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第89話 巨大! 少女と怪獣の戦いは映画!! (Cパート)
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ミアが目を開けた時、そこは真っ暗闇がどこまでも広がっている。
上も下もない。広大な宇宙に放り出された気分になってくる。
「あ~、あたし食べられたんだったわ……」
いきなり掴まれて、口に放り込まれた。
ということは、これが怪獣の胃の中だろうか。そのうち、胃酸で溶かされて怪獣の養分になってしまうんだろうか。
その割には妙に落ち着いていた。
なんというか、ここは怪獣の身体の中という実感があまりにも湧かないからだ。宇宙に放り出されたという方がまだ信じられるぐらい。
「あ、そっか。出口から出ればいいじゃない」
想いのほか、軽い感じで結論が出た。
「どっかに出口……出口……」
しかし、出口らしいものは見当たらない。
「おーい!!」
ミアは試しに呼びかけてみた。
どうやら、魔法糸がきれたみたいだ。
「カナミ! クルハ! アルミ!」
とりあえず手あたり次第に名前を呼んでみるけど、返事は無い。
別に助けに来てくれることなんか期待していないけど、助けに来てもいいんじゃないか。
「このさい、仙人のババアでもいいから返事しなさい!!」
『誰がババアじゃ!?』
「わあ!? 出た!?」
『まあしかし、お主の百倍以上生きておるからババアではあるか』
「どっちなのよ?」
『まあ好きに呼んでくれて構わん。今のはいわゆる様式美というやつじゃ、ホホホホ!』
仙人の煌黄の呑気すぎる物言いがするけど、姿は見えない。テレパシーで声だけ送っている状態だろう。
「面倒くさいわね」
『なにお主の今の状況よりは面倒ではないはずじゃ』
「んで、この面倒な状況を抜け出すにはどうしたらいいわけ?」
『うーん、そうじゃな……ここは一つ、お主が内側から風穴を開けて脱出するというのはどうじゃ?』
「……は? それってあれ、このバカにタフな怪獣も内側から攻撃すれば倒せる、とか、つまり一寸法師的なそういうこと?」
『一寸法師というのはよくわからんが、つまりそういうことになるじゃろうな』
「そんなバカなこと……
とはいっても、そうしないと脱出もできそうにないわね」
ミアはやれやれと言った面持ちでヨーヨーを構える。
怪獣の体内だけど、問題なく魔法は使える。むしろ、いつもより調子がいいくらいだ。
「バーニング・ウォーク」
燃えるヨーヨーを周囲に走らせて、壁を探る。
ガツン!
ヨーヨーは壁に当たって、弾かれる。
「そこね! ビッグ・ワインダー!!」
回転して勢いのついたヨーヨーを壁へブチ当てる。
ガツン!!
さっきよりも大きい音と手応えはするものの、風穴を開けるには程遠い。
「まだまだ! スネークテンペスト!!」
十本のヨーヨーを張り巡らせて、ヘビのように思いっきり伸ばす。
カンカンカンカンカンカンカンカンカンカン!!
ヨーヨーが壁に当たって跳ね返ってくる。
どのあたりが壁で、どこが脆そうかを探っているけどよくわからない。
「まあ、でも思ったより狭いわね」
宇宙くらいとまでいかないまでも最悪ヨーヨーが届かないぐらいの広さはあるかもしれない、と思っていた。
「これだったら希望くらいはあるわね」
ミアはもう一度ヨーヨーを投げ入れる。
カンカンカンカンカンカンカンカンカンカン!!
めげずにヨーヨーを投げ込む。
「ああ、もう!」
しかし、どこが脆いかまでわからない。
「あたしが消化されるまであとどのくらいよ?」
『消化? 消化とはなんじゃ?』
「ほら、胃の中にいるんだから胃酸とかで溶かされて消えるとか?」
『あ~そういうことか。それは普通の生物の話じゃろ。怪獣はそこんとこ違うぞ』
「え、違うって? まさか溶かされるこってないの?」
『まあしかし、体内で魔力に分解されて怪獣の身体の一部になってしまうことはあるぞ』
「それを溶かされるっていうんじゃないのおおおおおおッ!!?」
『そうともいうかもな』
「ったく、冗談じゃないわよ!! とっとと脱出しないといけないわね!!」
ミアはヨーヨーに魔力を注ぎ込んで巨大化させていく。
そこで違和感を覚える。
「いつもより早くできる! それに大きい!」
『調子がいいのか?』
「うーん、ここに入ってからそうね」
『それは……もしかして取り込んでおるのか?』
「取り込んでるって何を?」
『怪獣の魔力じゃ』
「……あたしが怪獣の魔力を取り込んでいるってこと。ああ、だから妙に調子がいいわけね」
『お主、理解が早いのう。若いからか』
「そりゃまあ、歳一ケタだからね。って、そんなことはどうだっていいわ。このデカブツの魔力を取り込んでるっていうんならとことん取り込んでやるわよ!」
ミアは目を凝らしてみる。
すると、真っ暗闇だった空間が満天の星空のように光り輝いてみえるようになった。
その星々はせわしなく動いている。しかし、手を伸ばせば簡単につかめそうだった。
「これが魔力の塊ってわけね」
とりあえず、ミアは一つ星を掴む。
感触は無い。しかし、力が湧いてくる。
「Gヨーヨー!!」
ミアは巨大ヨーヨーを投げつける。
ガツォォン!!
さっきまでとは違う打突音が鳴り響く。
「手応えあり!」
しかし、まだ風穴があいたとはいえない。
「もう一発!!」
ミアは周囲の星を手に取りつつ、ヨーヨーをさらに巨大化させる。
このヨーヨーがどこまで大きくできるか、試してみたい気持ちが湧いてくる。
「このままこいつの魔力全部吸い尽くしたらどうなっちゃうのかしらね?」
『一応忠告しておくが、それは止めた方がいいぞ』
「許容量を超えた魔力を取り込むと身体が壊れるってことでしょ?」
『うむ、わかっておるようじゃのう』
煌黄は感心する。
「だから限界ギリギリまで見極めてから吸ってやるわよ」
『本当にわかっておるか?』
煌黄の呆れる声が聞こえる。
しかし、ミアにとっては生きるか死ぬかの瀬戸際なのだから気にしていられない。
「てりゃあ!」
ミアは巨大ヨーヨーを投げつける。
ついでに、ヨーヨーが星を取り付けてそのチカラを取り込んでいく。
「二十!」
ミアが星を取り込んだ数だ。
ヨーヨーの大きさはそれに比例して大きくなり、自分にはチカラが満ちてくる。
「――!」
ミアは身体に違和感を覚えた。
具体的に言うと、右手を動かそうとしたら一瞬遅れて動く。
「もしかして……もう限界……?」
そうとしか考えられない。
だけど、ちょっと早すぎるのではないか。
まだ脱出のメドがたっていない。脱出できないのならこのままでは怪獣に消化される。
「ま、まだよ!!」
ミアは星をさらに取り込む。
「あああああッ!!」
視界が明滅する。
そのまま視界がぼやけて、身体がふらついている。
ただ、そんな状態になっているのに、意識ははっきりしていて自分がどうなっているのか冷静に考えることだけはできた。
身体が思う通りに動かない。まるで何かの糸に操られているように身体が勝手に動く。
(ああ、そういえばチトセに操られたときもこんな感じだったかしらね……)
そんなことを考えてしまう。
右手を振り上げようとしても上がらない。足を出して前に出ようとしても出られない。
(嫌な状況ね……! 自分の身体が自分のものじゃないなんて……!!)
ミアは心中で吐き捨てる。
口が思う通りに動かないからだ。
ガツォォォォォン!!
ミアは巨大ヨーヨーを投げ入れて壁へ打ち当てる。
さっきよりも大きな打突音が鳴り響く。
しかし、ヨーヨーを当てた手応えがまったくない。指先の感覚がもうなくなっているのだ。
(こんちくしょう!!)
声を出してくても出せない。
だんだん身体が思い通りに動かずにひとりでに勝手に動いていく。
それなのに、意識ははっきりとしている。
まるで魂が身体から離れている幽霊みたいな状態だと思ってしまう。
(あ……!)
魂が離れて自分の頭が、身体が見えた。
まるで、じゃなくて本当に幽体離脱したのだと悟った。
(ええッ!? これであたし、幽霊になって死んじゃうの!? そんな、そんなことってありえないでしょうが!!?)
ミアは手足をジタバタさせてみたけど、身体が動かないので心の中でジタバタする。
しかし、星が自分のもとへ舞い降りてくる。
(って、もういいんだけどおおおおおッ!!)
これ以上、星を取り込んだら本当に身体が壊れてしまう。
(ああああああああああああッ!!)
ミアは心の声で思いっきり叫んだ。
「――!」
次の瞬間には光が見えた。
星というより太陽のごとくすごくまぶしい光だった。
「おお!?」
空が見えて大地が見えた。
さっきまでいた無人島の光景そのものだった。でも外に出たわけじゃない。
「これ、もしかして怪獣が見てる風景?」
それにしては、カナミやミアが見えない。
何がなんだかわけがわからない。
「お!?」
次の瞬間には場面が切り替わって、一面が海になる。
しかし、自分は魂となって浮いているため、落ちる心配はない。
と、思っていたのだけど、落ちた。
何か強烈な力に吸い寄せられた。
海に落ちた途端、海流に成すがままに流された。
長い時間、もの凄い速さで流されていた。多分世界を何週もしたと思う。
流されているうちに、今の自分がどういう状況に置かれているか、だんだんわかるようになってきた。
これは怪獣がまだ怪獣として成り立つ前に辿ってきた道のりだ。
まず地球上のありとあらゆる場所に張り巡らされた魔力は、気流や海流に沿って世界中を巡っていく。
そうして何かの拍子に魔力は寄り集まって、やがて一つの生命体になることがある。
怪人や妖精はそうして誕生していく。何度も何度もその様をみていくうちに自分も早く彼等のようになりたい、とミアは自然に考えるようになる。
やがて、海底火山の噴火に巻き込まれる。
火山の噴火には膨大な魔力が放出されて、混ざり合った。
混ざり合った魔力はその膨大な量に見合った巨体を伴って誕生した。それが怪獣マグラだ。
「そう、あんたはそうやって生まれたのね」
ミアは怪獣マグラへ語り掛ける。
「ま、だからってやることは変わらないんだけどさ」
ミアは誕生したばかりの怪獣へ向けて手を伸ばす。
すると太陽のような星が輝き、辺り一面が再び宇宙のような暗闇に様変わりする
「あ~なんか、コツがわかってきたような気がする」
膨大な魔力を限界まで吸い尽くし、限界を超えたら身体の外へ流す。
「Gヨーヨー! スネークテンペスト!!」
巨大ヨーヨーをぶつける。
次に十本のヨーヨーを同時に放つ。
カンカンカンカンカンカンカンカンカンカン!!
ひたすらヨーヨーを壁に打ち付け続ける。
そうすることで、自分の限界量が徐々に拡がっていくことが実感する。
「いけ! いけ! いけぇぇぇぇぇッ!!」
ミアはあらん限りの力を込めて壁を打ち続ける。
「っていうか、カナミ! あたしはここよ! いい加減さっさと撃ち抜きなさい!!」
一方の外は、カナミとクルハがマグラに攻撃を繰り出していき、怯ませることはあっても決定打を与えられない状況になっていた。
「早く! 早く! ミアちゃんを助け出さないと!!」
神殺砲を放ち続ける。
自分一人だったら、とっくにもう魔力が尽きて戦えなくなっていただろう。
妖精の羽――リュミィがチカラを貸してくれることで、尽きた魔力はすぐに大気の魔力を吸い上げて充填される。
そのおかげで今もこうして戦えている。
「次で二十発目だね」
肩にしがみつくマニィが言う。
「いちいち数えなくていいの! ミアちゃんを助け出すまで、百だって二百だって撃ってやるわよ!!」
「その意気だよ」
『カナミ、いって!』
カナミは迫りくる火球をかわして、二十一発目の砲弾を放つ。
バァァァァァァン!!
『カナミ、聞こえておるか?』
「コウちゃん? 聞こえてるよ!」
『ミアの気配を感じぬか?』
「ミアちゃんの!? ううん、全然感じないけど!!」
『あやつ、怪獣の体内で大暴れしおってな! じゃが、どうにも外の助けも必要のようじゃ!』
「外の助け!?」
『そうじゃ、お主が助けるんじゃ!!』
「わかった! でも、どうやって!?」
『ミアの位置を感知するんじゃ! そこが怪獣の弱点でもある!』
「感知といわれても……!」
カナミは目を凝らしてみてもミアの存在を感じられない。
感じられなかったらミアを助け出すことはできない。そう考えて必死になってもダメだった。
『リューズ!!』
銀の巨大な杭がマグラの腹へと突き刺さる。
『カナミちゃん、そこよ!!』
クルハの声が聞こえる。
そこにミアがいるという目印を立ててくれたのだ。
「わかりました! ありがとうございます!!」
カナミはステッキを構える。
ブォォォォォォォォォォォン!!
マグラは火球をどんどん放ってくる。
自分の身に迫る危険を察知したのだろう。カナミに砲弾を撃たせまいと襲い掛かってくる。
「くッ!」
カナミは旋回して、これをかわしていく。
しかし、神殺砲を充填する余裕をくれない。
マグラはわかっているのだろう。もし、カナミに撃たせたらそれが致命傷になる恐れがあることを。
だからこそ、このまま押し切ろうとしている。
「あッ!」
火球を一発避けそこなって、直撃する。
火球を受けた背中が文字通り焼かれるように熱くて痛みで動きが止まりそうになる。
「があああああああッ!!」
カナミは裂帛し、痛みを必死に抑える。
「ミアちゃんが待ってる! 声が聞こえたから!!」
歯を食いしばって痛みに耐えてステッキを構える。
「ミアちゃんを絶対に助ける!!」
神殺砲を撃って、火球を返す。
バァァァァァァァン!!
砲弾と火球が衝突して、爆発が巻き起こる。
「もう一発!!」
続けざまに砲弾を放ち、腹に突き刺さる銀色の杭へと命中する。
ガォォォォォォォォォォォォン!!
マグラは痛みで絶叫する。
「今よ!」
そのスキを逃すまいと魔力をステッキへ充填する。
「早く! 早く! 早く!!」
カナミは念じるようにステッキを眺める。
急がないとマグラは立ち直って攻撃を再開する。そうなったらミアを助けられない。
「五! 四! 三!」
祈るようにカウントダウンする。
ガォォォォォォォォォォォォン!!
怪獣は咆哮し、口から火炎を放射する。
追撃どころか反撃でこちらがやられそうだった。
「二! 一! 0!!」
その最中、炎が間近にまで迫ってる最中にカウントダウンはゼロとなった。
充填した魔力を一気に解き放ち、砲弾を撃つ。
「ボーナスキャノン・アディション!!」
最大出力で撃ち放ち、炎をかき分けてマグラの腹へ命中する。
バァァァァァァァァァァァァァァン!!
銀色の杭はさらに深々と刺さり、怪獣の腹に風穴が空く。
「ミアちゃん!!」
カナミは必死に呼びかける。
『うるさいわね! 聞こえてるわよ!!』
ミアのいつもよりも力強い返事が聞こえてくる。
「ミアちゃん!!」
『助けるのが遅いのよ! もうちょっとで消化されるところだったんだから!!』
「ごめんごめん!」
『でも、その話はあとね!』
ミアはそう言って、ヨーヨーを投げつける。
かなり距離が離れているカナミの目にもわかるほどの巨大ヨーヨーでマグラの腕を潰し、その後、動き回り足、しっぽ、頭の順に潰していく。
「すごい! みあちゃんすごい!!」
明らかに今までの比ではない威力に驚嘆する。
『感心してないで、あんたもトドメ撃ち込みなさい!!』
「う、うん!!」
カナミは慌てて神殺砲を撃ち込んでいく。
バァァァァァァァン! バァァァァァァァン!!
怪獣の身体は次々と吹き飛んでいく。
ガォォォォォォォォォォォォン!!
怪獣は咆哮する。
それが最後の抵抗に出ることへの合図だとカナミ達は悟った。
ブォォォォォォォォォォォン!!
炎を空に向かって放射され、スコールのように炎が降り注ぐ。
「あつ!?」
カナミにも炎が降り掛かって、衣装が焼け焦げる。
『悪あがきするんじゃないわよ!!』
ミアの咆哮が聞こえてくる。
『Gヨーヨー!!』
巨大ヨーヨーがマグラの頭上に出現し、脳天へと落下する。
『今よ、一気にやりなさい!』
「ええ、わかったわ!!」
カナミはミアの合図を受けて、全力の砲弾を撃ち放つ。
「ボーナスキャノン・アディション!!」
バァァァァァァァァァァァァァァン!!
砲弾はマグラへ直撃する。
バタン!!
マグラはその巨体を地面へと思いっきり倒れる。
やがて、マグラの身体は崩れていき、光の粒子に分解されていく。
「ハァハァ、勝った……」
疲労が一気に押し寄せてきて、膝をつく。
「お疲れ様」
クルハがすぐ近くにきていて、ねぎらってくれる。
「ありがとうございます、クルハさんのおかげで勝てました」
「私はそんなに手伝っていないわ。二人の功労賞よ」
「それで、ミアちゃんは?」
カナミは再び立って、ミアの姿を探す。
『ちょっと、カナミ何やってんのよ!?』
「ミアちゃん? どうしたの?」
『どうしたのじゃないわよ! 早く来なさい!』
「え、何かあるの?」
『記念撮影に決まってるでしょ!』
「きねん、さつえい?」
『怪獣倒した記念よ! 早くしなさい!』
「そんなこといわれても、私もうヘトヘトで……」
『そんなこときいてない! 早くしないと今夜の晩ごはん抜きだから!』
「あ~それは困るわ……」
カナミは疲労困憊の身体を動かして、マグラが倒れた方へ向かう。
その後、カナミ、ミア、クルハの三人で怪獣を倒した記念の一枚を撮った。
恐ろしいのはミアの体力だった。
倒れた怪獣が光の粒子となって完全に消えるまでとにかく隅から隅まで写真を撮っていった。
「親父に渡したらきっと再現度の高いキグルミをつくってくれるに違いないわ」
ミアはそう楽しそうに語った。
「ミアちゃん、すごい元気よね。怪獣に食べられたのに」
「あやつは怪獣の中に入って、魔力を思いっきり取り込んだからのう」
煌黄が言う。
「取り込んだって、それって危なくないの?」
「妖精の力を存分に使ってるお主がそれを言うか」
煌黄は呆れる。
そう言われて思い出す。妖精の力は平行世界にまで危険を及ぼす恐れがある危ないものだということを。
「そうだった……でも、今回はそんなことにはなっていなかったような……」
「まあ、お主の扱い方も上手く制御できるようになってきたのではないか」
「うーん、あんまり実感がわかないけど、そうなのリュミィ?」
リュミィはうんうんと頷く。
どうやらそうらしい。
「でも、今日のミアちゃんはすごいパワフルだったわ」
「なあに、そのうち反動で倒れるわい」
「え……?」
煌黄がそう言ったように、ミアは帰りの船でバタンと倒れてそのまま眠ってしまった。
「みあちゃん、やっぱり疲れてたんだね」
「そういうかなみちゃんもね」
あるみが言う。
「社長も手伝ってくれてもよかったんじゃないですか」
「私が手伝うまでもなく倒したじゃないの」
「でも、死ぬかと思いました。みあちゃんも食べられちゃったし」
「みあちゃんはそれで怪獣の魔力をその身に取り込んだわ」
「コウちゃんもそう言ってましたけど、怪獣の魔力ってなんなんですか?」
カナミは訊く。
「それはこの星に昔からある魔力よ」
「そうきくとなんだか石油みたいですね」
「まあ原理的にはそう変わらないわ。この星に生きている生物がみんな持っている生体エネルギー、それが魔力よ。怪獣というのはそれが何かのきっかけで一箇所に固まって誕生したイレギュラーよ」
「あの……そんなイレギュラーを、私達を退治してよかったんでしょうか?」
「退治しなければ、街に出て人や動物達に被害をもたらすわ」
「あ……」
「あそこまで大きい怪獣はもう災害といっていいわ。台風や地震みたいなものよ」
台風や地震。そう言われて、あの怪獣はまさにそんな感じだったと思い返す。
そして、そんな怪獣とまともに戦ってよくまともに生き残れたものだと改めて思う。
「まあ機会あったら今度は怪獣とお友達になれるよう誠意を尽くすことね」
「今度って、またこんな仕事させる気ですか!?」
「機会あったらの話よ。コウちゃんも言ったでしょ、怪獣が誕生するのは百年に一回くらいだって」
「それじゃ今度は百年後ですか」
あまりにも遠すぎて想像もつかない。
「なあに、百年後なんてすぐじゃぞ」
煌黄は言う。
「仙人の基準で言わないでよ」
「じゃったら、お主も仙人になればよかろう」
「……冗談でしょ」
かなみはそうとしか思えなかった。
「でも、怪獣とお友達か……」
カナミの脳裏に焼き付いている怪獣のイメージとその言葉をかけ合わせて考えてみる。
あの怪獣は最初から最後までこちらに敵意を燃やしていて、文字通り潰しにかかってきていた。
「やっぱりありえないわね……」
「――そんなことないわよ」
眠っていたみあが突然そんなこと言ってくる。
「ねごと?」
みあから返事がこない。
どうやら寝言だったみたいだ。
「みあちゃん、タフだね……あんな目にあっても、友達になりたいって思ってるんだもん」
きっと夢の中では怪獣と仲良くやっているのかもしれない。
「あぁ~あたしをまた食べようとするな、こらあああああッ!!」
寝言で絶叫する。
かなみと来葉はすっ転ぶ。
「あ、あはは、仲良く、ね……」
「かなみちゃんは友達になりたいと思う?」
来葉は訊いてくる。
「……遠慮しておきます。友達に踏み潰されちゃたまったものじゃありませんから」
かなみは苦笑して答える。
上も下もない。広大な宇宙に放り出された気分になってくる。
「あ~、あたし食べられたんだったわ……」
いきなり掴まれて、口に放り込まれた。
ということは、これが怪獣の胃の中だろうか。そのうち、胃酸で溶かされて怪獣の養分になってしまうんだろうか。
その割には妙に落ち着いていた。
なんというか、ここは怪獣の身体の中という実感があまりにも湧かないからだ。宇宙に放り出されたという方がまだ信じられるぐらい。
「あ、そっか。出口から出ればいいじゃない」
想いのほか、軽い感じで結論が出た。
「どっかに出口……出口……」
しかし、出口らしいものは見当たらない。
「おーい!!」
ミアは試しに呼びかけてみた。
どうやら、魔法糸がきれたみたいだ。
「カナミ! クルハ! アルミ!」
とりあえず手あたり次第に名前を呼んでみるけど、返事は無い。
別に助けに来てくれることなんか期待していないけど、助けに来てもいいんじゃないか。
「このさい、仙人のババアでもいいから返事しなさい!!」
『誰がババアじゃ!?』
「わあ!? 出た!?」
『まあしかし、お主の百倍以上生きておるからババアではあるか』
「どっちなのよ?」
『まあ好きに呼んでくれて構わん。今のはいわゆる様式美というやつじゃ、ホホホホ!』
仙人の煌黄の呑気すぎる物言いがするけど、姿は見えない。テレパシーで声だけ送っている状態だろう。
「面倒くさいわね」
『なにお主の今の状況よりは面倒ではないはずじゃ』
「んで、この面倒な状況を抜け出すにはどうしたらいいわけ?」
『うーん、そうじゃな……ここは一つ、お主が内側から風穴を開けて脱出するというのはどうじゃ?』
「……は? それってあれ、このバカにタフな怪獣も内側から攻撃すれば倒せる、とか、つまり一寸法師的なそういうこと?」
『一寸法師というのはよくわからんが、つまりそういうことになるじゃろうな』
「そんなバカなこと……
とはいっても、そうしないと脱出もできそうにないわね」
ミアはやれやれと言った面持ちでヨーヨーを構える。
怪獣の体内だけど、問題なく魔法は使える。むしろ、いつもより調子がいいくらいだ。
「バーニング・ウォーク」
燃えるヨーヨーを周囲に走らせて、壁を探る。
ガツン!
ヨーヨーは壁に当たって、弾かれる。
「そこね! ビッグ・ワインダー!!」
回転して勢いのついたヨーヨーを壁へブチ当てる。
ガツン!!
さっきよりも大きい音と手応えはするものの、風穴を開けるには程遠い。
「まだまだ! スネークテンペスト!!」
十本のヨーヨーを張り巡らせて、ヘビのように思いっきり伸ばす。
カンカンカンカンカンカンカンカンカンカン!!
ヨーヨーが壁に当たって跳ね返ってくる。
どのあたりが壁で、どこが脆そうかを探っているけどよくわからない。
「まあ、でも思ったより狭いわね」
宇宙くらいとまでいかないまでも最悪ヨーヨーが届かないぐらいの広さはあるかもしれない、と思っていた。
「これだったら希望くらいはあるわね」
ミアはもう一度ヨーヨーを投げ入れる。
カンカンカンカンカンカンカンカンカンカン!!
めげずにヨーヨーを投げ込む。
「ああ、もう!」
しかし、どこが脆いかまでわからない。
「あたしが消化されるまであとどのくらいよ?」
『消化? 消化とはなんじゃ?』
「ほら、胃の中にいるんだから胃酸とかで溶かされて消えるとか?」
『あ~そういうことか。それは普通の生物の話じゃろ。怪獣はそこんとこ違うぞ』
「え、違うって? まさか溶かされるこってないの?」
『まあしかし、体内で魔力に分解されて怪獣の身体の一部になってしまうことはあるぞ』
「それを溶かされるっていうんじゃないのおおおおおおッ!!?」
『そうともいうかもな』
「ったく、冗談じゃないわよ!! とっとと脱出しないといけないわね!!」
ミアはヨーヨーに魔力を注ぎ込んで巨大化させていく。
そこで違和感を覚える。
「いつもより早くできる! それに大きい!」
『調子がいいのか?』
「うーん、ここに入ってからそうね」
『それは……もしかして取り込んでおるのか?』
「取り込んでるって何を?」
『怪獣の魔力じゃ』
「……あたしが怪獣の魔力を取り込んでいるってこと。ああ、だから妙に調子がいいわけね」
『お主、理解が早いのう。若いからか』
「そりゃまあ、歳一ケタだからね。って、そんなことはどうだっていいわ。このデカブツの魔力を取り込んでるっていうんならとことん取り込んでやるわよ!」
ミアは目を凝らしてみる。
すると、真っ暗闇だった空間が満天の星空のように光り輝いてみえるようになった。
その星々はせわしなく動いている。しかし、手を伸ばせば簡単につかめそうだった。
「これが魔力の塊ってわけね」
とりあえず、ミアは一つ星を掴む。
感触は無い。しかし、力が湧いてくる。
「Gヨーヨー!!」
ミアは巨大ヨーヨーを投げつける。
ガツォォン!!
さっきまでとは違う打突音が鳴り響く。
「手応えあり!」
しかし、まだ風穴があいたとはいえない。
「もう一発!!」
ミアは周囲の星を手に取りつつ、ヨーヨーをさらに巨大化させる。
このヨーヨーがどこまで大きくできるか、試してみたい気持ちが湧いてくる。
「このままこいつの魔力全部吸い尽くしたらどうなっちゃうのかしらね?」
『一応忠告しておくが、それは止めた方がいいぞ』
「許容量を超えた魔力を取り込むと身体が壊れるってことでしょ?」
『うむ、わかっておるようじゃのう』
煌黄は感心する。
「だから限界ギリギリまで見極めてから吸ってやるわよ」
『本当にわかっておるか?』
煌黄の呆れる声が聞こえる。
しかし、ミアにとっては生きるか死ぬかの瀬戸際なのだから気にしていられない。
「てりゃあ!」
ミアは巨大ヨーヨーを投げつける。
ついでに、ヨーヨーが星を取り付けてそのチカラを取り込んでいく。
「二十!」
ミアが星を取り込んだ数だ。
ヨーヨーの大きさはそれに比例して大きくなり、自分にはチカラが満ちてくる。
「――!」
ミアは身体に違和感を覚えた。
具体的に言うと、右手を動かそうとしたら一瞬遅れて動く。
「もしかして……もう限界……?」
そうとしか考えられない。
だけど、ちょっと早すぎるのではないか。
まだ脱出のメドがたっていない。脱出できないのならこのままでは怪獣に消化される。
「ま、まだよ!!」
ミアは星をさらに取り込む。
「あああああッ!!」
視界が明滅する。
そのまま視界がぼやけて、身体がふらついている。
ただ、そんな状態になっているのに、意識ははっきりしていて自分がどうなっているのか冷静に考えることだけはできた。
身体が思う通りに動かない。まるで何かの糸に操られているように身体が勝手に動く。
(ああ、そういえばチトセに操られたときもこんな感じだったかしらね……)
そんなことを考えてしまう。
右手を振り上げようとしても上がらない。足を出して前に出ようとしても出られない。
(嫌な状況ね……! 自分の身体が自分のものじゃないなんて……!!)
ミアは心中で吐き捨てる。
口が思う通りに動かないからだ。
ガツォォォォォン!!
ミアは巨大ヨーヨーを投げ入れて壁へ打ち当てる。
さっきよりも大きな打突音が鳴り響く。
しかし、ヨーヨーを当てた手応えがまったくない。指先の感覚がもうなくなっているのだ。
(こんちくしょう!!)
声を出してくても出せない。
だんだん身体が思い通りに動かずにひとりでに勝手に動いていく。
それなのに、意識ははっきりとしている。
まるで魂が身体から離れている幽霊みたいな状態だと思ってしまう。
(あ……!)
魂が離れて自分の頭が、身体が見えた。
まるで、じゃなくて本当に幽体離脱したのだと悟った。
(ええッ!? これであたし、幽霊になって死んじゃうの!? そんな、そんなことってありえないでしょうが!!?)
ミアは手足をジタバタさせてみたけど、身体が動かないので心の中でジタバタする。
しかし、星が自分のもとへ舞い降りてくる。
(って、もういいんだけどおおおおおッ!!)
これ以上、星を取り込んだら本当に身体が壊れてしまう。
(ああああああああああああッ!!)
ミアは心の声で思いっきり叫んだ。
「――!」
次の瞬間には光が見えた。
星というより太陽のごとくすごくまぶしい光だった。
「おお!?」
空が見えて大地が見えた。
さっきまでいた無人島の光景そのものだった。でも外に出たわけじゃない。
「これ、もしかして怪獣が見てる風景?」
それにしては、カナミやミアが見えない。
何がなんだかわけがわからない。
「お!?」
次の瞬間には場面が切り替わって、一面が海になる。
しかし、自分は魂となって浮いているため、落ちる心配はない。
と、思っていたのだけど、落ちた。
何か強烈な力に吸い寄せられた。
海に落ちた途端、海流に成すがままに流された。
長い時間、もの凄い速さで流されていた。多分世界を何週もしたと思う。
流されているうちに、今の自分がどういう状況に置かれているか、だんだんわかるようになってきた。
これは怪獣がまだ怪獣として成り立つ前に辿ってきた道のりだ。
まず地球上のありとあらゆる場所に張り巡らされた魔力は、気流や海流に沿って世界中を巡っていく。
そうして何かの拍子に魔力は寄り集まって、やがて一つの生命体になることがある。
怪人や妖精はそうして誕生していく。何度も何度もその様をみていくうちに自分も早く彼等のようになりたい、とミアは自然に考えるようになる。
やがて、海底火山の噴火に巻き込まれる。
火山の噴火には膨大な魔力が放出されて、混ざり合った。
混ざり合った魔力はその膨大な量に見合った巨体を伴って誕生した。それが怪獣マグラだ。
「そう、あんたはそうやって生まれたのね」
ミアは怪獣マグラへ語り掛ける。
「ま、だからってやることは変わらないんだけどさ」
ミアは誕生したばかりの怪獣へ向けて手を伸ばす。
すると太陽のような星が輝き、辺り一面が再び宇宙のような暗闇に様変わりする
「あ~なんか、コツがわかってきたような気がする」
膨大な魔力を限界まで吸い尽くし、限界を超えたら身体の外へ流す。
「Gヨーヨー! スネークテンペスト!!」
巨大ヨーヨーをぶつける。
次に十本のヨーヨーを同時に放つ。
カンカンカンカンカンカンカンカンカンカン!!
ひたすらヨーヨーを壁に打ち付け続ける。
そうすることで、自分の限界量が徐々に拡がっていくことが実感する。
「いけ! いけ! いけぇぇぇぇぇッ!!」
ミアはあらん限りの力を込めて壁を打ち続ける。
「っていうか、カナミ! あたしはここよ! いい加減さっさと撃ち抜きなさい!!」
一方の外は、カナミとクルハがマグラに攻撃を繰り出していき、怯ませることはあっても決定打を与えられない状況になっていた。
「早く! 早く! ミアちゃんを助け出さないと!!」
神殺砲を放ち続ける。
自分一人だったら、とっくにもう魔力が尽きて戦えなくなっていただろう。
妖精の羽――リュミィがチカラを貸してくれることで、尽きた魔力はすぐに大気の魔力を吸い上げて充填される。
そのおかげで今もこうして戦えている。
「次で二十発目だね」
肩にしがみつくマニィが言う。
「いちいち数えなくていいの! ミアちゃんを助け出すまで、百だって二百だって撃ってやるわよ!!」
「その意気だよ」
『カナミ、いって!』
カナミは迫りくる火球をかわして、二十一発目の砲弾を放つ。
バァァァァァァン!!
『カナミ、聞こえておるか?』
「コウちゃん? 聞こえてるよ!」
『ミアの気配を感じぬか?』
「ミアちゃんの!? ううん、全然感じないけど!!」
『あやつ、怪獣の体内で大暴れしおってな! じゃが、どうにも外の助けも必要のようじゃ!』
「外の助け!?」
『そうじゃ、お主が助けるんじゃ!!』
「わかった! でも、どうやって!?」
『ミアの位置を感知するんじゃ! そこが怪獣の弱点でもある!』
「感知といわれても……!」
カナミは目を凝らしてみてもミアの存在を感じられない。
感じられなかったらミアを助け出すことはできない。そう考えて必死になってもダメだった。
『リューズ!!』
銀の巨大な杭がマグラの腹へと突き刺さる。
『カナミちゃん、そこよ!!』
クルハの声が聞こえる。
そこにミアがいるという目印を立ててくれたのだ。
「わかりました! ありがとうございます!!」
カナミはステッキを構える。
ブォォォォォォォォォォォン!!
マグラは火球をどんどん放ってくる。
自分の身に迫る危険を察知したのだろう。カナミに砲弾を撃たせまいと襲い掛かってくる。
「くッ!」
カナミは旋回して、これをかわしていく。
しかし、神殺砲を充填する余裕をくれない。
マグラはわかっているのだろう。もし、カナミに撃たせたらそれが致命傷になる恐れがあることを。
だからこそ、このまま押し切ろうとしている。
「あッ!」
火球を一発避けそこなって、直撃する。
火球を受けた背中が文字通り焼かれるように熱くて痛みで動きが止まりそうになる。
「があああああああッ!!」
カナミは裂帛し、痛みを必死に抑える。
「ミアちゃんが待ってる! 声が聞こえたから!!」
歯を食いしばって痛みに耐えてステッキを構える。
「ミアちゃんを絶対に助ける!!」
神殺砲を撃って、火球を返す。
バァァァァァァァン!!
砲弾と火球が衝突して、爆発が巻き起こる。
「もう一発!!」
続けざまに砲弾を放ち、腹に突き刺さる銀色の杭へと命中する。
ガォォォォォォォォォォォォン!!
マグラは痛みで絶叫する。
「今よ!」
そのスキを逃すまいと魔力をステッキへ充填する。
「早く! 早く! 早く!!」
カナミは念じるようにステッキを眺める。
急がないとマグラは立ち直って攻撃を再開する。そうなったらミアを助けられない。
「五! 四! 三!」
祈るようにカウントダウンする。
ガォォォォォォォォォォォォン!!
怪獣は咆哮し、口から火炎を放射する。
追撃どころか反撃でこちらがやられそうだった。
「二! 一! 0!!」
その最中、炎が間近にまで迫ってる最中にカウントダウンはゼロとなった。
充填した魔力を一気に解き放ち、砲弾を撃つ。
「ボーナスキャノン・アディション!!」
最大出力で撃ち放ち、炎をかき分けてマグラの腹へ命中する。
バァァァァァァァァァァァァァァン!!
銀色の杭はさらに深々と刺さり、怪獣の腹に風穴が空く。
「ミアちゃん!!」
カナミは必死に呼びかける。
『うるさいわね! 聞こえてるわよ!!』
ミアのいつもよりも力強い返事が聞こえてくる。
「ミアちゃん!!」
『助けるのが遅いのよ! もうちょっとで消化されるところだったんだから!!』
「ごめんごめん!」
『でも、その話はあとね!』
ミアはそう言って、ヨーヨーを投げつける。
かなり距離が離れているカナミの目にもわかるほどの巨大ヨーヨーでマグラの腕を潰し、その後、動き回り足、しっぽ、頭の順に潰していく。
「すごい! みあちゃんすごい!!」
明らかに今までの比ではない威力に驚嘆する。
『感心してないで、あんたもトドメ撃ち込みなさい!!』
「う、うん!!」
カナミは慌てて神殺砲を撃ち込んでいく。
バァァァァァァァン! バァァァァァァァン!!
怪獣の身体は次々と吹き飛んでいく。
ガォォォォォォォォォォォォン!!
怪獣は咆哮する。
それが最後の抵抗に出ることへの合図だとカナミ達は悟った。
ブォォォォォォォォォォォン!!
炎を空に向かって放射され、スコールのように炎が降り注ぐ。
「あつ!?」
カナミにも炎が降り掛かって、衣装が焼け焦げる。
『悪あがきするんじゃないわよ!!』
ミアの咆哮が聞こえてくる。
『Gヨーヨー!!』
巨大ヨーヨーがマグラの頭上に出現し、脳天へと落下する。
『今よ、一気にやりなさい!』
「ええ、わかったわ!!」
カナミはミアの合図を受けて、全力の砲弾を撃ち放つ。
「ボーナスキャノン・アディション!!」
バァァァァァァァァァァァァァァン!!
砲弾はマグラへ直撃する。
バタン!!
マグラはその巨体を地面へと思いっきり倒れる。
やがて、マグラの身体は崩れていき、光の粒子に分解されていく。
「ハァハァ、勝った……」
疲労が一気に押し寄せてきて、膝をつく。
「お疲れ様」
クルハがすぐ近くにきていて、ねぎらってくれる。
「ありがとうございます、クルハさんのおかげで勝てました」
「私はそんなに手伝っていないわ。二人の功労賞よ」
「それで、ミアちゃんは?」
カナミは再び立って、ミアの姿を探す。
『ちょっと、カナミ何やってんのよ!?』
「ミアちゃん? どうしたの?」
『どうしたのじゃないわよ! 早く来なさい!』
「え、何かあるの?」
『記念撮影に決まってるでしょ!』
「きねん、さつえい?」
『怪獣倒した記念よ! 早くしなさい!』
「そんなこといわれても、私もうヘトヘトで……」
『そんなこときいてない! 早くしないと今夜の晩ごはん抜きだから!』
「あ~それは困るわ……」
カナミは疲労困憊の身体を動かして、マグラが倒れた方へ向かう。
その後、カナミ、ミア、クルハの三人で怪獣を倒した記念の一枚を撮った。
恐ろしいのはミアの体力だった。
倒れた怪獣が光の粒子となって完全に消えるまでとにかく隅から隅まで写真を撮っていった。
「親父に渡したらきっと再現度の高いキグルミをつくってくれるに違いないわ」
ミアはそう楽しそうに語った。
「ミアちゃん、すごい元気よね。怪獣に食べられたのに」
「あやつは怪獣の中に入って、魔力を思いっきり取り込んだからのう」
煌黄が言う。
「取り込んだって、それって危なくないの?」
「妖精の力を存分に使ってるお主がそれを言うか」
煌黄は呆れる。
そう言われて思い出す。妖精の力は平行世界にまで危険を及ぼす恐れがある危ないものだということを。
「そうだった……でも、今回はそんなことにはなっていなかったような……」
「まあ、お主の扱い方も上手く制御できるようになってきたのではないか」
「うーん、あんまり実感がわかないけど、そうなのリュミィ?」
リュミィはうんうんと頷く。
どうやらそうらしい。
「でも、今日のミアちゃんはすごいパワフルだったわ」
「なあに、そのうち反動で倒れるわい」
「え……?」
煌黄がそう言ったように、ミアは帰りの船でバタンと倒れてそのまま眠ってしまった。
「みあちゃん、やっぱり疲れてたんだね」
「そういうかなみちゃんもね」
あるみが言う。
「社長も手伝ってくれてもよかったんじゃないですか」
「私が手伝うまでもなく倒したじゃないの」
「でも、死ぬかと思いました。みあちゃんも食べられちゃったし」
「みあちゃんはそれで怪獣の魔力をその身に取り込んだわ」
「コウちゃんもそう言ってましたけど、怪獣の魔力ってなんなんですか?」
カナミは訊く。
「それはこの星に昔からある魔力よ」
「そうきくとなんだか石油みたいですね」
「まあ原理的にはそう変わらないわ。この星に生きている生物がみんな持っている生体エネルギー、それが魔力よ。怪獣というのはそれが何かのきっかけで一箇所に固まって誕生したイレギュラーよ」
「あの……そんなイレギュラーを、私達を退治してよかったんでしょうか?」
「退治しなければ、街に出て人や動物達に被害をもたらすわ」
「あ……」
「あそこまで大きい怪獣はもう災害といっていいわ。台風や地震みたいなものよ」
台風や地震。そう言われて、あの怪獣はまさにそんな感じだったと思い返す。
そして、そんな怪獣とまともに戦ってよくまともに生き残れたものだと改めて思う。
「まあ機会あったら今度は怪獣とお友達になれるよう誠意を尽くすことね」
「今度って、またこんな仕事させる気ですか!?」
「機会あったらの話よ。コウちゃんも言ったでしょ、怪獣が誕生するのは百年に一回くらいだって」
「それじゃ今度は百年後ですか」
あまりにも遠すぎて想像もつかない。
「なあに、百年後なんてすぐじゃぞ」
煌黄は言う。
「仙人の基準で言わないでよ」
「じゃったら、お主も仙人になればよかろう」
「……冗談でしょ」
かなみはそうとしか思えなかった。
「でも、怪獣とお友達か……」
カナミの脳裏に焼き付いている怪獣のイメージとその言葉をかけ合わせて考えてみる。
あの怪獣は最初から最後までこちらに敵意を燃やしていて、文字通り潰しにかかってきていた。
「やっぱりありえないわね……」
「――そんなことないわよ」
眠っていたみあが突然そんなこと言ってくる。
「ねごと?」
みあから返事がこない。
どうやら寝言だったみたいだ。
「みあちゃん、タフだね……あんな目にあっても、友達になりたいって思ってるんだもん」
きっと夢の中では怪獣と仲良くやっているのかもしれない。
「あぁ~あたしをまた食べようとするな、こらあああああッ!!」
寝言で絶叫する。
かなみと来葉はすっ転ぶ。
「あ、あはは、仲良く、ね……」
「かなみちゃんは友達になりたいと思う?」
来葉は訊いてくる。
「……遠慮しておきます。友達に踏み潰されちゃたまったものじゃありませんから」
かなみは苦笑して答える。
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