まほカン

jukaito

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第61話 親日! 親の心、魔法少女知らず? (Cパート)

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「きゃッ!?」
 スズミがカナミを突き飛ばして短剣から救う。

バサリ!

 しかし、短剣は代わりにスズミの腕を衣装の袖ごと斬った。

ピタピタ

「母さん、血が……!」
「これぐらい大丈夫ぅ、それより落ち着きなさぁい」
 血がしたたり落ちるほどの傷にも関わらず、スズミはあくまでいつも通りの調子で言う。
「………………」
 カナミはその助言通り、黙って冷静になろうと努める。
「さっきの短剣がシャドワールね」
 カナミが一言言うと、スズミはフフッと笑う。
 黒い影とスズミを斬るほどの魔力を持っている、となるとそれだけ敵は限られてくる。
「力づくでぇ駄目だったからぁ、得意の不意打ちにかかってきたんでしょうねぇ。
姑息で陰気で暗い彼らしいわぁ」
「なんだとぉぉぉッ!!」
 影が激昂し、大砲の姿に変わる。
「誰が姑息で陰気で暗いだぁぁぁッ!」
「挑発に乗りやすいわね」
 カナミは呆れる。

ドォォォォン!!

 しかし、シャドワールはお構いなしに大砲を発射する。
「大砲だったら、私が!」
 カナミはステッキを大砲へ変化させる。
「あ、カナミ、ちょっとぉ!」
 スズミは制止するけど、カナミは得意の大砲で応戦する。
「神殺砲! ボーナスキャノン!!」

バァァァァァァァァァン!!

 シャドワールの大砲を突き崩し、さらにシャドワール自身さえも飲み込む。
「ぎゃぁぁぁぁぁッ!!」
「よっしゃ! どんなものよ!」
 カナミはガッツポーズをとる。
「どんなものよぉ、はいいんだけどぉ」

ガラガラ

「……え?」
 ついさっきと同じように壁や天井が軋みを上げる。
 まさに「音を立てて崩れていく」の前段階である。
 さっきはシャドーワールの戦車砲やカナミの魔法弾で崩れた。今の神殺砲はその数倍の威力はある。
「さぁ、逃げるわよぉ」
 スズミはカナミの腕を引く。血で真っ赤に染まった腕で。

ドシャーン!!

 広場は二度目の大崩壊を起こす。
 逃げて行ったカナミとスズミは狭い廊下の先にある行き止まりで一休みする。
「ごめん、母さん……」
「なぁにがぁ?」
「私が油断してたから、母さんケガして……」
「私も油断してたからぁ、おあいこよぉ」
「私、母さんの足引っ張ってばっかで……」
「私はカナミの手引っ張ってばっかだけどねぇ」
「真面目に言ってるのよ!!」
 カナミは激昂する。
「母さん、なんで……私に手伝ってもらおうと思ったの? 私、母さんみたいにうまくやれないよ……」
「そんなの私だってぇそうよぉ」
 スズミは答える。
「うまくやってたらぁ、こんな地下におとされなぁい、腕も斬られてなぁい」
「でも、腕は私が、」
 それ以上言わないようにカナミの口元に指を立てられる。
「失敗は連帯責任でぇ。気づかなかった私もぉ間抜けだったということでぇ」
「母さん……」
「それにぃ、カナミのおかげであいつにぃ、かなりダメージを与えられたぁみたいだからぁ」
「ダメージ? 倒したんじゃないの?」
「まだ倒しきれてないわねぇ、まだ気配がするわぁ」
「……どうやったら、倒せるの?」
 シャドワールは影そのものといった感じだ。
 魔法弾や鈴を当てて、表面の影を引き払われても、シャドワールを倒せない。
「今と同じ方法でいいわよぉ」
「同じ方法って……」
「もう一発カナミがぁ、神殺砲でぶっ飛ばしちゃえばいいのよぉ」
「そ、そんなんで倒せるの?」
 いまいちピンと来なかった。
「大丈夫ぅ、カナミなら倒せるわぁ」
 スズミはあっさりとそう言ってくる。
 その口調はいつものように間延びして、ゆったりとしたものだけど、不思議と力強さと勇気をくれるようなそんな母の一言。
「母さんにはかなわないわ……」
「フフ、母はつよしぃ」
 得意げに言う。その言葉とは結び付かないくらい幼く、その仕草は三十を超えているのが信じられないぐらい少女のように可愛らしかった。
「でも、どうするの? あいつ、見失っちゃったけど」
「母さんに任せなさいなぁ。見失っているけどぉ、彼の呼吸はちゃんと掴んでるわよぉ」
 スズミは胸をドンと叩く。その大きな胸が弾んで、思わず頬を赤らめる。
「今がチャンスねぇ、追いかけるわよぉ」
「追いかけるって?」
「言ったでしょぉ、もう一発撃てば倒せるってぇ」
「でも、母さん血が……」
 カナミはスズミの負傷した腕を指差す。
「もう止まってるわよぉ」
 スズミはブンブン振る。しかし、カナミの方は気が気ではない。
「チャンスは今なのよぉ。さぁ、いくわよぉ」
 スズミはカナミを引っ張る。血に染まったその腕で。
 スズミは少しも痛がる素振りも無く、笑顔でいるのでカナミも安心できた。
 二人で手を繋いで暗闇の廊下を歩く。
「シャドワールはどこ?」
「確実に近づいてるわぁ、でも、向こうも私達に気づいてるでしょうねぇ……
私達はあいつを倒したいぃ、あいつは私達を倒したいぃ。二つの想いはいずれぇ衝突することになるわぁ」
「その時に一発ぶちこむっていうのね」
「ええぇ」
 スズミは首肯する。
 問題はその時に備えて、気を張り巡らせておくことだ。
 いつまたさっきみたいに、短剣で不意打ちしてくるかわからない。いや、短剣程度ならまだいい。地下を崩落させるような威力を誇る大砲をいきなり撃たれたら一巻の終わりだってありうる。
 そうならないために、気は抜けない。
「カナミィ、落ち着いてぇ」
「母さんはのんびりしすぎよ」
 しかし、実力は自分よりも遥か上で、ついつい頼りにしてしまう。
 赤い腕を見る度に胸が痛む。いくら出血は止まっているとはいえ、自分がいなかったら負わずに済んだ傷。あの傷の分だけの働きをしなければ、と腕に力を込める。
「リラックスゥ、リラックスゥ」
 そんなカナミの気持ちを察してか、気の抜けるような言葉をかける。
「……シャドワールまであとどのくらい?」
「あと五分ぐらい。走ったら一瞬ねぇ」
「でも走っちゃダメなんでしょ?」
「フフゥ、廊下ははしらなぁい」
 焦りは禁物、そう言いたいのだろうけど、やはり気が抜ける。
「シャドワールの周囲に五体の怪人がいるわぁ、それにもう三体集まっているわぁ」
「ここの怪人と手を組んだみたいね」
「まぁ、私達を始末したいわけよねぇ」
「合計九体」
 カナミはステッキを握りしめる。
「私とカナミのコンビなら楽勝よぉ」
 スズミがそう言ってくれるのは心強い。
 そして、二人は十字路に分かれた廊下に着く。
「ここもここでぇ、襲うには絶好のスポットよねぇ」
 三つの道から二体ずつ合計六体の怪人が姿を現す。
 そして、カナミ達が元来た道から一体怪人が出てくる。
「コソコソつけてきていたわけねぇ」
 もちろん、スズミにはバレバレだったようで全く動じていない。
「囲まれちゃったわねぇ」
 二人で背中合わせにしていても、道は四つ。到底足りないけど、今は二人でなんとかするしかない。
「シャドワールが隙をうかがっているわぁ、油断しないでぇ」
「わかっているわ」
「あと神殺砲もぉ、あいつが姿を現すまでとっといてぇ」
「それもわかっているわ!」
 カナミがそう返事をすると、怪人達は一斉に襲い掛かった。
「ベルディストラクト!」
 スズミは鈴を投げ込んで、瞬く間に一体の怪人を潰す。

チリリリン!

 その鈴から発せられる音色がもう一体の怪人の身体を破壊する。
「ギャァァァァァァッ!」
 あっという間に二体の怪人を倒してしまい、道が出来る。

キィン!

 一方のカナミは仕込みステッキで怪人の剣を応じる。

キィン! キィン! キィン!

 三合斬り結んで、カナミは怪人の剣技を見切った。
「仕込みステッキ・ピンゾロの半!」
 怪人を倒し、もう一人の怪人が襲い掛かってくる。一歩退く。
「カナミィ、こっちぉ」
 スズミが手引きし、倒した怪人を踏み分けて、開けた道へ進む。
 残った四体の怪人が必死に追いかけてくる。
「シャドワール、出てこないわね」
「隙を伺ってるんでしょうねぇ。四体の怪人の後ろを行ったり来たりしてるわぁ」
「神殺砲で一気にぶっ飛ばしたいわ」
「そうなったらぁ、私達は生き埋めだしぃ、かわされるわよぉ」
 歯がゆかった。
「そういえば、母さん。あと一体怪人がいるんじゃないの?」
「それならぁ、すぐそこまで迫っているわぁ」
「はあ!?」
 目の前にオークのような巨体の怪人が棍棒を振り回してくる。

ドゴォン!!

 狭い廊下の壁を打ち砕き抜いた。

ズサズサ

 のっそりした足取りでカナミ達に近づいてくる。
 スズミは鈴を鉄球のように投げつける。

チリリリン!

 オークはそれを受け止める。
「うぅん、馬力はあるみたいねぇ、――でも!」
 その鈴から発せられる音波が、オークの身体を破壊する。
「グオォォォォォォッ!」
 オークは悲鳴を上げる。

バァン!

 その時、スズミ達の背後、つまりカナミ達が元来た道から銃声が鳴り響く。
 それは黒い砲弾だ。
 シャドワールの身体が丸ごと一発の砲弾となって、スズミへ襲い掛かったのだ。
「これで仕留めたぜぇぇ!」
 シャドワールの砲弾は唸りを上げて、スズミへ一直線へ飛ぶ。
「ジャンバリック・ファミリア!」
 そこへカナミがステッキの鈴から魔法弾を撃ち、砲弾を弾く。

バキィン!

「な、なにぃぃぃぃ!?」
 シャドワールの砲弾は弾かれて、壁へめり込む。
「なぁいす」
 スズミは笑顔で言う。
「「「お、おぉ……」」」
 怪人達は恐れて、一歩退く。
 シャドワールの今の一撃で自分達を倒すつもりでいたのだろう。それが外れてどうしていいのかわからない状態だ。
「お、おのれぇぇぇッ! 邪魔が入らなければ! お前を、仕留められたのにぃ!」
「それはどうだったかしらねぇ、あなたはカナミを見くびりすぎたのよぉ」
 壁に打ち付けられた砲弾をスズミを見下ろす。
「カナミは私の自慢の娘だからねぇ」
「母さん、あんまり恥ずかしいこと言わないでよ」
 カナミは言い返す。
 スズミは鈴をシャドワールへ落とす。
「ぐおぉぉぉぉッ!?」
 悲鳴を上げ、シャドワールは一目散へ逃げる。
 傷だらけで息もだえだえになっているオークの巨体の影へ隠れる。
「カナミィ、今よぉ」
「神殺砲! ボーナスキャノン!!」
 母の合図を受けて、何の躊躇いも無く撃つ。

バァァァァァァァァン!!

 砲撃はオークの巨体に一切遮られることなく、それごとシャドワールへ飲み込む。
「ギャァァァァァァッ!!」
 それがシャドワールの断末魔になった。
「うぅん、お見事ねぇ。ちゃんと仕留めたわよ」
「はあ……」
 カナミは一息つく。
「落ち着くのはぁ、まだ早いわよぉ」

ガラガラ

 嫌な音が聞こえた。
「ああ……」
「二度あることはぁ、三度あるっていうしねぇ」
「嫌な言葉ね……」
 カナミはうんざり気味に言う。

ガシャーン!!

 そして、三度目の崩落が始まる。
「ひ、ひぃぃッ!!」
 残った三体の怪人も崩落に戸惑う。
「ほらほら! 生き埋めになりたくなかったらとっとと逃げなさい!!」
 カナミの号令とともに怪人達は逃げる。
 当然、カナミとスズミも生き埋めはごめんだったから逃げた。



 辛くもシャドワールを倒して、地下の崩落から脱出出来た。
 地下の出口でテンホーが待ち構えていた。
 ここで雌雄を決するのかと、カナミは身構えていたけど、テンホーとスズミは睨み合って、ただ微笑み合うだけで外へ出ることになった。
 正直、かなみの目からして二人ともかなり不気味だった。
「あ~散々な目にあったわ……」
 外に出た途端、安心したのか一気に疲れが押し寄せてきた。
「おつかれぇ~、かなみのおかげでぇ、お仕事達成よぉ」
「あ! あの影の怪人倒したからボーナスが入るのよね!」
「そうねぇ」
「確か五十万だったわよね!」
「そうねぇ」
「しかも円じゃなくてドル!」
「そうねぇ」
「円にしたら、どのくらいなのかしらね! 借金返済に二歩も三歩も前進よ!」
「あ、でもぉ、受け取りは向こうへ行かないと無理なのよねぇ」
「……え?」
「でもぉ、母さんはしばらくこっちでぇゆっくりしたいからぁ」
「さっさと向こう行って受け取ってよ!」
「向こう行ってぇ、って言われると傷つくわねぇ」
 涼美は困り顔で言う。
 あんな血が出るような傷を負っても平気だと言った母が、自分の何気ない一言で傷つくなんて不思議なものだ。
「それにぃ、パスポートはぁ地下でおっことしちゃったしぃ」
「……え? 母さん、今なんて?」
 かなみは訊き返す。
「受け取りは向こうへ行かないと無理なのよねぇ」
「じゃなくて! パスポートおとしたってどういうこと!?」
「それがねぇ、ポケットにしまっておいたパスポートがなくてねぇ」
「なんだって、そんな大事なもの戦いに持ってくるのよ!?」
「いつでもぉ外国に連れていかれてもぉいいようにぃ」
「母さんを誘拐できるような奴いないでしょ」
「あるみちゃんならぁそういうことしてくるわよぉ」
「た、たしかに社長ならそういうことできると思うけど……じゃなくて! どうするのよ、地下でおとしたって!?」
「どうしましょうねぇ?」
 涼美は笑顔で首を傾げる。
「外国にいけないんじゃ、ボーナス受け取れないじゃない! 私は嫌よ、あんな地下まで探しに行くの!」
「うぅん、気長に待ちましょう」
「そんな気長に待ってられないでしょ! ああ、どうするのよ!!」
 かなみは頭を抱える。
「まあぁ、なんとかなるでしょぉ」
 母のお気楽さがうらめしく、うらましく思えた。
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