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第85話 行進! 百鬼夜行の行き着く先は少女 (Bパート)
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その一撃で白次郎はたまらず思いっきり吹っ飛ぶ。
「白次郎!?」
「クソ、あの巨体を軽々と吹っ飛ばしやがった!?」
怪人達は驚愕する。
「さすがスイカさんです!」
カナミは称賛する。
「これぐらい大したことないわよ」
「あ~あ~、スイカにボーナスもってかれた」
ミアはぼやく。
あるみは飛び出す前にいくつかルールを言い渡した。
一つ、周囲の建物には被害を出さないこと。
二つ、被害を出してしまったら罰金。
三つ、倒した怪人一人につき、五千円のボーナスを出す。カウントはマスコット達がとってくれる。
「まずスイカが一人だね」
マニィが言う。
「それじゃ私も負けてられないわね!」
カナミは大いに張り切る。
「ええい、白次郎がやられたぐらいなんだ!!」
一人の怪人・チンパンジーの見た目をしたパンジェロが言う。
「俺が十二席になるための踏み台なんだよ、お前達は! 大人しくやられやがれぇぇぇぇぇッ!!」
怪人が突っ込んでくる。
「誰が誰の踏み台ですって!?」
カナミは魔法弾を撃つ。
「ぐぶう!?」
怪人の顔面に直撃し、足を止める。
「なんの! まだまだ!!」
怪人が気を張って、再度突撃しようとした時だった。
「な……!?」
何十発という魔法弾が目前に迫っていて絶句する。
バババババババババババァン!!
棒立ちになった怪人は魔法弾を全身に浴びて吹っ飛ぶ。
「なんか珍しいね、ああいうリアクション」
マニィが感心して言う。
「ちょっと強い怪人だと豆鉄砲だっていわれるものね」
「じゃあ、あいつらはちょっとも強くないってわけね」
モモミはそう言って、魔法銃を構える。
「おお!」と怪人達はたじろぐ。
「それじゃ、勝負といきましょうか!」
「勝負?」
「誰が一番怪人を倒すか!」
モモミは両手の銃を連射させる。
「よおし、それだったら負けないわよ! ジャンバリック・ファミリア!!」
カナミはステッキの鈴を飛ばして、魔法弾を雨あられと撃ち放つ。
「「「「ウギャアアアァァァァァァァァッ!!?」」」」
怪人達の断末魔が次々と上がっていくのが聞こえた。
「カナミさん、すごい!」
スイカは次々と怪人を倒していくカナミに見入っていく。
「あたし達も負けてられないわよ! 行くわよシオリ!」
「は、はい!!」
ミアの号令でシオリはバットを構える。
「地獄の千本ノック!」
シオリはバットでボールをかっ飛ばして怪人にぶつける。
「ビッグ・ワインダー!」
ミアはヨーヨーを横薙ぎして怪人達をドミノ倒しのように薙ぎ払っていく。
「ストリッシャ―モード!!」
スイカはレイピアを二本構えて、目にも止まらぬ連続突きで怪人達を突き刺す。
「な、なんて奴らだ!?」
空を飛んで様子見をしていた鳥型の怪人達がたじろぐ。
彼らはカナミ達が怪人達を瞬く間に倒していく様を見せつけられて恐れ戦いているのだ。
「あれだけいた仲間があっという間に半分以下に!?」
「やっぱり、簡単には十二席にはなれねえみたいだ!」
「俺は止めるぜ。出世より命の方が大事だ! ギャア!?」
逃げようとしていた怪人に魔法弾が直撃した。
「ああ! やられちまったぜ!」
「逃げようとしただけなのに!」
「私に手を出してきた奴は絶対に逃がさない! そういうことなんだ!!」
「くそおおおおお! なんて情け容赦ないんだ、魔法少女カナミ!」
空中にいる鳥型の怪人達は憤った。
一方、魔法弾をひたすら撃ちまくっていたカナミはそんなことを知る由もなかった。
何しろさっき怪人を撃ち落とした魔法弾は何十発と一斉発射した中の一発に過ぎない、いわば流れ弾なのだから。
「今、流れ弾で一人倒しちゃったよ」
マニィが言う。
「そう、それは運が良かったわ」
本当なら喜ぶところなんだけど、今のカナミには余裕が無い。
倒しても倒しても怪人が襲ってくるのだ。倒した怪人の数なんてもう数えていられない。
ボーナスがいくらになったか、後の楽しみにしておこうと思うようにした。
ちなみに、周囲に被害が出ていないかは考えないようにしている。
(あ~、どうか建物とかぶっ壊れていませんように~)
祈るような気持ちで怪人達へ魔法弾を撃っていく。
三十分ほど経って、百鬼夜行と形容していいほどいた怪人達は数えられる程度の数にまで減っていた。
「あ、あれだけいたのに……」
「たった五人の魔法少女にやられるなんて……!」
「くそ、なんてこった……!」
悔しさに歯噛みしている怪人達を他所にカナミ達は息を整えていた。
三十分以上ぶっ通しで魔法を使い続けて戦っていたのだから疲労困憊もいいところであった。
「ハァハァ……なによ、この程度でへたばったの?」
モモミが息を切らしながら、カナミへ嫌味を言う。
「ハァハァ、そっちこそ! 息が上がってるじゃないの? 休んでもいいのよ!」
「は! あんたの数少ないボーナスを横取りするのが楽しくて休んでられないわね!」
「なんですって!」
「何よ、悔しかったら残りを私より先に倒してみなさい!」
「む~、やってやるわよ!」
カナミとモモミは戦闘を再開する。
「あいつら、バカみたいに元気ね」
ミアは呆れた様子で二人の会話を聞いていた。
「もうあとは全部あいつらに任せた方がいいんじゃないの、疲れたし」
「ミアさん、そう言わずに戦いましょう」
「そうよ! カナミさんのチカラになるって言ったでしょ?」
「フン!」
シオリとスイカの物言いにミアは鼻を鳴らす。
「ど、どうするよ!」
「どうするって言ったって!?」
残った怪人達は戸惑う。もはや自分達だけのチカラでは勝ち目は無い。かといって、ここまできておめおめと逃げるのもプライドが許さない。
恐怖とプライドに揺られて、その場に立ち尽くす。
「ええい、こうなったらやぶれかぶれだ!!」
とうとう、戦う決心をする。だがしかし、
「ギャアッ!?」
背後に控えていた怪人に殴り飛ばされる。
「あぁ! 私のボーナス!?」
カナミは反射的に叫ぶ。
「ボーナス呼ばわりされる最期って、ちょっと可哀想だね」
「そういうこと言ってる場合じゃないでしょ!」
ミアが言う。
「カナミ、あいつらに見覚えあるでしょ!」
「え?」
ミアにそう言われて、怪人達の方を見ると確かに見覚えのある三匹の怪人が立っていた。
「空を統べる空孔!」
「水を統べる水剣!」
「地を統べる地豹!」
「「「我等三人は最高役員十二席の座に就く者なり!!!」」」
三匹の怪人が名乗りを上げる。
「相変わらず、うるさいわね」
「かなみさん、あれが」
スイカが問う。
「はい。樹奈さんをケガさせた怪人です」
カナミは憎らし気に彼等を言う。
「ああ、ちょっと骨がある奴が来たじゃないの」
萌実は銃を構える。
「いきますよ」
空孔は飛び上がる。
「倒してやるぜ!」
水剣は自慢の剣をふりかざす。
「魔法少女カナミ!!」
地豹は拳を握りしめ、雄叫びを上げる。
「スイカさん、剣をお願いします!」
「わかったわ!」
「それじゃ、あたしは空飛んでる奴を」
バァン!!
ミアがそう言ったところで、モモミは空孔へ銃を撃つ。
「あ、ちょっと、あれはあたしの獲物よ!」
「早いモノ勝ちでしょ!」
「何をー!」
ミアとモモミは言い合いを始める。
パキン!!
スイカはその間に、水剣の角とレイピアを交える。
「ほう、やるな!」
「魔法少女はカナミさんだけじゃないもの!」
「なるほど、ようは邪魔者か!」
「そういうことよ!」
「その邪魔者でしたら、もう一人……」
「何!?」
水剣が控えめな声のした方を振り向く。
カキーン!!
そのまま、角を折るほどの勢いの衝撃に見舞われる。
「ガグゥ!?」
「く、クリーンヒットです」
「次はホームランをお願いね」
スイカは言う。
「これで一対一になっちまったが、むしろ望むところだああああああッ!」
地豹は突撃してくる。
「私は望んでないわよ!」
カナミは猛反発して、魔法弾を撃つ。
「きくか、そんなものおおおおおおッ!!」
地豹はものともせず、カナミへ突っ込む。カナミはそれをヒョイとかわす。
「ああ! 猪突猛進って面倒ね!」
「でも、あれが正しいリアクションって感じもするよ」
「マニィの感性って変よ」
カナミは文句を言いつつ、地豹と向き合う。
「お前を倒して、俺が十二席の座につく!」
「三人で十二席の座につくんじゃなかったの?」
「お前は計算ができんのか? 座は一つ、俺達は三人! 数が合わないだろ、だから、誰か一人しかなれないんだ。それが俺でも問題ないだろ!?」
「そういうことね。結局は一人だけが出世したいだけじゃないの」
かなみにとってはイライラするような考え方だ。
誰か一人しか出世できないのなら自分が一抜けして出世してやる。控えめにいって、嫌いだ。
樹奈にケガをさせた分も含めて倒さなければならない敵だ。
「神殺砲!」
カナミはステッキを変化させる。
魔法弾がきかないほどの強敵なら砲弾で仕留めた方がいい。そう思ったゆえの判断だ。
「――う!」
周りに被害を出してしまったら罰金が出る。
その制約がカナミを躊躇わせた。
「おりゃああああああ!!」
地豹は雄叫びを上げて突撃してくる。
「そんなのまともにくらうわけ!?」
カナミは再びヒョイと飛んでかわそうとした。
「まともにくらえよ!」
かわせたと思った直後に、地豹はバックステップでカナミへ飛んでくる。
「ああ!?」
まともに体当たりを受けて、カナミは吹っ飛ぶ。
「あいたた……!」
「カナミ、躊躇っている場合じゃない。神殺砲を使わないと勝てないよ」
「で、でも、わかってるんだけど……」
吹っ飛ばされたカナミは立ち上がる。
「あ……!」
地豹を見据えると、周囲には建物の他に倒された怪人が山のように積み上がっている
「神殺砲!」
ステッキを砲台へと変化させる。
「ほう、くるか!?」
「もちろん! ボーナスキャノン!!」
カナミは砲弾を撃ち出す。
バァァァァァァァン!!
砲弾は地豹を飲み込み、怪人達の山で大爆発する。
「倒した怪人を利用するなんて考えたね、でも……」
「でも、何?」
「いや、なんでもないよ」
マニィはお茶を濁した。
「カナミさん!」
スイカの呼びかけで、背後にまで迫っていた水剣の存在に気づく。
パキーン!!
カナミはステッキで水剣の角を受け止める。
「ほう、止めたか!」
「こんな不意打ちでやられないわよ!」
「そうか!」
水剣は距離をとる。
「カナミさん、ごめんなさい」
シオリが謝る。
水剣はスイカとシオリの二人と戦っている最中に隙をみて、カナミへ襲い掛かった。そのことを謝罪しているのだ。
「気にしなくていいわよ、シオリちゃん」
「カナミさん、私とシオリちゃんで注意を引き付けるから」
スイカはカナミへ提案する。
「はい! 締めは任せてください!」
カナミは元気よく答える。
「それじゃあ、シオリちゃん行きましょう!」
「は、はい!!」
スイカとシオリは、水剣へ立ち向かっていく。
カキィィィン! キィン! キィン! キィン!
レイピアと角。バットと角。
二対一で戦っているけど、水剣は互角に持ち込んでいた。
カナミはその間に、ステッキへ魔力をそそんでいた。長時間を戦い抜いた後だけに充填が遅い。
「あと十秒くらい! それまでお願いスイカさん! シオリちゃん! 九! 八! 七!」
もどかしい想いでカナミはカウントダウンする。
「キャアアア!?」
シオリの悲鳴が聞こえる。
いつの間にか姿を現わしていた地豹の両腕に捕らえられていたのだ。
「ヘヘヘ、捕まえたぜ!」
「アアァッ!?」
地豹は両腕に力を込めて、シオリの身体を捻り潰そうとする。
「やめなさい!」
スイカは助け出そうとレイピアを構える。
「おっと!」
それを水剣が妨害する。
カキィィィン!
スイカは水剣と戦うしかなかった。
「さあ、魔法少女カナミ! 退治な仲間は俺の手の内にあるぞ!」
「アガァ!?」
地豹はシオリを握りしめる力を強くする。
「シオリちゃん!!」
「いつでも俺はこいつを握りつぶせるぜ!」
「ひ、人質のつもり!?」
「そういうことだ。こいつが大事なら、俺の言うことに従ってもらおうか!?」
「ひ、卑怯者……!!」
カナミは罵る。
「なんとでも言え。まずは武器を捨てろ!」
「ダメです、カナミさん!」
シオリは訴える。
「黙れ!」
「ガアァァッ!?」
地豹はより一層強く握りしめる。もう少し強くしたら潰されてしまうかもしれない。
「や、やめて! 言われた通り、ステッキを捨てるから!!」
カナミはそう言って、ステッキを躊躇いなく捨てる。
「よしよし、いい子だ! それじゃ、こっちに近づいてこい!」
「く……わかったわ!」
カナミは悔しさで歯を食いしばる。しかし、従わなければシオリがやられてしまう。
どうすることもできず、カナミは一歩ずつ歩み寄っていく。
「そのまま大人しくやられてくれれば、こいつは返してやる!」
「本当でしょうね?」
「俺は約束を守る性分なんだ」
「人質をとっておいてよく言うわよ!」
カナミはせめてもの反抗に憎まれ口を叩く。
「カナミさん、私ごと倒せばいいのに……! 私なんかほっといて……!」
シオリは涙を流して訴える。
その涙が、握りつぶされそうになっている苦しみからか、カナミの足を引っ張ってしまった申し訳なさからか、シオリ自身にはわからない。
「ごめん、シオリちゃん。私、仲間を見捨てるなんて絶対に出来ないから」
「いい心掛けだ。だったら、ちゃんと見捨てずに倒されろよ」
地豹は片腕をシオリから離して、握り拳でカナミへ殴りかかる。
「――!」
カナミは覚悟を決めて身構える。
しかし、いつまで経っても拳がカナミにまで届くことはなかった。
「ど、どういうことだ!? 身体が動かん!?」
地豹はググッと身体を動かそうとするが、言葉を聞く限り動けないようだ。
この現象に既視感がある。
「手を出すつもりはなかったんだけどね!」
「チトセさん!?」
「鋼の絆の紡ぎ手、魔法少女チトセ参戦!」
チトセはノリよく口上を上げてカナミのもとへやってくる。
「ハハハ、カナミちゃんの今の台詞に感動しちゃった。やっぱりいい子よ、カナミちゃん!」
「そ、そうですか……」
「それに――!」
チトセは笑顔から一転して怒りの形相で地豹を睨む。
「うぐ!?」
その気迫に地豹もたじろぐ。
「女の子を人質にする卑怯者はどうしても許せないのよね!」
「同感です!」
カナミがそう答えると、チトセが手を振りかざす。
「ぬぐ!?」
地豹はそれにつられて、腕を上げてシオリを解放する。
「あ……!」
シオリはすぐにカナミへ駆け寄る。
「シオリちゃん、大丈夫?」
「は、はい……カナミさんとチトセさんのおかげで……あ、ありがとうございます!」
「気にしなくていいのよ」
「そうそう!」
「白次郎!?」
「クソ、あの巨体を軽々と吹っ飛ばしやがった!?」
怪人達は驚愕する。
「さすがスイカさんです!」
カナミは称賛する。
「これぐらい大したことないわよ」
「あ~あ~、スイカにボーナスもってかれた」
ミアはぼやく。
あるみは飛び出す前にいくつかルールを言い渡した。
一つ、周囲の建物には被害を出さないこと。
二つ、被害を出してしまったら罰金。
三つ、倒した怪人一人につき、五千円のボーナスを出す。カウントはマスコット達がとってくれる。
「まずスイカが一人だね」
マニィが言う。
「それじゃ私も負けてられないわね!」
カナミは大いに張り切る。
「ええい、白次郎がやられたぐらいなんだ!!」
一人の怪人・チンパンジーの見た目をしたパンジェロが言う。
「俺が十二席になるための踏み台なんだよ、お前達は! 大人しくやられやがれぇぇぇぇぇッ!!」
怪人が突っ込んでくる。
「誰が誰の踏み台ですって!?」
カナミは魔法弾を撃つ。
「ぐぶう!?」
怪人の顔面に直撃し、足を止める。
「なんの! まだまだ!!」
怪人が気を張って、再度突撃しようとした時だった。
「な……!?」
何十発という魔法弾が目前に迫っていて絶句する。
バババババババババババァン!!
棒立ちになった怪人は魔法弾を全身に浴びて吹っ飛ぶ。
「なんか珍しいね、ああいうリアクション」
マニィが感心して言う。
「ちょっと強い怪人だと豆鉄砲だっていわれるものね」
「じゃあ、あいつらはちょっとも強くないってわけね」
モモミはそう言って、魔法銃を構える。
「おお!」と怪人達はたじろぐ。
「それじゃ、勝負といきましょうか!」
「勝負?」
「誰が一番怪人を倒すか!」
モモミは両手の銃を連射させる。
「よおし、それだったら負けないわよ! ジャンバリック・ファミリア!!」
カナミはステッキの鈴を飛ばして、魔法弾を雨あられと撃ち放つ。
「「「「ウギャアアアァァァァァァァァッ!!?」」」」
怪人達の断末魔が次々と上がっていくのが聞こえた。
「カナミさん、すごい!」
スイカは次々と怪人を倒していくカナミに見入っていく。
「あたし達も負けてられないわよ! 行くわよシオリ!」
「は、はい!!」
ミアの号令でシオリはバットを構える。
「地獄の千本ノック!」
シオリはバットでボールをかっ飛ばして怪人にぶつける。
「ビッグ・ワインダー!」
ミアはヨーヨーを横薙ぎして怪人達をドミノ倒しのように薙ぎ払っていく。
「ストリッシャ―モード!!」
スイカはレイピアを二本構えて、目にも止まらぬ連続突きで怪人達を突き刺す。
「な、なんて奴らだ!?」
空を飛んで様子見をしていた鳥型の怪人達がたじろぐ。
彼らはカナミ達が怪人達を瞬く間に倒していく様を見せつけられて恐れ戦いているのだ。
「あれだけいた仲間があっという間に半分以下に!?」
「やっぱり、簡単には十二席にはなれねえみたいだ!」
「俺は止めるぜ。出世より命の方が大事だ! ギャア!?」
逃げようとしていた怪人に魔法弾が直撃した。
「ああ! やられちまったぜ!」
「逃げようとしただけなのに!」
「私に手を出してきた奴は絶対に逃がさない! そういうことなんだ!!」
「くそおおおおお! なんて情け容赦ないんだ、魔法少女カナミ!」
空中にいる鳥型の怪人達は憤った。
一方、魔法弾をひたすら撃ちまくっていたカナミはそんなことを知る由もなかった。
何しろさっき怪人を撃ち落とした魔法弾は何十発と一斉発射した中の一発に過ぎない、いわば流れ弾なのだから。
「今、流れ弾で一人倒しちゃったよ」
マニィが言う。
「そう、それは運が良かったわ」
本当なら喜ぶところなんだけど、今のカナミには余裕が無い。
倒しても倒しても怪人が襲ってくるのだ。倒した怪人の数なんてもう数えていられない。
ボーナスがいくらになったか、後の楽しみにしておこうと思うようにした。
ちなみに、周囲に被害が出ていないかは考えないようにしている。
(あ~、どうか建物とかぶっ壊れていませんように~)
祈るような気持ちで怪人達へ魔法弾を撃っていく。
三十分ほど経って、百鬼夜行と形容していいほどいた怪人達は数えられる程度の数にまで減っていた。
「あ、あれだけいたのに……」
「たった五人の魔法少女にやられるなんて……!」
「くそ、なんてこった……!」
悔しさに歯噛みしている怪人達を他所にカナミ達は息を整えていた。
三十分以上ぶっ通しで魔法を使い続けて戦っていたのだから疲労困憊もいいところであった。
「ハァハァ……なによ、この程度でへたばったの?」
モモミが息を切らしながら、カナミへ嫌味を言う。
「ハァハァ、そっちこそ! 息が上がってるじゃないの? 休んでもいいのよ!」
「は! あんたの数少ないボーナスを横取りするのが楽しくて休んでられないわね!」
「なんですって!」
「何よ、悔しかったら残りを私より先に倒してみなさい!」
「む~、やってやるわよ!」
カナミとモモミは戦闘を再開する。
「あいつら、バカみたいに元気ね」
ミアは呆れた様子で二人の会話を聞いていた。
「もうあとは全部あいつらに任せた方がいいんじゃないの、疲れたし」
「ミアさん、そう言わずに戦いましょう」
「そうよ! カナミさんのチカラになるって言ったでしょ?」
「フン!」
シオリとスイカの物言いにミアは鼻を鳴らす。
「ど、どうするよ!」
「どうするって言ったって!?」
残った怪人達は戸惑う。もはや自分達だけのチカラでは勝ち目は無い。かといって、ここまできておめおめと逃げるのもプライドが許さない。
恐怖とプライドに揺られて、その場に立ち尽くす。
「ええい、こうなったらやぶれかぶれだ!!」
とうとう、戦う決心をする。だがしかし、
「ギャアッ!?」
背後に控えていた怪人に殴り飛ばされる。
「あぁ! 私のボーナス!?」
カナミは反射的に叫ぶ。
「ボーナス呼ばわりされる最期って、ちょっと可哀想だね」
「そういうこと言ってる場合じゃないでしょ!」
ミアが言う。
「カナミ、あいつらに見覚えあるでしょ!」
「え?」
ミアにそう言われて、怪人達の方を見ると確かに見覚えのある三匹の怪人が立っていた。
「空を統べる空孔!」
「水を統べる水剣!」
「地を統べる地豹!」
「「「我等三人は最高役員十二席の座に就く者なり!!!」」」
三匹の怪人が名乗りを上げる。
「相変わらず、うるさいわね」
「かなみさん、あれが」
スイカが問う。
「はい。樹奈さんをケガさせた怪人です」
カナミは憎らし気に彼等を言う。
「ああ、ちょっと骨がある奴が来たじゃないの」
萌実は銃を構える。
「いきますよ」
空孔は飛び上がる。
「倒してやるぜ!」
水剣は自慢の剣をふりかざす。
「魔法少女カナミ!!」
地豹は拳を握りしめ、雄叫びを上げる。
「スイカさん、剣をお願いします!」
「わかったわ!」
「それじゃ、あたしは空飛んでる奴を」
バァン!!
ミアがそう言ったところで、モモミは空孔へ銃を撃つ。
「あ、ちょっと、あれはあたしの獲物よ!」
「早いモノ勝ちでしょ!」
「何をー!」
ミアとモモミは言い合いを始める。
パキン!!
スイカはその間に、水剣の角とレイピアを交える。
「ほう、やるな!」
「魔法少女はカナミさんだけじゃないもの!」
「なるほど、ようは邪魔者か!」
「そういうことよ!」
「その邪魔者でしたら、もう一人……」
「何!?」
水剣が控えめな声のした方を振り向く。
カキーン!!
そのまま、角を折るほどの勢いの衝撃に見舞われる。
「ガグゥ!?」
「く、クリーンヒットです」
「次はホームランをお願いね」
スイカは言う。
「これで一対一になっちまったが、むしろ望むところだああああああッ!」
地豹は突撃してくる。
「私は望んでないわよ!」
カナミは猛反発して、魔法弾を撃つ。
「きくか、そんなものおおおおおおッ!!」
地豹はものともせず、カナミへ突っ込む。カナミはそれをヒョイとかわす。
「ああ! 猪突猛進って面倒ね!」
「でも、あれが正しいリアクションって感じもするよ」
「マニィの感性って変よ」
カナミは文句を言いつつ、地豹と向き合う。
「お前を倒して、俺が十二席の座につく!」
「三人で十二席の座につくんじゃなかったの?」
「お前は計算ができんのか? 座は一つ、俺達は三人! 数が合わないだろ、だから、誰か一人しかなれないんだ。それが俺でも問題ないだろ!?」
「そういうことね。結局は一人だけが出世したいだけじゃないの」
かなみにとってはイライラするような考え方だ。
誰か一人しか出世できないのなら自分が一抜けして出世してやる。控えめにいって、嫌いだ。
樹奈にケガをさせた分も含めて倒さなければならない敵だ。
「神殺砲!」
カナミはステッキを変化させる。
魔法弾がきかないほどの強敵なら砲弾で仕留めた方がいい。そう思ったゆえの判断だ。
「――う!」
周りに被害を出してしまったら罰金が出る。
その制約がカナミを躊躇わせた。
「おりゃああああああ!!」
地豹は雄叫びを上げて突撃してくる。
「そんなのまともにくらうわけ!?」
カナミは再びヒョイと飛んでかわそうとした。
「まともにくらえよ!」
かわせたと思った直後に、地豹はバックステップでカナミへ飛んでくる。
「ああ!?」
まともに体当たりを受けて、カナミは吹っ飛ぶ。
「あいたた……!」
「カナミ、躊躇っている場合じゃない。神殺砲を使わないと勝てないよ」
「で、でも、わかってるんだけど……」
吹っ飛ばされたカナミは立ち上がる。
「あ……!」
地豹を見据えると、周囲には建物の他に倒された怪人が山のように積み上がっている
「神殺砲!」
ステッキを砲台へと変化させる。
「ほう、くるか!?」
「もちろん! ボーナスキャノン!!」
カナミは砲弾を撃ち出す。
バァァァァァァァン!!
砲弾は地豹を飲み込み、怪人達の山で大爆発する。
「倒した怪人を利用するなんて考えたね、でも……」
「でも、何?」
「いや、なんでもないよ」
マニィはお茶を濁した。
「カナミさん!」
スイカの呼びかけで、背後にまで迫っていた水剣の存在に気づく。
パキーン!!
カナミはステッキで水剣の角を受け止める。
「ほう、止めたか!」
「こんな不意打ちでやられないわよ!」
「そうか!」
水剣は距離をとる。
「カナミさん、ごめんなさい」
シオリが謝る。
水剣はスイカとシオリの二人と戦っている最中に隙をみて、カナミへ襲い掛かった。そのことを謝罪しているのだ。
「気にしなくていいわよ、シオリちゃん」
「カナミさん、私とシオリちゃんで注意を引き付けるから」
スイカはカナミへ提案する。
「はい! 締めは任せてください!」
カナミは元気よく答える。
「それじゃあ、シオリちゃん行きましょう!」
「は、はい!!」
スイカとシオリは、水剣へ立ち向かっていく。
カキィィィン! キィン! キィン! キィン!
レイピアと角。バットと角。
二対一で戦っているけど、水剣は互角に持ち込んでいた。
カナミはその間に、ステッキへ魔力をそそんでいた。長時間を戦い抜いた後だけに充填が遅い。
「あと十秒くらい! それまでお願いスイカさん! シオリちゃん! 九! 八! 七!」
もどかしい想いでカナミはカウントダウンする。
「キャアアア!?」
シオリの悲鳴が聞こえる。
いつの間にか姿を現わしていた地豹の両腕に捕らえられていたのだ。
「ヘヘヘ、捕まえたぜ!」
「アアァッ!?」
地豹は両腕に力を込めて、シオリの身体を捻り潰そうとする。
「やめなさい!」
スイカは助け出そうとレイピアを構える。
「おっと!」
それを水剣が妨害する。
カキィィィン!
スイカは水剣と戦うしかなかった。
「さあ、魔法少女カナミ! 退治な仲間は俺の手の内にあるぞ!」
「アガァ!?」
地豹はシオリを握りしめる力を強くする。
「シオリちゃん!!」
「いつでも俺はこいつを握りつぶせるぜ!」
「ひ、人質のつもり!?」
「そういうことだ。こいつが大事なら、俺の言うことに従ってもらおうか!?」
「ひ、卑怯者……!!」
カナミは罵る。
「なんとでも言え。まずは武器を捨てろ!」
「ダメです、カナミさん!」
シオリは訴える。
「黙れ!」
「ガアァァッ!?」
地豹はより一層強く握りしめる。もう少し強くしたら潰されてしまうかもしれない。
「や、やめて! 言われた通り、ステッキを捨てるから!!」
カナミはそう言って、ステッキを躊躇いなく捨てる。
「よしよし、いい子だ! それじゃ、こっちに近づいてこい!」
「く……わかったわ!」
カナミは悔しさで歯を食いしばる。しかし、従わなければシオリがやられてしまう。
どうすることもできず、カナミは一歩ずつ歩み寄っていく。
「そのまま大人しくやられてくれれば、こいつは返してやる!」
「本当でしょうね?」
「俺は約束を守る性分なんだ」
「人質をとっておいてよく言うわよ!」
カナミはせめてもの反抗に憎まれ口を叩く。
「カナミさん、私ごと倒せばいいのに……! 私なんかほっといて……!」
シオリは涙を流して訴える。
その涙が、握りつぶされそうになっている苦しみからか、カナミの足を引っ張ってしまった申し訳なさからか、シオリ自身にはわからない。
「ごめん、シオリちゃん。私、仲間を見捨てるなんて絶対に出来ないから」
「いい心掛けだ。だったら、ちゃんと見捨てずに倒されろよ」
地豹は片腕をシオリから離して、握り拳でカナミへ殴りかかる。
「――!」
カナミは覚悟を決めて身構える。
しかし、いつまで経っても拳がカナミにまで届くことはなかった。
「ど、どういうことだ!? 身体が動かん!?」
地豹はググッと身体を動かそうとするが、言葉を聞く限り動けないようだ。
この現象に既視感がある。
「手を出すつもりはなかったんだけどね!」
「チトセさん!?」
「鋼の絆の紡ぎ手、魔法少女チトセ参戦!」
チトセはノリよく口上を上げてカナミのもとへやってくる。
「ハハハ、カナミちゃんの今の台詞に感動しちゃった。やっぱりいい子よ、カナミちゃん!」
「そ、そうですか……」
「それに――!」
チトセは笑顔から一転して怒りの形相で地豹を睨む。
「うぐ!?」
その気迫に地豹もたじろぐ。
「女の子を人質にする卑怯者はどうしても許せないのよね!」
「同感です!」
カナミがそう答えると、チトセが手を振りかざす。
「ぬぐ!?」
地豹はそれにつられて、腕を上げてシオリを解放する。
「あ……!」
シオリはすぐにカナミへ駆け寄る。
「シオリちゃん、大丈夫?」
「は、はい……カナミさんとチトセさんのおかげで……あ、ありがとうございます!」
「気にしなくていいのよ」
「そうそう!」
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