まほカン

jukaito

文字の大きさ
上 下
186 / 333

第77話 混戦? 絡み合う少女の運命は混沌を呼ぶ (Cパート)

しおりを挟む
「判真様!」
 それをフィウクスが間に入って銃弾を防ぐ。
「うわ、なにヘビ野郎!?」
「ヘビ野郎とは心外な! 私は判真様の護衛を務める鋼鉄怪人・フィウクスだ!!」
 フィウクスは高らかに名乗りを上げる。
「あ、そ。なんだっていいわよ、あんたの名前なんて!」
「なんだと!? 魔法少女のくせに生意気な!!」
「怪人のくせに生意気な奴に言われたくないわね」
 そう言ってモモミは、フィウクスへ撃つ。
「フン!」
 フィウクスはこともなげに魔法の銃弾を弾く。
「大口叩く割りには大したことないな。これなら魔法少女カナミの方が強かったぞ」
「なんですって!」
 ピキッとモモミは青筋を立てる。
「安い挑発だな」
 グランサーが姿を現わす。
「身の程がしれるな、魔法少女モモミ」
「禍津死神のグランサー……!」
 モモミの表情が強張る。
「私を知っているのか? フフ、嬉しいことだね」
「知らないはずがない。最高役員十二席の中でも有名なんだから」
 モモミは敵愾心を燃やして、銃口を向ける。
「そうか。確か貴様はこちら側だったか」
 得心を得たグランサーは言い継ぐ。
「ならば、貴様にも有効なはずだ。――判真の勅命がな」
「な!?」
 モモミは驚き、硬直する。
 そして、判真を見る。
――止めよ
 モモミの頭の内側から判真の声がする。
「ふ、ふふふふ……」
 小さく、不気味なほど小さく笑う。
「モモミ?」
 カナミは心配になって呼びかける。
 モモミはニヤリと笑って、こちらを見る。

バァン!

 いきなり銃弾を撃ってくる。
「わ!?」
 カナミは驚き、一歩退く。
「あはははははは、あーーはははははははッ!!」
 狂ったように哄笑し、四方八方へ銃弾を撃つ。
「モモミ! あんた、どうしたの!?」
「これも勅命なのよ! あんたの息の根を止めよってね!」
「止めよって、そう言う意味じゃないでしょ!!」
 カナミはツッコミを入れて、魔法弾で応戦する。
「あんたと決着をつけたかったところなのよ! さあ、きなさいカナミ!!」
「決着……」
 そう言われて、カナミは忘れかけていたことを思い出す。
 モモミはネガサイドの魔法少女。
 モモミとは敵同士。何度も戦ってきた強敵。
 そして、アルミがインターンという名目でこちら側に連れてこさせられた。一緒に戦ったことだってある。
 憎まれ口を叩いて、中々心を開かない。正直言って嫌味な奴と思う。
 でも、それでも、同じ魔法少女なんだから、ひょっとしたら、――仲間といえる日が来る、かもしれない。心の中、どこかでそう思っていた。
「それをここでつけようっていうのね?」
 それは、カナミだけの思い込みだったのかもしれない。
 確かめるように、カナミはモモミへ問いかける。
「ええ、いい加減あんたの顔、見飽きたのよ!」
 モモミは肯定し、発砲する。

バァン!

 カナミは反射的に魔法弾で応じる。
「そう、わかったわ」
 それだけ言って、相対する。
「ハハ! こいつは面白い見世物だな!」
 グランサーが嘲笑する。
「よそ見している余裕があるっていうの?」
 アルミのドライバーがグランサーのマントをかすめる。
「余裕か。確かにないな、この一時を楽しむことしか頭にない」
「なるほど!」

ガキィィィィィィン!!

 ドライバーと鎌の衝突が爆音のように鳴り渡る。
 カナミとモモミにとって、それがゴングとなった。

バァン! バァン! バァン! バァン!

 ステッキからの魔法弾と魔法銃からの銃弾が激突する。
 思い返すと、モモミとはこうして撃ち合いばかりしている。
 手数は互角。まるで示し合わせているかのように同じ数だけ撃ち続けている。
 この時だけはモモミと心が通じ合っているような錯覚を覚える。
「おい? 今がチャンスじゃねえか?」
 一人の怪人が二人の撃ち合いを見て、仲間の怪人へ呼びかける。
「チャンスって何が?」
「魔法少女カナミを倒すチャンスだよ!」
「「「なるほど!」」」
 怪人達は納得する。
 モモミとの撃ち合いで手一杯になっている今だったら不意を突いて倒せる、と。
「それなら、さっそく……ギャアッ!?」
 怪人へ銃弾が飛んでくる。
「余計な手出ししたら、ぶっ殺すわよ」
「モモミ、なんで?」
 モモミに助けられた形になった。
「あんたとは一対一でやらないと、勝ったことにならないでしょ!」
「どうして、そこまで私に勝ちたいの?」
「勝ち続けることが私の存在意義だから! あんたに私はまだ勝っていないから!!」
 モモミは咆哮とともに銃を撃ち放つ。
「だったら、私は負けない! 私が勝つ!!」
「だから、あんたは嫌いなのよ! カナミィィィィッ!!」
「私だって……! 私だって!」
 「嫌い!」って言葉が喉が出かかって、それでも何かにつっかえて言うことが出来なかった。

バァン! バァン! バァン! バァン!

 魔法弾による銃撃戦はより一層激しさを増す。
 周囲で見物していた怪人達もだんだん巻き込まれるのを恐れて一歩ずつ退いていく。
 勝負は膠着状態に入っていた。
 手数も威力も互角。
 同じ威力の魔法弾を同じ数だけ撃ち合っている。このままいつまでも続くか、とそう思った時、モモミは動いた。
「ファイア!」
 魔力を十分に弾に込めて撃つ必殺の二発の砲弾。
 ただ、カナミはこれが来ることを読んでいた。

バァン! バァン!

 二発の魔法弾を撃ち出して、モモミの必殺の砲弾に当てる。
 それだけで砲弾の軌道がそれる。

バァァァァァァァァン!!

 それた砲弾が花火のようにはじけ飛ぶ。
「「「あぎゃああああああッ!?」」」
 怪人達がその爆発の被害を被る。
「な……!」
 モモミは絶句する。
 完全に倒すつもりで放ったはずの砲弾があっさりと防がれた。
 その驚愕で魔法銃の引き金を引く手が止まる。
「ジャンバリック・ファミリア!」
 ステッキから飛んだ鈴がモモミの周囲を飛び回る。

バババババババババァァァン!

 息をもつかさぬ連続弾にモモミは対応しきれず、身体を丸めてじっと耐える。
「こ、こんのおおおおおおッ!!」
 すぐにこらえきれなくなってカナミの方へ突っ切っていく。
 もはや、破れかぶれであった。
「神殺砲!」
 カナミは砲台へ返る。
「しまっ!」
 モモミが自分の失敗に気づいた時にはもう手遅れだった。
「ボーナスキャノン!!」
 カナミが撃ち出した砲弾がモモミを飲み込む。

バァァァァァァァァン!!

「「「おんぎああああああああッ!!?」」」
 その爆発に怪人達がまたもや巻き込まれる。
「く、まだ! まだまだまだまだ!! 私はまけてなぁぁぁぁい!!」
 砲弾を受けて傷だらけになっても、諦めずに突進してくる。
「モモミ……!」
 その痛々しいまでの必死さに、カナミは一瞬撃つのをためらう。
「だから! 甘いのよぉ! あんたはぁぁぁぁッ!!」
 魔法銃のグリップで思いっきり頭を殴りつける。

ドガ!

「あう!?」
「だあああああああッ!!!」

バダン!!

 モモミはそのままの勢いで、カナミを押し倒す。
「く、モモミ!」
「そんなマヌケ面で呼ぶんじゃないわよお!」
 モモミは血走った眼をしてそう言い返し、銃口をカナミの口へ押し当てる。
「二度と呼べないように吹き飛ばしてやるわ!」
 口が喜びでつり上がる。しかし、眼は怒りに染まった歪んだ笑顔。
 見ていられない。カナミはモモミの顔を見てそう思った。
 たとえ、モモミが敵だろうと、仲間だろうと、そんな顔をした魔法少女をこれ以上見ていられない。

バァン!

 飛んでいたステッキの鈴が魔法弾を撃って、カナミの口に当てていた魔法銃を弾いた。

バァン!

 続いて、別の鈴がモモミの後頭部を撃った。
「があ!?」
 その衝撃でよろめいて体勢が崩れる。
「――!」
 その隙を逃さまいとカナミは起き上がって、モモミを押し倒す。
 文字通り形勢が逆転した。
「…………チィ!」
 モモミは悔しさのあまり舌打ちする。
「これでトドメをさせば、――あんたの勝ちね!」
「そんな、私はつもりじゃ!」
「じゃあ、どういうつもり!?」
 モモミは激昂する。
「あんたが襲ってくるから……! 私はあんたと戦いたくなくて! 勝ちたかったわけじゃない!」
「黙れ! 黙りなさい! 私をみじめにさせるなぁぁぁぁぁッ!!」

バァン!!

 激昂ととともに発砲する。
「え……?」
 魔法弾はカナミの背後に迫っていたフィウクスの頭に当たる。
「があッ!?」
「モモミ、あんた私を助けて?」
「あんたが私以外にやられるのは……」
 モモミは気を失い、魔法銃は光になって消える。
(判真の勅命があったのに、私を助けてくれた……)
 カナミは立ち上がる。
「チャンスだ! 魔法少女カナミは今消耗している!」
「俺達でも倒せるぜ! あぎゃああッ!?」
 そう息巻いていた怪人がカナミの魔法弾で倒される。
「負けられない! モモミの分も!!」
「君って単純だね」
 マニィが言う。

ウンウン

 リュミィも笑顔で同意する。
「神殺砲!」
 ステッキを砲台へ変化させて、怪人達へ向ける。
「ボーナスキャノン!!」
 一気に魔法を発射する。

バァァァァァァァァン!!



 一方その頃、十五階の温泉場では。

ゴゴゴゴゴ!! 

 地震のようにフロア全体が大きく揺れ、お湯が割れた窓から零れ落ちていく。
「はうわ!?」
 シオリが揺れで窓から落ちそうになる。
 ミアがヨーヨーを投げ込んで、その糸を巻き付ける。
「まったく、しっかりしなさい」
「あ、ありがとうございます」
 ミアはシオリを引っ張り上げる。
「何が起きてるのかしら?」
 スイカは襲い掛かってくる怪人を相手にしながら、疑問を投げる。
「いきなり地震なわけないし、こりゃあれじゃないの」
「あれっていうと?」
 ミアは神妙な面持ちで答える。
「――下でアルミが戦ってる」
「「ああ」」
 スイカとシオリは納得する。
「しかも、わりと本気目に」
「それだったらまずいわね。社長が本気になったらこんなホテルぐらい吹き飛ばすだろうし」
「むしろ、まだ原型をとどめてることが不思議なくらいです」
 シオリの発言に、「それは言えてる」と三人は笑い合う。
「でも、そうとわかったら一刻も早く脱出しないと」
 ミアは奥の温泉で見物を決め込んでいるいろかへ目をやる。
 このフロアが崩壊しかねないほどの揺れの中で、平然と笑みを浮かべて湯につかっている。大物だと思ってしまう。
(余裕かましすぎて、気に障るけど……!)
 ミアはそう心中でぼやき、シオリとスイカに号令をかける。
「あたしがヨーヨーで道を作るから、あんた達は一気に駆け抜けて」
「ええ」
「本当はカナミがバカ魔力で一発ぶちかましてくれればいいんだけど……」
 ミアはぼやく。
「ミアさん、いない方のことを言っても」
「わかってるわよ。らしくないこと言ってるって」
「いえ、とてもミアさんらしいと思います」
「そんなことどうだっていいわ! とっととぶちかますわよ!」
 ミアはヨーヨーを巨大化させて投げ込む。
「Gヨーヨー、スピンクラッシャー!!」
 投げ込まれた巨大ヨーヨーが激しい回転で竜巻が巻き起こり、怪人達を吹き飛ばしていく。

ブオオオオオオオン!!!

「さ、行くわよ!!」
「では、私が!」
 号令を受けて、スイカが駆け抜けて温泉場を出ようとする。
「――!」
 いろかが立ち塞がっていることに気づく。
「こんな面白いところから逃げ出そうとするなんて無粋なことは許さないわよ」
「く! それでも!」
 スイカはレイピアで突く。

クルリ!

 しかし、レイピアはいろかに当たることなく、気づいたらスイカの身体は宙がえりしていた。
「え?」
 呆気にとられたまま、床に叩きつけられた。
「フフフ」
 いろかは妖艶に笑う。
 まるで舞を踊っているようだ。
「バーニング・ウォーク!」
 ミアは炎に燃えるヨーヨーをいろかへ投げ込む。
 しかし、いろかはそのヨーヨーを手で転がし、ミアへ投げ返す。
「あぐ!?」
「スイカさん! ミアさん! 大丈夫ですか!?」
 倒れる二人に心配そうに駆け込む。
「大丈夫だけど……」
「うーん、かなり厄介ね」
 ミアは深刻そうな顔つきで言う。
「あたし達の攻撃がまったく通じない……! 格が違うっていうか、桁外れっていうか……!」
「そ、それじゃあ、どうすればいいんですか?」
「今考えてるから!」
「考えてどうにかなるのかしら?」
 いろかが問いかける。
「な、ならない……」
 ミアは弱音を吐露する。

ゴゴゴゴゴゴゴ!!

 温泉場が激しく揺れる。
 今にも崩れそうで危機感
「そこを通しなさいよ! あんただって、このままじゃタダじゃすまないかも、なのよ!」
「フフ、それもいいじゃない」
「はぁ?」
「このまま、みんなで崩れてしまう。とても素敵なことじゃないの」
「イカれてるわね」
 ミアは吐き捨てる。
「フフ、そうね。でも、怪人なんてそういうものよ」
「……そういうもの、そういうものなのね」
 ミアは少しだけ納得する。
 理解しがたい考えも、人間と怪人と違う種族なのだから、と思えば少し割り切れる。

ゴゴゴゴゴゴゴ!!

 それよりも今はこの場の脱出だ。
「でも、こんなところで心中なんてごめんよ」
「それなら必死でかかってきなさい」
「こうなったら、ダメもとよ! 二人とも!!」
「「はい!」」
「最高の必殺技をぶつけるわよ! 気合入れなさい!」
「「はい!!」」
 スイカはレイピアを、シオリはバットを構える。
「ノーブルスティンガー!!」
「いっぱつぎゃくてんのラストイニング・ホームラン!!」
「Gヨーヨー、スピンクラッシャー!!」
 レイピア、バット、ヨーヨーによる必殺技三連発。
 この温泉場を吹き飛ばさんばかりの爆発が巻き起こる。
「休まない! 間髪入れずにもう一撃!」
「フフ、いいわね。大技打ち込んでも油断せずに畳み掛ける姿勢」
 いろかはいつの間にかミアの背後に回っていた。
「――!」
 ミアは後ろを向いたまま背後へヨーヨーを投げ込む。

バシィ!

 しかし、そのヨーヨーはいろかにあっさりと掴まれる。
「なッ!?」
「手グセが悪いわね。それが可愛いところなんだけど」
 いろかの嘲笑に、ミアはゾクリとする。
「わ、わあああ!?」
 ミアはもう一つヨーヨーを投げ込む。
「あらあら」
 しかし、それもあっさり掴まれる。
「く! でも、両手は塞がったわ!」
 ミアはニヤリと笑う。
 それが合図となって、スイカはレイピアで突き出す。
「ノーブルスティンガー!!」
 渾身の一突きを両手が塞がったいろかへ見舞う。
「フフ!」
 いろかは飛び、レイピアの上へ降り立つ。
「そんなッ!?」
「そよ風のような優しい剣ね」
「そよ風……!」
「褒めているのよ、フフフ」
 そう受け止めることはできなかった。

カキィィィィィン!!

 そこへシオリが撃ったボールが飛んでくる。
 両手にヨーヨー、足にレイピアで、もうこのボールは避けようがないはず。

ドスン!!

 ボールがいろかの横腹に直撃する。
「あ~」
 しかし、いろかはよろめくどころかダメージを受けた素振りも無い。
「油断したわね。ちょっと遊びすぎたわ」

パキィィィン!!

 掴んでいた両手のヨーヨーを握りつぶし、レイピアを足で叩き折る。
「「「――!!」」」
 武器がことごとく叩き折られ、戦慄を感じる。
 これまで感じていた力の差が恐怖となっていく。
(本気にさせてはいけない敵を本気にさせてしまった!)
 ミアは即座に窓へ向かう。
 こんな強敵とまともに戦うより、窓へ飛び込んだ方がマシだ。そう瞬時に判断したのだ。
「――逃がさないわよ」
 スルリと不気味な足音を立てて、ミアの前にいろかは立ちはだかる。
「く!」
「生き残る方策を即座にとるなんて、いい判断力ね。部下に欲しいくらいよ」
「はあ、バカ言ってんじゃないわよ! あんたの部下になるわけないでしょう!!」
 ミアは恐怖を振り払って、精一杯の啖呵を切る。
「――そう、残念ね」
 ゾクリ。
 背筋の凍りそうな微笑みを浮かべる。

ドスン!

 次の瞬間、いろかはミアを蹴り上げて、ミアは温泉に叩きつけられる。

バシャァァァン!!

 間欠泉のような湯柱が上がる。
「ミアさん!」
「よくも、ミアちゃんを!!」
 スイカはいろかへレイピアを突き出す。
 しかし、レイピアは中指と人差し指に挟まれてあっさり止められる。
「さっきと同じ踏み込みの突き、単調で工夫が無いわね、フフ」
「く……!」
 スイカは負けじとレイピアを突き出そうとするが、一切動かすことが出来ない。
 渾身の突きを指二本であっさりと止められて、文字通り手も足も出ない。
 これが九州支部長と自分の実力の差。あまりにも差がありすぎて遠すぎる。
(これじゃ、カナミさんのところへ行けない!)
「フフ、いいわね。恐怖や絶望ではなく悔しさで染まった顔よ。
美しいわね、魔法少女。素晴らしいわよ!!」

パキィン!!

 レイピアは折られる。
「まだ! まだまだ!!」
 腕に二本のレイピアを生成し、諦めず突き入れる。
 しかし、いろかには届かない。
 一回、二回、三回、十回……百回を数える程、突きを入れたにも関わらず、指一本で弾かれる。

パキィン!

 そして、事あるごとにレイピアを砕かれたり、折られたりする。
 砕けたレイピアの破片が雪の結晶のように舞い散る。それすらも、いろかの美しさ、気高さを演出する。スイカやシオリ、ミアはその引き立て役でしかない。
「く……!」
 スイカはとうとう膝をつく。
 レイピアを高速で生成して、攻撃するのは魔力と体力を相当に消耗する。しかも、レイピアは折られ攻撃が通じない事実がスイカを精神に追い詰め、消耗に拍車をかけている。
「もう終わりかしら? 終わりにしてしまいましょうか?」
 いろかの嘲笑が死刑宣告のように聞こえる。
「こんのおおおおおおッ!!」
 ミアが温泉から姿を現わして、ヨーヨーをいろかへ投げ込む。

パシィ

 しかし、いろかはヨーヨーを指で弾く。
「思ったより回復が早かったわね、それとも頑丈に出来てたかしら?」
「ハァハァ……!」
 温泉から出てきたミアは肩で息をし、激痛で小さな身体を震わせている。
「ミアちゃん、大丈夫?」
「うるさいわね、心配してる場合じゃないでしょ!」
 ミアは必死の形相で言う。
「で、でも……」
「今はどうにかしてここを逃げ出すのよ!」
「そんなこと……」
「できないと言わせないわ! あたし達は魔法少女なのよ!」
「う、うん!」
 スイカはレイピアを生成して立ちはだかる。戦うチカラはまだある。
「わ、私もまだやれます!」
 シオリもミアの激に応える。
「よし! じゃあ、あたしが合図したら窓に飛び込みなさい!!」
「え、窓に?」
 スイカは割れた窓を見て、呆気にとられる。
「いいから早く! ビビってたら、あたしが蹴落としてやるわ!!」
「は、はい!」
 三人のやり取りに、いろかは微笑む。
「作戦は決まった? あなた達の悪あがき、とても楽しみよ」
「バカにして……! 目にものを見せてやるわ!」
 ミアは十本の指にそれぞれヨーヨーをつける。
 十本の指に十個の魔法のヨーヨー、ミアのとっておきだ。
 十本のヨーヨーが生き物のように目まぐるしく、動き回る。
「スネーク・テンペスト!!」
 右、左、前、後ろ、上、下、四方八方からヨーヨーを襲い掛かってくる。

パン! パン! パン! パン! パン! パン!

 しかし、いろかはそのことごとくを弾いていく。
 手を添えたり、足で蹴ったり、その様は舞を踊っているようだった。
「あははは、楽しいわね!」
「この! おちょくってぇッ!」
 ミアは負けじとヨーヨーを駆使して襲う。

パン! パン! パン! パン! パン! パン!

 しかし、激しさは増すものの、いろかは平然とはじいては避けて一発も当たらない。
「今よ行って!」
 ミアは号令をかけて、スイカとシオリは窓に飛び込む。
「なるほどね」
 その様子を見て、いろかは得心を得る。
「二人を逃がすためにこんなことをしていたのね」
「まだよ! Gヨーヨー!!」
 巨大なヨーヨーをいろかの頭上へ下ろす。
「フフ、まるでくす玉ね!」
 いろかは巨大なヨーヨーを蹴り、ミアへ飛ばす。
「くッ!」
 ミアはすんでのところで、巨大なヨーヨーを避ける。

ズバシャアアアアアン!!

 再び湯柱を上げて爆発する。
「「「あぎゃあああああッ!!?」」」
 怪人達は巻き込まれて吹っ飛んでいく。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 それは原因かどうかはわからないけど、温泉場は再び大きく揺れる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

さくらと遥香

youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。 さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。 ◆あらすじ さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。 さくらは"さくちゃん"、 遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。 同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。 ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。 同期、仲間、戦友、コンビ。 2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。 そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。 イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。 配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。 さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。 2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。 遥香の力になりたいさくらは、 「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」 と申し出る。 そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて… ◆章構成と主な展開 ・46時間TV編[完結] (初キス、告白、両想い) ・付き合い始めた2人編[完結] (交際スタート、グループ内での距離感の変化) ・かっきー1st写真集編[完結] (少し大人なキス、肌と肌の触れ合い) ・お泊まり温泉旅行編[完結] (お風呂、もう少し大人な関係へ) ・かっきー2回目のセンター編[完結] (かっきーの誕生日お祝い) ・飛鳥さん卒コン編[完結] (大好きな先輩に2人の関係を伝える) ・さくら1st写真集編[完結] (お風呂で♡♡) ・Wセンター編[不定期更新中] ※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。 そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。 そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...