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第89話 巨大! 少女と怪獣の戦いは映画!! (Aパート)
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ドスゥゥゥゥゥゥン!!
凄まじい轟音とともに大地は揺れ動く。
山を思わせる雄大な佇まいで屹立したその姿に、人はただ恐れ戦(おのの)くことしかできない。
ドスン! ドスン!
一歩! 一歩!
その巨大な足を踏み出すごとに、アスファルトの道が踏み砕かれて土砂が舞い、ビルは揺れる。
ガオオオオオオオオン!!!
大気すらも震わせる咆哮。
それによって、人は畏怖する。
そんな絶対の存在感。神の威容さえを放つ、それは――怪獣といった。
『大怪獣ゴドラン』
突如現れた大怪獣ゴドランが大都市を暴れまわり、人は恐れながらも必死に戦い抜く、といった特撮映画。
内容は単純ながら、それゆえにゴドランの大迫力が存分に出ていて、それに立ち向かう人間達の知恵と勇気に心打たれる名作であった。とはみあの談。
「面白かった、凄かったわ!!」
映画館を出て、かなみは伸びをして気持ちよさそうに言う。
「ゴドランの迫力が凄かったですね」
紫織は震えて言う。まだ、大音響の咆哮が頭の芯にまで残っているのだろう。
「何度観てもあの大迫力はくせになるわね」
みあも満足そうだった。
ちなみに、みあの親の会社がスポンサーになっていて、試写会に呼ばれたこともあるのでこの映画を観るのは三度目だったりする。
今回の映画鑑賞はスポンサー特権で前売り券を人数分もらったので休日を利用してやってきたということだ。
「いやはや、あれは神のごとく凄まじい怪獣であったな。儂も胸が高鳴ったぞ」
煌黄は上機嫌だった。
彼女にも映画の話をしたら、興味を抱いて同行してきた。当初、仙人が映画観るのかと、みあは訝しんだけどかなり楽しんだようだ。
「こう、人間の街をところかまわず蹂躙していくところは爽快じゃったな、ホホホ」
「なんか悪の幹部っぽい言い方ね。あんた、本当に仙人?」
みあはツッコミを入れる。
「しかし、作り物とはいえ怪獣をあそこまで精巧に再現するとは人間もやりおるな」
「え、再現……?」
煌黄の言い方に違和感があった。
「再現ってどういうこと?」
「じゃから怪獣を再現した、という映画ではないのか?」
「だから、再現って……まるで怪獣が本当にいるみたいに」
「もしかして、――いるの?」
みあは神妙な顔持ちで問いかける。
「いるって何がじゃ?」
「だ・か・ら! 怪獣よ!! 怪獣が本当にいるっていうの!?」
「本当にも何も、おるぞ」
煌黄はさも当然のように言う。
「………………」
かなみ達は沈黙する。
「……え?」
「ん、なんじゃ? 怪獣がおるからこそああして映画で再現できているのではないんか?」
「いやいやいやいや!?」
かなみはツッコミを入れる。
「それじゃ、本当に怪獣はいるの!?」
みあは目を輝かせる。
「おることにはおる。儂もこの目で何度も見てきた」
煌黄は自分の目を指で触れながら楽しそうに答える。
「じゃが、この世界にはおらんみたいじゃがな」
「……え? いないの?」
みあはあからさまにがっかりしたように訊く。
「うむ。おらんな。あれは妖精と違ってそう発生するものではないからな」
「発生って……リュミィやオプスみたいに急に生まれるものなの?」
「うむ。魔力が何らかの自然現象が積み重なって大量に一ヶ所に集まった時にじゃな。妖精が百以上発生するだけの量が必要じゃ、百年に一回あるかないかぐらいな」
「ひゃ、百年に、一回……」
その頻度の少なさに、みあは絶望さえ覚える。
「ま、まあ、あの怪獣がしょっちゅう出てきたら傍迷惑どころじゃないしね」
かなみは苦笑して、みあをフォローする。
みあがそんなにがっかりするなんて珍しい。そんなに怪獣を見たかったのだろうか。
「で、でも、逆に言うと百年に一回くらいは怪獣って生まれるものなんですね」
紫織は言う。
「うむ、そうじゃな。ひょっとしたらこの世界にも怪獣が生まれることは十分有り得るぞ」
「滅多に無いことなんでしょ。百年経っておばあちゃんになってから生まれても遅いでしょ」
みあは諦め気味に言う。
「みあちゃん、そんなに怪獣が好きだったのね?」
「あ、いや、別にそんなに好きってわけじゃ!」
みあは我に返ったように否定する。
「まあ……でも、本当にいるんだったら一目ぐらい見てみたいわね」
みあは珍しく素直にそう言った。
「今度の仕事は無人島に生まれた怪獣の退治よ」
翌日、オフィスであるみが会議を開いて唐突に言い放ってきた。
「……は?」
かなみ、翠華、みあ、紫織の四人はそんなことを言われて理解が追いつかなかった。
「無人島に、生まれた?」
「怪獣の退治、ですか?」
かなみと紫織は互いに顔を見合わせ、昨日観た怪獣映画を思い出す。
「これがその怪獣の写真よ」
あるみはそう言って、ホワイトボードに写真を貼りだす。
その写真には確かに怪獣と呼ぶに相応しい巨大なやつが映っていた。
「でかい……」
山と並んで映っているだけにその巨大さが際立っている。
「これ、遠近法とかじゃないの?」
「残念ながらそこまで近づける度胸のあるカメラマンはいなかったわ」
「私も命が惜しいですからね」
パシャが言う。
「あんた、いつからいたの!?」
かなみ達は驚く。
本当にいつの間に入ってきて、何食わぬ顔で会議に参加していた。
「潜入取材です。そちらの方々は気づいてたみたいですが」
パシャはあるみや千歳、みあを指して言う。
「……私、気づかなかったです」
「私も」
そう言ったのは、紫織と翠華だった。かなみはなんとなく安心した。
「でも、なんであんたがいるのよ?」
「ですから潜入取材です。かなみさんについていればスクープがあると思いましてね。いやしかし、いきなりとんでもないネタがでましたね!」
はしゃでいるパシャ。まるで子供みたいで、悪の怪人だということを忘れそうになる。
「っていうか、潜入取材って勝手に写真撮って、勝手に記事にしようとしてたの!?」
「ええ、そうですが」
パシャは悪びれもせず答える。
「そうですがって……それじゃ私のプライバシーは!?」
「悪の秘密結社がそんなの守るわけないでしょ」
みあはさも常識のように言う。
「ですね」
パシャは同意する。
「みあちゃん、魔法少女より悪の秘密結社の方が向いてるんじゃない?」
「なんですって!」
「そっちが先に言ったんじゃない」
「あんたの方が借金持ちでよっぽど悪の怪人じゃない!」
「借金は関係無いでしょ」
かなみとみあは言い争う。
「いつものことなんですか?」
「ええ、賑やかでしょ」
パシャが訊き、千歳が楽しそうに答える。
「はい。それじゃこの件は、かなみちゃんとみあちゃんに任せようかしらね」
「「ええ!?」」
不意にあるみは提案してくる。
「何言ってるんですか!? そもそもこの件ってなんですか!?」
「できれば退治」
「できません!」
かなみは即座に否定する。
「だって、こんなのが都会に出てきたら大変でしょ」
「そりゃ、そうですけど……それだったら社長がなんとかしてくださいよ!」
「社長だったら、怪獣の一匹や二匹ぐらい倒せるわよね?」
「そうです! 社長の方が適任です! なんでしたら社長の方が怪獣らしいです!」
千歳の物言いに、かなみは同調する。
「……あ」
さすがに言いすぎたことに、かなみは気がつく。
「かなみちゃん、私のこと怪獣だと思ってたのね」
あるみはニヤリと笑う。
(あ、これ、謝っても許してくれないパターン)
かなみは直感で悟る。
「まあ、かなみちゃん達に任せるのは冗談半分のつもりだったんだけどね」
「本気半分だったってことですか!?」
かなみはツッコミを入れる。
本気半分で命を賭ける無茶振りとしては割りに合わなさすぎる。
「なんといっても百メートルクラスの怪獣だからね。それなりに報酬も約束されてるけど、荷が重い戦いになるわよ」
「ひゃ、百!? 百センチの間違いじゃなくて、ですか!?」
かなみ達はそのスケールに震え上がる。
「それだったら妖精ね。怪獣とは言えないわ」
「そういう問題じゃなくて百メートルって大きすぎるにもほどがありますよ! 高層ビル並じゃないですか!?」
「まあ、それが怪獣だしね」
「そうじゃなくて! そんな怪獣をどうしろっていうんですか!? 退治って無理ですよ!!」
「無理かどうかやってから言いましょ。それじゃ、説明するわよ」
「あうう……聞く耳もってもらえない……」
諦めの想いが湧いてくる。
正直、怪獣よりあるみの方が敵に回したとき怖いんじゃないか。
「怪獣が出現したのは、太平洋沖の無人島よ」
「なんていうか、定番ね」
怪獣映画に詳しいみあが言う。
「無人島だから人にはまだ被害が出てないってことですね?」
かなみは言う。
「そういうことよ。それに無人島なら人への被害を考えずに思いっきり戦えるわ」
「かなみは損害賠償のことを考えなくてもいいわけね」
みあの物言いに、かなみはムッとする。
「そうなると、たっぷりボーナスが貰えますね。いくらなんですか?」
かなみは前向きに訊く。
「ざっとこれだけね」
あるみは四本の指を立てて言う。
「四百万!? 怪獣退治ってそんなにボーナスが貰えるんですか!?」
「桁が一つ違うわね」
「四十万……ま、まあそのくらいですよね、ちょっと少ない気もしますが」
「いいえ、四千万よ」
「四千万!?」
かなみはその金額に驚愕する。
「怪獣退治ってお金になるんですね」
「都会に出てきて、建物や人に被害を出ることを考えたら安いものでしょ。って、仔馬が交渉してくれたわ」
「ちょっとあくどいですね……」
かなみはそう言う。
「でも、それぐらいボーナスがあるんなら怪獣と戦ってもいいかもしれませんね」
「げんきんね……」
みあは呆れる。
「そういうことなら、やっぱりかなみちゃんとみあちゃんに任せましょうか」
「あ……やっぱり今のは冗談半分だったということで!」
「あんたも本気半分だったわけね」
みあは呆れる。
一千万単位のボーナスは、どうにも強烈な誘惑であるようだ。
怪人のいる太平洋沖の無人島には小型船で向かうことになった。
船の運転はあるみが行う。小型船舶免許は一応持っているから、と同行してくれる。本当にそれだけなのか、一緒に戦ってくれないのかと疑問を口にしたけど「どうしようもなくなったら」と返された。
かなみは今、百メートルもある怪獣と戦わなければならない憂鬱と巨額のボーナスの魅力の板挟みになっている。
「怪獣、大きくて強いのよね……」
かなみは海の向こうにあるだろう無人島へ想いを馳せる。
「そりゃ怪獣だものね」
みあはどこか楽し気だった。
本物の怪獣と会えるということで、わくわくしているみたいだ。
「まあ、かなみならなんとかするじゃろう」
煌黄は呑気そうに言う。
「なんとかって……」
「大丈夫よ、私もついてるから」
船に同乗している来葉が言う。
「来葉さん……来葉さんがいてくれて心強いです」
今回は来葉も同行してくれている。
来葉の未来視が怪獣との戦いで大いに役に立つから、とのこと。
そんなわけで、今舩に乗っているのは、あるみ、かなみ、みあ、紫織、来葉、煌黄、パシャ。
「そういってくれるとついてきた甲斐があったわ」
そう言って、来葉の黒髪は風にたなびいた。
沖に出て二時間ほどで件の無人島に着いた。
「とうとう怪獣を見れるのね」
みあはうきうき気分で答える。
「みあちゃん、楽しそうね」
かなみはとてもそんな気分になれないから羨ましいと思った。
「怪獣は大きくてかっこいいからね!」
「その大きくてかっこいい怪獣と戦うことになるのよ」
「フフン、望むところよ!」
みあは鼻を鳴らす。
「来葉さん、大丈夫なんでしょうか?」
「あるみから今回の未来がどうなるか口止めされてるの。ごめんなさい」
「社長……」
かなみは恨めしそうにあるみを見つめる。
「私も未来のことを教えるのはあまり良くないと思ってるのよ」
「どうしてですか?」
「確定していない未来の情報に右往左往されて悪い結果に転ぶことが怖くてね」
「悪い結果が視えたんですか?」
かなみは不安そうに訊くので、来葉は苦笑する。
「そうとは限らないけどね。たとえ悪い未来が視えたとしてもかなみちゃんなら何とかできるって信じてるから」
「そう言ってもらえると心強いですけど……」
「ま、気負わずに頑張りなさい」
あるみがかなみの肩を叩く。
「ボーナスがかかってるんだから思いっきりぶちかましなさい。そうすればなんとかなるわよ」
「社長……」
「本当にいざとなったら私が骨を拾ってあげるから」
「……それ、私が骨になる前でお願いしますよ」
「フフ、それだけの口がきければ結構よ」
あるみは満足そうに笑む。
「あるみは凄いわね……」
来葉はため息をつく。
その怪獣というのは、島の中心にいてかなみ達は姿を確認する為に小高い丘に登る。
「あるみ、まだなの?」
登っている最中にみあは何度も怪獣がまだ見えないのかと訊く。
「もうすぐよ」
「百メートル……ああ、きっと山のように大きいやつなのよね」
「おお!」
みあは感嘆の声を上げる。
その先にそれはいた。
山というより丘のようで、パッと見は生き物には見えない。
「寝ているわね」
あるみは言う。
キャキャとリュミィは喜びの声を上げる。
「妖精からしてみれば兄弟に会えたみたいで嬉しいのでしょうね」
あるみはそう解釈する。
「随分と大きい弟ね……」
かなみがそう言うと、リュミィは頷く。
「あれで寝ているのだとしたら、立ったらどのくらいデカくなるのかしらね」
みあは言う。
「できればそのまま寝ていて欲しいけど」
かなみは願望を口にする。
「社長、あれを倒すにはどうしたらいいんですか?」
「会議や船で説明したでしょ。魔法で一定のダメージを与えれば怪獣は身体の維持をできなくなって崩壊する」
「うむ、怪獣には人間のように急所や心臓のような内臓といったものはないからな」
煌黄が補足する。
「RPGでHPをゼロにするみたいなものね。そのHPはケタ違いに高そうだけど」
みあは意外にも冷静になって言う。
「問題は私達のHPが先にゼロにならないか、なんだけど」
「そうならないために頑張りましょう」
「みあちゃん、切り替えが早いわね」
「あんたが遅いだけよ」
みあはあっさりと言う。
ゴォン!
途端に花火のような轟音が鳴り、大地が揺れる。
「何!?」
「怪獣が起きちゃったわけ?」
みあがそう言うと、ずっと寝ていればよかったのにとかなみは心中をぼやく。
「起きたんですか!?」
「というより、私達の気配を察知して防衛体制に入ったのかもしれないわね」
「敵意に敏感なのじゃな。人里に出たらと思うとゾッとするわい」
あるみの推測に煌黄は言う。
「そうならないためにこの島で倒しておかなくちゃならないわね、かなみちゃん」
「そこで私に振らないでください!」
かなみは思わずツッコミを入れる。
ドスン!!
そうこうしているうちに、怪獣は動き出す。
「お、大きい!?」
かなみは丘にも登っているにも関わらず、見上げるだけの巨大さを誇る怪獣に圧倒される。
怪獣は黒くて大きく、二つの足でどっしりと大地を踏みしめている。
「あ、そうだ!」
あるみが言う。
「どうしたんですか?」
「ただ怪獣、怪獣って言うんじゃ呼びにくいからマグラにしましょう」
「呼び方なんてどうだっていいでしょ!?」
「マグラ、マグラか。」
意外にも煌黄はあるみの命名に賛成した。
ドスン! ドスン!
怪獣マグラが足を一歩ずつ踏み出すたびに大地が揺れ、身体が浮かびそうで怖い。
「っていうか、どこ向かってるの!?」
「海なんじゃないかしら」
あるみは答える。
「ひょっとしてこのまま日本に流れ着いちゃったりしない?」
みあは言う。
「大いにあり得るわね」
来葉が答える。
未来視でそういう未来を視ているかもしれないので説得力がある。
「こんなの都会に出たら大変じゃないんですか!?」
「そうね、映画みたいになっちゃうんじゃない」
あるみは冷静に言う。
「映画は映画だからいいんですよ! 現実に起こったらダメですよ! 怪獣が大暴れしたらどれだけの人が犠牲になると思ってるんですか!?」
「――そうならないために私達がいるんじゃない」
「――!」
あるみは一転して真面目な目つきで射貫くように、かなみへ言う。
「言ったでしょ、都会に出てきて、建物や人に被害を出ることを考えたら安いものだって。だから、それだけのボーナスがもらえるのよ」
「……ボーナス」
「やる気、出たでしょ!」
「はい! 絶対にボーナスをゲットしてやるわ!! 四千万!!」
「その意気よ」
あるみは満足そうに笑う。
「作戦はみあちゃんに任せるわ。怪獣好きなら怪獣の倒し方も良く知ってるでしょ」
あるみはみあへ指示する。
「滅茶苦茶な理屈だけど、まあそうね」
みあは考える。
ドスン! ドスン!
怪獣の足音が鳴り響く。
「「「マジカルワークス!」」」
黄、赤、黒の光が輝く。
「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」
「勇気と遊戯の勇士、魔法少女ミア登場!」
「未来へ導く光の御使い魔法少女クルハ招来!」
カナミ、ミア、クルハの三人は口上を言って、無人島の大地に降り立つ。
ドスン! ドスン!
それを察知したのか、怪獣はカナミ達の方へ向かってくる。
「敵意に対して敏感なのね」
あるみは感心する。
「警戒心が強い怪獣のようじゃな。人間が奴をみた時、恐怖を抱くであろうがその恐怖が敵意に変わった時、さぞかし凄惨な光景になるじゃろうな」
煌黄はとうとうと語る。
「想像もしたくないわ」
カナミはため息をつく。
「とにかく分散しましょう」
ミアが指示を飛ばす。
「あたしは右から、クルハは左から仕掛けるわ」
「ミアちゃん、私は?」
「カナミは――正面よ」
「え?」
カナミはキョトンとする。
「ええ、その指示に従うわ」
クルハはそう言って、移動を開始する。
「ちょっと、なんで私が正面に!?」
「……あんたが頼りだからよ」
みあは憎たらし気な顔をして答える。
「頼り?」
「ええ、そうよ。多分、あいつにはあたしやクルハじゃ決定打を与えることはできないわ。あんたのバ火力に賭けるのが一番確実なのよ!」
「で、でも、だから私が正面につくのは……!」
「あんたしかまともに正面に立てないと思ったからよ」
「――!」
「それじゃ、頼んだわよ」
ミアも移動を開始する。
「あやつなりにちゃんと作戦立てておるということじゃ」
煌黄が言う。
「そんなこと言われなくてもわかってるわよ」
そう言って、カナミも覚悟を決める。
凄まじい轟音とともに大地は揺れ動く。
山を思わせる雄大な佇まいで屹立したその姿に、人はただ恐れ戦(おのの)くことしかできない。
ドスン! ドスン!
一歩! 一歩!
その巨大な足を踏み出すごとに、アスファルトの道が踏み砕かれて土砂が舞い、ビルは揺れる。
ガオオオオオオオオン!!!
大気すらも震わせる咆哮。
それによって、人は畏怖する。
そんな絶対の存在感。神の威容さえを放つ、それは――怪獣といった。
『大怪獣ゴドラン』
突如現れた大怪獣ゴドランが大都市を暴れまわり、人は恐れながらも必死に戦い抜く、といった特撮映画。
内容は単純ながら、それゆえにゴドランの大迫力が存分に出ていて、それに立ち向かう人間達の知恵と勇気に心打たれる名作であった。とはみあの談。
「面白かった、凄かったわ!!」
映画館を出て、かなみは伸びをして気持ちよさそうに言う。
「ゴドランの迫力が凄かったですね」
紫織は震えて言う。まだ、大音響の咆哮が頭の芯にまで残っているのだろう。
「何度観てもあの大迫力はくせになるわね」
みあも満足そうだった。
ちなみに、みあの親の会社がスポンサーになっていて、試写会に呼ばれたこともあるのでこの映画を観るのは三度目だったりする。
今回の映画鑑賞はスポンサー特権で前売り券を人数分もらったので休日を利用してやってきたということだ。
「いやはや、あれは神のごとく凄まじい怪獣であったな。儂も胸が高鳴ったぞ」
煌黄は上機嫌だった。
彼女にも映画の話をしたら、興味を抱いて同行してきた。当初、仙人が映画観るのかと、みあは訝しんだけどかなり楽しんだようだ。
「こう、人間の街をところかまわず蹂躙していくところは爽快じゃったな、ホホホ」
「なんか悪の幹部っぽい言い方ね。あんた、本当に仙人?」
みあはツッコミを入れる。
「しかし、作り物とはいえ怪獣をあそこまで精巧に再現するとは人間もやりおるな」
「え、再現……?」
煌黄の言い方に違和感があった。
「再現ってどういうこと?」
「じゃから怪獣を再現した、という映画ではないのか?」
「だから、再現って……まるで怪獣が本当にいるみたいに」
「もしかして、――いるの?」
みあは神妙な顔持ちで問いかける。
「いるって何がじゃ?」
「だ・か・ら! 怪獣よ!! 怪獣が本当にいるっていうの!?」
「本当にも何も、おるぞ」
煌黄はさも当然のように言う。
「………………」
かなみ達は沈黙する。
「……え?」
「ん、なんじゃ? 怪獣がおるからこそああして映画で再現できているのではないんか?」
「いやいやいやいや!?」
かなみはツッコミを入れる。
「それじゃ、本当に怪獣はいるの!?」
みあは目を輝かせる。
「おることにはおる。儂もこの目で何度も見てきた」
煌黄は自分の目を指で触れながら楽しそうに答える。
「じゃが、この世界にはおらんみたいじゃがな」
「……え? いないの?」
みあはあからさまにがっかりしたように訊く。
「うむ。おらんな。あれは妖精と違ってそう発生するものではないからな」
「発生って……リュミィやオプスみたいに急に生まれるものなの?」
「うむ。魔力が何らかの自然現象が積み重なって大量に一ヶ所に集まった時にじゃな。妖精が百以上発生するだけの量が必要じゃ、百年に一回あるかないかぐらいな」
「ひゃ、百年に、一回……」
その頻度の少なさに、みあは絶望さえ覚える。
「ま、まあ、あの怪獣がしょっちゅう出てきたら傍迷惑どころじゃないしね」
かなみは苦笑して、みあをフォローする。
みあがそんなにがっかりするなんて珍しい。そんなに怪獣を見たかったのだろうか。
「で、でも、逆に言うと百年に一回くらいは怪獣って生まれるものなんですね」
紫織は言う。
「うむ、そうじゃな。ひょっとしたらこの世界にも怪獣が生まれることは十分有り得るぞ」
「滅多に無いことなんでしょ。百年経っておばあちゃんになってから生まれても遅いでしょ」
みあは諦め気味に言う。
「みあちゃん、そんなに怪獣が好きだったのね?」
「あ、いや、別にそんなに好きってわけじゃ!」
みあは我に返ったように否定する。
「まあ……でも、本当にいるんだったら一目ぐらい見てみたいわね」
みあは珍しく素直にそう言った。
「今度の仕事は無人島に生まれた怪獣の退治よ」
翌日、オフィスであるみが会議を開いて唐突に言い放ってきた。
「……は?」
かなみ、翠華、みあ、紫織の四人はそんなことを言われて理解が追いつかなかった。
「無人島に、生まれた?」
「怪獣の退治、ですか?」
かなみと紫織は互いに顔を見合わせ、昨日観た怪獣映画を思い出す。
「これがその怪獣の写真よ」
あるみはそう言って、ホワイトボードに写真を貼りだす。
その写真には確かに怪獣と呼ぶに相応しい巨大なやつが映っていた。
「でかい……」
山と並んで映っているだけにその巨大さが際立っている。
「これ、遠近法とかじゃないの?」
「残念ながらそこまで近づける度胸のあるカメラマンはいなかったわ」
「私も命が惜しいですからね」
パシャが言う。
「あんた、いつからいたの!?」
かなみ達は驚く。
本当にいつの間に入ってきて、何食わぬ顔で会議に参加していた。
「潜入取材です。そちらの方々は気づいてたみたいですが」
パシャはあるみや千歳、みあを指して言う。
「……私、気づかなかったです」
「私も」
そう言ったのは、紫織と翠華だった。かなみはなんとなく安心した。
「でも、なんであんたがいるのよ?」
「ですから潜入取材です。かなみさんについていればスクープがあると思いましてね。いやしかし、いきなりとんでもないネタがでましたね!」
はしゃでいるパシャ。まるで子供みたいで、悪の怪人だということを忘れそうになる。
「っていうか、潜入取材って勝手に写真撮って、勝手に記事にしようとしてたの!?」
「ええ、そうですが」
パシャは悪びれもせず答える。
「そうですがって……それじゃ私のプライバシーは!?」
「悪の秘密結社がそんなの守るわけないでしょ」
みあはさも常識のように言う。
「ですね」
パシャは同意する。
「みあちゃん、魔法少女より悪の秘密結社の方が向いてるんじゃない?」
「なんですって!」
「そっちが先に言ったんじゃない」
「あんたの方が借金持ちでよっぽど悪の怪人じゃない!」
「借金は関係無いでしょ」
かなみとみあは言い争う。
「いつものことなんですか?」
「ええ、賑やかでしょ」
パシャが訊き、千歳が楽しそうに答える。
「はい。それじゃこの件は、かなみちゃんとみあちゃんに任せようかしらね」
「「ええ!?」」
不意にあるみは提案してくる。
「何言ってるんですか!? そもそもこの件ってなんですか!?」
「できれば退治」
「できません!」
かなみは即座に否定する。
「だって、こんなのが都会に出てきたら大変でしょ」
「そりゃ、そうですけど……それだったら社長がなんとかしてくださいよ!」
「社長だったら、怪獣の一匹や二匹ぐらい倒せるわよね?」
「そうです! 社長の方が適任です! なんでしたら社長の方が怪獣らしいです!」
千歳の物言いに、かなみは同調する。
「……あ」
さすがに言いすぎたことに、かなみは気がつく。
「かなみちゃん、私のこと怪獣だと思ってたのね」
あるみはニヤリと笑う。
(あ、これ、謝っても許してくれないパターン)
かなみは直感で悟る。
「まあ、かなみちゃん達に任せるのは冗談半分のつもりだったんだけどね」
「本気半分だったってことですか!?」
かなみはツッコミを入れる。
本気半分で命を賭ける無茶振りとしては割りに合わなさすぎる。
「なんといっても百メートルクラスの怪獣だからね。それなりに報酬も約束されてるけど、荷が重い戦いになるわよ」
「ひゃ、百!? 百センチの間違いじゃなくて、ですか!?」
かなみ達はそのスケールに震え上がる。
「それだったら妖精ね。怪獣とは言えないわ」
「そういう問題じゃなくて百メートルって大きすぎるにもほどがありますよ! 高層ビル並じゃないですか!?」
「まあ、それが怪獣だしね」
「そうじゃなくて! そんな怪獣をどうしろっていうんですか!? 退治って無理ですよ!!」
「無理かどうかやってから言いましょ。それじゃ、説明するわよ」
「あうう……聞く耳もってもらえない……」
諦めの想いが湧いてくる。
正直、怪獣よりあるみの方が敵に回したとき怖いんじゃないか。
「怪獣が出現したのは、太平洋沖の無人島よ」
「なんていうか、定番ね」
怪獣映画に詳しいみあが言う。
「無人島だから人にはまだ被害が出てないってことですね?」
かなみは言う。
「そういうことよ。それに無人島なら人への被害を考えずに思いっきり戦えるわ」
「かなみは損害賠償のことを考えなくてもいいわけね」
みあの物言いに、かなみはムッとする。
「そうなると、たっぷりボーナスが貰えますね。いくらなんですか?」
かなみは前向きに訊く。
「ざっとこれだけね」
あるみは四本の指を立てて言う。
「四百万!? 怪獣退治ってそんなにボーナスが貰えるんですか!?」
「桁が一つ違うわね」
「四十万……ま、まあそのくらいですよね、ちょっと少ない気もしますが」
「いいえ、四千万よ」
「四千万!?」
かなみはその金額に驚愕する。
「怪獣退治ってお金になるんですね」
「都会に出てきて、建物や人に被害を出ることを考えたら安いものでしょ。って、仔馬が交渉してくれたわ」
「ちょっとあくどいですね……」
かなみはそう言う。
「でも、それぐらいボーナスがあるんなら怪獣と戦ってもいいかもしれませんね」
「げんきんね……」
みあは呆れる。
「そういうことなら、やっぱりかなみちゃんとみあちゃんに任せましょうか」
「あ……やっぱり今のは冗談半分だったということで!」
「あんたも本気半分だったわけね」
みあは呆れる。
一千万単位のボーナスは、どうにも強烈な誘惑であるようだ。
怪人のいる太平洋沖の無人島には小型船で向かうことになった。
船の運転はあるみが行う。小型船舶免許は一応持っているから、と同行してくれる。本当にそれだけなのか、一緒に戦ってくれないのかと疑問を口にしたけど「どうしようもなくなったら」と返された。
かなみは今、百メートルもある怪獣と戦わなければならない憂鬱と巨額のボーナスの魅力の板挟みになっている。
「怪獣、大きくて強いのよね……」
かなみは海の向こうにあるだろう無人島へ想いを馳せる。
「そりゃ怪獣だものね」
みあはどこか楽し気だった。
本物の怪獣と会えるということで、わくわくしているみたいだ。
「まあ、かなみならなんとかするじゃろう」
煌黄は呑気そうに言う。
「なんとかって……」
「大丈夫よ、私もついてるから」
船に同乗している来葉が言う。
「来葉さん……来葉さんがいてくれて心強いです」
今回は来葉も同行してくれている。
来葉の未来視が怪獣との戦いで大いに役に立つから、とのこと。
そんなわけで、今舩に乗っているのは、あるみ、かなみ、みあ、紫織、来葉、煌黄、パシャ。
「そういってくれるとついてきた甲斐があったわ」
そう言って、来葉の黒髪は風にたなびいた。
沖に出て二時間ほどで件の無人島に着いた。
「とうとう怪獣を見れるのね」
みあはうきうき気分で答える。
「みあちゃん、楽しそうね」
かなみはとてもそんな気分になれないから羨ましいと思った。
「怪獣は大きくてかっこいいからね!」
「その大きくてかっこいい怪獣と戦うことになるのよ」
「フフン、望むところよ!」
みあは鼻を鳴らす。
「来葉さん、大丈夫なんでしょうか?」
「あるみから今回の未来がどうなるか口止めされてるの。ごめんなさい」
「社長……」
かなみは恨めしそうにあるみを見つめる。
「私も未来のことを教えるのはあまり良くないと思ってるのよ」
「どうしてですか?」
「確定していない未来の情報に右往左往されて悪い結果に転ぶことが怖くてね」
「悪い結果が視えたんですか?」
かなみは不安そうに訊くので、来葉は苦笑する。
「そうとは限らないけどね。たとえ悪い未来が視えたとしてもかなみちゃんなら何とかできるって信じてるから」
「そう言ってもらえると心強いですけど……」
「ま、気負わずに頑張りなさい」
あるみがかなみの肩を叩く。
「ボーナスがかかってるんだから思いっきりぶちかましなさい。そうすればなんとかなるわよ」
「社長……」
「本当にいざとなったら私が骨を拾ってあげるから」
「……それ、私が骨になる前でお願いしますよ」
「フフ、それだけの口がきければ結構よ」
あるみは満足そうに笑む。
「あるみは凄いわね……」
来葉はため息をつく。
その怪獣というのは、島の中心にいてかなみ達は姿を確認する為に小高い丘に登る。
「あるみ、まだなの?」
登っている最中にみあは何度も怪獣がまだ見えないのかと訊く。
「もうすぐよ」
「百メートル……ああ、きっと山のように大きいやつなのよね」
「おお!」
みあは感嘆の声を上げる。
その先にそれはいた。
山というより丘のようで、パッと見は生き物には見えない。
「寝ているわね」
あるみは言う。
キャキャとリュミィは喜びの声を上げる。
「妖精からしてみれば兄弟に会えたみたいで嬉しいのでしょうね」
あるみはそう解釈する。
「随分と大きい弟ね……」
かなみがそう言うと、リュミィは頷く。
「あれで寝ているのだとしたら、立ったらどのくらいデカくなるのかしらね」
みあは言う。
「できればそのまま寝ていて欲しいけど」
かなみは願望を口にする。
「社長、あれを倒すにはどうしたらいいんですか?」
「会議や船で説明したでしょ。魔法で一定のダメージを与えれば怪獣は身体の維持をできなくなって崩壊する」
「うむ、怪獣には人間のように急所や心臓のような内臓といったものはないからな」
煌黄が補足する。
「RPGでHPをゼロにするみたいなものね。そのHPはケタ違いに高そうだけど」
みあは意外にも冷静になって言う。
「問題は私達のHPが先にゼロにならないか、なんだけど」
「そうならないために頑張りましょう」
「みあちゃん、切り替えが早いわね」
「あんたが遅いだけよ」
みあはあっさりと言う。
ゴォン!
途端に花火のような轟音が鳴り、大地が揺れる。
「何!?」
「怪獣が起きちゃったわけ?」
みあがそう言うと、ずっと寝ていればよかったのにとかなみは心中をぼやく。
「起きたんですか!?」
「というより、私達の気配を察知して防衛体制に入ったのかもしれないわね」
「敵意に敏感なのじゃな。人里に出たらと思うとゾッとするわい」
あるみの推測に煌黄は言う。
「そうならないためにこの島で倒しておかなくちゃならないわね、かなみちゃん」
「そこで私に振らないでください!」
かなみは思わずツッコミを入れる。
ドスン!!
そうこうしているうちに、怪獣は動き出す。
「お、大きい!?」
かなみは丘にも登っているにも関わらず、見上げるだけの巨大さを誇る怪獣に圧倒される。
怪獣は黒くて大きく、二つの足でどっしりと大地を踏みしめている。
「あ、そうだ!」
あるみが言う。
「どうしたんですか?」
「ただ怪獣、怪獣って言うんじゃ呼びにくいからマグラにしましょう」
「呼び方なんてどうだっていいでしょ!?」
「マグラ、マグラか。」
意外にも煌黄はあるみの命名に賛成した。
ドスン! ドスン!
怪獣マグラが足を一歩ずつ踏み出すたびに大地が揺れ、身体が浮かびそうで怖い。
「っていうか、どこ向かってるの!?」
「海なんじゃないかしら」
あるみは答える。
「ひょっとしてこのまま日本に流れ着いちゃったりしない?」
みあは言う。
「大いにあり得るわね」
来葉が答える。
未来視でそういう未来を視ているかもしれないので説得力がある。
「こんなの都会に出たら大変じゃないんですか!?」
「そうね、映画みたいになっちゃうんじゃない」
あるみは冷静に言う。
「映画は映画だからいいんですよ! 現実に起こったらダメですよ! 怪獣が大暴れしたらどれだけの人が犠牲になると思ってるんですか!?」
「――そうならないために私達がいるんじゃない」
「――!」
あるみは一転して真面目な目つきで射貫くように、かなみへ言う。
「言ったでしょ、都会に出てきて、建物や人に被害を出ることを考えたら安いものだって。だから、それだけのボーナスがもらえるのよ」
「……ボーナス」
「やる気、出たでしょ!」
「はい! 絶対にボーナスをゲットしてやるわ!! 四千万!!」
「その意気よ」
あるみは満足そうに笑う。
「作戦はみあちゃんに任せるわ。怪獣好きなら怪獣の倒し方も良く知ってるでしょ」
あるみはみあへ指示する。
「滅茶苦茶な理屈だけど、まあそうね」
みあは考える。
ドスン! ドスン!
怪獣の足音が鳴り響く。
「「「マジカルワークス!」」」
黄、赤、黒の光が輝く。
「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」
「勇気と遊戯の勇士、魔法少女ミア登場!」
「未来へ導く光の御使い魔法少女クルハ招来!」
カナミ、ミア、クルハの三人は口上を言って、無人島の大地に降り立つ。
ドスン! ドスン!
それを察知したのか、怪獣はカナミ達の方へ向かってくる。
「敵意に対して敏感なのね」
あるみは感心する。
「警戒心が強い怪獣のようじゃな。人間が奴をみた時、恐怖を抱くであろうがその恐怖が敵意に変わった時、さぞかし凄惨な光景になるじゃろうな」
煌黄はとうとうと語る。
「想像もしたくないわ」
カナミはため息をつく。
「とにかく分散しましょう」
ミアが指示を飛ばす。
「あたしは右から、クルハは左から仕掛けるわ」
「ミアちゃん、私は?」
「カナミは――正面よ」
「え?」
カナミはキョトンとする。
「ええ、その指示に従うわ」
クルハはそう言って、移動を開始する。
「ちょっと、なんで私が正面に!?」
「……あんたが頼りだからよ」
みあは憎たらし気な顔をして答える。
「頼り?」
「ええ、そうよ。多分、あいつにはあたしやクルハじゃ決定打を与えることはできないわ。あんたのバ火力に賭けるのが一番確実なのよ!」
「で、でも、だから私が正面につくのは……!」
「あんたしかまともに正面に立てないと思ったからよ」
「――!」
「それじゃ、頼んだわよ」
ミアも移動を開始する。
「あやつなりにちゃんと作戦立てておるということじゃ」
煌黄が言う。
「そんなこと言われなくてもわかってるわよ」
そう言って、カナミも覚悟を決める。
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