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第33話 前哨? 影は日向を歩く少女の足元にできる (Bパート)
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今日は休日だから朝から出社する。
そうすれば、仕事が出来て給料がもらえる。
ひょっとしたら鯖戸か社長が特大のボーナス付きの案件をもってきてるかもしれない。そう思うと憂鬱な出勤も期待に胸が膨らむ。
「あるみには及ぼないけど」
「何の話?」
「いや、ただの独り言だよ」
マニィが変なことを口走るのは今に始まったことじゃない。
気にせず、かなみは階段を上がる。
「おはようございます」
オフィスに扉を開けるとそこには期待していた光景とは違うものが目に映った。
「ああ、かなみちゃん! ちょうどいいところに来てくれたわ」
千歳が笑顔で何かを持っている。
その何かを見た瞬間、かなみの脳裏に嫌な予感がよぎった。
「ちょうど、いいところ?」
「ほら、こないだ。めいど服を作ったでしょ?」
「え、ああ、そういえば……」
千歳は前にかなみにコスプレさせる話になった時、コスチューム作りに目覚めたそうだ。
それでそのメイド服を作って、かなみに無理矢理着せられた過去がある。
「まさか!?」
かなみは冷や汗をかく。
「ふっふーん♪ そのまっかーさよ♪」
千歳は上機嫌に言う。
「帰らせてもらいます!」
回れ右百八十度でかなみはドアノブに手をかける。
「帰るわけぇ?」
「え?」
千歳の奥からこの事務所では聞き慣れない声がする。
「せっかくの休日にわざわざ来たのに」
「美依奈ちゃん!?」
突然の来訪者に驚かされた。
白のブラウスに、水色のミニスカートを着込んだモデルの少女・美依奈であった。
「そんな大声でちゃん付けで呼ばないでよ」
「で、でも、いきなり来るなんて聞いてないわよ!」
「そりゃ聞かせてないもの。暇だから来ちゃったわけ」
「暇だからって……」
「そしたら、このスタイリストがいてビックリしたのよ」
「す、すたいりすと!?」
それは千歳を指して言ったことは簡単にわかったが、その呼ばれ方が意外すぎて驚いてしまう。
何しろ、美依奈はこの会社を芸能事務所だと勘違いしている。
しかも、かなみ達はその所属モデルだと思っている。
(なんで、そういう誤解するのかしら……?)
かなみは頭を抱える。
「どうしたの?」
美依奈は不思議そうに訊いてくる。
「う、ううん、なんでもない……」
「ほんと? じゃあ、帰る?」
「う……」
少し躊躇いが生まれた。
美依奈がわざわざ来てくれたのに、すぐ帰ってしまったのでは素っ気ない。
「じゃあ、せっかくだから話をしましょう」
千歳は手を叩く。
「何が、せっかくだから、ですか……」
かなみは憤る。
帰ろうとしたのは自分が原因だということをわかっていないのか、この人は……。
「コーヒーしか無いからごめんね」
「私、好きだから。砂糖多めでお願い」
「砂糖、無いけど」
「え……?」
美依奈の顔が引きつる。
「ここ、社長の意向でコーヒーはブラックしかいれないことになってるのよ」
「なにその喫茶店のマスターみたいなこだわり?」
美依奈が文句言っているうちに、千歳はインスタントコーヒーを入れ終わる。
「う……ブラック……」
「苦いの、苦手なの?」
「べ、別にそういうわけじゃないけど……ただ、砂糖入れた方がおいしいじゃない?」
「モデルなんだから美容に気を使いなさいってば」
「ふうん、それで節制してるわけね?」
「そ、そういうことなのよ」
本当はただ単にお金がないだけなんて言えないかなみは苦笑してごまかす。
「それでその体型を維持してるわけね」
美依奈はかなみの細いウエストを見てる。
「そんなに見ないで!」
「どうして?」
「恥ずかしいから」
「そんなんじゃモデルでやっていけないわよ」
「え、モデル……?」
かなみはキョトンとする。
「まさか、あれ一回こっきりってわけじゃないでしょ? あんた可愛いんだから」
「可愛い、私が?」
「なにその冗談きついわって顔? まあ今はスッピンだし、クマが酷いからってクマ酷いわね!」
「寝れてないから仕方ないでしょ」
「何、そんなに忙しいわけ? やっぱり仕事とかいっぱいきてるの?」
「きてないのよね……むしろ、きて欲しいから来てるっていうか」
「ああ、オファーがないのね」
美依奈は哀れんだ視線を送りながら、コーヒーを口にする。
「うぅ、苦い……」
「あははは、身体のためにはこれがいいのよ」
そう言いながらかなみもコーヒーを一口入れる。
「なんだか、大人ね……」
美依奈は少し悔しそうに言う。
「じゃあ、盛り上がってきたところで、かなみちゃん、はいこれ」
千歳は得意気に言って、新作の洋服を見せる。
「って、着ませんよ!」
「せっかくのプレゼントなのに」
「プレゼント……?」
「だって、かなみちゃん。いつも制服だから見飽きてきたのよ」
「そういえば今日も制服ね。そういう路線、狙ってるの?」
「ど、どういう路線よ!?」
「そりゃもちろんマニアよ」
「う、うーん……」
かなみは頭を抱える。
「みあちゃんの言うとおり、私って変な人に好かれるってことなのかしら?」
「あなたって失礼なこと言うわね」
「なんで失礼?」
「う……あんた、鈍いって言われない?」
「言われないけど、どうして?」
「なんでもない。せっかくだから着てみたら?」
「え……?」
突然の話題変更にかなみは凍りつく。
傍らで千歳はよくぞ言ってくれた、と言わんばかりに喜んでいるように見える。
「制服で堅苦しいしさ」
「堅苦しいかな……? まあ、いいけど……」
そこでかなみは反射的に止まる。
なんだか、これを着たら取り返しのつかないことになるような気がした。
「千歳さん?」
「なあに?」
「私がこれを着たら次は何を着せようかって考えたりしてないでしょうね?」
「大丈夫よ。そんなこと考えてないから」
千歳は笑顔で言う。
「次は和服を着せようと思っていい布地を取り寄せてもらってるところなの」
「もう準備済みなんですかぁッ!?」
「さすがスタイリストね」
美依奈は感心する。
「スタイリストじゃないですよ、千歳さんは」
「でも、この服とかよく出来てるじゃない」
「そうなのよね……」
「すたいりすと、ってなんなのか知らないけど、褒められて悪い気はしないわね」
「それはいいですけど、調子に乗らないでくださいよ……っていうか、私に洋服を着せようとする、やめてもらえませんか?」
「だって、かなみちゃん。いつも制服で味気ないじゃない」
「え、あんた、学校終わってからもずっと制服なわけ?」
美依奈は驚くが、休日の今も制服で来ているかなみを見て納得してため息をつく。
「……制服なわけよね」
「あ、あうう……」
それを言われると弱いかなみであった。
何しろ、私服が少ないとか、洗濯代がもったいないとか、そういった理由でなるべく制服で外に出ざるを得ないのだ。
「まあいいわ。それ早く着てみせてよ」
「結局着るの……」
「モデルでやっていくんなら、どんな服でも着こなさないとね」
「だから、モデルでやっていかないって……」
かなみはため息混じりに否定する。
「でも、私の予感だけど、これ絶対にかなみちゃんに合うと思う」
「合ったら合ったで問題なんだけど……」
そうなったら千歳が調子づいてどんどん服を着せようとする未来が見える。
(私、着せ替え人形みたいになるんだろう……)
なんだかそれは嫌な未来だった。
「かなみちゃん、お願いだから着てみてよ」
「よかったら、写メとってあげる」
美依奈は携帯を構える。
「う、うぅ……それをやられると余計に着たくなくなるというか……」
「あ~、だったらお願いするんじゃダメね」
千歳は立ち上がって、かなみを取り押さえる。
「え、ちょ……!」
「無理矢理着せた方が早いわ!」
「え、えぇッ!?」
「うわ……大胆!」
「美依奈ちゃん、見ないで!」
「はいはい……ちゃんと着たらみせてよ」
「みせたくないけど……のうわっちッ!? 千歳さん、そこはダメです!!」
かなみは無理矢理脱がされてから、観念して自分から洋服を着る。
「ど、どうかしら……?」
「おぉ!」
美依奈は感嘆の声を上げる。
「このまま、撮影いけるんじゃない?」
「そ、そう?」
「じゃあ、写メってマネージャーに聞いてみるよ」
「え、そ、それはやめて!」
「きっとすぐオファーがくるよ」
「え、そ、そう? モデル料は?」
「なに、お金の話? まあ、化粧代は必要よね、バカにならないし」
「そ、そうなのよ! お金が足りなくて、足りなくて、アハハハハ!!」
かなみはごまかして笑う。
「なんか、かなみちゃんからそこはかとなく金欠って感じがするんだけど」
ギクッとかなみはびくつく。
「そ、そんなわけないじゃない!」
「じゃあ、財布の中身見せてくれる?」
「ごめんなさい、勘弁して下さい」
かなみは深々と頭を下げる。
「す、すごい情けない姿……せっかくの洋服が台なしね」
「そういう路線もありなんじゃない」
「なしです! 変な話持ちかけないでください、千歳さん!!」
「なるほどね」
逆に美依奈は感心する。
「ちょっと頼りなくて情けない感じで媚を売る路線ね……似合いそう、引くけど」
「え、そこまで言って自分で引かないでよ!」
「ほらほら、怒らないでよ。せっかくの服が台無しでしょ」
「そこは顔じゃないの?」
「ああ、そうとも言うわね。でも、かなみちゃん可愛いから」
「そんなタイミングで言われても嬉しくないわよ!」
「いいわね、二人とも。若いって麗しいのね」
千歳は微笑ましく、二人を眺める。
「なんだか、千歳さんって年寄りみたいですね。とても十代に見えませんよ」
(そりゃ、五十年以上生きてるしね……)
そんなこと言われても信じないだろうから、胸の内にだけ留めるかなみであった。
(っていうか、千歳さん、十代で通してるのッ!?)
そっちの方がかなみにとって意外だった。
なにしろ、千歳は何十年も幽霊を立っていて見た目はともかく、精神はもう立派な老婆のそれであった。
今でこそオーダーメイドの人形を動かして、仮初の身体で現世を謳歌しているが、かなみの印象は初対面の印象から全く変わっていなかった。
(そういえば、あのとき、ひどい目にあわされたわね……)
もう随分前のことのように懐かしく思える。ちょっとした恨みはまだ残っているのだが。
ピピピピピー!
突然、携帯電話の着信音が鳴り出す。
「はい、もしもし」
「携帯!? 千歳さんが!?」
かなみは驚愕する。
「そこまでおばあちゃんじゃないわよ。こういうのもちゃんと使い方覚えてるのよ!」
「き、気にしてたんですか……?」
てっきり笑って受け流しているものだとばかり思っていた。
「若い者が使ってるやつぐらいすぐに使いこなしてみせるだからね!」
「そういうこと言ってるからおばあちゃんって言われるんですよ……」
「え、そうなの……?」
千歳は不安げに訊いてくる。
それを見て、かなみはなんだか疲れてきた。
「いえ、もういいですよ。電話出てください」
「はいはい、もしもしあるみ?」
(もしかして、社長の番号しか持ってない……?)
携帯電話をとって速攻であるみだとわかった時に、かなみはそんな推測をしてしまった。
何故なら、かなみは番号知らないどころか、千歳が携帯電話を持っていることを今知ったからだ。となると、千歳が他に携帯電話でやり取りをするような関係の人に心当たりがない。自然、電話相手があるみだけになる。せいぜい鯖戸が知っているぐらいか。
(一応、あとできいとおこう。メールは……しないわよね)
かなみはさりげなく心の中で千歳をおばあちゃん扱いするのであった。
「うん、うん、うん、了解!」
数回、返事をしてから千歳は電話を切る。
「社長がなんだって?」
「なに、仕事決まったの?」
「そうだと、ありがたいんだけどね……」
もちろん、美依奈が想像しているような仕事ではなく、魔法少女の仕事しかありえない。
「かなみちゃん、行くわよ」
「え、本当に仕事?」
「ちょうどいいじゃん、新しい洋服も着てるし!」
「だ、だから、そういう仕事じゃなくて……まあいいわ。で、どこですか?」
「とりあえず外に出る」
「はーい」
「ねえ、私もついていっていい?」
「え?」
急な美依奈の提案にかなみはドキリとさせられる。
「ダメよ」
「え~、いいじゃない。待ってるの暇だし」
「うーん、だったら帰ったら? この仕事、企業秘密で他の人には見せられないのよ」
「まあ、そういうことあるわよね。珍しい事じゃないし」
美依奈はため息を付いてから言葉を継ぐ。
「ま、しゃーないわ。おとなしく帰るとしますか」
「ごめんね。この埋め合わせはいつか絶対するから」
「いいって、いいって。お金無いんでしょ?」
「な、なんで、お金がらみになるのよ!? 大体そんなに私は貧乏じゃないわよ!」
「そういうこと言うのが、貧乏の証拠よ」
「え、そうなの……」
「じゃ、まったね~♪」
美依奈は手を振りながらオフィスを出る。
「さ、行きましょう」
「なんだか騙してるみたいで気が引けるんですけど」
「仕方ないでしょ。私の時代はこんなものじゃなかったわよ」
「そういって昔を懐かしがるのもおばあちゃんですよ」
「ああ、そうなんだ……今度から気をつけるわ」
「そう言って忘れてたら……」
「忘れないわよ! ほら、さっさと行くわよ!」
かなみと千歳は事務所を出た。
「で、今回の仕事はなんですか?」
「ん~、仕事じゃなくてただの怪人退治ね」
「た、タダ!?」
「そうよ、タダみたい」
それを聞いて、かなみのやる気は一気に下がった。
「なんだって、タダの怪人退治を引き受けたんですか?」
「あるみに逆らえる?」
「逆らえません!」
かなみは即答する。
お金も大事だけど、生命はもっと大事。
あるみを引き合いに出されるとついついそう考えてしまう。
もっとも、生きるためにお金が大事なのもまた事実なわけだが。
「だったら、逆らわないで戦いましょうか」
「……それで、どんな怪人なんですか?」
「うーん……そこまで聞いてなかった」
「大丈夫、ボクがナビするよ」
マニィがかなみのカバンから出てきて言ってくる。
「な、なび……?」
「道案内ってことです」
「あ~、横文字は苦手だわ」
千歳はため息をつく。
「まあ、徒歩十分もあればつくよ」
「ちかッ!? っていうか、そんな近いところにいたら魔力で気づかないんですか?」
「気づかないわね、魔力が小さすぎて……」
「ああ、そうなんですね」
だったら、ストレス解消に一発思いっきりやってやろうかとかなみは思う。
「それより、かなみちゃん」
「なんですか?」
「つけられてるわよ」
「……え?」
かなみは思わず振り向く。
しかし、今日は休日のため、人の通りが割りとあって、誰につけられているのかわからなかった。
「つ、つけられてる、って誰にですか?」
「美依奈ちゃんよ」
「えぇ」
千歳がかなみの声が出ないよう、口を抑える。
「気づかれちゃうでしょ?」
千歳は他の人に聞かれないよう、小声で言う。
「なんで美依奈ちゃんがつけてきてるんですか?」
「さあ……興味じゃない?」
そんな適当な理由で、と思ったが、かなみは興味津々だった美依奈の顔を思い出す。
「一人でオフィス」
「というより、あなたにじゃない?」
「なんで私に?」
かなみは首を傾げる。
「どんな仕事してるのか興味あるんじゃない」
「なんだって私の仕事に興味ですか?」
それを聞いて、かなみは首を振る。
「いえいえ、そんなわけないですよ。」
「だったら、どうして追いかけてくるわけよ?」
「そんなの知るはずないでしょ」
そもそも、本当に美依奈がついてきているのか疑わしい。
かなみはその姿を確認していない
「本当についてきてるんですか?」
「本当よ。信用していないの?」
「だって、私は美依奈ちゃんがついてくるのを見ていないんですよ」
「目でみたものしか信じないわけね……でも、魔法少女だってバレたら罰金ものなんでしょ」
「う……! それはきついんですよね、あの社長のことですからどんなひどいペナルティがくだされるか……」
「死刑もあるんじゃね」
「全然、冗談に聞こえませんよ」
「じゃあ、借金二倍になるんじゃないの」
「もっと、笑えませんから! 四億五千万が倍になったら九億ですよ!」
「あははは、もう返すことを考えるのもバカバカしくなるわね」
「ですから、笑い事じゃないですよ!」
かなみは必死に抗議する。
「まあ、本当にそんなことするとは思えないから大丈夫よ」
「千歳さん、考えが甘いですよ。あの社長なら三倍にだってしかねませんよ。その理由は面白そうだからとか言って」
「それもそうね……私も面白いと思う」
「ですから全然おもしろくありませんよ!!」
そうこう言っている内に目的の怪人が視界に入った。
それは一言で言えば影のような薄さとぼんやりさを持った怪人であった。
じっくり見ると怪しいことが一目でわかるのだが、人が行き交う通りの中だとその怪しさが埋もれてしまう。
なんというか、ちょっと怪しいけど気にするほどのものじゃないといった印象を受ける。
(まあ、私達からしたらどうみても怪人なんだけどね)
しかし、その怪人は特に何をするでもなく、ただ徘徊しているだけであった。
人を襲う気配も、何か壊そうとする動きは一切感じられない。
少し怪しいだけで人畜無害の怪人だ。
「なんなんですか、あれ?」
「さあ……とにかく、つけるわよ」
「え、倒すんじゃないですか?」
「一応二、三時間様子見してからね。危害加えそうならすぐに倒すわよ」
「もし、それで変身して美依奈ちゃんにバレたら」
「あら? 美依奈ちゃんがつけてるなんて思ってなかったんでしょ?」
「う……!」
それでも万が一ということはある。
――じゃあ、借金二倍になるんじゃないの
その台詞を思い出したただけで寒気が走る。
万が一、億が一にもそんなことがあってはならない。
美依奈がつけている、なんて本当かどうか怪しいのが正直なところだが、絶対にありえないというわけではない。
誰かがつけているのは多分本当だ。千歳は冗談は好きだけど嘘は言わない。
それだって、多分であって確実ではない。
疑いだしたら、不安になりだしたらキリがなくなってくる。
「かなみちゃん、肩の力抜いたら?」
「はい?」
「まだ、美依奈ちゃんがつけて来てるって言っただけで、バレると決まってるわけじゃないし、罰で借金が二倍になるって決まったわけじゃないのよ」
「あ……」
そこでかなみは改めて気づく。
(よく考えたら全部、この人の冗談じゃない!)
その心の声を聞き取ったのか、千歳はクスッと笑う。
「ちょっとからかうだけで不安でいっぱいになるなんて、かなみちゃん可愛い」
「こ、こっちは真剣なんですよ!」
「わかってるって、バレないように真剣にやるわよ」
「千歳さん、説得力がありませんよ」
「あるのは年の功だけだしね」
千歳は得意げに言う。
そうすれば、仕事が出来て給料がもらえる。
ひょっとしたら鯖戸か社長が特大のボーナス付きの案件をもってきてるかもしれない。そう思うと憂鬱な出勤も期待に胸が膨らむ。
「あるみには及ぼないけど」
「何の話?」
「いや、ただの独り言だよ」
マニィが変なことを口走るのは今に始まったことじゃない。
気にせず、かなみは階段を上がる。
「おはようございます」
オフィスに扉を開けるとそこには期待していた光景とは違うものが目に映った。
「ああ、かなみちゃん! ちょうどいいところに来てくれたわ」
千歳が笑顔で何かを持っている。
その何かを見た瞬間、かなみの脳裏に嫌な予感がよぎった。
「ちょうど、いいところ?」
「ほら、こないだ。めいど服を作ったでしょ?」
「え、ああ、そういえば……」
千歳は前にかなみにコスプレさせる話になった時、コスチューム作りに目覚めたそうだ。
それでそのメイド服を作って、かなみに無理矢理着せられた過去がある。
「まさか!?」
かなみは冷や汗をかく。
「ふっふーん♪ そのまっかーさよ♪」
千歳は上機嫌に言う。
「帰らせてもらいます!」
回れ右百八十度でかなみはドアノブに手をかける。
「帰るわけぇ?」
「え?」
千歳の奥からこの事務所では聞き慣れない声がする。
「せっかくの休日にわざわざ来たのに」
「美依奈ちゃん!?」
突然の来訪者に驚かされた。
白のブラウスに、水色のミニスカートを着込んだモデルの少女・美依奈であった。
「そんな大声でちゃん付けで呼ばないでよ」
「で、でも、いきなり来るなんて聞いてないわよ!」
「そりゃ聞かせてないもの。暇だから来ちゃったわけ」
「暇だからって……」
「そしたら、このスタイリストがいてビックリしたのよ」
「す、すたいりすと!?」
それは千歳を指して言ったことは簡単にわかったが、その呼ばれ方が意外すぎて驚いてしまう。
何しろ、美依奈はこの会社を芸能事務所だと勘違いしている。
しかも、かなみ達はその所属モデルだと思っている。
(なんで、そういう誤解するのかしら……?)
かなみは頭を抱える。
「どうしたの?」
美依奈は不思議そうに訊いてくる。
「う、ううん、なんでもない……」
「ほんと? じゃあ、帰る?」
「う……」
少し躊躇いが生まれた。
美依奈がわざわざ来てくれたのに、すぐ帰ってしまったのでは素っ気ない。
「じゃあ、せっかくだから話をしましょう」
千歳は手を叩く。
「何が、せっかくだから、ですか……」
かなみは憤る。
帰ろうとしたのは自分が原因だということをわかっていないのか、この人は……。
「コーヒーしか無いからごめんね」
「私、好きだから。砂糖多めでお願い」
「砂糖、無いけど」
「え……?」
美依奈の顔が引きつる。
「ここ、社長の意向でコーヒーはブラックしかいれないことになってるのよ」
「なにその喫茶店のマスターみたいなこだわり?」
美依奈が文句言っているうちに、千歳はインスタントコーヒーを入れ終わる。
「う……ブラック……」
「苦いの、苦手なの?」
「べ、別にそういうわけじゃないけど……ただ、砂糖入れた方がおいしいじゃない?」
「モデルなんだから美容に気を使いなさいってば」
「ふうん、それで節制してるわけね?」
「そ、そういうことなのよ」
本当はただ単にお金がないだけなんて言えないかなみは苦笑してごまかす。
「それでその体型を維持してるわけね」
美依奈はかなみの細いウエストを見てる。
「そんなに見ないで!」
「どうして?」
「恥ずかしいから」
「そんなんじゃモデルでやっていけないわよ」
「え、モデル……?」
かなみはキョトンとする。
「まさか、あれ一回こっきりってわけじゃないでしょ? あんた可愛いんだから」
「可愛い、私が?」
「なにその冗談きついわって顔? まあ今はスッピンだし、クマが酷いからってクマ酷いわね!」
「寝れてないから仕方ないでしょ」
「何、そんなに忙しいわけ? やっぱり仕事とかいっぱいきてるの?」
「きてないのよね……むしろ、きて欲しいから来てるっていうか」
「ああ、オファーがないのね」
美依奈は哀れんだ視線を送りながら、コーヒーを口にする。
「うぅ、苦い……」
「あははは、身体のためにはこれがいいのよ」
そう言いながらかなみもコーヒーを一口入れる。
「なんだか、大人ね……」
美依奈は少し悔しそうに言う。
「じゃあ、盛り上がってきたところで、かなみちゃん、はいこれ」
千歳は得意気に言って、新作の洋服を見せる。
「って、着ませんよ!」
「せっかくのプレゼントなのに」
「プレゼント……?」
「だって、かなみちゃん。いつも制服だから見飽きてきたのよ」
「そういえば今日も制服ね。そういう路線、狙ってるの?」
「ど、どういう路線よ!?」
「そりゃもちろんマニアよ」
「う、うーん……」
かなみは頭を抱える。
「みあちゃんの言うとおり、私って変な人に好かれるってことなのかしら?」
「あなたって失礼なこと言うわね」
「なんで失礼?」
「う……あんた、鈍いって言われない?」
「言われないけど、どうして?」
「なんでもない。せっかくだから着てみたら?」
「え……?」
突然の話題変更にかなみは凍りつく。
傍らで千歳はよくぞ言ってくれた、と言わんばかりに喜んでいるように見える。
「制服で堅苦しいしさ」
「堅苦しいかな……? まあ、いいけど……」
そこでかなみは反射的に止まる。
なんだか、これを着たら取り返しのつかないことになるような気がした。
「千歳さん?」
「なあに?」
「私がこれを着たら次は何を着せようかって考えたりしてないでしょうね?」
「大丈夫よ。そんなこと考えてないから」
千歳は笑顔で言う。
「次は和服を着せようと思っていい布地を取り寄せてもらってるところなの」
「もう準備済みなんですかぁッ!?」
「さすがスタイリストね」
美依奈は感心する。
「スタイリストじゃないですよ、千歳さんは」
「でも、この服とかよく出来てるじゃない」
「そうなのよね……」
「すたいりすと、ってなんなのか知らないけど、褒められて悪い気はしないわね」
「それはいいですけど、調子に乗らないでくださいよ……っていうか、私に洋服を着せようとする、やめてもらえませんか?」
「だって、かなみちゃん。いつも制服で味気ないじゃない」
「え、あんた、学校終わってからもずっと制服なわけ?」
美依奈は驚くが、休日の今も制服で来ているかなみを見て納得してため息をつく。
「……制服なわけよね」
「あ、あうう……」
それを言われると弱いかなみであった。
何しろ、私服が少ないとか、洗濯代がもったいないとか、そういった理由でなるべく制服で外に出ざるを得ないのだ。
「まあいいわ。それ早く着てみせてよ」
「結局着るの……」
「モデルでやっていくんなら、どんな服でも着こなさないとね」
「だから、モデルでやっていかないって……」
かなみはため息混じりに否定する。
「でも、私の予感だけど、これ絶対にかなみちゃんに合うと思う」
「合ったら合ったで問題なんだけど……」
そうなったら千歳が調子づいてどんどん服を着せようとする未来が見える。
(私、着せ替え人形みたいになるんだろう……)
なんだかそれは嫌な未来だった。
「かなみちゃん、お願いだから着てみてよ」
「よかったら、写メとってあげる」
美依奈は携帯を構える。
「う、うぅ……それをやられると余計に着たくなくなるというか……」
「あ~、だったらお願いするんじゃダメね」
千歳は立ち上がって、かなみを取り押さえる。
「え、ちょ……!」
「無理矢理着せた方が早いわ!」
「え、えぇッ!?」
「うわ……大胆!」
「美依奈ちゃん、見ないで!」
「はいはい……ちゃんと着たらみせてよ」
「みせたくないけど……のうわっちッ!? 千歳さん、そこはダメです!!」
かなみは無理矢理脱がされてから、観念して自分から洋服を着る。
「ど、どうかしら……?」
「おぉ!」
美依奈は感嘆の声を上げる。
「このまま、撮影いけるんじゃない?」
「そ、そう?」
「じゃあ、写メってマネージャーに聞いてみるよ」
「え、そ、それはやめて!」
「きっとすぐオファーがくるよ」
「え、そ、そう? モデル料は?」
「なに、お金の話? まあ、化粧代は必要よね、バカにならないし」
「そ、そうなのよ! お金が足りなくて、足りなくて、アハハハハ!!」
かなみはごまかして笑う。
「なんか、かなみちゃんからそこはかとなく金欠って感じがするんだけど」
ギクッとかなみはびくつく。
「そ、そんなわけないじゃない!」
「じゃあ、財布の中身見せてくれる?」
「ごめんなさい、勘弁して下さい」
かなみは深々と頭を下げる。
「す、すごい情けない姿……せっかくの洋服が台なしね」
「そういう路線もありなんじゃない」
「なしです! 変な話持ちかけないでください、千歳さん!!」
「なるほどね」
逆に美依奈は感心する。
「ちょっと頼りなくて情けない感じで媚を売る路線ね……似合いそう、引くけど」
「え、そこまで言って自分で引かないでよ!」
「ほらほら、怒らないでよ。せっかくの服が台無しでしょ」
「そこは顔じゃないの?」
「ああ、そうとも言うわね。でも、かなみちゃん可愛いから」
「そんなタイミングで言われても嬉しくないわよ!」
「いいわね、二人とも。若いって麗しいのね」
千歳は微笑ましく、二人を眺める。
「なんだか、千歳さんって年寄りみたいですね。とても十代に見えませんよ」
(そりゃ、五十年以上生きてるしね……)
そんなこと言われても信じないだろうから、胸の内にだけ留めるかなみであった。
(っていうか、千歳さん、十代で通してるのッ!?)
そっちの方がかなみにとって意外だった。
なにしろ、千歳は何十年も幽霊を立っていて見た目はともかく、精神はもう立派な老婆のそれであった。
今でこそオーダーメイドの人形を動かして、仮初の身体で現世を謳歌しているが、かなみの印象は初対面の印象から全く変わっていなかった。
(そういえば、あのとき、ひどい目にあわされたわね……)
もう随分前のことのように懐かしく思える。ちょっとした恨みはまだ残っているのだが。
ピピピピピー!
突然、携帯電話の着信音が鳴り出す。
「はい、もしもし」
「携帯!? 千歳さんが!?」
かなみは驚愕する。
「そこまでおばあちゃんじゃないわよ。こういうのもちゃんと使い方覚えてるのよ!」
「き、気にしてたんですか……?」
てっきり笑って受け流しているものだとばかり思っていた。
「若い者が使ってるやつぐらいすぐに使いこなしてみせるだからね!」
「そういうこと言ってるからおばあちゃんって言われるんですよ……」
「え、そうなの……?」
千歳は不安げに訊いてくる。
それを見て、かなみはなんだか疲れてきた。
「いえ、もういいですよ。電話出てください」
「はいはい、もしもしあるみ?」
(もしかして、社長の番号しか持ってない……?)
携帯電話をとって速攻であるみだとわかった時に、かなみはそんな推測をしてしまった。
何故なら、かなみは番号知らないどころか、千歳が携帯電話を持っていることを今知ったからだ。となると、千歳が他に携帯電話でやり取りをするような関係の人に心当たりがない。自然、電話相手があるみだけになる。せいぜい鯖戸が知っているぐらいか。
(一応、あとできいとおこう。メールは……しないわよね)
かなみはさりげなく心の中で千歳をおばあちゃん扱いするのであった。
「うん、うん、うん、了解!」
数回、返事をしてから千歳は電話を切る。
「社長がなんだって?」
「なに、仕事決まったの?」
「そうだと、ありがたいんだけどね……」
もちろん、美依奈が想像しているような仕事ではなく、魔法少女の仕事しかありえない。
「かなみちゃん、行くわよ」
「え、本当に仕事?」
「ちょうどいいじゃん、新しい洋服も着てるし!」
「だ、だから、そういう仕事じゃなくて……まあいいわ。で、どこですか?」
「とりあえず外に出る」
「はーい」
「ねえ、私もついていっていい?」
「え?」
急な美依奈の提案にかなみはドキリとさせられる。
「ダメよ」
「え~、いいじゃない。待ってるの暇だし」
「うーん、だったら帰ったら? この仕事、企業秘密で他の人には見せられないのよ」
「まあ、そういうことあるわよね。珍しい事じゃないし」
美依奈はため息を付いてから言葉を継ぐ。
「ま、しゃーないわ。おとなしく帰るとしますか」
「ごめんね。この埋め合わせはいつか絶対するから」
「いいって、いいって。お金無いんでしょ?」
「な、なんで、お金がらみになるのよ!? 大体そんなに私は貧乏じゃないわよ!」
「そういうこと言うのが、貧乏の証拠よ」
「え、そうなの……」
「じゃ、まったね~♪」
美依奈は手を振りながらオフィスを出る。
「さ、行きましょう」
「なんだか騙してるみたいで気が引けるんですけど」
「仕方ないでしょ。私の時代はこんなものじゃなかったわよ」
「そういって昔を懐かしがるのもおばあちゃんですよ」
「ああ、そうなんだ……今度から気をつけるわ」
「そう言って忘れてたら……」
「忘れないわよ! ほら、さっさと行くわよ!」
かなみと千歳は事務所を出た。
「で、今回の仕事はなんですか?」
「ん~、仕事じゃなくてただの怪人退治ね」
「た、タダ!?」
「そうよ、タダみたい」
それを聞いて、かなみのやる気は一気に下がった。
「なんだって、タダの怪人退治を引き受けたんですか?」
「あるみに逆らえる?」
「逆らえません!」
かなみは即答する。
お金も大事だけど、生命はもっと大事。
あるみを引き合いに出されるとついついそう考えてしまう。
もっとも、生きるためにお金が大事なのもまた事実なわけだが。
「だったら、逆らわないで戦いましょうか」
「……それで、どんな怪人なんですか?」
「うーん……そこまで聞いてなかった」
「大丈夫、ボクがナビするよ」
マニィがかなみのカバンから出てきて言ってくる。
「な、なび……?」
「道案内ってことです」
「あ~、横文字は苦手だわ」
千歳はため息をつく。
「まあ、徒歩十分もあればつくよ」
「ちかッ!? っていうか、そんな近いところにいたら魔力で気づかないんですか?」
「気づかないわね、魔力が小さすぎて……」
「ああ、そうなんですね」
だったら、ストレス解消に一発思いっきりやってやろうかとかなみは思う。
「それより、かなみちゃん」
「なんですか?」
「つけられてるわよ」
「……え?」
かなみは思わず振り向く。
しかし、今日は休日のため、人の通りが割りとあって、誰につけられているのかわからなかった。
「つ、つけられてる、って誰にですか?」
「美依奈ちゃんよ」
「えぇ」
千歳がかなみの声が出ないよう、口を抑える。
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千歳は他の人に聞かれないよう、小声で言う。
「なんで美依奈ちゃんがつけてきてるんですか?」
「さあ……興味じゃない?」
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「一人でオフィス」
「というより、あなたにじゃない?」
「なんで私に?」
かなみは首を傾げる。
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「なんだって私の仕事に興味ですか?」
それを聞いて、かなみは首を振る。
「いえいえ、そんなわけないですよ。」
「だったら、どうして追いかけてくるわけよ?」
「そんなの知るはずないでしょ」
そもそも、本当に美依奈がついてきているのか疑わしい。
かなみはその姿を確認していない
「本当についてきてるんですか?」
「本当よ。信用していないの?」
「だって、私は美依奈ちゃんがついてくるのを見ていないんですよ」
「目でみたものしか信じないわけね……でも、魔法少女だってバレたら罰金ものなんでしょ」
「う……! それはきついんですよね、あの社長のことですからどんなひどいペナルティがくだされるか……」
「死刑もあるんじゃね」
「全然、冗談に聞こえませんよ」
「じゃあ、借金二倍になるんじゃないの」
「もっと、笑えませんから! 四億五千万が倍になったら九億ですよ!」
「あははは、もう返すことを考えるのもバカバカしくなるわね」
「ですから、笑い事じゃないですよ!」
かなみは必死に抗議する。
「まあ、本当にそんなことするとは思えないから大丈夫よ」
「千歳さん、考えが甘いですよ。あの社長なら三倍にだってしかねませんよ。その理由は面白そうだからとか言って」
「それもそうね……私も面白いと思う」
「ですから全然おもしろくありませんよ!!」
そうこう言っている内に目的の怪人が視界に入った。
それは一言で言えば影のような薄さとぼんやりさを持った怪人であった。
じっくり見ると怪しいことが一目でわかるのだが、人が行き交う通りの中だとその怪しさが埋もれてしまう。
なんというか、ちょっと怪しいけど気にするほどのものじゃないといった印象を受ける。
(まあ、私達からしたらどうみても怪人なんだけどね)
しかし、その怪人は特に何をするでもなく、ただ徘徊しているだけであった。
人を襲う気配も、何か壊そうとする動きは一切感じられない。
少し怪しいだけで人畜無害の怪人だ。
「なんなんですか、あれ?」
「さあ……とにかく、つけるわよ」
「え、倒すんじゃないですか?」
「一応二、三時間様子見してからね。危害加えそうならすぐに倒すわよ」
「もし、それで変身して美依奈ちゃんにバレたら」
「あら? 美依奈ちゃんがつけてるなんて思ってなかったんでしょ?」
「う……!」
それでも万が一ということはある。
――じゃあ、借金二倍になるんじゃないの
その台詞を思い出したただけで寒気が走る。
万が一、億が一にもそんなことがあってはならない。
美依奈がつけている、なんて本当かどうか怪しいのが正直なところだが、絶対にありえないというわけではない。
誰かがつけているのは多分本当だ。千歳は冗談は好きだけど嘘は言わない。
それだって、多分であって確実ではない。
疑いだしたら、不安になりだしたらキリがなくなってくる。
「かなみちゃん、肩の力抜いたら?」
「はい?」
「まだ、美依奈ちゃんがつけて来てるって言っただけで、バレると決まってるわけじゃないし、罰で借金が二倍になるって決まったわけじゃないのよ」
「あ……」
そこでかなみは改めて気づく。
(よく考えたら全部、この人の冗談じゃない!)
その心の声を聞き取ったのか、千歳はクスッと笑う。
「ちょっとからかうだけで不安でいっぱいになるなんて、かなみちゃん可愛い」
「こ、こっちは真剣なんですよ!」
「わかってるって、バレないように真剣にやるわよ」
「千歳さん、説得力がありませんよ」
「あるのは年の功だけだしね」
千歳は得意げに言う。
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