まほカン

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第97話 相談! 少女の父親は少女と画策する (Bパート)

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「ハァハァ……」
 彼方は走り終わったコースターから降りて、今にもへたり込みそうなほどヘナヘナになっていた。
「大丈夫ですか?」
「な、なんとか……!」
「こら、親父! バテてないで次行くよ!!」
 みあは遠慮なく急かしてくる。
「みあちゃん、オニ……」
「い、いいんだ。次のアトラクションは何?」
「空中ブランコ」
 みあはジェットコースターのすぐそばにあるブランコのアトラクションを指す。
「ひ、ひえ……」
 彼方はあれも苦手みたいだ。
「みあちゃん、せめてちょっと休憩してから」
「い、いや、いいんだ、かなみちゃん……さあ、いこう!」
 彼方は空元気を振り絞って、みあについていく。



 そうして、午前中にいくつものアトラクションを乗っていった。
「ハァハァハァハァハァ」
 彼方はベンチに座ってうなだれる。
「だらしないわね、ちょっと乗り回っただけじゃない」
「みあちゃん、本当に容赦ないんだから」
「これじゃ、今日中に全アトラクション回れないじゃない」
「そこまでやるつもりだったのね……」
 張り切るにも程があると思ってしまう。
「やるつもりじゃなくてやるのよ!」
「みあちゃん、楽しみにしすぎだよ」
「それじゃ午後からは向こうのエリアを回って」
「さすがに絶叫系はもうないよね?」
 彼方は苦笑する。
「そうね、あとは建物系やお化け屋敷、あとヒーローショーぐらいね」
「お、お化け屋敷はパスで」
 かなみは恐れおののく。
「ダメよ、全制覇するんだから」
「かなみちゃん、お化け屋敷はダメなの?」
 彼方が訊く。
「だ、ダメっていうか……できることなら入らなければ入らなくていいかなっていうか……」
「お化けが苦手なのよ」
 みあが断言する。
「ちょ、ちょっと、みあちゃん」
 隠しているつもりはないのだけど、苦手なことを大っぴらに言われると恥ずかしい。
「それじゃあ、お化け屋敷はみあちゃんと二人きりかな」
 彼方の物言いに、みあはムカッとする。
「かなみ、何が何でもお化け屋敷に入るから」
「え、ええぇ!?」
「大丈夫大丈夫、ここのお化け屋敷、とってもリアルで最後まで行けない人もいるらしいから」
「どこが大丈夫なの!? ムリムリムリ、ムリだから!!」
「ムリなわけないでしょ、こいつがジェットコースター乗ったんだから」
「そこで、僕を引き合いに出すんだ……」
 彼方は苦笑する。
「あ、そうだったわね……」
「いや、かなみちゃん。僕に気を遣わなくてもいいからね」
「だ、だだ、大丈夫です、きき、気なんて遣ってませんから!」
「すごく声震えてるよ」
「こいつはこれが平常だから心配いらないから」
「それはそれで心配だよ! あ、かなみちゃん、何か食べる? 支払いは僕が全部するから遠慮しなくていいよ」
「本当ですか!? さすが社長、太っ腹です!!」
「こうして、かなみを味方につけたわけか」
 みあは納得する。
「人聞きが悪いよ。みあちゃんも何か頼んだら?」
「そうね……だったらオムライスで」
「カレーライスでお願いします」
「了解」
「それじゃ、食べたらヒーローショーね」
「ヒーローショーって一時半からの?」
「そう、『株式戦隊カンパニンジャ』」
 『株式戦隊カンパニンジャ』。
 『魔法妖精フェアリープリンセス』の前の時間帯にテレビ放送している特撮番組。
 五人五色の特別スーツをまとって悪の秘密結社アクパニオンを戦う子供向け。なのだけど、株主と呼ばれる子供の意見を取り入れながら戦うのが基本スタンスで、中には手厳しい意見もあってその世知辛さが親御の視聴者にも受けていたりする。
「うちがスポンサーをやってるんだよ。あ、優待券はそういう縁でもらったんだよ」
「提供で会社名出てましたものね」
 ちなみに、かなみも『魔法妖精フェアリープリンセス』の前に放送しているということでこの番組は視聴している。わりとハマっている。
「スポンサーとしては、まあこういうので生の声を聞いておきたいんだよね」
「そう言って、本当はそういうのが大好きなくせに」
「いや、大好きだっていうんなら、みあちゃんに負けるよ。この間も五人分のフィギュアとプラモが部屋の片隅にあったし」
「なんで部屋の片隅にあるの知ってんのよ!」
「え、あ、それはね……!」
「また勝手に入ったの!?」
 みあは激怒する。
「彼方さん、そういうことするから、みあちゃんに嫌われるんですよ……」



 そんなこんなで、みあは最高潮に不機嫌なままヒーローショーのステージに足を運ぶ。
「みあちゃん、機嫌なおしてよ……僕が悪かったから……」
 彼方はいくら謝っても、みあの機嫌は一向に直ること無い。当たり前といえば当たり前だ。
「フン!」
 みあはそっぽ向く。
「みあちゃん、機嫌直してよ。ほらショーがもうすぐはじまるよ!」
 かなみも説得に向かう。
「そんなごきげんとりされても、それはそれ! これはこれよ!」
「とりあえず機嫌は治るのね」
 アニメや特撮を観ているときのみあは上機嫌なのは、かなみもよく知っている。
 本人はそれを頑なに否定しているのだけど。

パンパンパーン

 ショーの始まりを告げるファンファーレが鳴り響く。
「みなさん、こんにちはー」
 司会進行のお姉さんがステージに登場する。
「今日は株式カンパニンジャのスペシャルショーによくきてくれましたー! みんなー、カンパニンジャが好きー!?」
 テンションが高い。
「「「おおー!」」」
 ヒーローショーを観に来た幼稚園や小学生の子供達が元気よく応じる。
「おー!」
 彼方もノリよく応じる。
「お父さん……」
「恥ずかしいわね」
 みあはぼやく。
「みあちゃんはやらないの?」
「やらないわよ!」
「え、やらないの?」
 かなみが驚く。
「なんで、あんたが驚くの?」
 みあならやると、かなみは本気で思った。

パン! パン! パン!

 爆竹のような音が鳴り響く。
「キャー!」
 お姉さんが悲鳴を上げると、怪人の手下達である黒服の男がやってくる。
「このショーは我がアクパニオンが買収させてもらった!」
 悪の秘密結社アクパニオンの怪人が登場して、高らかに宣言する。
「怪人ハサミラス、第1話に出てきた怪人ね。第5話で再登場してきたやつね」
 みあが当たり前のように解説を始める。
「今日はお前たちを特別に悪の秘密結社アクパニオンの一員に引き抜いてやる! そしたらお前達は優秀な悪の怪人だ!」
「まるでネガサイドみたいね」
 かなみは呟く。
「多少なりともモデルにしたのは否定できない」
 彼方は言う。
「でも、アクパニオンの一員になったら、休日出勤、サービス残業、二四時間労働が当たり前の社畜にされちゃうのよ」
「そうなのよね、恐ろしい会社!?」
「まるで親父の会社みたい」
「そんなことしてるのは社長だけだよ!」
「してるんだ……」
 かなみは呆れる。
「どうした!? うちの社員になりたくねえのか!? だったら、無理矢理社員にしてやるぜ!!」
 黒服の男達がステージから降りて、子供達を見て回る。
 子供をさらうパフォーマンスなのだろう。
「いやあ、サービス残業はいや!?」
 かなみはわりと本気めに悲鳴を上げる。
「安心安全快適な職場環境を保証してやるぜ! さあ、一緒に悪の秘密結社の一員になろうぜ!!」
 ハサミラスは勧誘に呼びかけてくる。
「そうはさせないぞ!!」
 特殊スーツを着た五人の戦士が登場する。
「カンパニンジャー!!」
 子供が歓声を上げる。
「カンパニレッド!」「カンパニブルー!」「カンパニーホワイト!」「カンパニイエロー!」「カンパニピンク!」
「「「「「株式戦隊カンパニンジャ」」」」」

バァーン!!

 派手な音とともに五人の戦士はポーズを決める。
「……かっこいい」
 みあは思わず言う。
「みあちゃん、ああいうのがやっぱり好きなんだね」
 彼方は微笑む。
「そ、そんなんじゃないから!!」
 みあは意地でそっぽ向く。
「おのれ、カンパニンジャ! 今日も我らの邪魔をするか!」
 ハサミラスは恨み言をはく。
「悪の野望は絶対許さない! それがうちの社訓だ!!」
 カンパニレッドは宣言する。
「今日こそぶっ倒してやるぜ!」
 ハサミラスと黒服の男達はカンパニンジャ達に襲いかかる。

ビシバシ! ビシバシ!

 カンパニンジャ達が黒服の男達を次々と倒していく。

キィン!

 中央のステージでカンパニレッドとハサミラスが戦う。
「テーキけん!」
 カンパニレッドは剣を、ハサミラスは頭の金属部をぶつけ合う。

キィン! キィン! キィィィィン!!

 三度打ち合った後に二人は向かい合う。
「ロードスラッシュ!」
 そこからカンパニレッドが必殺の一撃を入れる。

ザシュ!!

 気持ちのいい斬撃音が響く。
「ギャァァァァァァァァッ!!」
 ハサミラスは悲鳴を上げる。
「お、おのれ……! またしても……まけた……!」
 ハサミラスはそう言って倒れた。
「やったー、倒した!」「かっこいい!」
 子供達は歓声を上げる。
「これでこのステージの平和を守ったぞ」
「ガハハハハ!!」
 笑い声が鳴り響く。

バァァァァァン!!

 爆音とともに、天狗の怪人が現れる。
「みあちゃん、あの怪人!?」
「ハサミラス、ヒラ怪人の上司・テンビキテング部長よ。でも、なんか変ね」
 みあは当たり前のようにその怪人の名前を言い、違和感を感じる。
「変というと?」
「あいつ怪人じゃない?」
「そりゃ怪人だよ」
 彼方がそう言うと、みあはキィと睨む。
「あんたに言ってない? かなみ、あんたは感じない?」
「え!?私は……特に何も……」
 みあは深いため息をつく。
「あんたも相当鈍かったわね」
「え、怪人って、もしかして……」
 かなみはそれである程度察した。
「お前達を倒してやるぜ!」
 テンビキテングは巨大うちわを振るう。

ビュゥゥゥゥン!!

 強い風が巻き起こる。
「うわあああッ!?」
 カンパニンジャ達はその風にふっ飛ばされる。
「あれ、本当に風が起きてるじゃない!?」
 かなみは驚く。
「魔法で風を起こしてるのよ、やっぱりあいつはネガサイドの怪人よ!」
 みあが言う。
「ネガサイドの怪人だって!? なんで、それがショーに現れたんだ!?」
 彼方は疑問を抱く。
「そんなこと直接聞けばいいのよ! 行くわよ、かなみ!」
「ええ!」
 みあとかなみはステージへ飛び込む。
「「マジカルワークス」」
「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」
「勇気と遊戯の勇士、魔法少女ミア登場!」
 二人一緒に変身して、ステージに着地する。
「な、ななな、なんだお前たちはぁぁぁぁぁぁッ!?」
 テンビキテングは驚愕する。
「なんだ、あの女の子?」「魔法少女って言ってたぞ」「魔法少女ってなーに?」
 子供達の方も驚いたと言うより、唖然としています。
「フェアリーガールそっくり」「っていうよりフェアリーガールじゃない!」「ああ、フェアリーガールか!」
 子供達は魔法少女カナミと魔法少女ミアを『魔法妖精フェアリープリンセス』のフェアリーガールズと認識しているようだ。
 カンパニオンの後番組ということで、ショーを観に来ている子供達の中にもフェアリーガールを知っている子も多いらしい。
「黄色い方はフェアリーソイルじゃないか!」「それじゃ、赤い方は?」「フェアリーガールに赤はいなかったんじゃない」「もしかして、新しいフェアリーガールじゃね?」
 子供達の声はカナミ達の耳にも届いていた。
「ミアちゃん、私達フェアリーガールだって」
「なんで嬉しそうなのよ、あんた?」
「やいやい!」
 テンビキテングは指を刺す。
「フェアリーガール? なんだって後番組の連中がやってきてるんだよ!?」
 そう問いかけられて、カナミとミアは互いに顔を見合わせる。
「なんと、フェアリーガールの子達! ステージに登場しました!
そうです! ショーのサプライズゲストなのです!」
 司会のお姉さんがそんな宣言をする。
「「「わあああああ!」」」
 子供達は大喜び。特に女の子が。
「サプライズゲストだって!?」「サプライズってなに?」「フェアリーガールだよ!」「フェアリーガールかわいい!」「カンパニンジャと一緒にやっつけろー!」
 子供達は声援を送る。
「あのアナウンスは親父の手回しね」
 ミアは察する。
「それじゃ、期待に応えるためにも怪人を倒さなくちゃね!」
 カナミは魔法弾を撃つ。

バァン!

「うぎゃあ!?」
 テンビキテングは魔法弾が直撃してのけぞる。
「そんなに強く撃ってないのに!」
「まれにみる弱い怪人ね。こりゃカナミが気づかなかったのも無理ないわ」
 みあも呆れる。
「な、なんだと!? 俺をバカにしやがって!!」
 テンビキテングは巨大うちわを振るう。

ビュゥゥゥゥン!!

 人を吹っ飛ばすほどの強風が起こる。
「すごい風だけど、これぐらいだったら平気よ!」
 しかし、魔法少女を吹っ飛ばすほどのものではなかった。
「く、くそ……! これでもくらえ! くらえぇぇぇぇッ!!」
 テンビキテングは必死の形相で巨大うちわを振るう。

ビュゥゥゥゥン!! ビュゥゥゥゥン!!

 ステージ周辺は嵐のように風が吹き荒れる。
「うわあああ、すごい風!?」「ビュンビュンふいてるううう!!」「すごいショーだな!!」
 子供達は結構はしゃいでいる。
 ショーのアトラクションだと誤解しているようだ。
「楽しんでくれてるなら何よりだ」
 子供達の反応を見て、彼方は微笑む。
「さて、こっちはこっちで動かないとね」
 そこから一転して真剣な表情で携帯を操作する。
「俺には! 俺には野望があるんだ!!」
 テンビキテングは吠える。
「このヒーローショーでヒーローを倒して、子供達を絶望させて俺様が日本を征服するっていう壮大な野望がな!!」

ビュゥゥゥゥン!!

 吹き荒れる風とともに、テンビキテングは宣言する。
「……はあ」
 呆れ返ったミアは青筋を立てて、ヨーヨーを投げつける。

ドスン!

 鈍い打突音が鳴る。
 子供達も思わず「痛い」と言ってしまいそうなほど鈍い音だ。
「あが!?」
 当然のことながらそれは痛かった。
「あまりにもくだらなすぎて、呆れたわ」
「く、くだらないだと!?」
「くだらないわ」
 カナミも同意する。
「俺の野望をくだらないとはよくいった! 手始めにお前達フェアリーガールズとカンパニンジャを倒してやる!!」
「あ~、私達フェアリーガールズだと思われてるのね」
「だからなんで嬉しそうなのよ、あんた?」
「そういうミアちゃんだって」

ビュゥゥゥゥン!!

 風が吹き荒れる。
「こうなったら一緒に戦おう!」
「え?」
 後ろからやってきたカンパニレッドがカナミへ言う。
「力合わせて怪人を倒すぞ」
 カンパニブルーが提案してくる。
「やりましょう、フェアリーガールズ!」
 さらにカンパニグリーンが鼓舞してくる。
「え、えぇ?」
 急にそんな事言われてカナミは戸惑う。
「これはショーよ」
 ミアがカナミへ耳打ちする。
「騒ぎにならないために、アドリブをきかせるのよ」
「ええ……そんなのムリよ」
「あんた、学芸会のときやったでしょ」
「あ、あれは……」
 確かに以前、学芸会で怪人がやってきて魔法少女に変身してアドリブで芝居して倒したことがある。
 あの時と似たようなシチェーションなんだから、同じことをやれというミアの物言いはわかる。実際にやれるかどうかは別として。
「ショーを盛り上げて、倒すとするわよ!」
 ミアはそう言ってヨーヨーを投げつける。

ドスン!

 ヨーヨーがテンビキテングの眉間に当たる。
「あがあッ!?」
 テンビキテングは頭を抱える。
「ロードブラスト!」
 後ろからカンパニンジャ達が銃を取り出して撃つ。

バァン! バァン! バァン!

 しかし、これはあくまでショー用の銃。本当に銃から弾が出るわけじゃない。
 カンパニンジャの役者達が銃を撃つ仕草をとるのと同時に音響が銃の効果音を響かせる。打ち合わせもなく即興で合わせているのは熟達の技といえる。
「あいててて、くそ、よくもやりやがったな!」
 そこからテンビキテングは、ようやくヨーヨーに打たれたダメージから立ち直った。
「後は任せてください!」
 カナミはそう言って、ステッキをかざす。

バァン!

 今度は本物の魔法弾を撃つ。
「あぎゃあ!?」
「こんな魔法弾でダメージを受けるなんて、なんか新鮮……」
 このところ「豆鉄砲」と言われることが多いこの魔法弾にそこまでのダメージを受けるなんて。
「新鮮味を感じてる場合じゃないわよ、ほらボロが出る前にとっとと仕留めなさい!」
 ミアが指示する。
「ええ、わかったわよ! ショーだったらこれで!」
 カナミはステッキの刃を引き抜く。
「仕込みステッキ・ピンゾロの半!」
 テンビキテングを一閃して斬り裂く。
「ギャァァァァァァァァ」
 一刀両断されたテンビキテングは断末魔をあげて消滅する。
「「「「わあああああああああッ!!?」」」」
 観客はその見事な戦いぶりに歓声を上げる。
「すごい! かっこいい!!」「剣で敵を倒した!?」「あれ、フラワリングスラッシュだよ!!」「フラワリングスラッシュはフェアリーフラワーじゃね? なんでフェアリーソイルがやってるんだよ?」「別にいいじゃん! かっこよかった!!」
 思い思いの声が、カナミ達の耳にも届く。
「あははははは、どうしよっか、ミアちゃん?」
「バカ、うかれてないでとっとと退散よ」
 ミアはあくまで冷静だった。満足気に笑みを浮かべている以外は。



「お疲れ様!」
 舞台裏に逃げ込んだかなみ達を彼方が出迎える。
「なんで、あんたがここにいるのよ!?」
 みあが文句を言う。
「さすがに観客席に逃げ込みづらそうだから、こっちに来ると思ってたんだよ」
「ドンピシャ……」
 みあはイラッとしつつも、彼方の読みが当たっていることだけは評価する。
「まさか怪人がショーに乱入してくるなんてね。しかもカンパニンジャの怪人そっくりに化けてさ、うちへの大いなる嫌がらせに感じたよ」
「そういえば、いやに手が込んでたわね……雑魚だったけど」
「うん、弱くて助かったわね」
 魔法弾もちゃんと効いて、仕込みステッキで一撃で倒せた。
 神殺砲を撃つ必要が無くて助かった。あれはこんな人が多いところで撃っていいものじゃない。
「それにしても、やけに手回しがいいと思ったらあんたがやってたのね」
 みあが彼方へ言う。
「やってたって?」
「私達のこと、フェアリーガールだって司会の人が言ってたでしょ。あれはあんたの指示でしょ」
「いや、即興でごまかすにはそれがいいかと思ってね。ついでにフェアリーガールの宣伝にもなるし」
「……抜け目ないですね、さすが社長」
 かなみは感心する。
「でも、かなみはともかくあたしの赤はフェアリーガールにはないから、ちょっと無理があったんじゃない」
「大丈夫大丈夫。ショーだけの幻のキャラ登場って都市伝説にすればいいし、いざとなったら新キャラ、アニメに先駆けてショーで先行登場ってことにするから」
「そうやって売上につなげるのか……すごいわ」
 さすがのみあもこの考えには素直に褒める。
「フフン、みあちゃんに褒められて僕も鼻高々だよ」
「まるで天狗の鼻ですね」
 かなみとみあは、さっきの怪人テンビキテングを思い出す。
「気をつけないと契約金を天引きされるかもね」
「契約金って私達の給料みたいなものじゃない! それは勘弁ですよ!」
 かなみにとって切実だった。
「あはははは、そんなことしないよ」
「それを聞いて一安心です。お父さんは部長と違って天引きなんてしませんよ」
「鯖戸部長も酷い言われようね」
 意外にもみあは鯖戸に同情する。
「さて、それじゃ引き上げましょうか。次のアトラクションにも乗りたいしね」
「まだ遊ぶつもりなのかい!?」
 みあの張り切りように、彼方も驚く。
「当たり前じゃないの。今日は全部のアトラクション制覇してやるつもりなんだから怪人なんかが現れたからってやめるわけにはいかないでしょ」
「怪人なんかって……」
 それなりの脅威のはずだったんだけど、と、かなみは思った。
「それとも疲れた? 親父も歳だからね」
「まさか! ようし、みあちゃんがそこまで言うんならとことん付き合うよ!」
「私もね!」
 かなみも元気よく応える。
「それじゃ、次はお化け屋敷にいってみよっか」
「え……!?」
 みあにそう言われると、かなみの顔から血の気が引く。
「あ、あの……みあちゃん、また今度にしましょうか?」
「今日は全部のアトラクション制覇するって言ったでしょ? 当然お化け屋敷もよ!」
「わ、私は制覇しなくても……」
「いくわよ!」
 みあはかなみの手を引っ張る。
「かなみちゃん、僕からもお願いするよ」
「そ、そんな……」
 父娘揃って頼まれたら断りにくい。
「ちょ、ちょっとだけなら……」
 カバンに取り付けられたマニィは密かに思った。
――その一言が地獄への第一歩だった、と。



「あの観覧車で最後ね」
 みあは言う。
「え、もう最後?」
 かなみは今気がついたように言う。
 それもそのはず、お化け屋敷で恐怖のあまり失神寸前になって、今まで夢遊病みたいな状態でアトラクションを回っていたのだ。
「あんた、ようやく気づいたのね」
「こっちが呼んでも全然返事してくれないからどうしようかと思ったよ」
「え、私何してたの?」
 かなみの記憶が飛んでいた。
「ゾンビ」
「ウギャー!?」
 みあがその単語を口にすると悲鳴を上げる。
「確かにあれは怖かったけど、そこまで苦手だったなんて」
 彼方は苦笑する。
「悪い事しちゃったかな」
 お化け屋敷に一緒に行って欲しいと頼んだことを
「別にいいのよ。こいついつもこんな調子だから」
「こんな調子じゃないから!」
「あ、元気出てきたじゃない。さ、乗りましょう」
「かなみちゃん、観覧車は大丈夫?」
 彼方の気遣ってくれる問いかけがありがたく思う。
「大丈夫ですよ。観覧車にホラーはありませんから!」
「わからないわよ、窓ガラスにありえないものが見えたり」
「ウギャー!?」
 みあはからかってくる。
「あはははははは!」
「みあちゃんが楽しそうで何よりだよ」
 彼方もみあの味方であった。
「観覧車にお化けが出たら空の上だから逃げ場がない……やっぱり観覧車に乗るのは」
「今更何言ってるのよ?」
「え?」
 気づいたらもう観覧車に乗る寸前のところにまで来ていた。
「ええ!? いつの間に並んでたの!?」
「あんたが夢遊病になってる間」
「私は夢遊病じゃないんだけど!」
「どうでもいいけど、もう乗るわよ」
「いやああああ!!」
「ここまで来たら覚悟決めなさい」
 みあに引っ張られて、一緒に観覧車のゴンドラに乗る。
「まあまあ、大丈夫だよ。この観覧車でお化けが出たって話は聞いたこと無いから」
 彼方が言う。
 スポンサーの社長が言っているので、説得力がある。
「え、本当ですか」
 かなみはそれである程度安心する。
「本当だよ、そんなことより外の景色を見たほうがいいよ」
 彼方に言われて、かなみは窓の方へ目をやる。
「わあ!?」
 夕焼け色に染まった遊園地の景色は絶景だった。
「みあちゃん、すごい! 見てみて!」
「言われなくても見てるわよ」
「今日乗ったジェットコースター! ブランコ、気持ちよかったね! コーヒーカップ、目を回したね!」
「あとお化け屋敷」
「ウギャー!」
 かなみはまた悲鳴を上げる。
「みあちゃん、あまりかなみちゃんをからかっちゃダメだよ」
「だって面白いんだもん」
「面白いなら仕方ないか」
「仕方なくありません!」
 しかし、今日一日でみあの態度は相当軟化したように見える。
 それが今の観覧車でのやり取りで現れている。
(……父娘っていいな)
 かなみはその様子を見て、改めて思ってしまう。



「かなみちゃん、今日はありがとう」
 観覧車を降りて、遊園地から退場して、彼方はかなみへ言った。
「お礼を言うのはこっちですよ」
「いや、二人きりじゃずっときまずいままだったよ」
「お役に立てたのならよかったです」
「はは、かなみちゃんはいい子だね。本当になんてお礼を言ったらいいか」
「い、いえ、私もすごく楽しかったのでお礼を言うのはこっちの方ですよ!」
 かなみは遠慮がちに言う。
 楽しかったのは本当のことで、お礼を言いたいのも本当のこと。それなのに……
「今日は楽しかったです」
 それだけ言うのが精一杯で、他に言葉が出てこない。
「こんなこと言うのも変だと思うけど」
 彼方は前置きして言う。
「このお礼は必ずするよ」
「だったら、またケーキ食べましょうよ」
 かなみは即座に提案する
「え、いやケーキくらいじゃ」
「みあちゃんと私と、お父さんで、また!」
「また……」
 彼方は呆気にとられる。
 しかし、すぐに納得する。
「ああ、そうだね。なんだか、これじゃ父娘みたいだね、ハハ!」
 彼方は自分とかなみの会話を省みて、そう言う。
「そ、そうでしょうか? 私、父のことはよく知らないので父娘ってよくわからなくて……」
 かなみは戸惑う。
「そうなのかい」
 彼方は顎に手を当て思案する。
「それは迂闊なことは言えないな……」
 かなみに聞こえない小声で呟く。
「どうしたんですか?」
「いや、なんでもないよ」
 遊園地から出る。
「あ!」
 そこでこちらに近づいてくる女性にかなみは気づく。
「来葉さん!」
 かなみも来葉の方へ歩み寄る。
「こんなところでどうしたんですか?」
 来葉は真剣な面持ちで答える。
「かなみちゃんに一刻も早く報せなくちゃいけないことがあってね」
「報せなくちゃいけないこと?」
「お父さんの居場所がわかったのよ」
「え……?」
 来葉から告げられた一言があまりにも唐突で、思いもよらなかったことなので、かなみは時間が凍りついたように絶句した。
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【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

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