
「夫婦なんだからぁ、協力して助けようとするのがぁ、当然じゃないのぉ」
「私は結婚したことないから、どのあたりが当然なのかよくわからないんだけどね」
「アルミちゃんだったらぁ、仔馬がそういうことしたらぁ、許せないんじゃないのぉ?」
「どうしてそこで仔馬がでてくるのかわからないんだけど、まあ私は浮気された時点で許さない主義よ」
「そういう場合もあるわよねぇ」



「母さんらしいといえばらしいけど」
 かなみは呆れた。
 浮気を許すけど、愛人を助けるために一人で頑張ったことは許せない、というのは自分には理解できない思考回路だった。
「彼女はネガサイドに人質にとられてたんだ」
「そこでなんでネガサイドが出てくるの!?」
「彼女の身代金があまりにも高額でね。助けるためにほうぼう手を尽くしたんだ」
「ちょっと待って! 身代金、それっていくらくらいだったのよ!?」
 かなみの問いかけに、父は苦い顔をする。
「ちょっと、口では言えない金額だよ」
「ほうぼう手を尽くしたって、それじゃ私のところにやってきた取り立ての黒服の人達は!?」
「あ~、かなみの方にもいったのか」
 父のその発言があまりにも呑気そうだったので、かなみは苛立ちを募らせる。

『この度、私結城金太はカリカリローンから二千万円もの負債を肩代わりしてもらい、感謝の言葉もありません。一日も早くお返しできるように、結城家一族郎党、生命を賭ける所存で完済にあたります。』

 たしかそんな証文を黒服から突きつけられたことがあった。
「日本の金融機関にも借りるために、色々書かされたよ」
「あの証文ってそういうことなの!? 私にも払わせようとして!?」
「かなみならなんとかできると思って」
「なんとかできるわけないでしょ! 私、中学生よ!」
「まあでも、俺と涼美の娘だし」
「血のつながりの無茶振りはやめてよ!」
「それに涼美がまさかあんなに怒るとは思わなかったし」
「無責任すぎるわよ! 母さんだって借金を返すために色々頑張ってくれてたし!」
「そこは感謝してるよ」
「感謝してるのなら、自分で借金を返しなさいよ!」
 かなみは怒りを投げ込む。
「あんたが作った借金のせいで、私達がどれだけ苦労したか……!」
「それは本当にすまないと思ってる」
「だから、すまないと思ってるんだったら――」
「俺には金がないんだ、借金は返せない」
 父は当たり前のように言う。
「そういうこと言ってるんじゃないのよ」
「――父親だったら父親の義務を果たしなさい、って言ってるのよ」
 来葉が言う。
 かなみがこれまで聞いたことがないほど、ゾッと寒気が走るほど冷たい声色で。
「大切な人を救うために作った借金。それはいいわよ。大切な人を救うためだったんだから。
――問題はその借金を涼美や、かなみちゃんに押し付けたことよ。
そのせいでかなみちゃんがどれだけ苦しい想いをしたか」
「君やあるみがいるからなんとかなると思っていたんだよ」
 父はそんな来葉に臆することなく、いつもの軽い調子で答える。
 それだけこの父はとてつもなく図太い人だと、かなみは思った。
「そうね、普通の人だったら人生ムチャクチャになってたところね」
(今でも十分ムチャクチャになってると思うんですが……)
 かなみは声に出さず、胸の奥にしまった。
「だからって、娘をほっぽり出していいことにはならないわよ」
 来葉の言葉は、あるみが言っているようにも聞こえた。
 多分、二人分の想いをぶつけているんだろう。この場にいないあるみの分まで
「あなたがネガサイドの怪人だったら、どれだけ容赦なくやれたかね」
 来葉は残念そうに言う。
 この来葉が容赦なくやるというのなら本当に容赦なく文字通り杭で串刺しにするんだろう。かなみはその光景をちょっと想像しただけで恐ろしくなってくる。
「それは人間に生まれたことを感謝するよ」
 それでも変わらない父の態度に、来葉はかなみへ視線をそらす。
「ま、それはかなみちゃんの役目ね」
「え、私!?」
 急に振られて、思わず間抜けな声を上げる。



「私はあの人を追いかけて追いかけたわ!」
 スズミはアルミへ鈴を投げつける。
「殺したいほど憎かった! 見つけたら必ず殺すって心に決めていたから!」
「その結果が、かなみちゃんが一人になった」
「――!」
 アルミの言葉は銃弾のように鋭くスズミの胸を撃ち抜いた。
「あなたはそれを反省したんじゃないの? その命をかなみちゃんのために使うって誓ったんじゃないの?」
「……それとこれとは別よ」
「いいえ、同じよ。かなみちゃんのために使うんなら、かなみちゃんの想いに反したことは絶対にしちゃいけない!」
「かなみの想い……」
 スズミの手が止まる。
 そして、思案する。
 カナミとあの人が会ったらどうなるか。
 自分みたいに殺そうとするだろうか。
「かなみだったら、私みたいにあの人を殺そうと……するわけないわよね」
 何しろ自分さえも「恨んでいない」と言って許してくれた娘なのだから、父を許さずに殺そうとするなんてありえないことは容易に想像がつく。
「怒ったりはするかもしれないわね。ああ、でも泣いちゃうかもしれないわね」
「あなたみたいに恨む、憎む? 殺そうとする?」
「ううん、きっとしないわね」
「だったら、そうしなさいよ!」
「そんなに簡単にできるわけないじゃない!」
 スズミは鈴を投げ飛ばす。
「このかんしゃく玉!」
 アルミは鈴をドライバーで突く。
 突かれた鈴は爆散する。
「だって、だって、私はかなみほど強くないし、割り切ることなんてできないもの!」
「そこをなんとかしなさいって言ってるのよ!」
「無理よ!!」
「無理じゃない!!」
 アルミとスズミは言葉とともに、それぞれの魔法をぶつけ合う。



「かなみちゃん、お父さんをどうする?」
 来葉はかなみへ問いかける。
「ど、どうするって?」
「今の話を聞いて、かなみちゃんはお父さんのことをどう思ったの?」
「………………」
 かなみは黙って、必死になんて言えばいいのか言葉を探した。
「………………ひどい人、だと思いました」
 それが正直な気持ちだった。
「ひどいな」
 父はふざけたように言う。
 父のこういうところは苦手だ。
「父さん、真面目にやって」
「これが俺の真面目モードなんだけどな」
「……そうだったわね」
 記憶の中でうっすらとある父はそんな感じだったと思う。
 ただまさかこんな場面になっても調子を崩さないのは意外だった。
 腹が立つ。
「それで真面目だっていうなら仕方ないわ。一発ガツンと殴って性根を叩き直す必要があるわね」
「かなみ、それマジで言ってるのかい?」
「大マジよ! 母さんだったらガツンどころじゃすまさないけど、私はガツンレベルにしておくわ!!」
「そりゃ、母さんはそうだけど、かなみもそういうことしなくても……」
「うんうん、かなみちゃんならそのくらいがちょうどいいわね」
 来葉は納得する。
「く!」
 父は逃げようとする。
 しかし、足が上がらなかった。
「どうして、動かないんだ……!?」
「足に杭を打ち込んだのよ」
 来葉は言う。
 父の足元を見ると、確かに銀色の杭が突き刺さって固定されている。
「大丈夫、痛みは無いから。痛みを与えるのは、かなみちゃんの役目だからね」
「来葉さん、普通に怖いです」
 かなみは冷静に言う。
 来葉の冷たい物言いはそれだけの迫力がある。
 殺気すらも感じられる。それで、かなみの怒りもある程度冷えた。
「かなみ……俺は申し訳ないと思っている」
「言い訳はいいわよ」
 何を言っても白々しく見えてしまう。
「ちゃんと借金を払ってくれるんでしょうね?」
「え……」
「父さんが作った借金なんだから父さんが返すのが筋でしょう」
「いや、それは家族みんなで返すって」
「お・と・う・さ・ん!」
「だって、俺は文無しだし」
「私だって文無しよ」
「いや、かなみだったらなんとかなるでしょ」
「ならない! そんなんだから母さんが怒るのよ!」
「母さん、やっぱり怒ってる?」
「すごくね」
 かなみは強調して言う。
「そのあたり、かなみがなんとかしてくれないかな。あとついでに借金も」
「ならないわよ!」
「そこをどうにか」
「どうにもならない!」
 かなみは一歩ずつ歩み寄る。
「いい加減観念してよ」
「観念してもいいんだけど、そうしたら俺どうなるの?」
「それは……」
 そこまで考えていなかった。
「とりあえず借金返して! もとはといえば父さんの借金でしょ!!」
「俺は文無しだって言ったじゃない!」
「働きなさいよ! 私だって働いてる!」
「それはご苦労さま! そのまま返せばいいじゃない!」
「中学生の娘に働かせて恥ずかしいと思わないの!?」
「全然! むしろなんでみんなそうしないのか不思議だね!」
「………………」
 父のあまりの言動に、かなみは絶句する。
「来葉さん……私、どうしたらいいかわかりません……」
 かなみは来葉に弱音を吐露する。



「バカアアアアアアッ!!」
 鈴の音色をかき消すほどの咆哮をスズミは上げる。
「バカはどっちよ!?」
 アルミはドライバーを突き出す。

チリリリリリリン!!!!

 鈴の音が爆音のように鳴り響く。
「「ハァハァ……」」
 アルミもスズミも息が上がってきている。
 一昼夜通じて戦い続け、お互いの想いを出し尽くしてもう限界を迎えていた。
「アルミちゃん、もう限界じゃない?」
「そっちこそ、歳じゃないの?」
「言ってくれるわね……でも、もう一回ぐらいかしらね」
「そうね、あと一回」
 アルミとスズミは向かい合う。
 どちらも想いは決まっていた。
――次で決着をつける!
 二人は同時に大地を蹴って、一足飛びで間合いまで踏み込む。
「ディストーション☆ドライバー!!」
「ゴールド・エヴァン!!」
 ドライバーと鈴がぶつかり合う。

ドゴォォォォォォォォン!!!!

 今度こそ爆音が鳴り響く。
 爆発により、土砂物が巻き上がり、一つのクレーターが出来上がってしまう。
「修繕するのは骨じゃな」
 文字通り高みから観戦していた煌黄はぼやく。
「しかし、これではどっちが勝ったかわからんな。どれどれ」
 煌黄は目を凝らしてみる。
 仙術の千里眼で土煙をものともせず、様子を見ることができる。
「……負けたわ」
 そう言ったのは、涼美だった。
「ギリギリだったわ、やっぱり強いわね」
「アルミちゃんこそ……」
 涼美は仰向けになってアルミを見上げる。
「また負けた……でも、すっきりしたわ」
「あんだけ、出すもの吐き出したらそうでしょう」
 アルミは清々しい顔で問う。
「そうね……なんというか色々消し飛んじゃったっていうか、消し飛ばされちゃったっていうか……」
 スズミは笑顔で言う。
「今ならいいわね」
 アルミはそう言って、手を差し出す。
「ほら、行きましょう」
「行くってどこに?」
「決まってるでしょ、あなたの旦那のところ」
「行っていいの?」
「今のあなたならね」
「……ありがとうね、アルミちゃん」
 スズミはアルミの手をとって、立ち上がる。
「コウちゃん、あとはよろしくね」
「仙人づかいが荒いのう」
 煌黄がぼやきながら姿を現す。
「一山の自然を元通りにするのが、どれほど苦労するのやら……これまた派手にやりおってからに」
「相手がスズミだったから仕方でしょ。こういうこと頼めるのは仙人のあなたくらいだから」
「こういうこと頼めるのは儂くらいか?」
「そうよ、あなたくらいよ」
「……ま、まあ、頼りにされて悪い気はせんのう。お主ほどの人間からじゃとなおさらじゃ」
 煌黄はコホコホとわざとらしく咳払いする。
「……扱いやすいわね」
「そうねぇ」
 アルミとスズミは笑い合う。
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