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第14話 遭遇! 突然の運命は少女の味方か敵か? (Bパート)
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「……………………」
「……………………」
そして、振り向いて黙ってかなみを見つめた。
その顔には感情がこもっていなかった。久しぶりの娘との再会なのだから、もっと嬉しさとかあってもいいのではないか。それとも、娘に借金を押しつけてしまった罪悪感でもよかった。
なんでもいいからとにかく感情が向けて欲しかった。
これじゃ、まるで――赤の他人の娘へ向けているものじゃないか。
こっちは色々言いたいことがあった。
いきなり、借金を押しつけて、どこかへ行ってしまって、こっちは色々大変だったんだ。今まで何をしていたんだとか、娘が心配じゃなかったのかとか、無事なら連絡の一つぐらいよこして欲しかったとか。
色々な感情がごっちゃまぜになってかなみは今自分がどんな顔をしているのかわからなかった。
「父さん!」
もう一度呼んでやった。
何から言っていいのかわからなかったから、とりあえず呼んでやることにした。目の前にいる男が本当に父親なのかもう一度確かめたい意味合いもあった。
父は肩をピクッと震わせた。その仕草でかなみはやっぱり間違いなく父さんだと確信した。
「かなみ……」
父は静かに名前を呼んだ。その声にはこれといった感情はこもっていなかった。
「父さん……!」
しかし、かなみは溢れ出しそうな感情を声に出して呼んだ。
「どうして……?」
呼んだ後に出た言葉がそれだった。
かなみの中にある様々な疑問がそのたった一言に集約されていた。
「仕方なかったんだよ……」
父は優しくそう答えた。
「仕方なかった……何が?」
かなみは出来るだけ落ち着いて訊いてみた。
「色々さ。おかげで色々苦労をかけてしまった」
「そうじゃなくて!」
かけてほしい言葉は他にあった。
「なんで……?」
もう限界だった。溢れ出る感情をこらえられなかった。
「なんでどっかに行っちゃったの!? どうして今まで何も教えてくれなかったの!? いまだって……いまだって!」
「それは……何も教えるわけにはいかなかったから」
「どうして!? それって、娘の私にも言えないことなの!?」
「言えば……俺の生命が無いからな……」
「――ッ!?」
かなみは驚愕で言葉を失った。
その返答を聞いただけで、溢れる感情が空気の抜けた風船のように萎んでいく。
――生命が無い
その言葉が大げさに聞こえなかった。
闇金融から一億円の借金を作ってしまったのだ。それがどんな危険な境遇なのか想像がつかない。
殺されるか、死ぬか、生命の危険をはらんでいてもまったくおかしくない。
そう考えると今まであった感情が消えていく。
「どうして……な、何があったの?」
「言えない」
父はただそう答えるだけだ。
「言ったら……殺されるってことなの? そういうことなの、父さん!?」
「……………………」
「じゃあ、母さんは!? 母さんは今どこにいるの?」
「母さんは――」
ゴオオオオオン!!
父が言いかけたところで、轟音に遮られてしまった。
「なに!?」
「……敵か」
父はそう悟ったかのように言って背を向ける。
「もうこんなところまで迫っていたか」
「ちょ! ちょっと待って!」
かなみは引き止めようとする。ここで止めなかったらもう二度と会えないという危機感があったからだ。
「かなみ……お前はお前の戦いをするんだ」
「父さん、何を言って――」
かなみが言いかけたところで父は姿を消した。
「あ……!」
かなみは必死で辺りを見回した。
そんなはずはない。見失うはずなんてないのに。だけど、父はもうすでにここにはいなかった……。
「かなみ、敵だ!」
ここで今まで黙っていたマニィが人目もはばからず叫んでくる。
そうでもしないとかなみは立ち上がってはくれないとマニィは判断したからだろう。
「魔力反応だ! ネガサイドがやってきてるんだ!」
「……………………」
「君が戦わないと!」
「――うるさい!」
かなみは叫び返した。
「そんなのわかってる! わかってるから!」
どうにもならないもどかしさが叫び声に変えた。
ゴオオオオオン!!
幸いといってはなんだが、かなみの声と轟音と重なっていたため、人の雑踏の中でもそれほど目立たなかった。
いや、これは共鳴しているといってよかった。
かなみの声と轟音が互いにかき消しあっているといってもいい。
「なんなのよ、この音は!」
耳障りだった。今はこの音をどうにかして消したくなった。
「かなみ、戦うんだ」
マニィは落ち着きを取り戻して淡々と言った。
「わかってるって! 戦うしか無いんでしょ、戦う……!」
自分にはそれしかない。そうすることしか出来ない。
現状がそうであっても、そうすることで現状を変えられなくても、それしか出来ない。
そう思っただけでも苛立ちが募る。
――かなみ……お前はお前の戦いをするんだ
父が最後に言った言葉がその感情を助長させる。
「何よ、何なのよ、もう!」
かなみは人目の無い路地裏を見つけて、そこへ飛び込む。
――魔法はなんでもできる。
昨晩のあるみの言葉を思い出す。
「なんでもできないじゃない……」
かなみはそう呟く。
借金を無くすことも。父に会うことも。母の行方を知ることも。今を変えることも。
しかし、あるみはこうも付け加えてもいたことを忘れてしまっていた。
――それを信じることができればね。
「マジカルワーク!」
金の光がわだかまりを全て包み込んで生まれ変わったかのように魔法少女は姿を現す。
「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」
でも、魔法少女に変身してもカナミはかなみのままであった。
轟音のする方へ飛び上がって、追いかける。
人の雑踏をかきわけるのではなく、飛び抜ける。
商店街の屋根を超えない程度の跳躍と空を飛んでいるかのような決して失速のしない勢い。
この二つを両立させた魔力制御を無意識で難なくやってのけている今の状態にマニィは驚嘆していた。もっとも、そういた感情は表に出ないため、傍目ではただの魔法少女の肩に乗ったしかめっ面のネズミ型のマスコットでしかないが。
「やはり、君は感情が爆発している時が一番強い」
「なにか言った、マニィ?」
「いや、なんでもない」
そんな短いやり取りの間にカナミは轟音の根源へと辿り着く。
そこにいたのは巨大なドラムを鳴らす海老反りの怪物のような黄金の魚であった。
「なにあれぇ!?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「あれは……ネガサイドの怪物だ」
「そんなの見りゃわかるわよ」
「だったら、それだけで十分だろう」
「怪物ね……あんまりああいうのとは戦いたくないんだけど……」
「見た限り、あの怪物は全身金でできるかもしれないんだけど」
「身ぐるみ全部剥がしてるわ!」
「とても魔法少女の台詞とは思えないな」
マニィのぼやきを無視して、カナミは先手必勝で魔法弾を撃ち込む。
魔法弾は全て命中! しかし、黄金の魚はビクともしなかった。
「なんて硬さなの!?」
「近頃、こういう敵ばっかりだな。どうするんだ?」
商店街のド真ん中で神殺砲は使えない。というか周りに人が多すぎる。騒ぎを聞きつけた人達が次々と集まってきている。
「うーん、戦いにくい……!」
「一旦退いた方がいいかもしれない。ここじゃどうあがいても不利なんだから」
「冗談言わないでよ、逃げるなんて出来るわけ無いでしょ」
今逃げたらこの怪物が好き勝手暴れて人々を傷つけていくのが簡単に想像できる。
「君って……時々無駄に正義感押し出してくるな」
「無駄って言わないの!? そりゃ確かに正義感って一文の得にもならないけど……でも、それで損することって一文どころじゃないのよ!」
「なるほど……だが、肝心の敵を倒さないと破産で破滅なんだが……」
「――あッ!?」
カナミは敵の方を見直す。すると黄金の魚は影も形もなく消えていた。あれだけ、目立つ外見をしているから見失うはずなんてないのに。
「ど、どこに!?」
あわてて左右を見回した。
ゴゴゴゴ!!
何やら不気味な音が立つ。
「まさか!?」
ズゴォンl!?
気づいた時には遅かった。
せり上がる足場に身体ごと弾き飛ばされた。
ものすごい勢いで空へ跳ね上げられ、天井へと激突する。
「ぶっ!?」
そして、地面へと叩きつけられる。
「いつぅ……!」
普通なら再起不能になる一撃だったが、直前の魔力による防御でなんとかすぐ立ち上がれた。
「地面から攻撃なんて卑怯よ!」
地面から出てきた黄金の魚に向かって指差す。
「悪の組織に卑怯もクソもあるみゃいが!」
背後から野太い声をかけられる。
振り向くとそこに立っていたのは
「ええ!?」
もう一匹の黄金の魚であった。
「も、もう一匹いるなんて!?」
「私達は番つがいの双魚!」
するとさっきまで敵対していた方が女性のような高い声。いや、声色はメスだろう。
「ツ、ツガイ……? そ、そうぎょ……?」
「つまり、双子ってわけだよ」
「理解が早いな。少しは知恵があるってわけだな」
「だけど、それだけで私達に勝てると思わないで」
「俺がシャッチー!」
「私がホッコー!」
「俺達こそ無敵の黄金双魚おうごんそうぎょ!」
二匹の双魚が鏡合わせのようにそろって海老反りのポーズを決める。
「二匹ってのは厄介ね」
ただでさえ硬いのに、とカナミは心の中で付け加えた。
「いくぜ!」
「覚悟して!」
シャッチーとホッコーが前後から襲いかかってくる。
「はや!?」
二匹は床をスキーのように滑ってくる。その速度はカナミとの間合いをあっという間に詰められる。
叩きつけてくるシャッチーの尻尾をかわす。
「いただきますわ!」
ホッコ―を存外に大きな口を開け、カナミへとかぶりつく。
「いやああああああッ!?」
カナミは悲鳴を上げ、ステッキを差し出す。
カチン!!
金属音と共にステッキを半分以上噛み付かれる。
「え、ええ……えぇ!?」
カナミが動揺したのも束の間、背後からのシャッチーの尻尾にはたかれて飛ばされる。
「くうぅ……はっ!?」
すぐに立ち上がってカナミは気づく。
ステッキが手にない。はたかれた拍子に手放してしまったのだ。
ということは、まだホッコ―が噛み付いているのだ。
「フフフフフ……」
ホッコーは不気味な笑い声を上げ、ステッキをくわえたまま天を仰ぐ。
ゴックン!
「う、うそ、でしょ……?」
カナミは青ざめる。
飲み込んだ。一口も噛まずに綺麗に飲み込んでいった。
「ごちそうさま」
「うみゃかったか、ホッコ―!」
「うん、とってもうみゃかったよ、シャッチー!」
「俺も食いたかったぜ」
「わ、私のステッキは食べ物じゃないんだから!」
「いや、おみゃーは餌だぜ」
「極上の美味よ!」
「――う!」
カナミは思わずたじろいだ。
「うろたえるな、カナミ」
「ま、マニィ……」
「ステッキは魔力さえあればすぐ生成できる。あれぐらいで怖気づいたら勝てる敵にも勝てない」
「え、ええ……」
カナミは落ち着きを取り戻す。
(大丈夫、大丈夫だから!)
カナミはステッキを再び生成する。いつも変身と同時に行なっているスムーズな動作だ。
「餌をまたつくってくれたぜ、ホッコ―」
「嬉しい。もう一度食べられるなんて嬉しいわシャッチー」
「おいおい、今度は俺の分だぜ」
「こ、これはね……」
カナミはステッキに魔力を注ぐ。
「あんた達の餌じゃないんだからーーッ!!」
そして、一気に放出する。
神殺砲とまではいかないまでも魔力を振り絞っての散弾と連射だ。二匹の魚に避ける間を与えない高速の魔法弾が雨のように襲いかかった。
「これならちょっとはきいたでしょ」
あわよくば、これで倒れてくれたら……
「ふう、今のはちょっと痛かったわね」
「俺はこうみえても繊細なんだぜ」
二匹ともまったくダメージを負った様子ではなかった。
「か、硬いにもほどがあるわよ……!」
「俺達はダイヤモンドよりも硬い黄金の身体なんだぜ」
「いや、黄金よりダイヤモンドの方が硬いでしょ!」
「どっちだって同じことよ!」
カナミはステッキを構える。
「こうなったら、神殺砲しか……!」
「だが、それを使ったら」
「う……!」
「焦るな、今はチャンスを待って辛抱するしかないんだ」
「チャンスってどうやってくるっていうのよ!?」
カナミは辺りを見回してみる
心なしか人がさっきよりも集まっているように見える。むしろ、撃ちづらくなったといい。
「……そのうちだ」
「そのうちっていつよ、ホントにいい加減ね!」
「仲間割れか。仲が悪いな
「私達みたいに仲良くできないの?」
「うるさいわね!」
カナミは魔法弾を撃つ。
しかし、当たったところで魔法弾の威力では黄金の双魚には傷をつけることはできない。
「無駄撃ちはよっぽど好きみたいだぜ、ホッコ―!」
「というより無駄働きよ、シャッチー」
「うるさい! うるさい! うるさい!」
カナミは猛烈に叫んで、それをかき消すかのように魔法弾を撃ち込む。
しかし、カナミはマニィが思っているより冷静であった。
ここまでコケにされても、カナミは神殺砲を使おうとはしない。周囲の被害が計り知れないことを頭以上に心でわかっているからだ。
以前のカナミだったら、ここで怒りで我を忘れて形振り構わず神殺砲を撃っていたはずだから成長したといっていい。
「いい加減、うっとおしくなってきたわね」
「――ッ!?」
ただ、それでカナミ自身は余計に苦しむ事になる。
「ダブルゴールデンラリアット!」
シャッチーとホッコ―の尻尾による同時攻撃をカナミはまともに受ける。
「げっふッ!?」
カナミはたまらず地面へと倒れ込む。
そのダメージは大きく、すぐに立ち上がれず、転がって距離を取ろうとする。
「遅い!」
だが、それぐらいでは黄金の双魚の追撃から逃れることはできなかった。
「ボディプレス・ダッギャー!」
全身の重量を利用してののしかかりに、カナミは押し潰される。
「ぐ、がッ!」
「それじゃ、いただきまーす!」
シャッチーはカナミを飲み込まんと大口を開ける。
身体に絶大なダメージを受けたカナミにはそれをかわす力が残っていなかった。
「く……ッ!」
もうダメか、とカナミは目をつぶった。
しかし、助かった。
空から降ってきたドライバーがシャッチーの大口に突き刺さって止めたからだ。
シャッチーは突き刺された壮絶な痛みで暴れまわる。口が塞がれて悲鳴を上げることが出来ないため、その分、動きは凄まじかった。
「どっせいッ!」
「ゴワッガアッ!?」
そして現れた影に無理矢理ドライバーを引き抜かれて、蹴り飛ばされる。
「ああ、まったく何やってんのよもう!」
影の正体――アルミは、カナミを叱咤する。
「しゃ、社長……!?」
「間抜けな声あげてんじゃないわよ。さ、立ちなさい!」
しかし、カナミはあまりのダメージに立ち上がることが出来ない。
「ぐううう……!」
歯を食いしばって、鉄の味のする液体を喉の奥に押し込めてもダメだった。
「なっさけないわね! それでも魔法少女なの!?」
「そ、そんなこと、言ったって……!」
「忘れたの、魔法はなんでもできるのよ!」
忘れていた。
「――それは嘘ですよね」
「嘘? 何がよ?」
「なんでもできるって嘘ですよね? なんでもできないじゃないですか!」
「……………………」
「借金は無くならない! 父さんはどっかに行ったかわからない! 母さんには会えない! 敵だって倒せないじゃないですか! 一体こんな魔法で何がなんでもできるっていうんですか!?」
「それでも、戦えてるじゃない」
「たたか、う……?」
「なんでもできないのはね、なんでもできることを信じていないからよ」
「そ、そんなこと……!」
「できないっっていうのはね、限界なのよ。あなたはどこかで自分に限界を自分で作っているのよ。私はこうも言ったわ、人は弱いから、すぐに疑っちゃう。少しでも疑っただけで信じられなくなるってね。あなたは疑っているのよ、自分のチカラをね?」
「……………………」
「違うって言うなら、立ってみなさい。大丈夫よ、あなたは魔法少女なんだから」
「……社長の言葉、まるで魔法みたいです」
「当然。だって、私は魔法少女なんだから」
アルミは一切の迷い無く、答える。
本当にまったくの疑いの無く、どこまでもまっすぐに自分を信じていなければ言えない事であった。
だからこそ、カナミには魔法に思えた。
――信じる
どんなことであっても疑うことなくどこまでも信じる。
それはもう魔法に他ならない。
「私にもできますか?」
「できるわよ、あなたがそれを信じられるのならね」
「信じる……」
アルミが信じてくれる。
なら、自分だって信じることが出来る。
カナミは立ち上がる。
「そう、そうでなくちゃね」
アルミは満足げに言う。
「ちっくしょう! よくもやってくれちまったな!」
「大丈夫、シャッチー?」
「ああ、許さんぞ! 第一銀髪ってのがきにくわねえ!」
「あら、すぐ剥がれる金メッキよりよっぽど力強いと思うけどね」
「私達をコケにしてぇ!」
ホッコ―を激怒して、顔を真っ赤にする。
「そんなにコケにして欲しいんだったら、鶏の方が向いているわよ」
「こ、この野郎……」
「野郎じゃないわ! 私は!」
アルミはドンとマジカルドライバーを構えて堂々と名乗りを上げる。
「白銀しろがねの女神、魔法少女アルミ降臨!」
「白銀……黄金の前じゃ雑魚も同然だぜ!」
「銀の輝きは金の前にかき消されるだけよ」
「さあて、どうかしらね? ここに本当の黄金の輝きを持った魔法少女がいるのだからね!」
「え……?」
アルミは金色の魔法少女であるカナミを差してそう言った。
「そんな奴の輝きなど俺達の前じゃ星屑同然だぜ!」
「そうと決めるのは早計よ。さあ、カナミちゃん神殺砲よ!」
「え、で、でも、神殺砲じゃ……」
周りを見てみたカナミは相変わらずの人だかりにやはりためらってしまう。
「大丈夫よ!」
「だ、大丈夫って……?」
「私を信じなさいって、私があなたを信じているように!」
アルミの力強い言葉に勇気づけられてカナミは決心する。
「……はい、やってみます」
ステッキに魔力を注がせる。
するとステッキが大砲へと変化する。
「うお、なんだありゃッ!?」
「お、大きい……!」
「神殺砲!」
「行きなさい、カナミちゃん! 私がなんとかしてみせるから!」
「はい、お願いします!」
大砲へと魔力を注ぎ込む。
本気を出せば周りの人どころか商店街の建物の数々をも倒壊させてしまう大出力。だけど、カナミは迷わなかった。
アルミが信じてくれたように私も信じてみよう。
「いきます! ボーナス・キャノン発射ァァァァッ!」
カナミの精魂込めた魔力の大砲が発射される。
「ぎいやぁぁぁぁぁッ!?」
シャッチーはその砲弾に飲み込まれる。
そして、その凄まじい勢いのままに、人々へと襲いかかろうとしていた。
「マジカル☆ドライバー!」
砲弾にアルミが追いついて、ドライバーを砲弾へと押し当てる。
「ディストーションドライバー!」
突き出されたドライバの先端は激しく回転し、旋風を巻き起こす。いや、旋風のみならず、真空さえも発生させ、その空間そのものを異次元へと変化させていく。
空間がねじ切られてしまったことで砲弾は砲弾としての形を保つことが出来ず、霧散してしまう。
こうして周囲の人々や建物へ被害を出さず、無事敵だけを倒すことに成功した。
「すごい……本当になんとかしっちゃったよ……」
カナミはそれを見届けると、力尽き倒れてしまう。
目が覚めた時、そこには夕陽の光が差し込んでくる新幹線の中の光景があった。
「え、あ……?」
かなみは顔を上げる。
そして、意識が途切れる前を思い出す。
「えぇっと、たしか……敵を倒して、私は……?」
「すぐに気を失ったのよ。変身が解除する前に私が連れ出したからバレる心配は無いわよ」
「社長……?」
「まったくの世話の掛かる娘だ」
肩に乗ったリリィがぼやく。
「あんただって肩に乗っかる龍でしょ」
「それを言うな……」
リリィはそう言って引っ込む。
「どうしてここに? 金印はどうしたんですか?」
「ああ、あれ見つからなかった」
「……………………」
あまりにもあっさりと言われたその返事にかなみは絶句する。
「まあ、元々確かな情報じゃなかったんだけどね。それでも物が物だからね、放置出来なかっただけのことよ」
「確かな……? 放置、できなかった……?」
かなみは意味を理解するために、うわ言のように呟いた。
「あんだけ、がんばったのに……無駄足……? むだ、あし……?」
「まあ、あそこに無かったってわかっただけでも収穫かなって思うんだけどね、あははは」
あるみの精一杯の慰めも効果が無かった。
「わたし、すごくがんばったのに……」
「あ、うんうん、かなみちゃんが頑張ったのはよくわかってるよ」
「がんばっても、成果が無くっちゃボーナスは出ませんよ!」
「うーん、確かにボーナスは出せないわね」
「あうあうあ……」
かなみはショックのあまり、滑舌がまともに回らなくなった。
「まあ、でも……まったく収穫が無かったわけじゃないわね」
「え……?」
あるみがおもむろに言ったことをかなみは理解できなかった。
無い頭でかなみは今回の収穫で何があったか思い返してみる。
「そういえば……あそこに、父さんが……!」
「あなたの父さんがいたの?」
「え、うん……ずっと借金押しつけてどっかに消えてった、父さんが……」
「そう……」
あるみは簡単にそれだけ答えた。
「父さんが……どうして……」
あんなところにいたのか……
本当のことを言えば、生命が無いとはどういうことなのか……
どうして、何も教えてくれなかったのか。
「わからない……わからないわ……」
かなみは頭を抱えて、座席の背にもたれかかる。
「何も言ってやらないのか?」
引っ込んでいたリリィが密かにあるみに問いかける。
「私から何言ってもダメでしょ。自分で答えにたどり着かなきゃ――どんな答えが待っていてもね」
あるみはそれだけ答えて夕陽に目を移した。
「……………………」
そして、振り向いて黙ってかなみを見つめた。
その顔には感情がこもっていなかった。久しぶりの娘との再会なのだから、もっと嬉しさとかあってもいいのではないか。それとも、娘に借金を押しつけてしまった罪悪感でもよかった。
なんでもいいからとにかく感情が向けて欲しかった。
これじゃ、まるで――赤の他人の娘へ向けているものじゃないか。
こっちは色々言いたいことがあった。
いきなり、借金を押しつけて、どこかへ行ってしまって、こっちは色々大変だったんだ。今まで何をしていたんだとか、娘が心配じゃなかったのかとか、無事なら連絡の一つぐらいよこして欲しかったとか。
色々な感情がごっちゃまぜになってかなみは今自分がどんな顔をしているのかわからなかった。
「父さん!」
もう一度呼んでやった。
何から言っていいのかわからなかったから、とりあえず呼んでやることにした。目の前にいる男が本当に父親なのかもう一度確かめたい意味合いもあった。
父は肩をピクッと震わせた。その仕草でかなみはやっぱり間違いなく父さんだと確信した。
「かなみ……」
父は静かに名前を呼んだ。その声にはこれといった感情はこもっていなかった。
「父さん……!」
しかし、かなみは溢れ出しそうな感情を声に出して呼んだ。
「どうして……?」
呼んだ後に出た言葉がそれだった。
かなみの中にある様々な疑問がそのたった一言に集約されていた。
「仕方なかったんだよ……」
父は優しくそう答えた。
「仕方なかった……何が?」
かなみは出来るだけ落ち着いて訊いてみた。
「色々さ。おかげで色々苦労をかけてしまった」
「そうじゃなくて!」
かけてほしい言葉は他にあった。
「なんで……?」
もう限界だった。溢れ出る感情をこらえられなかった。
「なんでどっかに行っちゃったの!? どうして今まで何も教えてくれなかったの!? いまだって……いまだって!」
「それは……何も教えるわけにはいかなかったから」
「どうして!? それって、娘の私にも言えないことなの!?」
「言えば……俺の生命が無いからな……」
「――ッ!?」
かなみは驚愕で言葉を失った。
その返答を聞いただけで、溢れる感情が空気の抜けた風船のように萎んでいく。
――生命が無い
その言葉が大げさに聞こえなかった。
闇金融から一億円の借金を作ってしまったのだ。それがどんな危険な境遇なのか想像がつかない。
殺されるか、死ぬか、生命の危険をはらんでいてもまったくおかしくない。
そう考えると今まであった感情が消えていく。
「どうして……な、何があったの?」
「言えない」
父はただそう答えるだけだ。
「言ったら……殺されるってことなの? そういうことなの、父さん!?」
「……………………」
「じゃあ、母さんは!? 母さんは今どこにいるの?」
「母さんは――」
ゴオオオオオン!!
父が言いかけたところで、轟音に遮られてしまった。
「なに!?」
「……敵か」
父はそう悟ったかのように言って背を向ける。
「もうこんなところまで迫っていたか」
「ちょ! ちょっと待って!」
かなみは引き止めようとする。ここで止めなかったらもう二度と会えないという危機感があったからだ。
「かなみ……お前はお前の戦いをするんだ」
「父さん、何を言って――」
かなみが言いかけたところで父は姿を消した。
「あ……!」
かなみは必死で辺りを見回した。
そんなはずはない。見失うはずなんてないのに。だけど、父はもうすでにここにはいなかった……。
「かなみ、敵だ!」
ここで今まで黙っていたマニィが人目もはばからず叫んでくる。
そうでもしないとかなみは立ち上がってはくれないとマニィは判断したからだろう。
「魔力反応だ! ネガサイドがやってきてるんだ!」
「……………………」
「君が戦わないと!」
「――うるさい!」
かなみは叫び返した。
「そんなのわかってる! わかってるから!」
どうにもならないもどかしさが叫び声に変えた。
ゴオオオオオン!!
幸いといってはなんだが、かなみの声と轟音と重なっていたため、人の雑踏の中でもそれほど目立たなかった。
いや、これは共鳴しているといってよかった。
かなみの声と轟音が互いにかき消しあっているといってもいい。
「なんなのよ、この音は!」
耳障りだった。今はこの音をどうにかして消したくなった。
「かなみ、戦うんだ」
マニィは落ち着きを取り戻して淡々と言った。
「わかってるって! 戦うしか無いんでしょ、戦う……!」
自分にはそれしかない。そうすることしか出来ない。
現状がそうであっても、そうすることで現状を変えられなくても、それしか出来ない。
そう思っただけでも苛立ちが募る。
――かなみ……お前はお前の戦いをするんだ
父が最後に言った言葉がその感情を助長させる。
「何よ、何なのよ、もう!」
かなみは人目の無い路地裏を見つけて、そこへ飛び込む。
――魔法はなんでもできる。
昨晩のあるみの言葉を思い出す。
「なんでもできないじゃない……」
かなみはそう呟く。
借金を無くすことも。父に会うことも。母の行方を知ることも。今を変えることも。
しかし、あるみはこうも付け加えてもいたことを忘れてしまっていた。
――それを信じることができればね。
「マジカルワーク!」
金の光がわだかまりを全て包み込んで生まれ変わったかのように魔法少女は姿を現す。
「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」
でも、魔法少女に変身してもカナミはかなみのままであった。
轟音のする方へ飛び上がって、追いかける。
人の雑踏をかきわけるのではなく、飛び抜ける。
商店街の屋根を超えない程度の跳躍と空を飛んでいるかのような決して失速のしない勢い。
この二つを両立させた魔力制御を無意識で難なくやってのけている今の状態にマニィは驚嘆していた。もっとも、そういた感情は表に出ないため、傍目ではただの魔法少女の肩に乗ったしかめっ面のネズミ型のマスコットでしかないが。
「やはり、君は感情が爆発している時が一番強い」
「なにか言った、マニィ?」
「いや、なんでもない」
そんな短いやり取りの間にカナミは轟音の根源へと辿り着く。
そこにいたのは巨大なドラムを鳴らす海老反りの怪物のような黄金の魚であった。
「なにあれぇ!?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「あれは……ネガサイドの怪物だ」
「そんなの見りゃわかるわよ」
「だったら、それだけで十分だろう」
「怪物ね……あんまりああいうのとは戦いたくないんだけど……」
「見た限り、あの怪物は全身金でできるかもしれないんだけど」
「身ぐるみ全部剥がしてるわ!」
「とても魔法少女の台詞とは思えないな」
マニィのぼやきを無視して、カナミは先手必勝で魔法弾を撃ち込む。
魔法弾は全て命中! しかし、黄金の魚はビクともしなかった。
「なんて硬さなの!?」
「近頃、こういう敵ばっかりだな。どうするんだ?」
商店街のド真ん中で神殺砲は使えない。というか周りに人が多すぎる。騒ぎを聞きつけた人達が次々と集まってきている。
「うーん、戦いにくい……!」
「一旦退いた方がいいかもしれない。ここじゃどうあがいても不利なんだから」
「冗談言わないでよ、逃げるなんて出来るわけ無いでしょ」
今逃げたらこの怪物が好き勝手暴れて人々を傷つけていくのが簡単に想像できる。
「君って……時々無駄に正義感押し出してくるな」
「無駄って言わないの!? そりゃ確かに正義感って一文の得にもならないけど……でも、それで損することって一文どころじゃないのよ!」
「なるほど……だが、肝心の敵を倒さないと破産で破滅なんだが……」
「――あッ!?」
カナミは敵の方を見直す。すると黄金の魚は影も形もなく消えていた。あれだけ、目立つ外見をしているから見失うはずなんてないのに。
「ど、どこに!?」
あわてて左右を見回した。
ゴゴゴゴ!!
何やら不気味な音が立つ。
「まさか!?」
ズゴォンl!?
気づいた時には遅かった。
せり上がる足場に身体ごと弾き飛ばされた。
ものすごい勢いで空へ跳ね上げられ、天井へと激突する。
「ぶっ!?」
そして、地面へと叩きつけられる。
「いつぅ……!」
普通なら再起不能になる一撃だったが、直前の魔力による防御でなんとかすぐ立ち上がれた。
「地面から攻撃なんて卑怯よ!」
地面から出てきた黄金の魚に向かって指差す。
「悪の組織に卑怯もクソもあるみゃいが!」
背後から野太い声をかけられる。
振り向くとそこに立っていたのは
「ええ!?」
もう一匹の黄金の魚であった。
「も、もう一匹いるなんて!?」
「私達は番つがいの双魚!」
するとさっきまで敵対していた方が女性のような高い声。いや、声色はメスだろう。
「ツ、ツガイ……? そ、そうぎょ……?」
「つまり、双子ってわけだよ」
「理解が早いな。少しは知恵があるってわけだな」
「だけど、それだけで私達に勝てると思わないで」
「俺がシャッチー!」
「私がホッコー!」
「俺達こそ無敵の黄金双魚おうごんそうぎょ!」
二匹の双魚が鏡合わせのようにそろって海老反りのポーズを決める。
「二匹ってのは厄介ね」
ただでさえ硬いのに、とカナミは心の中で付け加えた。
「いくぜ!」
「覚悟して!」
シャッチーとホッコーが前後から襲いかかってくる。
「はや!?」
二匹は床をスキーのように滑ってくる。その速度はカナミとの間合いをあっという間に詰められる。
叩きつけてくるシャッチーの尻尾をかわす。
「いただきますわ!」
ホッコ―を存外に大きな口を開け、カナミへとかぶりつく。
「いやああああああッ!?」
カナミは悲鳴を上げ、ステッキを差し出す。
カチン!!
金属音と共にステッキを半分以上噛み付かれる。
「え、ええ……えぇ!?」
カナミが動揺したのも束の間、背後からのシャッチーの尻尾にはたかれて飛ばされる。
「くうぅ……はっ!?」
すぐに立ち上がってカナミは気づく。
ステッキが手にない。はたかれた拍子に手放してしまったのだ。
ということは、まだホッコ―が噛み付いているのだ。
「フフフフフ……」
ホッコーは不気味な笑い声を上げ、ステッキをくわえたまま天を仰ぐ。
ゴックン!
「う、うそ、でしょ……?」
カナミは青ざめる。
飲み込んだ。一口も噛まずに綺麗に飲み込んでいった。
「ごちそうさま」
「うみゃかったか、ホッコ―!」
「うん、とってもうみゃかったよ、シャッチー!」
「俺も食いたかったぜ」
「わ、私のステッキは食べ物じゃないんだから!」
「いや、おみゃーは餌だぜ」
「極上の美味よ!」
「――う!」
カナミは思わずたじろいだ。
「うろたえるな、カナミ」
「ま、マニィ……」
「ステッキは魔力さえあればすぐ生成できる。あれぐらいで怖気づいたら勝てる敵にも勝てない」
「え、ええ……」
カナミは落ち着きを取り戻す。
(大丈夫、大丈夫だから!)
カナミはステッキを再び生成する。いつも変身と同時に行なっているスムーズな動作だ。
「餌をまたつくってくれたぜ、ホッコ―」
「嬉しい。もう一度食べられるなんて嬉しいわシャッチー」
「おいおい、今度は俺の分だぜ」
「こ、これはね……」
カナミはステッキに魔力を注ぐ。
「あんた達の餌じゃないんだからーーッ!!」
そして、一気に放出する。
神殺砲とまではいかないまでも魔力を振り絞っての散弾と連射だ。二匹の魚に避ける間を与えない高速の魔法弾が雨のように襲いかかった。
「これならちょっとはきいたでしょ」
あわよくば、これで倒れてくれたら……
「ふう、今のはちょっと痛かったわね」
「俺はこうみえても繊細なんだぜ」
二匹ともまったくダメージを負った様子ではなかった。
「か、硬いにもほどがあるわよ……!」
「俺達はダイヤモンドよりも硬い黄金の身体なんだぜ」
「いや、黄金よりダイヤモンドの方が硬いでしょ!」
「どっちだって同じことよ!」
カナミはステッキを構える。
「こうなったら、神殺砲しか……!」
「だが、それを使ったら」
「う……!」
「焦るな、今はチャンスを待って辛抱するしかないんだ」
「チャンスってどうやってくるっていうのよ!?」
カナミは辺りを見回してみる
心なしか人がさっきよりも集まっているように見える。むしろ、撃ちづらくなったといい。
「……そのうちだ」
「そのうちっていつよ、ホントにいい加減ね!」
「仲間割れか。仲が悪いな
「私達みたいに仲良くできないの?」
「うるさいわね!」
カナミは魔法弾を撃つ。
しかし、当たったところで魔法弾の威力では黄金の双魚には傷をつけることはできない。
「無駄撃ちはよっぽど好きみたいだぜ、ホッコ―!」
「というより無駄働きよ、シャッチー」
「うるさい! うるさい! うるさい!」
カナミは猛烈に叫んで、それをかき消すかのように魔法弾を撃ち込む。
しかし、カナミはマニィが思っているより冷静であった。
ここまでコケにされても、カナミは神殺砲を使おうとはしない。周囲の被害が計り知れないことを頭以上に心でわかっているからだ。
以前のカナミだったら、ここで怒りで我を忘れて形振り構わず神殺砲を撃っていたはずだから成長したといっていい。
「いい加減、うっとおしくなってきたわね」
「――ッ!?」
ただ、それでカナミ自身は余計に苦しむ事になる。
「ダブルゴールデンラリアット!」
シャッチーとホッコ―の尻尾による同時攻撃をカナミはまともに受ける。
「げっふッ!?」
カナミはたまらず地面へと倒れ込む。
そのダメージは大きく、すぐに立ち上がれず、転がって距離を取ろうとする。
「遅い!」
だが、それぐらいでは黄金の双魚の追撃から逃れることはできなかった。
「ボディプレス・ダッギャー!」
全身の重量を利用してののしかかりに、カナミは押し潰される。
「ぐ、がッ!」
「それじゃ、いただきまーす!」
シャッチーはカナミを飲み込まんと大口を開ける。
身体に絶大なダメージを受けたカナミにはそれをかわす力が残っていなかった。
「く……ッ!」
もうダメか、とカナミは目をつぶった。
しかし、助かった。
空から降ってきたドライバーがシャッチーの大口に突き刺さって止めたからだ。
シャッチーは突き刺された壮絶な痛みで暴れまわる。口が塞がれて悲鳴を上げることが出来ないため、その分、動きは凄まじかった。
「どっせいッ!」
「ゴワッガアッ!?」
そして現れた影に無理矢理ドライバーを引き抜かれて、蹴り飛ばされる。
「ああ、まったく何やってんのよもう!」
影の正体――アルミは、カナミを叱咤する。
「しゃ、社長……!?」
「間抜けな声あげてんじゃないわよ。さ、立ちなさい!」
しかし、カナミはあまりのダメージに立ち上がることが出来ない。
「ぐううう……!」
歯を食いしばって、鉄の味のする液体を喉の奥に押し込めてもダメだった。
「なっさけないわね! それでも魔法少女なの!?」
「そ、そんなこと、言ったって……!」
「忘れたの、魔法はなんでもできるのよ!」
忘れていた。
「――それは嘘ですよね」
「嘘? 何がよ?」
「なんでもできるって嘘ですよね? なんでもできないじゃないですか!」
「……………………」
「借金は無くならない! 父さんはどっかに行ったかわからない! 母さんには会えない! 敵だって倒せないじゃないですか! 一体こんな魔法で何がなんでもできるっていうんですか!?」
「それでも、戦えてるじゃない」
「たたか、う……?」
「なんでもできないのはね、なんでもできることを信じていないからよ」
「そ、そんなこと……!」
「できないっっていうのはね、限界なのよ。あなたはどこかで自分に限界を自分で作っているのよ。私はこうも言ったわ、人は弱いから、すぐに疑っちゃう。少しでも疑っただけで信じられなくなるってね。あなたは疑っているのよ、自分のチカラをね?」
「……………………」
「違うって言うなら、立ってみなさい。大丈夫よ、あなたは魔法少女なんだから」
「……社長の言葉、まるで魔法みたいです」
「当然。だって、私は魔法少女なんだから」
アルミは一切の迷い無く、答える。
本当にまったくの疑いの無く、どこまでもまっすぐに自分を信じていなければ言えない事であった。
だからこそ、カナミには魔法に思えた。
――信じる
どんなことであっても疑うことなくどこまでも信じる。
それはもう魔法に他ならない。
「私にもできますか?」
「できるわよ、あなたがそれを信じられるのならね」
「信じる……」
アルミが信じてくれる。
なら、自分だって信じることが出来る。
カナミは立ち上がる。
「そう、そうでなくちゃね」
アルミは満足げに言う。
「ちっくしょう! よくもやってくれちまったな!」
「大丈夫、シャッチー?」
「ああ、許さんぞ! 第一銀髪ってのがきにくわねえ!」
「あら、すぐ剥がれる金メッキよりよっぽど力強いと思うけどね」
「私達をコケにしてぇ!」
ホッコ―を激怒して、顔を真っ赤にする。
「そんなにコケにして欲しいんだったら、鶏の方が向いているわよ」
「こ、この野郎……」
「野郎じゃないわ! 私は!」
アルミはドンとマジカルドライバーを構えて堂々と名乗りを上げる。
「白銀しろがねの女神、魔法少女アルミ降臨!」
「白銀……黄金の前じゃ雑魚も同然だぜ!」
「銀の輝きは金の前にかき消されるだけよ」
「さあて、どうかしらね? ここに本当の黄金の輝きを持った魔法少女がいるのだからね!」
「え……?」
アルミは金色の魔法少女であるカナミを差してそう言った。
「そんな奴の輝きなど俺達の前じゃ星屑同然だぜ!」
「そうと決めるのは早計よ。さあ、カナミちゃん神殺砲よ!」
「え、で、でも、神殺砲じゃ……」
周りを見てみたカナミは相変わらずの人だかりにやはりためらってしまう。
「大丈夫よ!」
「だ、大丈夫って……?」
「私を信じなさいって、私があなたを信じているように!」
アルミの力強い言葉に勇気づけられてカナミは決心する。
「……はい、やってみます」
ステッキに魔力を注がせる。
するとステッキが大砲へと変化する。
「うお、なんだありゃッ!?」
「お、大きい……!」
「神殺砲!」
「行きなさい、カナミちゃん! 私がなんとかしてみせるから!」
「はい、お願いします!」
大砲へと魔力を注ぎ込む。
本気を出せば周りの人どころか商店街の建物の数々をも倒壊させてしまう大出力。だけど、カナミは迷わなかった。
アルミが信じてくれたように私も信じてみよう。
「いきます! ボーナス・キャノン発射ァァァァッ!」
カナミの精魂込めた魔力の大砲が発射される。
「ぎいやぁぁぁぁぁッ!?」
シャッチーはその砲弾に飲み込まれる。
そして、その凄まじい勢いのままに、人々へと襲いかかろうとしていた。
「マジカル☆ドライバー!」
砲弾にアルミが追いついて、ドライバーを砲弾へと押し当てる。
「ディストーションドライバー!」
突き出されたドライバの先端は激しく回転し、旋風を巻き起こす。いや、旋風のみならず、真空さえも発生させ、その空間そのものを異次元へと変化させていく。
空間がねじ切られてしまったことで砲弾は砲弾としての形を保つことが出来ず、霧散してしまう。
こうして周囲の人々や建物へ被害を出さず、無事敵だけを倒すことに成功した。
「すごい……本当になんとかしっちゃったよ……」
カナミはそれを見届けると、力尽き倒れてしまう。
目が覚めた時、そこには夕陽の光が差し込んでくる新幹線の中の光景があった。
「え、あ……?」
かなみは顔を上げる。
そして、意識が途切れる前を思い出す。
「えぇっと、たしか……敵を倒して、私は……?」
「すぐに気を失ったのよ。変身が解除する前に私が連れ出したからバレる心配は無いわよ」
「社長……?」
「まったくの世話の掛かる娘だ」
肩に乗ったリリィがぼやく。
「あんただって肩に乗っかる龍でしょ」
「それを言うな……」
リリィはそう言って引っ込む。
「どうしてここに? 金印はどうしたんですか?」
「ああ、あれ見つからなかった」
「……………………」
あまりにもあっさりと言われたその返事にかなみは絶句する。
「まあ、元々確かな情報じゃなかったんだけどね。それでも物が物だからね、放置出来なかっただけのことよ」
「確かな……? 放置、できなかった……?」
かなみは意味を理解するために、うわ言のように呟いた。
「あんだけ、がんばったのに……無駄足……? むだ、あし……?」
「まあ、あそこに無かったってわかっただけでも収穫かなって思うんだけどね、あははは」
あるみの精一杯の慰めも効果が無かった。
「わたし、すごくがんばったのに……」
「あ、うんうん、かなみちゃんが頑張ったのはよくわかってるよ」
「がんばっても、成果が無くっちゃボーナスは出ませんよ!」
「うーん、確かにボーナスは出せないわね」
「あうあうあ……」
かなみはショックのあまり、滑舌がまともに回らなくなった。
「まあ、でも……まったく収穫が無かったわけじゃないわね」
「え……?」
あるみがおもむろに言ったことをかなみは理解できなかった。
無い頭でかなみは今回の収穫で何があったか思い返してみる。
「そういえば……あそこに、父さんが……!」
「あなたの父さんがいたの?」
「え、うん……ずっと借金押しつけてどっかに消えてった、父さんが……」
「そう……」
あるみは簡単にそれだけ答えた。
「父さんが……どうして……」
あんなところにいたのか……
本当のことを言えば、生命が無いとはどういうことなのか……
どうして、何も教えてくれなかったのか。
「わからない……わからないわ……」
かなみは頭を抱えて、座席の背にもたれかかる。
「何も言ってやらないのか?」
引っ込んでいたリリィが密かにあるみに問いかける。
「私から何言ってもダメでしょ。自分で答えにたどり着かなきゃ――どんな答えが待っていてもね」
あるみはそれだけ答えて夕陽に目を移した。
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