オービタルエリス

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第4章 ケラウノスパイデス・オラージュ

第94話 近衛騎士団長ディバルド

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 ディバルド・ブランシアスは代々続く騎士の家系であった。
 中にはジュピターに仕えたヒトもいたそうだ。自分もそのような立派な騎士になるべく幼い頃が研鑽を積み、数多の戦場を駆け抜けていた。
 ケラウノスを扱うジュピターの一族も多く目の当たりにしてきた。あれならば自分の方が優れていたと思うときもあった。若気の至りだと今振り返ると自嘲する。
 ある日、身の程を弁えず後のジュピターとなるアレイディオス・ポスオールに決闘を挑んだことがあった。
 結果は善戦したものの、敗北した。
 その後、近衛騎士としてジュピターとなるであろう彼の子供を見守っていくことを生きる道と定めた。
 そして、ジュピターの六十三人の子供のうち、クリュメゾンの領地を与えられたアランツィード、ファウナ兄妹に仕えることにした。
 程なくしてディバルドは近衛騎士団の団長を拝命した。
 それから、百年以上に渡ってテウスパール家の兄妹を見守ってきた。それだけに事情には精通していた。

――【メラン・リュミエール】を撃ちなさい!

 確かに彼女はそう言った。
 その発言に最初は驚きこそすれ、どこかで合点がいっている自分がいることにも気づいた。

『ディバルド様!』

 ガグズから通信が入る。

『大変です! ファウナ様と瓜二つの女性が現れまして!』
「瓜二つ……そうか」

 ディバルドはさして驚かず、察する。
 若くして副団長を拝命したばかりのガグズは知らない。テウスパール家の兄妹には近衛騎士にも知られてはならない秘密があるということを。

タタタタタタタ!!

 そこへ階段を駆け上がってきたダイチやザイアス達がやってくる。

「グレイルオス」

 ディバルドは即座にザイアスの圧倒的な存在感に気づき、その名前を呼ぶ。

「その名は捨てた……というか、今日は顔見知りに会うな。何度目だ、この台詞」
「ぶっちゃけ、あんたの正体なんてどうでもいいんだけどね」
「マジでぶっちゃけやがったな! その方がいいぜ、ハハハハ!」

 エリスの発言に、ザイアスは豪快に笑う。

「今は宇宙海賊か……人も変われば変わるものだな」
「そいつはこっちの台詞だ。兄貴に挑戦した頃の血の気の多さが今じゃ見る影もねえな!」
「あの頃は若かっただけのことだ」

 ディバルドはフッと少しだけ笑う。まるでその若かっただけの頃に少しだけ戻ったかのように。

「しかし、呑気に昔話をしている場合ではないがな」
「そいつはお互い様だ」

 ディバルドとザイアスは睨み合う。

「……ここで一戦交えたいところだが、あいにくと領主に用があるんでな」
「私は近衛騎士団長だ。宇宙海賊のような狼藉者を会わせるわけにはいかんな」
「いいぜえ! 兄貴と互角に戦ったお前だ、一度やりあってみたいと思っていたところだ!」

 ザイアスはニヤリと笑って、カットラスを引き抜く。

「その割には随分と消耗しているな」
「フッ」

 ザイアスの頬から汗が滴り落ちる。

「そうか……やはり、あれだけのチカラを使ったのじゃから消耗していたんじゃな」

 フルートは納得したように言う。

「だから、さっきのはちょっと迫力不足だったのね」

 エリスも同意する。

「そ、そうだったのか……」

 ダイチはまったく気づけていなかった。
 そりゃ、カットラスを一振りしただけでガードロボットを吹き飛ばしたのを見て、あれを消耗していたなんて気づくというのが無理な話だ。

ピコン!

 そこへ急にスクリーンが立ち上がり、ファウナともう一人の女性がいるメインブリッジが映し出される。

『お兄様に殺されかけたとは、どういうことなんですか!?』

 ファウナは女性へ問う。

『白々しいですわね。ああいえ、本当にしらされてないみたいですね。あの兄のことですから』

 女性は嘲笑する。

「これは……!」
「メインブリッジか。何者かがブリッジから発信しているようだ」

 ディバルドはあくまで冷静に分析する。

「あのむかつく女とそっくりな奴がいるわね」
「何者なんでしょうか? 双子のお姉様?」

 ミリアは首を傾げて、適当に発言する。

「いてもおかしくないか。六十三人も兄妹がいたら双子の姉妹ぐらい」
「そうだな。だが、あの娘の場合は違う」

 ディバルドは言う。

「違うってどういうことよ?」

 ユリーシャが問うが、ディバルドは答えず闘志を放ってくる。

「――!」

 ダイチ達は思わず構える。

「状況は切羽詰まってるみたいだな」

 ザイアスだけは自然体で答える。

「俺達を早く蹴散らして姫様のとこに駆け付けたい、ってな。気持ちがだだもれだぜ」
「………………」

 ザイアスの挑発ともとれる発言にディバルドは黙る。

「さて、どうするか……」

 ザイアスはダイチ達を見やる。

「ここは俺に任せて先に行け。って言いたいところだが、あの野郎の言う通り俺は消耗している」

 ダイチにとってザイアスが万全ではないことは信じがたいことだったが、本人が認めているのだから事実として受け入れるしかない。

「だったら、俺がやってやるよ」

 デランが申し出る。

「あのおっさん、滅茶苦茶強そうだしな。俺が相手になってやる」

 騎士候補生のデランとして近衛騎士団長のディバルドは是非とも戦っておきたい相手と見定めたようだ。

「そいつは頼もしいが正直お前さん一人では厳しいぞ」
「それでは私が一緒に戦いましょう」

 ユリーシャが申し出る。

「ユリーシャ?」
「私はあなた達の手助けに来た。領主に私の剣でこの道を切り開いてみせるわ」
「……本当は一人でやりたいところなんだが……」

 そうも言っていられない状況だということはデランも承知している。
 この作戦の目的はあくまで領主に海賊船への攻撃を止めさせるよう説得することであった。

「それよりもいいのか、ユリーシャ?」

 だが、ここまで攻め入ればユリーシャ達レジスタンスの目的である領主打倒も十分果たせる。そのチャンスを逃がしてもいいのかとデランは問いかける。

「いいわよ。これはレジスタンスの戦いではないのだから」
「よくわからんこだわりだな」

 そう答えるデランは嬉しそうであった。

「算段は決まったな」

 ザイアスは言う。

「俺が仕掛けてから、突破しろよ」
「ああ! しっかりやれよ、デラン!」
「お前もな」

 ダイチとデランは笑みをかわす。

「来るなら来い」

 ディバルドは神色自若として待ち構えている。

「エールエペ!」

 まずユリーシャが斬撃を放つ。

「せい!」

 続けて、デランが剣を引き抜き、突撃する。

「今だ!」

 ザイアスの号令とともに、ダイチ達は駆け抜ける。

「――! 逃がすか!」

 ディバルドはすかさず、ダイチ達の方へ斬撃を放つ。

「わ、きゃあ!?」

 後列にいたマイナはとッさにその斬撃をかわす。

「お前の相手は俺だろ!」

 デランは剣で斬りかかるが、あっさりと弾かれる。

「チィ!」

 体勢を立て直して再び仕掛ける。

「よくも!」

 そこへ攻撃をかわしたマイナが槍で突撃してくる。

「フン!」

 ディンバルドは剣を一閃して、デランとマイナをいなす。

「く、思ってたより強い!」

 三度仕掛けて、三度ともあっさり返された。しかも、ユリーシャやマイナと一緒に仕掛けた上で、だ。

――正直お前さん一人では厳しいぞ

 ザイアスがそう言っていた意味を理解する。

「マイナ! ユリーシャ!」

 デランは二人へ呼びかける。

「あいよ!」

 マイナは槍で足元の石を飛ばす。
 飛ばした石は音を超えた速度をもって、ディバルドへ向かっていく。

ドォン!

 ディバルドはこともなげにそれを手甲で受け止める。
 そこへデランとユリーシャが左右に分かれて仕掛ける。

ガ、キィィィィィン!!

 デランに左に持った剣で、ユリーシャには右に持った盾で受ける。

「まだまだ!!」

 しかし、二人はこれで止まることなくそれぞれを斬りかかっていく。

キィン! キィン! キィン! キィン!

 ディバルドは左右からの同時攻撃を巧みに受け続ける。

(くそ、かてえ! まるで鉄の壁に向かって打ち込んでるみたいだ!!)

 打ち込みを続けているデランは心中で吐き捨てる。

「ヌゥン!!」

 そこからディバルドの打ち込みが入る。

ズガァァァァァァァァァァン!!

 床をえぐり、天井をも斬り裂く斬撃が走る。
 デランはこれを受け止めきれないと判断して、紙一重でかわす。

「わわ!?」

 マイナは慌ててこれをかわす。

ガシャァァァァァァァァァン!!

 斬撃が壁に到達し、壁までも打ち壊していく。

「今の一撃がもし当たっていたら……」

 デランの全身に寒気が走る。

「どうした、こんなものか金星人?」

 ディバルドはデランへと言い放つ。

「く……!」

 デランは悔しさで闘志を湧き上がらせる。
 自分の……金星人のチカラは、まだまだこんなものじゃない。
 エインヘリアルのパプリア教官に師事され、ワルキューレ・リッターのアグライアから特訓を受けた。そのチカラはどんな星の、どんなヒトにも通じるはずだ。

「こんなもののはずがないだろ!」

 デランは剣先をディバルドへ向け、問いかけを剣気で叩き返す。

「レジスタンスもね」
「水星人もよ」

 デランの傍らに、マイナとユリーシャがつく。
「いいのか、マイナ?」

 マイナは、エリス達と一緒にいくものだとばかり思っていた。
 それがディバルドの攻撃で行き遅れてしまった。今から追いかけようにもきっとディバルドは許さないだろう。何よりもマイナは一人でこの広大な【パシレイオン】を走り回りたくなかった。

「こうなったら、やるしかないでしょ!」

 マイナは半ばやけくそ君に答える。

「ま、加勢はありがたいけどよ」

 三対一でようやく対等。いや、それでもまだ分が悪いか。
 それだけ相対している男は規格外の化け物といっていい。

「一人で戦ってどうにかなるもんでもなさそうだしな」
「三人か。
水星人、金星人、木星人……奇妙な取り合わせだ」

 ディバルドはそう言う。

「奇妙だけどな、戦えば最高の取り合わせになるんだよ!」

 デランはそう言って仕掛ける。

「即興だけどね!」

 マイナは槍を床の瓦礫に押し当てる。
 瓦礫ならディバルドが打ち壊してくれたおかげでいくらでもある。マイナはそれを機関銃のように槍で当てては音速で飛ばす。
 並みの兵士ならこれだけで十分倒せるだろう。
 しかし、ディバルドは剣を一閃して、瓦礫の弾丸を悉く壊していく。

「でぃぃぃやぁぁぁッ!!」

 ディバルドの一撃によって巻き上がった粉塵に紛れて、デランは渾身の力を込めて打ち込む。

キィィィィィン!!

 ディバルドは真っ向から受け止める。

「く!」
「いい打ち込みだ! だが、私の前ではまだまだ力不足だ!」
「そうかよ!」
「だったら、私が! エールエペ!」

 デランの後ろからユリーシャの巨大化した斬撃が飛んでくる。
 デランはこれを横に避け、斬撃はディバルドに直撃する。

「がああああッ!!」

 思いもよらない連携攻撃にディバルドの身体は揺れる。

「これでも、大したダメージにならないか!」

 デランは感心すると同時に、戦慄する。
 これだけの攻撃をもってしても、決定打にならない。だが、諦めて負けを認めるわけにはいかない。それはすなわち死になるからだ。

「だったら、別の手だ! 頼むぜマイナ、ユリーシャ!!」
「「ええ!!」」

 二人は頷いて、三方から同時に仕掛ける。
 マイナの速度、デランの硬度、ユリーシャの剣技。三者三様の攻撃によるコンビネーション。その全てをディバルドは払いのける。

「ぬ……!」

 だが、防ぎきるので精一杯で反撃までは出来なかった。

(三人とはいえ、ガグズでもこれほどの健闘はできまい! 決して侮っていたわけではないが、レジスタンス、金星人、水星人……これほどのチカラを持った若者達がいたとは!)

 ディバルドは瞠目し、評価を見直す。
 本気でかからなければ勝てない、と力を込める。

「「「――!」」」

 それだけで圧されるような闘志を感じた。

「トラン・コロッサル!」

 ディバルドが放った斬撃が巨大化して、津波となって押し寄せる。

「俺の後ろに!」

 マイナとユリーシャはデランの指示通り、後ろへ回る。
 そして、デランは左腕を銀色に輝かせる。

「俺がやってやる! メッサァァァァァァァァッ!」

 ハルトアルム。金属硬化によって、刃のように研ぎ澄まされた腕で振り抜く。
 それが津波を斬り裂く一刀となった。

ズガァァァァン!!

 主塔の外壁を吹き飛ばすほどの衝撃が迸る。

「これを凌ぐか!」

 ディバルドは感心する。

「……もう一度は、ムリかもな……」

 デランは苦笑する。
 今ので、ほとんどチカラを使ってしまった。もう一撃放たれたら凌ぎ切れるとは思えない。

「……ここは退かないか?」
「何?」

 思いもよらない提案にデランは訊き返す。

「お前達は強く、若い。ここで命を散らすにはあまりに惜しい」
「だからこの場は見逃してやるっていうのかよ!?」
「そうだ。これは木星人同士の争い。水星人や金星人が命をかけるべき戦場ではない」
「か、勝手な言い草よ! はじめに火星人を処刑するって言っておいて!!」

 マイナが言い返す。

「……確かに勝手な言い草だ。それは認めよう」
「認める……木星人が勝手を……?」

 アングレスの傲慢な態度が木星人のイメージとしてこびりついているデランにとって信じがたいものであった。

「だったら、火星人の処刑を取りやめられないの!?」

 ユリーシャが問う。

「それは我が領主が降した命だ。私では取りやめられない」
「とんだ頭でっかちね」

 ユリーシャがそう言っても、ディバルドは言い返そうとしない。

「領主って言ったってあのファウナって野郎は二人いたじゃねえか? それはどうなってやがんだ?」
「………………」

 デランはスクリーンを指して言うが、ディバルドは沈黙する。
 そして、スクリーンに映る二人の領主のやり取りは続く。
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