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第35話 開戦! めぐりめく少女と怪人の円舞曲(Aパート)
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都市部の中でも一際大きい高層ビル群の屋上に千歳とみあは立っていた。
「ああ、風が強いわ」
高層ビルから吹きすさぶ風は子供であるみあを飛ばさんばかりに荒れている。
みあはうっとおしげになびく髪を押さえて千歳の後をついていく。
「ほんとにこんなところから敵が来るわけ?」
「あるみや来葉が言ってるんだから間違いないでしょ」
「来葉って、未来が視えるみたいだけど……本当なの?」
みあは半信半疑であった。
占いやおまじないといったものがみあは嫌いだった。来葉の未来視もそれと似たようなものだと思えてならないのだ。
またあるみに担がれて骨折り損なんてのはごめんだ。
「本当よ。私の理解を超えた魔法だけど」
千歳はそんなことを言う。
そこまで言われるとついていかないわけにはいかない。
みあは千歳から魔法の特訓を受けているせいで、頭が上がらないまでも真っ向から逆らえなくなっている。
それにいつにも増して千歳は殺気立っていた。下手に逆らったら殺されるんじゃないかって思うほどだった。
だから、逆らわないことにして、千歳と一緒にこのポイントにやってきた。
別に怖いわけじゃない。ただ、只事じゃないことが起きようとしている。こんなときはあるみの指示に従うのが一番いい。いい加減で大雑把だけど、的確な判断力をもって指示を出す点については信頼している。
「高層ビルは千歳とみあちゃんに任せるわ。空はちゃんと守ってね」
あるみにそう言われて、千歳とみあは組むことになった。
多少のぎこちなさはあるけど、みあにとってあるみの次に頼りになるのが千歳であった。特訓をつけてもらったからそれは文字通り痛いほどよくわかっている。
とはいえ、今の刺々しい雰囲気が好ましいといえばまた別問題だ。張り切っていて頼もしいとも好意的に解釈できるけど。
「んで、空からの敵ってどう戦えばいいの?」
「そうね、みあちゃんはそういう経験なかったかしら?」
「まったく無いわけじゃないけど、慣れてないわね」
「見栄をはらなくてもいいわよ、すぐに慣れるんだから」
「はあ、何言ってんの?」
みあは疑問を投げかけるが、千歳は大空を見上げて言った。
「すぐに敵がやってくるから」
みあはその言葉に反射的に身構える。
「来るの?」
「……ええ、一、十、百……まあ、それぐらいね」
「どうやったらそんなことがわかるの? 魔力探知?」
「いいえ、これは私の糸の特性ね」
千歳は自慢げに指を立てて言った。
「雲海の大蜘蛛……これ使うのは久しぶりなのよね」
指先から一本の糸が見える。そこから無数に伸びている。
「雲に糸をかけてるの?」
「そう、大自然を使用した大魔法よ」
「でもやってることはレーダーみたいなものだから地味ね」
「れーだー、ね……まあ、あるみやかなみちゃんに比べたら地味なのは否定しないわ」
千歳は苦笑する。
「でも、これ便利なのよ。それ」
千歳はそう言って指を振る。
バゴーン!
空に爆音が鳴り響く。
「私の糸を絡めて撃ち落としたの」
「無茶苦茶ね……」
みあは呆れた。
「これで開戦よ。さっさと変身なさい」
千歳はそう言われるとみあはムッとする。しかし、逆らいがたいので素直に言うことを聞く。
「勇気と遊戯の勇士、魔法少女ミア登場!」
巻き気味に変身をすませたころ、千歳も同じように変身し終わっていた。
「名乗り口上は?」
「忘れてた。編集でなんとかするでしょ」
ミアはため息をつく。
「前々から思ってたけど、ミアちゃんってさ……ま、いいわ」
「何よ、気になるじゃないの」
「かなみちゃんに聞いてみたら? 教えてくれるわよ」
「なんでかなみが教えてくれるわけ? 第一、かなみはやめるかもしれないのよ」
「それを簡単に承知するみあちゃんじゃないでしょ」
チトセは強引にかなみを引き止めるみあの姿を想像して、微笑む。
「フン! あんな奴がやめたってどうでもいいわよ」
ミアはぷいっとそっぽ向く。
「素直じゃないわね……でも、おかげでほっこりさせてもらったわ」
チトセはそう言って空を見上げる。
「十機ぐらい、糸に絡め取られたわね」
チトセは空に向かって腕を空に向かって薙ぐ。
バゴーン!!
それでさっきの爆音が十回続くて鳴り響く。
「まるで花火ね」
「それだったらまだ可愛げがあるわよ」
「んで、あたしはどうするの?」
「飛びなさい」
チトセの返事にミアは一瞬固まる。
「飛ぶって、誰が?」
「あなたと私が」
「ちょっと待って、あたし空飛ぶ魔法なんて出来ないわよ!!」
「私もできないけど」
「はあ、何言ってるの!?」
「糸を使えばできるのよ、それ!」
チトセはそう言って、ミアに向けて指を振る。
するとミアは身体に違和感が出る。蜘蛛の糸に引っかかったかのような、というか実際に糸を巻かれたのだろう。
「ちょ、なにするつもり!?」
「あなたを飛ばすのよ」
「え、そんなこと!?」
「承知しなさい、それッ!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
ミアは飛び上がって情けない悲鳴を上げる。
次の瞬間にはもう雲と同じ高さまで飛びあげられていた。
「え、え、これどーすんのよ!?」
ミアは戸惑った。何故ならこのままだと引っ張り上げた糸の力は失って、落下して地上に叩きつけられるからだ。
「ま、雲に捕まればいいのよ」
「そんな簡単に」
「できるわよ、それ!」
チトセはロープを投げ込むように腕を振ると、糸が雲を捕まえてそれにチトセは乗っかる。
「む、無茶言って……!」
でも、やってみせるしかない、とミアはやけくそ気味にヨーヨーを投げ込む。
「――!」
投げ込んだ先でミアは何かを掴む感覚を得る。
「これね!」
ミアはそれを投げ縄のように手繰り寄せる。
「飲み込みが良いわね。もっともそうでなかったらこんなことしてなかったけど」
「冗談じゃないわ、死ぬところだったじゃないのッ!!」
ミアは文句を言いながらチトセについていく。
一度出来てしまえばあとは簡単だ。ヨーヨーを投げ縄の要領で雲に投げ込んで引っ掛ける。雲が木のように簡単にひっつけられる。
「死ぬところになったら助けてあげてたわよ」
そう言われてもミアは信じられなかった。
「助けてあげるっていうのが上から目線できにくわないわね」
「だって私の方が上でしょう」
「あたしの方が上よ」
「大口叩ける間は大丈夫ね」
チトセはそう言って、ミアから前へ向き直る。
前からプロペラ音が聞こえてくる。
雲の海に紛れてやってきたのはプロペラを回して飛ぶ戦闘機の大軍であった。
「やけに時代がかった空襲ね」
これにはチトセも呆れた。
「あんたの仲間じゃないの?」
「まさか。あんなの知らないわよ、私の生きた時代でも骨董物よ」
「あたしからみたらどっちも骨董物よ」
「ミアちゃんの辛辣さが身にしみるわ……」
チトセはため息一つついて、指を振る。
すると戦闘機のプロペラの羽音が鳴り止む。雲という雲に張り巡らされたチトセの糸に絡め取られたのだろう。
「うっとおしい音が聞こえなくなってせいせいするわ」
ガガガッ!
動きを止められた戦闘機から機銃が出て来る。
「あれ、どうするの?」
ミアは呆れ気味に訊いてみた。
「よける」
「そういうと思ったわ! 大雑把なんだから!!」
ミアは悪態をつく。
ドドドドドドドドドドン!!
そうこう言っている内に機銃が発射される。
数十体の戦闘機から数百発の弾丸が一瞬のうちに襲いかかる。
普通なら鉢の巣になっているところだが、魔法少女は普通じゃない。とにかく的が小さいから当たりにくいのだ。たまにスカートやらリボンやらフリフリしている分に弾がかする。
「ああいうヘナチョコ弾にはあたらないものよ」
「そのわりには結構危ないじゃないの!」
「そう見えるだけよ。そのうち弾切れするから」
「そのうちっていつよ?」
「……わからないからそのうちよ」
「あてになるかってのよッ!!」
ミアは大声で文句を言う。
その文句の通り、銃声は鳴り止むことはなく弾は際限無く撃ち続けられていく。
「あたッ!?」
その中の一発がミアの腹をかすめた。
魔力で編んだ衣装のおかげで小突かれた程度で済んだが、それでも何十発も受けたらどうなるかわからない。
「精度が上がってきたわね。でも闇雲に撃ってるわけじゃないのね」
「感心してる場合か!」
「それじゃ、やってみますか」
チトセはそう言って、指をクイッと振る。
ミシィ
糸に囚われた戦闘機は軋んでいき、亀裂とともに砕け散る。
そこへミアがヨーヨーを投げ込んで、粉々に爆散させる。
「やるじゃない、みあちゃん」
「あと何機いるのよ?」
「そうね……まだ百近くあるわね」
「もう全部チトセが相手しなさいよ」
「私だって万能じゃないのよ、助手の一人か二人ぐらいは必要よ」
「ああ、介護は必要だったわね、ヘルパー紹介してあげよっか?」
「へるぱーって何?」
「ああ、ダメねこりゃ」
「介護ならミアちゃんがいるから大丈夫よ」
「はあ!? なんだってあたしがあんたみたいなババアの介護なんかしなくちゃいけないのよ!?」
チトセはため息をつく。
「そんな子に育てた覚えありません」
「育てられた覚えもないわ!」
ミアは悪態をついて、戦闘機を落とす。
バシャァァァァァァン!!
戦闘機を一度に薙ぎ払い、爆発をたくさん上げる。
「おいでなすったわね」
チトセはその爆煙の先にさらなる援軍を見た。
「プロペラがないわね」
「ハイテクになったのよ。爆撃機ってやつね」
「ああ、テレビでみたことあるわ」
戦争のドキュメント映像。たまたまチャンネルを回してみたものだ。
「あれで焼け野原にされたんでしょ」
「ええ……忌々しいことにね」
そう答えたチトセの口調はいつにも増して怒気が込もっているように感じた。
「今度はそうさせないわよ!」
チトセはそう言うと、細長い光の線がいくつにも折り重なって、戦闘機に襲いかかる。
バゴゴゴォン!!
「まるでレーザービームね……」
ミアは呆れた。
「ああ、それおいいわね。霊座美異夢れいざびいむ?」
「頭の悪いネーミングはやめなさいよ」
「考えておくわ」
嫌な予感がしかしないミアであった。
「ていやッ!」
そうこうしているうちに、チトセは次々と糸を薙いで、戦闘機を落としていく。
「これ、あたしがいる意味あんの?」
「助手が一人必要って言ってるでしょ」
ブオオオオオオン!!
爆撃のようなジェット音が鳴り響く。
「な、なんなわけ!?」
ミアは思わず耳をふさいで悪態をつく。
「本命ね、ようやく来たのね」
一際大きな戦闘機がけたたましい音を立ててやってくる。
「マッハジェットだぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」
ジェット音をも超える大音量で叫び声を上げる。
「なんて、騒音よ……」
「でかい音出せば自分は強いって思ってる手合いね」
「言ってくれるじゃねえかぁッ! 俺が強いってのは事実なんだがよぉぉぉッ!」
「ああ、うるさいわ」
「ああいうのをさっさとはたきおとさないとね」
チトセはそう言って指を振る。
「そんなものが通じるかぁぁぁぁッ!!」
戦闘機は魔法の糸を振り切って、飛び回る。
「わわあッ!?」
チトセはそれに煽られて吹き飛ぶ。
「チトセ!?」
「大丈夫」
チトセはそう言って雲に糸を引っ掛けて、体勢を立て直す。
「でも、強敵ね。ちょっとやそっとじゃ勝てそうにないわ」
「そんな弱気でどうするのよ」
「ごもっとも。ミアちゃんは強いわね」
チトセは微笑んでみせる。
「俺が強敵だってぇぇぇぇッ!? そりゃそのとおりだぜぇぇぇッ!!
それもそのはずぅぅぅぅッ!! 俺は関東ネガサイド連合切り込み隊長・マッハジェットぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
マッハジェットは高らかに名乗りを上げる。
「ああ、バカなやつだってことはわかったわ」
「バカなやつほど強いってことよ」
「じゃあ、あいつよりバカなところ見せてよ」
「随分な言いぐさね……ミアちゃんもそのうちバカになるから」
「う……それは嫌だわ」
ミアは最大限のしかめ面をする。
「せぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁッ!!」
マッハジェットは豪快に突撃してくる
ぶつかりはしなかったが、その突撃は音速を超え、ただ飛び回るだけで衝撃波を生み、巻き込まれる。
「ああぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
ミアはハリケーンの中に入ったかのように吹き飛ばされる。
チトセはそんなミアの足に糸をかけて固定する。
「大丈夫、ミアちゃん?」
「だ、大丈夫よ、これぐらい」
「強がり言ってられるんなら、まだ大丈夫ね」
「つ、強がりなんかじゃ!」
「それを強がりっていうのよ。ま、弱気になるのよりかはいいけどね」
チトセは両腕を大きく振る。
「十本の糸がお前を捕らえる」
「ぬぅぅぅぅぅッ!?」
マッハジェットは捕らえる。
「細く強く長く魔法の糸よ」
「こ、こいつ、振りほどけんのかぁぁぁぁぁッ!!」
「さあ、チャンスよミアちゃん!」
「オーケー! Gヨーヨー・グランドワールド!」
ミアはヨーヨーを光の弾丸へと変えてマッハジェットにぶつける。
マッハジェットに風穴が空き、機体が揺らぐ。
「ぐおおおおッ!!」
「一発じゃ足りないわね」
「さすがに切り込み隊長ってところね、ミアちゃん、もういっぱ……」
そこで、チトセの言葉が途切れる。
腹に風穴が空いてしまい、床が抜けたようにあっさりと落ちていく。
「ちょ、チトセぇぇぇぇぇッ!!」
ミアはヨーヨーを投げ縄のように投げつけて、チトセの腕に引っ掛ける。おかげで落下は阻止できた。
「く……う……」
「何やってんのよ、あんた!?」
「違うのよ……敵はもうひとり、いたのよ……」
「そのとおりぃぃぃッ!!」
マッハジェットと同じような甲高い声を上げて、雲の上から急降下してくる。
「貴様ぁぁぁぁぁぁッ! ライトフライヤーかぁぁぁぁっぁッ!」
「いかにもォォォォッ!!」
「ああ! やかましいのもう一人増えたぁぁぁッ!?」
ミアは癇癪を起こす。
「ミアちゃんの同類かしら?」
「一緒にしないでぇッ!」
「よっと!」
そうこうしているちに、チトセはミアと同じ高さまで飛び上がってやってくる。
「助かったわ、ミアちゃん……危うく、地上に落ちてバラバラになるところだったわ」
「傷は大丈夫なの?」
「心配してくれるの?」
「ば、バカ言ってるんじゃないわよ! あんなの一人で相手にしてられないからよ、それだけよ!」
「フフフ……素直じゃないんだから」
チトセはそう言いながら腹に開いた風穴を魔法の糸で編んだ衣装で塞いでいく。
「応急処置だけど」
一言付け足したが、ミアには完全に治ったかのように見えた。
「そんなもので俺を倒せるかぁぁぁl」
「おうとも、片腹痛いぜぇぇぇッ!」
「ああ! うるさい、うるさい! チトセ、一気にやるわよ」
「簡単に言ってくれちゃって、もう!」
チトセはそう言って魔法の糸でマッハジェットとライトフライヤーを絡め取る。
「バカの一つおぼえがよぉぉぉぉッ!! こんなのきくわけないだろうぉぉぉぉッ!!」
「くぅッ!」
しかし、簡単に糸は振りほどかれる。
「あんた、やっぱり大丈夫じゃないじゃない!」
「大丈夫よ」
「まったくみてられないわ! あたしがやってやるわよ、マシンガンスロー!!」
ミアは両手のヨーヨーを何十発も一斉に放つ。
「豆鉄砲もいいとこだなぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「おうともぉぉぉぉッ!!」
しかし、二人はいともあっさりと機関銃でヨーヨーを弾いていく。
「こっちが本命よ! Gヨーヨー・グランドワールド!!」
ヨーヨーが光の弾丸となって、マッハジェットを襲う。
ズゴォンッ!
ヨーヨーは二つ目の風穴をマッハジェットに開ける。
「ぐおおぉぉぉぉぉッ!!」
爆煙を上げて、フラフラと雲の下へゆっくりと降りていく。
「そのまま落ちろ」とミアは思った。
「――好きだらけだぜぇぇぇぇッ!!」
しかし、その声で迂闊だったと反省するべきことになる。
何しろ、敵はもう一人いてしっかりと機銃の照準を合わせていのだから。
ババババババン!!
ミアは蜂の巣も吹き飛ぶ勢いの弾丸の嵐にさらされる。
「ああぁぁぁぁッ!!」
当然、避けきれずにまともに弾丸は身体の至るところを傷つけていく。
「ミアちゃん!」
見かねてチトセは覆いかぶさるようにミアを弾丸の嵐から守る。
「ち、チトセ……」
「無茶しないで……このカラダじゃ、無理がきかないんだから」
そう言ったチトセの顔は無理に笑顔を取り繕っているように見えた。というか、今も背中には弾丸がバチバチと当たり続けているせいで笑顔を続けることは普通はできないはずなのに。
「あんただって無茶してるじゃないの」
「私はいいの……人形だから、代えがきくから……」
確かに自分を抱いているときに伝わってくるチトセの手やカラダの感触は固い。人の肌の柔らかくてぬくもりがあるそれとは決定的に違う。
しかし、だからといって目の前でそれが壊されていく様を見て平気でいられるはずがない。
「おりゃッ!」
ミアはヨーヨーを雲に向かって投げつけて引っ掛ける。
それをワイヤーのように引き寄せて、弾丸の嵐から離脱する。
「た、助かったわ……」
「無茶するからよ! 少しカラダをいたわりなさいよ」
「そんな年寄りあつかい……」
「年寄りでしょうが!」
「おうともぉぉぉぉぉぉッ!!」
雲を突き破って、墜落したはずのマッハジェットが現れる。
「あんた、落ちたんじゃ!?」
「あれぐらいで落ちるかよぉッ! それよりもよくもやってくれたな、お礼参りにこいつをくらいやがれぇぇぇぇッ!!」
ドシャン!!
マッハジェットがミサイルを発射する。
「ちょッ!?」
いきなりの不意打ちに対処できない。
「往生して成仏しやがれぇぇぇッ!!」
ズドォォォォン!!
ミサイルの爆発で吹き飛ばされる。
「ざっとこんなもんだぜぇぇぇぇぇッ!」
勝ち誇った声が聞こえる。
憎たらしいとミアは思ったが、どうすることもできない。
「くッ!」
地上へと真っ逆さまに落ちている。なんとかしようと手を動かすが、それだけだ。手からヨーヨーを出せない。
「チトセは……」
僅かに動く目でチトセを探してみるが、見えない。
ミサイルでカラダがバラバラになったのか。
「でも、死んでないわよね……だって、あいつ幽霊だし」
幽霊が死ぬなんてありえない。だって死んだから幽霊であって、これ以上死にようがない。だから、幽霊は死なない。
「――当然よ」
チトセの声がする。
やっぱり、とミアは安心する。
「でも、このまま戦うのは難しいわね」
「なんとかしなさいよ」
「なんとかできないこともないわよ」
「だったら、なんとかしなさいよ」
「ミアちゃん、負けず嫌いね」
「あったりまえよ。このまま負けたんじゃ悔しくって負けられないわよ」
「そうね、私もこの戦いどうしても負けられないからね」
チトセは力強く言う。
「んで、どうなんとかするの?」
「こうするのよ」
チトセは答えるやいなや、ミアを光で包み込む。
「わあ、ちょ、なにこれ!?」
「ミアちゃんも言ってたでしょ、私、幽霊だし」
「だから、これは何なのよぉッ!?」
「この状態で幽霊がすることっていったら一つでしょ」
そう言われて、ミアは全身が震える。
「まさか、憑依ってやつッ!?」
「ううん」
チトセは否定して、こう答える。
「――合体よ」
緑色の光の中で、ミアは身体が光に変わっていくのを感じる。
ミアは赤色の光になってチトセである緑色の光と混ざり合う。
「赤緑せきりょくの魔法少女・ミアチトセッ!」
緑に赤いメッシュがかかった魔法少女が姿を現す。
「が、合体ッ!?」
「面白いことしやがるやつだなぁぁぁぁッ!」
「ここからが本番よ!」
ミアチトセは糸を巻き付けて、マッハジェットとライトフライヤーを無理矢理手繰り寄せる。
「ぬうぅぅぅッ!?」
「さっすがミアちゃんね。この身体、とても波長が合うわ」
(やっぱりあたしの身体、乗っ取ってるじゃない!)
ミアチトセの身体の内側から文句の声が聞こえてくる。
(まあまあ、半分はミアちゃんのものよ)
(だったら、ヨーヨーを使うわよ!)
「サイクラッシュ・ヨーヨー!!」
手繰り寄せたところをヨーヨーをぶつけてやる。
グシャァァァァン!!
「ば、ばかなぁぁぁぁッ!!」
悲鳴を上げて、ライトフライヤーを爆散する。
「結局なんだったのかしら、あいつは」
「あいつってのはな! 俺と常に大空を競い合ったぁぁぁッ! 黄金の中空王・ライトフライヤーだよぉぉぉッ!」
「ああ、興味ないわね」
グシャァァァァン!!
「ぐおぉぉぉぉぉぉッ!!」
続いてマッハジェットをもヨーヨーをぶつけてあっさりと爆散させる。
「楽勝ね」
ミアチトセはガッツポーズをとる。
(さあ、さっさと合体を解除するわよ)
(あら、もう終わりじゃつまらないわよ)
(こっちはいい迷惑よ! 一秒だって一緒にいられないわよ、あたしは乗っ取られてるのよ!!)
(乗っ取っるだなんて人聞きが悪いわね、合体だっていってるじゃない)
(こんな気持ち悪い合体が有るかぁぁッ! っていうか、ミアチトセって何よ! あったまわるいネーミングね!)
(ええ? 雅な名前だと思ったのに)
(あたしは相撲取りか何かかと思ったわ)
(そんな意地悪言うミアちゃんとは合体を解きません)
(なんでよッ!?)
(だって、解除の仕方知らないから)
(え……?)
ミアチトセの内側喧嘩を繰り広げていたが、その一言でミアは絶句して立ち尽くした。
「ああ、風が強いわ」
高層ビルから吹きすさぶ風は子供であるみあを飛ばさんばかりに荒れている。
みあはうっとおしげになびく髪を押さえて千歳の後をついていく。
「ほんとにこんなところから敵が来るわけ?」
「あるみや来葉が言ってるんだから間違いないでしょ」
「来葉って、未来が視えるみたいだけど……本当なの?」
みあは半信半疑であった。
占いやおまじないといったものがみあは嫌いだった。来葉の未来視もそれと似たようなものだと思えてならないのだ。
またあるみに担がれて骨折り損なんてのはごめんだ。
「本当よ。私の理解を超えた魔法だけど」
千歳はそんなことを言う。
そこまで言われるとついていかないわけにはいかない。
みあは千歳から魔法の特訓を受けているせいで、頭が上がらないまでも真っ向から逆らえなくなっている。
それにいつにも増して千歳は殺気立っていた。下手に逆らったら殺されるんじゃないかって思うほどだった。
だから、逆らわないことにして、千歳と一緒にこのポイントにやってきた。
別に怖いわけじゃない。ただ、只事じゃないことが起きようとしている。こんなときはあるみの指示に従うのが一番いい。いい加減で大雑把だけど、的確な判断力をもって指示を出す点については信頼している。
「高層ビルは千歳とみあちゃんに任せるわ。空はちゃんと守ってね」
あるみにそう言われて、千歳とみあは組むことになった。
多少のぎこちなさはあるけど、みあにとってあるみの次に頼りになるのが千歳であった。特訓をつけてもらったからそれは文字通り痛いほどよくわかっている。
とはいえ、今の刺々しい雰囲気が好ましいといえばまた別問題だ。張り切っていて頼もしいとも好意的に解釈できるけど。
「んで、空からの敵ってどう戦えばいいの?」
「そうね、みあちゃんはそういう経験なかったかしら?」
「まったく無いわけじゃないけど、慣れてないわね」
「見栄をはらなくてもいいわよ、すぐに慣れるんだから」
「はあ、何言ってんの?」
みあは疑問を投げかけるが、千歳は大空を見上げて言った。
「すぐに敵がやってくるから」
みあはその言葉に反射的に身構える。
「来るの?」
「……ええ、一、十、百……まあ、それぐらいね」
「どうやったらそんなことがわかるの? 魔力探知?」
「いいえ、これは私の糸の特性ね」
千歳は自慢げに指を立てて言った。
「雲海の大蜘蛛……これ使うのは久しぶりなのよね」
指先から一本の糸が見える。そこから無数に伸びている。
「雲に糸をかけてるの?」
「そう、大自然を使用した大魔法よ」
「でもやってることはレーダーみたいなものだから地味ね」
「れーだー、ね……まあ、あるみやかなみちゃんに比べたら地味なのは否定しないわ」
千歳は苦笑する。
「でも、これ便利なのよ。それ」
千歳はそう言って指を振る。
バゴーン!
空に爆音が鳴り響く。
「私の糸を絡めて撃ち落としたの」
「無茶苦茶ね……」
みあは呆れた。
「これで開戦よ。さっさと変身なさい」
千歳はそう言われるとみあはムッとする。しかし、逆らいがたいので素直に言うことを聞く。
「勇気と遊戯の勇士、魔法少女ミア登場!」
巻き気味に変身をすませたころ、千歳も同じように変身し終わっていた。
「名乗り口上は?」
「忘れてた。編集でなんとかするでしょ」
ミアはため息をつく。
「前々から思ってたけど、ミアちゃんってさ……ま、いいわ」
「何よ、気になるじゃないの」
「かなみちゃんに聞いてみたら? 教えてくれるわよ」
「なんでかなみが教えてくれるわけ? 第一、かなみはやめるかもしれないのよ」
「それを簡単に承知するみあちゃんじゃないでしょ」
チトセは強引にかなみを引き止めるみあの姿を想像して、微笑む。
「フン! あんな奴がやめたってどうでもいいわよ」
ミアはぷいっとそっぽ向く。
「素直じゃないわね……でも、おかげでほっこりさせてもらったわ」
チトセはそう言って空を見上げる。
「十機ぐらい、糸に絡め取られたわね」
チトセは空に向かって腕を空に向かって薙ぐ。
バゴーン!!
それでさっきの爆音が十回続くて鳴り響く。
「まるで花火ね」
「それだったらまだ可愛げがあるわよ」
「んで、あたしはどうするの?」
「飛びなさい」
チトセの返事にミアは一瞬固まる。
「飛ぶって、誰が?」
「あなたと私が」
「ちょっと待って、あたし空飛ぶ魔法なんて出来ないわよ!!」
「私もできないけど」
「はあ、何言ってるの!?」
「糸を使えばできるのよ、それ!」
チトセはそう言って、ミアに向けて指を振る。
するとミアは身体に違和感が出る。蜘蛛の糸に引っかかったかのような、というか実際に糸を巻かれたのだろう。
「ちょ、なにするつもり!?」
「あなたを飛ばすのよ」
「え、そんなこと!?」
「承知しなさい、それッ!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
ミアは飛び上がって情けない悲鳴を上げる。
次の瞬間にはもう雲と同じ高さまで飛びあげられていた。
「え、え、これどーすんのよ!?」
ミアは戸惑った。何故ならこのままだと引っ張り上げた糸の力は失って、落下して地上に叩きつけられるからだ。
「ま、雲に捕まればいいのよ」
「そんな簡単に」
「できるわよ、それ!」
チトセはロープを投げ込むように腕を振ると、糸が雲を捕まえてそれにチトセは乗っかる。
「む、無茶言って……!」
でも、やってみせるしかない、とミアはやけくそ気味にヨーヨーを投げ込む。
「――!」
投げ込んだ先でミアは何かを掴む感覚を得る。
「これね!」
ミアはそれを投げ縄のように手繰り寄せる。
「飲み込みが良いわね。もっともそうでなかったらこんなことしてなかったけど」
「冗談じゃないわ、死ぬところだったじゃないのッ!!」
ミアは文句を言いながらチトセについていく。
一度出来てしまえばあとは簡単だ。ヨーヨーを投げ縄の要領で雲に投げ込んで引っ掛ける。雲が木のように簡単にひっつけられる。
「死ぬところになったら助けてあげてたわよ」
そう言われてもミアは信じられなかった。
「助けてあげるっていうのが上から目線できにくわないわね」
「だって私の方が上でしょう」
「あたしの方が上よ」
「大口叩ける間は大丈夫ね」
チトセはそう言って、ミアから前へ向き直る。
前からプロペラ音が聞こえてくる。
雲の海に紛れてやってきたのはプロペラを回して飛ぶ戦闘機の大軍であった。
「やけに時代がかった空襲ね」
これにはチトセも呆れた。
「あんたの仲間じゃないの?」
「まさか。あんなの知らないわよ、私の生きた時代でも骨董物よ」
「あたしからみたらどっちも骨董物よ」
「ミアちゃんの辛辣さが身にしみるわ……」
チトセはため息一つついて、指を振る。
すると戦闘機のプロペラの羽音が鳴り止む。雲という雲に張り巡らされたチトセの糸に絡め取られたのだろう。
「うっとおしい音が聞こえなくなってせいせいするわ」
ガガガッ!
動きを止められた戦闘機から機銃が出て来る。
「あれ、どうするの?」
ミアは呆れ気味に訊いてみた。
「よける」
「そういうと思ったわ! 大雑把なんだから!!」
ミアは悪態をつく。
ドドドドドドドドドドン!!
そうこう言っている内に機銃が発射される。
数十体の戦闘機から数百発の弾丸が一瞬のうちに襲いかかる。
普通なら鉢の巣になっているところだが、魔法少女は普通じゃない。とにかく的が小さいから当たりにくいのだ。たまにスカートやらリボンやらフリフリしている分に弾がかする。
「ああいうヘナチョコ弾にはあたらないものよ」
「そのわりには結構危ないじゃないの!」
「そう見えるだけよ。そのうち弾切れするから」
「そのうちっていつよ?」
「……わからないからそのうちよ」
「あてになるかってのよッ!!」
ミアは大声で文句を言う。
その文句の通り、銃声は鳴り止むことはなく弾は際限無く撃ち続けられていく。
「あたッ!?」
その中の一発がミアの腹をかすめた。
魔力で編んだ衣装のおかげで小突かれた程度で済んだが、それでも何十発も受けたらどうなるかわからない。
「精度が上がってきたわね。でも闇雲に撃ってるわけじゃないのね」
「感心してる場合か!」
「それじゃ、やってみますか」
チトセはそう言って、指をクイッと振る。
ミシィ
糸に囚われた戦闘機は軋んでいき、亀裂とともに砕け散る。
そこへミアがヨーヨーを投げ込んで、粉々に爆散させる。
「やるじゃない、みあちゃん」
「あと何機いるのよ?」
「そうね……まだ百近くあるわね」
「もう全部チトセが相手しなさいよ」
「私だって万能じゃないのよ、助手の一人か二人ぐらいは必要よ」
「ああ、介護は必要だったわね、ヘルパー紹介してあげよっか?」
「へるぱーって何?」
「ああ、ダメねこりゃ」
「介護ならミアちゃんがいるから大丈夫よ」
「はあ!? なんだってあたしがあんたみたいなババアの介護なんかしなくちゃいけないのよ!?」
チトセはため息をつく。
「そんな子に育てた覚えありません」
「育てられた覚えもないわ!」
ミアは悪態をついて、戦闘機を落とす。
バシャァァァァァァン!!
戦闘機を一度に薙ぎ払い、爆発をたくさん上げる。
「おいでなすったわね」
チトセはその爆煙の先にさらなる援軍を見た。
「プロペラがないわね」
「ハイテクになったのよ。爆撃機ってやつね」
「ああ、テレビでみたことあるわ」
戦争のドキュメント映像。たまたまチャンネルを回してみたものだ。
「あれで焼け野原にされたんでしょ」
「ええ……忌々しいことにね」
そう答えたチトセの口調はいつにも増して怒気が込もっているように感じた。
「今度はそうさせないわよ!」
チトセはそう言うと、細長い光の線がいくつにも折り重なって、戦闘機に襲いかかる。
バゴゴゴォン!!
「まるでレーザービームね……」
ミアは呆れた。
「ああ、それおいいわね。霊座美異夢れいざびいむ?」
「頭の悪いネーミングはやめなさいよ」
「考えておくわ」
嫌な予感がしかしないミアであった。
「ていやッ!」
そうこうしているうちに、チトセは次々と糸を薙いで、戦闘機を落としていく。
「これ、あたしがいる意味あんの?」
「助手が一人必要って言ってるでしょ」
ブオオオオオオン!!
爆撃のようなジェット音が鳴り響く。
「な、なんなわけ!?」
ミアは思わず耳をふさいで悪態をつく。
「本命ね、ようやく来たのね」
一際大きな戦闘機がけたたましい音を立ててやってくる。
「マッハジェットだぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」
ジェット音をも超える大音量で叫び声を上げる。
「なんて、騒音よ……」
「でかい音出せば自分は強いって思ってる手合いね」
「言ってくれるじゃねえかぁッ! 俺が強いってのは事実なんだがよぉぉぉッ!」
「ああ、うるさいわ」
「ああいうのをさっさとはたきおとさないとね」
チトセはそう言って指を振る。
「そんなものが通じるかぁぁぁぁッ!!」
戦闘機は魔法の糸を振り切って、飛び回る。
「わわあッ!?」
チトセはそれに煽られて吹き飛ぶ。
「チトセ!?」
「大丈夫」
チトセはそう言って雲に糸を引っ掛けて、体勢を立て直す。
「でも、強敵ね。ちょっとやそっとじゃ勝てそうにないわ」
「そんな弱気でどうするのよ」
「ごもっとも。ミアちゃんは強いわね」
チトセは微笑んでみせる。
「俺が強敵だってぇぇぇぇッ!? そりゃそのとおりだぜぇぇぇッ!!
それもそのはずぅぅぅぅッ!! 俺は関東ネガサイド連合切り込み隊長・マッハジェットぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
マッハジェットは高らかに名乗りを上げる。
「ああ、バカなやつだってことはわかったわ」
「バカなやつほど強いってことよ」
「じゃあ、あいつよりバカなところ見せてよ」
「随分な言いぐさね……ミアちゃんもそのうちバカになるから」
「う……それは嫌だわ」
ミアは最大限のしかめ面をする。
「せぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁッ!!」
マッハジェットは豪快に突撃してくる
ぶつかりはしなかったが、その突撃は音速を超え、ただ飛び回るだけで衝撃波を生み、巻き込まれる。
「ああぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
ミアはハリケーンの中に入ったかのように吹き飛ばされる。
チトセはそんなミアの足に糸をかけて固定する。
「大丈夫、ミアちゃん?」
「だ、大丈夫よ、これぐらい」
「強がり言ってられるんなら、まだ大丈夫ね」
「つ、強がりなんかじゃ!」
「それを強がりっていうのよ。ま、弱気になるのよりかはいいけどね」
チトセは両腕を大きく振る。
「十本の糸がお前を捕らえる」
「ぬぅぅぅぅぅッ!?」
マッハジェットは捕らえる。
「細く強く長く魔法の糸よ」
「こ、こいつ、振りほどけんのかぁぁぁぁぁッ!!」
「さあ、チャンスよミアちゃん!」
「オーケー! Gヨーヨー・グランドワールド!」
ミアはヨーヨーを光の弾丸へと変えてマッハジェットにぶつける。
マッハジェットに風穴が空き、機体が揺らぐ。
「ぐおおおおッ!!」
「一発じゃ足りないわね」
「さすがに切り込み隊長ってところね、ミアちゃん、もういっぱ……」
そこで、チトセの言葉が途切れる。
腹に風穴が空いてしまい、床が抜けたようにあっさりと落ちていく。
「ちょ、チトセぇぇぇぇぇッ!!」
ミアはヨーヨーを投げ縄のように投げつけて、チトセの腕に引っ掛ける。おかげで落下は阻止できた。
「く……う……」
「何やってんのよ、あんた!?」
「違うのよ……敵はもうひとり、いたのよ……」
「そのとおりぃぃぃッ!!」
マッハジェットと同じような甲高い声を上げて、雲の上から急降下してくる。
「貴様ぁぁぁぁぁぁッ! ライトフライヤーかぁぁぁぁっぁッ!」
「いかにもォォォォッ!!」
「ああ! やかましいのもう一人増えたぁぁぁッ!?」
ミアは癇癪を起こす。
「ミアちゃんの同類かしら?」
「一緒にしないでぇッ!」
「よっと!」
そうこうしているちに、チトセはミアと同じ高さまで飛び上がってやってくる。
「助かったわ、ミアちゃん……危うく、地上に落ちてバラバラになるところだったわ」
「傷は大丈夫なの?」
「心配してくれるの?」
「ば、バカ言ってるんじゃないわよ! あんなの一人で相手にしてられないからよ、それだけよ!」
「フフフ……素直じゃないんだから」
チトセはそう言いながら腹に開いた風穴を魔法の糸で編んだ衣装で塞いでいく。
「応急処置だけど」
一言付け足したが、ミアには完全に治ったかのように見えた。
「そんなもので俺を倒せるかぁぁぁl」
「おうとも、片腹痛いぜぇぇぇッ!」
「ああ! うるさい、うるさい! チトセ、一気にやるわよ」
「簡単に言ってくれちゃって、もう!」
チトセはそう言って魔法の糸でマッハジェットとライトフライヤーを絡め取る。
「バカの一つおぼえがよぉぉぉぉッ!! こんなのきくわけないだろうぉぉぉぉッ!!」
「くぅッ!」
しかし、簡単に糸は振りほどかれる。
「あんた、やっぱり大丈夫じゃないじゃない!」
「大丈夫よ」
「まったくみてられないわ! あたしがやってやるわよ、マシンガンスロー!!」
ミアは両手のヨーヨーを何十発も一斉に放つ。
「豆鉄砲もいいとこだなぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「おうともぉぉぉぉッ!!」
しかし、二人はいともあっさりと機関銃でヨーヨーを弾いていく。
「こっちが本命よ! Gヨーヨー・グランドワールド!!」
ヨーヨーが光の弾丸となって、マッハジェットを襲う。
ズゴォンッ!
ヨーヨーは二つ目の風穴をマッハジェットに開ける。
「ぐおおぉぉぉぉぉッ!!」
爆煙を上げて、フラフラと雲の下へゆっくりと降りていく。
「そのまま落ちろ」とミアは思った。
「――好きだらけだぜぇぇぇぇッ!!」
しかし、その声で迂闊だったと反省するべきことになる。
何しろ、敵はもう一人いてしっかりと機銃の照準を合わせていのだから。
ババババババン!!
ミアは蜂の巣も吹き飛ぶ勢いの弾丸の嵐にさらされる。
「ああぁぁぁぁッ!!」
当然、避けきれずにまともに弾丸は身体の至るところを傷つけていく。
「ミアちゃん!」
見かねてチトセは覆いかぶさるようにミアを弾丸の嵐から守る。
「ち、チトセ……」
「無茶しないで……このカラダじゃ、無理がきかないんだから」
そう言ったチトセの顔は無理に笑顔を取り繕っているように見えた。というか、今も背中には弾丸がバチバチと当たり続けているせいで笑顔を続けることは普通はできないはずなのに。
「あんただって無茶してるじゃないの」
「私はいいの……人形だから、代えがきくから……」
確かに自分を抱いているときに伝わってくるチトセの手やカラダの感触は固い。人の肌の柔らかくてぬくもりがあるそれとは決定的に違う。
しかし、だからといって目の前でそれが壊されていく様を見て平気でいられるはずがない。
「おりゃッ!」
ミアはヨーヨーを雲に向かって投げつけて引っ掛ける。
それをワイヤーのように引き寄せて、弾丸の嵐から離脱する。
「た、助かったわ……」
「無茶するからよ! 少しカラダをいたわりなさいよ」
「そんな年寄りあつかい……」
「年寄りでしょうが!」
「おうともぉぉぉぉぉぉッ!!」
雲を突き破って、墜落したはずのマッハジェットが現れる。
「あんた、落ちたんじゃ!?」
「あれぐらいで落ちるかよぉッ! それよりもよくもやってくれたな、お礼参りにこいつをくらいやがれぇぇぇぇッ!!」
ドシャン!!
マッハジェットがミサイルを発射する。
「ちょッ!?」
いきなりの不意打ちに対処できない。
「往生して成仏しやがれぇぇぇッ!!」
ズドォォォォン!!
ミサイルの爆発で吹き飛ばされる。
「ざっとこんなもんだぜぇぇぇぇぇッ!」
勝ち誇った声が聞こえる。
憎たらしいとミアは思ったが、どうすることもできない。
「くッ!」
地上へと真っ逆さまに落ちている。なんとかしようと手を動かすが、それだけだ。手からヨーヨーを出せない。
「チトセは……」
僅かに動く目でチトセを探してみるが、見えない。
ミサイルでカラダがバラバラになったのか。
「でも、死んでないわよね……だって、あいつ幽霊だし」
幽霊が死ぬなんてありえない。だって死んだから幽霊であって、これ以上死にようがない。だから、幽霊は死なない。
「――当然よ」
チトセの声がする。
やっぱり、とミアは安心する。
「でも、このまま戦うのは難しいわね」
「なんとかしなさいよ」
「なんとかできないこともないわよ」
「だったら、なんとかしなさいよ」
「ミアちゃん、負けず嫌いね」
「あったりまえよ。このまま負けたんじゃ悔しくって負けられないわよ」
「そうね、私もこの戦いどうしても負けられないからね」
チトセは力強く言う。
「んで、どうなんとかするの?」
「こうするのよ」
チトセは答えるやいなや、ミアを光で包み込む。
「わあ、ちょ、なにこれ!?」
「ミアちゃんも言ってたでしょ、私、幽霊だし」
「だから、これは何なのよぉッ!?」
「この状態で幽霊がすることっていったら一つでしょ」
そう言われて、ミアは全身が震える。
「まさか、憑依ってやつッ!?」
「ううん」
チトセは否定して、こう答える。
「――合体よ」
緑色の光の中で、ミアは身体が光に変わっていくのを感じる。
ミアは赤色の光になってチトセである緑色の光と混ざり合う。
「赤緑せきりょくの魔法少女・ミアチトセッ!」
緑に赤いメッシュがかかった魔法少女が姿を現す。
「が、合体ッ!?」
「面白いことしやがるやつだなぁぁぁぁッ!」
「ここからが本番よ!」
ミアチトセは糸を巻き付けて、マッハジェットとライトフライヤーを無理矢理手繰り寄せる。
「ぬうぅぅぅッ!?」
「さっすがミアちゃんね。この身体、とても波長が合うわ」
(やっぱりあたしの身体、乗っ取ってるじゃない!)
ミアチトセの身体の内側から文句の声が聞こえてくる。
(まあまあ、半分はミアちゃんのものよ)
(だったら、ヨーヨーを使うわよ!)
「サイクラッシュ・ヨーヨー!!」
手繰り寄せたところをヨーヨーをぶつけてやる。
グシャァァァァン!!
「ば、ばかなぁぁぁぁッ!!」
悲鳴を上げて、ライトフライヤーを爆散する。
「結局なんだったのかしら、あいつは」
「あいつってのはな! 俺と常に大空を競い合ったぁぁぁッ! 黄金の中空王・ライトフライヤーだよぉぉぉッ!」
「ああ、興味ないわね」
グシャァァァァン!!
「ぐおぉぉぉぉぉぉッ!!」
続いてマッハジェットをもヨーヨーをぶつけてあっさりと爆散させる。
「楽勝ね」
ミアチトセはガッツポーズをとる。
(さあ、さっさと合体を解除するわよ)
(あら、もう終わりじゃつまらないわよ)
(こっちはいい迷惑よ! 一秒だって一緒にいられないわよ、あたしは乗っ取られてるのよ!!)
(乗っ取っるだなんて人聞きが悪いわね、合体だっていってるじゃない)
(こんな気持ち悪い合体が有るかぁぁッ! っていうか、ミアチトセって何よ! あったまわるいネーミングね!)
(ええ? 雅な名前だと思ったのに)
(あたしは相撲取りか何かかと思ったわ)
(そんな意地悪言うミアちゃんとは合体を解きません)
(なんでよッ!?)
(だって、解除の仕方知らないから)
(え……?)
ミアチトセの内側喧嘩を繰り広げていたが、その一言でミアは絶句して立ち尽くした。
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