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第45話 夜会! 母と娘をつなぐ一条の光よ走れ! (Bパート)
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マニィが持っていた資料によると、公民館は大きく分けて、会議用の広間が二つと、備品庫が二つと、和室が一つある構造になっている。
かなみとみあ、涼美に分かれて、それぞれ備品庫に隠れて様子を見ることにした。
ひとまず裏口から入ってみると思いの外、楽に備品庫までいけた。みあの話からすると「怪人はずっと広間から動かない」らしい。
「ここまでは順調ね」
「みあちゃんがいてくれて助かったわ」
自分と涼美だけだとこんなに簡単に潜入はできなかっただろう。
「じゃあ、ボーナスの分配は七三ね」
「ちょ、七は取りすぎよ!」
「声が大きいって言ってるでしょ」
かなみは慌てて口を塞ぐ。
「みあちゃん、分配のことは帰ってからゆっくり話しましょう」
「……いいわよ、なんなら八ニでもいいし」
「増えてる!?」
「だから声が大きいわ」
「うぅ……」
なんだか、みあにからかわれているようで面白くなかった。
そうこうしているうちに、時間は過ぎていく。
日はすっかり落ちて窓からの光も無くなって、灯りの無い備品室は真っ暗闇になる。
「みあちゃん、どう?」
みあは手を振る。
「ダメね……広間にいる連中も動かないし、集まってくる気配も無い」
「うーん、本当にパーティはあるのかしら?」
「まあ、四体で慎ましくパーティするって可能性もあるけど、あんた、ちゃんと撮影出来るの?」
「バッチリしてみせるわ」
「不安だわ、見つかったりしたら袋叩きよ」
「そ、そう言われると……」
「やっぱり不安なのね」
「え、ええ……あ、そうだ!」
かなみは備品庫の棚を物色する。
「何やってんの?」
「これこれ」
「ん?」
「特撮怪人のきぐるみよ」
「なんでこんなものがここに?」
「多分、町内会の出し物で用意した物だと思う」
「よくやるわね、そういうこと。
でも、大丈夫なの? それ、大の大人用じゃないの?」
「うーん、とりあえず着てみるわ」
「なんていうか、そのとりあえずやってみる精神って危ないわね……とりあえずお金借りて借金作ろうって感じで」
「とりあえずで借金はできないわよ!」
かなみはみあの相手をしながらきぐるみを着る。
「結構簡単にできるものね」
みあは感心する。
「うーん、ちょっとぶかぶかだけど着れないことはないわね」
かなみは腕や足を動かして、感触を確かめてみる。
「うん、なんとかいけるわね」
「あんた、何気に凄いわね」
みあは感心する。
「そういえば、それ……」
「ん、この着ぐるみがどうかしたの?」
「これ、『歌う刑事サツバン』の怪人ギンコウナンダーじゃないの」
「う、歌う刑事……? 銀行!?」
「『歌う刑事サツバン』! 二十年前に打ち切りになった伝説の特撮番組よ。
歌で犯人を逮捕して世界の平和を守るって話なんだけど、捜査の最中だろうが、戦いの最中だろうが、とにかく急に歌いだして、事件を解決させる強引なストーリーなんだけど、一話につき最低一曲は新曲を出す謎のこだわりがマニアに受けて関連CDは上々の売上を記録したけど、たまに出す放送コードギリギリを攻める歌詞がつまった悪の組織側の曲は子供達が変な歌は覚えるっていうわけで、親からは非難殺到でとうとう打ち切りになったわけ」
「ちょちょ、ちょっとまって! そんなに言われてもわからないわよ」
「ちなみに、その怪人ギンコウナンダーは記念すべき第一話で銀杏の臭さで銀行員を気絶させて人質にとった卑怯な怪人よ」
「うわぁ……」
思わず着ぐるみを脱ぎ捨てたくなるような話であった。
「そこで新人刑事の舞村歌助まいむらかすけが提案するから任せろって」
「あの、み、みあちゃん……?」
話についていけず、かなみは止めようとする。
しかし、スイッチが入ったみあは止められない。
「それで歌助がとった行動は、歌で注意を引きつけると見せかけて、そのまま逮捕するって作戦なわけ。
んで、その作戦を実行した時に歌ったのが『小便、大便、大変だ―』って曲でね、これがまた親から顰蹙を買うような凄まじい歌でね。まあ、おしっこ、うんこを連呼するような歌詞だから無理もないんだけどね」
(……いつまで続くんだろうこの話)
かなみは母を呼び出して助けを求めたかった。
いや、母のことだから真面目に聞いて「へえぇ」とか「そうなのぉ」とか適度に相槌打っていつまでも話を続けさせそうで怖い。
「あ、みあちゃん!」
「何よ、ここからいいところなのに」
「みあちゃんはこっちの着ぐるみを着たらどう?」
「はあ、あたしも着るわけ?」
「怪人が好きなみあちゃんも着ぐるみ着たいかなと思って」
「何言ってんの、あたしは別に怪人が好きなわけじゃないわよ」
「……え?」
かなみの目が点になる。
「で、でも、あんなに楽しそうに話してるんなら……」
「好きじゃなくてもこれぐらいは常識でしょ、フツー」
「え、えぇ……」
かなみは言葉を失う。
(み、みあちゃんのフツーって一体……?)
「あ、これ、特小怪人イタズラッコじゃないの。つくづくマニアックね」
みあは子供用と思われる小さな怪人の着ぐるみを見る。
「イタズラッコ?」
「子供は少年院に送られるんだけど、大人に比べて罪が軽いのは知ってるでしょ?」
「え、ええ、聞いたことは有るけど」
「そういうことを最大限に利用したのがイタズラッコ。怪人として倒される前にわざと警察に捕まって少年院に入って短期間で戻ってくる計画的な凶悪怪人なのよ」
「な、なんだかせこいわね……」
「まあ、否定はしないわ。そういったせこい怪人も『歌う刑事サツバン』の魅力だしね。ま、この放送回は刑事が怪人とはいえ子供を歌いながらボコボコにして改心させる内容だったから警察や親から苦情殺到する内容だったけどね」
「ば、バカなのね」
「でも、あたしは好きよ。このイタズラッコ、凄く生意気でイライラしてたからボコボコにされてスカッとしたし」
「みあちゃん……そういう感想はどうかと思うわよ」
「というわけで、あたしはパスね」
「ええ、サイズはピッタリそうなのに」
「なんで、ムカつくこいつの着ぐるみを着なくちゃいけないのよ。あたしはかなみと違って上手く隠れられるし」
「そんなこと言って……見つかったら、ボーナス全額私がもらうからね」
「あ、いいわね、それ! 先にかなみが見つかったら全額あたしがもらうわよ」
「え、えぇ……さすがにちょっと、それは……」
「何よ、そっちからふっかけてきておいて」
「だけど……」
「いい? 賭けっていうのはね、相手と同じ条件じゃないと成立しないのよ」
「同じ条件って……私とみあちゃんじゃ、資本力が違いすぎるよ」
「これが資本主義社会ね」
みあは何故か得意顔で言う。
「で、どうするの? 乗るの、降りるの?」
「ん、ん……?」
かなみは迷った。
勝てばボーナス全額もらえる。その言葉はあまりにも魅力的で、賭けに弱いかなみでさえ降りるのを躊躇うほどであった。
「かなみ、メールだ」
マニィがヒョイッと出てきて、携帯を出してくる。
「こんなときに誰からよ」
「涼美」
「なんで母さんが?」
かなみはそう疑問に思いつつ、メールを開ける。
『ボーナスがかかってるなら絶対勝負よ。
大丈夫、かなみなら勝てるって母さん信じてるから』
「……なんで、知ってるの?」
かなみは涼美がいる備品庫を見る。
「母さんの方まで聞こえてるのかしら?」
そうなると、この会話のやり取りが怪人に聞こえていないか心配だ。
「多分大丈夫だよ」
マニィが言ってくれる。
「どうして?」
「涼美の聴覚は魔力で強化されているから数キロ先の小声すら拾うことが出来るんだ」
「……え、じゃあ、この会話も全部かなみの母さんに聞こえてるわけ?」
「そうだね」
「はあ……なんか居心地悪いわね」
「怪人が集まる場所に隠れているんだから居心地を求めるのも間違ってるけどね」
「え、じゃあ、何それじゃ私が感知魔法使わなくても、あの人は怪人がいるのかもわかるってことじゃない? 足音とか声を聞いたりして……」
「あとは心音だね。来葉からは人間ソナーだって言われてるよ」
「ウシシシ、お嬢の心臓の高鳴りもちゃんと聞き分けられてるぜ」
「だ、誰が高鳴ってるって!?」
「母さん……なんでそんな凄い事隠していたのかしら……?」
多分「訊かれなかったからぁ」としれっと答えるだろう。
「んで、結局勝負するわけ?」
「あ……う~ん……」
かなみはもう一度メールを見てみる。
『大丈夫、かなみなら勝てるって母さん信じてるから』
母からこんなことをいわれると自然と勝てる気がしてくるから不思議だ。
「よし、その賭けに乗ったわ!」
「フフン、後悔しても遅いわよ」
そう言って、みあは着ぐるみを着始める。
「みあちゃん、それ……? 好きじゃないから着ないって言ってたのに……」
「勝つためならこれぐらいするわよ」
「……本気なのね」
改めて、みあ相手に無謀な勝負を挑んでしまったのではないかと思う。
とにかくみあは器用なのだ。扱える魔法のバリエーションは自分達の中でダントツに多い。
「ん?」
「みあちゃん、どうしたの?」
「あんた、感じないの?」
「感じるって何が?」
「怪人よ。凄い数が凄い勢いで来てるのよ!」
「えぇ!?」
「今、街に入ってきたわ」
「うーん……」
かなみはみあほど感知できるわけじゃない。
街一帯の怪人を感知はできないから、事態に気づくまで少し時間がかかった。
「す、凄い数……」
魔力で怪人を感知するのは言葉で形容し難いが、耳で言うなら足音が、目で言うなら人影が、おびただしい数がやってくるのを見るように聞くように感じてしまう。
「十……百……ううん、千ぐらい?」
「まるで戦争の時みたいね。何、パーティってこれから戦争で始まるつもり?」
「さ、さあ……」
確かにこの間の戦争のときもこれだけの怪人の数を感じた。
とても、この公民館に収まる数じゃない。
怪人のパーティイコール戦争という解釈もできるが、できればそのあては外れて欲しいとかなみは祈った。
「母さん、このことに気づいてる?」
「当たり前でしょ。話を聞く限り、耳がいいおかげで感知能力はあたしより上よ」
「みあちゃん、そういうところは素直なのにね」
「どういう意味よ?」
みあが睨んできたのが着ぐるみ越しでも感じた。
「一緒にご飯食べたい時は素直に言ってくれるといいのにと思って」
「べ、別に一緒に食べたいって思ったこと無いし! それより、上手く怪人に化けなさいよ!」
「う、うん……」
「こうなったら、どっちが先にバレるかなんて言ってる場合じゃないわ。足引っ張ったらタダじゃおかないわよ」
そう言ったみあは可愛い妹ではなく頼もしい先輩の顔になっていた。
「が、頑張る……」
「力を抜いて魔力は抑えて、あんたのバカ魔力はいるだけで目立つから」
「う、うん……」
「深呼吸」
「すーはー」
「腹式呼吸」
「ひ、ひ、ふうー」
「ついでにエラ呼吸も」
「え、え、エラ呼吸なんてできないよ!」
「よし、いい具合に力抜けたわね」
「これって意味あるの?」
「意味あるからやってるの。これで一応、怪人ギンコウナンダーとして格好がつくようになったわね」
「そ、そうなの?」
かなみは不安を隠せないでいた。
ブオオオオオオオオオオン!!
そうこうしているうちに、けたたましいエンジン音が辺り一帯に鳴り響く。
「うわあ、なにこれ!?」
「来たわね。パーティの始まりってところね」
心なしかみあの声が少し弾んでいるような気がする。
鼓膜を打ち破るようなエンジン音が響き渡り続ける。
なんだって、エンジン音が鳴るのだろうか。怪人が集まってくるのだからドスンドスンと地鳴りのような足音の方がしっくりくるはずなのに。
(これじゃまるで……)
「――族ね」
「ええ、暴走族みたい」
「パーティって、暴走集会のことなのかしら?」
「ぼうそう、しゅうかいってなに?」
「あんたは知らなくていい。――出るわよ」
「え?」
着ぐるみを来たみあは備品庫を出る。
かなみはその行動に戸惑ったが、みあに従って後に続く。
広間まで行くと、そこには怪人がたくさん集まっていた。広間を埋め尽くさんばかりの数で、それはもうギュウギュウ詰めであった。
(す、凄い数……!)
着ぐるみを着ているおかげか、はたまたさっきのみあの助言のおかげか、怪人達は自分達、人間が混ざっていることに気づいていないようだ。
(これならバレないで済みそう……)
安心した途端、別の備品庫で待機していた母のことが気になった。
(母さん、大丈夫かな?)
普段は少し頼りないところはあるけど、こと魔法少女に関してはあるみと肩を並べるほど頼もしいはずだから問題はないと思う。でも、それはそれとして心配なものは心配だ。
何しろ、これだけの数の怪人が一同に集まっているのだから。
敵である魔法少女が紛れ込んでいるとなれば、袋叩きどころか生命は無いものと思っていい。
(うーん、やっぱり心配だわ……)
かなみは抑えきれずに、母が待機している備品庫に行こうとする。
「あ~凄い集まっているわね」
そこへ涼美は現れた。
「か、かかか!?」
思わず「母さん!?」って声を上げそうになったのを必死に抑えた。
何しろ、広間を埋め尽くさんばかりの怪人がいる中で颯爽と現れたのだ。
いや、一応仮装はしている。本人は変装だと言い張るだろうが。
顔には黒マスク、胸元が露出し、へそまで出した大胆なドレス風の衣装に、太ももが見えるスリット入りのスカート。一見すると痴女とも取られかねない露出を誇るコスチュームを涼美は楽しそうに着こなしている。
しかし、かなみには見覚えがあった。こういう格好する女性に。
「……悪の組織の女幹部」
いつの間にか隣りにいたみあはボソリと言う。
しかし、かなみもそう思った。何しろテンホーや九州支部長のいろかもこういった格好している。だから、それを見習ってのことだろうが、大胆というか怖いもの知らずというか。
娘のかなみからすると、「歳を考えてよ、母さん!」と叫びたい気持ちで一杯だった。
「すげえ……」
近くの怪人が涼美を見て呟いた。
もしかして、早くもバレたのか。かなみは焦った。
「美人だ。さぞ名のある怪人だろう」
「いや、知らないな。この関東であれだけの美貌を持つ者となると……」
「関東支部幹部・テンホー殿か」
「しかし、テンホーは和服と聞いている。何より先の戦争で戦死なされたと」
などと、ヒソヒソ話が聞こえてくる。
どうやら話の内容を聞く限り、涼美が魔法少女だということはバレてないようだ。それどころか、幹部と人違いされる始末。なんだか複雑な心境であった。
――これは一言言ってやらないと!
かなみはその衝動に動かされて、涼美の元へと歩み寄る。
「母さん……」
「あら、ギンコウナンダーさん」
「ふざけないでよ。何なのその仮装?」
「え~、結構いけてると思うけど」
確かに実際いけている。周囲の怪人からの視線が集中している。
しかし、母がこんな痴女じみた仮装をしているのは娘としては気が気ではいられない。
「っていうか、なんで普通に喋ってるの?」
今のやり取り、いつもの涼美の間延びした口調ではなくごく普通のテンポで喋っていた。
「そうでもしないと変装にならないでしょ」
涼美は当たり前のように答える。
「いや、それが普通に出来るなら、普段からそうしてよ」
「あれがお気に入りだから無理よ」
「……この人は!」
かなみはワナワナと震える。
色々言ってやりたいことがたくさん出てくる。
「ま、お互い頑張りましょう。せいぜいバレないようにね」
涼美はそう言って手を振りながら去っていってしまう。
彼女が歩く度に怪人の注目を浴びる。
「なんで、母さん……あんなに自由なのかしら……?」
「ま、親に関しては同情するわよ」
みあはポンポンと着ぐるみを叩いてくれる。
「ところで、ちゃんとカメラを回してる?」
「う、うん……」
かなみは右手にさりげなく持ったカメラを見せる。
このカメラは今録音状態で、この集まりの様子がちゃんと伝わるようになっている。
「これにあたしのボーナスがかかってるんだから」
「私のだよ!」
かなみとみあはすっかりいつもの調子で会話を繰り広げてしまった。
「あ……」
それに気づいて、辺りを見回す。
大丈夫、怪人達は涼美の方が気になっていて、自分達の方に目が向いていない。
これなら自分達が魔法少女だと気づかれる心配はない。
(ひょっとして、母さん……自分が囮になるためにわざわざあんな格好に……?)
「いやいやいや!」とかなみは頭を振って否定する。
あれは絶対に自分が楽しむためにやっているんだ、そうに違いない。とかなみは自分に言い聞かせる。
しかし、改めて見渡すとこの怪人の数は異常であった。
以前かなみはこれだけの怪人に取り囲まれたことはあった。
あれは戦争という特殊な状況下だったから、怪人が大軍で押し寄せてくるのもさして不思議ではなかったが、今はそういったわけでもなく、この公民館が怪人のアジトだったということもない。にも関わらず、これだけの怪人が一箇所に集まっているのは異様な感じがした。
「そこでパーティが開かれてるみたいなのよ」
あるみの言葉を思い出す。
確かにこの集まりはパーティといっていいし、この状況でかなみが魔法少女だとバレたら袋叩きにあうのは目に見えている。七回死ぬというのも決して大げさな話ではないと思えてきた。
そこまで考えると震えてきた。
(落ち着いて……ちゃんと撮影するだけでいいから……大丈夫バレないから……)
そう自分に言い聞かせて震えを抑えた。
「あれ、みあちゃん……?」
ふと、隣りにいたみあがいなくなっていることに気づく。
「みあちゃん、どこ……?」
かなみはキョロキョロ辺りを見回す。
見回してみると、みあの姿はあっさり見つかった。
何やら背丈の高い魚のような怪人と話をしている。
(凄い……自然に溶け込んでいる……)
その会話はとても着ぐるみで返送している魔法少女が中に入ってるとは思えなかった。
ひとしきり会話を終えたのか、「じゃあ」とみあことイタズラッコは手を降って魚のような怪人と別れる。
「何話してたの?」
さっそくみあに訊きに行く。
「今日が何の集まりか、よ」
それはかなみも知りたかったことだ。
「訊けたの」
「もちろん。どうやらこれは最高役員十二席を決めるパーティみたいなの」
「最高役員!? それって……」
「あたしも話に聞いただけなんだけど、支部長のさらに上の幹部みたいね」
「うん、来葉さんから聞いた。そういう上の存在がいるって……」
「まったく、随分と構成員に厚みのある悪の秘密結社よね。こっちは支部長にだってまだ勝ったこと無いのに」
「というより、勝負にすらならなかったよね」
「ムッ!」
着ぐるみ越しだけど、みあが不機嫌になったのはわかる。
でも、本当のことなのよね、と心のなかでぼやく。
正確には、勝負にすらならなかったのだが。
かなみだって、あのときの悔しさはよく憶えている。あの時は絶対に勝てないと思ったけど、今なら少しぐらい戦えるかもしれない。
ただ、その更に上の最高役員十二席となると想像もつかない。
一体どんな恐ろしい敵なのか……
「このパーティでそいつが顔を出すのかもしれないわね」
「……え?」
「これだけの怪人が集まるんだから、顔を出してもおかしくないんじゃない」
「そ、そうかな……」
「それにさっきのやつの話からすると本当のパーティはこれからみたいよ」
「え……?」
かなみがキョトンとした次の瞬間には、
「――野郎ども!!」
広間の壇上にあがった『暴走野郎』と書かれた特攻服を着た怪人が号令をかける。
「今夜はよく集まった! 最高役員十二席が一人・音速ジェンナ様の呼びかけによく応じた!!」
「オオォォォォォォォォォォォォッ!!!」
怪人達は雄叫びを上げる。
――最高役員十二席が一人・音速ジェンナ
それが今回のパーティの主催者。
「今夜の力の限り走り、そして、俺達の力を見せつけてやろうぜ!」
「オオォォォォォォォォォォォォッ!!!」
耳をつんざくような歓声。
耳を魔力で防御していなかったら鼓膜は確実に破られていただろう。
それどころか、聴覚を破壊するような魔法の声を出す怪人もこの中にいるかもしれないのでこういう防御はやっておいてよかったと、かなみは思う。
「音速ジェンナ……」
初めて聞く名前だ。
一体どんな怪物なのか、このパーティに現れるのか。
そもそも本当のパーティとは一体何なのか。付近が住宅街ということもあって、血みどろなものを想像せずにはいられなかった。
もし、かなみの想像しているとおりのパーティだったら……なんとしてでも阻止する。
たとえ、今回の目的が戦うことでないにせよ、ボーナスが貰えなくなるにせよ。人の血が流れるようなことが起きては絶対にいけないと思う。
「あんた、無茶なこと考えてるでしょ?」
そんな考えをみあはあっさりと看破した。
「そ、そんなことないけど……」
「バレバレよ。パーティのこれからが怪人の破壊活動だっていうんなら、絶対に阻止するって思ってるでしょ」
「そ、それは……」
「こんなところで、怪人が大暴れしたらさぞ被害が出るでしょうね、それこそ死人もいっぱい出るんじゃないの」
「みあちゃん! 今回の目的は戦うことじゃないってのはわかってるけど……」
「戦うんでしょ、あたしだって同じ気持ちよ」
「……え?」
「あたしだって、正義の……いや、なんでもないわ」
イタズラッコことみあは、去っていく。
「え、みあちゃん?」
そこはちゃんと言ってほしかったと思うかなみであった。
(それなら私だって……!)
かなみは拳を握りしめる。
音速ジェンナ、たとえどんな強敵だろうと立ち向かってやる。その決意を宿らせて。
「よおし、野郎ども! いくぞぉぉぉぉ!」
「オオォォォォォォォォォォォォッ!」
「さあ、パーティの始まりだぜぇぇぇぇッ!!」
そう言って特攻服の怪人はどこからか持ってきたバイクに乗り込む。
グルングルン!!
エンジンがかき鳴らされる。
さっき鳴っていたけたたましい音の一部であった。
「え、え、えぇ……!?」
かなみは大いに戸惑った。これから何をするつもりなのだろうか。
やはり、予想したとおり、周囲を暴れまわるのだろうか。だったら、たとえ今回の仕事内容に含まれていなくてもなんとしてでも止めなければならない。
かなみは着ぐるみを脱ぎ捨て、すぐにでも変身しようとした。
その時、かなみの手を止めるように特攻服の怪人が再び号令をかける。
「てめえら、マシンは用意したかぁぁぁッ!!」
「オオォォォォォォォォォォォォッ!」
怪人達も雄叫びを上げて応える。
「マ、シン……?」
「何だ、お前知らなかったのか?」
戸惑っているかなみに隣のリーゼントの髪型をした二足歩行しているワニみたいな怪人が声をかけてくる。
「え、えぇ……マシンって何ですか?」
「走るためのマシンだよ。これから高速を走るからな」
「こ、高速……?」
「やれやれ」といった感じでワニみたいな怪人はため息をつく。
「お前みたいなヤツのために俺が予備のマシンは用意しておいてやったんだ。――来い」
「は、はい……」
戸惑いながらもかなみは案内してくれるみたいなのでついていく。といっても、実際は外に出ていただけであったが。
「こいつに乗りな」
そう言ってワニみたいな怪人が見せてくれたのは、バイクであった。
「え、で、でも……」
かなみはバイクの運転は出来なかった。ましてや、今は着ぐるみを着ている状態なのだから余計に「乗りな」と言われてもどうすることも出来ない。しかし、出来ないのであれば疑われるかもしれない。どうしたものか、とかなみは困り果てた。
「なんだよ、お前。こいつの扱いを知らないのか?」
呆れたように問いかけてくるワニみたいな怪人にかなみは頷くしか出来なかった。
「しょうがねえな、俺のケツに乗れよ」
「……え?」
ワニみたいな怪人がバイクに乗って誘ってくる。ようするに二人乗りをするということだ。
二人乗りなら翠華と何度かしてもらったことがあるから、着ぐるみ越しでもなんとかなりそう。ただ、向こうは味方だと思っているとはいえ、怪人に運転を任せていいのだろうか。
「おう、そういや。名乗っていなかったな、俺はダイン。よろしくな」
「は、はあ、よろしくお願いします」
かなみはペコリとお辞儀する。
「変わった奴だな、お前。なんて名前だ」
「あ、え……?」
かなみは戸惑った。
まさか、本名を名乗るわけにもいかない。ましてや魔法少女カナミだなんて言えるわけがない。
「ぎ、ギンコウナンダー……」
「それじゃ、ギンだな。早く乗れよ、出遅れるぞ」
「……え?」
かなみは周囲を見回す。
いつの間にか、広間に集まっていた怪人がどんどん外に出ていて道を埋め尽くしていた。
道を埋め尽くす怪人の大軍……震えが止まらないほど恐ろしい光景だ。周囲の住民がこんなものを目撃したら、夢を見ていたんだと現実逃避するんじゃないかと思う。
かくいうかなみも現実逃避したかった。
怪人と二人乗りに誘われるなんて想像だにしなかった事態にどうしたいいかわからない。ただ、このパーティの一部始終を撮影するためにはどうしてもそうしなければならない。
だから、割り切るしか無い。大丈夫、この怪人は自分のことを味方だと思っているから酷いことにはならないはずだ。
そうかなみは自分に言い聞かせてバイクにまたがる。
「よろしくお願いします」
「おう、よろしくなギン」
ギンって呼ばれることに違和感を覚えるが、今は自分は『怪人ギンコウナンダー』と思い込む。
「野郎どもォォォォォォォッ!! 準備はいいかぁぁぁぁッ!!」
スピーカーでも使っているのか、特攻服の怪人の声が強く響き渡る。
「オオォォォォォォォォォォォォッ!」
それに負けじと周囲の怪人が雄叫びを上げる。なんというか、近所迷惑である。
「へへへ、今日は最高の夜になるぜ」
ダインは不気味な笑い声を上げながらそんなことを言ってくる。
かなみは内心怖くて、こんな怪人に運転を任せて本当にいいのだろうかと背中に乗っかったことを早くも後悔しはじめてきた。
「そんじゃ、いくぞ! 首都高速一周、秘密結社ネガサイドの大集会だぁぁぁぁぁぁッ!!」
「オオォォォォォォォォォォォォッ!」
雄叫びとともにどんどん走り出していく。
「さあ、俺達もいくぜぇッ!」
「う、うん……」
ダインの呼びかけに一応は応じる。
グルルルルル!!
ダインがエンジンをかけることでバイクが震え出す。
「ヒャッホゥッ!!」
甲高い雄叫びを上げて、ダインはバイクを走らせる。
かなみはそれに必死にしがみついた。
一般道路なのに、スピードの出しすぎだ。スピードメーターを視ることは出来ないが、おそらくもう時速八十キロは出ているだろう。
「~~~」
かなみは叫ぼうとしたが、言葉にならなかった。
周りには同じようにバイクを走らせている怪人達の姿がある。みんなこのバイクと同じくらいのスピードを出している。
一般道路でこれなのだから、高速道路に入ったらどのくらいのスピードが出るのか。いや、それ以前に怪人に一般道路と高速道路の区別がつくのかさえわからない。
パーティという名の暴走集会は一般人の目にどう映っているのか、かなみはふと現実逃避がてら考えてしまう。
こんな怪人達を見て、普通の人なら仮装行列に見えるんじゃないか。
それとも歴史の教科書とかでよく見る妖怪の絵巻みたいにも見えてるんじゃないか。
自分がその一部だとやはり寒気が走る。この中を抜け出せるものなら一刻も早く抜け出したい。
今、かなみを支えているのはこの仕事をやり遂げてボーナスを受け取ること、この怪人達が人に被害を出さないように食い止めなければならないと想うことの二つであった。
「そろそろ高速に乗るぞ! そうなったら、もう誰も止められないぜぇぇぇぇッ!!」
ダインも恐ろしいほどノリノリになってきた。……まったくもってついていけない。
しかし、このスピードにも慣れてきたことでわりと周囲を見る余裕が出てきた。
スピードメーターが百を指しているのには、目を背ける。他の怪人もダインと同じようにバイクにまたがって同じくらいのスピードを出しているのもいれば、バイクではなく四輪車で並走している怪人もいる。果ては自分の足で走っている怪人までチラホラ見える。彼らはこの後さらにスピードを出すであろう高速道路でもついていけるのだろうか。ついていけるのならそれはそれで恐ろしい話ではあるが。
「野郎どもぉぉぉぉぉッ!! ここから先は首都高速だぜぇぇぇぇぇぇッ!!!」
特攻服の怪人の声が響き渡り、周囲の怪人、もちろんダインも雄叫びをもって応える。
そして、料金所を抜ける。料金はどうなるのか少しだけ気になるが、怪人が律儀に支払うというのもおかしな話なので、多分出る時は素通りしていくのだろうと、かなみは思うことにした。
「おい、ギン!」
「え、あ、はい」
どうにもこの呼ばれ方は慣れないものだ。
「ここから更に倍速になるぜぇッ! 振り落とされるんじゃねえぞぉぉぉぉッ!!」
「は、はい!」
かなみはダインをより強く抱きしめる。
怪人に身体を預けるというのは、奇妙な感覚だ。こういったことは相手を信頼しなければ出来ないことだが、この怪人はまったくもって信頼出来ない。何故なら、こいつは今でこそ味方だと信じれてくれているが、自分の正体が魔法少女だと知られたら、ただちに振り落として生命を奪いに来るだろう。
だから、これは信頼じゃない。かといって、言葉でどう言い表したらいいのかわからない。
メーターを見ると二百を超えていた。
身体が張り裂けそうになるが、魔法で平衡感覚を保つことで一般道路の時の速度と同じようにいられるからなんとかなっている。
「な、なんてスピード……!?」
「これが時速二百キロの世界だぜぇぇぇぇッ!! だが、あの御方はまだまだこんなものじゃねえぜ!」
「あ、あの御方!?」
「音速ジェンナ! あの御方はその名前のとおり、音速で走れるんだぜ!」
「お、おんそく……?」
それはこれ以上に速いのか。まったく未知の領域に思えた。
そんな領域に生きる怪人がいて、果たして戦うことが出来るのだろうか。
あるみや母の涼美ならその領域で戦えるのだろうか。自分は果たして踏み込むことが出来るのだろうか。
「どうやら……お出ましのようだぜッ!」
「え?」
かなみがその言葉を理解したのと同時に、後方からヘルメットをかぶった黒コートの女性が現れる。
女性だとわかったのは腰まで伸びた髪とボタン止めしていないコートから見える膨よかな胸。何よりも彼女から放たれる魔力といってもいい女性特有の艶めかしさがあった。
「オオォォォォォォォォォォォォッ!! 音速ジェンナ様ァァァァァァッ!!」
怪人達もその女性に気づいて歓声を上げる。
怪人達はそれぞれバイクやら車やら自分の足を使って必死に走っているが、そんな怪人達に音速ジェンナは足を使って追いつこうとしている。
(あ、歩いている……!?)
かなみは音速ジェンナの足の動きを見て、そう感じた。
時速二百キロで走っている自分達に追いつこうとするなら、歩く速さでは到底追いつけない。当然走っても追いつけるような速さでもないのだが、チーターのように時速二百キロを走れる動物もいるのだから、そんな怪人がいてもおかしくない。事実、今自分達バイクと並走している怪人の中に自分の足だけで必死に走っている。
――必死に走っているのだ。
人間で言うなら、陸上の短距離走を全速力で走るような必死さが周囲の怪人からは感じられる。
それが、音速ジェンナからは一切感じられない。
足の動きもゆっくりでまるで本当に歩いているみたいだが、徐々にその姿は大きくなっていくので、追いついてきているのがわかる。
信じられないことだが、音速ジェンナは歩く足取りで時速二百キロで走るバイクや車、怪人達に追いつこうとしている。
――音速ジェンナ! あの御方はその名前のとおり、音速で走れるんだぜ!
ダインの言葉が真実だったとまざまざと見せつけられた気分だ。
音速、時速千二百キロで走れるのなら、時速二百キロで歩くぐらい簡単なことなのだろう。
これが最高役員十二席の一人。
かつて絶対に勝てないと思い込まされた関東支部長カリウスのさらに上を行くネガサイドの上層部。桁外れにも程があると思った。
――しかし、かなみが本当に桁外れだと思い知らされるのはこの後だった。
「さあ、ここからが本当のパーティの始まりだよ」
音速ジェンナは確かにそう言った。
叫ぶではなく、囁くような声。しかし、確かにその場にいる怪人達全員の耳に確実に届く不思議な声であった。
バシュッ!!
次の瞬間、音速ジェンナは背後まで迫っていた怪人をバイクごと蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた怪人は宙を舞い、ガシャンとドラムを景気よく叩いたような音を上げてバイクと一緒に文字通り粉々に砕け散った。
「…………………」
かなみはその光景を見て絶句した。
怪人が怪人を襲う。
一体何が起きているのかわからなかった。
「始まったみたいだな!」
「始まったって何が?」
ダインの呟きに、かなみは反射的に訊く。
「本当のパーティだよ!」
「本当のパーティ……?」
「最高役員十二席を決めるための選定試験……それがこの暴走集会の趣旨だ!」
「最高役員十二席を決める……!?」
「おうとも、俺達にとっては千載一遇のチャンスだからなぁぁぁぁッ! この機を逃したら千年経っても最高役員の地位に座れねえぜぇぇぇぇッ!!」
そう言ってダインはアクセルを踏みしめて更に速度を上げる。
もうメーターが振り切れており、速度がわからない。それでも、あの音速ジェンナを振り切れるとはとても思えない。
何故なら、音速ジェンナはまだ歩いているだけなのだから。
バシュ! ガシャン!! バシュ! ガシャン!!
そうこうしているうちに、音速ジェンナは次々と怪人のバイクや車を蹴り飛ばしていく。
おそらく、夜が開ける頃にはマシンの残骸や怪人達の死体で道が出来ているだろう。なんておぞましい光景を作ろうとしているのか。
(こ、これが……選定試験だっていうの!?)
かなみには理解出来なかった。
音速ジェンナにとってこの怪人は仲間であるはずなのに、次々と葬っていく。
怪人である前に仲間のはずなのに、何故そんなことをするのか。
それが悪の秘密結社の在り方なのかはわからない。ただ、それが許せないことだけは認識できる。
(音速ジェンナ……あいつは倒すべき敵!)
戦えば到底敵わない。いや、戦いになるのかすらわからない。
それでも、かなみはあの最高役員十二席の一人、音速ジェンナを倒すべき敵だとそう認識した。
「――そうか」
声が聞こえた。
寒気が走るような、悪意と殺意に満ちた音速ジェンナの声だ。
しかも、それはかなみ一人に向けられている。そうはっきりとわかるぐらいの悪意を感じた。
「お前が魔法少女か」
バレた、と直感した。
着ぐるみ越しだろうが、関係無い。
あの女にはわかるのだろう。自分が魔法少女だと。
そして、同時に殺されると、かなみは恐怖した。
「――そうねぇ、一応まだ魔法少女のつもりよぉ」
その恐怖を拭い去るように、母・涼美の声が聞こえた。
音速ジェンナの腹にムチが巻きつけられる。
「――お前は」
ムチの先を見るとその持ち主、結城涼美がいた。
彼女はバイクのサドルの上に颯爽と立ち、金色の髪とスリットスカートをなびかせる。思わず胸元がはだけてしまわないかと心配になるが、あまりにも堂々としているため、それは不要に思えた。
いや、それ以前に時速二百キロで走るバイクのハンドルを手放して立つなんて自殺行為であった。しかし、涼美は平然とそのサドルに立ち、そのスピードを維持していた。
「痴女か」
「ち~が~う~」
涼美は気の抜けるような返事をする。
「こう見えてもぉ、一児の母なんだからぉ、恥ずかしいことは控えてるのよぉ」
(その格好、十分恥ずかしいけど! 娘として!)
かなみは心の中でツッコミを入れる。
「まあ、そんなことはどうでもいい!」
音速ジェンナは吠える。
「なるほど、お前が噂に聞く魔法少女か!」
「どんな噂か知らないけどねぇ」
「ヘヴルを葬ったと聞いている!」
「ああぁ、それはぁ、あるみの方よぉ、私は涼美よぉ」
「まあ、お前が魔法少女だろうが、私のすることは変わらない!」
音速ジェンナは蹴り上げて、ムチを切る。
「蹴り倒して、私の隣に立つに相応しい者を見極める!」
「それはどういうことぉ?」
「こっちの話だ! それよりもお前は蹴り甲斐がありそうだ!」
音速ジェンナはニヤリと笑う。
それは獲物を前にした猛獣の笑みであった。
「へーんしーん!」
そう言って、涼美は悪の女幹部から綺羅びやかな金色の魔法少女へと姿を変える。
「鈴と福音の奏者・魔法少女スズミ降誕!」
ポーズまでバイクのサドルの上でしっかりする。
その姿はかなみにとって母というより先輩といった感じで眩しく輝いて見えた。
かなみとみあ、涼美に分かれて、それぞれ備品庫に隠れて様子を見ることにした。
ひとまず裏口から入ってみると思いの外、楽に備品庫までいけた。みあの話からすると「怪人はずっと広間から動かない」らしい。
「ここまでは順調ね」
「みあちゃんがいてくれて助かったわ」
自分と涼美だけだとこんなに簡単に潜入はできなかっただろう。
「じゃあ、ボーナスの分配は七三ね」
「ちょ、七は取りすぎよ!」
「声が大きいって言ってるでしょ」
かなみは慌てて口を塞ぐ。
「みあちゃん、分配のことは帰ってからゆっくり話しましょう」
「……いいわよ、なんなら八ニでもいいし」
「増えてる!?」
「だから声が大きいわ」
「うぅ……」
なんだか、みあにからかわれているようで面白くなかった。
そうこうしているうちに、時間は過ぎていく。
日はすっかり落ちて窓からの光も無くなって、灯りの無い備品室は真っ暗闇になる。
「みあちゃん、どう?」
みあは手を振る。
「ダメね……広間にいる連中も動かないし、集まってくる気配も無い」
「うーん、本当にパーティはあるのかしら?」
「まあ、四体で慎ましくパーティするって可能性もあるけど、あんた、ちゃんと撮影出来るの?」
「バッチリしてみせるわ」
「不安だわ、見つかったりしたら袋叩きよ」
「そ、そう言われると……」
「やっぱり不安なのね」
「え、ええ……あ、そうだ!」
かなみは備品庫の棚を物色する。
「何やってんの?」
「これこれ」
「ん?」
「特撮怪人のきぐるみよ」
「なんでこんなものがここに?」
「多分、町内会の出し物で用意した物だと思う」
「よくやるわね、そういうこと。
でも、大丈夫なの? それ、大の大人用じゃないの?」
「うーん、とりあえず着てみるわ」
「なんていうか、そのとりあえずやってみる精神って危ないわね……とりあえずお金借りて借金作ろうって感じで」
「とりあえずで借金はできないわよ!」
かなみはみあの相手をしながらきぐるみを着る。
「結構簡単にできるものね」
みあは感心する。
「うーん、ちょっとぶかぶかだけど着れないことはないわね」
かなみは腕や足を動かして、感触を確かめてみる。
「うん、なんとかいけるわね」
「あんた、何気に凄いわね」
みあは感心する。
「そういえば、それ……」
「ん、この着ぐるみがどうかしたの?」
「これ、『歌う刑事サツバン』の怪人ギンコウナンダーじゃないの」
「う、歌う刑事……? 銀行!?」
「『歌う刑事サツバン』! 二十年前に打ち切りになった伝説の特撮番組よ。
歌で犯人を逮捕して世界の平和を守るって話なんだけど、捜査の最中だろうが、戦いの最中だろうが、とにかく急に歌いだして、事件を解決させる強引なストーリーなんだけど、一話につき最低一曲は新曲を出す謎のこだわりがマニアに受けて関連CDは上々の売上を記録したけど、たまに出す放送コードギリギリを攻める歌詞がつまった悪の組織側の曲は子供達が変な歌は覚えるっていうわけで、親からは非難殺到でとうとう打ち切りになったわけ」
「ちょちょ、ちょっとまって! そんなに言われてもわからないわよ」
「ちなみに、その怪人ギンコウナンダーは記念すべき第一話で銀杏の臭さで銀行員を気絶させて人質にとった卑怯な怪人よ」
「うわぁ……」
思わず着ぐるみを脱ぎ捨てたくなるような話であった。
「そこで新人刑事の舞村歌助まいむらかすけが提案するから任せろって」
「あの、み、みあちゃん……?」
話についていけず、かなみは止めようとする。
しかし、スイッチが入ったみあは止められない。
「それで歌助がとった行動は、歌で注意を引きつけると見せかけて、そのまま逮捕するって作戦なわけ。
んで、その作戦を実行した時に歌ったのが『小便、大便、大変だ―』って曲でね、これがまた親から顰蹙を買うような凄まじい歌でね。まあ、おしっこ、うんこを連呼するような歌詞だから無理もないんだけどね」
(……いつまで続くんだろうこの話)
かなみは母を呼び出して助けを求めたかった。
いや、母のことだから真面目に聞いて「へえぇ」とか「そうなのぉ」とか適度に相槌打っていつまでも話を続けさせそうで怖い。
「あ、みあちゃん!」
「何よ、ここからいいところなのに」
「みあちゃんはこっちの着ぐるみを着たらどう?」
「はあ、あたしも着るわけ?」
「怪人が好きなみあちゃんも着ぐるみ着たいかなと思って」
「何言ってんの、あたしは別に怪人が好きなわけじゃないわよ」
「……え?」
かなみの目が点になる。
「で、でも、あんなに楽しそうに話してるんなら……」
「好きじゃなくてもこれぐらいは常識でしょ、フツー」
「え、えぇ……」
かなみは言葉を失う。
(み、みあちゃんのフツーって一体……?)
「あ、これ、特小怪人イタズラッコじゃないの。つくづくマニアックね」
みあは子供用と思われる小さな怪人の着ぐるみを見る。
「イタズラッコ?」
「子供は少年院に送られるんだけど、大人に比べて罪が軽いのは知ってるでしょ?」
「え、ええ、聞いたことは有るけど」
「そういうことを最大限に利用したのがイタズラッコ。怪人として倒される前にわざと警察に捕まって少年院に入って短期間で戻ってくる計画的な凶悪怪人なのよ」
「な、なんだかせこいわね……」
「まあ、否定はしないわ。そういったせこい怪人も『歌う刑事サツバン』の魅力だしね。ま、この放送回は刑事が怪人とはいえ子供を歌いながらボコボコにして改心させる内容だったから警察や親から苦情殺到する内容だったけどね」
「ば、バカなのね」
「でも、あたしは好きよ。このイタズラッコ、凄く生意気でイライラしてたからボコボコにされてスカッとしたし」
「みあちゃん……そういう感想はどうかと思うわよ」
「というわけで、あたしはパスね」
「ええ、サイズはピッタリそうなのに」
「なんで、ムカつくこいつの着ぐるみを着なくちゃいけないのよ。あたしはかなみと違って上手く隠れられるし」
「そんなこと言って……見つかったら、ボーナス全額私がもらうからね」
「あ、いいわね、それ! 先にかなみが見つかったら全額あたしがもらうわよ」
「え、えぇ……さすがにちょっと、それは……」
「何よ、そっちからふっかけてきておいて」
「だけど……」
「いい? 賭けっていうのはね、相手と同じ条件じゃないと成立しないのよ」
「同じ条件って……私とみあちゃんじゃ、資本力が違いすぎるよ」
「これが資本主義社会ね」
みあは何故か得意顔で言う。
「で、どうするの? 乗るの、降りるの?」
「ん、ん……?」
かなみは迷った。
勝てばボーナス全額もらえる。その言葉はあまりにも魅力的で、賭けに弱いかなみでさえ降りるのを躊躇うほどであった。
「かなみ、メールだ」
マニィがヒョイッと出てきて、携帯を出してくる。
「こんなときに誰からよ」
「涼美」
「なんで母さんが?」
かなみはそう疑問に思いつつ、メールを開ける。
『ボーナスがかかってるなら絶対勝負よ。
大丈夫、かなみなら勝てるって母さん信じてるから』
「……なんで、知ってるの?」
かなみは涼美がいる備品庫を見る。
「母さんの方まで聞こえてるのかしら?」
そうなると、この会話のやり取りが怪人に聞こえていないか心配だ。
「多分大丈夫だよ」
マニィが言ってくれる。
「どうして?」
「涼美の聴覚は魔力で強化されているから数キロ先の小声すら拾うことが出来るんだ」
「……え、じゃあ、この会話も全部かなみの母さんに聞こえてるわけ?」
「そうだね」
「はあ……なんか居心地悪いわね」
「怪人が集まる場所に隠れているんだから居心地を求めるのも間違ってるけどね」
「え、じゃあ、何それじゃ私が感知魔法使わなくても、あの人は怪人がいるのかもわかるってことじゃない? 足音とか声を聞いたりして……」
「あとは心音だね。来葉からは人間ソナーだって言われてるよ」
「ウシシシ、お嬢の心臓の高鳴りもちゃんと聞き分けられてるぜ」
「だ、誰が高鳴ってるって!?」
「母さん……なんでそんな凄い事隠していたのかしら……?」
多分「訊かれなかったからぁ」としれっと答えるだろう。
「んで、結局勝負するわけ?」
「あ……う~ん……」
かなみはもう一度メールを見てみる。
『大丈夫、かなみなら勝てるって母さん信じてるから』
母からこんなことをいわれると自然と勝てる気がしてくるから不思議だ。
「よし、その賭けに乗ったわ!」
「フフン、後悔しても遅いわよ」
そう言って、みあは着ぐるみを着始める。
「みあちゃん、それ……? 好きじゃないから着ないって言ってたのに……」
「勝つためならこれぐらいするわよ」
「……本気なのね」
改めて、みあ相手に無謀な勝負を挑んでしまったのではないかと思う。
とにかくみあは器用なのだ。扱える魔法のバリエーションは自分達の中でダントツに多い。
「ん?」
「みあちゃん、どうしたの?」
「あんた、感じないの?」
「感じるって何が?」
「怪人よ。凄い数が凄い勢いで来てるのよ!」
「えぇ!?」
「今、街に入ってきたわ」
「うーん……」
かなみはみあほど感知できるわけじゃない。
街一帯の怪人を感知はできないから、事態に気づくまで少し時間がかかった。
「す、凄い数……」
魔力で怪人を感知するのは言葉で形容し難いが、耳で言うなら足音が、目で言うなら人影が、おびただしい数がやってくるのを見るように聞くように感じてしまう。
「十……百……ううん、千ぐらい?」
「まるで戦争の時みたいね。何、パーティってこれから戦争で始まるつもり?」
「さ、さあ……」
確かにこの間の戦争のときもこれだけの怪人の数を感じた。
とても、この公民館に収まる数じゃない。
怪人のパーティイコール戦争という解釈もできるが、できればそのあては外れて欲しいとかなみは祈った。
「母さん、このことに気づいてる?」
「当たり前でしょ。話を聞く限り、耳がいいおかげで感知能力はあたしより上よ」
「みあちゃん、そういうところは素直なのにね」
「どういう意味よ?」
みあが睨んできたのが着ぐるみ越しでも感じた。
「一緒にご飯食べたい時は素直に言ってくれるといいのにと思って」
「べ、別に一緒に食べたいって思ったこと無いし! それより、上手く怪人に化けなさいよ!」
「う、うん……」
「こうなったら、どっちが先にバレるかなんて言ってる場合じゃないわ。足引っ張ったらタダじゃおかないわよ」
そう言ったみあは可愛い妹ではなく頼もしい先輩の顔になっていた。
「が、頑張る……」
「力を抜いて魔力は抑えて、あんたのバカ魔力はいるだけで目立つから」
「う、うん……」
「深呼吸」
「すーはー」
「腹式呼吸」
「ひ、ひ、ふうー」
「ついでにエラ呼吸も」
「え、え、エラ呼吸なんてできないよ!」
「よし、いい具合に力抜けたわね」
「これって意味あるの?」
「意味あるからやってるの。これで一応、怪人ギンコウナンダーとして格好がつくようになったわね」
「そ、そうなの?」
かなみは不安を隠せないでいた。
ブオオオオオオオオオオン!!
そうこうしているうちに、けたたましいエンジン音が辺り一帯に鳴り響く。
「うわあ、なにこれ!?」
「来たわね。パーティの始まりってところね」
心なしかみあの声が少し弾んでいるような気がする。
鼓膜を打ち破るようなエンジン音が響き渡り続ける。
なんだって、エンジン音が鳴るのだろうか。怪人が集まってくるのだからドスンドスンと地鳴りのような足音の方がしっくりくるはずなのに。
(これじゃまるで……)
「――族ね」
「ええ、暴走族みたい」
「パーティって、暴走集会のことなのかしら?」
「ぼうそう、しゅうかいってなに?」
「あんたは知らなくていい。――出るわよ」
「え?」
着ぐるみを来たみあは備品庫を出る。
かなみはその行動に戸惑ったが、みあに従って後に続く。
広間まで行くと、そこには怪人がたくさん集まっていた。広間を埋め尽くさんばかりの数で、それはもうギュウギュウ詰めであった。
(す、凄い数……!)
着ぐるみを着ているおかげか、はたまたさっきのみあの助言のおかげか、怪人達は自分達、人間が混ざっていることに気づいていないようだ。
(これならバレないで済みそう……)
安心した途端、別の備品庫で待機していた母のことが気になった。
(母さん、大丈夫かな?)
普段は少し頼りないところはあるけど、こと魔法少女に関してはあるみと肩を並べるほど頼もしいはずだから問題はないと思う。でも、それはそれとして心配なものは心配だ。
何しろ、これだけの数の怪人が一同に集まっているのだから。
敵である魔法少女が紛れ込んでいるとなれば、袋叩きどころか生命は無いものと思っていい。
(うーん、やっぱり心配だわ……)
かなみは抑えきれずに、母が待機している備品庫に行こうとする。
「あ~凄い集まっているわね」
そこへ涼美は現れた。
「か、かかか!?」
思わず「母さん!?」って声を上げそうになったのを必死に抑えた。
何しろ、広間を埋め尽くさんばかりの怪人がいる中で颯爽と現れたのだ。
いや、一応仮装はしている。本人は変装だと言い張るだろうが。
顔には黒マスク、胸元が露出し、へそまで出した大胆なドレス風の衣装に、太ももが見えるスリット入りのスカート。一見すると痴女とも取られかねない露出を誇るコスチュームを涼美は楽しそうに着こなしている。
しかし、かなみには見覚えがあった。こういう格好する女性に。
「……悪の組織の女幹部」
いつの間にか隣りにいたみあはボソリと言う。
しかし、かなみもそう思った。何しろテンホーや九州支部長のいろかもこういった格好している。だから、それを見習ってのことだろうが、大胆というか怖いもの知らずというか。
娘のかなみからすると、「歳を考えてよ、母さん!」と叫びたい気持ちで一杯だった。
「すげえ……」
近くの怪人が涼美を見て呟いた。
もしかして、早くもバレたのか。かなみは焦った。
「美人だ。さぞ名のある怪人だろう」
「いや、知らないな。この関東であれだけの美貌を持つ者となると……」
「関東支部幹部・テンホー殿か」
「しかし、テンホーは和服と聞いている。何より先の戦争で戦死なされたと」
などと、ヒソヒソ話が聞こえてくる。
どうやら話の内容を聞く限り、涼美が魔法少女だということはバレてないようだ。それどころか、幹部と人違いされる始末。なんだか複雑な心境であった。
――これは一言言ってやらないと!
かなみはその衝動に動かされて、涼美の元へと歩み寄る。
「母さん……」
「あら、ギンコウナンダーさん」
「ふざけないでよ。何なのその仮装?」
「え~、結構いけてると思うけど」
確かに実際いけている。周囲の怪人からの視線が集中している。
しかし、母がこんな痴女じみた仮装をしているのは娘としては気が気ではいられない。
「っていうか、なんで普通に喋ってるの?」
今のやり取り、いつもの涼美の間延びした口調ではなくごく普通のテンポで喋っていた。
「そうでもしないと変装にならないでしょ」
涼美は当たり前のように答える。
「いや、それが普通に出来るなら、普段からそうしてよ」
「あれがお気に入りだから無理よ」
「……この人は!」
かなみはワナワナと震える。
色々言ってやりたいことがたくさん出てくる。
「ま、お互い頑張りましょう。せいぜいバレないようにね」
涼美はそう言って手を振りながら去っていってしまう。
彼女が歩く度に怪人の注目を浴びる。
「なんで、母さん……あんなに自由なのかしら……?」
「ま、親に関しては同情するわよ」
みあはポンポンと着ぐるみを叩いてくれる。
「ところで、ちゃんとカメラを回してる?」
「う、うん……」
かなみは右手にさりげなく持ったカメラを見せる。
このカメラは今録音状態で、この集まりの様子がちゃんと伝わるようになっている。
「これにあたしのボーナスがかかってるんだから」
「私のだよ!」
かなみとみあはすっかりいつもの調子で会話を繰り広げてしまった。
「あ……」
それに気づいて、辺りを見回す。
大丈夫、怪人達は涼美の方が気になっていて、自分達の方に目が向いていない。
これなら自分達が魔法少女だと気づかれる心配はない。
(ひょっとして、母さん……自分が囮になるためにわざわざあんな格好に……?)
「いやいやいや!」とかなみは頭を振って否定する。
あれは絶対に自分が楽しむためにやっているんだ、そうに違いない。とかなみは自分に言い聞かせる。
しかし、改めて見渡すとこの怪人の数は異常であった。
以前かなみはこれだけの怪人に取り囲まれたことはあった。
あれは戦争という特殊な状況下だったから、怪人が大軍で押し寄せてくるのもさして不思議ではなかったが、今はそういったわけでもなく、この公民館が怪人のアジトだったということもない。にも関わらず、これだけの怪人が一箇所に集まっているのは異様な感じがした。
「そこでパーティが開かれてるみたいなのよ」
あるみの言葉を思い出す。
確かにこの集まりはパーティといっていいし、この状況でかなみが魔法少女だとバレたら袋叩きにあうのは目に見えている。七回死ぬというのも決して大げさな話ではないと思えてきた。
そこまで考えると震えてきた。
(落ち着いて……ちゃんと撮影するだけでいいから……大丈夫バレないから……)
そう自分に言い聞かせて震えを抑えた。
「あれ、みあちゃん……?」
ふと、隣りにいたみあがいなくなっていることに気づく。
「みあちゃん、どこ……?」
かなみはキョロキョロ辺りを見回す。
見回してみると、みあの姿はあっさり見つかった。
何やら背丈の高い魚のような怪人と話をしている。
(凄い……自然に溶け込んでいる……)
その会話はとても着ぐるみで返送している魔法少女が中に入ってるとは思えなかった。
ひとしきり会話を終えたのか、「じゃあ」とみあことイタズラッコは手を降って魚のような怪人と別れる。
「何話してたの?」
さっそくみあに訊きに行く。
「今日が何の集まりか、よ」
それはかなみも知りたかったことだ。
「訊けたの」
「もちろん。どうやらこれは最高役員十二席を決めるパーティみたいなの」
「最高役員!? それって……」
「あたしも話に聞いただけなんだけど、支部長のさらに上の幹部みたいね」
「うん、来葉さんから聞いた。そういう上の存在がいるって……」
「まったく、随分と構成員に厚みのある悪の秘密結社よね。こっちは支部長にだってまだ勝ったこと無いのに」
「というより、勝負にすらならなかったよね」
「ムッ!」
着ぐるみ越しだけど、みあが不機嫌になったのはわかる。
でも、本当のことなのよね、と心のなかでぼやく。
正確には、勝負にすらならなかったのだが。
かなみだって、あのときの悔しさはよく憶えている。あの時は絶対に勝てないと思ったけど、今なら少しぐらい戦えるかもしれない。
ただ、その更に上の最高役員十二席となると想像もつかない。
一体どんな恐ろしい敵なのか……
「このパーティでそいつが顔を出すのかもしれないわね」
「……え?」
「これだけの怪人が集まるんだから、顔を出してもおかしくないんじゃない」
「そ、そうかな……」
「それにさっきのやつの話からすると本当のパーティはこれからみたいよ」
「え……?」
かなみがキョトンとした次の瞬間には、
「――野郎ども!!」
広間の壇上にあがった『暴走野郎』と書かれた特攻服を着た怪人が号令をかける。
「今夜はよく集まった! 最高役員十二席が一人・音速ジェンナ様の呼びかけによく応じた!!」
「オオォォォォォォォォォォォォッ!!!」
怪人達は雄叫びを上げる。
――最高役員十二席が一人・音速ジェンナ
それが今回のパーティの主催者。
「今夜の力の限り走り、そして、俺達の力を見せつけてやろうぜ!」
「オオォォォォォォォォォォォォッ!!!」
耳をつんざくような歓声。
耳を魔力で防御していなかったら鼓膜は確実に破られていただろう。
それどころか、聴覚を破壊するような魔法の声を出す怪人もこの中にいるかもしれないのでこういう防御はやっておいてよかったと、かなみは思う。
「音速ジェンナ……」
初めて聞く名前だ。
一体どんな怪物なのか、このパーティに現れるのか。
そもそも本当のパーティとは一体何なのか。付近が住宅街ということもあって、血みどろなものを想像せずにはいられなかった。
もし、かなみの想像しているとおりのパーティだったら……なんとしてでも阻止する。
たとえ、今回の目的が戦うことでないにせよ、ボーナスが貰えなくなるにせよ。人の血が流れるようなことが起きては絶対にいけないと思う。
「あんた、無茶なこと考えてるでしょ?」
そんな考えをみあはあっさりと看破した。
「そ、そんなことないけど……」
「バレバレよ。パーティのこれからが怪人の破壊活動だっていうんなら、絶対に阻止するって思ってるでしょ」
「そ、それは……」
「こんなところで、怪人が大暴れしたらさぞ被害が出るでしょうね、それこそ死人もいっぱい出るんじゃないの」
「みあちゃん! 今回の目的は戦うことじゃないってのはわかってるけど……」
「戦うんでしょ、あたしだって同じ気持ちよ」
「……え?」
「あたしだって、正義の……いや、なんでもないわ」
イタズラッコことみあは、去っていく。
「え、みあちゃん?」
そこはちゃんと言ってほしかったと思うかなみであった。
(それなら私だって……!)
かなみは拳を握りしめる。
音速ジェンナ、たとえどんな強敵だろうと立ち向かってやる。その決意を宿らせて。
「よおし、野郎ども! いくぞぉぉぉぉ!」
「オオォォォォォォォォォォォォッ!」
「さあ、パーティの始まりだぜぇぇぇぇッ!!」
そう言って特攻服の怪人はどこからか持ってきたバイクに乗り込む。
グルングルン!!
エンジンがかき鳴らされる。
さっき鳴っていたけたたましい音の一部であった。
「え、え、えぇ……!?」
かなみは大いに戸惑った。これから何をするつもりなのだろうか。
やはり、予想したとおり、周囲を暴れまわるのだろうか。だったら、たとえ今回の仕事内容に含まれていなくてもなんとしてでも止めなければならない。
かなみは着ぐるみを脱ぎ捨て、すぐにでも変身しようとした。
その時、かなみの手を止めるように特攻服の怪人が再び号令をかける。
「てめえら、マシンは用意したかぁぁぁッ!!」
「オオォォォォォォォォォォォォッ!」
怪人達も雄叫びを上げて応える。
「マ、シン……?」
「何だ、お前知らなかったのか?」
戸惑っているかなみに隣のリーゼントの髪型をした二足歩行しているワニみたいな怪人が声をかけてくる。
「え、えぇ……マシンって何ですか?」
「走るためのマシンだよ。これから高速を走るからな」
「こ、高速……?」
「やれやれ」といった感じでワニみたいな怪人はため息をつく。
「お前みたいなヤツのために俺が予備のマシンは用意しておいてやったんだ。――来い」
「は、はい……」
戸惑いながらもかなみは案内してくれるみたいなのでついていく。といっても、実際は外に出ていただけであったが。
「こいつに乗りな」
そう言ってワニみたいな怪人が見せてくれたのは、バイクであった。
「え、で、でも……」
かなみはバイクの運転は出来なかった。ましてや、今は着ぐるみを着ている状態なのだから余計に「乗りな」と言われてもどうすることも出来ない。しかし、出来ないのであれば疑われるかもしれない。どうしたものか、とかなみは困り果てた。
「なんだよ、お前。こいつの扱いを知らないのか?」
呆れたように問いかけてくるワニみたいな怪人にかなみは頷くしか出来なかった。
「しょうがねえな、俺のケツに乗れよ」
「……え?」
ワニみたいな怪人がバイクに乗って誘ってくる。ようするに二人乗りをするということだ。
二人乗りなら翠華と何度かしてもらったことがあるから、着ぐるみ越しでもなんとかなりそう。ただ、向こうは味方だと思っているとはいえ、怪人に運転を任せていいのだろうか。
「おう、そういや。名乗っていなかったな、俺はダイン。よろしくな」
「は、はあ、よろしくお願いします」
かなみはペコリとお辞儀する。
「変わった奴だな、お前。なんて名前だ」
「あ、え……?」
かなみは戸惑った。
まさか、本名を名乗るわけにもいかない。ましてや魔法少女カナミだなんて言えるわけがない。
「ぎ、ギンコウナンダー……」
「それじゃ、ギンだな。早く乗れよ、出遅れるぞ」
「……え?」
かなみは周囲を見回す。
いつの間にか、広間に集まっていた怪人がどんどん外に出ていて道を埋め尽くしていた。
道を埋め尽くす怪人の大軍……震えが止まらないほど恐ろしい光景だ。周囲の住民がこんなものを目撃したら、夢を見ていたんだと現実逃避するんじゃないかと思う。
かくいうかなみも現実逃避したかった。
怪人と二人乗りに誘われるなんて想像だにしなかった事態にどうしたいいかわからない。ただ、このパーティの一部始終を撮影するためにはどうしてもそうしなければならない。
だから、割り切るしか無い。大丈夫、この怪人は自分のことを味方だと思っているから酷いことにはならないはずだ。
そうかなみは自分に言い聞かせてバイクにまたがる。
「よろしくお願いします」
「おう、よろしくなギン」
ギンって呼ばれることに違和感を覚えるが、今は自分は『怪人ギンコウナンダー』と思い込む。
「野郎どもォォォォォォォッ!! 準備はいいかぁぁぁぁッ!!」
スピーカーでも使っているのか、特攻服の怪人の声が強く響き渡る。
「オオォォォォォォォォォォォォッ!」
それに負けじと周囲の怪人が雄叫びを上げる。なんというか、近所迷惑である。
「へへへ、今日は最高の夜になるぜ」
ダインは不気味な笑い声を上げながらそんなことを言ってくる。
かなみは内心怖くて、こんな怪人に運転を任せて本当にいいのだろうかと背中に乗っかったことを早くも後悔しはじめてきた。
「そんじゃ、いくぞ! 首都高速一周、秘密結社ネガサイドの大集会だぁぁぁぁぁぁッ!!」
「オオォォォォォォォォォォォォッ!」
雄叫びとともにどんどん走り出していく。
「さあ、俺達もいくぜぇッ!」
「う、うん……」
ダインの呼びかけに一応は応じる。
グルルルルル!!
ダインがエンジンをかけることでバイクが震え出す。
「ヒャッホゥッ!!」
甲高い雄叫びを上げて、ダインはバイクを走らせる。
かなみはそれに必死にしがみついた。
一般道路なのに、スピードの出しすぎだ。スピードメーターを視ることは出来ないが、おそらくもう時速八十キロは出ているだろう。
「~~~」
かなみは叫ぼうとしたが、言葉にならなかった。
周りには同じようにバイクを走らせている怪人達の姿がある。みんなこのバイクと同じくらいのスピードを出している。
一般道路でこれなのだから、高速道路に入ったらどのくらいのスピードが出るのか。いや、それ以前に怪人に一般道路と高速道路の区別がつくのかさえわからない。
パーティという名の暴走集会は一般人の目にどう映っているのか、かなみはふと現実逃避がてら考えてしまう。
こんな怪人達を見て、普通の人なら仮装行列に見えるんじゃないか。
それとも歴史の教科書とかでよく見る妖怪の絵巻みたいにも見えてるんじゃないか。
自分がその一部だとやはり寒気が走る。この中を抜け出せるものなら一刻も早く抜け出したい。
今、かなみを支えているのはこの仕事をやり遂げてボーナスを受け取ること、この怪人達が人に被害を出さないように食い止めなければならないと想うことの二つであった。
「そろそろ高速に乗るぞ! そうなったら、もう誰も止められないぜぇぇぇぇッ!!」
ダインも恐ろしいほどノリノリになってきた。……まったくもってついていけない。
しかし、このスピードにも慣れてきたことでわりと周囲を見る余裕が出てきた。
スピードメーターが百を指しているのには、目を背ける。他の怪人もダインと同じようにバイクにまたがって同じくらいのスピードを出しているのもいれば、バイクではなく四輪車で並走している怪人もいる。果ては自分の足で走っている怪人までチラホラ見える。彼らはこの後さらにスピードを出すであろう高速道路でもついていけるのだろうか。ついていけるのならそれはそれで恐ろしい話ではあるが。
「野郎どもぉぉぉぉぉッ!! ここから先は首都高速だぜぇぇぇぇぇぇッ!!!」
特攻服の怪人の声が響き渡り、周囲の怪人、もちろんダインも雄叫びをもって応える。
そして、料金所を抜ける。料金はどうなるのか少しだけ気になるが、怪人が律儀に支払うというのもおかしな話なので、多分出る時は素通りしていくのだろうと、かなみは思うことにした。
「おい、ギン!」
「え、あ、はい」
どうにもこの呼ばれ方は慣れないものだ。
「ここから更に倍速になるぜぇッ! 振り落とされるんじゃねえぞぉぉぉぉッ!!」
「は、はい!」
かなみはダインをより強く抱きしめる。
怪人に身体を預けるというのは、奇妙な感覚だ。こういったことは相手を信頼しなければ出来ないことだが、この怪人はまったくもって信頼出来ない。何故なら、こいつは今でこそ味方だと信じれてくれているが、自分の正体が魔法少女だと知られたら、ただちに振り落として生命を奪いに来るだろう。
だから、これは信頼じゃない。かといって、言葉でどう言い表したらいいのかわからない。
メーターを見ると二百を超えていた。
身体が張り裂けそうになるが、魔法で平衡感覚を保つことで一般道路の時の速度と同じようにいられるからなんとかなっている。
「な、なんてスピード……!?」
「これが時速二百キロの世界だぜぇぇぇぇッ!! だが、あの御方はまだまだこんなものじゃねえぜ!」
「あ、あの御方!?」
「音速ジェンナ! あの御方はその名前のとおり、音速で走れるんだぜ!」
「お、おんそく……?」
それはこれ以上に速いのか。まったく未知の領域に思えた。
そんな領域に生きる怪人がいて、果たして戦うことが出来るのだろうか。
あるみや母の涼美ならその領域で戦えるのだろうか。自分は果たして踏み込むことが出来るのだろうか。
「どうやら……お出ましのようだぜッ!」
「え?」
かなみがその言葉を理解したのと同時に、後方からヘルメットをかぶった黒コートの女性が現れる。
女性だとわかったのは腰まで伸びた髪とボタン止めしていないコートから見える膨よかな胸。何よりも彼女から放たれる魔力といってもいい女性特有の艶めかしさがあった。
「オオォォォォォォォォォォォォッ!! 音速ジェンナ様ァァァァァァッ!!」
怪人達もその女性に気づいて歓声を上げる。
怪人達はそれぞれバイクやら車やら自分の足を使って必死に走っているが、そんな怪人達に音速ジェンナは足を使って追いつこうとしている。
(あ、歩いている……!?)
かなみは音速ジェンナの足の動きを見て、そう感じた。
時速二百キロで走っている自分達に追いつこうとするなら、歩く速さでは到底追いつけない。当然走っても追いつけるような速さでもないのだが、チーターのように時速二百キロを走れる動物もいるのだから、そんな怪人がいてもおかしくない。事実、今自分達バイクと並走している怪人の中に自分の足だけで必死に走っている。
――必死に走っているのだ。
人間で言うなら、陸上の短距離走を全速力で走るような必死さが周囲の怪人からは感じられる。
それが、音速ジェンナからは一切感じられない。
足の動きもゆっくりでまるで本当に歩いているみたいだが、徐々にその姿は大きくなっていくので、追いついてきているのがわかる。
信じられないことだが、音速ジェンナは歩く足取りで時速二百キロで走るバイクや車、怪人達に追いつこうとしている。
――音速ジェンナ! あの御方はその名前のとおり、音速で走れるんだぜ!
ダインの言葉が真実だったとまざまざと見せつけられた気分だ。
音速、時速千二百キロで走れるのなら、時速二百キロで歩くぐらい簡単なことなのだろう。
これが最高役員十二席の一人。
かつて絶対に勝てないと思い込まされた関東支部長カリウスのさらに上を行くネガサイドの上層部。桁外れにも程があると思った。
――しかし、かなみが本当に桁外れだと思い知らされるのはこの後だった。
「さあ、ここからが本当のパーティの始まりだよ」
音速ジェンナは確かにそう言った。
叫ぶではなく、囁くような声。しかし、確かにその場にいる怪人達全員の耳に確実に届く不思議な声であった。
バシュッ!!
次の瞬間、音速ジェンナは背後まで迫っていた怪人をバイクごと蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた怪人は宙を舞い、ガシャンとドラムを景気よく叩いたような音を上げてバイクと一緒に文字通り粉々に砕け散った。
「…………………」
かなみはその光景を見て絶句した。
怪人が怪人を襲う。
一体何が起きているのかわからなかった。
「始まったみたいだな!」
「始まったって何が?」
ダインの呟きに、かなみは反射的に訊く。
「本当のパーティだよ!」
「本当のパーティ……?」
「最高役員十二席を決めるための選定試験……それがこの暴走集会の趣旨だ!」
「最高役員十二席を決める……!?」
「おうとも、俺達にとっては千載一遇のチャンスだからなぁぁぁぁッ! この機を逃したら千年経っても最高役員の地位に座れねえぜぇぇぇぇッ!!」
そう言ってダインはアクセルを踏みしめて更に速度を上げる。
もうメーターが振り切れており、速度がわからない。それでも、あの音速ジェンナを振り切れるとはとても思えない。
何故なら、音速ジェンナはまだ歩いているだけなのだから。
バシュ! ガシャン!! バシュ! ガシャン!!
そうこうしているうちに、音速ジェンナは次々と怪人のバイクや車を蹴り飛ばしていく。
おそらく、夜が開ける頃にはマシンの残骸や怪人達の死体で道が出来ているだろう。なんておぞましい光景を作ろうとしているのか。
(こ、これが……選定試験だっていうの!?)
かなみには理解出来なかった。
音速ジェンナにとってこの怪人は仲間であるはずなのに、次々と葬っていく。
怪人である前に仲間のはずなのに、何故そんなことをするのか。
それが悪の秘密結社の在り方なのかはわからない。ただ、それが許せないことだけは認識できる。
(音速ジェンナ……あいつは倒すべき敵!)
戦えば到底敵わない。いや、戦いになるのかすらわからない。
それでも、かなみはあの最高役員十二席の一人、音速ジェンナを倒すべき敵だとそう認識した。
「――そうか」
声が聞こえた。
寒気が走るような、悪意と殺意に満ちた音速ジェンナの声だ。
しかも、それはかなみ一人に向けられている。そうはっきりとわかるぐらいの悪意を感じた。
「お前が魔法少女か」
バレた、と直感した。
着ぐるみ越しだろうが、関係無い。
あの女にはわかるのだろう。自分が魔法少女だと。
そして、同時に殺されると、かなみは恐怖した。
「――そうねぇ、一応まだ魔法少女のつもりよぉ」
その恐怖を拭い去るように、母・涼美の声が聞こえた。
音速ジェンナの腹にムチが巻きつけられる。
「――お前は」
ムチの先を見るとその持ち主、結城涼美がいた。
彼女はバイクのサドルの上に颯爽と立ち、金色の髪とスリットスカートをなびかせる。思わず胸元がはだけてしまわないかと心配になるが、あまりにも堂々としているため、それは不要に思えた。
いや、それ以前に時速二百キロで走るバイクのハンドルを手放して立つなんて自殺行為であった。しかし、涼美は平然とそのサドルに立ち、そのスピードを維持していた。
「痴女か」
「ち~が~う~」
涼美は気の抜けるような返事をする。
「こう見えてもぉ、一児の母なんだからぉ、恥ずかしいことは控えてるのよぉ」
(その格好、十分恥ずかしいけど! 娘として!)
かなみは心の中でツッコミを入れる。
「まあ、そんなことはどうでもいい!」
音速ジェンナは吠える。
「なるほど、お前が噂に聞く魔法少女か!」
「どんな噂か知らないけどねぇ」
「ヘヴルを葬ったと聞いている!」
「ああぁ、それはぁ、あるみの方よぉ、私は涼美よぉ」
「まあ、お前が魔法少女だろうが、私のすることは変わらない!」
音速ジェンナは蹴り上げて、ムチを切る。
「蹴り倒して、私の隣に立つに相応しい者を見極める!」
「それはどういうことぉ?」
「こっちの話だ! それよりもお前は蹴り甲斐がありそうだ!」
音速ジェンナはニヤリと笑う。
それは獲物を前にした猛獣の笑みであった。
「へーんしーん!」
そう言って、涼美は悪の女幹部から綺羅びやかな金色の魔法少女へと姿を変える。
「鈴と福音の奏者・魔法少女スズミ降誕!」
ポーズまでバイクのサドルの上でしっかりする。
その姿はかなみにとって母というより先輩といった感じで眩しく輝いて見えた。
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